友引町を奪還せよ-act6- 友引高校正門前 何度壊れても次の日には何事もなかったかのように治っている不気味な学校である。あたる達は電柱やゴミ置き場の陰に隠れて、動く時を待った。 「お前達はここで待機し、俺たちが人質を連れてきたら保護しておけ」 ゴミ置き場の蔭にいるメガネはその他三人に言った。 「解った」 今度は電柱の蔭にいるあたると終太郎の方を見た。目が合うと軽くうなずき、向こうもまたうなずく。 メガネは手で行くぞと言うような合図をして慎重な足取りで正門に向かった。高校はしんとしていて中は電気がついている。 もうすぐ正月になろうというのに騒ぎがないのは何か違和感を感じた。 「パーマ、カクガリ、チビ。お前達はこの周辺の見張りをしてくれ。何かあったらトランシーバーで連絡しろ、わかったな?」 「了解!」 「散れ!」 三人はあらゆる方向に散った。四人は塀に身を潜め、静かに会話した。 「後は俺たち四人だけで戦うか・・・。覚悟は良いな?」 「当然」 「いま、友引高校内には別の班ができるだけ戦闘員を排除してくれていて、学校内には敵の幹部のみいると思われる。後は友引町を元に戻し、人質を助け出すだけだ・・・」 「では行くぞ」 そのとき高校内から放送のチャイムが鳴った。 「諸星他三名の諸君。私はこの事件の首謀者のものだ。以後宜しく。我々の目的は日本政府に身の安全の保証と最低限度の生活を求めている。 もちろん認めて貰った場合はその後悪さをするつもりはない。我々がもし母星の警察に捕まれば良くて懲役20年、悪くて無期懲役だ。そこで日本政府に頼み込むわけだが、 犯罪者の安全保障や生活を認めるはずがないと思ってな。このような行動を取らせて貰った。人質は殺さないつもりだが、政府の行動によっては殺しかねない。 しかしそれではそれであなた方に不利だ。そこで我々の用意した四人の戦いのプロとあなた方をこの学校内で勝負させ、先に四人全滅した方が負け。 我々が負けた場合は、素直に母星に戻り、刑を全うし、人質も無傷で帰すことも約束する。あなた方が負けた場合はこの町から出ていって貰う。 さらに長の娘であるラム様を連れてきて貰おう。ちなみに人質を盾にするような姑息なまねはしない。思う存分戦ってくれ。以上だ。何か質問は?」 「ない!」 猛々しい声で返事をする。 「では健闘を祈る・・・」 「健闘を祈るか・・・。やってやろうじゃねえか」 コースケはやる気満々である。右手で左手のひらをぱしっと殴った。 「だが、負ければラムさんがまた取られてしまう。気は抜けんぞ」 終太郎は深刻な声だ。刀をかちっとならした。 「ラムさんを守るためだ。死んだって勝ってやる」 メガネはずれた眼鏡をくいっとあげた。 「どっちにしろ、戦わねばならんのだ。いまさらなにをいっとる」 あたるの話した方向はメガネ達だが、視線は友引高校を見ていた。学校のシンボルと言うべき時計は十一時三十分を回っていた。 「行くぞ」 あたるは早足で昇降口へ向かった。そのうしろから三人がそそくさと早歩きでついてきた。ドアの前に来ると 「開けるぞ。戦闘準備だ」 と、あたる、コースケ、終太郎、メガネは腰にぶら下げてある空気銃を取りだし、安全装置をはずして発砲の準備をした。ぎぎぎぎと古そうな音が校舎内を広がる。 「じゃあ、一階を俺とコースケ、二階をメガネと面堂をそれぞれ頼む。落ち合う場所は二年四組の教室で・・・」 メガネと終太郎は目の前の階段を上っていった。 あたるとコースケは廊下を右の方に歩いていった。友引高校は見た目以上に広く複雑な形になっている。敵と遭遇するのは困難である。 「まずは職員室をあたってみるか」 二人は銃をいつでも撃てる体勢で慎重に歩いていた。出動したのは夜で今はもう真夜中である。町からは当然光はなく、文字どおり暗黒街ではあるが 校舎内は電気がついていいるため、多少は心強いが、それでもついているのは一部だけで歩いている内に又暗闇に入った。 あたるの持っている銃口は前を、コースケの銃口は後ろを向いていた。しばらく歩いてみたが、なかなか敵とは遭遇しない。 「ここだ」 あたる達の目線は職員室とかかれた札を向いている。あたるはそっとスライド式のドアを開けて、開いたドアからコースケが銃を向ける。 何もないことを確認すると銃を下げて電気を付けた。がたっと音がした。 「誰だ!?」 