オリジナル小説短編版 part1[雌雄を決す!] ここは全国でも有名な高校、友引高校である。別に学力はそれほどではないが、生徒は異常なほど活発かつ反抗的。 騒ぎのない日は珍しいといっても過言ではない。主な騒ぎの原因は教師の企み、校長の思いつき、宇宙人、etc・・・。 今回の騒ぎの中心人物である二年四組の諸星あたる及び同クラスの面堂終太郎の長年の決着を付ける戦いの一部始終を小説にしたものである。 二年四組のホームルーム・・・ 「さて、三年生は受験真っ盛りであり、来年は我ら二年生が引っ張っていく学年になったわけだ」 と温泉マークが教師らしい台詞を吐いた。しかし四組の連中はまじめに聞くはずがない。あたるは女子生徒にモーションをかけ、ラムはそれに対する電撃リンチ。 そして毎度の事ながら四人組と面堂はあたるに対し怒りをあらわにする。しのぶは机投げ、竜之介は強烈パンチ、テンは放射火炎。毎度おなじみの光景である。 「きさまらぁ!何の時間だと思っといるんだぁ〜!!」 温泉マークは教卓に手をたたきつけた後、そのまま持ち上げ、あたるに標準を定め投げつけた。 あたるはモーションを掛ける足を止め、近くを浮遊していた危険度強の放火魔幼児・テンを 盾にした。ぐわぁ〜んと言う音と共に放火魔幼児は気絶した。 「こらぁ〜、諸星ぃ〜!いたいけな幼児になんてことするんだぁ〜!!」 「生徒に向かって、教卓を投げつける教師の言うことか!!」 いつもの戦いの雰囲気が流れた。温泉マークは長年の経験からまともにやれば負けることを知っている。そのため戦いを避けるかのように 「まあいい・・・。本題に入るぞ。教卓を返してくれ・・・」 あたるはいきなり変わった空気になじめなかった。体が拒絶反応を起こしそうである。しのぶはすみで転がっている教卓を温泉に向かって投げつけた。机は温泉の頭に直撃し、 温泉の頭は黒板にめり込んだ。意外とおぞましい姿だったので、静寂が四組の教室を流れた。温泉は両手で黒板をおし、頭を抜いた。首が少し曲がっている。 教卓を元の場所に置き、ホームルームを続けた。 「いま三年は受験真っ盛りである。来年から我々が引っ張っていく立場に成るわけだ。そこで生徒会役員の選挙が始まる。立候補するものはいないか?」 四組にもしや・・・と言う空気が流れた。正確には男子生徒である。皆、前を見ながらも横目である人物の方を見た。 「生徒会長に立候補する」 面堂が堂々と立ち上がった。とたん、一気に緊張の糸が切れた。 「諸星あたるを推薦する!」 パーマが挙手しながら立ち上がった。 「そうだ!あたるだ!」 「アホはアホを持って制す!」 「男は顔じゃない!」 男子生徒は全員あたるを推薦、あたるは拒否を言う間も無く強制決定させられた。もし、面堂が生徒会長になったら、友引高校の男子生徒は破滅の道を選択せざる終えなくなる。 その面堂に対抗するにはあたるしかいない。しかし当のあたるは・・・。 「ふざけるな!学級委員長のときみたいに忘れ去るのが目に見えとる!!」 (あのやろ〜、根に持ってやがる・・・) コースケは悪態をついた。しかしこれはあたるの方が有利である。無論あたるがこんなチャンスを逃すはずがない。 「まあ〜、出てやらんでもないがね〜。それなりの代償を払ってもらわえばね〜・・・」 男子生徒はひざまずき、無理な笑顔を作った。それでも頬がぴくぴくと動いている。 「ど、どうすればいいんだ?」 「学校中の女として認められる女の住所と電話番号を聞いてこい。無論、写真同封でな。生物学上だけの女をつれてこられたのではたまらん」 あたるはさらに調子に乗って机にあぐらをかいた。しかしこんな要求をラムの耳に入らないはずがなかった。 「何に使っちゃ?」 「そりゃあ決まってんだろう。デートの誘い込みを・・・」 あたるは後ろに最悪の事態を目の辺りにした。後ろにはパリパリ音を立てながらあぐらをかいたラムがあたるの目の高さにいる。 ラムは人差し指をあたるの額につんつんと指し、そこから一気にあたるの全身に電流が流れ込み、あたるは天井に頭をぶつけるぐらいまで飛び上がった。 その間にメガネ達は立候補の名簿にあたるの名前を書き、選挙監理委員に提出した。 「なに〜!?」 あたるは衝撃の事実に叫びをあげた。あたるがいるのは立候補掲示板にはられた自分の写真を見ていた。