Chapter 1 Prologue 「フッフッフ・・・ついに・・・ついにこの日が来た」 薄暗い空間で、1人の男がそう呟いていた。その男の目の前には、青い地球が見えていた。 そう、彼は宇宙人なのである。彼の乗るUFOからは地球がよく見える。彼とその仲間は今まさに地球へ向かわんとしていた。 「あの忌々しいスーペリオル族どもをこの宇宙からせん滅する日が、ついにやってきたのだ!!ふはははははは・・・!!」 彼は再び口を開き、そう言って高らかに笑った。 みなさん、こんにちは。三宅しのぶです。友引高校に通う「普通の」女の子です。 あの日から、あたる君とラムによって行われた、地球の未来と2人の愛をかけた10日間にわたる「鬼ごっこ」から、1ヶ月が経ちました。 私たちは3年生になりました。クラス替えも行われましたが、私たち2年4組はそのまま3年4組になりました。 3年生になって何か変わったのかというと、変わったのは教室の場所だけで、ほかは何も変わってはいません。びっくりするほどに。 特にあたる君は、あの鬼ごっこの後、少しはラムに対する接し方が変わるのではないかと思っていたのですが・・・ 「しのぶー。今度の日曜日映画に行かなーい?」 「ダーリン!!よくもウチの目の前でそんなことぬけぬけと言えるっちゃね!?天誅だっちゃ!!」 バリバリバリ・・・・・・ 「ドワーーーーッ!!!・・・・え・・えへへ・・し・・・しのぶ、助けて・・・」 「えーーい、うっとおしいっ!!」 バキイイッ ・・・とまあ、こんな調子です。こんなことが毎日続いていました。正直言って退屈で死にそうでした。 しかし、ある日を境に、私は、いいえ、世界中の誰もが「退屈」などとは言わなくなりました。そう、その日が来るまでは・・・ Chapter 2 地球人って何なんだ ここはどこかの森の中。あたるは大木に寄りかかっていた。 「う・・・うう・・・体が・・・熱い・・・み・・・水を・・・くれ・・・」 あたるは搾り出すような声で激しい喉の渇きを訴えた。全身に大火傷を負っていた。 するとあたるの目の前にいた少女が、分かったと言って水を持ってきた。 「はい。お水・・・」 と、少女から差し出された水をあたるは瞬く間に飲み干した。その時その水がひどくうまく感じた。 体はボロボロだったが、何とかお礼を言おうと、あたるは懸命に頭を起こそうとした。少女の顔がチラッと見えかけた。 その瞬間、目が覚めた。周りを見てみると、自分の部屋だ。あたるたちの運命を変えた「あの日」が来る1日前の朝だった。 「なんだ、またこの夢か・・・」 ここ1週間、あたるはこの夢を見続けている。今ではあたるの目覚まし代わりだ。 時計の針は7時を指していた。彼がこの時間に一人で起きるなど、奇跡である。 眠そうに両目をこすっていると、押入れからラムとテンが出てきた。 「おっはよーだっちゃ!あれ?ダーリン今日も早いっちゃねー」 「これでもう7日目や。ホンマ奇跡やで。あたる。お前なんか悪いモンでも食ったんとちゃうか?」 2人とも起きぬけというのにテンションが高い。 「うるっせえなー・・・オレが何時に起きようと勝手だろ」 あたるは左手で頭をかきながら2人のほうを向き、機嫌悪そうな声で返事した。 3人は1階の居間に向かった。いつもなら慌しそうにしている母の声が聞こえるはずなのに、今日はしない。 「あれっ、おかしいなー。母さん!いないのー?」 あたるは母を呼びながら居間に入ってみると、そこには朝食の準備がなされていた。 が、やはり両親の姿はなかった。代わりに置き手紙がおかれていた。 <今日から3日間、父さんと母さんは旅行に行ってきます。場所は由布院です。連絡先はここに書いてあるとおりです。 朝食は用意しておきました。