ヨロイ娘の新たな試練!体力テストは乙女の園で!(完結編) 飛鳥は外の様子が気になって仕方なかった。担任の先生には、窓を開けないように言われていたが、どうしてもこらえきれず、窓を開けて外の様子を見ようとした。 そのとき、すべてのトラップを乗り越えたあたるが、 「飛鳥ちゃーん!」 と、間の抜けた声で叫びながら、3階の教室にいた飛鳥のほうへ、事もあろうに窓から入ろうとジャンプして向かっていった。 そのとき飛鳥が、 「キャーーーッ!!おとこーーーーーっ!!!」 とすさまじい悲鳴を上げて逃げると同時に、ラムが、 「ダぁーリンッ!!天誅だっちゃ!!」 と叫んで、特大の電撃をあたるに浴びせた。あたるは、 「ドワーッ!!」 と悲鳴を上げて、教室の窓ガラスを破った後、教室内に倒れた。 しかし、 「もしもし、そこのお方。大丈夫ですか?」 と教室内の1人の女の子に尋ねられると、急に起き上がり、その娘の手を握りながら、 「大丈夫です。それより、君、かわいいねー。今はちょっと急いでいるから無理だけど、後できっとデートしてあげるからねー。 名前と住所と電話番ご・・・」 と尋ねようとした瞬間、ラムが、 「ダーリン!まだ懲りないっちゃ!?」 といって再び電撃を出してきたので、今度はさっとかわして、それから飛鳥を追いかけた。ラムもその後を追いかけた。 ちなみにあたるにモーションを掛けられた女の子は、まんざらでもなかったらしく、頬を抱えて顔を真っ赤にしていた。 こんなこと初めてなのだろう。 さらに、ほかの女の子たちも、こうしてはいられませんわと言わんばかりに一斉に、素敵な出会いを求めて教室を飛び出した。 まったく怖いもの知らずの子猫たちである。彼女たちの欲望の凄まじさは、まるでたまったダムの水が一気に放出されるかのようだ。 その頃メガネとパーマは、2階をうろうろしていた。女の子もうろうろしていた。 「おおーっ。さすがは名門女子中学。かわいい子が多いなあ、メガネ」 パーマがそう言うと、すかさず、 「なぁーにをいっとるかぁ!われわれの目標は、週番の腕章を奪取すること、 そしてラムさんのために、ラムさんが不幸にならないように、 あたるのヤツが女の子にちょっかいを出すのをどこまでも妨害すること、それだけだーっ! それなのに・・・キサマというヤツはーっ!それでもラム親衛隊の一員かーっ!!えぇーーっっ!!?」 と、メガネがパーマの胸ぐらを掴みながら言った。 「お、オレは別にそんなつもりじゃ・・・い・・・イヤ・・・悪かったよ、メガネ」 パーマは一瞬反論しようとしたが、ものすごい目でにらむメガネを見て、すぐに平謝りした。 そのとき、2人の女生徒たちが目の前に現れた。2人とも左腕に週番であることを示す腕章をしていた。 1人は長くてストレートの黒髪で黒い瞳の、もう1人は留学生だろうか、赤いくせのある髪で褐色の瞳の白人の女の子だった。 ストレートのほうが、 「この腕章は2つとも差し上げます。その代わり、私たちと1日だけデートしていただけませんこと?」 彼女の予想だにしない発言に、メガネとパーマは驚いた。 「お、おい。どうする?メガネ・・・」 「わ、われわれにはラム親衛隊としての立場が・・・し、しかし腕章を・・・」 2人がためらうのにはわけがあった。腕章を手に入れた者には、校長から褒美が出ることになっていたからだ。 褒美の内容は当てにはならないと思っていたが、もしかしたら今度こそは、という思いが2人の頭の中にあったので、結局、 「えーい!腕章を手に入れるためだ!