横には面堂の写真がきりりとしたもので写っている。 その横には一組の爽やか少年だ。あたるの第一印象は生徒会長向きではない。勝負は面堂だけだと思った。 会長候補はあたると面堂を含め、八人。皆生徒会長の権力の強さを知っているようだ。だが、生徒会長は下手をすれば生徒が乱を起こしかねない。 よほど、やり方が暴力的な人間しか立候補はしない。あたるは卑劣さと逃げ足の速さがあれば十分やって行けそうな気がした、いつの間にかやる気になっていることも 忘れて・・・。 翌日、生徒会立候補者は校長室に集められた。横には推薦者代表がいる。 「さて、皆さん、役員決定の方法を変えたいと思います」 いきなりの訳のわからない言葉に一同はとまどった。校長は椅子からコタツに入ると 「毎回、投票方式でやると可愛い子か格好いい人が選ばれるんです。それでは正式な当選とは言えません・・・」 校長はポットから急須にお湯を入れながら悲しそうに言った。そして少し揺らした後、茶碗に注いだ。 「わたしが考える生徒会長は逞しく、生徒全員を従える力を持っていなければ成りません。そこで・・・」 言いかけて校長はお茶を口に運び、ずずず・・・と小さく鳴らした。飲み終えるとバンと机に茶碗をたたきつけた。一同は少しひるんだが、校長はかまわず続けた。 「武道大会を行います!」 「ど、どのようなやり方で?」 ルールがイマイチわからない立候補者及び推薦者代表は少し遠慮して聞いた。 「簡単なことです。トーナメント方式でルール無用の戦いをして貰います。場所はグラウンドにでもしときましょう。審判は現・生徒会長の一一(にのまえ はじめ)君に お願いします」 そのときドアがコンコンとなり、 「失礼します」 と、ドアから入ってきたのは、一一であった。 「センパイ、変な名前っすね」 あたるが手を頭の後ろで組みながら怠そうに言った。 「仕方ないよ。作者が考えるのが面倒くさいって、適当に付けたんだ」 「ったく、いい加減な作者だ・・・」 「名前変えちゃえば?」 「作者が何をするかわからんぞ、やめとけ」 「そうだな・・・」 で、翌日 「ではこれより、生徒会長戦準決勝を行います」 ここで当たるのはあたると面堂である。決勝戦で当たると思われたが、くじ引きの結果、こののような結果になったのである。 「第一戦、三組○×VS一組□△!準備してください」 対面堂戦は第二試合である。あたるはリング右側、面堂はリング左側でそれぞれ試合前の調整を行っていた。 リングと言っても二十メートル四方にラインを引いたものにすぎないが・・・。 「ダーリン、大丈夫け?」 ラムがいつの間にか右上を浮遊していた。右手にはタオルがある。タオルを見たあたるはふと自分の体を見た。気が付くと汗でびっしょりである。 「そんなに汗かいて・・・。体の具合でも・・・」 「気にするな」 ラムが言い終わる前にあたるは返事した。あたる自身、最後の決着と思うと緊張して仕方がないのである。 正面にいる面堂をにらみつけた。向こうは何人かの面堂ファンの女子に花束をあげたり、サインを書いていたりしている。 向こうも気付いたようである。サインする手を止め、あたるをにらみ返した。 (この戦いで全てが決まる。諸星め、明日からお前は僕の古文だ・・・) (ふ、馬鹿か?子分の字を間違えているのにも気づかんのか?) あたるは挑発した顔をする。 (いつもテストで欠点ばっかりとっている奴の言えることか?) 今度は面堂が挑発顔である。 (貴様!おれのテストの点数みたな!?) (見なくてもわかるさ。お前のような虫けらの点数など欠点以外の何ものでもないからな) (貴様のようなタコに虫けら扱いされたくないな) 「なんだとぉ!!この面堂終太郎を愚弄する気か!!」 「俺の点数を見た報いだ!」 「見てないといっとるだろうが!」 メガネ達の目は喧嘩を始めた二人を見ていた。 「あいつら結構気が合うんじゃないか?」 「ああ、以心伝心とはこの事だな」 「二年四組諸星あたるVS面堂終太郎!準備してください」 あたるは座っていたパイプ椅子から立ち上がると所定の位置に立った。面堂も真正面に立っている。 「はじめ!」 審判の右手がまっすぐに上へ伸びた。それと同時にあたるは木槌を、面堂は刀を毎度の事ながらどこからともなく取り出した。 「出た!二人の隠し芸!」 