月が雲に隠れるのを待って、門の横の壁から潜入を開始した。 カクガリの肩に立ったパーマを梯子代わりにあたるとチビが壁を乗り越え、向こう側に 降り立つ。 やがて巨大な門扉の横の潜り戸が二人によって開けられた。幸いにも正門の警備員は少 し離れた詰所に居るらしく見当たらない。 詰所前の立ち木の影まで前進してチビに目配せをする。うなずき返したチビは慎重に窓 の下まではい寄ると中の様子を窺う。 チビは、小心で臆病な所があるが、言いかえれば用心深く不信な気配に敏感だと言うこ とだ。この様な役にはうってつけである。 やがてチビが詰所の中を指差し、次いで三本の指を立てる。三人中に居ると言う意味だ ろう。頷き返すと、OKのサインを作ってからこちらに来いと手招きをした。 巨体にものを言わせたカクガリのタックルがドアを吹き飛ばすと一斉に室内に踏み込 む。 「動くな、動くと撃つ。壁に向かって立て」 あたるが銃を突きつけ相手の動きを封じる。 完全に不意を付かれた警備員はなすすべもなく抵抗を諦め、壁に手を付いた三人の警備 員を私とパーマにカクガリで武装解除にかかる。 ここまで順調に事は進んでいる。いや順調すぎたのかもしれない。私は重大なミスを犯 した。 「あれは宇宙人の玩具でな、破壊力はTNTの非に有らず・・・」 警備員の身体を調べて最中に声をかけてしまったのだ。 「玩具が怖くてパパになれるか」 振り向き様の一撃で床に倒される。無駄口はせめて武装解除後に手足を手錠かロープで 拘束した後にすべきであった。 しかし、そんな事も考える暇も無く相手は攻撃を繰り出してくる。 パーマに踊りかかった一人を引き剥がそうとカクガリがその後ろから絡みつく。 あたるは敵味方が入り乱れて拳銃を撃つに撃てず天井に向けて威嚇射撃を行った。 銃身から赤い閃光と共に軽快な電子音が発せられた・・・。が、別に天井は吹き飛ばさ れも焼け焦げる事も無く相変らずそこに存在していた。 本当に「ガキの玩具」であったのだ。 警備員は一瞬動きを止めたが、危険が無いと判断するとあたるに殴り掛かる。 サスガは訓練を受けた人間である、強化服に身を包んだ打撃戦は不利と見て寝技に持ち 込み関節を決めに来た。それでもアーマーが邪魔で完全に極まらないと次の技に移行し ていく。反撃はおろか防ぐので精一杯であった。 あたるやパーマも押されぎみだ。形勢は逆転しつつあった。 我々の中でチビだけがフリーの状態であったが突然の成り行きに状況判断も出来ず、た だオロオロとしている。定時連絡のためか鳴り出した壁の電話機を反射的に取り上げた チビは我に帰り、コードを引き千切ろうとして電話機ごと床に落とした。 相手側も詰所の異常に気が付いただろう。ますます形勢は不利に成った。 「チビそこのライフル」 あたるの応援を求める声にチビは傍らの銃架の小銃に手を伸ばした。 銃を手にした事が無い者が突然敵と遭遇した場合に、銃を撃たず棍棒の様に振り回す事 が有ると何かの本で読んだ事が有るが、今のチビが正にそれであった。頭上にライフル を振り被ると突進していく。 だが、銃を振り下ろす前に先程あたるの落とした玩具を踏み砕いた。 強烈な閃光と共に瞬間的に開放されたエネルギーは爆発を引き起こした。 やはり宇宙人の玩具は侮れない。 怯んだ相手の無防備な顔面に拳を叩き込み、膝から崩れ落ちた所へ止めの蹴りを入れ勝 負を付ける。あたるやパーマ達も何とか敵を制圧し終えた様だ。 チビはショックで気を失っているが、特に怪我は無い。もう少し寝かしてやることにし う。 「な、何だ」 あたるが何か言いたそうにコチラ睨んでいる。 「この、お喋り。余計な事を言いやがって」 「何を、お前こそ本当に玩具を持ってきてどうするつもりだったんだ」 あたると暫く睨み合っていたが、やがてどちらからとも無く噴き出した。 パーマも笑いながら。 「まあ、作戦の第一段階は成功だな。使えそうな物を頂いて次に行こうぜ」 「そうだな、アチラもここの異常に気が付いた事だろうし、急いだ方が良さそうだな。 