友引町を奪還せよ-act5- 十二月三十一日午後六時十三分 面堂廷内  全員は森の中を進んでいた。この先で三つに分かれる予定である。 「進みにくいな・・・」 チビが愚痴をこぼす。 「ええい、つべこべ言わずにさっさと進め。格納庫はまだ先だ」 メガネが一喝する。それでも小声だ。すると先頭を進んでいたコースケが立ち止まった。 「いてて・・・どうした、コースケ?」 コースケの背中にぶつかったあたるが鼻をさすりながら聞いた。 「し、黒メガネだ・・・」 黒メガネが二人、見回りをしていた。 「よし、あいつらを使おう・・・」 あたるの提案である。 「どうするんだ」 「黒メガネ武隊を六人ほど引っ捕らえて第一班に変装される。そうすれば、事を起こすまでバレない・・・」 「そうか・・・メガネ」 コースケはメガネに手招きをした。 「黒メガネの巡回時間分かるか?」 「ああ、警備室のパソコンからデータをかっぱらってきた」 メガネはパソコンから印刷した紙を出した。面堂廷内は広いだけあって、膨大な量だった。 「ここを六人通るには・・・三時間はかかるな・・・」 「三時間も待ってられんぞ。他の場所を当たるしかない・・・」 「そうだな。よし、第三班がする。他の者はここで待機」 あたるとコースケは先ほどの場所から三十メートル離れたところにいた。 「来たぞ」 二人は林に身を潜めた。向こうから二人ほどの黒メガネが歩いてくる。デブとのっぽだ。あたるは木槌を構え、通り過ぎるのを待った。 もうすぐ通り過ぎるというそのときコースケはよろけ、ガサと草のこすれる音がした。 「あ、馬鹿!」 思わず大声で叫んでしまった。あたるはコースケの口を塞いだ。コースケは塞ぐ口が間違っていることに気付かなかった。 「何者だ!!」 ライトが二人の方向をてらす。 「くっ!」 あたるは手で光を遮りながら、素早く出てきて木槌を振り当てた。 「ぐはっ!」 一人は木槌でぶっ倒れたが、もう一人は腰に手を回した。 (マズイ!) ここで拳銃を撃たれたら、その銃声で黒メガネ武隊が殺到し、勝ち目はない。さらにその辺を捜査され、全員がお縄についてしまう可能性があった。 しかしその後ろからコースケが殴った。あたるは暗闇で何も見えず、何が起きたか分からなかった。 「大丈夫か?」 「なんだ、コースケか・・・」 あたるは額の汗をぬぐった。 「さて、早いとこ服を奪って戻ろうぜ」 コースケは上着を取った。 「ああ・・・」 あたるはサングラスを胸ポケットに入れて上着とズボンを肩に掛け、ネクタイを手に持っていた。 「さ、行こうぜ」 するとデブ黒メガネが意識を取り戻しあたるの足をつかんだ。 「な、何をする!」 あたるは手を振り払おうとしたがなかなか離さない。 「それはこっちの台詞だ」 デブ黒メガネは割れたサングラスをはずしあたるを見上げた。 コースケはそーっと後ろに回り込み木槌を振り上げた。 「止めろ・・・、殴れば警報をならすぞ」 もう一人ののっぽ黒メガネ後ろにたっていた。 (しまった、浅かったか!) 警報発信機を手に持っていた。コースケに見せびらかすかのようにし、スイッチをいつでも押せる状態だった。 「あまかったな。さあ、形勢逆転だ・・・」 あたるの足にしがみついていた黒メガネは立ち上がるとぽんぽんと泥を落とし、余裕に笑みを浮かべた。あたるとコースケは腕を頭で組まされ体中を検査された。 「貴様ら、仲間がいるな・・・」 ドキ!そこら中に響きそうな気がした。二人は落ち着け落ち着けと心で何度も繰り返した。しかし冷や汗はどんどん出てくる。 