BD2  夢の未来 「これは・・・、ひょっとこ?」 「あー、それは我が家に代々伝わる家紋です。それが何か?」 「おまえ、面堂家の人間け!?」 ラムは手が使えないので、右足の人差し指でシュガローを指さした。 「そ、そうですけど・・・」 シュガローは目の前に突きつけられた人差し指にびっくりしながらも答えた。 「こう見えても僕は面堂家の長男なんです。だからこの戦争が終わったら、僕は軍を辞め、頭首にならねばならないんです」 「で、でもシュガロー・メンダーって名前がちがうっちゃ」 「ああ、それは地球が宇宙連合に加盟したことで、日本人の名前の発音が変わったからですよ・・・」 「は?どういう事だっちゃ」 「あれから地球は宇宙連合に加盟したことで他星との貿易が盛んになりました。同時に宇宙人との交流が深まり、地球人との子供が出来るのは、当たり前の時代に なってきました。日本人は新しいもの好きという性格から言葉にも大きな変化が起こりました。そしてその影響は名前までに達し、 そのうち東洋系の人間でも今のような名前が出来てきたんです。そして面堂家はメンダー家と名前が変わりました」 「諸星ってのはどんな名前だっちゃ?」 ラムはあたるの子孫、つまり自分の子孫の名字はどんなのか気になった。 「ええっと、たしかモロヴァシーだったと思います。あ、うちの上官もモロヴァシーでしたよ」 同盟軍第一小艦隊司令鑑「ルーガ」 「なにか呼びました?」 青龍組元隊長・シュガロー・モロヴァシー大佐が先日上官になったあたるに小声で呼びかけた。 「いや、なんも・・・。空耳じゃねえの?」 青龍組控え室のモニターにリーヤンの顔が映っている。控え室といっても五十メートル四方の部屋である。そのなかに青龍組全156人がきれいな四角形を作って、 だまってリーヤンの顔を見ている。 「これから青龍組の選抜メンバーは敵艦シリウスに突入する。選抜メンバーのうち、 第一班は捕虜の救出、第二班は敵司令の捕獲作戦を展開してもらう。全員、誇りを持って戦うように・・・。 では選抜メンバーを発表する」 リーヤンにとって、誇りなんかどうでも良かった。できれば生きて帰ってきてほしいのだ。 「第一班、諸星あたる、面堂終太郎、シューベル、ゼルクス・・・」 リーヤンは選抜メンバーの名前が乗っている紙をみて止まった。組員はどうしたというような顔をして、 次の反応を待った。 「これ・・・、メガネって・・・。名前?」 メガネはぶすっと顔を起こらせた。 「あ、メガネさんですね、つ、続きを・・・」 ゼルクスがメガネの怒りが爆発する前にリーヤンに次を読むように催促した。 リーヤンは訳のわからぬまま、名前を読み上げ、第二班も発表した。 「ったく、名前くらい確認しとけ。ニックネームで読むんじゃない」 メガネは名簿を提出したゼルクスにとがめをかけていた。 選抜組はロケットに乗るべく、ハンガーに向かっていた。 「すいません、メガネでいいと言われて、ついそのまま出してしまいました」 ゼルクスは頭をぺこぺこと下げながら謝った。 「気にするな、俺たちだって本名知らないんだから、にゃははは」 「知りたくもないがな・・・」 面堂が刀を右手に、淡々と言った。 「何だとっ・・・」 メガネは面堂に怒りの視線を向けた。 「まあ、落ち着いて。つきましたよ」 「ったく・・・」 「ほー、以外とでかいな・・・」 あたるは管制室からガラス越しに見えるロケットをみて感想を言った。 「大きいですが、スピードは並ではありません。これなら敵に追跡も振り切れるでしょう。 さ、いきましょう。出発はすぐですよ・・・」 「もう出るのか?」 「ええ、待っていても仕方ないですからね・・・」 すると管制室に巫女の姿をしたサクラが入ってきた。 「サクラさん」 あたるは甘い声を出しながらサクラに歩み寄り、そのままエルボを食らった。 