ヨロイ娘の新たな試練!体力テストは乙女の園で!(第1編) 午前6時ちょうど。ここは水乃小路邸内である。 穏やかな朝、とはいかないようだ。邸内には地響きが鳴り響いていた。その地響きの主は、そう、水乃小路家の令嬢、飛鳥だ。トレーニングのひとつ100メートルのタイムトライアルを行っている。しかも、100キロの甲冑を身にまとってである。 「100メートル11秒3。またタイムが伸びたわ」 計測していた女性使用人も驚きを隠せない。 断っておくが、飛鳥は自分の意思で甲冑を身に着け始めたのではない。 水乃小路家には奇妙な掟があり、水乃小路家の女子は、15歳になるまで、身内を含めて男と接することはおろか、姿をさらすことさえも許されない。このため彼女は小さいころから甲冑を着て育った。上であげたようなトレーニングも、体が甲冑の重さに耐えられるようにするためのものである。 しかし、15歳となった今、年頃の娘である彼女が、なぜいつまでも甲冑を身にまとう必要があるのだろうか。これには後述するもうひとつの理由がある。 一方そのころ本邸では、飛鳥の母がすでに目を覚ましていた。そして、 「飛鳥をこれへつれていらっしゃい。大事な話があります」 周りにいる一人の女性使用人に伝えた。 「お嬢様はまだ朝のトレーニングの途中で・・・」 「大事な話と言ったはずです。急いで連れていらっしゃい」 その使用人の発言を、母は間髪いれず突っぱねた。その使用人は大慌てで飛鳥のところへバイクで向かった。水乃小路家はとても広い。 「飛鳥お嬢様、お母様が大事な話があるそうですので、今日のトレーニングはこれで切り上げるようにと」 使用人がそう伝えると、飛鳥は甲冑を脱いだ。大事な話とは何かしら。飛鳥はそう思いながら、本邸へ急いだ。 「学校・・・?」 「母がすでに転入届を出しておきました。今日から行ってらっしゃい」 鳩が豆鉄砲食ったような顔で呟いた飛鳥に、母はそう伝えた。そこに、ふすまを乱暴に開ける音が響いた。そうするや否や、飛鳥の兄、飛麿が入ってきて、 「母さん!飛鳥が学校に行くって本当か!?」 「何です、トンちゃん。騒々しい・・・」 怒鳴るような声で叫んだ飛麿を、母はそう言ってたしなめた。すぐに飛麿が、 「オレは反対だ。だって飛鳥は・・・その・・・」 踏ん切り悪く飛麿が言うと、母は、 「ほほほ、安心なさい。その学校は男子禁制の女子校です」 そう言って、心配そうに言う飛麿を安心させた。 「よかったなあ、飛鳥!これでお前も学校に行けるではないか」 「はい・・・おにいさま。これなら何とか通えそうです」 そう言って喜び合っている兄妹の元に、何の脈絡もなくいきなりあたるが現れて、 「よかったねェー、飛鳥ちゃん」 と飛鳥の肩をポンと叩きながら言うと、突然、飛鳥が、 「キャーーーッ!!おとこォーーーー!!!」 と叫びながら、あたるを空のかなたに吹き飛ばした。これが飛麿の心配の原因だった。飛鳥は極度の男性恐怖症で、外出するときも甲冑なしでは怖くて歩けなかった。水乃小路家に生まれた女子は、誰もがその症状に陥るという。飛鳥の場合、その原因を作ったのが、他ならぬたった今吹き飛ばされた人物であった。 飛鳥が学校に行くと言うニュースは、瞬く間に面堂家の知るところとなった。面堂家の御曹司、終太郎は黒メガネ隊の一人によってそのことを知らされた。 「そうか、飛鳥さんが・・・当然といえば当然だな」 まあ、女子高なら大丈夫だろうな、とその時面堂は思った。この後とんでもないことが起ころうとは・・・今は誰も予想することはできなかった。 午前8時、飛鳥は母とともに学校の校長室にいた。そこで、大仏様の顔をした(もちろん女性)校長が、学校の対男性用警備システムについて誇らしげに語っていた。 「男性恐怖症?ご安心くださいお母様。わが校の警備システムは日本一ですから、オスはたとえ犬でも侵入不可能でございます。おほほほほほほほ」 「・・・と申しますと?校長先生・・・」 飛鳥の母が尋ねると、校長はその自信の根拠について話した。 「高さ30メートルの滑りやすい外壁、てっぺんには対男性用レーザー、よしんばそれを乗り越えても、その下には男嫌いのワニとピラニアを放った堀がめぐらされていて、万が一それを乗り越えても、男嫌いのドーベルマンが・・・」 それを聞いた飛鳥は、まだまだ小さい胸の辺りで手を組んで、 「まあ、なんてすばらしい・・・」 とつぶやいて、たいそう安心したのであった。面談が終わった後、母は、 「じゃあ、ママはもう帰りますからね。がんばるのですよ」 といって飛鳥を激励した。それに対して飛鳥も、 「はい!お母様」 と元気に答えた。このときの飛鳥には、この後自分にとてつもない不幸が降りかかろうとは、思いもしなかった。ただ、新しい生活への希望に胸を躍らせていた。 実のところ、飛鳥はうんざりしていた。再三の失敗にもかかわらず、飛鳥は母によって、ほぼ毎日朝から晩まで、男性恐怖症克服プログラムを受けさせられていたのだ。