ヨロイ娘の新たな試練!体力テストは乙女の園で!(第2編) 2時間目の後の休み時間、ラムは潔癖女子中学に飛鳥が通っていることを話した。 「なにっ!!飛鳥ちゃんの学校!?」 あたるが驚いた様子で言うと、 「だっちゃ。だから近づかない方がいいっちゃよー・・・」 ラムは脅すような口調で、あたるに忠告した。しかし、 その程度ではあたるを止める力にはならなかった。 むしろ、飛鳥の麗しい制服姿を想像して、じーんと感動するのであった。 これでやりがいが出てきたと。 そんな中、一人決意を固める男がいた。面堂である。 (ラムさんも余計なことを言ってくれたものだ。しかし、悔やんでも時間は戻らない。 こうなったら、ボクもこの企画に参加して、飛鳥さんをお守りするしかあるまい。 飛鳥さん、今すぐ助けに参ります) そう心の中で呟くと、面堂は愛用の日本刀を取り出し、手入れを始めた。 午後12時半、テスト前の緊急集会が始まった。温泉マークが注意事項の中で、 週番の腕章を潜入成功の証拠として持ち帰るように告げた。 集会が終わり、生徒たちは出発した。その中には面堂もいた。 それを見てあたるがあれっと思って、 「おい、面堂!お前今回のゲームは降りたんじゃないのか?びびってんだろ?」 と言うと、面堂が刀の鞘を左手で握り、刀の柄を右手で握りながら、 「飛鳥さんを守るためだ!諸星、キサマの思い通りには絶対させんからな!!」 と言って、あたるの方を睨みつけた。 それぞれの思いを胸に、体力テストは始まるのだった・・・ そのころ、潔癖女子中学の正門前には、妹の様子が心配で駆けつけた飛麿がいた。 中に入れてほしいと教師の一人に頼んだが、男はたとえ親兄弟でも入れられないと、けんもほろろだった。 校内の様子が、飛鳥の様子が知りたい。彼はそう思った。 午後12時50分、先回りした面堂は、飛麿と鉢合わせした。 友引高校から潔癖女子中学までは、まともな道を行けば走っても30分はかかる。 飛麿が、 「終ちゃん!どうしてここに?」 と言うと、面堂は、 「実はかくかくしかじか・・・」 と答えた。事情を知った飛麿は仰天した。よりによって、 あの諸星あたるのいる友引高校の生徒たちが、 学校に潜入しようとこちらに向かってきてるなんて! しかし、そびえ立つ壁とレーザー装置を見て、気を取り直すように言った。 「でも、この学校のセキュリティは万全だ。ヤツらも潜入は無理だよ」 楽観的なことを言う飛麿に面堂はこう切り返した。 「甘いんだよ、トンちゃんは!君はウチの男子生徒、 特に諸星という男の恐ろしさがまだわかっとらんようだな。 他の生徒にとっても、このくらいの障害は障害のうちに入らんよ。 特に諸星は、君の妹に会うためならこんな壁など、簡単に突き破るに決まっとる。 だからボクら2人で何とか阻止するんだ!来たぞ!!」 わあっと、大きな声を上げながら午後1時、あたるたちが到着した。 「キサマらーっ!ここは絶対にオレ達が通さーん!!」 「飛鳥さん、ボク達があなたを守ります!!諸星ィー、覚悟ーっ!!」 両者とも言うことは立派だが、実行が伴わないのが悲しいところである。 2人のやったことは、勇気というより、ドン・キホーテそのものだった。 「かまわんっ、強行突破じゃ!オレに続けェ!突っ込めええええぇーーー!!」 あたるがそう叫ぶと、2人とも、爆走するあたるたちの下敷きとなった。 「ム・・・ムネン」 2人の「お兄様」は異口同音にそう言ってその場で気絶した。その様を見て、 「相変わらず2人ともビッグマウスじゃな。口ばっかしじゃ、ほんとに」 あたるは一言そういった。 校舎の中では突然外が騒がしくなったことで、生徒や教員が何事かと騒いでいた。 「突然ですが、ただいまより、体力テストを行います。ルールは簡単です。 校内に侵入してくる友引高校の男子生徒たちから、 週番の腕章を取られないようにすればよいのです・・・なお・・・」 校内放送の声の主は校長だった。一瞬校内が騒然としたが、次の瞬間、 「男子生徒って、殿方のことですわよね?」 「殿方がここまでいらっしゃるのですか?」 「どんな方がいらっしゃるのかしら?」 「ワクワクしますわね」 男の怖さを知らない純粋培養の乙女たちは、口々にそのようなことを言って、 突然の部外者侵入を怖がるどころか、まるでタレントがやってきたかのように喜んだ。 良家に生まれ、刺激のない、抑圧された生活を送っている彼女たちにとって、 それくらいの価値があったのかもしれない。 しかし外にいるのは、タレントなどでは断じてない。飢えた狼の群れである。 その中に一人恐怖に怯える乙女がいた。言うまでもなく飛鳥である。 「な、なぜなの?ここにいればおとこに遭わずにすんだはずなのに・・・」 教員たちは騒がしくなってきた各クラスの生徒たちに対して、 「お静かに!よろしいですか?今からわれわれは職員室に行って参ります。 われわれが戻ってくるまで教室から一歩も出てはなりませんよ!よろしいですね!?」 