「ゼルクスとやら、しばし待っていただきたい」 「しかし、出撃時間が・・・」 するとサクラはだまってお札を取り出し、ゼルクスに投げつけた。 「悪霊退散!!」 「あ、悪霊!?」 あたるたちは悪霊という言葉に驚きながら、ゼルクスを見た。 ゼルクスはお札を何なりとよけて、ふっと空中に飛び上がり、そこで浮遊した。 「にゃははははは、姉さん、わいの変装を二度も見破るとはさすがでんな」 きまじめなだったゼルクスの顔が、怪しい笑いを浮かべている。 「やはり貴様であったか・・・」 「その声は・・・、夢邪鬼!!」 ゼルクスはボンと煙を立てるとあの夢邪鬼が爺くさい笑いを浮かべていた。 「貴様!引退したんだろーが!!なんの因果で俺たちに夢を見させやがる!!」 あたるはジャンプしながら、叫び、ヒュンと夢邪鬼の頭めがけて木槌を振り下ろしたが、夢邪鬼はさらっと難なくよけ、あたるは床にたたきつけられた。 「いや〜、あんさんも相変わらず元気でんな」 「そんなことはどうでもいい!」 あたるは腰をさすりながら、上向きに夢邪鬼に怒鳴りつけた。 「落ち着け、諸星・・・」 サクラはあたるに一言いうと夢邪鬼に鋭い視線を向けた。 「おぬし、何ようで我らを夢に迷い込ませた?」 「にゃははは、ちょっとあんさん方に解って貰いたいことがあるさかい、ほんじゃま」 夢邪鬼は背を向けると部屋を出ようとした。すると、夢邪鬼の目の前にきらりと鈍く光る刀が横から突き出てきた。 「まあ、待て、そう急ぐこともなかろう」 汗を垂らし、夢邪鬼はふるえながら面堂を見た。 「はっ・・・ははは・・・、兄さん、げ、元気でしたか?」 「おかげさまでな。今度は前みたいには逃がさんぞ。おとなしくお縄をちょうだいしろ」 「あんさんみたいな若造にはまだまだ負けまへん」 あくまで強きの夢邪鬼に面堂は刀を振り上げた。目の前の刀が消え、夢邪鬼は刀の届かない空中までくると、右手の人差し指を面堂に向けた。 「ほな、さいなら」 しかし面堂に魔法がかけられることはなかった。あたるが後ろに木槌を直撃させたからだ。 夢邪鬼のサングラスには星が点滅している。 夢邪鬼はしめ縄でぐるぐるぐる巻きにされ、身動きがとれなかった。 「なにさらすんじゃ、ボケ!!はよ、縄を解かんかい!!」 じたばた暴れるが無駄な抵抗である。 「縄を解けといわれて解くやつがどこにいる?」 面堂は刀のさやの先で夢邪鬼のアゴくいくいっと突っついた。 「さあ、話して貰おうか・・・」 「誰が話すかい、ボケ」 バキ!みし!ベン! 「話せば長い事ながら・・・」 「短く話せ」 夢邪鬼の頭の上には顔の大きさを越えるたんこぶと木槌が乗っていた。サングラスはすこしばかりひびが入っている。 「わいは人に夢見せるのに飽きて、ラムさんの夢の中でのんびり暮らしとったんや」 「貴様!ラムさんの夢の中に巣くっていやがったのか!!」 次はメガネが夢邪鬼に天誅を与えた。夢邪鬼の顔は木槌なり刀なりで、でこぼこしていて、元の顔が解らなくなった。 「あれ以来、あんさん方は、相変わらず、自分たちの世界を現実だと信じて止まへんかった。 わいは、信じられんかった。あれだけの夢を見せて、それでもなお、今を現実だと信じるあんさん方を・・・」 夢邪鬼は落ち着いた口調でしゃべりはじめた。顔は相変わらず、ぐちゃぐちゃではあるが・・・。 「なぜや、なぜ、現実を信じようとするんや、それが心んの中でその疑問がわいてきたんや」 「何事にも前向きに考える、それが俺たちにポリシーだ」 「そんなんはただのアホなだけや」 「なにー!?」 メガネは木槌を振り上げた。しかしそれを面堂が止めた。 「落ち着けメガネ、事実だ」 メガネはは木槌を振り上げたまま、体の向きを面堂の方向に変えて、そのまま振り下ろした。 「ぐわ!!」 「何が事実だ。さあ、話を続けろ」 夢邪鬼はしゃべりたくなかった。言うこと言うことにあたるとメガネが反応し、自分に襲いかかるからだ。 