味噌汁もあるので、暖めて飲みなさい。 戸締りと火の扱いには十分気をつけなさいよ。それと、ラムちゃんと2人きりになったからといって間違いがないようにね> 「ちっ!またかよ・・・・・・ったく!何が間違いじゃ!」 手紙を読み終わった瞬間、あたるはそうぼやいた。その横ではラムが小躍りして、 「わーい!やった、やったァ!これで今夜はダーリンと2人っきりだっちゃ!」 と歓喜していた。それを聞いてあたるはあわてた様子で、 「な、何をバカなことを言っておるんじゃ!ジャ、ジャリテンも一緒ではないか!」 とラムに向かって言った。するとラムが、 「ブーッ!今日はテンちゃんはおば様のところだっちゃ!今日は久しぶりの休みだから一緒に過ごそうって。ねぇ、テンちゃん!」 とニッコリ笑いながらテンのほうを向いて言った。 「う、うん・・・でもなぁ、ラムちゃんとあたるのアホを2人っきりにするなんて・・・心配やなぁ・・・ やっぱりワイ、お母はんのところ行くの、やめよかなぁ・・・」 テンが心配そうにそう言うと、 「だめだっちゃ!せっかくおば様がお仕事が忙しい中時間を割いてくれたんだから会ってあげなきゃ。 それに、ウチもダーリンももう子供じゃないんだから、心配しなくても大丈夫だっちゃ!」 とラムは明るく答えた。 (い,いや、せやから心配やねん・・・・・・ラムちゃん、『間違い』の意味わかっとらんな・・・・・・) テンはそう頭の中で言った。額には脂汗が流れていた。 しばらくの間テンはぐずったが、結局ラムに押し切られる形で、母の待つ鬼星へ向かった。 (今日から3日間ラムと2人きり・・・じ、地獄じゃ・・・!!) 朝食を食べた後、あたるはそう思った。彼が心配していたのは、これから3日間の食事のことである。 ラムの料理がどのようなものであるか知っていれば、この意味が分かるだろう。 制服に着替え、2人は学校に向かった。程なくして友引高校に着いた。 あたるもラムも教室に入ってから下校するまで、今日は家で2人きりであることをクラスのみんなに悟られないように注意した。 もしこの事がメガネたちラム親衛隊や、面堂の耳に入ろうものなら、また前のようにうるさい夜になるのは明白だからである。 2人で学校から帰っている途中に、 「うわぁー、きれいな夕焼けだっちゃねー、ダーリン!」 ラムは茜色の空を見上げながら声を上げた。 「ん、ああ、そうだな・・・」 あたるは適当に相づちを打った。すると、ラムが突然話し始めた。 「ダーリン、ウチね、この前こんなドラマを見たっちゃ。ある男の人が主人公で、その人には最愛の妻がいたっちゃ。 2人はとある町で仲良く暮らしていたんだけど、やがて戦争が起こって2人が住んでいた町も戦渦にさらされたっちゃ。 2人も町を侵略してきた敵と戦って敵を壊滅寸前まで追い込んだけど、妻は敵のボスに殺されてしまったっちゃ・・・」 ここまで聞いたあたるが、 「ホー。で、その後どーなったんだ?」 とラムに尋ねると、ラムはまた口を開いた。 「男の人はしばらく悲しみに暮れていたんだけど、その後復讐の鬼と化したっちゃ。 やがて敵の本拠地を攻めてボスを殺して敵を壊滅させたあと、自殺したっちゃ」 これを聞いてあたるは、 「その男もアホじゃなー。あとを追って自殺するなんて。何も女はその妻1人じゃあるまいに・・・ オレはそんなの、まっぴらゴメンだぜ」 と言った。その後またもラムが、 「ねえ、ダーリン。もしも、ウチが死んじゃったら、悲しいっちゃ?」 と言うのであたるは、 「何じゃい、藪から棒に」 と返事した。ラムは、 「ううん、ちょっと聞いてみたかっただけだっちゃ」 と首を横に振りながら言った。 「何言っとんじゃ、お前は!」 