あなたに逢えてよかった。

     随分と使い古された言葉だけれど二度と逢えなくなった、今

     本当にそう、思うよ。

     ただ、望むことは唯一つ。

・・・もう一度あの人にあわせてください。

 

 三百六十五日の眠れぬ夜を越えて

  ラムははるか先にあるはずの地球をじっと見ていた。

  『・・・ダーリンはあの時うちの事をつかまえてくれたけど

  誤作動。こんな偶然があってもいいっちゃ?

  記憶喪失装置はとまらずダーリン達からうちらの記憶は・・・。

  うちがしたことだっちゃ。うちがダーリンをためすような真似を

  したからばちがあたっただけだっちゃ。仕方ないことなんだっちゃ。

  ダーリン達は元の生活に戻っただけ・・・だっちゃ。 

・・・こんな事になるなら最初からこんな事するんじゃなかったっちゃ。

ダーリンがうちの事を想ってくれてるなんて普段の態度からわかってたん

じゃないのけ?』

今までの二人の二人の楽しかった場面が走馬灯のように思い出された。

ダーリン・・・。ダーリン・・・。

「ダーリ―ン!!!」

ラムはその場に泣き崩れた。ただ、ただ泣き崩れるだけだった。

それを父は悲痛な思いで見ていた。いつかはふっきれると思っていたが

ラムは365日眠れぬ夜を越してきていた。父としてみているのはもう

限界だった。

「ラム・・・。」傍により頭をなでた。前から言おうと思っていた言葉。

ラムのやせ我慢にあわせていたがもうこんな娘の姿を見ていられなかった。

「ラム。もうそないつらい姿をみてられないんや。実はなあの記憶喪失

装置には大変な秘密があるんや。実はな―――」

 

 

 

―地球−

「おっじょうさあ〜ん。お茶しにいきましょう〜。」

「なによ!あんた。」

(バシッ!)

「しのぶう。俺とやりなおそうぜっ。」

ぎゅっと抱きついてきた。

「なによお!」

(どかっ!)

諸星あたるは相変わらずガールハントを繰り返していた。

ラムのことを忘れたことも忘れたまま・・・。

両ほほに手のひらの後をつけたまま町へとあたるはくり出した。

―おおっ!前から女子高校生発見〜♪―

「ねえーき・・・。」

『ダァーリン!!』

「ええっ?!」

思わずあたるは振り返ったけど後ろには猫一匹いなく、ただ

さっきの女子高校生がそばを通りすぎていっただけだった。

「なんだ・・・?今のは・・・。あっ、竜ちゃ〜ん!俺と・・・」

『ダーリン!いい加減にするっちゃああ!』

(バリバリ!!)

     「うわっ!」

     あたるは思わずその場にしゃがみこんだ。 

     しかし当然のことながらなにかがふってくるわけでもあたるわけ

     でもなく・・・。

     「なに、やってんだあ?」

     「い、いや。別に・・・。」

 

 

     −諸星家―

     珍しく夕飯を残し自分の部屋へと入った。

     いつも自分の机の上にある2つのもの・・・。

     何故かいつも持ち歩いてしまうもの。

     ―これを見るたびにこの胸がしめつけられるような切ない

     気持ちはなんなんだろう・・・?

・・・俺は何か大切なことを忘れてるんじゃないだろうか― 

なぜかその時甘い香りがあたるの部屋に香った気がした。

―夢―

あたるは真っ暗な闇の中にいた。底知れぬ深い漆黒の闇だった。

そんな中向こうのほうに女性が立っているのがかすかにわかった。

暗くてよく見えないがきれいな碧色の長い髪だった。

彼女の表情はよく見えないが悲しそうな表情をして走っていった。

「まっ・・!!」

追いかけようとしたときあの今日ガールハントしていたときの声がした。

『ダーリン。うちの事好きっちゃ?』

「っあ・・・。」

声を出そうとしたが短いうめきとなって闇にすいこまれていった。

―なんだ?何が言いたいんだ。俺は・・・。―

『ダーリンのバカ!!本当にうちのこと忘れてもいいっちゃ?!』

「忘れる・・・」

 

 

「忘れるもんかー!!」

ばっと目覚めるとそこはいつもの自分の部屋であったのだ。

夢だったのだ。

「・・・夢・・・?」

なんだかあの子は俺の一番身近で長い間一緒にいた気がするんだ。

いつのまにかあの例の二つのものが手に握りしめられていた。

 

 

 

―翌朝―

あの後眠れず目の下にくまをつけたあたるはガールハントをする気

にもなれず学校への道を歩いていった。

―さぼっちまうか。―

学級委員らしくない考えが頭をよぎりくるっと振り返った時

女の人にぶつかった。

「す、すいません。」と謝った時その人と目が合った。

二人は「永遠」のような「一瞬」見つめあったのだ。

―すらっとした体つきに長い黒髪―

何故か俺はその髪が不釣合いに思えた

彼女は俺に何かを訴えるような瞳でみてきたようにみえた。

彼女は悲しそうに振りかえり歩いていった。

何故かひきとめなければ。と強く思った。

―なんだ・・・?この気持ち。胸が締め付けられるような、

胸が苦しい。この気持ちは・・・―

「ラッ・・・」彼女はピタリと立ち止まった。

     名前を呼ぼうとする。
 しかし声は出ない。
 心だけが空回っているみたいだ。
 そんな馬鹿な。あいつのことは俺が一番良く知っている。
 世界中の、いや、宇宙中の誰よりも俺が一番知っている。
 ヤキモチやきで嫉妬深くて、短気で単純で、世話焼きでがさつで、そのくせ

妙にこまめで
 俺に心底惚れとる女だ。
 ちょっとのことで怒って、くだらないことで喜ぶ
 俺を振り回しまくる女だ。

しかし名前が出てこない。

知っているはずなのに、一番身近な存在なはずなのに・・・!

「ラッ・・・!」

心は知ってると叫び、

頭は覚えていると叫んでいた。

そんな時ポケットの中に入っていた、例の二つのものに手が触れた。

 

―角だー

「ラムー!!」

あたるはその女性、ラムのところへ走っていった。

「ラム・・・。ラム・・・。」

あたるはラムの細いからだが折れるんじゃないかっていうぐらい抱きしめた。

ぎゅっと。

「ダーリン・・・。思い出してくれたんだっちゃね・・・。」

ラムはようやくあたるの抱擁に答えるようにあたるに手をまわした。

空は青く澄み渡っていた。

 

 

 

―「実はなあの記憶喪失装置にはわいがある仕掛けをしといたんや。

 それは、万が一あれが作動してもムコ殿がラムの名前を思い出したら

 装置は壊れ、元のようになると・・・。

 でもな、これは宇宙法で本人と気づかれないようにきちんと変装して、

 しゃべったらあかんのや。かなりムコ殿が気づく可能性は少ない。

 前例もないそうや。でもな、やってみるか・・・?」―

二人は長い間抱きしめあった。

二人は再びめぐり合った。

三百六十五日の夜をこえて・・・。