懐中電灯をその音の方に向けるとそこにいたのは、元担任の温泉マークであった。 「何をしとるんだ、お前」 「ん〜、ん〜」 温泉マークは口をガムテープで塞がれていて喋ることは出来なかった。何か焦っている様子だ。 「言いたいことがあるならはっきり言え!」 そんなことを言われてもどうしようもない。そのときあたるには殺気が感じられた。明らかに自分たちを狙っている、そう本能で読みとった。 「避けろ!」 コースケを押し飛ばしてあたるはさっと避けた。その瞬間、あたる達の立っていたところに青い光が飛んできて爆発した。 あたるは見届けるまもなく振り返り、瞬時に発砲した。空気の塊は教頭の机に命中し、変形させた。 「さすが諸星あたる、戦い慣れはしているようだな」 二人の男が教頭の机に上に降りてきた。二人とも若く、一人は目つきが悪く、もう一人は細い目をしていた。目つきの悪い方はセイ、細目の方はファマと名乗った。 「だが我々の敵ではない!」 そう言うとセイはジャンプして、警棒のようなものを取り出した。シャキンと音がした。 「やかましい!」 あたるは銃を構え、二、三発ほど撃ったが、セイは空中で紙一重でかわした。 「無駄だ!」 かわされた空気の塊は、窓ガラスを割り虚空の彼方に消えた。地面に落ちたガラスの破片は聞こえなかった。聞く暇など無いからである。 「このやろ!」 あたるは木槌を取り出し、つっこんだ。セイの警棒と木槌は激しくぶつかり合った。 「貴様、その木槌どこから出した!?」 最初は誰でも思う質問である。二人の武器はかたかたと震える音がした。 「あたる!」 コースケは加勢に走ったが、 「私を忘れては困る!」 とファマが飛んできた。手には金槌が握られていて、黒くくすんだ光を出していた。 体はほっそりとしていて、それほど腕力があるようには見えないが、振り下ろされた金槌は予想以上の破壊力を見せた。飛んできた木の破片がコースケの 頬に傷を付けた。 「わわわ・・・。」 何とか避けたもののバランスを崩した。負けじとバランスを崩しながらも銃を撃ったが、ねらいの定まらない弾は避ける必要もなくどこかに飛んでいった。電灯や机に命中し 電灯は光を失いながら、ガラスをパラパラと落とし、机は書類らしき紙やらが舞い散った。 「何処を狙っている?」 ファマはもう一度金槌を持ち直し、飛ぼうとした、その瞬間、 「うわー!」 セイの叫び声だった。コースケの放った弾が偶然にもセイに命中したのだ。がたたと床に倒れ込んだ。床でもがきながら、椅子を蹴り飛ばしていった。 「セイ!!」 ファマの叫びからは悲痛が感じられた。 「とどめだ!」 あたるはこれを逃す必要はないと一気に何発も、何十発も撃った。銃声が絶え間なく校舎内に鳴り響いた。 床にはあたるの発砲によって出来た穴が点々と開いていた。その穴からは煙も出ている。 「やったか?」 煙が晴れるとそこにはセイの姿はなかった。いつの間にかファマも消えている。 「逃げられたか・・・」 あたるは銃を腰に引っかけると 「で、温泉マーク、何でお前が此処にいるんだ?」 「ん〜、ん〜」 だから温泉マークにはどうしようもない。コースケは温泉マークの口に貼り付けてあるガムテープをびりびりと取った。 「もう少し優しく取れんのか?ったく」 温泉マークのしなびた口元にはガムテープの後がくっきりと残っていた。あたるは木槌を振り上げ、 「なんだその態度は?それが助けて貰った人への言葉か?」 「すまん、すまん!ありがとう!本当にありがとう!」 誠意がこもっていないのは明らかだった。だがこれ以上時間を無駄には出来ない二人は、話を進めた。 「貴様は確か人質にはされてなかったはずだが・・・」 「この状況を見てわからんのか!明らかに人質だ!」 「うそをいうな!ニュースには『温泉マーク』の名前はなかったぞ!」 「馬鹿者!ワシの本名は温泉マークではない!ワシの本名は・・・」 温泉マークが本名を名乗る前にあたるは殴り捨てた。温泉マークの本名は結局卒業しても闇の中である。 「とにかく、温泉マークを外の三人に預けよう。追うのはその後だ」 友引高校二階 終太郎、メガネは理科室の前を通りかかった。メガネの持っている懐中電灯の光は進んでも何も代わり映えのない廊下を照らしていた。 「面堂、銃声が聞こえたが、あたる達はもう敵と遭遇したようだな」 「ああ、我々もそろそろ遭遇かもしれんな。