つまらないこと聞くな、という感じであたるは言った。 期待したとおりの答えが得られなかったラムは、ちょっとがっかりした気持ちになった。 こうしてしばらく歩いていると、誰もいない家が見えてきた。暗いのでよく見えないが、家の前に誰かいた。するとその人物が、 「ラームちゃん!ダーリン!こんばんわー!」 と、大きく右手を振って2人に呼びかけた。ランだった。左手には大きな袋を持っていた。 「うわーっ!ランちゃん、久しぶりー!」 あたるがランの方に向かって走り、彼女に飛びつこうとしたが、ぐしゃっと言う大きな音とともに地べたに倒れた。 「もーう、ランちゃんてば冷たいんだからぁー」 うずくまったままあたるは呟いた。 「ランちゃん・・・どうしてここにいるっちゃ?」 ランを指差してラムが尋ねると、 「ご挨拶ねえ!今日はダーリンのパパとママがいないからみんなでパーティーしようってメールしたのはラムちゃんじゃない!」 とランは答えた。 「え・・・ウチそんな覚えは・・・」 見に覚えがなかったのでラムはそう言ったが、あたるは、 「なにいっとる!お前もう忘れたのか?今日はみんなでパーティーじゃ!間違いない! ささっ、ランちゃん。外は寒いから早く家にあがりなよ」 とランに迎合するように言った。 「じゃ、遠慮なく。お邪魔しまーす!」 ランはそう言って家に上がると、あたると一緒に家の奥へと消えて行った。 (一体どうなってるっちゃ?) ラムは状況が飲み込めずにいたが、ふと思い出した。自分のことをやけに心配していたテンのことを。 「そうか・・・そーゆーことだっちゃね。もう!テンちゃんたら余計なことを! せっかくダーリンと2人きりの夫婦生活を堪能できると思ったのに・・・」 ぶつぶつ言いながら、ラムも家の中へと入った。 台所ではランが慌しく今晩の料理の準備をしていた。鍋だそうだ。あの大きな袋には食材が入っていたのだ。 「えっ・・・と、材料はこれでよし、と!もうしばらくかかるから、2人とも待っててねー」 ランは台所からあたるとラムに向かって言った。ラムはすかさず台所に行って、 「ランちゃん、いいっちゃよ!お客様がこんなことしなくても。料理はウチに任せて!」 とランを台所から追い出すような仕草をしながら言ったが、ランは怖い顔でラムに包丁を向けて、 「あかん!おんどれが作る料理なんぞ、ここにいるヤツの誰も食えん!ええからワシにやらせんかい!」 と言った。 「だから、ウチが手伝うって言ってるっちゃ!」 「いらん!おんどれが介入するとややこしいことになる!!」 こんな調子で台所で2人が言い争っていると、あたるが現れ、 「まあ待て、ラム!ランちゃんが1人でやりたいと言っとるのだから、ここはお言葉に甘えようではないか。 それじゃランちゃん、悪いけどよろしくねー」 とニヤニヤしながら言ってラムを台所から追い出そうとした。 「ハーイ。まかせといて!」 ランは明るい声で返事した。しかし追い出されそうになっているラムは面白くない。 「ダーリン・・・そんなにウチの料理食べたくないの・・・?そんなにランちゃんの料理が食べたいの・・・?」 あたるとランに背を向けたまま、わなわなと震えながらラムが言うと、あたるは、 「い、いや、だから、その、つまり・・・ねぇ!」 と、おたおたしながら言うと、ランのほうを見た。あたるに見られたランは、 「え、ええ!そ、そーなのよ、ラムちゃん!」 とあたると同じような口調で言った。しかし次の瞬間、 「何わけの分からないこと言ってるっちゃ!もう!!ダーリンとランちゃんの・・・」 とラムが叫んだ。あたるは、 (まずい!いつものパターンじゃ!!) と思い、とっさに、 「ワーッ!ラムッ!落ち着けェッ!話せば分かる!!」 と両手を体の前で振りながら言った。