ラムたちは依然としてどうしようか迷っていた。 そんな中、カニ道楽が、 「カニタマーっ!」 と大きな声で叫んで、ラム、弁天、ランの3人にあのボール状の物質をぶつけてきた。お雪はなぜか無事だった。 弁天がヘロヘロの声で、 「い、いきなり何しやがるんでいっ!」 と怒鳴ると、カニ道楽は、 「すまんがに。何度も君らを呼んだのだが、反応がなかったからやったがに」 と答えた。ラムが、 「せ、先生・・・何か用だっちゃ?」 と尋ねると、彼は、 「君らに渡したいものがあるがに。ぜひ受け取って欲しいがに」 と答えた。 「ウチらに・・・?」 「そうがに。卒業式のときに取っておいた写真だがに。本当はすぐに渡したかったが、式の後みんなさっさと帰ってしまったから・・・ まあ、みんな、特に君らは私のことを、鬼教師だと思っていただろうから、 その時は少しでも早く私と別れたいと思ってたんだろうに。 今日はちょうどみんなが集まったから、みんなにも配っているところだがに。 ふふふ、こんな事慣れてないから、照れちゃうがに」 写真を手渡す瞬間、彼は涙ぐんでいた。あたるたち地球人がその姿を見たら、 「ずいぶんよくできたロボットじゃなー」 と感心するに違いない。 ラムも、弁天も、ランも、そしてお雪ももらった写真をまじまじと見つめた。 写真のラムは、卒業証書を抱え、涙ぐんでいた。 ラムがそれを見ていると、裏に何か書いてあることに気づいた。 「ラム、元気でやっとるがに?私は今年で惑星中学に勤めて100年目になるが、特に大きな故障もなく、元気でやっとるがに。 今年はまた、3年生のクラスを受け持っているが、君のように世話の焼ける生徒がいないので楽である反面、 張り合いがなく、物足りないとも感じているがに。 こんな退屈な教師生活を続けていると、思い出すのは君やその友達と校内で追いかけっこをした日々のことばかりだがに。 そういえば君は結婚したそうだに?おめでとうだがに。 でも、地球という辺境の星に嫁いだと聞いたとき、初めはびっくりしたがに。 地球での生活はもう慣れたがに?ご主人やご主人の両親とはうまくいっとるがに?私はそれが心配だがに。 でも君は、私の教え子の中でも、とても明るくてかわいらしい子だから、 きっとどこに行ってもみんなから愛されることだろうに。 たぶん君は、私のことは大嫌いだっただろうけど、私は君のことが生徒としてとても好きだったがに。いや、今でも好きがに。 悩みなどあれば、いつでも学校に相談に来るといいがに。何もなくても、ただ遊びに来ればいいがに。 それでは、これからも元気でいてくれがに」 読み終えると、写真の上に、大粒の涙がこぼれた。 こんなにもウチのことを・・・そう思うとラムは涙が止まらなくなった。 「一生会わなければいいのに」などと考えた自分を恥じずにはいられなかった。 横では弁天も同じ様子だった。さすがに涙はこらえていたものの、写真を持つ手が震えていた。 「いい先生ね・・・なんて優しいんでしょう・・・本当にいいかただわ・・・生徒を信頼して・・・ 爆発まで・・・あと、3分ねぇ・・・」 ラムたちを見ながらポツリポツリと述べるお雪のセリフは、ラムたちを良心の呵責で押しつぶそうとする魂胆が見え見えである。 それを聞いて、ラムは、 「べ、弁天・・・ウ・・・ウチ・・・」 と何かを訴えるように呟くと、弁天は、 「わかってらい。やっぱり取り外しにいこうぜ!このまま放って置いたんじゃ寝覚めが悪いもんな!」 と右の親指を上に突き出してにこっと笑ってラムが期待したとおりに答えた。 そう決心した2人をよそに、薄情にもランは逃げようとした。 それを見て弁天が、 「待ちやがれ、卑怯者!てめえ、あいつがこのまま爆発してもいいってのか! あいつがどれだけアタイらのことを思っていたのか、てめえのハートには伝わらなかったのかよ!?」 と叫ぶや否や、ランをとっ捕まえた。 ランは、 「ワ、ワシは関係ないっ!ワシは無実じゃっ!おのれらが勝手に悪の道に・・・」 とジタバタ暴れながら首を横に振って訴えたが、ラムは冷たい目で見つめながら、 「ランちゃん・・・今さら関係ないじゃ済まされないっちゃよ。こうなったら一蓮托生、死ぬときは一緒だっちゃ!」 と取り合わなかった。 「わァーッ、離せェーッ!ワシはおのれらと心中するつもりはなァーーい!!」 そう叫ぶランを、ラムと弁天の2人で強制連行した。 弁天は自分の鎖で自分とランを縛り、ランが逃げられないようにした。 