- Tomorrow Never Knows - 錯乱坊「みなさん、こんばんはチェリーです。    今夜は日常がどれほど危ういバランスの上で保たれているかについて    拙僧が経験したなかでも特に悲惨なる話をお聞かせしてしんぜよう。」 錯乱坊「それはまだ平和な夜のことであった。だがしかしそのふとしたきっかけから    平和は終わりを告げ、争乱への導火線に火がついてしまったのであった。」 -諸星家食卓 あたる「うひょう!今日はチンジャオロースか」 あたるの母「一人きっちり100gですからね。おかわりはありませんよ。」 あたるの父「おまえちょっとビンボ臭いんじゃないか。ヒエッ」 -睨まれて新聞の裏に隠れる父 あたるの母「なんですか!それもこれもみんなあなたの安月給のせいでしょ。      あなたも毎日毎日ビール瓶一本も空けないでもらえます。      今日からはこれ一本で我慢してもらいます。」 -ドンと出たのは250mlのチビ缶 -そんな幸せそうな家の中と違い、外は真昼のように明るくなり近付く巨大な宇宙船一隻 -光の柱を下ろし容赦なく家ごと吸い上げる あたる「なんだなんだ」 -船の中、元我が家であったガレキをから頭を出し見回すあたる ラム「ここは・・・父ちゃんの船だっちゃ。」 -奥から出て来るラムの父ちゃん ラムの父ちゃん「こんばんは、いきなりお訪ねしてすみませんなぁ。」 あたる「そういう問題じゃない。あなたねぇ!」 ラムの父ちゃん「なんでしょう。」 ^笑顔で近付くラムの父ちゃん、ただただその大きな体に圧倒されるあたる あたる「いえ、べつにいいんですよ。なんでもないですから、ははははは。」 -続いてガレキから顔を出すあたるの父と母 あたるの父「わたしの家、わたしの汗の結晶、わたしの血一滴一滴・・・。」 あたるの母「ちょっと、これはどういうことよ。またあたるの友達?いいかげんに して欲しいわね。」 -ラムの父ちゃんの姿に気付く二人 あたるの母「あら、お父さんご機嫌うるわしゅう。それで今日はどんな御用件で?」 -ラムの父ちゃんは豹変振りにも気付かず、 ラムの父ちゃん「奥さん、どうも今晩は。御用件ってほどのもんじゃないんですが、        今日は結婚している両親の親がろくに話をすることがなかったのもどうか        思いまして、一度じっくり若い二人も交えてお話しよう思いましてな。」 -あたるの母はちょっとたじろいで、 あたるの母「せ、せっかくですが今日はちょっと。明日も予定がありますし。」 -あたるの母に耳打ちする父 あたるの父「(おまえ断わったらどうなることか。)」 あたるの母「(しょうがないでしょ。これ以上かかわり合いたくないの。)」 ラムの父ちゃん「人の目の前でこそこそ何やっとるんですか!」 ラムの母ちゃん「あんさん、そう怒らんと、無理言ったらあきまへん。        先方にも事情っちゅうもんがあります。        けど、ほんに残念どすなぁ。        お食事の方も用意しておりましたんやけど。まあ、しょうがありませんな。」 -キラッと光る母の目 あたるの母「お父さん、やはり両家の理解と言うものはなんとも重要なものです。      今日を逃したらまたいつになるともわかりません。      お互いのためにぜひ今日おねがいします。」 -翌日、友引高校2年4組教室 -二つの空席を見て パーマ「今日はあたるとラムちゃんそろって休みか。どうしたんだろ。」 カクガリ「それがよ、昨晩ラムさんの母船が諸星家上空にいたのを     見たってやつがいるんだよ。それであたるの家がなくなってるんだよ。」 チビ「じゃ、じゃあとうとう地球を捨てて移住したのか。やばいんじゃないのか?」 -さりげなく耳を立てている面堂 メガネ「笑止!何を心配することがある。あたるのやつが結婚なんてすると思うか。」 パーマ「うむ、そういわれると確かに。」 -気を取り直す三人 しのぶ「あまいわね。」    メガネ「どういうことだ?」 -しのぶはチラッと面堂に目をやって しのぶ「あれでもね、あたるくんてけっこうお母さんに弱いとこあるのよ。