観客席から声があがった。どうやらあたるの木槌出しと、面堂の刀出しは隠し芸として見られているようだ。 「諸星!今度は学級委員のときのようにはいかんぞ!」 「返り討ちにしてやる!」 面堂は走り出した。そのまま刀を抜き、振り上げずにそのままあたるに斬りつけた。しかし面堂の目にはあたるの姿はない。    すかさず上を向いたが、避けるのには不可能に近い距離までにあたるは降りてきていた。 「避けられないとすれば・・・、切るしかない!」 面堂は刀に渾身の力を込めて刀の刃を木槌にあてた。しかし切れ目は入るものの、刀で切るには無理があった。刀は食い込んだまま、木槌から離れない。 あたるも面堂もお互いの武器を外さず、歯を食いしばっていた。 「諸星っ、こ、降参しろっ・・・」 「なにを・・・言うかっ」 言葉がとぎれとぎれつまった。そのまま三十秒ほど二人は動くに動けなかった。 (どうする?ここで木槌を引き上げれば面堂の刀も食い込んだまま、奴の手から放れるだろう。だが、もし刀がはずれたら俺のボディーはがら空きだ。 下手な賭をするよりあいつの出方を待つしかない) (くそ、このままではらちがあかん。しかし下手に動けば隙が出来てしまう) 二人が動こうとするはずもなかった。しかしあたるはふと頭にあることがうかんだ。途端に、あたるは木槌を後ろへ放り投げ、面堂の刀も木槌に食い込んだまま 飛んでいこうとしたが、面堂は思いっきり引っ張り、木槌から刀ははずれた。 「丸腰でどう戦うつもりだ?」 木槌はあたるの後ろ三メートルばかり先にある。下手にとりに言って背を向けたら、終わりだ。しかしあたるは余裕の笑みを浮かべ、 再び背中から木槌を取り出した。 「何!?」 「そうか!あたるの木槌出しはいつでも何処でも何個でも出せる!一つにこだわる必要などない!!」 メガネは観客席でまるで全員に説明するかのように大声で言った。 「ちっ、こしゃくな!」 面堂は攻撃を再開した。しかし精神的にあたるは有利の立場にある。決して身体的ハンデは両者ついていない。それでもあたるは何処なく自信があった。 「面堂!もはや貴様に勝機はない!降参しろ!」 「ほざけ!こちらにも案はある!」 そう言うと面堂もまた新しい刀を取り出した。つまり二刀流である。これで身体的にあたるは不利になった。 「くそ〜・・・」 こちらも二刀流なりなんなりするべきだが、重い木槌を片手で持つには無理がある。形勢逆転である。 「ちょこざいな!」 「覚悟しろ!諸星!!」 面堂は早速攻撃に転じた。少しずつスピードをあげ、最高速度になった時点で第一刀を振り下ろした。 「うわっ!」 あたるはかろうじて避けたが、後ろにこけた。ここぞとばかりに面堂はそこにもう一本の刀を突き刺した。それでもあたるは転がって かわした。 「往生しろ!!」 「誰がするか!!」 面堂は休み無く刀を振り下ろし続け、あたるも複雑に転がってそれを避け続ける。それを続けるウチにだんだん息も上がりはじめ、 攻撃の手も避ける手も遅くなった。はぁはぁ息が上がり、攻防戦も終わりを告げた。あたるはゆっくりを立ち上がり、面堂の二メートル正面に立った。 「次の一撃で決まるな・・・」 メガネは眼鏡を光らせながらいった。誰から見ても二人はもう限界だという事は明らかだった。 「そうだな・・・」 パーマの頬から汗が垂れ落ちた。 「うらぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「おらぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 二人の武器がブゥンと音を立て、拮抗した。ズゴォォォンと爆発が起きた。 「二人の気合いが爆発を起こしたのか!!?」 メガネは勝手な想像で勝手な解釈をした。武器と武器の拮抗による爆発など、どこぞの戦闘漫画のすることである。従って・・・ 「煙が晴れるぞ!」 「どっちだ!?どっちがかったんだ!?」 煙は次第に薄れ、リング内の破壊された部分がはっきりと解ってきた。人影も三人分見える。 「さ、三人!?」 煙が完全に晴れるとそこには人生の絞りかす、破戒坊主、災厄の妖怪、錯乱坊ことチェリーである。 「さっきの爆発は奴のせいか・・・」 メガネは盛り上がった気持ちが急降下していくのが解った。