「吐いて貰おうか・・・」 デブが歩み寄ってくる。あたるの心臓の鼓動はさらに速さを増した。 「ウワッ」 デブが石につまずき体勢を崩した。 (今だ!) あたるは体当たりを食らわせようと振り返った。 「あまい!」 デブの体勢は意外にもすぐに立ち直った。 「ふん、あまい」 「そんなにも甘い物が喰いたいのか!」 あたるはあまいあまいと繰り返すデブに言い返した。あくまで強気を張るつもりである。 「だから太るんだ、このデブ!!」 さらに追い打ちを与える。 「な、なんだとー!」 デブの目は怒りでめらめらしていた。 「三段腹をたっぷんたっぷん露出しながら目をめらめら燃やして何が面白い!?」 デブはようやくパンツ一丁でいたことに気がついた。おなかの肉は垂れ下がり、三段にくっきりと別れていた。 デブの胸には光速で飛んできた矢が三本刺さった様な気がした。もはや再起不能である。 「後で有給休暇貰って、カウンセリング受けてこい」 のっぽはデブの方をぽんと叩き、慰めを込めて言った。 「貴様ら良くもデブを!」 「やかましい!」 あたるとコースケは戦闘態勢に入った。二対一ではのっぽには勝ち目はなかった。 「手に縄を縛り付けなかったのが命取りだな。ふふふふふふふ」 もはや怖い。 「往生しろ!!」 二人は飛びかかった。そのとき 「待て!!」 暗闇から声が聞こえた。二人は声の方向を見た。ぐき!首の骨がなった。横を見ながら頭から落ちたためである。 「いてて・・・。誰だ!?」 終太郎だった。後ろにはボディーガードが二人いる。どちらも巨体だ。勝ち目がないことを悟った二人はその場であぐらをかいて両手をあげた。 「なにをしとる?」 「なにって、見つかったし、勝ち目がない。さっさと連れてってくれい」 「何を言っておる。別に捕まえに来たわけではない。折り入って頼みたいことがあるんだ」 あたるとコースケはきょとんとした。終太郎からの頼み事など意外すぎたからだ。 「ど・・・どういう事だ?面堂が頼み事なんて・・・」 「さ、さあ?」 二人は顔を見合わせる。 「本題に入る前に仲間を連れてきてくれ」 「ああ、解った・・・」 あまりにも意外なことに反抗する気力もなかった。 「さあ、連れてきたぞ」 そこら辺に見たことある顔が二十人くらいいた。 「お、お前らこんなに連れてきてのか?」 もはやあきれ顔の怒り顔である。オールバックから髪が何本か垂れ下がった。 「まあいい・・・」 垂れた髪を元に戻すと顔をきりっとさせた。 「実は・・・、お前達に友引町にいって貰いたい」 皆少し驚き顔である。 「・・・と言いたいんだが、全員というわけではない。用意した武具が七人分しかない。そのうち僕も行くから六人分だ」 「え・・・」 後ろにいたボディーガードの冷静な顔が少し崩れた。 「わ、若!」 「僕も友引町に思い出があるのでな。自分自身のためにもあそこに行きたいんだ」 「し、しかし・・・」 終太郎はボディーガードをゆっくりと見た。その目に負けた二人は 「若・・・解りました。親方様には私たちが伝えておきます」 とあきらめた。 「すまない・・・」 終太郎はボディーガードからあたる達に視線を移した。 「どうだ、僕と一緒に戦ってくれるか?」 終太郎は手を差し出した。 「・・・ああ、俺は良いぜ」 コースケは言った。ラム親衛隊もうなずく。 「あたるは?」 皆があたるを見る。あたるは何も言わず、終太郎の前に立った。メガネはごくりと息をのんだ。辺りは静まりかえり、ミミズクの声が聞こえる。 あたるは何も言わず、そして・・・握手した。 