二年目の決戦 「ウチちょっと先に帰るっちゃ」 ラムは帰る準備をしながらあたるに言った。 「なんだ、エスケープか?」 机にうつぶせに眠っていたあたるは寝ぼけながら答えた。 「何言ってるっちゃ、大事な用事だっちゃよ」 ラムは軽くあたるの頭を殴った。あたるは叩かれた頭を撫でながらゆっくりと立ち上がると 「じゃあ、俺も連れて行け。お前一人じゃ心配だ」 と、きざったらしい声でラムの両肩に手を置いた。 「え・・・」 二年四組に未だかつて無い衝撃が襲った。さらわれたのならともかく、ただの用事で、あたるがラムの心配などしたことがなかった。こういう台 詞はどこから見ても仲のいいカップルの男側が言う台詞である。従ってあたるが言うなどと面堂が女性抜きで暗いところを恐れないのと同じくら いの意外な物なのだ。 「なにぃぃ!?あたるが!!?」 真っ先に言葉にしたのはメガネである。そして、 「あたるくんがラムちゃんを・・・」 「天変地異だ」 「夢でも見てるのか?」 「こりゃあ、明日は雪が降るぞ」 「冬服出さないと・・・」 「明日は厚着してこよっと」 「その前に110番だ!」 と連動して悲鳴が広がった。あたるは現実逃避をしたくなった。 「ええい!やかましい!!」 あたるは怒りをぶちまけたが、衝撃波は一行に治まらなかった。ラムは自分を心配してくれたあたるに抱きつきたかったが、あたるはすぐさま囲 まれ、ラムは疎外感を感じていた。 「どうした、あたる!熱でもあるのか!」 「頭でもぶつけたか?」 「お前本物か?」 「たこ焼き食うか?」 「電撃の食らいすぎじゃねえか?」 「いやいや、きっと女の子に殴られすぎたんだよ」 「やかましいぃ!!」 あたるの叫びに周りを囲っていた生徒は吹っ飛んだ。そしてあたるは机に上に立つとまたもやきざったらしい声で 「俺はな、愛に目覚めたのさ・・・」 と薄笑いを浮かべた。ラムの目はときめいた。何のために机に上がったのか誰にもわからなかった。 (いや、そんなはずはない!何か裏がある、何か!!) 全員が全員同じ事を一言一句違わずに思った。いくら非現実的な日常を送っていても、この事態は超非常事態である。哲学者でも理解不能な事柄 を高校生程度の頭脳でわかろうはずもなかった。 「お前、心配とかいってエスケープする気だろ?」 コースケがそっけなく言った。 「鋭い・・・さすが親友だ」 ラムはときめいた目を点目にかえ、一瞬でもあたるが生まれ変わったと思ったことを激しく後悔した。 そして、頭脳をフル回転させていたメガネ、面堂、その他大勢は『え?』と声にならない声を出し、そのままフリーズを起こした。瞬きどころか 呼吸、血液の流れまでが止まっていた。目は再起動を要請していた。 十分後 保健室 「ああ、死ぬかと思った・・・」 二十人近い男子生徒がぜえぜえと息切れをしていた。 「まったく、瞬き一つせず、呼吸を止めて、さらに血液の流れまで止まるなど常識では考えられんぞ」 非常識な連中であることはサクラもわかっていたが、この事態には正直驚いたようである。 「ところであたるは?」 パーマは回復が早いのか、いずれしなければならない質問をいち早くした。 「諸星ならラムに運ばれながらとっくに帰ったぞ。まだ一時間目だというのに・・・」 「逃したか・・・」 男子生徒は悔し涙を流した。 翌日 昼休み 今日のあたるは元気が無く悩んでいると言った感じだった。 「は〜・・・」 と溜息を吐きそのたびに窓の外を見る。 「あたる・・・。説明して貰おうか・・・」 メガネがいつもの三人を連れて周りを囲った。 「何を・・・」 元気のない返事である。 「貴様、何故ラムさんを使ってエスケープした?」 「別に・・・」 机にひじをつき手の上に頭を乗せて、まるで話す気がない。 「ふざけるな!」 メガネはあたるの胸ぐらを掴み、無理矢理立ち上がらせた。 「貴様がエスケープするときは、ラムさんを使わずにいつも自分一人で逃げていたではないか!