皆も気分を悪くし、退場するものまで出た。リングではあたると面堂が目をくるくる回している。 「両者ダウン!よって両者決勝戦進出の権利を破棄します」 校長は本部テントでマイクを手に持ちながら判決を下した。しかし決勝戦を楽しみにしていた観客も居たようでブーイングが上がった。 「おい!延長戦はないのかよ!?」 「ありません」 「じゃあ決勝戦はどうすんだよ!?」 「ありません、これにて生徒会長争奪戦を終了します。優勝者!○×!!」 あたるはなんとか意識を取り戻したが、体が動かず愚痴をこぼした。 「クーデターおこしちゃる!!」 〜完〜 part2[光の先に・・・] あたるの葬儀を終え、地球に帰還して丸一年・・・。悲しみというのはそのうち無くなるものだが、忘れることは出来ない。 あの二人のことを思い出すだけでどこか、寂しくなる。この面堂終太郎(21)もまたそんな日々 を過ごしていた。あれから三年、あたるが旅に出ている間、 物足りない卒業式をすませ、水之小路飛鳥と結婚、面堂家私設軍隊司令官に任命などなど・・・。これから二年後に起こる「友引町浮遊占拠事件」までつまらない日々を過ごしていた。 面堂が居るのは寝室。司令官とはいえ、たまの休暇も必要である。今日は数少ない休暇のある一日であった。 (さて、屋敷の中にいてもつまらんしな・・・。あそこにでも・・・いくか) そう言って早速身支度を始めた。外ではスズメが二、三匹ちゅんちゅん鳴いている。面堂は私服に着替えると窓を開けた。 朝の日差しは昼の日差しと違って気持ちいいものだ。面堂はう〜と背伸びをすると部屋を退室した。 「若、どちらへ?」 正門で警備をしていた一人のサングラスが面堂の姿に気付いた。 「いや、ちょっと行くところがある」 「一人では危険です。護衛の者を付けるか、何か乗り物でお行きに為されませ!」 サングラスは少し焦ったような声だ。当たり前である。面堂は常にボディーガードが付いている。付いていないのは、寝るときが学校の時ぐらいである。それでも学校は 卒業し、ほぼ二十四時間ボディーガードが付いている生活を送っていたのだ。ストレスがたまらないはずがない。 「いや、一人で考え事をしたいし、長いこと考えることになるのでな。行かせてくれ」 「しかし・・・」 それでも反論しようとするサングラスに面堂はにらみつけた。こうなるとサングラスは命の危険を感じられ、反論できなくなる。刀を振り回し、釣鐘を割る怪力の持ち主など 相手にしていたら命がいくつあっても足りたモンじゃない。 唯一対抗できるのは脅威の生命力を持ち、いざというときにもの凄いパワーとスピードを生み出す、今は亡き諸星あたるだ。しかしもうこの世にはいない。あの世で ラムと幸せに暮らしていることだろう。 「解りました」 サングラスは渋々門を開けた。ぎぎぎ・・・と大きな音を立て、正門は開いた。その目前にはいつもの友引町が見える。ただ、姿形は変わらずとも、中身は180度変わっていた。 平和すぎる友引町・・・。日本で一番戦時状態に近い町が、今やどこにでもある普通の町である。 面堂は正門を出ると迷わずまっすぐ歩き始めた。 (今日はあそこに行く前にいろいろと回ってみるか・・・) 司令官に任命されて早二年。忙しい毎日を過ごし、町に出るのは一年ぶりである。ふと、友引町を歩き回ってみたいと思った。 まず向かったのは母校・友引高校。在学中は腐りきった学校だと思っていたが、卒業してみると人生で一番楽しかった。 門に立つと校内から騒ぎ声が聞こえる。窓ガラスも割れ、壁もぼろぼろだ。 「こらぁぁぁ!!だまらんかぁぁぁぁ!!」 熱血教師・温泉マークの叫び声が聞こえた。これもまた懐かしい。噂によるとどうも教頭に昇格したとか・・・。 どうやら校内を回っていたところであの騒ぎが聞こえたのであろう。 そこでいつものあれである。全てが懐かしい。まずは昇降口からはいると靴を脱ぎ、上履きを持ってきていないので靴下のままで校舎に入った。 とんとん。まずノックしたのは校長室である。許可を貰うついでに校長に会いたかったためだ。 「どうぞ」 中からあの声が聞こえる。 「失礼します」 「あ、面堂君。しばらく」 相も変わらずのほほんとした顔立ちである。たいした変化はないようだ。 「まあ、座りたまえ」 「はい・・・」 コタツに座るとまずお茶を勧められ、どうもと言って一口すすった。 