「諸星・・・」 「貴様の心意気は認めてやる」 二人は硬く握手した。 「おい面堂」 「なんだ諸星」 「いい加減手を離せ。男に握手させられてもうれしくない」 シャキーン!!刃擦れる音がした。ガシン!あたるは刀を受け止めた。あたる得意の真剣白刃取りである。 「ぐぬぬぬぬぬぬ」 ・・・。 「さて、メンバーだが・・・」 終太郎の前にはあたるをはじめ、コースケ、メガネ、パーマ、チビ、カクガリの姿があった。動きやすく頑丈な戦闘服を着ていて、その上に私服を着ている。 「まあなんというか、読者の予想通りだな」 「何処を向いて喋っとるんだ」 「気にするな、サービスだ」 七人は飛行機の前にいた。塗装は塗られていないらしく、銀色のボディーが輝いていた。 「さあ、行くぞ!」 「ああ!」 階段を上る。カツーンカツーンと少しづつ足音が増えていった。 「若!」 さっきのボディーガードだ。奥平もその右に立っている。その声に気付いた終太郎は前を向いたまま顔だけを振り替えさせた。 「御武運を!」 三人は敬礼した。終太郎は今度は体を振り替えさせて答礼する。また階段を上る音が響き渡った。 さっきの三人の行動を見ていたあたるは終太郎の横に行き、話しかけた。 「成績はともかく、良い部下を持ってるな」 「ああ・・・」 「88式オクトパス『風神』」この飛行機の名前のようだ。英語で書いてあった。 「風神、離陸準備完了。総員待避せよ」 飛行機の中から見ると右へ左へと整備員が行き来していた。 「総員待避終了」 声が響き渡る。 「ドア、オープン!」 巨大な扉が鈍い音を立てて開き始めた。外には綺麗な夜空が広がっており、これから起こる戦いの最後のくつろぎを誰かが与えてくれたようだった。 「エンジン点火!」 その声と同時に風神の羽と後ろから大きなエンジン音が聞こえてきた。飛行機内部にもその音が聞こえ、わずかな振動が感じられた。 「もう戻れないぞ」 座席の一番前にいる終太郎が後ろを向きながら言った。 「ああ、解っている」 メガネは目を一度閉じ、しばらくしてからそう答えた。終太郎は他の五人にも聞こうと見渡したが、皆同じ答えが返ってくると終太郎は解った。 「発進!!」 友引町下水道内 ハッチが開いた。その振動で砂ぼこりが落ちる。ぞろぞろと終太郎、あたる、コースケ、メガネ、パーマ、チビ、カクガリの順で七人が出てきた。 勇姿が現れていた・・・と言うわけではないようである。 「なんだ、あの乗りごごちの悪さは・・・」 終太郎を除いた六人が口に手を当て苦しがっていた。 「ったく、なんだその様は・・・。これでは戦いに行けないではないか」 「お前は平気なのか?」 あたるは壁によっかっている状態だった。顔は血の気が引いており、青ざめていた。 「慣れだ」 「そうじゃない」 「じゃあ、なんだ?」 「・・・ここはどこだ?」 「どこって・・・下水道だが・・・」 終太郎は辺りを見渡した。すると何かに気付いた様子を見せた。七人は特武隊が侵入する時と同じ場所に降り立っていた。 飛行機は途中風にあおられ、何とか予定の穴から入り込むことは出来たが、かなり奥の方に不時着してしまったのである。周りはしんとしていて、小声でも響き渡っていた。 また奥の方と言うことで結構暗い。 「あたる!面堂を取り押さえろ、気付かれたくない!」 メガネは死にそうな声であたるに叫んだ。あたるは何も答えず、面堂を押し倒して口を塞いだ。 「わ〜、暗いよ〜!怖いよ〜!」 本人は絶叫したつもりだが、あたるの手によってそこまで響き渡らなかった。 「お前は明るいところに行くまで寝てろ!」 バキ!!