ラムが、 「問答無用だっちゃ!!2人とも覚悟・・・!!」 と言いかけたところで、外から何か変な音が聞こえてきた。2階のほうだ。 「ほ、ほらっ!外でなんか変な音がするぞ。2階のほうからだ!行ってみようぜ、ラム!」 あたるはこう言って何とかその場をはぐらかした。 3人が2階に行ってみると、そこにはまた見覚えのある顔が2つあった。 「オス、ラム。久しぶりだな!それに諸星も元気そうじゃねえか。あれ、ラン。何でおめえここにいるんだ?」 鉄のビキニを着た女は3人の姿を見るや否やそう言った。 「こんな時間に突然押しかけちゃって。すみません、ご主人様」 白い着物を着た色白の女もあたるの方を見てそう言った。あたる、ラム、それにランの3人はぽかんとした様子で2人を見つめた。 「弁天・・・お雪ちゃん・・・どうしてこんなところにいるっちゃ?」 ラムはランに対してした同じ問いかけを2人にした。 「いやな、たまたま地球の近くをツーリングしてたらよー、バイクが故障しちまってよー。 これじゃとてもアタイの家まで帰れねえから、とりあえずここに来たんだ。 かなり故障がひでえから、修理屋に連絡したんだけど、来るのは早くても明日の朝だっつうんだよ」 弁天はここに来るまでの経緯をラムに話した。 「なるほど。さっきの変な音は壊れたバイクのエンジン音だったのか」 あたるは納得した表情で言った。 「ところで、お雪ちゃんはどうしてここにいるの?」 ランはお雪に尋ねた。 「私は銀河系の近くにあるバード星ってところに品物を売りに行ったんだけど、その帰りにたまたま弁天と会って・・・」 するとお雪も今までのいきさつをしゃべり始めた。そこでそのまま弁天に海王星まで送ってもらうつもりだったのだ。 「それでよう、ラム。アタイらさあ、宿無しなんだ。わりいけど、今日1晩、泊めてもらえねえかな?」 弁天に頼まれたラムは、これ以上騒がしくしたくないという気持ちからあまり乗り気ではなく、 「エッ、でも・・・わざわざうちに泊まらなくても弁天の星か海王星に連絡して迎えに来てもらえばいいんじゃないの?」 と返事した。しかし弁天は深刻な表情で、 「それがな、アタイらもそのことに気づいてそうしようと思ったんだけど、だめなんだ。 アタイの星も、海王星も連絡しても応答しねえんだ。どうやらかなりつええ磁気嵐の影響らしくてな。 おめえの星にも連絡してみたけど、だめだった・・・」 と言った。2人の困った様子を見たあたるは、 「そういうことなら、どうぞ、どうぞ!1晩と言わず、2晩でも3晩でも」 と調子のいい声で2人に言った。 「本当か!?いや、サンキュー!助かるぜえ!」 弁天はあたるに軽くお礼を言い、お雪と一緒に家の中に入った。 「ダ、ダーリン!」 ラムはそんな、困る、といった感じでそう言ったが、 「いいではないか。どうせ今日は父さんも母さんもいないんだから。それに、パーティーは人は多いほうがいいぜ」 とあたるはラムの言うことに耳を貸さなかった。まあ、ここはあたるの家なのだから、決める権限は居候のラムにはない。 (あーあ、ダーリンと2人きりの夜が遠のいていくっちゃ・・・) ラムは頭の中でそう呟いた。 「本当にすみません、ご主人様。ところで、夕飯はもう済みましたか?」 お雪に尋ねられると、あたるは、 「いや、まだだけど」 と答えた。するとお雪が袋を取り出して、 「でしたらこれをどうぞ。海王星の特産品が中に入ってますわ。宿外代わりに召し上がってくださいな。売れ残りで申し訳ないですけど」 とあたるに差し出した。あたるは、 「へぇー、そう。だったら今日は鍋だから、その中にでも入れようか。ランちゃん、これ頼むよ」 とランにその袋を差し出した。 「ハーイ!」 