よしんばラムさんと一緒でもラムさんを使って逃 げるなど何か裏があるとしか思えん!」 「さすがメガネだな・・・。だが、この件に関わらんほうがいいぞ。これは友達としての忠告だ」 「ラムさんが危ないのか?まさか用事って命に関わる事じゃないだろうな・・・」 「いや、ラムは関係ない。あいつは親戚の結婚式にいっとる」 とあたるが言ったとたん、あたるを支えていた力がなくなり、あたるは椅子にしりもちをついた。 「なら良い・・・」 あたるが気付いたときにはメガネは背を向けていた。いてて、と尻をさすりながら目線をメガネからコースケに写した。 「コースケ・・・ちょっと・・・」 「変な気起こすんじゃねえぞ」 振り返えり様に嫌そうな顔をしていた。 「アホか!!」 二人は窓際に来るとあたるはひそひそ話でコースケにあることを伝えた。これを見たメガネはラムが関わっていないと思ったが、非常に気になっ た。 「何!?本当かそれ!?」 コースケの驚きに満ちた声が響いた。慌ててあたるがコースケの口を塞ぐ。コースケは気を落ち着かせ、あたるの手をどかせるとまたひそひそ 話で話した。 「それ、しのぶにも言った方がいいんじゃねえか?」 「・・・そうだな。しのぶちょっと・・・」 女子達と何かぺちゃくちゃ話していたしのぶにあたるは招き猫のように手を動かした。しのぶは友達に何か断ったよな素振りを見せるとあたる達 の所に早歩きで来た。 「なに?」 「実は・・・」 これもまたひそひそ話である。 「え・・・。それホントなの?」 「ああ・・・。最近よく学校帰りに見かけるんだ、あいつらを・・・。もしかしたら、二年前の決着を付けようとしてるんじゃないかって思った んだが・・・」 「だから昨日はあんなに早く、それも空から・・・」 「恐らくあいつらのねらいはあたるを行動不能にする事ではないかと・・・。あいつらにとってあたるが一番驚異的な存在だからな。決戦前に始 末しようとかんがえてるんだろう」 「厳重な注意が必要ね・・・。他の仲間にも連絡しておきましょ」 「そうだな・・・」 メガネは三人が教室から出ていくのを確認すると親衛隊に招集を掛けた。 「どうしたんだ、メガネ?」 弁当を食っていたのかパーマの口元にはご飯粒がついていた。 「妙だと思わんか?」 「なにが?」 「あたるとコースケとしのぶだ。三人でひそひそ話をしたかと思うと今度は教室を出ていきやがった」 「そう言えば何か深刻な顔してたな・・・」 ドアの近くの座席であるチビが口を開いた。 「う〜ん、いったいこの友引高校に何が起ころうとしてるんだ?」 張りつめた空気がその場を流れた。 「何か共通点はない物か・・・」 メガネはぼそっとこんな言葉を口にした。それが決定打だった。 「そう言えば・・・あいつら・・・。六輝中学出身だ・・・」 「六輝中学って、あの・・・」 六輝中学は友引高校の学区にある中学校である。学力的には中であるが、生徒の活気が異常なほど高く、常に何かと先生と対立を起こし、毎日の ように合戦が行われていた。 「しかし、六輝中学出身だからなんだというんだ?」 「さあ・・・」 またしても沈黙が続いた。 「お、あたるが帰ってきた」 あたるがコースケとしのぶを後ろに入ってきた。あたる達の空気は尋常ではなく、四組の視線の的であった。三人はまたしても窓際に集合し、何 か相談のような形で話し始めた。 「おい、あたる!」 メガネは強引に割り込みあたるの目の前に仁王立ちで立っていた。 「なんだ?」 「此処にいるのは全員六輝中学出身のようだが・・・」 どきっと言う音がその場に鳴り響いた。メガネは後ろの二人を見ると、二人は視線を逸らした。 (しっぽをつかんだ・・・) さらに真相を追求すべく、メガネは質問を加えた。 「六輝中学は確か毎日のように合戦があったようだが・・・」 あたるの頬から汗が一粒流れ落ちた。 「説明して貰おうか」 しばらく力んだ顔をし、そして意を決したかのように肩の力を抜き口を開いた。 