コースケは木槌を顔面に向かって振り落とした。顔には丸い赤々とした跡が残った。 「よし、第一関門突破!」 いつの間にか回復している。回復力ならあたるや終太郎に劣らない五人である。カクガリが面堂を肩に掛ける状態で運んでいった。七人の姿は闇に消えていった。 どれくらい歩いたのか、あたるは何事もない事に少しいらだちを感じていた。 「ええい、まだか、まだ予定のマンホールまで来んのか!」 「ここだ」 すてーん!!コースケは上を指した。少し光が漏れている。時々瞬間的に光が消えた。上を誰かが通っているようである。 「ここなら面堂を起こしても良いだろう。起きろ面堂!」 カクガリは面堂を肩からおろすとほっぺたを軽く叩いた。 「う、・・・ここは・・・?」 「予定のマンホールの下だ。少し明るいからお前も大丈夫だろ」 「ああ・・・」 面堂は起きあがり、周りを見渡した。七人がいる位置は広かった。後ろには大きな穴がありそこから少し水が垂れていた。 「よし、これより戦闘開始だ。二手に分かれ、それぞれ友引高校に向かう。いいな?」 面堂家の人口衛生によると敵はビルの中から友引高校に拠点を移したという情報が手に入った。このマンホールは二手に分かれても学校とはほぼ同等の距離である。 「このマンホールを出たら俺とコースケと面堂は商店街側から向う。ラム親衛隊は下友引駅から向かってくれ、いいな」 「わかった」 全員うなずく。 「それから最後に・・・」 あたるが口を開いてそのまま言葉が続かなかった。水の垂れる音が場を支配する。 「死ぬなよ」 「・・・」 「それじゃ行くぞ」 あたるは返事も聞かずにはしごを上り始めた。面堂、コースケ、親衛隊も続く。あたるはマンホールを少し開けて外の様子をうかがった 何人かうろつき回っているが、警備というわけでは無そうである。出るタイミングを見計らった。 そのとき急にもの凄く重い力がマンホールにのしかかった。あたるの腕は耐えきれず、マンホールは閉まった。がちゃーんと言う音が下水道内に響き渡った。 「どうした?」 あたるは右腕をぶんぶんと上下に振って、痛みをやらわげようとした。 「戦車だ。戦車が通りかかっていった」 あたるはマンホールを再び開け、隙間からのぞき込んだ。戦車が曲がり終わるのを見ると 「今だ」 と言って、あたる、コースケ、終太郎はそそくさと外に出て、店の陰に隠れた。残りの四人はまだマンホール内だ。 あたるは見つかっていないことを確認すると店の裏路地へ入っていった。 「この町の地理はあいつらより数段理解している。出来るだけ裏路地を通って学校に行くぞ」 うなずくコースケ、終太郎。表通りに敵の姿があった。その内の一人が、あたる達の視線の中で止まった。 向こうから見える位置にいたあたる達はゴミ袋の陰に隠れ、どこかに行くのを待った。しかし予想に反して敵はこちら側に歩いてきた。 (マズイ!) 「何処か逃げ道はないか!」 コースケは後ろ、上、を確認したがそんな物は何処にもない。 「だめだ!」 「ちっ。ここへ来てすぐにピンチか・・・」 銃を使うのも無理だった。空気銃とはいえ、音はでかい。三人ともそのことは理解していた。少しずつ近寄ってくる。その足音が近づくたびに、あたるの頬から汗が一粒落ちた。 「うりゃ!」 終太郎は突然に斬りかかった。敵はそれに気づきよろめく。ドビュっと刀が空を切った。しかしわざとか偶然かはずれた。 「今だ!殴れ!」 敵は首に掛けてある笛をとった。口元に持っていったところで 「させるか!」 と、終太郎は笛を切った。と、同時にあたるは後ろから首に手を回し、グキ!