お母さんに押されて、    ラムのお父さんの迫力で攻められたら、意外にあっさり陥落するんじゃないかしら。」 -目を丸くし表情を隠しきれない面堂、口が半開きになり青くなるメガネ しのぶ「まあ決まったわけじゃないけどね。」 -バッタリと倒れ伏すメガネ パーマ「おい、メガネ。あっ!こいつ息してねえぞ。いそげサクラさんのとこだ。」 -メガネを担ぎ上げ運んでいく三人、少々離れた所でどっぷりと考え伏す面堂 しのぶ「(さてと、これからが勝負よ。時間との戦いだわ。いまのうちに面堂君と    既成事実を作ってしまえばこっちのものよ。)」 -面堂の方を見て、心の中で呟くしのぶ 錯乱坊「だが、しのぶの考えは甘かった。UFOに一人おいてけぼりをくったテンの活躍もあって、    あたるとラムの結婚話はあっという間に友引町全体に広がっていったいたのであった。    それにより、面堂終太郎をめぐる乙女達の静かでいて激しい闘いは既に火ぶたを    切って落とされていたのだ。    三隣亡高校のNO.1けつねコロッケのお銀はすばやくフンババの哲、フランケン1号2号を     放ち、他校を牽制。そして自ら着々と準備を進めていった。    仏滅女学院のNO.1桔梗麗香は姉妹校仏滅高校の不良と結託、その総番を手中に収めた。    次々と各校が戦闘体制を整え、友引町を丸ごと巻き込んだ大抗争が始まるように思われた。    だがしかし、状況はこの二人としのぶの幼なじみである赤口学園NO.1浅野優理とで    開かれたおそらくこれで最後になるはずだった    各校NO.1による親睦会、通称『バラのつぼみ』によって一変したのであった。」 -翌日、喫茶ドブサラダ。いずれも険しい顔つきで半円形に座る美女たち お銀「いまさらこんな会に顔を出す必要なんか無かったんだけどね。釘を刺しておこうと思ってね。   面堂君に近付かないでもらえないかしら。お願いするわ。」 -言ってすごむお銀 麗香「よく言うわね。あんなデクの坊どもがいるぐらいで強気になっちゃって。   助っ人がいるのはあなただけじゃないのよ。」 フフフッ -いきなり笑い出す赤口学園NO.1浅野優理 優理「笑わせるわね。あなた達肝心なことを忘れているわ。   いくらそんなおっさんどもやアザラシなんかを連れて来って結局はしのぶがいるのよ。   面堂君をどうするなんてことは無理な話よ。」 麗香「じゃあどうするっていうのよ。」 優理「まず最も力のあるものをみんなで叩くのがバトルロイヤルの鉄則よ。」 -一方その日、鬼星 あたる「ええい、いつになったら帰れるというのだ。    大体なぁ、俺はこんな所に来る気はなかったんだぞ。」 ラム「ダ−リンが一番行きたがってたっちゃ。」 あたる「おれだってこんなだだっ広い荒野の一軒家だなんて知ってたらわざわざ来んかった。」 -女の勘によりなにかに勘付いたのか口調の変わるラム ラム「じゃあ、どうして来たがったちゃ?」 あたる「それはもちろん・・え、いや別に。」 -言いかけて、あわてて止めるあたる。その様子を見て悟ったラム ラム「うちの星まで来てまた浮気しようとおもってたっちゃね〜〜!」 バリバリバリッ あたる「うっぎゃああぁぁ〜〜。」 -傍らで酒を飲み交わす親父二人 ラムの父ちゃん「いや〜、仲がよくておりまっしゃな〜。」 あたるの父「ええ、ほんとに。ささ、どうぞもう一杯。」 ラムの父ちゃん「あんたとは気が合いそうですな。今日は男同士、        男についてこころゆくまで語り合おうやないですか。」 -更にその傍らで料理をつっつきながらその様子を見守る二人の美婦人 あたるの母「ああいう主人を持つとお互いに大変ですね。」 ラムの母ちゃん「ほんにまあ。」 -鬼星の夜は更けゆく -友引高校下校風景 しのぶ「(今日は面堂君来なかったな。ま、しょうがないか。ん、あれは。)」 -校門に寄り掛かる。見慣れぬ制服に身を包んだ美少女が一人。 優理「あ、しのぶ。待ってたのよ。」 -走り寄る優理 しのぶ「あら、優理。めずらしいじゃない。どうしたの。」 