「よかろう・・・。いずれわかることだ」 あたるは一言いって窓を開けた。そしておおまかに景色を見ると外を見たまま続けた。 「六輝中学の合戦は生徒と教師の対立だと言うことは知っているな?」 「ああ、この学校と変わらんそうだな」 「そうだ。だが、俺たちの学年は違った」 外を見ながらうなずいた。 「どういう事だ?」 そして振り返り、視線を誰にも合わせず下を見ながら静かに続けた。あたるの話によると事の発端はの体育祭だった。その年の一年生は負けず嫌 いがそろっており、特にクラス対抗リレーは互いにライバル意識が激しかった。そして本番、戦いは熾烈を極めた。だが、無情にも一組から六組 まで同時にテープを切るはめになり、写真判定でも見分けはつきにくく同率首位と言うことになったが、生徒は黙っているはずが無く、本番終了 後激しい討論が繰り広げられた。それが原因で一組から六組は男女問わず激しく対立。廊下ですれ違うたびに火花が散っていた。そこで教師は一 年生だけ三年間クラス替えをしない事に決定した。だが、それでもその対立は毎日の合戦に至った。いつも放課後にグラウンド行われ、ルールは 学級委員を先に倒した方が、勝ちと言うものだ。だが、全クラス勝ち数負け数引き分け数全て同じだった。そこで二年に進級したあたる達四組は 、少しでも放課後の合戦に有利にすべくある作戦を立てた。 「作戦だと?平面なグラウンドに作戦などいるのか?」 「いや、普段の生活で精神的に追いつめることだ・・・」 あたるの眼球がくいっとメガネの方向へ変わった。 「精神的?」 「ああ、昼休み、食堂のオバチャンに紛れて、敵がやってきたら、ビューティーフーズ十粒、下剤大盛り、ダイナマイト、生きたままのピラニア etc・・・。とにかく何でも入れ込んでやった。特に学級委員が来たら二倍にしてな・・・」 「過激なことするなぁ〜」 メガネ達は驚くと同時に関心もした。 「そのおかげで二年生は圧倒的に俺たちが勝利したわけだが、三年になってこのことに気付いた三組が生徒会に訴えた。そのことが原因で一週間 の合戦は四組だけ禁止。 一位を誇っていた四組はあっという間に追いつかれた。幸い夏休みで三年の合戦は受験のため禁止され、勝負はつかずじまいというわけだ」 「だが、その話が何で今になって問題になってるんだ?」 あたるの話を聞き終えたパーマが口を開いた。 「外を見てみな・・・」 あたるは窓の外の校門を指さした。なんだなんだと四人は窓の外を押し合いへし合いでのぞき込むとそこには何人もわたる他の学校の生徒がにら み合いながら見張るような形で立っていた。 「あれは・・・、赤口商業に仏滅学園、先勝大学付属に、先負工業、大安学院までいるじゃねえか!」 メガネは制服を見ただけでどこの生徒か言い当てた。 「どうしてあいつらがここに?」 再び視線をあたるに戻した。 「六輝中学は高校で対立を起こさせないため、一組は赤口商業、二組は仏滅学園、三組は先勝大学付属、四組は友引高校、五組は先負工業、六組 は大安学院に行かせた。だから今の二年の六輝中学出身は四組の連中しかいない。ちなみにあいつらも六輝中出身だ」 あたるは窓の外の連中を見下ろしながら低く喋った。すると今度はコースケがバトンを渡されたかのように次いでいった。 「あいつらは毎日、あたるがエスケープするのを知ってるからな。エスケープしてきたところを狙ってたたきのめすつもり何だろう。だから昨日 はラムちゃんに空から連れ出して貰ったんだ」 「なるほど・・・。だが、なんだって今になってたたきのめしに来たんだ?」 「・・・。ウチの校長がこのことを聞いたらしくて、この六学校校長主催の合戦大会が行われることになったんだ。 だが、俺が何をするかわからんから早めに手を打っておこうというのがあいつらのねらいだ」 「そうか・・・。で、合戦上はどこだ?」 あたるは一度目を閉じ、振り返ると 「面堂邸だ」 と、静かにそして重く言った。 