近すぎて、

気づかない思いがある。

そんな話はありきたりすぎるよ。

でも、そんな話の主人公になる、

俺は、馬鹿だ。

 

 

君は何処へ行った?~act 1~

 

 

 

月もなんとなく寂しそうに浮かんでいる気がした。

俺は、なんとか電車に乗り込むとほっと息をついた。

―あの海行きって、夜はなかなかないんだよな。―

夜だからか、それとも都心から離れていくからなのか、人はほとんどいなかったので

俺は適当に空いている席に腰掛けた。

なんで、俺がこんな夜中に電車に乗っているのかと言うと

 

話は、数時間前までさかのぼる。

 

 

―友引町―

そう、あれはいつものように高校からの帰り道。

ラムはいつものように俺の後ろからふよふよと飛びながらついてきていて、

・・・で、俺はいつものように・・・。

「おねえさあ〜ん!住所と電話番号教えて〜!」

ダーリン!!いいかげんにするっちゃあ!」

なんて、いつものようにやっていたんだ。

よく考えれば毎日毎日あきないもんだ。あきるつもりはなかったけど。

今から考えれば全部俺が悪いのに、それなのに、

「毎日毎日うるさいやっちゃなあ〜。いいか、俺が女の子に声をかけないってことは

デートとか映画とかしたくないってことじゃ。つまり、こんなにいつも近くにいる

お前にだなあ、声をかけないってことは・・・。」

つい言い過ぎてしまった。そんな事いう気なかったのに、

傷つけるつもりなんてなかったのに。

「・・・本当け?」

ラムはさっきまで全然様子が変わり、その大きく澄んだ瞳からは

今にも涙がこぼれそうだった。

「そっ・・・、そうだっちゃね。うちのこと誘いたくないからまわりの子に声かけるにきまってる

っちゃよねー。」

ラムは泣くのをこらえているのか必死に明るく振舞おうとしていた。

「・・・ラム・・・。」

「今まで、つきまとって、ご・・・ごめんだっちゃ。」

ぺこりと頭をさげた。長い髪で顔は見えないが、

間違いなく泣いていた・・・。

何故なんだ・・・。今までは怒って電撃を出していたじゃないか。

なんでだよ、なんでだよ・・・。

ラムはくるっとふりかえると飛んでいってしまった。

手を伸ばせば届いたのに、

声をかければふりかえったのに、

なぜか俺はそんな簡単なことができず、ただ立ち尽くすだけだった・・・。

 

 

―諸星家―

 

あの後、なんだか俺はすぐに家に向かうことができず、ガールハントなんかする気にもなれず、

適当に暇をつぶしてから家へと帰ってきた。

家の中は・・・誰もいなかった。

もしかしたら俺の部屋には来ているかもという淡い期待を抱きつつ、自分の部屋へと向かった。

いつラムが来てもいいように窓を開けているけれど、誰もいなかった。

ふと見ると、俺の机の上には

        手紙が一通。

見たいと気持ちとどこかで見たくない気持ちが入り混じって、ゆっくりと手紙を見た。

中には、ただ一言。

            辛いの。

俺は自分の足で立っていないような感覚に襲われた。

ああ、地に足が立っていないってこういうことをいうんだなあって。

なんて、そんなのんきなことを考えていた。

今から考えてみると、頭が混乱しすぎていて、

ラムがいなくなったって事を考えたくなくて、

ちゃんと、考えられたのはもう夕方になった頃だった。

 

 

 

 

 

・・・そうだよな。ラムだって我慢にも限界があったってことだ。

ラムは一見美人なんだから、俺なんかよりもっといい奴いるよ。

俺なんかじゃもったいないんだよ・・・。

俺とじゃ幸せになんてなれないんじゃ・・・。

 

 

そう、無理やり考えてみても、胸をしめつける痛みと、

この胸にあいたような想いと、

油断をしたら頬をつたうのではないかと思われるものをださないように、

必死にこらえながら、

ラムに逢いたい。

と叫ぶ心に必死にふたをしながら・・・。

 

ピンポーン

そんな中、家のチャイムがなった。

家には一人っきり。仕方がないので、玄関に向かった。

「しのぶ・・・。」

昔はよく俺の家にきていたが今はめっきりきていなかった、

しのぶがそこにはいた。

「しのぶ〜。まさか、しのぶからきてくれるなんて〜」

いつものくせからか、

悲しみをごまかすためか、いつものように飛びついた。

しかし、しのぶは真顔でこういった。

「あたるくん、ラムになんかしたの?!」

ラムという言葉にどきっとしながらもあえてそ知らぬふりをした。

「知らないよ。」

あまりにも仏頂面でいったからか、明らかになにかありました。といわんばかりの口調だった。

当然しのぶもそれに気づいていた。

「さっきね、ラムがうちに来て、『しのぶ、しのぶはダーリンにいっぱい好きだっていわれてるっちゃよね?』

 って、聞いてきたのよ。で、一応事実じゃない?だから、『まあ。』っていったのよ。そしたらラムが、

 『ダーリンが一番最初に好きって言われたのはどこだっちゃ?うち、そこに行きたいんだっちゃ。』って。」

―俺が最初にしのぶに言ったところ?一体どういうことだ・・・?―