となりのメガネ 「あの人はあのとき、となりにいた」  新緑が風にゆれる初夏の午後の日差しの中、一人の少女が校舎から校庭の片隅で仲間と戯れているメガネを見つめている。 「真美、なにボーっとしてんの?」 親友の久美子に肩を叩かれ、びっくりして振り向く。 「ちょっと、そんなに驚かないでよ」 「あ、私なにも見てないわよ」 「はあ?」 「あ、いや、なんでもない。なんでもない」 「最近真美変じゃない?」 「え、なんで?」 「だっていつもボーっとしてため息ばかりしてるじゃんいったい何があったのか話してみなさいよ」 「ベ、別に何もないわよ」 「う、そ、私をごまかそうったってそうはいかないわ。・・・まさか男!?いやそれどころか妊娠とか!」 「そんなわけないでしょうが、でも・・・」 「でも!?」 「あ、次は移動だったわね」 「ちょっと待ってよ、真美ー」 「(そうよ私はあの人が好き。別に悪い?でもあの人を振り向かせるにはどうしたらいいのかしら?)」  彼はみんなからメガネと呼ばれている。それはこのクラスで彼しかメガネをかけていないから。それに彼はとっても知的だから。  彼はとってもかっこいい。彼の笑っている顔。物憂い顔。真剣な顔。どれもかっこいい。  でも同じのクラスの「ラム」っていう人に夢中みたい。どうしたら彼は私に気がついてくれるにかしら?  私と彼が出会ったのは中学3年の夏の夕暮れだった。   「じゃあ散歩行ってくるね。いこ、ランスロット」 「ワン」 「ねえランスロット。運命ってほんとにあるのかな?わたしの白馬の王子様っているのかなあ?」  そのときランスロットが急に走り出してなわを放してしまった。 「あ、ランスロット待ちなさい!」  ランスロットは一目散に道路に走り出る。そしてダンプカーが道の先から走ってくる。 「ランスロット!」  わたしはその場に崩れ落ちた。 「ワンワン!」  ああ、ランスロット。ごめんなさい。 「ワンワン!ハッハッハッハッ」 「ランスロット!よかった無事だったのね」 「おい、こら。」  見上げるとメガネをかけた男の人が立っている 「あ、ランスロットを助けてくれたんですね?ありがとうございます」 「ま、まあな。ほらっ、なわ。もう放すなよ」  そして男の人は立ち去ろうとする。 「あ、まって。何かお礼を」  男の人は振り向き、にこっと笑って言った。 「そんないいことしちゃいないさ」  彼のあの時の顔は今でも目に焼きついている。  二学期の始業式。彼の姿を見つけたときは貧血を起こしかけた。そしてなんで今まで気づかなかったんだろうと自分を叱った。  それからが大変だった。彼の事を調べ、どうにかして彼の進学先をつかむと先生両親の反対を押し切り友引高校に進学した。  そして今。彼と同じクラスになったときは狂喜して小躍りしたけどそれから何の進展もない。  部活にて。 「はあ」 「まーた、ため息ついてる」 「久美子・・・」 「あのねえ、そーやって不快音出してくれるとこっちまでいやになってくるのよ。」 「ごめん」 「べつにあやまんなくてもいいけどさ、はやくなんとかしてくんない」  久美子なら話してもいいかな? 「うーん・・・」 「いったいなに考えこんでんのよ?」 「実は・・・」 「どえええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」 「ちょっと!(そんな大きな声ださないでよ)」  久美子にガバッと両肩をつかまれる。 「ちょ、ちょっと久美子?」 「なんで今まで話してくれなかったのよ。私が協力してあげるわ!」  うーん、なんだかか久美子楽しんでるような・・・ 「うーん。ここはやっぱはりきって告白でしょう!」 「そんなことできるわけないでしょ!・・・ここは彼にわたしを好かせるように仕向けさせるのよ!」 「(真美・・・あんたって結構あくどいってゆうか暗いね・・・)じゃどうするの?」 「思いつけばやってるわよ!」 「しかたないわね・・・じゃあこれは今日の宿題としましょう。さて、帰りますか」  その夜、真美は自分の部屋のベットの上で寝転びながら考えた。 「・・・・・・・・・・・・・すーすー・・・」 「はっ、つい寝てしまった。それにしてもどーすんのよ彼を好かせるようにって・・・」  !なんとなく思いついた。紙に書いてみる。 1、彼はラムが好きである。 2、だからほかにはきょーみナシ。 3、とすると、打倒ラム! 「うむむ、打倒ラム!・・・か」 「どうしたら勝てるのかしら・・・?」  次の日! 