と気絶させた。ばたっと膝をついて倒れた。 「ふう、」 一息ついたそのときだった。 「誰だ!?」 たまたま裏路地を通っていった敵が後ろから現れた。ぴー!!笛の音が鳴り響く。 「くっ!」 終太郎は納めたばかりの刀を抜くと 「でやー!」 と言って飛び上がった。すると敵は腰に手を回した。銃を撃つつもりだ。それ気付いたあたるは思わず、腰にぶら下げてある空気銃を取るなり撃ってしまった。 ドーン!敵に何とか命中したもののこれで気付かれるは必定である。 「こ、これで気付かれたな・・・」 「すまない・・・」 「いや、お前は僕を助けてくれた。謝る必要は何処にもない」 終太郎は刀をさやに収めた。そのとき通信機がなった。 「わっ、わっ」 通信機を持っていた終太郎は妙に慌てた。通信機は終太郎の手を右に左に飛び、なかなかとられることはなかった。 「ええい、早くでんか!」 そう言って、コースケが飛び交う通信機をタイミングを取って取り上げた。 「もしもし」 「ああ、おれだ」 「なんだ、メガネか。どうした?」 「今銃声が聞こえてきてな。恐らくあたるがぶっ放したんだろうが、これではマズイ。一度戻ってこい。態勢を立て直す」 「解った」 コースケは通信機を切った。 「一度戻って来いって」 「そうだな、そうした方がいい」 「だがどうする?表通りは敵でいっぱいのようだ」 表通りを指さしたあたるが言った。確かに表通りは緊迫した空気が流れていて、いま突撃せんとしている状態のようだ。 「馬鹿者。あそこのマンホールから入る必要はない。ここに一つあるだろ」 終太郎はあたるの真下にあるマンホールを指さした。 「突撃ー!!」 「マズイ!早く中に!!」 コースケ、終太郎が中に飛び込んだ。しかし一人足りない。 「諸星、早くしろ!!」 あたるは何故か飛び込もうとしない。 「面堂!先に帰っててくれ。俺は一人で行く。メガネ達に合流したらすぐに応援を頼む」 「何を言っておるのだ!」 「俺が友引高校までの安全な道を探すから、お前達は片づけが終わったら、道案内をしてやる。この方が確実というわけだ」 「だったら僕も行く」 終太郎は穴の中からよいしょという感じで、出てきた。 「なんでだよ」 「お前にはラムさんのところに帰らなければならないという使命があるからな。僕が友引高校まで貴様を守り通してみせる」 「だが、お前が死んでしまったら面堂財閥は・・・」 「なーに、了子が頑張ってくれるさ」 終太郎は空を見ながら、答えた。高いところにいるからなのか、光がないのかいつも見ている星空よりも数倍綺麗である。 「でも、家族や黒メガネ達だってお前が死んで欲しくないんじゃないか?」 「だったら貴様に守って貰おう。守り守られと言うわけだ」 「・・・解った。不本意ではあるがしかたあるまい。コースケ頼んだぞ」 コースケは静かにうなずく。 「いたぞー!!」 敵の内一人がこちらを指さしている。そして大群が現れた。 「意外と早かったな。じゃあな、コースケ!」 「健闘を祈る!」 マンホールがしまりその上を敵軍が駆け抜けていった。どうやらマンホールのは気付かなかったらしい。 (死ぬなよ、あたる、面堂!) コースケははしごを下りていき、メガネの元に向かった。 コースケの目にメガネを含めた四人の姿が見えた。 「来たか・・・。ん、あたると面堂はそうした?」 「あいつらは、友引高校に向かった。安全な道を探してきてくれるそうだ」 「そうか」 メガネはどこから持ってきたのかパイプ椅子に腰掛けていた。横にはスタンドもある。 「コースケ、嬉しい知らせがあるぞ。