気を抜くな」 「言われんでもわかっとる」 終太郎はどんな気配も逃さぬほど神経をとがらせていたが、有ることがふと頭をよぎった。 「奴らは、我々が勝ったとして、本当に彼らはこの友引町を放棄するのだろうか?」 「どういう事だ?」 メガネは前を向いたまま聞いた。 「わざわざこのように莫大なエネルギーを使ってまで占拠した友引町をたやすく手放すのもどうかと思ってな。この巨大な友引町をそれも長時間 浮かせるほどのエネルギーなどそう簡単に手に入れられるものじゃない。この作戦のために莫大な費用や時間、もしかしたら犠牲が出てもおかしくないはずだ。 それに奴らは鬼星では泣く子も黙るほど有名な犯罪組織だ。宇宙中に張り巡らされた検問を通り向けるのも何かと面倒な事であろう。 そんな苦労を無駄にさせないためにも、奴らはこの作戦を成功させなければならないはずだ。それをこんなまねまでさせて・・・。 いくら戦いのプロでも万が一という事も考えないはずはない。何か意味があるはずだ。なにか・・・」 「もしくは、この事件の首謀者が冷酷極まりないと言うことも考えられんか。ただの娯楽のためにこの事件を起こしたとすれば・・・。 そうだとすれば、部下の苦労をどぶに捨てるような行為をとってもおかしくはない」 「いや、この友引町に張り巡らされた警備隊は何の迷いもなく戦っていた。司令官の無茶苦茶な命令の動揺を無理に隠そうとしても 何らかの迷いや不安が微妙に見えてくる。それがないと言うことはぼくたちが此処で戦うことを、敵は皆知っていることになる。 言い換えれば友引高校での戦闘はあらかじめ仕組まれていたと言うことだ」 「だが、我々をここで戦わせたところで奴らに何の利益がある?」 メガネのレンズに終太郎の顔が写った。 「それはわからん。問題は我々が勝った方が彼らに都合がいいのか、それとも負けた方が都合がいいのか・・・。 これがわからん事には我々も勝つべきか負けるべきか選択できない」 「なるほど・・・」 メガネはおよそ考えもつかない終太郎の意見に考え込んだ。メガネ達は首謀者と名乗る男のしゃべり方から嘘を付いているような感じはしなかった。 つまり本当に正々堂々と戦おうとする意志が伺えたのである。 たたたたた・・・。 階段を駆け足で上る音と廊下を走る音がした。長年通っていた友引高校内での足音が何処のものか識別できるようになっていた。 「この足音は・・・あたる達か?敵にでも追われているのか?」 そう言って懐中電灯を切り、床においた。 「敵かもしれん。油断するな」 終太郎の手には例の愛刀が握られていた。意識しないと自然と刀を取ってしまうようである。 「でや〜!」 敵の姿を確認するまでもなく、終太郎は抜刀し、シャキンと振り切った。無駄のない音が校舎に響き渡った。 「避けられたか・・・。メガネ!後ろ気を付けろ!」 「まだ敵味方わからん状況でむやみに攻撃を加えるな!」 メガネは終太郎の愚かさをついた。さっきは予想もしないことをそれらしく喋った終太郎を少し感心していた事を恥じた。 「敵だ!諸星なら、これくらい、真剣白刃取りで防いでしまう男だ!」 「コースケだったらどうするつもりだ、大馬鹿者!」 「そんなことより気を付けろ!気配が消えた!」 何かをごまかすように言った。しかし確かに気配が消えていた。このことで敵だと言うことが解った。 (さすが、戦いのプロだ。全く気配がない!) メガネの額や頬にはわずかながら汗が出ていた。二人はせわしなく辺りを見渡した。 「無駄だ・・・。我々から気配を読みとることなど不可能だ!」 声はどことなく老けているように感じられた。 (この声はかなり老けているな・・・。四十代後半から五十代前半と言ったところか・・・) 格闘のプロで老人と言えば、常に自分から攻撃は仕掛けず、相手の攻撃を無駄のない動きでをうち負かすと相場は決まっていた。 「この老いぼれがー!!」 メガネは早速乱発した。四方八方へ空気の塊が飛んでいく。 「ば、馬鹿!味方のことも考えろ!!」 終太郎は頭の上に手を乗せて、床に伏せた。乱発によって砕けた天井や窓ガラスの破片が絶え間なく割れていった。その破片が終太郎を襲った。 「ええい、やめんか!!」 と終太郎はメガネに対して刀を振り下ろした。 メガネはさっとかわした。避けても引き金は話さず、上を向いている銃は天井の同じ場所に集中していた。