「うむむ、打倒ラムか・・・」  ずーっとそのことを考えながら登校路を歩く。  すると前から久美子が走ってきた。 「おはよー。って、腕組みしながら何考えてんのよ」 「おはよ、そりゃ昨日の・・・」 「昨日?・・・あっそういえば昨日!」  どうやら忘れてたらしい。 「昨日のTVみたっ?」  まったく忘れてるらしい。 「あの、さあ」 「わかってるわかってる。あんたの恋を見事に咲かせてあげようじゃないの」 「しっかり覚えてるじゃない」  ちょっと残念な気もした。 「で、真美はなに考えてきたの?」 「それはね・・・『打倒ラム!』」  と、握りこぶしを作って言った。 「うっ、ぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ」 「なにがおかしいっ!」 「いや、ごめんごめん。うん、悪い案じゃないわね。で?」 「で、って?」 「だからどうすんのよ?」 「それを今考えてんのよ」 「・・・あ、そーなの」 「なによその顔は。久美子の考えはどーなのよ」 「ふっふっふ・・・。わたし、プールでバイトしようと思うの」 「はあ?」 「あのさ、これから夏でしょ?プールへ行くでしょ?わたしかバイトしてタダ券をもらってくる、そしてキミはメガネ君を誘い水着で誘惑する!どう!完璧でしょ!」 「・・・・・・・・」 「ちょっと!聞いてるの?」 「・・・・・・・・・・だめ」 「なんで!」 「あ、あのねえ」 「ふっふっふ、でももう遅い。もう算段ついちゃったもんねー。来週に面談だもんねー」 「ちょっ、ちょっとー」  今日の授業は一時間目から体育だ。  男子がとなりのコートでサッカーをしている。そしてわたしたちは・・・ 「はーい、みなさん今日は突然ですが運動テストを行います」 「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」  みんなのブーイングが飛ぶ。  ラムは聞いてなかったかのような顔をしている。  久美子が話し掛けてきた。 「ねえ、チャンスじゃない?」 「え、なんの?」 「ばかね!ここでいいとこを彼に見せつけるのよ!それにラムも自分がすごいとこ見せつけてやって打ち負かすのよ!」 「なるほど!久美子って天才!」 「でも・・・真美。運動得意だっけ?」 「・・・と、とりあえずがんばるわ」  まずはけん垂、ラムの隣になるように並ぶ。 「はい、じゃあスタート!」  腕に力をこめる。でも体は少しも上がらない。 「うーん、だめだっちゃ」 「(そうだわたしは負けられない!)」  もう一度腕に力をこめる。でもやはり体は上がらない。 「ラムさんがんばってください」  かっ、彼の声!が、しかし声をかけられている相手はラム!くっ、くやしい!  そのとき体が上がった!様な気がした。  が!隣りではラムがなんと楽にけん垂しているではないか! 「ラムさん飛んじゃだめです!」  先生の声が飛ぶ。  結局彼に見せつける事はできなかった。でもラムには勝ったのかしら? 「(まあけん垂できたら怪力女とか思われかもしれないしね)」  さて次は50mだ。 「なんとしてもいいところを見せるのよ!」 「位置について」 「よーし全力で走るのよ!」 「よーい・・・」 「真美さんフライングです」  げっ!  はっ、恥ずかしー!  かっ、彼は!彼は見てないわよね!  男子ほぼ全員こっちを見てる、彼もいた!  恥ずかしい・・・。 「位置について」  こんなとこ見られるなんて・・・。 「よーい」  ああああああ、どうしよう。 「ドン!」  あ、まずい走らなきゃ!  ラムの後姿が見える。  少しずつ差が広がってゆく。 「このままじゃ負けちゃう!」  ん!ラムが少し浮いて・・・浮いてる!  と、そのとき真美は思い切りつま先に石を当てていた。  次の瞬間真美の体は宙に浮き頭から地面にぶつかった。 「いたたたたた」  世界がぐるぐる回る。  みんなが駆け寄ってくる。 「大丈夫!真美」 「うーん。だめ」  わたしはぱたりと倒れた。  目が覚めるとベットに寝ていた。  薬品の匂いがする。白い天井とカーテン。観葉植物が見える。  保健室?  自分のほかに誰もいないようだ。  そのとき。  コツコツ・・・。  誰かの足音。  ドアにシルエットが写る。  ガラガラッ。ドアが開く。出てきたのは・・・  彼!  保健室に若い男女が二人きり、これはもしや! 「(キャアキャアキャアキャアキャアキャアキャアキャアキャアキャアキャアキャアキャアーー)」 つづく?