だが、しゃべらなければ、それで天誅が下される。多少の術もしめ縄で力を封印され、まさにとらわれの身である。 「それで、夢と未来をつないだらどうやちゅう、考えが浮かんだんや。ちょうど未来もあんさん方の アホのせいで戦争が起きてましたからな。そんでわざわざ未来まで行って、そこで戦ってる死にたくない、ここから 逃げ出したいという兵隊さん方を夢の中に誘いこんだんや」 「それで現実逃避をさせたと言うことか?」 サクラが髪を後ろで束ねながら聞いた。 「そや。まあ、ここでも結局は戦わないかんから、現実逃避にはなってませんけどな。ただ、夢ん中やから 死への恐怖が無いんやさかい、そこら辺が心理状態を安定させてますけど・・・」 するとあたるはメガネにひそひそ話で話し始めた。 「なんか、話題がずれてないか?」 たしかにそうである。あたるたちは最初、なぜ自分たちをここにつれてきたのか、それを最初に聞いたはずである。 だが、今は未来の兵隊たちを夢に誘い込んだ話になっている。どうでも良いことではあるが、なぜかあたるは気になった。 「まあ、たしかにそうだが。そんなこと、どうでも良かろう」 夢邪鬼はサクラに話を終わらせたらしく、サクラは何か考えた様子だ。 するとサクラは口を開いた。 「まあよかろう。では、我らを元の世界に戻して貰おうか?」 「したくても、できへんがな。しめ縄を解いてもらってへんのやから・・・」 するとサクラはため息をついて、夢邪鬼の後ろに回り込むと縄を解き始めた。縄を解けば、夢邪鬼はまた何かするに違いない。 そう思ったあたるはそれを止めようとだめだっとさけぼうとした。が、口を開く頃には縄はもうサクラの手で束ねられていた。 「は、はやい・・・」 メガネは夢邪鬼を逃がしてはならないとあたると同じ危機感を感じていたが、サクラのあまりにも早い縄解きに感心させられてしまった。 「さあ、我らを元の世界に戻して貰おうか」 すると夢邪鬼は怪しい笑い声をあげた。 「やっぱり姉さんも若すぎや。わいが、そう簡単に逃がすとでもお思いですか?」 「しまった!罠か!」 サクラは大声を上げた。 「罠って事ぐらい俺だって気づいたが・・・」 「やっぱサクラさんも歳なんじゃないか?」 後ろであたるとメガネがこそこそ話しているのにサクラはわなわなっとした目つきであたるとメガネの目の前に来た。 「誰が歳じゃーい!!」 サクラは二人を懇親の力を振り絞って蹴飛ばした。二人は要塞の中を突き抜けて、中央だった元の場所から端っこまで到達した。 サクラの頭上の天井には果てしなく続く穴が、砂煙を上げている。 「いててて・・・」 二人はたどり着いたその先で、ぶつけた頭に手を当てていた。ぶつかった壁には人型の跡がくっきりと残っている。 「相変わらず馬鹿力持ってるな〜」 「そんな悠長なこと言っとる場合か!!」 メガネは直ぐさま立ち上がり、元来た道、いや、とばされてぶち破ってきた壁の穴の中に消えていった。メガネの姿が見えなくなるとあたるは何を考えたのか、 元の場所に戻ろうとせず、要塞内を適当に歩き始めた。すると急に廊下が汚くなり、蜘蛛の巣やネズミの穴が出来た。驚いたあたるでは一瞬立ち止まったが、 また歩み出した。 しばらく廊下を歩いていくと、自分たちの寝泊まりしている部屋を見つけた。中をのぞくとホコリをかぶっていて、 電気もつかない。蜘蛛の巣までできている。 「まさか・・・」 あたるは突然走り出した。よくよく廊下を見てみると、ひび割れが目立っている。 あたるは食堂にたどり着いた。やはり電気はつかない。 「夢邪鬼のやつ、俺だけ此処に取り残そうってかい。言い度胸だ・・・」 あたるはこの要塞内に、夢邪鬼の手によって取り残されたと悟った。 あたるは笑いながらも、冷や汗を垂らしていた。 戦艦シリウス捕虜室 「シュガロー、どこ行ったっちゃ!」 ラムのいた監禁室も急に周りが古びた部屋になり、また縄も腐り、ほどけてしまった。 