そのうち天井を貫いて、二階の天井を砕き始めた。 「危ないではないか!」 メガネは開き直ったかのように罵声を飛ばした。 「こっちの台詞だ!!」 今だ発射し続けるメガネの腕を抑えると返した。 「常に刀を持っている貴様ほどではないわ〜!!」 「なんだと、ぐたぐたと何でもかんでも力説する貴様程ではない!!」 「#&%$+*?’&!!」 「・・・・・・・・・!!」 そのうち口げんかの速度は速さを増し、周りはおろか、自分たちでさえ何を言っているのかも解らない状況だった。ただこういう事を言っているつもりだと言う程度である。 しびれを切らした例の老いぼれはすたっと嵐の横に降り立った。 「君たち、私のことを忘れてはいないかね?」 「#$%&*+%#!=!!」 罵声の嵐に他人の声など聞こえるはずはない。老いぼれの頭に血管が見え始めた。 「貴様達の負けと言うことで良いな。後はあの二人を片付ければラム様は我々のものだ」 怒りを無理矢理押し殺して余裕を見せようとする声である。その言葉を口にした瞬間、罵声の嵐は台風の目にでも入ったかのようにぴたりとやんだ。 「な、何ですと〜!?貴様らごときにラムさんを〜!?」 メガネは息切れしたかのような声を出し、ゆっくりと手を腰に回した。 その手を見た老いぼれはやっと構えてもらえる子どものようなうれしさに満ちあふれた。 とたん、メガネは何の躊躇もなく老いぼれの腹に連続発射した。一瞬の出来事であった。その場に倒れ込んだ老いぼれの腹から煙が出ていた。 肋骨は全部折れていて当然の状態である。 「いくぞ、面堂・・・」 先ほどの嵐が嘘のような仲直り様だった。ふと有ることにメガネは気付いた。歩きを止め、再び銃を手に取った。 「どうした、メガネ?」 振り向き様にメガネに訪ねた。 「良く思い出せ。最初聞こえてきた足音は二人だったぞ」 メガネは後ろを警戒していた。それを聞いた終太郎は何も答えずに抜刀の体制に入った。メガネはわずかな気配を察すると床においていた懐中電灯を その方向に向けると、そこには一人の若者がもう一人の若者を背負った状態で立ちすくんでいた。見ただけで敵と悟った。負ぶさっている方はひどく きつい表情である。 「なんだ貴様らは!そうか敵だな?なら死ね!」 一方的に喋った後、またしても一瞬の出来事は起こった。 校門前 「じゃ、温泉マークを頼んだぞ」 地面に口をハンカチでふさがれ、縄で首基から足首まで隙間無くぐるぐる巻きにされた温泉がいた。 「取りあえず、メガネ達に連絡するか」 あたるは右と左のポケットを探り、トランシーバーを探した。どのポケットに入れたか解らなくなっていた。しかし何度探してもトランシーバーの手触りはない。 「あれ?何処いきおった?」 「トランシーバーは俺が預かることにしてるだろ・・・」 コースケの手にトランシーバーは存在した。 「にゃははは・・・」 と苦い笑いをしながらトランシーバーを手に取った。チャンネルをメガネ達のトランシーバーに合わせてから、あーあーと簡単なマイクテストをすませた。 「こちら、諸星、白井。温泉マークを救助。我々が戦った現在校舎の一階にいると思われる。内一人は重傷」 トランシーバーからのノイズが消えるとメガネの声が聞こえてきた。 「こちら、メガネ、面堂。重傷の敵らしき人物を背負った二人組を先ほど撃破。二人とも若く、一人は細目、一人は目つき悪し。確認を乞う」 この言葉を聞いたあたるはコースケに目線を写した。コースケもうなずく。 「こちら諸星、白井。その二人に間違いないと思われる。残りは一人のため一度集合したいと思う。例の場所へ集合せよ」 「ラジャー」 会話が終わると 「ほれ、コースケ」 と言って、無謀にもトランシーバーを上投げで渡した。スピードのついたトランシーバーはコースケの手をはじき、地面に落ちた。 「馬鹿野郎!もう少しまともなことができんのか!」 そう怒声を飛ばした後、不機嫌そうにトランシーバーを取った。 友引高校二階 「二年四組の教室って何処だったっけ?」 いきなりあたるがとんでもない発言をした。あれから十五分くらい歩いているが、二年四組の教室は見つからない。 つまりコースケもまた、解っていないのである。 「おかしいな。隅から隅まで探したんだが・・・」 「・・・やられたな」 あたるはそうつぶやいた。コースケはあまりにも唐突な発言に何を聞けばいいか解らなかった。 