つばめとサクラ サクラ  私とツバメが出会ったのは高校二年の二学期の始業式の日だった。私はその 日ゆううつだった、なぜなら今学期もほとんどは休んでしまうからだ。これか らまた始まる退屈な日々・・・今まで何度もそう思ってきたことか。そんなこ とを考えながら学校の前に着いた、が、人が誰も見当たらない、しまった遅れ たか?そう思ったそのとき、心臓が苦しくなりまわりがかすんできて力が抜け、 前に倒れかけたとき、「だいじょぶかい、君」と、ささえてくれた、それがつば めとの出会いだった。 「保健室に行かないと・・・保健室ってどこにあるんだ?」  彼にささえられながら歩いた 「あっち」  かすれた声で言いながら指差した。 「こっちだね」  保健室の前に着いた。 「あの、すみません」 「はいどうしました」 「この子の気分がすごく悪いみたいで」 「あらあら大変ちょっとベットに寝かせてあげて」 「はい・・・だいじょうぶかい?」  かれは私にたずねた、しかし私はうなずくのが精一杯だった。  ベットの上に横たわり私は意識がうすれるのを感じた。  気がつくと白い天井が目に入った。ここは・・・そうだ私はあの人に、思い 出しながらゆっくり起き上がった。 「あらもう起きたの、さっき寝たばっかりなのにまだ寝てなさい」 「いえ、だいじょうぶ、です」 「そう、だめだったら先生に言って帰してもらいなさい。まあでも今日は早く 終わりますからね、あぁそうだちゃんとあの子にお礼言っと着なさい」 「はい、失礼します」  そう言って保健室を出た。でもあの人の名前もクラスもわからない。どうす ればいいのだろう。  どうしようかと考えなが廊下を歩いた、外は残暑の光が暑くさしている。  教室に着いた。クラスメイトたちはすでに戻っていたが先生は戻ってきてい ないようでおしゃべりがさわがしかった。席に座ると同時に先生が入ってきた がおしゃべりは続いた。 「おい静かにしろー席につけー、えー転校生を紹介する」  おしゃべりがぴたっとやんだ。 「入ってこいー」  ガラガラッ。 「キャー」  幾人かの女子が騒いだ。(カッコよかったからだろう) 「尾津乃つばめです、よろしく」  サクラはびっくりした。さっきの人・・・。  彼は私に気づいた。そしてたぶん私に向かってほほえんだ。 「みんな仲良くやってくれ、じゃああの空いている席に座って」 「はい」  そう言って彼はこっちに向かってきた。 「やぁ同じクラスなんだねよろしく」 「え、ええ、あのさっきはありがとう」 「どういたしまして」  そして彼は私の二つ後ろの席に座った。  私は彼のことが気になり先生の話はうわの空だった。  ホームルームが終わると帰りだが彼はみんなの質問責めにあっていた。  私はかばんを持って教室を出た、靴を履き替え外に出ると暑さで一瞬くらっ ときた。早く帰ろう。私はそう思った。  校門を出たとき。 「おーい」  振り返ると彼が走ってきた。 「あのさ、君の名前教えてくれるかい?」 「サクラ」  なんで私にかまってくるんだろう?少し不信感を抱いた。  少し歩く速度を速めた 「あのさ、信じてくれないかもしれないけど」  そう言いながら彼は私の前に立ちふさがった。 「君が体調悪いのは霊の所為なんだ」 「ええ、わかってる」  彼を通りこしながら言った。 「どんなにお祓いしても無駄だった」 「そうだったんだ」 「さあおぬしの家に帰れ」 「だめだよ途中で倒れたりしたらどうするんだ」 「だいじょうぶだ」 「そんなわけない。嫌でもついて行くからね」  二人は黙って歩いた。少したって彼は自分のことを話し始めた。私は黙って 聞いていた。 「さあ着いた。早く帰るがよい」 「へえ、君んち神社やっているんだ。じゃあまた明日ね」  彼は石段を降りて帰っていった。  ちょっと悪かったかな。少し後悔した。  次の日、体調がいつもより悪かった。 「母上」 「どうしたサクラ」母がふすまを開け入ってきた。 「今日は体の調子がすぐれぬので学校は休みます」 「そうかい、連絡しとくね」 「あぁそれとおじうえは?」 「また旅に出ましたよ。そうだそれとねぇそとに制服着た男の人がいるけどサ クラの友達かい?」 「!!」  がばっと起き上がった。と同時に体に痛みが走りまた寝た。  尾津乃が来ている。 