俺とパーマは武器や他に役立ち相な物を探そう、あたるとカクガリはこいつらを念の為 に縛り上げてくれ」 ロッカーの中に有った警備員の私物らしいキャンバスバックの中身を床にぶちまけ、ロ ープや邸内の地図など役に立ちそうな物を詰め込んでいく。 「メガネ、こりゃ何てライフルだ。ゴルゴが使ってるのとは違うようだが」 チビが先程放り出したライフルをパーマが拾い上げて手渡して来た。 「俺も本物は始めてだが、これは面堂工業が自衛隊や海上保安庁なんかに下ろしてる 64式自動小銃ってやつだな。国産のアサルトライフルだ」 パーマに答ながらコッキングレバーを引いて薬室に弾薬が装填されていない事を確かめ ると遊低を再び閉じ、銃口を上に向けて引き金を引いてみる。どうやら機能は壊れては いない様だ。 「面堂の所はライフルも作ってるのか。自家製で間に合わすとは意外とセコイな」 「まあ、フィールドテストってやつを兼ねてるんだろう」 喋りながら警備員のベルトに吊るされていた鍵を使って弾薬庫とおぼしき扉を開ける、 果してその中には64式小銃の口径7,26mm、通称ナトー弾と同一の308ウィンチェス ター・フルメタルジャケット弾が装填された20連マガジン弾倉と手榴弾が入ってい た。残念ながら64式小銃に取り付けられる擲弾砲までは見当たらない。正門の警備と 言う任務の性格上か手榴弾も攻撃型や破壊型は見当らず、殺傷力が無く音響と閃光で敵 の戦闘能力を一時的に奪うタイプの物であった。 銃の右側に有るセレクターレバーを「ア」に合わせ、引金の前にある弾倉室にマガジン 弾倉を装着する。 ちなみに64式自動小銃のセレクターレバーは安全装置とセミオート射撃、フルオート 射撃の切り替えを兼ねていて、「ア」「タ」「レ」とカタカナで表示されている。それ ぞれ安全、単発、連発、の頭文字であり、的に「当たれ」とのオマジナイと言う訳では 無い。 64式小銃の操作方法を説明して銃をパーマに返す 先程の騒ぎで銃架から床に落ちた銃を拾い集め、同様に薬室が空である事を確認し安全 装置を掛けてからマガジン弾倉を差し込んでいく。パーマは戦闘服のポケットや腰の弾 帯のパウチに弾倉や手榴弾を差し込み、残りをバックに詰め込んでいる。 私もパーマに倣い腰部アーマーの内側の小物入れに予備弾倉と手榴弾を差し込んだ。 「おい、こっちは終わったぞ」 警備員を縛り上げていたあたるが声を掛けてきた。 「ああ、こっちも準備出来た。そろそろ行こうか。おい、チビ起きろ」 気絶しているチビを揺り起こす。 「ウーン、朝ご飯はいらないから、もう少し、もう少しだけ寝かせて・・・」 寝ぼけた生返事をして起きる気配が無い。 「ダメだ。気持ち良さそうに寝てやがる」 「なら、俺が運ぼう。ところでメガネ、敵の本拠地って何所だ」 カクガリが軽々とチビを肩に担ぎ上げるとまたも現実的な問いを発する。 私は警備員の口を割らす事を忘れ、答に窮した。 「何度か行った事のある洋館だろう。面堂の奴はあそこで寝起きしている筈だ」 あたるの台詞で以前に面堂が僕所有の洋館がドウのコウのと自慢げにラムさんたちに話 していたのを思い出した。 「そ、そう、目標はその洋館だ」 「作戦担当はお前なんだからシッカリ頼むぜ」 いつの間にか私が作戦担当に成っていたらしい。 「お前、本当に分かっていたのか」 疑わしげに聞いてくるカクガリにパーマが、 「まあまあ、犀は洟垂れたんだから」 「それを言うなら、賽は振られた。矢は放たれただろう」 パーマの駄洒落に毒気を抜かれたカクガリはそれ以上の追求を止めて歩き出す 「そうとも言うな、さあ行こうぜ・・・ん」 カクガリに続き外に出たパーマが何かを見つけ詰所の裏手にまわると手招きをする。 そこには、戦車が一両蹲っていた。 「レオパルド1A4か、丁度いい戴いちまおう」 戦車の操縦は初めてだが、何所かに少々ぶつけて壊れる代物でもあるまい。 「メガネ、俺はここで別れる」 あたるは唐突に別行動を取ると言い出した。彼の目線を追うと、戦車の陰で気が付かな かった一人乗りの小型ヘリを見つめている。どうやらそれを使う気らしい。 「いいだろう。