友引町を奪還せよ-act4- ○×県■□市 電話が鳴った。そのアパートの五号室の住人は五年前、チビと呼ばれていた。いまやすっかり大人の身長であり、チビという名は似合わなかった。 「もしもし・・・」 「・・・俺だ・・・、分かるか?」 チビの目は懐かしいからか、少し潤んだ。 「メガネか?どうしたんだよ」 チビの声は子どもの声でなく、大人の声だった。とはいえ、まだ声に懐かしさが感じられる。 「チビ・・・、時が来た」 「え、時って・・・」 なんの時が来たのか、何をするつもりなのかチビには分からなかった。 「とにかく明日、午前七時までに面堂邸の第4門までこい。訳はそこで話す。たしかカクガリが近くにいたな、あいつも連れてこい」 「わ、分かった」 チビは友引町の件についたなにか始める気だと悟った。カクガリはチビと同じガソリンスタンドで働いている。この日はチビは休暇を貰い、カクガリは ガソリンスタンドにいる。チビは急いだ。周りの風景など目に入らず、ただガソリンスタンドへ向かった。 「カクガリー!」 チビは叫び、カクガリはそれに気付く。 「なんだ、チビ。血相変えて・・・」 「よく分からないんだけど・・・メガネが・・・明日、面堂のところに来いって・・・」 チビは荒く息をしながら、カクガリに言った。 「よくわからんが、明日は休みを取るか」 カクガリは簡単にいった。 「ああ・・・」 チビは不安そうに答えた。 「なんか、メガネのしゃべり方、何かとても重要そうな感じだったよ。まさか友引町の事でラムちゃんに何かあったんじゃ・・・」 カクガリはチビをゆっくりと見た。 「まさか、同窓会でもやるんだろ面堂のところで・・・。お前の勘違いだって」 「そ、そうだよな」 チビは無理に笑顔を作り、すこし笑った。カクガリも苦笑いをする。 「ほら、アパートに帰って明日の支度しとけ。おれはまだ仕事があるから」 保護者のようだった。 「じゃ、明日な」 チビは手を振りながらアパートに戻った。カクガリはチビがいなくなるのを確認すると仕事に戻った。 (ラムちゃんにはあたるがついてるんだ。そう簡単に何かあってたまるか) ×○県◆◇市 パソコンのメールの音がした。そのパソコンのカーソルがメールを開くために動く。 「お、コースケからだ。そう言えば、五年とあってねえな。なんのようだ?」 『メガネからの伝言を伝えるから、耳を・・・じゃなくて目をカッ開いて見ろ。明日、面堂邸第4門に九時集合しろ。訳はそこで話す。以上』 「ん〜、何かやるのか?」 パーマはキーボードを打ちやすい位置に置くとゆっくりながらも打ち始めた。 『わかった。』 打ち終えるとパーマは同窓会でもやるのかと思いながら、明日の準備をするために部屋を出た。 面堂邸 第4門警備室 「あたる、いまパーマにメール送った。仕事がなければ、多分見てるはずだ」 コースケは自宅のパソコンを使っていた。 メガネは一度家に帰り、電話番号を確認してから近くの公衆電話でメンバーをかき集めていた。手には小さな電話帳が握られていた。 「つぎは・・・」 電話帳からぱらぱらという音が鳴る。メガネは夢中で電話を掛けた。 公衆電話の外にはしびれを切らした多数の人が木槌を準備していた。 その頃、メールを送り終えたコースケとあたるがコーヒーを飲みながらくつろいでいた。 「なあ、あたる」 二人は正月番組を見ていた。 「ん、なんだ?」 「お前、ラムちゃんが好きなのか・・・」 あたるは下を向いた。 「どうなんだ?」 「・・・」 コースケはコーヒーをとり一口飲むとテレビを見た。テレビではアイドルやらお笑い芸人やらがチャラチャラと番組を進めている。 「やっぱり、答えられないか?」 コースケは答えはもう既に分かっていた。あたるはラムのことが一番好きだと分かっていた。しかし口ではっきりと好きだと言わなければ 二人は進めない、コースケはあたるとラムのために取った行動だった. 「答えなきゃ駄目か?」 あたるの重い口は開いた。 「答えてくれ・・・」 「・・・、やっぱり答えない」 「何でだよ!」 コースケの口調はきつくなった。 「俺はな、ラムにはいまわの際にしか言わないことにしてんだ。つまり死に際だ」 「ごまかすための冗談じゃなかったのか?」 「冗談で言えるか!」 「しかし、んなもん良く忠実に守ってるな?」 「ま、自分でも不思議なんだけどな・・・」 「でも、教えてくれても良いじゃねえか」 「断る!!」 間を全く置かず即答した。 「なんでだよ!」 コースケは胸ぐらと頭をつかんで逃げられないようにした。 「んなもん知るか!」 あたるはコースケの手を離そうとする。 