「明日、行われることになっている。選手は、今日の放課後、校長が発表する予定だ。二年の中から強制でな。ただ、優勝した場合は選手に願い 事を何でも叶えてくれるとのことだ」 「なら出るべきだな」 メガネは即答で答えた。メガネの表情ににやつきが見えた。 (なんでもということは、ラムさんを・・・) 言わずとも何を考えているか一目瞭然だった。それを見たあたるは目を細めた。 (おおかたラムをもらおうとでも考えてんだろうが、そうはいくか・・・) んでもって翌日 そこにはいつものメンバーとその他大勢、計二百人がずらりと並んでいた。横には先勝大学付属と先負工業の選手が同じく二百人並んでいる。 列の前の方では六輝中出身の人間がそれぞれ火花を散らしていたが、後方では握手したり、男子生徒がモーションを掛けていたりと、緊迫感に欠 けている様子が見受けられた。前のテントでは校長らがお茶について激しく討論をしていたようだが、いつの間にか消えていた。 「これで説明を終わります」 合戦場提供者である面堂がルール説明をしていたようだが、それは無意味であった。 ルールは各学校ごとに同じの城が用意され、時間無制限に行われる。食料は面堂家から毎日支給され、また夜七時から朝の十一時まで合戦は禁止 されている。そのため選手は食べ物と夜の心配をする必要はない。武器は原則何でも有りだが、ミサイルや核爆弾、地雷等の強すぎる武器、また 既に仕掛けられている物、その他却下された物は不可であった。 「それでは最後に・・・」 面堂が落ち着いた口調で何か言おうとしていた。 「なぜ僕がこの試合に出なければならんのかねぇ!?僕は常に満たされているのだ!貴様ら凡人の大会など高みの見物をする立場なのだよ!」 面堂はマイクを掴み少し前に乗り出し、崩れた顔で叫んだ。 「やかましい!貴様も友引高校の生徒ならちゃんと出場しろ!」 友引高校の列から罵声がいくつも飛んできた。紙コップや座布団、ポリバケツ、タコなどが面堂の元へ飛んできては当たったり、他の人間にまで 被害を及ぼしていた。 「うるさ〜い!」 面堂はさらに前へ乗り出し、喉を痛めるのではないかと言うぐらい叫んだ。そのときが〜んと言う音と共に面堂の視界は消えて無くなった。真っ 暗闇であることに気付いた面堂はおなじみの叫びである 「暗いよ〜!怖いよ〜!」 を連発した。原因はあたるがかぶせた鐘である。友引高校以外の生徒は、友引高校への警戒心を薄くした。この絶叫を聞けば誰でもそう思うはず である。そんなこともほっといて、あたるは鐘の上に座り、鐘の中に向かって偉そうに言った。 「おい、面堂。割ろうとしても無駄だぞ。これはお前んとこの超合金で出来ているからな。もし大会に出るのなら鐘をどけてやる。それにな、校 長の話だと金でもかえない物でもかなえてくれるそうだ。だから・・・」 そのときばきっと言う音と共に鐘にひびが入った。 「おいおいおい、超合金でも割れるのかこいつは!?」 ばっき〜ん!と鐘が割れると警戒心を薄くしていた連中は開いた口がふさがらなかった。それを知らずにあたるの首を掴みあげた。 「本当か!?お金でも買えない物も手にはいるのか!?」 「そ・・・そうだから・・・て、手を・・・」 あたるのそれを聞いた面堂はあたるが苦しがっているのを知ってか、知らずかあたるを持ったまま踊り、喜び狂った。無論、これにはたまらず、 あたるは気を失った。 そしてさらに翌日の午前十時半 「さて、俺たちの城は敷地内のもっとも南側に位置している。地雷原の場所は後ろ側と右、左は崖だ」 あたるは城の大広間に全員を呼びだし、先頭に立っている。首には面堂の手形が、くっきりと残っていた。右隣に面堂、メガネ、コースケ、左隣 にラム、しのぶ、竜之介がそれぞれ並んでいる。 「つまり、敵は正面からしか攻めてこられないと言うことになる」 あたるは友引高校のチームリーダーを努めることになり、その横隣の六人は各部隊のリーダーである。 