出てこい」 メガネは右側にある穴を指さし、暗闇から二十人近くの人盛りが現れた。全員見たことのある顔だ。 「お前ら四組の・・・どうしてここに・・・」 「先ほど面堂邸の方から連絡が入ってな。武装抜きで良いから来させてくれとこいつらからの要望が出たそうで、今し方到着した。学校に正面からつっこんでやる」 「だが、あたる達は・・・」 「あいつらは今頃、八百屋の野菜の蔭にでも隠れていて、身動きがとれない状況にいるにきまっとる」 「見失ったぞ!」 「探せー!」 あたる終太郎は八百屋の野菜の蔭に隠れていた。 「いったか・・・」 「その様だ」 「これでは身動きがとれないではないか」 あたるはトマトを取ると丸かじりにした。少し赤い汁があごを垂れる。 「下友引駅戦闘隊。準備完了」 「仏滅高校前バス停見回り無し。指示を乞う」 無線からいろいろな声が聞こえる。 「仏滅高校前バス停班、では友引商店街北入り口方面の援助に回れ」 「了解」 「立ち食いソバ屋マッハ拳から友引商店街南側出口突入隊。戦闘準備完了」 「後は公園の戦闘部隊の連絡を待つだけか・・・」 「こちら公園武隊準備完了」 これを聞いたメガネは立ち上がり、 「ではこれより友引町奪還作戦を開始する。各部隊悔いを残さぬよう全力を尽くし、勝利を信じろ。我々は勝つ。ではこれより作戦の説明をする。 まず、敵の見張り部隊の主力がいる武藏友引駅、立ち食いソバ屋マッハ拳から友引商店街南側出口の通り、公園の三つで同時に奇襲を掛ける。 その作戦開始と同時に北入り口隊は友引高校へ向かい出来るだけ学校内の戦力を外に絞り出して、そこからここ、司令本部のマンホールへ敵を連れてきてくれ。 ここには地雷を仕掛けてある。スイッチが司令室内にあるから、それを使って再起不能に陥れろ。戦闘が終了した班は援軍に備え、元のは位置に戻れ。 我々はあたる達を救出しそのまま学校に向かう。以上だ」 「了解!」 四つのグループからいっせいに返事が来て、それを聞いたメガネは深呼吸した。 「ではこれより三分後に作戦を開始する。それまで皆気持ちを落ち着けてくれ」 メガネは通信機を机に置くと椅子に座り、足を組んだ。 「皆緊張しているからな、少しは休憩を取らねば・・・」 「そうだな・・・」 司令室は静まりかえった。メガネは目を閉じ、心を落ち着け、神経を集中させた。水の音も大きく聞こえる。腕時計の針が刻一刻と過ぎていく。 「時間だ」 メガネは目をカッと開き、通信機を手に取った。 「メガネだ。先ほども言ったが、悔いの残らない戦いをしてくれ。ではこれより作戦開始を宣言する・・・」 「突撃ー!!」 下友引駅、マッハ拳から学校までの通り、商店街南入り口からいっせいに騒ぎ声が発生した。 八百屋 「なんだあの音は?」 あたるがこの声に気付いた。耳をすませている状態でやっと聞こえる。 「どうした?」 終太郎の耳には聞こえてなかった。 「何か、騒ぎ声が・・・」 「そうか?」 終太郎は耳を澄ませた。かすかに騒ぎ声が聞こえ、目を細めた。何処か懐かしいような響きである。 「これは・・・四組の連中じゃないか・・・」 「まさか、来てくれたのか。戦闘服もないのに・・・」 あたるは目を手の甲でぬぐった。 「行くぞ、面堂!」 「ああ」 だっと通りに出ると早速敵に見つかった。正確には敵のど真ん中に出てしまったのだ。有に十三人はいる。 「しまった!」 「馬鹿か貴様ら・・・」 じわじわと壁に追いつめられた。あたるは木槌を手に持ち、終太郎は刀を抜いた。が、所詮、二対十三。勝ち目はほとんど無い。 