二班に別れれば一方が駄目でも、もう一方に希望を託せる」 そして口には出さないが一方が敵を引き付ける陽動作戦に成るかも知れない。 もっともどちらが囮に成るかは運しだいだが、囮の危険は増す事になる。 「あー、何だって」 ヘリに乗り込む寸前にあたるの放った台詞は、レオパルドの830馬力、10気筒水冷デ ィゼルエンジンの始動音によってかき消され、 「メガネ・・・。し・・・」 までしか聞き取れなかった。 問い掛ける私に笑顔だけを残してあたるの操縦するヘリは軽々と舞い上がり夜空に消え ていった。 戦車の乗り心地がこんなに悪いとは知らなっかった。 「もうちょっと静かに・・」 「しょうが無ーだろ。戦車なんだから」 ドライバー席のパーマ以外は皆青白い顔をしてうめいている。 「おい、もう少しマシな道を走ろうか。地図で調べてくれ」 パーマの提案でバックの中から地図を取り出し進路を検討する。 「この先からゴルフコースに入ろう、見つかる危険は増すかも知れんが最短コースだ」 「了解」 パーマは手渡した地図を一瞥するとレオパルドをゴルフコースに乗り入れさせた。 まったく私有地の中にゴルフのフルコースが有るとは許し難い。我が父は接待と称して ゴルフに行く事は有る様だが、当然会員券は持っていまい。 私は将来ゴルフと言うスポーツだけは終いと誓っている。 起伏が穏やかで、整地された柔らかい土の上に芝まで敷き詰めたフェアウエーは戦車で 走行するには快適な地形であった。 もっとも今通り過ぎたグリーンはもう使用不能だろうが知った事では無い。 コースに沿ってコナーを曲がった所で突然パーマは戦車を止めた。 「どうした」 「外を観てみろよ」 パ−マに促がされて覗いたコマンダー用のパノラマサイトに迫り来る敵の戦車隊が映し 出される。 破壊と殺戮の為に極限まで無駄を排除した機能美もその本来の目的の為に迫り来る姿は 現実的な恐怖その物であった。 「ラムさん・・・」 無意識にあの人の名を唱える。 「あの向こうに居るんだよね」 砲手用のステレオ式測遠儀を覗いていたチビが恐怖のためか全く昂揚ない声でつぶやい た。 「それじゃ、行こうか!ラムさんの顔を見に!」 パーマは雰囲気を察知して努めて明るく言放った。 景気付けに105mm砲を一発撃つと戦車を発進させる。 戦車隊との距離は見る間にせばっまてくる。至近距離で炸裂する対戦車榴弾の衝撃波で 車体は揺らぐ。 「進めー。敵陣に入り込めば同士討ちも誘える。残骸を盾にもできる」 突然車体に激しい衝撃と共に戦車は動きを止めた。 「どうした?」 「キャタピラをやられた、動かんぞ」 パーマは諦めた様にハンドルを拳で叩きながら答える。 命中した砲弾が不発弾であったのは幸いであった。まだツキは残っていた。 しかし、カクザした戦車に立て篭もっていては自殺行為である。ここは戦車を棄てゴル フコースに隣接する林の中に逃げ込むのが正解だろう。 皆にその旨を告げるとハッチを開け車外に飛び出し爆風によろめきながら林に林に向け 走り始める。敵はレオパルドを棄てた我々に気付き7,62mm機銃を使い、進路を妨げる 様に撃ちこんでくるのが数発毎に詰められた曳光弾によって分る。 たまらずに深いバンカーに飛び込む。丁度敵の方向がえぐれたアゴになり弾を防いでく れる。 カクガリとパーマが続いて飛び込んでドウやらきた。無事のようだ。 「チビはどうした」 「分らん、逃げ送れたらしい」 レオパルドを振り返ると逃げ送れたチビが中から引きずり出される所だった。 「チビー」 チビを助けるために戻ろうとするカクガリを引き止める。 「止めろ、もう遅い・・・。心配するな、奴らも捕虜の扱い方ぐらいは心得ているはず だ。非常な様だが犠牲は覚悟の上ではないか。チビは立派に戦ったのだ。アイツも自分 のタメに全滅するのは望んでいないだろう」 カクガリは暫く私を睨んでいたが納得したように頷いた。 「そうだな、仇はきっと取ってやる」 空からヘリが接近してくる。あたるの乗った奴では無い。もっと大きな武装ヘリ、多分 アパッチであろう。