「だが、裏を返せば俺たちは後ろにも左右にも逃げられない。つまり、防御陣が崩されれば俺たちに勝ち目はない。そこで防衛陣はラム、しのぶ 、竜ちゃんの三人に任せる。無論、俺は城に残る」 面堂の刀があたるめがけて一直線に飛んできた。 「貴様の近くには女性しかいないではないか!おおかた、襲うつもりであろうがそうはさせんぞ!」 「何を言うか!男どもに守られても嬉しくないわ!」 どす、バキ、メリ、バコ! 「へ、変更だ・・・。城の護衛はラムと面堂とコースケに任せる・・・」 あたるは残された力を振り絞った。うつぶせに倒れ、意識を何とか保ち続けていた。気絶でもしたら即負けである。 「ま、良かろう・・・」 と面堂がぼこぼこのあたるを見下ろしながら刀を鞘に納めた。 「良くない!」 とメガネの甲高い雄叫びが聞こえた。メガネはがに股であたるに歩み寄り、胸ぐらをぐいっとつかんだ。あたるの足が少し浮いた。 「なぜ、ラムさんの近・・・」 後ろからコースケが粗大ゴミの山をメガネにたたきつけた。メガネの主張は即却下された。粗大ゴミの中には冷蔵庫やエアコン、灰皿、扇風機、 だっぴゃ星人、チェリー等々・・・。 「メガネ部隊は本来の任務である監視、及び警備を開始せよ。ちゃんとリーダーを連れて行けよ」 メガネは薄れ往く意識の中、腕を引っ張られながら城の外へ出ていった。 「しのぶと竜ちゃんは早速、落城に向かってくれ。くれぐれも無理はしないように。面堂とコースケ、それにラム、お前達はここで指示を出し、 防衛陣が破られたときは頼む」 あたるの回復力はやはり並大抵の者ではなかった。これなら実行委員会に見つかっても大丈夫である。 「何が悲しゅうてお前ごときを守らにゃならんのだ?」 面堂が嫌そうな顔であたるを睨んだ。 「別に僕はいいんだよ〜。願い事をかなえる権利が面堂君だけ無くなるだけだから」 あたるはなめきったかのように甘い声で言った。さすがに権利を無くすわけには行かず、面堂は怒りを押し込め 「仕方あるまい」 と、握り拳を強くした。 (見とれよ、諸星!願い事が叶ったそのときは翌日の太陽が拝めなくしてやる!) あたるに背を向け、顔を怒りでいっぱいにした。 「敵襲!」 メガネ部隊の一人が駆け込んできた。一挙に緊迫した空気が流れた。時計を見ると既に十一時を回っていた。 「どこの学校だ!?」 「赤口商業です!数およそ百五十!」 上下関係が無いにも関わらず、何故か敬語だった。さらにかた膝をつけ、着物であれば本当の戦国時代のようである。 「百五十だと!?くそ、主力を全部使うつもりか!」 「問題はどうやってうち破るかだが・・・」 あたる、ラム、面堂、コースケは四角形を作るかのように早速作戦会議を開始した。しかしそう、だらだらと話すわけには行かず、行き当たりば ったりの作戦があたるから提案された。 「ああ、恐らく氷上は城に残って立てこもっているだろう。敵数が百五十人という事はまともに戦えば両軍の損害は大きい。だが、城に居続けた ら、間違いなく大損害だ。そこで城の柱をある程度壊し、潰れやすいようにし、城を出る」 「城を出るだと!?」 面堂は立ち上がり様に異議ありと言わんばかりの声を出した。あたるはすーっと面堂の顔を見上げると 「不満か?」 と冷静に答えた。 「当たり前だ!」 「だが、このまま戦ってダメージを受けるわけには行かない。他の学校も狙っていることを忘れるな」 「くっ・・・」 面堂は渋々座った。反論がしたかったが、これより良い案が浮かばず、仕方なしと賛成した。 「全部隊に連絡!敵から攻め込まれる前に城を出ろ!時間はない!ラムはある程度の作業を終了させてから空から逃げろ!」 「わかったっちゃ。で、ウチの作業って?」 あたるはずてっと頭を地面にぶつけた。そして右手、左手と手をつくと四つ足でラムの足下まで来るとぐわっと立ち上がり 「柱をぶっ壊せ!潰れん程度にな!」 