ランはそう返事して、1階に下りていった。 「では、私も手伝いますわ」 お雪がそう言うと、あたるは驚いた様子で、 「えっ、お雪さんって、料理できるの?こういっちゃなんだけど、意外だなー」 とお雪に尋ねた。お雪は、 「あら、ご主人様。私も一応、女ですのよ」 と答え、1階に下りていった。 ランとお雪が台所で調理している間テレビでも見ようと、あたる、ラム、弁天の3人は居間に向かった。 あたるが居間のドアを開けると、その瞬間あたるはずっこけた。 「待っていたぞ、諸星」 そこにはこれまた見覚えのある顔が5つ並んでいた。メガネ、パーマ、カクガリ、チビ、そして面堂だった。 「お、お前らなー!!何でこんなところにいるんじゃ!?」 5人を指差しながらあたるが尋ねると、 「フッフッフ、面堂家の情報網をなめるなよ。諸星!キサマの両親とジャリテンが留守であることなどとっくに調査済みだ!!」 と、面堂はあたるを指差して誇らしげに答えた。 「あたるうっ!今夜はラムさんと2人きりであんなことやこんなことをしようと思っていたのだろうがそうはいかん!! われらラム親衛隊は全力をもってラムさんの身をお守りする!決してラムさんをキサマの毒牙にかけさせはせん!!」 メガネもこのように力強くコメントした。 「アホが。勝手にせい!」 あたるはあきれたような顔で熱くなっている2人に向かって言った。 一同がテーブルの周りに座ろうとすると、玄関から、 「ごめんくださーい」 とまたまた聞き覚えのある声がしたのであたるとラムが行ってみると、そこにはしのぶと竜之介がいた。 「しのぶー、竜ちゃーん!」 あたるは叫びながら2人に飛びついてきたが、2人がさっと体をかわすと、あたるはドアに激突した。 「ぶぎゅっ!」 そんな声を上げたあたるを見て、竜之介は、 「おめえよお、それしか行動パターンねーのかよ?」 と冷ややかに言った。 「しのぶ・・・竜之介まで・・・今日は千客万来だっちゃね」 ラムがそう言うと、しのぶは、 「今日はここでパーティーだって聞いたから。私も今日1人で退屈してたから来ちゃった!」 と話した。竜之介も、 「オレも成行きで来ちまったよ。すまねえな。迷惑だったか?」 と言うと、立ち直ったあたるが、 「迷惑だなんて・・・そんなあ・・・ささ、上がって、上がって」 とでれでれしながら家の中に招き入れた。 そんな様子を見ていたパーマは、 「オレたちを最初に見たときのリアクションとはえらい違いだなー、あたる」 とあたるに向かって言った。 「アホ。お前、オレの性格、知ってるだろ?」 パーマに向かってあたるがこう言うと、パーマはああと言いながらうなづいた。 (ん、もう!これじゃ学校にいるのと変わらないっちゃよ!) ラムはため息混じりにそう思った。 居間の辺りが騒がしくなったのに気がついて、ランとお雪が台所から出てきた。 「うわぁー、こんなにたくさん!お料理の材料、足りるかしら?」 心配そうにランが言うと、面堂は、 「ご心配なく!ランさん。われわれも食材をこのとおり、ちゃんと持ってきましたから」 と言って、メガネたちと一緒に持参した食材をランに差し出した。しのぶも、 「私も家にあったものだけど、少し持ってきたわよ。2人じゃ大変でしょ?私も手伝うわ!」 と言って食材を差し出すと、ランとお雪とともに大量の食材を持って台所へ行った。 「ぶぅー!」 ラムはそうすることで自分がのけ者にされたことへの不満をあらわにした。 あたるがテレビのスイッチを入れると、居間に残っていたメンツは全員テレビの画面に注目した。 テレビではニュースが放送されていた。アメリカ合衆国空軍がイラク国土ををじゅうたん爆撃している様子が流れていた。 その様子を見て弁天が、 「おい!