そして同時にシュガローほか、敵の兵が消えてしまったのだ。 (なにが起きてるっちゃ・・・) ラムはドアを電撃で破り、外に飛び出したが、古びた廊下が永遠と続いている。 そのまま先へ進むと外が見える広場のようなものに出た。 外をのぞいてみるとそこには地球が見える。ラムはガラスの窓をたたいた。たたくたびにガラスの光の反射具合が変わった。 しかし外は宇宙空間である。生身で外に出れば、死ぬのは当然だ。ラムは二、三歩後ずさりした。 そして何かに気づいたのか、はっとした顔をして、鑑の中に消えていった。 「あったっちゃ」 ラムはどこかの発射台に来ていた。そこには脱出用カプセルがあり、ラムはこれを探していた。カプセルは卵のような形をしていて、 上は緑色のガラスのようなもので、下は頑丈な白銀、中は小さなベットのようになっていて、人一人寝っ転がれる。枕元にはいくつものスイッチが並んでいた。 さっそくカプセルを起動させると、ガラスがウィィンと音を立て、真ん中で二つに分かれ、スライドしながら開いた。 ドアに着いていた砂ボコリが開くのと同時にかさかさと音を出しながら落ちた。 ラムは乗り込むと、電源スイッチを探し始めた。 「あ、これだっちゃ」 上向きの状態で、頭のてっぺんの少し上あたりに赤色のボタンが、ひときわ目立って光っていた。それを押すとガラスが、閉じられ、急に重力が 消えるのが感じられた。外を見てみるとすでに宇宙空間に出ていた。重力が消えたのはそのためだ。ラムは狭いカプセルの中を出来る限り、体を動かして、 先ほど見えた地球を探した。体を右に向けたところに小さく青く光る地球が見える。ラムが枕元にある操縦桿を動かして、方向を調整、ロケットの噴射ボタンを押した。 がくんと、体に少し衝撃が走ったが、たいした傷もなく、カプセルは地球に向かった。 三時間後 ようやく地球の大気圏内に入った。カプセルの周りが赤く燃え始めたのが解った。 ラムはクーラースイッチを押すと、地上への激突に備えて、ショック緩和スイッチを押した。 ラムの脱出カプセルが墜落するかと思われる無限に広がる大地 そのころあたるは要塞から小型戦闘廷をどうにかこうにか操縦して、地球に落下し、ついたその先で、無限に広がる大地を見て、やる気をなくしていた。 「町はどこだ・・・」 あたるはそこにへたりと座り込んで、はあとため息をついた。あぐらをくんだ足の中に、小さな白い花が風に吹かれて揺れている。 そのときヒュゥゥ・・・と上空から音がして、ぼーっとしたまなざしで空を見上げた。上を向いたときには驚く間もなく、その落下物に襲われた。 「うわぁぁぁぁ!!」 あたるは爆発に吹き飛ばされ、五十メートルばかし吹っ飛んだ。あたるは立ち上がるとその落下物に目を向けた。 「な、なななな何だあ!?」 あたるは落下物に小走りで歩み寄り、その白い物体に驚くほか無かった。すると上の方についている緑のガラスが開き、中からラムが起きあがってきた。 「ショック緩和スイッチを使ってもやっぱり痛いっちゃねー」 ラムが頭を押さえている。落下の際、多少なり衝撃があったらしい。 「おのれは久しぶりの再会ぐらい感動的にできんのか!!?」 「あ、ダーリン、久しぶりだっちゃ」 ラムはあたるの怒りに構わず、あたるに抱きついた。あたるはあきれながらも離れようとはしなかった。 「ったく・・・」 と、いいながらも顔は赤くなっている。 「ところで、お前、此処が何処か解るか?」 「さあー、全然・・・」 2人は大地の真ん中で、あたるはあぐらを、ラムはなぜか正座をして座っていた。 風がラムの長い髪を揺らしていた。 「ま、とにかく、歩いてみるか・・・」 あたるは立ち上がりざまに、背伸びをして目の上に手をかざし、周りを見渡した。あたるの目には、山やら空やら何の平凡のない地平線が写っている。 「よし、あっちだ」 何の根拠もなく、向こうに見える山の方向を指さした。 