「相変わらず騒がしいですね」 「君たちと同じですよ。我々も苦労はしているが負けてはいない。断固生徒と戦いますよ!」 燃える校長へ変化した。この校長が燃えると本当に炎が見える気がする。現に幻が見えるのだから・・・。 「ところでどうしたんだい?君たちが来るなんて珍しいじゃないか」 「ええ、今日は久しぶりの暇を貰ったので町を歩き回ろうかと・・・。ところで君たちというのは?」 「さっき、三宅君や白井君達も来てたよ。まだ居るんじゃないか?会いに行ってはどうだね?」 「そうですね。そうします。ではここで失礼します」 短い会話は終わった。校長は三年前の四組の中心人物の一人である面堂をみてあたるのことも思い出した。あたるの葬儀の際、関係者は皆、鬼星へ行ったのだ。 あたるの顔はあれ以来見ていない。写真さえも・・・。アルバムを開けようとしたが、見る気がなかった。 「オオ、面堂じゃないか!」 メガネは最初の雄叫びをあげた。現在警視庁交通課のものである。その声に釣られるようにパーマ、カクガリ、チビ、しのぶ、竜之介が顔を面堂の方に写した。 「やあ,しのぶさんに竜之介さん」 「男には返事をせんのか!」 四人そろってつっこみを入れた。しかし後一人足りない。あたるの親友の白井コースケである。面堂は六人を見渡し、コースケがいないのを確かめた。 確か校長の話では白井君と聞こえたはずである。間違いはない。が、コースケの姿はなかった。 「コースケはどこ行った?」 すると皆くらい顔をした。いや、しんみりと言った方が良いのかもしれない。誰一人口を開かなかった。何か有るようである。 「実はコースケは今日リストラされたんだそうだ・・・」 メガネが重たい口を開いた。 「え・・・」 面堂にはこれが精一杯だった。コースケが働いていたのは、面堂家とは関係のない普通の会社だった。不景気の波に押し流され、普通に働いていたのだが、運悪く リストラの対称に選ばれた。 「それで、何処へ行っても雇ってくれないから今日、田舎の祖母の所へ帰るそうだ。農業を手伝うらしい」 「一応誘ったんだけど、荷物の整理が忙しいって・・・」 今度は続いてパーマ、しのぶと順に重たい口を開いた。しかしまだ言わなければならない重たい言葉があった。六人とも誰かが言うのを待っていた。 「実はこれだけじゃないんだ」 チビが全身全霊の勇気を振り絞って、口を開いた。 「今日集まったのはあたるの命日ってだけじゃなくて、送別会もかねてるんだ・・」 「だれかどこかに行くのか?」 面堂はその重たい空気に少ししか気付いていない。誰が町を出ていくのか、何故出ていくのか。それが面堂の心で何度も繰り返された。 「全員だ・・・」 ここに集まった六人は、全員都合で町を出なくてはならない。メガネは神奈川県警へ転属。パーマは北海道へ単身赴任し、チビとカクガリは九州の大学しか受からなかっため、 九州へ。しのぶは運命製造管理局の存在を知られないため、異次元空間で暮らすことになり、竜之介は浜茶屋組合が沖縄に本部を置き、そこへ行かなければならない。 皆それぞれの事情のため思い出の町をさらねばならない。 「そうか・・・、寂しくなるな・・・」 この後、面堂を含めた七人は居酒屋で宴会を行い、それぞれに別れを告げた。面堂は高貴な生まれのため、居酒屋に行ったことが無く、特に楽しかった。 すっかり夜である。面堂は本来の目的地である在る場所へ向かった。 在る場所とは友引墓地であった。あたるとラムが眠る墓地である。ラムは本来、鬼星に埋められるはずだったが、あたるのそばの方が良いだろうと言う発案があり、 ここに移された。墓石には「諸星家之墓」とある。面堂は花束をおき、線香を供えると、そっと手を合わせた。 「この町に残るのは僕とお前、そしてラムさんだけになってしまったな」 その一言を言うと、何処か胸がスッキリした。何故スッキリしたのかは、解らないが頭に引っかかっていた何かが取れた気がする。面堂は空を見上げた。 夜空に星がちらちらと輝いている。 面堂はその夜空にあたるとラムの顔を映し合わせた。すると次々に高校時代の事を思い出した。ラムがいなくなったと勘違いして落ち込むあたる、 面堂家での鉄橋で砲火を浴びながら走り抜けてくるあたるの姿、鬼ごっこでのラムに言った忘れるもんかの言葉、思い出してみると案外良い奴だった。 