傍にいる *―後編―*
病室にいるラム。その横で眠りつづけているあたる。
あたるの体からは酸素呼吸器や生命維持装置が繋げられている。
脈拍、心拍、呼吸は正常。しかし目覚めるそぶりはない。
そっとラムがあたるの前髪を撫でる。
あの日―・・・
『あと一ヶ月以内に彼が起きなければ、もう二度と目覚める事がないでしょう』
『・・・そんなぁっ!!!』
『おい、目覚めねーって』
『死ぬということかしら?』
『それは分かりません。しかしこのまま一生植物人間になる可能性が大きいです。』
『ほかに助ける方法はないのか!?』
『いいえ・・・彼が自然に目覚めることしか方法はありません。』
『父ちゃんうちの星の力で助ける方法はないのけ!?』
『・・・せ、せやな試してみたるさかい、待っとれっ!』
『A◇D★J§○bÃ▲ð²©Q☆C!!!』(注 ラムの母の言葉)
『母ちゃんも頼むっちゃ!!』
『<◆k£■[T!』
病棟からラムの父親と母親が出て行く。
・・・・しかし、結果は効果がなかった。
よほど打ち所が悪かったらしい。
それからラムは毎日あたるの元に通いつづけている。
体に毒だからって皆ラムの事を心配しているがラムは一切耳を貸そうとしなかった。
とある喫茶店でつぶやくサクラ。
心配そうに尋ねるサクラの婚約者つばめ。
これまた違う喫茶店。
しのぶが俯く。
因幡が冷静に言う。
「どうして?」
「覚えてますか?僕と初めてお会いした時、運命の部屋でたくさんの扉があったの。」
「ええ、扉の一つ一つが違う未来なのよね。」
「その通りです。」
「それがどうしたの?」
「しのぶさん、説明するのがややこしい話のなですが・・・僕らが今こう会っているという事実もあの扉のどれか一つの出来事なんです。」
「・・・そうなの・・・。」
「ええ。あの扉にはいろんな未来が取り揃えてあります。」
「それは分かっているわ。」
「つまりあの扉の中の一つ一つにはいろんな運命が入っています。あたるさんが怪我一つ負わなくてすむ扉、もしも怪我してもすぐ治る扉、一生このまま植物状態で終わる扉そして・・・」
「あたる君が死ぬ―・・・という扉もあるのね。」
「はい。・・・つまり助けることは運命管理局の僕でもさすがに・・・あ、見ることは出来るんですけど・・・・。」
「そっか・・・ごめんなさいヘンな事聞いて・・・。」
「いいんですよ。」
「もう三週間か。」
こちら某牛丼屋。ラム親衛隊の面々だ。
チビは泣きそうな顔でメガネを見る。
「ばかやろう!あたるがあんなんで死んじまうわけねーだろっ。」
「しっかしなぁ・・・」
「おだまりぃっ!しかしもかかしもあるかってんだ。」
と言って牛丼をかき込むメガネ。
「しかし本当に俺達もラムさんを通してあたるとも長い付き合いだよなぁ。
」
パーマがつぶやく。
「ああ・・・全くだ。」
「今日もラムちゃん、病院にいてるんだろうなぁ。」
「最近ラムさんの笑顔見てないよな。」
「・・・それほどラムさんの中であたるの存在が強いって事だよ。」
「メガネ・・・。」
メガネらしくないセリフに面々は振り返る。
どてっ
メガネ以外のメンバーがこける。
―ぴっぴっぴっぴっぴ―
あたるの心拍と共に動く。
看護婦がカルテを書く。
また、違う看護婦が点滴を交換する。
ラムはぼーっといつものようにその行動を見つめる。
がらららっ パタン
看護婦が部屋から出て行く。
あたるからの返事はない。
聞こえるのはモニターの電子音と、病室の前を時折通る人の足音のみ。
ぎゅっ ラムがあたるの手を握る。
この手が今、握り返されることは決してない。
ぐしっ ラムが慌てて右手で目を擦る。
あたるが眠るこの病室でラムは一人でいると涙が出てくる。
いろんなことが浮かんできて、いろいろ考えて・・・涙を誘う。
その日から6日後・・・いやあたるの事故から・・一ヶ月の一日前
ざーっ 外は雨。
「くどいようですけど・・・先生。」
「なんでしょうか?」
「やっぱり息子は助からないのでしょうか・・・?」
「いえ・・・そう言う訳ではないのですが。」
「と、言いますと?」
「この前も説明した通り、息子さんは昏睡状態に陥っています。
・・・一ヵ月というのは意識がなくなっても脳が正常に作動する期間なんです。」
「そうなんですか・・・。」
「先生一ヵ月後を越えたら・・・やっぱりその・・・」