と言い残し、あわてて校長室へ行き、校長に詰め寄った。 「校長!いったいどういうおつもりなのですか!?このようなことをおやりになるなんて。 わが校は創立以来、校内に男を一切入れないことで乙女たちの純潔を守り続けてきたのですよ!」 校長に勝るとも劣らぬこわもての教員たちの中の1人が、興奮してそう言った。 「そんなに力説せずとも、よくわかってますよ」 校長は冷静だった。すると、ほかの教員が、 「だったらなぜ、このような体力テストに協力なさったのですか!! 生徒たちをみすみす危険な目に遭わせるようなことを、なぜやらなくてはならないのですか!?」 と叫んだ。しかし校長は取り合わず、さらにこう言った。 「おほほほほ。心配はご無用ですよ、皆さん! わが校の完全なる警備システムがそうやすやすと突破されるものですか。 いいですか?これは宣伝にもなるのですよ。 ここでわが校の警備システムのすばらしさをアピ−ルすれば、 娘思いの親たちが娘の入学を希望して日本中から殺到するでしょう。 そうなればわが校の借金も・・・ご・・・ゴホン、ゴホン!」 思わず本音が出そうになったところで、校長は咳払いをした。 潔癖女子中学は、警備システムに金を掛けすぎて、借金がかさんでいたのだ。 教員たちは、へぇー、なるほどといった感じの目線で校長を見た。 軽蔑のまなざしのようだった。 その頃外では、あたるたちが作戦を立てていた。高い壁とレーザーを見て、 「壁が反り立っている上に、ツルツル滑るからなあ。それにレーザー・・・、 ・・・うーむ、やはり壁を越えるのは無理じゃなー。壁を突き破るしかあるまい」 あたるがそう言うと、どこからか巨大な丸太が運ばれてきた。 手抜き工事でもしたのか、壁は思ったより脆かった。10分もしないうちに、 壁に大きな穴があいた。人が通るには十分な大きさである。 穴が開いた瞬間の大きな音と同時に、面堂と飛麿が目を覚ました。 「待てー!諸星ーっ!たたっ斬ってくれるーっ!!」 「こらーっ、キサマらーっ!飛鳥に手を出すなーっ!!」 2人はそう叫びながらあたるの方へ猛然と立ち向かっていった。 「たりゃああああああっ」 面堂はいつものように、あたるに日本刀で正面から斬りかかった。 「まったくワンパターンなヤツじゃなー。フンッ!」 一方あたるもいつものように、真剣白刃取りをした。 そうこうしているうちにほかの生徒たちは、すでに穴から中へ侵入していた。 「トンちゃん!他のヤツらを追ってくれ!ボクもすぐに行く。 諸星ぃー!今日という今日はキサマに引導を渡してくれるわぁー!!」 「へっ、そうはいくか。飛鳥ちゃんに一目会うまでは!!」 二人が競り合っている間に、飛麿は穴から中に走って侵入した。 しかし、とても慌てていたので、足元に堀があることに気がつかず、あえなく落ちてしまった。 そして、男嫌いのワニとピラニアにさんざん痛めつけられ、今度こそリタイヤとなった。 飛麿の声ともいえぬ悲鳴があたりに響くと同時に、あたるはとっさに、 「あっ、飛鳥ちゃん!」 と叫んだ。そのとき面堂の注意が一瞬それたのを見て、あたるはおなじみの武器、 木製のライトハンマーで面堂の頭を一撃した。面堂は間抜け面で気絶した。 そして、あたるが堀に落ちないように注意して中に侵入してみると、さすがに驚いた。 校庭じゅうにドーベルマンが何十匹もいて、ほかの生徒たちが身動きがとれずにいるではないか。 どうしようとあたるが思った直後、ラムが空から現れた。 「ダーリン、これ以上進んだら危ないっちゃ!こんなアホらしい事やめて、 さっさと引きかえすっちゃっ!!」 ラムの説得をよそに、あたるはこの時ひらめいた。こいつを利用しない手はないと。 「へっ、引き返せといわれて引き返すバカがどこの世界におるというんじゃ! こうなったら意地じゃ。何が何でも飛鳥ちゃんとデートしてやるわい!! 待っててねー、飛鳥ちゃーん。ボク今すぐ行くからねー」 ニヤけながらあたるが言うと、 「ダーリン!!寝言はいい加減にするっちゃ!! ウチは意地でもダーリンを連れて帰るっちゃよ!!コノォーーーッ!!」 ラムは激怒してそういうと、電撃をあたるめがけて放ってきた。 それこそあたるの狙いだった。そのためにあたるはラムを挑発したのだ。 あたるはドーベルマンのほうへ向かっていき、電撃が命中するぎりぎりのところでかわす。 こんなことを繰り返すうちにドーベルマンは全滅した。 自慢の警備体制が脆くも崩れていくさまをまざまざと見せつけられた教師たちは、 「こおちょおー・・・!!やすやすと突破されましてよ」 「こおちょおーーー!!」 絶対大丈夫と高をくくっていた校長に容赦なくブーイングを浴びせた。 「ほ・・ほほほほほほほ。勝負はこれからですよ!」 あくまで平静を装う校長だったが、その笑顔はこわばっていた。 あたる以下数十名の男子生徒たち(&ラム)は、一斉に校舎の中へと向かった。 その頃飛鳥は教室内で、ひとり怯えていた・・・ To be continued......