隠れ様のないゴルフコースで上空から攻撃されれば終わりだ。 無駄を承知で64式小銃を手にとる。 予備弾倉の入ったバックは見当らない。後は各自が身に付けているだけである。 しかし、ヘリは我々を無視して着陸態勢に入った。故障か何かで緊急着陸するのかも知 れない。 ともかくヘリが邪魔で敵の砲撃は中断されている、このチャンスを逃がさず我々は林に 向け全速力で走りだした。 敵に遭遇する事も無く無事に洋館までたどり着く事が出来た。 あたるの奴が敵を引き付けているのか、我々に未だツキが残っているのか分らないが今 はそんな事を考えるより行動するだけだった。 「おい、車だ」 先行していたカクガリの声に物陰に隠れ様子を見ると、白色のキューベルワーゲンが洋 館裏手のガレージと思われる場所から走り出て建物を半周すると正面に横付けされた。 「おいあれは面堂の専用車だぜ」 「するとやはり奴はここに居るのか」 二人は小声で問い掛けてくる。 キューベルワーゲンはライトを消したがエンジンは掛けたまま正面玄関の車付けから動 かない。一つの考えが浮かんだ。 「ああ、どうやらその様だな。やはり俺達はツイてる。面堂はワーゲンで出かける気ら しい、ココで奴を押さえてラムさんを救い出す。頭さえ潰せば面堂軍等恐るるに足ら ん」 「成る程、で、どうやって面堂を捕まえる?」 あらためて洋館の周りを見渡す。正面玄関の前は蛸が口から水を噴出す噴水を中心とし た洋風の庭園に成っている。 「そうだな・・・。まず、正面玄関の噴水の前まで忍び寄ろう、おあつらえ向きに花壇 や植え込み伝いに行けそうだ。そこで面堂が出て来るのを待つ」 「成るほど、それから?」 「ココからが大切だ。奴がワーゲンに乗り込むのを待って俺がタイヤかエンジンを撃っ て車で逃げられ無い様にする。二人は俺が撃ちだしたら手榴弾を投げてくれ」 私はパーマの弾帯の手榴弾を指差した。 「そりゃいいが。手榴弾なんか使って大丈夫か?」 「そうだな、面堂や他の奴が死んじまったりしたら寝覚めが悪いし、第一人質にならん だろう」 二人は心配そうにしている。 「ああ、その点は大丈夫だ。コイツには殺傷力はない、その代わりに強烈な閃光と轟音 で一時的に相手を軽い失神状態にする、だから投擲後地面に伏せて光を見ない様にしな けばならん。幸いキューベルワーゲンは幌を掛けてないから効果的だ。で、敵が怯んで いる間に一気に面堂を抑え人質に取り、ラムさんとチビを解放させる。この作戦にはタ イミングが重用だ」 私は作戦を二人に説明し、同意を求めた。 「成るほど、それでいこう」 「よし乗った」 「そうと決まったら急ごう。いつ面堂が出て来るか分らん」 私たちは林から出て植え込み伝いに姿勢を低くして走った。 キューベルワーゲンは右側面を向けて止まっている、私はエンジン部を狙撃しやすい様 に噴水から左のバラの植え込みにむけ匍匐前進で忍び寄る。 パーマとカクガリも右側の植え込みにたどり着き今頃は手榴弾を握り締め何時でも投げ られる様にしているだろう。 今潜んでいる植え込みから標的までは30m程だ、これ以上近付くのはさすがに無理で あろう。 64式小銃の折りたたみ式の二脚を引き出し伏射のスタンスをとり、セレクターが 「ア」である事を確かめてからコッキングレバーを引き装填時の音が出ないようにスプ リングの力に逆らってゆっくりと遊低を閉じていく。 前進する遊低に押され弾倉上端の実包が薬室に送り込まれる、静かに遊低を閉めたため 完全に閉じ切らない薬室を掌で叩く様にコッキングレバーを押して完全に閉じる。 試射をしていないので正確な着弾点が分らないのが不安だ。仮にこの銃のサイトインが 200mの中距離射撃用に合っているとした場合、発射された弾丸は放物線をえがいて 飛ぶから銃口から40m付近で一度射線と交差してその後は射線の上を飛び200mで 再び射線と交わる。また50mの至近距離射撃用に合わせてあったとしたら30mの距 離では理論上はやや下に着弾するが実際は正照準で狙っても支障は無い範囲であろう。 第一私の射撃の腕前と銃の精度が理論と計算に追い付かない。 