ラムと弁天とランがカニ道楽の背中ほうへこっそりと向かうと、 「君たちもこっちで飲むがに?おいしいがによ」 と突然振り返った。とっさにラムが、 「い、いいっちゃ!それより先生、背中にごみが付いてるっちゃよ。ウチが取ってあげるっちゃ」 とちょうど2年前と同じセリフでごまかした。 「そういえば君は、2年前にも同じようなことを言っていたような気がするがに」 と彼は言ったが、ラムは、 「き、気のせいだっちゃ!」 と彼の言葉に構わず、弁天といっしょに力の限り、背中の爆弾を引っ張った。 しかし2年間ずっとくっついていたためか、接着面が錆び付いていてなかなか取れない。 爆発まであと1分。あせったラムは、 「こうなったら電撃で・・・」 と右手を振りかざしたが、弁天がとっさに、 「ばかっ、やめろっ!!誘爆したらどうすんだ!!」 と制止した。鎖で拘束されたままのランも、 「ね、ねぇっ!もう逃げましょっ!あたしたち、もう十分やったわっ!!ねっ!?」 と言うので、2人も、 「・・・そーだな」 「・・・だっちゃねー」 とあっさり承諾した。さっきの涙は一体何だったのだろう。目にゴミが入ったとでも言うつもりなのか。 第一、ランは何もやっていない。あまつさえ最初から一人で逃げようとしたのだ。 ともあれ、3人が逃げようとした矢先、 「先生、こちらにいらしてください。写真を撮りましょう」 と、カメラを抱えて手招きするお雪の声が聞こえた。 (お雪!?あのバカ!こんな時にいったい何を・・・) 弁天はそう思ったが、カニ道楽は、 「おー、それはすまんがに。ではお願いするがに」 と答えた。 その直後、彼は逃げている最中のラム、弁天、ランをがばっとそのはさみで抱きしめ、 「どうせなら君たちも一緒に撮ってもらうがに。お雪、頼むがに」 と言った。お雪が、 「それでは、この場所に立ってください」 と言うと、彼は嫌がる3人を無理やり同じ場所に連れて行った。 その場所に4人が立った直後、突然4人が消えた。 いや、消えたのではない。お雪が掘っていた異次元トンネルの中に落ちたのだ。 「悪く思わないでね。もともとはあなたたちが蒔いた種なんだから。こんな所で爆発したら大変ですもの」 手を合わせながら、お雪はそう呟いた。 一方こちらはあたるの同窓会会場。こちらでも蟹江がみんなに卒業式のときの写真とあるものを配っていた。 あるものとは、印鑑であった。 「お前たちももうすぐ大人になるからな。大人になると何かとこれが必要になる場面も増えるだろう。 特に、諸星と松井は、な!」 蟹江は自分が話した、婚姻届のことを忘れていなかった。 そう言われて、あたると松井は、ただ苦笑いするしかなかった。だが周囲の者は、彼らの苦笑いの意味が分からなかった。 会がお開きに近づいたところで、しのぶが、 「ねぇ、最後にみんなで記念撮影しましょうよ」 と提案した。みんなそれに賛成し、蟹江を一番前の列の中心にして4列に並んだ。 蟹江の横には、もちろんあたるとしのぶがいた。 セルフタイマーをセットして、松井も蟹江のそばに行った。 その瞬間、上から何かが落ちてきた。 そしてそれはあたる、しのぶ、松井、そして蟹江を押しつぶした。 「な、何じゃあ!?」 びっくりした様子であたるが叫び、上を見てみると、何とラムたちがいるではないか! あたるが、 「ラ、ラム!?お前・・・なんでここに・・・!?」 と言うと、ラムも、 「ダ、ダーリンこそなんで・・・?も、もしかして・・・ここ、ダーリンの同窓会の会場だっちゃ!?」 とあたるに言い返した。 「な・・・なによなによ!どうなっちゃってんの!?これェ!」 「おい!一体何が起こったってんだぁ!?」 突然の出来事に、そこにいたみんなが戸惑っていたその時、強烈な爆発音が響いた。ついに爆弾が爆発したのだ。 それぞれの同窓会は、その場にいた数十名の悲鳴で幕を閉じた・・・ 次の日、こんなニュースがテレビで報道された。 「ニュースをお伝えします。昨日の夜8時50分頃、友引町にある友引町公民館で原因不明の爆発がありました。 この爆発で、このとき中で行われていた同窓会の参加者の中学校教師蟹江金蔵さんを始め、 あの諸星あたる君を含めた蟹江さんの教え子40名とその他3名が怪我をしました。 被害者の証言によると、何か巨大なカニのオブジェのようなものが現場に突如現れ、爆発したということです。 付近の住民の間では、テロではないかという不安が広がっています。 