「次元をいじられた。どこかにたどり着くまでここから出られんようだな」 「何処だよ?」 「俺が知るか!」 二人は廊下を永遠と歩いた。理科室や家庭科室などの特別教室を一つ一つ調べ上げたが、何一つ変化はなかった。 「う〜ん、ここまで何一つ無いと行動に困るもんだ」 二人はどこかの教室の椅子に座り込んでいた。そこの教室の窓ガラスはガムテープが貼ってあり、また壁にはへっこみや大きなひび割れが 点々と見えた。どうやらここの教室の生徒はに二年四組の生徒同様毎日乱闘騒ぎをしているようだ。 「取りあえず、ここにいることを知らせとこうか」 しかしコースケが取り出したトランシーバーは通信不能に陥っていた。さっきコースケが落とした際、壊れたようである。 ますます行動がしにくくなった。そのときがらっと言う音が静かな教室に鳴り響いた。 「よ〜、あたるちゃん!元気にしてたか!!」 と、およそ似合わない声を上げながら入ってきたのはメガネだった。 「なんだ、お前達も迷っていたのか」 後ろから終太郎もひょこりと顔を出した。 「しかし良くここにいるってわかったな?」 コースケが感心しながら聞いた。よ〜、あたるちゃん!!と、ここにいるのが解っていたかのようなメガネの行動にから出た質問だった。 「教室に入るたびに同じ事を繰り返していたよ」 メガネは得意げに喋ろうとした瞬間、終太郎がうち消すように口出しした。喋ろうとしたメガネの口は開いたままふさがらないままである。 「さて、どうした物やら・・・」 四人はあたるを囲むような配置でこれからの行動を考えていた。 「なにをいっている、もう集合したんだから四組に行く必要はなかろう」 考え込む雰囲気をうち破るかのような発言を終太郎がした。 「そうか・・・」 「何を考え込んとんのだ、君達は!!」 終太郎の顔は思わずアップになった。まともな会話が一行に進まない状況下で突然放送がなった。 「諸君。後一人な訳だが、その残りの一人というのは私だ。私はこれでも第三次銀河東部戦争で敵の本拠地をたった四人で攻め込み、 そして勝利した。今までの三人もその中に入っていたわけだ。わけあって母国の星を拒否し、今はこのように犯罪者生活を送っている。 さて、唐突ではあるが、今から時計塔まで来て貰う。そこで最終決戦をしようではないか・・・正々堂々と戦おうじゃないか」 「なにをいっとる、四人対一人ではお前に勝ち目は無かろうに・・・」 あたるはスピーカーめがけて喋った。するとその返事をするかのように続けた。 「ちなみに私は四人相手でも負ける気はない。いくら高校のとき、乱闘騒ぎを繰り返していたと言っても専門的な技術はない。 長年軍で戦闘訓練をしてきた私の相手じゃないよ。来ればその実力が解るはずだ。では時計塔で・・・」 放送が終わって即、ぷっつん!と言う音がした。その音の主はメガネであった。 「ぬわんだと〜!!我々が負けるだ〜!?」 三人の頭に血が上る前にメガネは教室を出ていった。三人は怒るに怒れず、一応メガネの後を追った。 「ぬわ〜にが戦いのプロだ!こっちは高校三年間絶えず戦ってきたんだ!!型どおりにはまった戦いなど男の汗と涙に水を差す様なものだ! 男の戦いとは本能と己が鍛え上げた勘で戦ってこそ本物といえるのだ!それがなんだ!?専門の技術だと!?その様なもの己の才能を縮め、 さらに個性のない戦いになるではないか!!!専門技術など人間の力を信用しない奴のすることだ!!だいたい・・・(以下省略)」 さんざん言い終わった後、ちょうど時計塔にたどり着いた。しかし気がついてみるとあたる達の姿はなかった。 (また次元をいじられたか・・・) 「ったく、あの馬鹿が!何も考えずに急いでどうする?」 あたる達は少しがに股の状態でメガネの愚かさを口々に言った。三人とも歩調を同じくして綺麗な三角形を作っていた。 「うぎゃああああ!!」 三人の歩きは止まった。この声は間違いなくメガネのものだったからである。 「メガネ!!」 あたるは思わず走り出した。しかし終太郎はあたるの眼前に飛び出し、両手を広げ走り去るのをくい止めた。 「どけ!面堂!」 手を終太郎の肩を掴み、どけようとした。終太郎はその手を振り払い、 「諸星!メガネの事は解るが、お前まで倒れてどうする!」 「メガネをほっとけるか!」 そう言って今度は体当たりを食らわせて、強引に進もうとした。