しかし、精密射撃には向いていない軍用銃とはいえ30mはライフルに取って超が付く 至近距離だ。オフロード用の巨大なタイヤを狙って当たらない方がどうかしている、仮 に万一外してもエンジンルームを貫くだろう。多少のずれは初弾の着弾点を見て狙点を 修正すればすむ。 「・・・犬を使って辺りの探索を続けろ。それから速やかにラムさんを安全な場所に御 連れするんだ。そうだヘリを使え」 部下のサングラスに命令を下しながら迷彩服姿の面堂が出てくる。どうやら前線に出て 自ら指揮を執る気らしい。 サングラスの差し出したトランシーバーを受け取りながらキューベルワーゲンの後部座 席に乗り込む。 セレクターを「タ」に切り替えタイヤを狙う・・・が、照門に照星が入ってこない。ア ーマのせいで銃の肩付けが悪いのか、フェースガードが邪魔で頬付けが上手く出来ない のか、色々スタンスを代えてみるがやはり照星が入らない。 「終太郎だ。ヘリを一機洋館に向わせろ」 銃身を見るとフロントサイトが倒れていた。 「・・・いや、僕じゃない。あの方を非難させる。・・・そうだ、くれぐれも粗相の無 いように気を付けるんだ」 毒づきながら慌ててフロントサイトを起こし再び狙いを定める。 と、今度はリアサイトが倒れている。 撃つに撃てずに焦っている間にキューベルワーゲンが動きだした。 カンを頼りにフルオート射撃に切りかえて走り去る車を撃とうかとも考えた。 確かにリアマウントエンジンのキューベルワーゲンを止める事は可能だろうが、面堂が 被弾する確立も高い。 私は狙撃を諦め銃をおろした。 面堂の乗った車は建物の裏手から走り出て来た数台のオリジナルカラーのキューベルワ ーゲンや水陸両用のシュビムワーゲンを従えて走り去って行く。 「おい、なぜ撃たなかった」 「何かあったのか」 面堂を見送ったサングラスが館内に消えてからパーマとカクガリが忍び寄ってくる。 「すまん。銃のトラブルで撃てなかったんだ。俺のせいでチャンスを逃しちまった」 自分で言うのも何だが銃器や戦闘に関する知識はある程度は持っている。いや、つもり だった。しかし若さゆえの経験不足は如何ともし難い。それがコンナ形で出てくる。 「そんなにショゲルなって」 「まあ、別の手を考えれば良いさ」 ほんとにいい奴らだ。 二人は私を責める事無く逆に励ましてくれる。 「うむ・・・。ところで今の面堂の会話を聞いたか?」 「ああ、ラムちゃんはココに居るらしいな。だがヘリで他所へ移すって言ってたぞ」 「メガネ、こうなったら実力でラムちゃんを救い出そう」 危険ではあるが、下手な索を練るより有効かもしれない。それに面堂の居ない今の洋館 内の警備は手薄に成っているはずだ。 「ああ、それしか無いだろう。その上でヘリを奪って一気に逃げるんだ」 洋館への進入口は意外と簡単に見つける事ができた。 桜の大木が窓の開いた二階のバルコニーに向け太い枝を張り出している。 何かの罠かとも考えたが、我々がココ迄たどり着いているのは未だ気付かれていないは ずだ、それに面堂の奴は探索に犬を使うと言っていた。グズグズしていては危険だ。 再びカクガリを踏み台にして私とパーマが木に登り、カクガリに手を差し出す。 「もう少し引き上げてくれ」 「重いなぁー、もう少しやせろよ」 「ウルセイ、お前もソンナ甲冑を着けて一人で登れ無かったくせに」 「二人とも静かにしろ、見付かるぞ・・・」 パーマが言い終わらないうちにカクガリが手を滑らせ大きな音を立てて木から落ちた。 「何だ今の音は?」 「犬を放せ、逃がすな」 犬の鳴き声と共に人の声が聞こえてくる。 カクガリは一度樹上の我々を仰ぎ見ると、林の中に走り込んでいった。 それもワザと騒がしく木々の枝を揺らしながら・・・。 みるからに獰猛そうなドーベルマンと面堂軍の兵士が逃げるカクガリを追いかけていく のが木々の間から一瞬垣間見えた。 「・・・お前の犠牲は無駄にしないぞ・・・。行こうパーマ、カクガリの作ってくれた 時間を生かすのだ」 私とパーマは洋館への潜入に成功した。 つづく