ここにいる間は、その苦しみから解放される・・・その喜びでいっぱいだった。 そのころ友引高校では、掲示板に、体力テストのお知らせがあった。ちょうどそこに面堂が現れ、珍しく遅刻もせずにそこにいたあたるに尋ねた。 「諸星、何をやっているんだ?そんなところで」 「あ、面堂。いやな、何でも、校長が体力テストを開くのだそうだ。今日の午後1時、女子中学校に忍び込むんだってよ。あーあ、なんかかったりぃよなー」 女子中学校?面堂の脳裏にいやな予感が走った。でもまさか・・・不安を感じながらも彼はあたるに尋ねた。 「おい、その学校、何という校名だ?」 「潔癖女子中学だってさ!ほら、あそこの掲示板に書いてあるぜ」 掲示板のほうを指差し、あたるは面堂にあっさりと答えた。 何だと?一瞬耳を疑った。潔癖女子中学と言えば、飛鳥さんが今日から通っている学校ではないか。そんなところに男ども、特に諸星が行ったら大変なことになるぞ。 あわてて自ら掲示板を見に行ったが、やはりあたるの言葉どおりだった。 あわてた様子が顔色に現れた面堂に対して、あたるが、 「何だ面堂。お前、この学校知っとるのか?」 「あ、ああ、知っているも何も、われわれブルジョアの間では知らぬものはないというほどの名門校さ。と、特に、その・・・執拗な警備体制ときたら・・・」 この男を行かせるのが1番まずい。何とかして学校潜入を諦めさせなくては。面堂はその思いから、周囲にいた他の男子生徒にも聞こえるような声で、潔癖女子中学の警備体制について動揺しながらも必死に話した。その話を聞いてあたるは、 「ほう、そんなに危険なら、遠くのバラより近くのタンポポじゃ。ちょっと残念な気はするが、やっぱり今日はエスケープするか」 「今日も、だろ?あはは、まったくアホらしくてやってられんよなー、なあ、諸星」 そう言ってあたるの左肩を叩いた後、、面堂はほっと胸をなでおろして教室に向かった。 その姿を、あたるを始めほかの男子生徒たちは、怪訝そうな顔で見た。なんかあいつ変だぞ・・・ 「そういえばラムさんはどうしたんだ?見当たらないな・・・」 「あいつならお使いとか言って出かけとるぞ。お前、さっきから何そわそわしてんだ?女子中学のことで何か気になることでもあるのか?」 「何でもないよ、別に!ただ、ボクの知っている学校だったから驚いただけだ。そんなことよりも、ほら!授業が始まるぞ」 午前9時、ラムは潔癖女子中学の中にいた。友引高校校長に潔癖女子中学校長の所に手紙を届けるように頼まれたのだ。そこで飛鳥と鉢合わせした。 「飛鳥・・・なんでここにいるっちゃ?」 「あら、ラム様。おはようございます。私、今日からここに通うことになったんですのよ」 驚いた様子のラムに、飛鳥は丁寧に挨拶した。 「へぇー、そうなのけ。ところで、ウチ、校長先生に用があって来たっちゃ。どこにいるっちゃ?」 「まだ校長室にいらっしゃると思います。案内いたしますわ。こちらでございます」 そういって飛鳥は、ラムといっしょに2階の校長室へジャンプして窓から入った。 「あら、いらっしゃらないようですわね。どちらへ行かれたのかしら?」 「しょうがないっちゃねー。せっかく校長先生のお使いで来たのに・・・」 「あなたがた。窓から部屋へ入ってはいけません」 きょろきょろしていた飛鳥の足元から、校長の声が聞こえた。飛鳥は彼女の頭の上に乗っかっていたのだ。飛鳥は、 「まあ、校長先生!どうしてそんな所に!?」 と言って、わざとらしく驚いた。ラムが、 「いるならいるって返事ぐらいすればいいのに・・・まあいいっちゃ。はいこれ!ウチの校長先生からの手紙だっちゃ」 そういって手紙を渡すと、下がってよろしいと大仏校長が言ったので、飛鳥は、 「失礼いたします」 と、丁寧に深々と頭を下げて挨拶したが、ラムは、 「だっちゃ」 と、友達同士のようにぶっきらぼうに挨拶した。そんな2人に大仏は一言ご苦労様と言った。 手紙には一言、「電話します」とだけ書いてあった。果たして電話がかかってきた。 「わが校の生徒たちがおたくに潜入することは先ほどお伝えしましたが、そのことで、何か潜入成功の証拠になるものを用意していただきたいのですが・・・」 「無理だと思いますが・・・まあ、よござんす。それでは週番の腕章を・・・」 この二人の会話で、この後の飛鳥の悲劇は決定的となった。 「あら、飛鳥様、転入早々週番ですの?」 「はい」 なんでやねんと思わず突っ込みたくなるような状況である。これはもはや、男性恐怖症の飛鳥に対する嫌がらせも同然だった。いや、大仏にはこんな思いがあったのかもしれない。万が一警備が破られても、飛鳥のパワーなら腕章を守り抜けると・・・ 彼女のこの考えは間違ってはいないだろう。しかし、この選択が彼女の運命のターニングポイントとなってしまった。この先どうなることやら・・・ To be continued......