優理「それがね。わたしちょっと変な噂を耳にしてね。   ここじゃちょっと話しにくいわね。ちょっと場所をかえましょ。」 しのぶ「うん。」 -そして喫茶烏賊区蝶 しのぶ「わたしを?」 -ストローから顔を上げ、目を丸くするしのぶ 優理「うん、仏滅女学院と三隣亡学園があなたを狙ってるっていう噂を耳にしたの。   気をつけてねしのぶ。でも大丈夫よ。   赤口学園NO.1として、私も力になるからね。」 -机に乗り出ししのぶの両手をつかむ優理 -その様子で何かを納得するしのぶ しのぶ「へ〜、言うことはそれだけ? あなたとは幼なじみやって長いからね〜。    あなたの考えていることは手にとるようにわかるのよ。    これで潰し合いをさせて漁夫の利を得ようっていう魂胆なんだろうけど、    そうは問屋が下ろさないわよ。」 優理「な!」 -完全に表情を崩してしまう優理。 優理「なんてこというの。わたしはただあなたのことが心配で。」 しのぶ「それはどうもありがとう。もう話すこともないでしょ、じゃあね。」 -風のように去るしのぶ -その帰り道 -しのぶの前に立ちはだかる一団 お銀「待ちな。」 しのぶ「なにか用かしら。」 -振り返るしのぶその顔にはまだ余裕の色が見える お銀「おっとこれは強気だね。優理のやつがいっていたことも間違いないようだね。」 麗香「でも、その強気がいつまで続くことやら。」 -麗香がパチッと指を鳴らすと、得体の知れないモノが地響きとともに ドドドドドッ しのぶ「まさか!」 -しのぶの顔が青くひきつる 総番「しのぶさん、好きだ〜。」 しのぶ「いや〜っ!」 ドゴッッ!シュルシュルシュル〜〜〜 -空高くア−チを描く総番 しのぶ「ハア、ハア    も、もう用は済んだでしょ。帰らせてもらうわね。」 ザッ -立ち去ろうとするしのぶの前に立ちはだかる女生徒達 お銀「おっとまだ帰らせるわけにはいかないよ。   もうちょっとアザラシの相手でもしてやんな」 しのぶ「う、うそ。」 -立ちくらみを起こしかけたしのぶのうしろには土煙がもうすでに見えていた 麗香「これからが本番だよ。ほら、次が来たわよ。」 ドドドドドッ 総番「しのぶさん、好きだぁ〜!」 しのぶ「うおりゃぁ〜!」 -なんとか一本背負いで総番をぶん投げたしのぶ しのぶ「ちょっとまいったわね。これは。」 ドドドドドッ -地響きは絶えることなく -小一時間経過 お銀「よく頑張ったけど、もう限界のようね。   あんたとはあまりこういう形で決着をつけたくはなかったんだけど、やむを得ないね。」 麗香「さあ、これで終わりよ。」 ドドドドドッ 総番「しのぶさん好きだああぁ!!」 しのぶ「ふん!」 -渾身の力を込めた拳もすでに速さはなく、総番にかいくぐられて突き上げられるしのぶ 麗香「やった!・・・あれ?」 -突き上げられて総番の肩に乗るしのぶ ドドドドドッ -背に乗るしのぶに気付かず、突進しつづける総番。 女生徒「いや〜。」 -蜘蛛の子を散らすように逃げる女生徒達。 フンババ「ここは命に替えても通さん!」 -お銀をかばって総番の前に立ちはだかる三人組 ドカドカドカッ -その若い命をあっさりと枯らしたフンババたち。 -再び殴り飛ばされたのか総番の姿はなく、夕闇の中ひと休みするしのぶ しのぶ「・・・ふぅ、さすがに疲れたわね。でももう邪魔者はいないわ。    鬼のいぬ間に面堂さんを・・うふふふふ。」 -スキップをおりまぜつつ帰宅するしのぶ -やがて家の明かりがすっかり消えて真夜中、 -その上空の雲間から光が差し込み、戦いの夜明けを告げるがごとく降臨するラムの母船 -幸せなことに気付かず眠りつづけるしのぶ 錯乱坊「明日が見えぬゆえに人は闘いつづけられる。たとえそれが無駄になろうとわかっていても、    いや無駄になりえるからこそ、人は闘いつづけるのである。    そして人は明日を作ってゆくのである。たとえそれが無駄の積み重ねのように思えても。    だが、しかし!」 ベベン、ベン -扇子でしこたま机を叩く錯乱坊 錯乱坊「彼女の場合にはそれがあてはまるかどうかはさだかではない。」