それでも終太郎は苦しそうな顔をしながらもそれを阻止した。 「大丈夫だ!あいつもそう簡単には死なない!」 声には息苦しさが感じられた。それを見たあたるはカッとなった頭を落ち着け、その場の勢いを止めた。 「だが・・・」 「ラムさんとの約束はどうした!?生きて帰るんじゃなかったのか!?」 「・・・」 「いいか、諸星。お前は我々がどんな目にあっても生き残れ。目の前で危険な目に遭っていても見捨てろ!いいな!?」 痛みが少し和らいだのか、いつものはつらつとした言い方に戻っていた。 面堂財閥の次期頭首であることを忘れ、ただラムのために、悲しませないために言った。しかしその言葉を聞いたあたるは低い声で終太郎に言った。 「馬鹿か?自分が今置かれている状況を解ってるのか。貴様も面堂家の次期頭首として生き残る義務がある。ラムばっかりの為に 命を捨てるだと?うぬぼれるのもいい加減にしろ。あの三人がどんな気持ちで貴様を見送ったか解ってるのか」 終太郎はここでやっと自分が面堂財閥の次期頭首と言うことを思い出した。特に出撃時のガードマン二人と奥平の事がさらに強く思い出された。 「いいか、お前が死のうと勝手だが、周りのことも考えて行動しろ。それができんようでは頭首として失格だ」 終太郎が説得するはずだったが、いつの間にかあたるが説得する側に回っていた。 「良いだろう。だがお前も・・・、解っているな?」 「当たり前だ。行くぞコースケ」 しかしあたるが向いた方向には倒れた人影がぽつんと存在しただけであった。 「コースケ!!」 あたるはかけより様に倒れているコースケの両肩に手を掴み、揺すぶった。息はしていたが、苦しそうな顔をしながら目を閉じたままだ。 「あたる・・・」 コースケのわずかな声があたるの耳に聞こえた。 「すまねえがお前ら二人だけで言ってきてくれ。俺はもう戦える状態じゃない。自力で脱出するから」 そう言って傷ついた体を足で支えながら、きわめてゆっくりとしたスピードで歩き始めた。 「コースケ・・・」 二人が見送る中コースケは廊下の闇の中に消えていった。あたるの拳は強く握られていた。 時計塔 「何処だ!?出てこい!!正々堂々と戦おうとかいっときながら二人を不意打ちしやがって!!」 時計塔の小さな窓からわずかな光が漏れていた。夜が明けて日差しが中に入ってきたのである。しかしそんなことも忘れ、 抑えきれない怒りを声に変えてあらゆる方向に飛ばした。それでも怒りは収まろうはずもない。 「そう慌てなくても出てきますよ・・・」 どこから出てきたのか、あたる達の後ろに立っていた。そいつを見た終太郎はショックを受けた。 「お、奥平!?」 その男は奥平だった。しかしいつものきまじめな顔は変わらない。 「な、なぜ・・・、お前がここに・・・」 「解りませんか、若。私がこの事件の首謀者なんですよ。私は元々鬼星の人間だったんです。この事件のために面堂邸に入り込み、 地球の最新鋭の情報網と科学力を使わせて貰いました。そのおかげで無事友引町を占拠できました。感謝します」 「貴様!何故二人を不意打ちにした!?」 あたるは二人の会話の間に入り込んだ。 「不意打ちとは聞き捨てなりませんね。あれはあの二人が私と遭遇した際、向こうから襲ってきたのですよ。私は待った方がいいと 言ったのですが、聞いてはくれませんでしたから、仕方なく」 「なにが仕方なくだ!この野郎!!」 あたるは銃口を奥平に向けた。しかし奥平は臆せず、一つの提案をした。 「ここは最終決戦の場にしては小さすぎる。そこでこれを履いてください」 そう言って一つの靴を二足、あたる達の前に放り投げた。 「これは何だ!?」 あたるは声を低くして聞いた。 「これは空中に浮くことの出来る靴です。我々が独自に開発しました。まだ名前は決まっていませんが・・・」 「どういう事だ?」 「空で戦おうと言ってるんです。空なら障害物も邪魔するものは何もない」 「・・・良かろう」 友引町上空 あたると終太郎は器用に浮いていた。 「すこしルールを変更したいと思います。既に人質は解放していますので、私が負けた際は、この友引町を元の形に修復し、その後、刑を全うしましょう。 私が勝った場合は変わりません。では、行きますよ!」 奥平はドーンと言う音と共に文字通り目にもとまらぬ速さで突進した。あたる達は紙一重で避けたが、衝撃波が二人を襲った。 