こいつら地球人だろ?へぇー、地球もとうとう、よその星とドンパチできるほどの科学力が身についたってワケだ」 とみんなに向かって言った。周りのみんなは彼女の発言に一瞬あっけにとられた。 「べ、弁天様?言ってる意味が分からないんだけど・・・」 あたるが弁天にそう言うと、弁天は、 「だから、これ戦争だろ?地球人がやってるんじゃねえのか?」 と返事した。 「弁天様、これは地球のイラクという国の映像ですよ」 面堂がそう言うと、弁天は戸惑った様子で、 「えっ?あっ、そーか!地球は連邦制国家だったっけ。てえことは、地球が攻められてるってことか」 と言った。さっきからどうも会話がかみ合わない。 「弁天。攻めているのは地球にあるアメリカっていう国だっちゃ。攻められているのはこれも地球にあるイラクっていう国だっちゃ」 ラムが弁天に教えると、弁天は、 「なーんだ、てえことは内戦ってことだな。地球でこんな激しい内戦が行われているなんて、知らなかったぜ」 と言った。やっぱり弁天とほかのみんなとの感覚にずれがある。 そうなのだ。弁天たち宇宙人(地球人から見れば)にとって、普通戦争というのは、 星対星の戦争のことを意味する。 星の内部で起こる戦争は、すべて「内戦」というのだ。 1つの星の中に無数の国家があるというのも、弁天たち宇宙人にとっては珍しいのである。 まして地球のように、「地球国家」のごとき星単位での政治的共同体が存在しない星というのは極めて珍しいのだ。 そのような地球人と宇宙人との認識のずれについての会話で、居間は盛り上がった。 その頃台所では、しのぶ、ラン、お雪の3人によって鍋作りが着々と進んでいた。 「きゃあっ!な、何よ、これえっ!!」 しのぶはお雪の持ってきた食材を手にするや否や、そう叫んだ。地球では見かけない動物だった。 「お、お雪!お前、こんなもんホンマに食えるんか!?」 その動物はランも見たことはあったが、食べたことはなかった。 「ええ、それは海王モモンガですわ、しのぶさん。ランは知っているでしょう? 地球のものでいえば・・・そうねえ・・・マトンみたいな味がするの。とってもおいしいですわよ」 お雪はそう言うと慣れた手つきで海王モモンガをさばき始めた。 「お雪さん・・・あなたの星ではこんなかわいい動物を食べちゃうの?」 しのぶがモモンガをさばいているお雪のほうを見て尋ねると、 「はい。私の住んでいる海王星は植物はほとんど生えませんし、動物の数も少ないですから、 私の星では足のついたものなら机と椅子以外ほとんど、何でも食べるんですの。 モモンガも貴重な食料ですわよ。特に取れたてのモモンガは生で食べますの。 彼らの生き血は、野菜が少ない私たちの星では貴重なビタミン源なんですのよ」 とお雪は説明した。 「あ・・・あはは、まるでアラスカのイヌイットみたい・・・」 しのぶは苦笑いを浮かべ、仕込みを続けた。 居間では会話が終わりかけたその時、弁天が口を開いた。 「・・・地球って星は、昔からずっと内戦の連続だったんだな。だから宇宙分野の開発が遅れちまったんだな」 これを聞いた面堂は、 「まあ、それだけが理由ではないですけどね」 と言った。弁天が再び、 「だってよお、内戦の数がもっと少なければ、こんなに戦争のための技術ばかり発達することはなかったと思うぜ。 このせいで地球は発展途上惑星になっちまったんだよ。なあ、どうして地球はこんなに内戦が多いんだ?」 と周りに尋ねると、あたるが口を開いた。 「地球人っていうのは、自分とどこか違う奴っていうのを、異常なほど嫌う傾向があるからね。 例えば、肌の色が違うからとか・・・白人とインディオの混血だからだとか・・・」 それを聞くと、今度はメガネが話し始めた。 