いつもはうっとうしく感じていたのが今になって楽しみの源であったと言っても過言ではないだろう。 面堂は墓地を後にしようとした。しかし急に風が吹いた。面堂は顔を手で覆い、風がやむまでその場でこらえた。 落ち葉や枝が面堂の足下を転がり、草木がこする音が鳴っている。その音がやみ、風がやむとそこは全く別の場所にいた。 「ここは・・・」 「よぉ、面堂!」 そこ声の持ち主は紛れもなく、諸星あたるである。 「も、もろ・・・、ぼしぃぃぃ!!」 最初の二文字は驚きと感動の声だったが、最後の二文字は怒りの声である。いつものパターン通り、真剣白刃取りの攻防である。 「で、でもどうしたんだ。お前は確かに死んだはずじゃ・・・」 「まあ、そうなんだが、どうも俺が死ぬのは予定外だったらしい」 「はぁ?」 すると今度はラムである。髪を後ろで束ねて、服もラムの母親が来ていたのと同じものを着ている。あたるの横に正座して続きを話した。 「ホントはウチだけ死ぬ予定だったんだけど、ダーリンまで勝手に死んじゃったから『黄泉の国政府・死者管理局』が困ってるっちゃ」 「何です?その『黄泉の国政府・死者管理局』って・・・」 「死者の魂を天国に行かせるか、地獄に行かせるか決める局だっちゃ。他にも何処にすませるかとか、何年後に転生させるとか・・・」 「それで、その何とかが何で困るんですか?」 「誰がいつ、何処で、どんな風に死ぬかをその局が決めてるんだよ。俺は世界ギネスブックに載るまで長生きする予定だったんだが、百年近く早く死んだから、 コンピューターがぶっ壊れたんだと。それで、あの世に居続けると混乱が治らないから、蘇生させてやるって・・・。ったく、死んだり生き返ったり、どっちかにして欲しいもんだね〜」 あたるの口調は以前と何か雰囲気が違った。これほどの歳月は口調も変えてしまうのかもしれない。容姿も何処か大人っぽい。 「で、でも生き返ったら、みんなにどう説明するんだ!?みんなこんな話を信じるはずがない!」 「ああ、その点に関しては大丈夫だ」 「?」 「時間を元に戻すんだよ。高校時代に・・・。ラムが死んだら俺も、もう一回死んでやるって脅してな・・・」 ラムは少し赤めいた顔をした。恐らく、あたるは黄泉の国政府にこう脅した際、ラムはあたるに感動したことであろう。面堂も無論そんなこと解る年頃だ。 本格的にラムを諦めることを決心し、話を続けた。 「と、言うことは隕石が町に堕ちることも無くなるのか?」 「ま、そういうことだな。お、そろそろ時間が戻り始めるぞ。ここでの会話は俺もお前もラムも忘れる。今なら好き放題言って良いぞ」 あたるは時計を見てにやっと笑った後、面堂を上目使いで見た。 「そうだな、じゃあ・・・」 一言そう言って、面堂は黙り込んだ。決して何を言うか考えているわけではない。言って良いのか迷っているのだ。あたるはきょとんとした顔をした。 「今後一切死ぬな」 「え?」 その言葉と共に三人は光に包まれた。面堂はふっと笑いながら、目を閉じた。 〜完〜 part3[BD2 同盟軍と帝国軍]  時計は午後十時を回っていた。行き先は桜島で高速で行くにはあまりにも遠い。生徒からも批判の声が挙がったが、予算節約という理由で 多額の金を払うなら飛行機でも良いと脅された。 「ったく、二日間かけて行くなんぞ、馬鹿げたことだ」 メガネはパーマの隣で愚痴をこぼした。しかし他の生徒は思ったより、はしゃいでいる。修学旅行は行くときが一番楽しいと言っても、異議を言うものは 少ないであろう。実際桜島に行ったところで楽しいものが在るだろうか。どうせ九州なら福岡県の「スペースワールド」や宮崎県の「シーガイヤ」などのほうが 生徒にとっては良かったのかもしれない。 「そろそろ就寝時間だぞ」 温泉マークがメガホンで生徒達に叫んだ。 「やかましい!んなことわーっとる!!」 あたるを筆頭に反感の声が広まっていった。温泉は言い返そうとしたが、その前に消灯であった。暗闇の中で喧嘩しても混乱するだけだ。 両者ぐっと我慢して、席に着くとある者はアイマスク、ある者は夜の景色をみる者もいた。あたるは眠れなかった。なぜならあたるは高速道路に入って来て すぐに寝てしまったのである。そこから九時ぐらいまでラムと爆睡していたため、二人して眠れなかった。 