「何でだっちゃ」 「野生の勘さ・・・」 「あっそ・・・」 とりあえず、ラムも飛び上がり、歩み出すあたるの横でで飛行した。 しばらくすると、あたるの足下に何か白く、石のようなものがあった。 あたるは何かに気づいたというわけでもなく、その白い石を拾ってみた。 「なんだっちゃ、それ?」 「俺が知るかよ」 あたるはその白い石を回しながら、その正体を探ろうとした。しかしすぐにそんなものの正体がわかった。 なにか不規則な穴が開いていて、あごの関節のようなものがあった。 「げ!頭蓋骨!」 あたるはその頭蓋骨に吃驚して投げ捨てた。地面で頭蓋骨にひびが入り、強風によってバラバラになった。 「ああ、かわいそうだっちゃ!」 ラムはまだ飛ばされていない頭蓋骨を集め、どこからか布を取り出すと、それに包んで、腰が引けているあたるに手渡した。 「な、なんだよ?」 「ダーリンがもつっちゃ」 「なんでじゃ!」 しかしラムは返事もせず、そのまま先を急いだ。あたるはしぶしぶその布を担ぎ、ラムの跡を追った。 「あ、町だっちゃ!」 ラムが十メートル先で手を振っている。あたるは歩き疲れていたが、ラムは休憩を認めず、あたるは気力だけでラムを追っていた。 「やっと町かぁ〜」 ふと気が抜け、町が見えるとともに前方に倒れ込んだ。 「あ、そっちは崖だっちゃよ」 あたるの足下には急斜面な坂道があるのだ。あたるの目にごつい岩が写った。 あたるは崖を見事に滑り落ち、町のはずれで終わっている坂道で、ぼろぼろになりながら何とか生きていた。 「大丈夫け?」 「大丈夫なわけあるか・・・」 「ふうん・・・」 ラムはあたるから町に視線を移した。草木が無節操に生えていて、土と木で作られたであろう家は、穴が開いていて、人の姿も見えない。 「なんだ、誰もいないではないか・・・」 あたるは立ち上がり、その荒れ果てた町を見た。 「そうみたいだっちゃ」 しかし食料ぐらいあるかもしれない、そういってあたるは歩み出した。 「しばし待ちなされ・・・」 横から毛布をかぶって、一人寂しく座っている老人がいた。 「なんすか?」 「おぬし、その服から見ると同盟軍のものか?」 あたるはいまだ青龍組の制服を着ていた。しかし同盟軍のものではない。だが、それはそれで違うと言えば、矛盾が生じる。 仕方なしに 「ええ、まあ・・・、そんな感じです」 と正否が解らぬ答えをした。 「まだ、同盟軍は存在したのか・・・」 「なにを言ってるんですか?まだ宇宙の方で戦争を・・・」 「おぬしこそ何を言っておる。戦争は五十年前に帝国の勝利で終わったではないか・・・」 あたるは返す言葉の選択に迷った。たったいま、あたるたちは戦闘の前触れを経験してきたのだ。 「因みに此処はどこなんですか?」 あたるは話題を変え、今一番聞きたい、ここは地球の何処の国なのか、それを問いだした。 「ここはな、帝国軍に襲われた首都星を脱出して、落ち武者狩りをしている帝国の追跡にふるえながら 暮らしているやつらの最後の地なんだ」 「はあ・・・。いやだからここはなんて言う国なんですか?」 老人の的はずれな答えにあたるは言い方を変え、はっきりとした質問をした。 「国名?そんなものはありゃせんよ。今の世にとってはな・・・。まあ、あえていうならその昔は日本と呼ばれていた国だ」 「に、日本!?」 あたるは日本にこんな土地があるはずがないと、一応何県の何市なのかそれを聞いてみた。 「ああ、東京都、友引町じゃ・・・」 「そ、そんなばかな・・・」 あたるは魂が抜けたかのように、その場で両膝をつき、四つんばいになった。たしかに夢の世界ではあるが、 夢邪鬼が今まで見せてきたものは全て未来を想定してある。つまり未来は戦争により、地球は滅びることを悟ったのだ。 「ダーリン・・・」 ラムはあたるの両肩に手を添えて、四つんばいのあたるを起こそうとした。 