「そういう身体的差異だけではないだろう。弁天様、今イラクで行われている戦争は、政治的な問題が絡んでいるんです。 この戦争のアメリカ側の大義は、イラクを独裁者から解放し、この国に民主主義を根付かせるというものなんですよ。 地球には無数の国家があり、それぞれの国家で採用されている政治体制もいろいろあるんです」 これを聞いて弁天は、 「そのことはよく分かった。でもその『違い』がどうして戦争に結びつくんだ?」 とメガネに向かって言った。メガネは、 「少し前、アメリカで大きなテロがあったんですよ。それで多くの人が犠牲になりました。 アメリカは、イラクの独裁者がそのテロの実行犯をサポートしていると主張しているんです。 このまま独裁政権が続けば、アメリカだけでなく世界中にテロの災いをもたらしてしまう。そこで今回の戦争、というわけです。 自分たち流の政治システムを押し付けることによって、テロを根絶しようとしているんですよ」 と雄弁に語った。パーマも負けじと、 「それともう1つ。この戦争は経済的な利害も絡んでいるんだ。イラクは地球の中でも特に石油が取れるからねえ。 石油を押さえれば、世界の経済産業界を大きくリードできる。この戦争の真の理由とも言われているんだ」 と語った。 「それだけじゃないぜ!アメリカはプロテスタント、イラクはイスラム教。宗教の違いも絡んでるよ、絶対」 セリフを稼ごうとカクガリも必死だ。 「あ、あと、大量破壊兵器を廃棄させるためだとか言ってなかったっけ?話す言葉が違うとか生活習慣が違うとか・・・」 チビも取り残されるまいと一生懸命である。 「まあ、このように、地球のいろいろな地方で様々な原因により小さな内紛から大きな戦争まであるわけです。 かつて地球上すべてが戦場になったこともあります。 今回の場合も、この戦争自体はじきに終結するでしょう。 でも、根本的な解決、つまり両国の関係改善は、今彼らが述べたとおり、いろいろな事情があって難しいんですよ、弁天様」 面堂はこのようにして締めた。 「・・・悲しいねぇ。どうして縁あって同じ星の上に生まれたもん同士、仲良くできねぇのかねぇ・・・ ・・・地球人って、何なんだろうな」 弁天がそう言って、居間が暗く静まり返ろうとした瞬間、扉が開き、 「お待たせー。今晩の料理ができたわよー!さあ、みんなで食べましょう!」 というしのぶの声が聞こえた瞬間、一同、 「うひょー!待ってました!」 と声を上げ、居間は再びにぎわった。すると突然、 「オー、これはこれは。うまそーな鍋じゃのー」 という声と同時に爆発が起こった。 ちゅどーん! 周りの者はみんなずっこけた。チェリーが現れたのだ。 「いきなり出てくるなっ!!」 ドカバキドカッズゴッ 周りの者は皆そう言ってチェリーをライトハンマーでどついた。 「オヌシら、慌てるでない!私たちは飯をたかりに来たのではない」 そこにはサクラもいた。手にはマイ箸とおわんを持っていた。説得力も何もない。 「サクラさーん!こんな時間にわざわざボクのこと・・・」 あたるが抱きつこうとすると、 「たわけーーーーッ!!」 そう言ってあたるをぶっ飛ばした。 「でもサクラ先生、どうしてこんな時間にあたる君の家に来たの?」 しのぶに尋ねられると、サクラは、 「なに、教師として、子供たちだけでこのようなことをさせるわけにはいかんからのう。諸星の両親に代わって保護者として来たのじゃ。 それにしても、うまそうじゃなー、この鍋」 と食い入るように鍋を見つめながら言った。 (なるほど、真の目的はこれね・・・) しのぶは頭の中でそう思った。 みんなが鍋の周りに座り、いただきますをしようとすると、 「ブモーーーーーー!」 空から巨大な虎牛が降ってきた。