「うわ!!」 わずかながらあたるの目には青白く光る棒のようなものが見えた。 (電磁警棒!!) 慌てたあたるはとっさに終太郎の刀を抜き、電磁敬慕に備えた。 「何をする!?返せ!!」 終太郎はあたるの手首を掴み、取り返そうとしていた。 「状況を話している場合ではない!とにかく貸せ!」 「何を言うか!貴様に刀など使えるか!」 「やかましい!」 荒そう二人を見た奥平は早速勝利を確信したが、口元は笑っていなかった。そればかりか少し心配そうな顔である。 その表情とは裏腹にスピードを上げ、あたる達の目の前で止まり、警棒を振り上げた。 あたるはかまうもんか!といわんばかりに終太郎の手ごと刀を切り上げ、同時に奥平も振り下ろした。 バチバチと音を立てて、二つの武器は拮抗した。 「ぐぬぬぬぬ・・・」 拮抗する武器を見た終太郎は取り返そうとする手をゆるめ、銃口を奥平に向けた。 ドン!と言う音はしたが、銃口の先には奥平はいなかった。その方向の先でバンと看板が凹んだ。 「どこ行きやがった!?」 辺りを見回すがいない。終太郎はもやの中から太陽が出るのが解った。正月である。 そのときその太陽の中から人影が見えた。 「諸星!奴は太陽の中だ!」 「そうか、逆光を利用してたのか!」 あたるは太陽に向かって、見えない敵に発砲した。光から出てきた奥平を今度は終太郎が撃った。 しかしそれもかわした奥平はまたしても高速移動してきた。今度はジグザグに動いて銃のねらいを定まらせないようにし、 だんだんとあたる達に近づいてくる。 「こしゃくな!」 終太郎は刀に手を伸ばそうとしたが、本来あるはずの刀は無い。 「こら、諸星!僕の愛刀をかえせ!」 「ほら!」 少しいらだった声で刀を放り投げた。しかし刀はブーメランのように回転し、とても柄を握れるものではなかった。 「ば、ばか!!」 刀は終太郎の髪をわずかながら切り裂き、そのまま奥平の方へ飛んでいった。 「ねらい通り!」 「嘘を付くな!」 しかし奥平は回転する刀の柄をいとも簡単に取って見せた。 「はい、若・・・」 そう言って刀をやり投げのように投げたが、その速さはとても取れるものではない。 終太郎は万事休すを思い、目を閉じた。しかし刀は見事にさやに収まり、二人は驚きのあまり、反撃する気力を失った。 (こいつ、大口を叩くだけのことはある・・・) あたるは二対一なら楽勝で勝てると言う考えを捨てなければならなかった。 ○△病院 816号室 「大変やああ!!」 そう言って壁に激突したのはテンであった。 「どうしたっちゃ、テンちゃん」 テンは壁から頭を抜くとすさまじい顔で 「あ、あたるのアホが友引町に行ってねん!いまテレビでやっとったんをみたんや!」 「そう・・・」 ラムの反応は意外にも落ち着いたものだった。ラムは友引町を見ると子どもを慰めるかのように言った。 「大丈夫だっちゃ、ダーリンは必ずかえってくるっちゃよ・・・」 「で、でも・・・」 「ダーリンは帰ってきてからウチのおせち料理食べるっちゃ」 そういうとラムは手に持っていた料理の本に目を移した。普通のおせち料理が、美味しそうに並んでいた。 しかしラムは手をふるわせながら、本を逆さに読んでいた。 (ラムちゃん・・・。あたる、帰ってこんと許さへんで・・・。夫としての義務を全うするんや・・・) テンは子どもながらも夫としての義務というものを理解してるつもりだった。一つはちゃんと働いて家計を支えること、 二つ目は浮気をしないこと、そして三つ目は仕事から妻の元へ無事帰ってくること。 これはテンがラムとあたるが結婚する前日、あたるに約束したものでもあった。一つ目はそうするつもりと答え、二つ目は努力はしようと答え、 三つ目は当然と答えた。テンはそのときの約束を信じ、あたるの無事を願った。 ラムの付けていたテレビは正月番組が放送されていた。 再び友引町上空 あたると終太郎は奥平を挟み撃ちにしながら、あたるは木槌で、終太郎は刀で攻撃していた。 それでも奥平はもろともせず、全て受け止めていた。 (この野郎!全部受け止めやがって!ならば・・・) 「どけ!面堂!!」 あたるは木槌による攻撃を止め、すこし後退してから銃を発射した。終太郎はあわててその場から離脱した。 「無駄ですよ・・・」 そう言ってさっ、と避けた。 「今だ!面堂!!」 奥平は終太郎の事を一瞬忘れていた。