「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ・・・」 張りつめた空気が場を支配していた。そのとき正月番組が臨時ニュースに変わった。 「先ほど警視庁宛に友引町浮遊事件の首謀者と思われる人物からの電話が入りました。内容は人質は十五人とり、他は解放すると言う内容でした。 現在警視庁は解放された人の名前を確認し、人質である十五人の確認を急いでいます。あ、先ほど警視庁から発表がしました。人質は以下の通りです」 あたるは神にすがる思いでラムの無事を願った。頬には無数の汗が垂れていた。 「いない!!」 ニュースの内容にはラムの名前はなかった。あたるの口から安堵の息が漏れた。 「良かった・・・」 あたるの表情はうれしさに満ちていた。コースケはそれを見てささやかな笑みを浮かべた。 「なお、解放された人質は○△病院で手当を受けています」 「○△病院だな!?」 あたるは掛けていた上着を取ると猛烈な勢いで外へ出た。 「お、おい」 コースケもそれに続く。がたん!!玄関で何かにぶつかった。メガネである。 「どうしたコースケ?何かあるのか?」 「ええい、邪魔じゃ!!」 ドアにメガネの顔をたたきつけるとコースケは去っていった。 ○△病院 自動ドアが開いた。そこから二人の男が入ってきた。あたるは中に入っても勢いを止めず、受付に向かった。コースケは歩きながら受付に向かう。 「あ、あの・・・諸星ラムは何号室でしょうか?」 あたるは息を切らせながら訪ねた。コースケは (そうか、ラムちゃんはあたると結婚したから苗字は諸星か・・・。なんか違和感たっぷりだな・・・) とか思った。 「そんな焦らなくても患者さんは逃げませんよ。少しお待ち下さい」 受付員は息を切らせるあたるを見ながら言った。そして少し笑いながらパソコンに体を向けた。 あたるは大きく息をつくと汗を拭いた。 「諸星ラム様は816号室です」 にこやかに言った。あたるはエレベーターの方にまたまた猛烈な勢いで走っていった。 「どうも・・・」 あたるの代わりにコースケが礼を言った。エレベーターは今度の件で見舞いに来る人や安全を確認する人で多いらしく、なかなか下まで降りてこなかった。 あたるは貧乏揺すりをしていた。 「ええい、遅い!!」 そういって横の階段から光のごとく上っていった。 「おい」 コースケも階段を上ろうとした。ふっと上を見るとあたるの姿は跡形もなく無かった。 「は、はやい・・・」 ドカン!!上の方で爆発が起きた。 「あの馬鹿が、勢いつきすぎて止まれなくなったな」 あたるは必死にしがみついた。 「うわ、うわ」 何とかよじ登ると少しよろけながらも816号室を探した。 (816、816、・・・あ、あった) あたるは少し身嗜みを整えてゆっくりとドアを開けた。そのとき炎があたるを襲った。 「お前なんしとんねん!ここ病院やで!ちっとは静かにせんか!!」 テンだった。いまや小学生で、身長もある程度高くなっていた。 ペン!!言葉も返さず、フライパンで吹っ飛ばした。 「なにすねーん!!」 そんな言葉に聞く耳を持たず、ラムを見た。既に気持ちよさそうに寝ていた。 「あの、諸星様で?」 後ろから医者が呼びかけた。 「は、はい」 「ラムさんの体は地球人に近いとはいうものの、宇宙人ですから詳しいことは分かりませんが、おなかの中の赤ちゃんも本人も何事も異常はありませんでした。 一応、安心しても宜しいと思います」 「あ、どうも、ありがとうございます」 あたるはぎこちない返事をした。医者が病室から出ていくとあたるはイスに腰掛けた。 今度はコースケが入ってきた。 「おう、コースケ」 「どうだ、ラムちゃんの容態は?」 「安心してもいいんだと」 「そうか」 そう言うとコースケは 「俺は邪魔だな。久しぶりに夫婦水入らずの時間を過ごしな」 といって、部屋から出ていった。あたるの顔は少し赤めいていた。 「ん・・・」 「あ、ラム・・・」 ラムの目が覚めた。 「あ、ダーリン」 あたるはラムの顔が近いことに気付くと慌てた。 「ずっと、いてくれたっちゃ?」 「今来たところだよ!」 少しきつめの口調だった。その後少し沈黙が続いた。 「でも来てくれただけでも嬉しいっちゃ」 「そ、そうか?」 あたるは軽く頬をかいた。 「ま、無事だから安心だな。今日はゆっくり寝ておけ」 「・・・」 「どうした、ラム?」 「ダーリン、変わっちゃね。前はこんな心配してくれなかったっちゃ。最近になって優しく見えるっちゃ」 「一応今は夫婦だろうが。妻の心配してもおかしくはなかろう」 「そうだっちゃね」 再び沈黙が続いた。 