「お前・・・、ラムか?」 老人が少し、声を大きく出して、立ち上がろうとした。しかし相当弱っているのか、すぐにバランスを崩して、しりもちをついた。 四つんばいでショックのあまり下を向いてたあたるは、その老人を見た。 「おれ・・・?」 その老人は白髪だらけで、しわがたくさんあるが、どう見てもあたるである。 「やはり・・・。夢邪鬼の仕業か・・・」 老人あたるはぼろぼろの上着のポケットから、小さな紫色に光るビー玉のようなものを取り出した。 「ここはな、夢の世界なんかじゃない。お前たちがいままで見てきたことも夢ではない・・・。正真正銘の未来だ・・・。 お前たちは夢邪鬼に夢なんか見せられていないんだよ。すべてこのビー玉が未来につれてきたのだ・・・」 老人あたるは、先ほどのビー玉をラムに手渡した。ラムはそのビー玉を眺めるの中に何か恐ろしいものが写った。 ラムはそれを見ると思わず、ビー玉を放り投げた。あたるの目の前に転がってきたビー玉はあたるの顔の正面で止まった。 あたるもそれを眺めていると、やはり恐ろしいものが写った。決してはっきりと見えるものではない。たが、心底恐怖感を 感じさせられる不思議なビー玉なのだ。 「おい、じいさん、これは・・・」 「それはわしが、まだ若かったときのことだ。ラムと宇宙を旅していた時のことだ。わし達の船は途中で燃料が切れ、とある未開拓の星に不時着した。 そこでは人はおろか、生き物は草木に至るまで存在しなかった。絶望にくれていたわしらに夢邪鬼が現れた。いや、夢邪鬼に化けた悪魔だった。 その悪魔はわしらに命を助けてやる代わりに、このビー玉を手放さないよういわれたのじゃ。わしらは何も疑わず、そのビー玉を受け取ってしまった。 そしてビー玉がある日、わしらの心に話しかけてきた。これは未来を絶望にする玉だと・・・、絶望の未来にしたくなかったら自ら自害しろと・・・。 わしらは正直言って死ぬのが怖かった。その恐怖心に負け、その一ヶ月後、同盟と帝国の戦争は始まってしまった。そのあと、わしらは罪の意識から 逃れようとして、宇宙に旅立ったが、途中で帝国の追跡に遭い、ラムはそこで死亡。わしは何とか逃げ切ったが、ラムを失った悲しみから、息子の こけるを育てる気力をなくし、いとこに預け、戦争が終わるまで旅に出た。そして三年前この待ちに戻ってきたとき、戦争は終わっていて、 面堂やメガネは戦死、ほかは行方不明・・・。そして今に至るまで、ここで暮らしてきた。決して楽ではなかったがな・・・」 そして老人あたるはふっと息をつくとうつむいて、黙り込んだ。ラムは黙り込んだ老人あたるに近寄り、肩を揺らしたが、あたるがそれをやめさせた。 「これ以上、生きるのに疲れたんだろ・・・、眠らせてやれ・・・。なにしろ悲劇の連続だったからな・・・」 ラムは老人あたるから貰ったビー玉を右手で握りしめ、老人あたるを見つめていた。横ではあたるが老人あたるを横にすると、手を胸の前で組ませて、手を合わせた。 「なあ、ラム。これからどうする?」 「とにかく、現実に戻らないと・・・」 「そうか・・・」 「おきろ、おきろあたる!朝だ!起床時間だ!おい!」 あたるが目を覚ますと目の前にはメガネの姿が見えた。どうやら修学旅行のバスの中のようだ。あたるは現実に戻ったことを悟った。 まだメガネが自分の肩を強く揺らしている。あたるは目が覚めていることをメガネに言うと、隣に座っているラムを見た。 肘をついて外を眺めていて、ぼーっとしたまなざしだ。 「ラム・・・」 「ん?」 「おまえ、何が起きても生きるのと、命を捨てて絶望な未来を救うのとどっちがましだ?」 「さあ、そのときにならないとわからんっちゃ・・・」 今は高校生という時の流れを歩んでいる。さきの事はそのとき決めればいい。あたるはそう思った。そしてあの夢邪鬼は何だったのかそれも解らない。 バスは九州自動車道に入ったようだ。 〜完〜