匂いを嗅ぎ付けてやってきたのだろう。 「ラムゥーーーーー!」 レイはニッコリ笑ってラムに近づいてきた。居間は大騒ぎだ。 「ワーッ!レイッ!どーしてお前がこんなとこに来たっちゃーっ!」 そう言うとラムは逃げ出した。 「きゃん!ランちゃん、感激ー。レイさんが来てくれるなんて!」 ランは突然のちん入者を歓迎した。 (あーっ、もう!これじゃダーリンと2人きり静かな夜どころか、今までで1番騒がしい夜だっちゃ!) ラムはそう思いながら、しばらく逃げ回った。 しばらくして騒ぎが一段落したあと、改めていただきますが行われ、鍋パーティが開始された。 「何かよー、修学旅行みてえだなー。それにしても、うめえな、これ!ああー、生きててよかったぜー」 竜之介はそう言いながら、お雪の持ってきた海王モモンガのすり身団子に舌鼓を打った。 それにしても、サクラ、チェリー、レイ、それにあたるは食べる、食べる! 食材は大量に用意されていたにもかかわらず、数十分後にはすべて跡形もなくなくなってしまった。 「汁が残ってるから、これで雑炊にしよーぜ!」 あたるがそう言うと、大量に炊かれていた米がそのまま鍋の中に入れられた。 しかしそれも、すぐになくなってしまった。パーティーは、お開きとなった。 「いや、しかし・・・」 「いいから帰れよ!こんなに大勢いたんじゃ騒がしくてたまんねえよ。 ・・・大丈夫だよ。心配しなくてもアタイがちゃんと見張っといてやっから・・・」 メガネたちと面堂はラムのことが心配だと、今夜はあたるの家に泊まると言い張ったが、弁天にこのように説得され、断念した。 5人はそれぞれの家に帰った。 「サクラ、今宵は月もきれいなことじゃし、帰ったら食い直しながら焼酎でも飲まんか?」 「それはよいですな。では諸星、いくら両親がいないからといってあまり羽目を外し過ぎるでないぞ」 サクラとチェリーも、こう言い残して家に帰った。 竜之介も、 「あーっ、今日は久々にご馳走が食えたぜー。それじゃ、また明日なー」 と、さぞ満足した様子で家(といっても友引高校内にあるのだが)に帰った。 レイはランの家に泊まることになった。 竜之介が帰ったあとしばらくして、しのぶと一緒にあたるの家を出ようとしたその瞬間、辺りが真っ暗になった。 「あら、停電かしら?やーね。こんな時に」 しのぶは声を上げた。 「きゃん。ランちゃん、こわーい!」 ランも小さく叫んだ。 「ねーえ、ラムちゃん、おねがーい!今晩あたしとレイさんも泊めてぇ!」 ランは手を合わせてラムに頼んだ。するとあたるが、 「どーぞ、どーぞ。この暗い道の中歩いて帰るのは物騒だからねえ」 と言って要求を快諾した。 (レイはちょっと余計だが・・・まあ、仕方ないか。メガネたちや面堂よりはなんぼかマシじゃ) 頭の中ではこう考えていた。さらに、 「しのぶ。どうだ?お前も今日は泊まっていかんか?どうせ今日は家に帰っても1人なんだろ?」 と、あたるはしのぶにもこう言った。 「えっ?でも・・・」 しのぶがためらうと、ラムも、 「しのぶ、いいからそうするっちゃ!1人より大勢のほうが楽しいっちゃよ!」 としのぶに泊まるように勧めた。 「そうねえ・・・じゃあ・・・そうしようかしら」 ・・・こうして私もこの夜、あたる君の家に泊まることになりました。 みんなで夜遅くまでテレビを見たり、トランプをして遊んだり、とても楽しい夜が過ごせました。 でも、このときの私たちには知る由もありませんでした。 この停電がこの日から見て明日、つまり「あの日」に起こったあの忌まわしい出来事の前触れであったことを。 この日を最後に、退屈ながらも楽しかった日々が失われてしまうことを・・・ To Be Continued...... Toshio