「母上、すまぬがその男に休むと伝えてくだされ」 「あいよ」母はふすまを閉め出て行った。  母と尾津乃の声かすかに聞こえる。  しかしなぜ尾津乃が来たんだろう。いや、わかっている。でも。  次の日かばんを持って家を出ると尾津乃が待っていた。 「やあ」 「お、おはよう」  いっしょに歩くのがすごく恥ずかしかった。帰りもやっぱりついてきて恥ず かしかった。  毎日彼は来た。休んだときも学校が終わった後来て話をしたり勉強を教えて くれるようになった。  しばらくして秋が訪れ、枯葉がざわめくある日、授業が終わったあと校門で 尾津乃を待っていたとき、足音がした。 「つばめ」  顔を上げると3人の女子が立っていた。 「ちょっとあんた顔貸してもらおうか」  囲まれながら校舎裏につれてかれた。  一人の女が言った。 「あんたさームカツクんだよ、尾津乃さんにひっつきやがって」  もう一人が言った。 「そうだよ、あんたなんか言ってみなよ」  そう言って顔をのぞきこんだ。  三人めの女が言った。 「シカトだってえ、すましちゃって」 「ちょっと痛い目にあわしてやろうよ」 「どうすんの?」 「そりぁ・・・」  女が口を開いたとき 「やめろーっ」 「つばめっ」 「サクラさんに何をするんだ」  つばめは私の前に立ちふさがった。 「えっえっ、あのその」  一人がかけだした。 「あっ、待ってよー」  そうして残りの二人もかけだしていった。 「だいじょうぶかい?」 「ええ」 「帰ろうか」 「うん」  なんだかとても幸せだった。  帰り道。つばめが急に止まった。 「どうしたの」 「「あの、さ。うーん」 「いったいどうしたんだ腹でもこわしたか?」  つばめはまっすぐ自分の目を見つめた。 「僕は君のことが・・・」  なんだか一瞬時が止まったように感じた。 「つばめ・・・」  二人は近づき目をつむり・・・ 「おぬしらなにをしておる」(ドッカーン) 「お、おじうえ帰ってきてらしたのですか」  おじうえはつばめの顔をのぞきこみ言った。 「うーむ。サクラをめとるからには相当の霊力がなければならぬぞ」 「は、はい」  おじうえはくるっと向きを変えた。 「まあよいそこで飯でも食ってくか?」 「いらん、おじうえの飯など食べたら腹をこわす」 「そんなこと言わずに食ってけ」 「いらんと言っとろうが、行くぞつばめ」 「あ、うん」 「(つばめか・・・あの男相当苦労するな)」  家の前に着いた。 「じゃあまたね」 「ああ」  つばめは帰っていった。私はさっきのことを思い出して赤面した。  それから数ヶ月が通り過ぎつばめの勉強のおかげで三年になれた。  穏やかな春の午後の帰り道桜並木を通った。桜の花が美しく舞っている。 「サクラ」 「なんじゃ、つばめ」 「実は・・・僕ヨーロッパに行くことにしたんだ」 「えっ、つばめ本当か・・・?」 「ああ・・・でも」 「いやじゃいやじゃいつまでも私のそばにいておくれ」  つばめの肩をつかんで揺さぶった。 「ごめん・・・どうしても行かなくちゃいけないんだ」 「なんじゃなんじゃ今まで勝手に引っ付いてきたくせに・・・つばめのバカッ」  つばめを突き押して走り出した。涙が出てきた。  しかしつばめはすぐに追いついてきた。  私の腕をつかんで言った。 「ごめんサクラ・・・でも僕だって君と分かれるなんていやだ、僕だって」  つばめの声は最後には涙声になった。 「わかった・・・」  泣きながら言った。 「いいかつばめ。絶対月に一度手紙を出すのじゃぞ、いや毎週じゃ」 「うん」 「絶対毎日私のことを思い出すのじゃぞ」 「うん」 「他の女に手え出したら許さんぞ」 「うん」 「絶対、絶対私のことを忘れるんじゃないぞ」 「忘れるわけないじゃないか。僕は君のことを愛している」 「つばめ・・・」  二人は口付けをした。  そしてつばめは旅立っていった。  しかしつばめのいない毎日はつらかった。体調がよくても学校を休んだ  ある日つばめからの最初の手紙が届いた。それには一枚の写真が同封されて いた。  写真にはつばめの元気そうな笑顔が写っていた。  それを見てサクラは立ち上がった制服に着替えかばんを持ち学校に向かった。  苦しかったけど走った。  なぜか涙が出てきた。  そして思った次に合うとき笑顔で迎えられるように今のうちに泣いておこう と。