「ん?」 「どうしたっちゃ?」 男と女が隣同士というのはあまりにも危ないが、この二人は恐らく大丈夫であろう。あたるが思わず声を出したのは、何か前にも似た感覚が急に 蘇ってきたのだ。 「何か・・・、嫌の予感がする・・・」 あたるの肩に頭を置いていたラムはその言葉に少し驚いたような顔をして、体を垂直にした。あたるの顔をみるとこわばっているようにも見えた。 「・・・」 ラムはそのまま窓の外の景色を見た。闇の中を普通乗用車よりも高いところをハイスピードで駆け抜けていく。高速道路の向こうの景色は何もない。 恐らく田んぼがある田舎の近くを通っているのだろう。ときどき古びた電柱のようなものが見える。 今度は車内を見渡した。ラムの席は後ろから二番目の席で、その後ろは最後尾のため五人が並べる席だ。中央にメガネがいて、その右横にパーマ、カクガリ、 左横にチビ、面堂がそれぞれ違った体勢をとりながらいびきをかいている。 (静かすぎるっちゃ・・・) みんな寝ているのだから静かなのは当たり前だが、どこかに違和感があった。普通の静けさではない。異常に静かなのだ。 メガネ達はいびきをかいているが、音は殆どしない。 「何かおかしい・・・」 今度はあたるだ。あたるもこの異様な静けさに気付いたようだ。あたるはそっと席を立つと、中央の廊下を足音を立てずに歩み出した。ラムもそれに続く。 見慣れたクラスメイトがまるで他人の様な感じがした。一度足を止め、息をのんで、もう一度慎重に歩み出した。 二人とも何も喋ることが出来ず、額に汗を垂らしていた。そのときゴォォォォっと言う音と共に車内がオレンジ色に染まり上がった。 トンネルに入ったのである。そして急に二人に強烈な睡魔が襲いかかった。 目が覚めると町の中を走っていた。しかし何処の町なのだろうか、まともに建っている家などなく、ほぼ壊滅している。 そしてぞろぞろとクラスメイトが起き始めた。あくびや目をこすったりしている。 それをちらっと見ると再び外に目をやった。するとヒュゥゥと言う音があたるの耳に入ってきた。そしてバスの外が白い光に包まれ、バス内に 大きな衝撃が襲った。 「うわっ」 そしてバスは急停車した。すかさずバスから出るとそこは紛れもなく戦場であり、そしてその背景の一部にコンクリート製の友引高校が存在した。つまりここは友引町なのである 「ば、ばかな・・・」 「どないしました?お客さん」 運転手が尋ねてきた。小柄でサングラスを掛けている。もしやと思った。バスの中に入るとクラスメイトの殆どが消え失せていた。いるのは、あたるを含めラム、メガネ達、面堂、 竜之介、しのぶ、、なぜかサクラとテンの十一人であった。 「さ、サクラ先生・・・。なぜここに・・・」 「知らぬ。家出寝ておったはずなのじゃが・・・」 少し大きな声で言った。そしてしばらく沈黙が続いた。しかし沈黙はバス内に充満し始めたガスによってうち破られた。 「な、何だ!?このガスは!?」 ドアと非常ドアから白い煙が吹き出ており、地面をはうように通路を煙でいっぱいにし、気が付けば目の前が解らなくなるほど充満していた。 「ぐは!」 面堂の悲痛に近い短い叫びが聞こえた。 「どうした、面堂!」 あたるはガスが目に入らないように右腕で目を覆いながら、左腕で手探りしながら声の方へ向かった。しかし叫びは面堂だけに治まらなかった。 次々と聞き覚えのある声が聞こえ、そのたびにどさっと人が倒れる音がした。そのうちあたるの後頭部に急に激痛が走り、意識がもうろうとし始めた。 「起きろ!起きろ、あたる!」 あたるは暗闇の中でメガネの声が響き渡るのを感じた。そして暗闇に光が差し込みはじめ、だんだんとそれは広がっていった。ぱっと目を開けるとそこは冷たい 牢獄のような部屋であった。三百六十度岩の壁で、窓がすこし高いところにある程度だ。ドアもあるが、丈夫な鍵で出来ているらしく、先ほどメガネ達が 体当たりを食らわせたところであった。 「いててて・・・」 あたるは頭をさすりながら、起きあがった。バスの中では誰かに堅いものでも殴られたらしく、たんこぶがあるのがすぐに解った。 「やっと、起きたか。この非常時によくもまぁそんなに眠れるものだ」 「面堂・・・」 「諸星、大変なことになったぞ。ラムとテンがおらん」 今度はサクラだ。