「なんか、不安か?」 何を悟ったか、あたるはラムに聞いた。 「そうじゃないっちゃ、ウチ嬉しいっちゃ」 ラムはあたるを見つめた。あたるは目をそらし、ベットから一歩離れた。 「お前も一応けが人だからな、少しは優しくしてやろうと思ったんだよ」 誰から来ても言い訳にしか過ぎなかった。 「ダーリン、ちょっとお願いがあるっちゃ」 「なんだ?」 「いつか・・・、死ぬ直前でも良いから、・・・好きだっていってほしいっちゃ」 「だから言ったろ。いまわの際に言ってやるって。俺は約束は破らん男だ」 あたるはそっけなく答えた。 「うん・・・」 「じゃ、俺は帰るからな」 あたるはドアを開けた。 「見舞い、ありがとだっちゃ」 「ラム・・・」 「なんだっちゃ?」 「退院するまでにおせち料理の勉強しとけ。退院したら喰いたいから」 「わかったっちゃ」 あたるはドアを閉め、コースケのところに行った。 (約束だ。絶対に帰ってきたやるから・・・) コースケはロビーのイスで座っていた。歩いてくるあたるに気付くと 「あたる、話はもう良いのか?」 と言った。 「ああ・・・」 あたるはロビーにあるテレビに映っている友引町を見た。 「コースケ、もし竜ちゃん達が取り戻せなかったら、俺たちが取り戻すぞ」 「え、ラムちゃんが助かったから良いんじゃないか?」 「友引町はな、俺の実家や友引高校があるんだ。一番ラムとの思い出が多い場所だ」 「あたる・・・。お前やっぱり大人だ」 優しい笑みを浮かべながら言った。 「それから俺はあそこで死ぬ気はないからな。ラムとさっき約束してきた」 「なんて?」 「おせち料理作れって」 十二月三十一日午前八時五十分 面堂邸第4門前 既にあたる、コースケは集合していた。他に何人か来ている。 「久しぶりだな。しかしまさかこんな形で友引町を取り戻すはめになるとはな・・・」 「ああ、でもあそこを取り戻さないと俺たちに里帰り出来るところはなくなる」 そんな会話が続いていた。 あたるは門の前の階段でコーヒーを飲んで寒さをしのいでいた。そんな時間があたるにとって永遠とも感じられた。 九時になった。大晦日とはいえ、まだ静かな朝だった。元二年四組二十一名は全員そろった。本来は二十二人のはずだが、終太郎は含まれていないため二十一人という人数になる。 「全員来てくれたな・・・」 全員静かにうなずいた。 「これより、今後の動きを説明する」 メガネが前に立った。 「本題に入る前に一つお知らせがある。先ほど特武隊の作戦失敗が発表された」 ざわめきが広がるのに一秒もなかった。 「これより我々は友引町奪還作戦を開始する。またラムさんはもう既に助かっている。助かっているから、又は家庭の事情で来られない物は今すぐ帰ってくれ」 動く者はない。メガネは少し涙ぐんだ。 「ではおおまかなを説明する」 涙声で何も言えないと悟ったあたるは代わりに説明した。 「まず、この面堂邸にて戦闘機などの飛行可能な乗り物を奪う。この際、四班に分かれ第一班は侵入がばれた際、面堂邸の本館で騒ぎを起こしてくれ。またこの門から侵入するわけだが、 警備システムの混乱を招くようにするため二人は警備本部、残りの四人は適当に暴れ回る。おとりというわけだ。出来るだけ時間を稼いでくれ。 第二班は武器の奪取。武器倉庫内から空気銃を奪ってきてくれ。出来るだけ多くの者を持ってくるんだ。その後半分に別れ、片方はおとり作戦で捕まった者の救出。 もう片方は戦いに行く第三班の援護し加入。第三班は戦闘に行くため第二班から武器を受け取った後、戦闘機を奪取し友引町に向かう。第四班はここで待機し、第三班が離陸したのを 確認すると捕まった者の救出に向かってくれ。以上だ」 「ではこれより班分けをする」 コースケは一人一人名前を呼び第何班かを発表した。やはり第三班はあたる、コースケ、メガネ、パーマ、チビ、カクガリの六人だった。 それぞれの班長を集め、元学級委員であるあたるが、細かい説明をする。 第三班は侵入がばれた際、トランシーバーで第一班に連絡。妨害電波を流されるおそれがあるので、打ち上げ花火も持参していた。 その間、メガネはしなければならないことがあった。 「良く来てくれた、パーマ、チビ、カクガリ・・・。お前達の今度の作戦の目的はラムさんの思い出を死守するためのものだ。つまりラムさんの為の戦い・・・。 この意味が分かるか・・・」 三人はこくりとうなずく。 「さすがだ。俺はこの五年間、この言葉を言いたかった・・・」 メガネは大きく息を吸うと堂々大声で言った。 「これより我々は、ラム親衛隊を再結成する!!」 「異議なし!!」 ー続ー