本当はラムさん以外の人とデートはしたくない・・・したくはないが・・・ラムさん・・・許してくださいっ!」 メガネのこの言葉により、この2人の少女の提案にのることになった。 あくまでいやいやなんだと主張したが、メガネの鼻の下が伸びているのをパーマは見逃さなかった。 メガネはもはや第2の目的を忘れていた。どうやら黒髪の少女を気に入ったらしい。 こいつ、以外と無節操だな、パーマはそう思った。 ほかの週番の女の子も同じようなやり方で、友引の男子たちを引っ掛けた。 その姿は、この中学が掲げる、潔癖、精錬、純潔などとは程遠い、浅ましいとさえ思えるざまだった。金で男を釣る者さえいた。 一方、週番でない女の子たちも、ほとんど友引の男子たちにナンパされ、そのままデートの約束をした。 その姿を見て、教員たちは、 「ああ、何ということでしょう。創立以来男子禁制を誇ってきたわが校が・・・」 と嘆いた。しかし校長はあくまで平静を装い、 「ほほほほほ、心配要りません。まだ水乃小路さんがいるではありませんか。わが校は必ず勝利します。彼女を信じましょう」 と言った。そう。腕章を取られていない週番はもう、飛鳥しかいなかったのだ。 しかし、教員たちにとって、勝つか負けるかなどは、問題ではなかった。 午後1時50分、友引高校校長が潔癖女子中学の正門前に現れた。手には拡声器を持っていた。そして、 「みなさーん。週番の腕章をすべて校外に持ち出した時点でわが校の勝利となりますよー。褒美は勝利の場合のみ与えまーす」 それを聞いた友引の生徒たちは、軒並み校舎の外に出た。後は一番の強敵、飛鳥を追いかけるあたるだけである。 タイムリミットは2時。 その頃、あたるはラムの執拗な追跡をかわしつつ、飛鳥を追跡していた。 「キャーッ!!おとこぉーー!!お兄様ぁーーっ!!助けてェーーッ!!!」 「待ってよお、飛鳥ちゅああーん!逃げなくてもいいじゃなーい」 「ダーリン、待つっちゃーっ!!」 こんな調子だったが、そこにまたまた面堂と飛麿が現れて、面堂が、 「むぉおおろぅおぶぉおおじぃいい(諸星)」 と、刀を握り締めて声ともいえぬ声で言うと、飛麿も、 「ぶぁああずぐぅああ、ぶびぐぁああああ(飛鳥、無事か?)」 とサメとピラニアの攻撃を受けてヘロヘロになりながらも言った。 しかし、誰が見ても一番やばそうなのは、彼のほうである。 「むぅうわぁぁてぇえええええええ(待て)」 とにかく、2人は3人を追いかけた。 「まーったく、2人ともしぶといヤツらじゃなー、ホンマにィ!」 あたるは2人の執念に辟易としていた。飛鳥は校舎を壊しながら必死で逃げ、ほかの4人もそれぞれの目的のために彼女を追いかけた。 そして、ついに校舎の外に出た。もっとも、校舎はほぼ全壊で、どこからが校舎の外かよく分からなくなっていたが。 逃げ続ける飛鳥に業を煮やした大仏校長は手に拡声器を持って、 「水乃小路さんっ、逃げてはなりません!戦うのです!もし腕章を取られでもしたら、あなたを退学させますよ!」 と、とんでもないことを口にした。 なんてひどいことを、周囲の人間はみな思ったが、大仏のその言葉の裏には、 これ以上校内で走り回られたら、学校がメチャクチャになるからやめてという思いもあったに違いない。 友引高校校長も、 「それっ、そこですよ。ほらっ、もう一息」 とあたるたちをはやし立てた。のんきなものである。 (ど、どうしましょう?このまま逃げ続けてもつかまるのは時間の問題ですわ。そうなれば私、退学になってしまう。 でも校長先生、私、男の人とは、特にこの人とはどうしても戦えないんです。怖いんです。