腕を組みながら、冷静な言葉遣いであたるに言った。 「なに!?ラムとジャリテンが!?」 汗がすーっと出てきた。あたるは焦点の合わない目を床に向け、黙り込んだ。そんなあたるをサクラは鋭いまたもや冷静な目で見た。 「全員出ろ!」 先ほどのドアが開くとそこにいたのは緑色の兵士の格好をした若い男性が立っていた。あたる達は困ったような顔をして、どうしようもなくその部屋を出ていった。 連れて行かれたのはどうやら軍の最高責任者の部屋のようだ。豪華さはないが、他の部屋より自動ドアが大きく、二つであった。 あたる達を連れてきた若い兵士はドアをノックし、 「失礼します」 と、言ってドアが開いた。中にはいかにも整理整頓が苦手そうな、少し髪がぼさぼさした三十代前半の男がいた。あたる達の姿を見ると、若い兵士に 軽く右手を挙げた。その合図で兵士は部屋を出ていき、室内はその男とあたる達だけになった。 「私の名は、リーヤン・アンツ。同盟軍の元帥でこの要塞の司令長官だ。宜しく」 簡単なあいさつをした。どうやらあたる達は罪人として呼ばれたワケではなさそうだ。 「げ、元帥!?」 メガネが雄叫びをあげた。三十代前半で元帥など若すぎる。どうやら英雄と呼ばれる男であろう。 「君たちが我々の要塞を古めかしいバスで通っていたので、拘束させてもらった。一応身体検査と体内のエックス線検査をして、 君たちが帝国軍の関係者かどうか確かめさせて貰ったが、どうやら私の勘違いだったようだ。すまなかった」 あたる達は何がなんだか解らなかった。同盟軍、帝国軍などと聞いても、今現在そんな名の付く戦争はないはずである。 「あの〜、同盟軍とか帝国軍って何です?何のことだか良く解らないんですが・・・」 珍しく面堂が下手に出た言葉遣いで質問した。 「なに言ってるんだ?もう五十年間もこの戦争が続いてるじゃないか」 「せ、戦争!?」 驚きのあまり一同は開いた口がふさがらなかった。しかも五十年続いている戦争が起きてるなど少なくとも、記憶の上では存在しない。 「もしかしたら、君たちは百年前の者達じゃないか?だとすれば百何年もの昔の観光バスに乗っていたのも説明が付く」 「ということはここは未来?」 やっとしのぶが言葉を口にした。 「いや、違う。ここは異次元の世界だ」 サクラが腕を組んだまま鋭いまなざしであたる達を見た。 「なんでわかるんです?」 「お前達はバスで目覚めたときなぜ友引町だと解った?」 「そりゃあ、友引高校が見えたから・・・」 メガネは途中まで言って口を閉じた。どうやら何かに気付いたようである。 「友引高校は木造のはずだ」 「しかし百年も経てば改造もするでしょう」 面堂が説得するかのように少し焦った口調で横から反論した。 「その可能性もあるが、それにしては町が変わらなすぎる。友引高校だけ変わるのはおかしすぎだ」 「しかし何でコンクリート製の学校を見たときに気付かなかったんだ?」 「う〜ん・・・」 全員腕を組んで首を傾げた。(本作品はアニメ版に沿って作られたものです。漫画版ではコンクリート製ですが、ここでは木造の方にさせて頂いております) そのときリーヤンの机の上に置いてある電話のようなものが、コールした。リーヤンはスイッチを押すと「どうした?」とその電話のようなものに向かって言った。 「第一艦隊から第十二艦隊の出撃完了しました」 「よし、解った。出撃は明日十四時とする。それまで各員自由行動とし、飲酒も許可する。今回は今までにない大きな会戦になると思われる。各員は やり残したことを出撃までにすませろ。以上」 スイッチを切るとメガネが再び質問をした。 「あの〜、これから戦闘が始まるんですか?」 「ああ、ここ二、三年大きな戦闘がなかったんだ。敵は物資や動員を蓄えているはずだ。無論我々もだが・・・。そして数日前、敵陣偵察鑑が帝国側の不穏な 動きを発見したのでこちらも準備を進めていたんだ。案の定、敵はこちらに進撃を開始したので、出撃体勢を整えていたって分けさ。じゃあ、君たちは危ないから この要塞の寝室にでも泊まると良い。客人用だから結構家具も充実しているから、帰るきっかけを見つけるまでゆっくりして行きなさい。もし敵が侵入してきたら、 迷わず、白旗を揚げるんだ。いいね?」 「は、はい・・・」 そう言うとリーヤンは部屋を後にした。 〜続〜