「急に死に至るということはありませんが、昏睡状態がずっと続き・・・つまり植物状態です。そして生命維持装置がなければ生きてられません。」
「はい・・・。」
「いよいよ明日だ。」
「・・・お兄様。」
「何だ了子。」
「諸星様はまだ・・・。」
「そうだ。」
ちゃき 面堂が刀を取り出す。
がちゃっ 了子が終太朗の部屋から出て行く。
しゅっ ごとん 面堂が刀でワラで作られた人間と実物大の人形を切った。
がらららっ 病棟の扉が開く。
そこに立っていたのは、しのぶやサクラやラム親衛隊の面々。
「皆・・・。」
「やっぱりあたる君は目覚めてないわね。」
「う、うん・・・。」
「これお見舞いのお花。」
チビ達が花束を差し出す。
「ありがとうだっちゃ・・・。」
「ラム、おぬしやつれたな。」
「最近ちゃんと寝てるかい?」
「大丈夫だっちゃ。」
「いよいよ明日だな。」
「そうねー。」
「あれから一ヶ月かぁ〜・・・。」
「うん。」
しーん・・・・。
「み、皆っ暗い話は止めるっちゃ!」
「そ、そうね。」
「あははは。」
「「「はははははは〜・・・」」」
・・・軽い笑い。
し〜ん また沈黙が訪れる・・・。
サクラが沈黙を破る。
「それはよく分かってるっちゃ。」
「ラムさん・・・。」
「うちはダーリンがどうなったってちゃんと現実を受け入れる準備をしてるっちゃ。」
「それなら良いが・・・・。」
「大丈夫ですよ、世界には奇跡というものがあります。」
「でも、奇跡が起こらなかったらどうするの?」
「そっ、その時はそのときでっ!・・・」
「はぁ〜・・・。」
「・・・でも皆が来てくれて良かったっちゃ。」
「それならいいけど・・・・。」
「温泉マーク先生。諸星君はまだですか?」
「はっ、まだです校長。」
「そうですか・・・。」
ず〜〜〜・・・
校長がお茶を啜る。
こくっ 校長の隣に座っているコタツネコが頷いた。
「そうですなぁ〜・・・。」
「温泉先生はお見舞いに行かなくてよろしいんですか?」
「いや、、今日は授業があるので放課後にでも行こうかと思っております。」
「そうですか。」
「あの、校長は?」
「明日行きます。」
「は、明日ですか?」
「あ、そうだ。先生、」
「なんでしょうか?」
「明日休校にしましょう。」
「は?」
「だから明日休校にしましょうと言ってるんです。」
「し、しかし校長、生徒一人のために・・・」
「何を言いますか。諸星君はうちの高校の有名人ではありませんか。」
「そうですか?」
「そうです。」
「でも校長〜1年や3年・・・それに他のクラスの生徒には関係ないでしょう。」
「う〜ん・・・困りましたねぇ。」
がららららっ 皆が出て行く。
ぎゅっ ラムがあたるの手を握る。
ぽたっ ラムの涙が床に落ちる。
ぐいっ 涙をぬぐう。
ぽたっ あたるの手がラムの涙で濡れる。
ラムの顔は涙でぐしゃぐしゃである。
―ぴくっ―
はっ ラムが慌ててあたるを覗き込む。
―ぴくっ―
ラムがあたるの手を握り返す。
そ〜・・・ ゆっくりあたるの目が開く。
あたるの目がゆっくりとラムの方に動く。
あたるが自分の顔を覗き込んでいるラムの瞳に手を当てて涙を軽く拭う。
お互い見つめあったまま沈黙が続く。
「・・・・奇跡が起こったっちゃ。」
「・・・ここ病院か?」
「う、うん。」
「これすごく邪魔だな。」
あたるが酸素呼吸器を自分の口からはずす。
「あ、まだはずしたら・・・。」
「へーきへーき。」
「体大丈夫だっちゃ?」
「・・・まーな。」
「ダーリン・・・。」
「何だ・・・?」
「・・・愛してるっちゃ。」
「・・・馬鹿。」
*―数週間後―*
はしゃいでるラム。
多分前の笑顔より輝いている事だろう。
「はら、ダーリン。ちゃんと歩けるっちゃ?」
「歩けるわいっ。」
うぃーん ラムとあたるが病院から出る。
「諸星っ!」
「あたるっ。」
「あたる君っ」
「諸星君っ」
「あたるさんっ」
「諸星っ。」
「あたる。」
「あたる。」
「あたるっ。」
「・・・皆。」
「「「「「退院おめでとう。」」」」」
「お前ら・・・」
「ほら、ダーリン。」
あたるが駆け出す。
あたるがしのぶやサクラや龍之介のところへ走り飛びつく・・・。
ばきっ べしっ びしっ
あたるがしのぶに抱きつく。
ばりばりばり〜〜〜〜!!!!
病院の土手ではタンポポの綿毛がその光景を見守っているかのように風に揺られて飛んでいた。
―fin―