「わ、わかったっちゃ」 あたるはラムが大広間を出ていくのを見ると窓の外を見て敵のおおまかな居場所を確認した。 「意外と近いぞ、急がせろ!」 だが、誰からも返事はなかった。振り返ると誰の姿も蔭も痕跡すらない。 「あの野郎!先行きやがったな!」 本来は複数形のため野郎どものはずだが、あたるの怒りは面堂のみにぶつけられていたため単数形となっていた。あたるは後を追いかけようと 自分でもわからないぐらいの速さで部屋を出ようとした。だが、わからない速度ではブレーキの加減もわからなかった。従って、廊下を出て、 右に行こうとしたが勢いのあまりほぼ直線で壁に激突した。そしてそのまま向こう側に倒れ、城の外にほっぽり出された。 「うわァ〜!」 ドーンと砂煙を上げながら、即立ち上がり門へ向かった。が、赤口商業の大群にぼてぼてに踏みつぶされた。赤口商業はあたるに気付かず、城 の中へと消えていった。あたるはそれを見届けるとトランシーバーをポケットから取り出し、ラムを呼び出した。 「ラム、最後に大黒柱を破壊しろ。終わったらそのまま逃げろ、いいな!?」 『わかったっちゃ』 その返事と共にごごご・・・と地響きがなり始めた。すると門の中から光る飛行物体が飛んできた。ラムである。ラムの無事を確認すると、 「これで、赤口は終わったな・・・」 と、捨てぜりふを履きながら、城に背を向けた。 「卑怯者ぉ!」 「罠だぁ〜!」 「ふざけやがってぇ〜!」 崩れる城から様々な悲鳴があたるの耳に届いた。あたるは少し立ち止まり、城を見ると何も言わず、再び歩み始めた。 「ダーリン!他の学校が崖の方から出て来るっちゃ!」 空にいたラムが城の左側に位置する崖を指さした。あたるは振り返り、目を凝らした。 「あれは・・・、仏滅か・・・」 あたるは再びトランシーバーを取り出すと今度は面堂に連絡した。 「城の左側の崖から仏滅高校の姿を確認。面堂部隊は正面を固めろ」 「いや、その必要はない!」 「なにィ〜!ど〜ゆ〜ことだ!?」 「いやな、あの城の地下には火薬が結構は言っていてな、それが爆発すれば周りは大惨事だ。それに周りには地雷群がある。ど〜ゆ〜ことかわ かるか?」 あたるはトランシーバーの面堂の声を聞き、少し考え込むとラムに向かって再び命令を飛ばした。 「ラム、どこでも良い!地雷群のあるところに電撃をかませ!それで仏滅はTHE ENDだ!」 ラムはうなずくと両手をあげてクロスさせた。と、同時に青白く光り始めた。そして地雷群の方向に手をかざすとババババという音と共に、 電気の帯が地雷群を直撃した。そしてすさまじい爆発が連続して起きた。無論崖は大崩壊し、仏滅学園は崖と運命を共にした。 「おわぁ〜!!」 これで友引高校はほぼラム一人で赤口学園と仏滅高校を倒したことになる。しかし、友引高校に休む暇もなかった。 「ダーリン!砂煙が三本も立ってるっちゃ!」 「なに!?ってことは、先勝大付属、先負高校、大安学院全部俺たちを狙っていると言うことか・・・」 あたるは頭を悩ませた。三校も同時に戦える戦術があるだろうか、それを考えていた。しかし、アホの頭で考えられるはずもなく、パニック状 態に陥った。そのとき友引高校二百人が、のんきに手を振りながら走ってきた。 「どうした諸星、何を踊っている?」 面堂はこれまたのんきな質問をした。 「大馬鹿者!誰が踊っとるか!!」 木槌で面堂を殴った。 「そんなことをしとる場合ではない!残りの三校が全部せめてきやがった!総員第一級戦闘準備!」 友引高校の全員に指さした。しかし、あることに気付いた。三校相手でも勝てる方法を思いついたのである。 「そ、そうだ、チェリーを・・・」 「わしを呼んだかぁ〜?」 先ほどの爆発にも勝るものであった。あたるはぼろぼろになりながらもトランシーバーを取り出した。トランシーバーは生きているようである。 「ひ、被害状況を報告しろ・・・」 「こちらメガネ部隊・・・。約四分の三がリタイヤ・・・。