振り向いたときにはもう終太郎は刀を振り上げていた。 「くっ!」 それも紙一重でかわしたが、バランスは崩れた。それに追い打ちを掛けるようにあたるはまたしても発砲した。 それもかわそうとしたが、三発目を避けたところで四発目が肩をかすめ、五発目以降、全弾、体に直撃した。 「うっ・・・」 奥平は腹を抱えながら、少しずつ降下していった。ゆっくりと落ち、そして友引高校の屋根に着陸した。 二人もそっと降りていき、奥平に注意しながら歩み寄った。奥平はゆっくりと目を開き二人を見ると苦しい表情をしながらかすり声で喋った。 「若、そして若様、私の負けです」 二人は何故かあたるのことを若様と呼ぶ奥平に疑問を抱いた。 「なぜ、俺が『若様』なんだ?」 「私は・・・、軍人と言いましたが・・・、それは嘘なんです。今は犯罪者ですが、・・・六年前まで、ラム様の家で雇われていたんです」 この発言にあたるは終太郎よりも驚きいたが、ショックは受けなかった。高いところにいるからなのか強い風が吹き、あたるの髪をゆらしていた。 「私は庭師だったんですが・・・、ラム様は良く手伝いに来られて、そのうちその魅力に引かれていきました・・・」 あたるは今までのラムに惚れた男とは違うと確信した。どちらかというと自分自身に似ているそう思った。 「それが、五年前、ラム様が地球侵略の勝負のためあなた様に負け、そのまま惚れていった。私は正直貴方を恨みました。 嫉妬に近いものでした。浮気癖で何度もラム様を泣かすような事ばかりして・・・」 あたるは高校時代の自分を少し反省した。 「でもラム様は貴方を諦めなかった。その思いを受け止め、私はラム様を諦めた。そんなある日、一緒に登校しているにもかかわらず、 さらわれたことがあった。(完結編より)私はこう思いました。本当にこの人に任せて良いのかと・・・。そこでこの計画を立てました。 任せても大丈夫な強さなら、このまま帰り、駄目であれば強引でも連れて帰ると・・・。どっちにしろ我々は追いつめられており 捕まるのは目に見えていました。どうせならラム様のためにする事をして捕まろうと思い、大金をはたいてこの作戦を実行しました。 私の部下達は犯罪者ではある物のいい人ばかりで、この作戦に笑って受け入れてくれました」 先ほどの風は強さ一つ変えず、あたるの髪を揺らし続けていた。 「一つ聞かせてくれないか?」 ずっと口を閉じたままだった終太郎が久しぶりに口を開いた。 「この友引町を浮かせるためのエネルギー体がどこかにあるはずだが、それはどこだ?」 「この学校の二年四組の教室です。もう次元操作はしてませんからそのまま行けます」 終太郎は何も言わず、屋上を降りていった。終太郎が降りていくのを確認した後、あたるも口を開いた。階段を下りる音があたるの耳にも聞こえた。 「俺からも一つ。どうして途中ラムを解放した?」 「当初は監禁し続ける予定でした。一応丁重におもてなししましたが、彼女の寂しげな顔は消えませんでした。 そこでここでの記憶を消し、下へ解放したというわけです。私が先ほどの勝負で勝ったら、どのような顔をしても 我慢し、連れて行くつもりでした」 「・・・」 あたるはもし負けていたらどうなっていたかおよそ考えもつかなかった。だだ、ラムとの約束を守るために、そう考えて戦っていた。 「でも貴方は変わる必要はありません」 ラムのために浮気や頑固な性格を止めようとしていたのを解っていたように感じられた。 「ラム様はあなたに変わって欲しいと願っている。でも心の、本人でも解らないところでは今のままでいて欲しいと思っているはずです」 「そ、そうか・・・」 あたるは少し照れ隠しが入っていた。 「そうですよ・・・。さて私の仕事は終わりました。すいませんが右ポケットの通信機をとってください」 あたるは奥平の体に負担を掛けないように慎重に取り出した。取り出した通信機を右手に置き、握らせると口元まで持っていった。 「私だ。作戦は終了。若様にラム様を任せても良いと判断する。今までご苦労。逃げたいものは学校の裏庭にあるUFOを使ってくれ。以上だ」 通信機からは返答はなかった。だが、その先に部下がいることは奥平には解った。 あたるは友引町を見回した。この戦いによって商店街、家々が壊れ、それでもやはり友引町はあたるにとって古里以外の何者でもなかった。 ー続ー