「ワァー!!」 二人はこれまでか!と思い目をぎゅっと閉じた。しかしなかなか痛みは感じない。 そーっと目を開けるとそこにはラム親衛隊とその他三人がバットや鍬などを振り下ろした状態で立っていた。 「メ、メガネ・・・。来るのが早かったな」 「ふ、どうせここで敵に見つかってるんじゃないかと思ってな。それで来てみれば案の定・・・」 「ああ、助かったよ・・・」 終太郎が珍しくメガネに礼を言った。これも又時の流れが為すことだとメガネは思った。 「では行くぞ。あたる、面堂!もはや安全な道など探している暇はない。正面から突っ込むぞ」 「おう」 メガネは友引高校の方を見た。建物の蔭に隠れて全体は見ることは出来ないが、時計塔は見える。友引高校のシンボルと言うべき存在であろう。 商店街に風が吹き、ポリバケツが倒れた。その瞬間、 「突撃ー!」 メガネの雄叫びが響いた。 「うりゃー!!」 いっせいに走り出す。道に落ちていた新聞紙がくしゃくしゃと踏まれていった。脇道には猫が怯えている。 「このまま商店街を突っ切って右に曲がれば友引高校だ!」 「おー!」 そのとき脇道に待ち伏せをしていたのか敵軍が現れた。人数は圧倒的には敵が多い。 「ちっ、早速待ち伏せか!?射撃用意!」 親衛隊は銃を取り出し、引き金に手を掛けた。チビが撃つ構えをしたが 「まだだ。もっと近づけてからだ。弾数を大事にしろ」 と言ってチビの銃を手で抑えた。 「何をいっとる。空気銃だから弾数は無制限だ」 終太郎が横から口出しするかのように言った。 「・・・撃てー!!」 何処か恥ずかしさがある声だった。強大な空気の塊がメガネの横を飛んでいた。 「うわー!」 「ぐは!」 吹っ飛んだり、気絶したりして、優勢に見えた。しかし所詮は多勢に無勢。よって、 「このやろー!調子に乗るんじゃねえぞ!!」 一人が立ち止まり銃撃してくる。それに連動するかのようにどんどん銃弾の数は増えていった。 「どけ!お前ら!」 先頭を走っていた三人の前に割って出るとメガネとコースケはそのまま全弾を体で受け止めた。着弾時の爆発で煙がそこら辺を覆い尽くした。 「馬鹿め!自ら受け止めるとは!」 「メガネー!!コースケー!!」 敵は実弾を使っている。まともに当たれば死は免れない。しかしパーマ、カクガリ、チビは心配する様子はない。 煙が晴れると、がに股で立ちすくんでいる人の蔭が目に入った。口元には笑みが見える。 あたると終太郎ははっとした表情で立ちすくんだ。 「ははははははは!私がこれしきで倒れると思ってたのか!!ラムさんのためならなんの障害も覆してくれるわ!!」 煙の中からメガネの奇声が聞こえる。あたるは呆然としていた。 「どうなってんだ?」 「服の下にあの戦闘服を着てるんだよ」 事実に気付いた終太郎が横からひょいっとでてきてあたるに説明した。それを聞いたあたるは腕を組んで陰険な顔をした。 「なにがラムへの想いだ、ったく」 メガネは腰にある物を取りだした。何やら輪っかがついている。そのある物から輪っかを口で取り外すとぽいっと投げた。落ちてきたある物を見た敵軍は驚いた。 「しゅ、手榴弾だ!」 猛烈な勢いで前進していた敵軍は車のブレーキのような音を立て、我先にと後退した。そして、いきなり静かな商店街になった。 「ふ、馬鹿め!これは手榴弾ではない。ただのおもちゃだ」 メガネは手榴弾のおもちゃを拾い、腰に引っかけた。 「行くぞ、あたる、面堂!」 「あ、ああ・・・」 あたると終太郎はおもちゃ一つで敵を一掃したメガネに感心していた。最終決戦の時は近い。 ー続ー