リーダーは無事で・・・」 トランシーバーの向こうで送信者が倒れたのが、わかった。 「こちら面堂部隊・・・。隊長を含め約半数がリタイヤ・・・」 面堂はチェリー爆発ではなく、あたるが殴ったのが原因だとわかったものはごく少数だった。 「こちらしのぶ。私以外はみんなリタイヤよ」 「こちら、竜之介。同じく俺以外は全員リタイヤ。ど〜すんだよ?」 あたるはゆっくりと体を起こし、痛めた腰と腕をおさえながら立ち上がった。 (残るは、俺とメガネ、しのぶに竜ちゃん、それからその他大勢・・・ん?) 一人連絡のない者がいることに気付いた。ラムである。ラムの部隊は一人であるため、連絡がないと言うことはリタイヤの可能性が高いと言う ことであった。 (くそ、ラムがいねえんじゃ敵の一がつかめにくいな・・・) あたるは頭をかきむしった。それを見たチェリーは再び悪巧みを考えた。すかさずあたるの足下に近寄り、あたるのズボンをくいくいっと引っ 張った。 「貴様!これ以上被害を広げるつもりか!!」 これに気付いたあたるはすかさず木槌で殴り飛ばした。チェリーは大回転して森の向こうへ落ちていった。そのときチェリーが落ちたと思われ るところで大爆発が起きた。あたるは最初地雷にでも引っかかったとおもったが、人柱が上がっているのを発見すると何が原因か一目でわかっ た。 (あれは・・・) あたるは望遠鏡で爆発の方向を見た。 (大安学院か・・・。ありゃもう駄目だ・・・。となると、残るは先勝と先負か。しかしどう戦う?俺たちの今の兵力では勝ち目はない。地雷 群も全部使ったし・・・) 「ダーリン!」 と毎日聞く単語が聞こえた。その声の方を見るとススだらけになりながらも傷一つ無いラムの姿があった。爆発のショックでトランシーバーを 落としたため、連絡が取れなかったのだ。あたるから見れば少し輝かしく見えた。あたるは少しほっとした表情をし、また作戦を考え始めた。 しかし自分たちは普通の高校生でないことに気付いた。 (そ、そうだ・・・。ラムの電撃にしのぶの怪力、竜ちゃんの格闘センス、メガネの暴走、面堂がいなくて、俺の・・・。勝てる!これなら勝 てる!) あたるは感激に充ち満ちた。感涙を禁じ得ないとはこのことである。もはや迷う必要はない。その後友引高校が人数差を抱えながらも、圧倒的 なパワーで勝利を収めた。 大会本部前広場 (これでラムさんは俺の物だ・・・。ふふふふふふふ・・・) メガネは声に出していることに気付かなかった。 (諸星め。今日が貴様の命日だ) 薄笑いを浮かべながらあたるを見た。 「表彰。優勝。友引高校。本連盟主催、第一回六輝中学校無念晴らし合戦大会において頭書の成績を収められたので、ここに表します」 朝礼台の上であたるが校長から賞状を貰った。しかし賞状など二の次三の次であった。表彰を素直に喜ぶ者は一人としていない。皆、心の奥底 で薄暗い陰謀を立ちこめていた。 「では優勝者に願い事を叶えてくれる方を紹介しましょう。どうぞ・・・」 横からサングラスと深い帽子で小さな体を大きなマントで覆い隠した男らしき人物が出てきた。そんなことはお構いなしに、あたるそのほかは 賞状や盾を捨て去り、その者に殺到した。 「ビデオデッキ!」 「ウォークマン!」 「按摩機!」 「ラムさん!」 「世界!」 「宇宙!」 「明太茶漬け!」 「待ちなさい。そう慌てる必要はありませんよ」 校長は殺到する生徒に手で待ったをかけた。そんな事を友引高校の生徒が聞くはずがない。 「いやいや、おいらはみんなを早く幸福にしたくてうずうずしてたんだ。みんないっぺんにかなえてやるよ」 その者の声は友引高校の人間なら誰もが知っている嫌な声だった。 「ま、まさか・・・」 その者はサングラスと帽子をばっと脱ぎ捨てた。 「お、お前は・・・」 かつて友引高校に波乱と騒動、そして裏切りを呼んだ指名手配犯『連続幸福魔・青い鳥』である。 「幸福光線、発射!」 完