この事件で警視庁捜査1課は友引署に合同捜査本部を開き、事件、事故の両面から捜査を進めています」 その他というのが誰であるかは言うまでもないだろう。 ちなみに、この日の諸星家の新聞の見出しはこうだった。 「友引町公民館で爆破事件。犯人の目的は?」 「愉快犯か?怨恨か?テロか?強まる不安」 「どうしてこんな目に・・・(被害女性S,Mさん)」 この新聞社は、どうやら事件と読んでいるらしい。 その日の午後、お雪が地球にやってきた。そしてみんながいる公園に到着すると、 「みんな、同窓会の写真ができたから、渡しに来たわよ」 と言った。 しかしみんなの表情はまるでお通夜のように暗かった。 昨日の爆発で、今日ここにいるラム、しのぶ、ラン、弁天、松井、そしてあたるがみんな火傷などの怪我を負った。 一番ひどかったのがカニ道楽の真下にいたあたるで、全身に包帯を巻いていた。 その姿は、まるでミイラ男だった。 「これがそうよ。見て!先生、上機嫌ね・・・目一杯微笑んでいらっしゃるわよ」 みんなはお雪に写真を見せられた瞬間、大きな声で驚いた。 左頬の絆創膏が痛々しいしのぶが、 「何よぉ、この人!あれだけの衝撃を受けたのに、ピンピンしてるじゃない・・・」 と大きな声で言うと、左腕を吊っているラムも、 「は・・・ははは・・・余裕のピースサインだっちゃね・・・」 と呆れたように苦笑いしながら言った。 頭に包帯をぐるぐる巻きにしたランが弁天とラムのほうを見て、 「だからワシが早く逃げたほうがええってゆうたやないか、アホ!!」 と小さく怒鳴ると、左目に眼帯をつけた弁天も、 「うるせえっ!このヤローがこんだけ頑丈なやつだと分かってたら、アタイだってさっさと逃げたさ!!」 と怒鳴り返した。 右足を骨折して松葉杖をついている松井が、 「あたる。宇宙人と夫婦になるのって、大変なんだなあ。それに比べるとまだマシか、オレは・・・」 とぼやくと、全身包帯だらけのあたるも、 「分かってくれるか、大輔。オレはこんなことを毎度毎度体験してるんだぜ。 本当に体が持たんよ。お前は幸せ者さ・・・あ・・・イテテ・・・」 とぼやいた。あたるはさらに、 「ねえ、お雪さん。こいつら、いつもこんなことやってたの?気に入らない教師にミサイル打ち込んだり(コミックス「惑星教師CAO‐2」参照)、爆弾仕掛けたり・・・ オレたち地球人はせいぜい、黒板消し入り口にはさんだり、水ぶっ掛けたり、リンチする程度だよ。 あと、女の教師なら、スカートめくったり、ブラジャーのホックを外したり・・・そんなところかな」 と問いかけると、お雪は、 「地球人の教師いじめに比べると、私たちの知っている教師いじめのほうが、何と言うか、堂々としてますわね。 ラムも弁天もランも、昔から教師いじめはよくやっていましたわ。 中にはご主人様がおっしゃったような陰湿なものもあったような気もします。 私、そんな3人を見るたびにいつも、やめろと言ったんですのよ。 でも、3人とも私の言うことなんか耳も貸さなかったんですの・・・」 と答えた。それを聞いた3人は、 「嘘をつけーっ!!いつ言ったァ!?ちっとも言わなかったじゃねえかっ!!」 「お雪ィ!さっきからおんどりゃ、自分に都合のええようにええようにぬかしおってからに!!」 「ダーリンに媚を売るなんて!ずるいっちゃ、お雪ちゃん!!」 と猛反発した。そんなことなど意に介さず、お雪はさらに、 「あ、そうそう。写真は1枚100円よ。ラム、ラン、弁天、ちゃんと払ってね。 あ、それから、ご主人様たちのクラスメートの方々はお代金のほうは結構ですわ。 あの事故のせいでご主人様のクラスメートの方々のカメラが全部壊れてしまわれたから。そのお詫び代わりですわ」 とみんなに伝えた。 この商魂たくましい女王が統治する限り、海王星はこれからも繁栄し続けるだろう。 「それにしても今回の同窓会は盛り上がったわねえ。私、次の第2回同窓会でも幹事をやろうかしら? そうですわ!あの、ご主人様。次の同窓会は私たちと共同で開催しませんか? 私が今回手配した会場は、あと40人いたら割引率が上がるんですの。 そうすれば、お互いさらに安い料金で楽しめますわ」 お雪の思わぬ提案にあたるは、 「は、ははは・・・確かに盛り上がったねぇ。それ、結構いいアイデアかも。 でも、もうあんな騒ぎは金輪際勘弁してくださいよ!」 と力なく答えた。 第2回同窓会の予定は今も未定のままである・・・ The end