いったいどうすれば・・・そうですわ!) 飛鳥は悩んだ末、あるアイデアが浮かんだ。要は腕章を取られなければいいんだと・・・ 午後2時、タイムリミット。そのとき周囲にいた一同は、飛鳥の取った行動に驚いた。 なんと自ら校外に出たのだ。そしてそのまま近所に逃げ込んだ。 今回のテストは校内が舞台ということになっていた。しかもあたるとほぼ同じタイミングで校外に出てしまったのだ。 このことがこの後の紛争の元となった。このような事態は予想していなかったからだ。そのときそこにいた温泉マークが両校長に向かって、 「あ、あのー・・・このよーな場合は・・・どうしたら・・・」 というと、大仏のほうは、 「時間までに腕章が全ては奪取されなかったのですから、わが校の勝ちですわ!」 と主張したが、友引のほうは、 「しかしあの女生徒は、諸星君に追いかけられたその結果、外に追い出されたのですよ?今回のテストはおたくの校内が舞台だったはずです。 したがって彼女は、諸星君の巧みな誘導によって反則を犯したのですから、わが校の勝利ですっ!」 「校外に出たら反則負けだなんて、ルールにありませんわ!」 「校内が舞台なんですから、当然の前提でしょう?これは」 と言って両者一歩も譲らなかった。もっとも、飛鳥の真意がみんなの知るところとなれば、大仏の言い分にやや分があるかもしれない。 潔癖の教員たちは、 「こおちょおーーーー・・・・!!」 と、すっかり男好き(?)に変わり果てた生徒たちを指差しながら、浅ましい姿をさらす大仏に対して冷ややかな視線を浴びせつつ、、異口同音に言った。 その姿を両校の生徒たちは冷ややかな目で見ていた。その後は、そのままデートをする者達、電話番号を交換して後日会う約束をする者達など様々だった。 しかし、恋した乙女達の表情がなんと活き活きしたことか!むしろ喜ばしいことだ。 その頃飛鳥たち5人は、近所の住宅街でかくれんぼ状態になっていた。 飛鳥があたるをようやく撒いたのは午後7時、あたるがラムに「オシオキ」されたのは午後7時半、 飛鳥が家に着いたのは午後8時過ぎだった。飛鳥の母はかんかんに怒って飛鳥を出迎えた。その目は血走っていた。 その後すぐに、飛鳥のお尻を叩き始めた。飛鳥の門限は6時だったのだ。 「ああっ、お母様ぁ!お許しくださーい!これにはわけが・・・」 と飛鳥は激しく泣きわめきながら訴えたが、母は聞く耳を持たなかった。 「許しませんっ!こんな夜更けに帰るなんて!飛鳥、覚悟なさい!今日は朝までお尻を叩きますからね!!」 水乃小路家の掟は大変厳しいのだ。飛鳥がどんなに泣き叫んでも、母は力を緩めなかった。 一方飛麿は、女性使用人数人によって同じく門限破りの罰でフクロにされていた。ちなみに彼の門限は7時。 邸内には一晩中、ビシッ、ビシッという音と、ドカッ、バキッという金属音と、それに合わせて2人の悲鳴が響きあった。 「うーん、困ったねぇ」 2人の父は娘と息子を見つめ、ただ一言そういった。 その後、こんなニュースが流れた。 「恋を選んだ乙女達、共学に全員転校。将来のエリート候補達がなぜ?」 「また諸星君(17)が関係か?本人は事件への関与を否定」 「私たちも普通の女の子ですわ(同校元生徒A子さん談)」 その後しばらくして、潔癖女子中学校廃校のニュースが流れた。校長は債権者からの追跡を逃れるべく、夜逃げをしたそうだ。 飛鳥は安住の地を失うこととなった。そして今日も、枕を抱えて、「お兄様」の布団に・・・ 「ああ、まだお尻がズキズキ痛みますわ・・・お兄様に慰めてもらいましょう」 The end