Chapter 5 There's no time to cry! 雨は一向に止む気配はなく、いっそう強くなる一方だった。 ラムの父、レイ、テン、それと爆撃されたマザーシップの中に乗っていた人すべての遺体の収容が終わった。 そしてラムをかばって瀕死の重傷を負ったあたるの手術も何とか終了した。 手術には解毒術の心得があるお雪も立ち会った。 「・・・手術は一応成功しましたわ。傷口を縫合するのに手こずりましたけど。 でも意識は・・・回復の見込みはありません・・・体内の毒も、 いろいろ試してみたけど、解毒はできませんでした・・・」 お雪はあたるのいる特別病室の中で手術の成果をそう伝えた。 「じゃ、じゃあ、ダーリンはこのまま死ぬしかないってことなの!?」 呆然としているラムに代わってランがお雪に尋ねると、 「今は私の調合した中和剤で何とかなっているけど、このままでは・・・いずれはそういうことに・・・」 と、お雪はうつむき加減で答えた。 その瞬間ラムは、血の気のうせた顔で昏睡状態のあたるに寄りかかり泣き崩れた。 一度に元婚約者、従兄弟、そして父を失った彼女の胸中は、十分察することができる。 それどころか、今まさに最愛の夫を失いかけているのだ。 「そ・・・そんな・・・ねえ、お雪さん!ほかに何か方法はないの!?」 しのぶが尋ねたが、お雪は、 「八方手は尽くしたけど、私の知っているどの解毒剤も効果はなかったわ。 今の私にできるのは、中和剤を注射して少しでも延命することだけなの・・・」 としか答えられなかった。 「くそっ・・・面堂家の最新医療設備をもってしても、どうすることもできんのか・・・!! 奴の言うとおり、諸星の死をただ黙って見届けるしかないのか・・・!!」 面堂が唇を噛み締めながらそう言ったのに対し、メガネが、 「よせ、面堂!ラムさんの前で縁起でもない!!」 と怒鳴った。すると、病室の窓の外で物音がした。 「だ・・・誰だっ!?」 弁天が怒鳴ると同時に、あたるの体にうずくまったままのラムを除き、 みんなが窓のほうを見ると、 そこに青いショートヘアの、頭には2本角があり、赤い目をした色黒の娘がいた。 インフェリオル族に間違いなかった。 「・・・てめぇー・・・インフェリオル族だな!?何しに来たかは分かってるぜ!! こんなところに1人で乗り込んでくるたあ、いい度胸じゃねえかっ!!」 弁天はその娘の姿を見るや否や、彼女を威嚇し、バズーカを向けたが、 「ま、待ってください!撃たないでください!!私は戦いに来たのではありません!!」 と娘が体の前で手を振りながらそう叫ぶと、弁天はトリガーから指を外した。 その後、彼女は自分のことについて話し始めた。 「私、ジャンヌといいます。私・・・フィリップの妹なんです・・・」 その場にいたみんなは驚いた。そのあと弁天が、 「てぇんめぇー・・・!!やっぱりそうか!!兄貴に頼まれてスパイに来やがったんだな、このアマァ!!」 とジャンヌを怒鳴りつけると、お雪は、 「やめなさい、弁天!彼女は戦いに来たわけじゃないって言ってるじゃない! それに、よく考えてごらんなさい。彼女は敵の総大将の妹なのよ。 このまま兄のところに留まっていれば、それなりの地位が約束されているのに、 仲間を裏切ってまで1人でこんなところに来るのには、それなりの訳があるはずよ。 ・・・ごめんなさいね。話を続けてちょうだい」 と弁天をたしなめ、怯えるジャンヌを安心させた。 「ケッ!」 弁天が舌打ちをしてそっぽを向くと、ジャンヌは話を再開した。 「は、はい。私はインフェリオル族ですが、兄のやり方には納得がいかないと思っています。 そんな兄に抗議するために、私は祖国を裏切り、あなたたちとともに戦いたいと考え、ここにやってきました」 ここまで聞いて、お雪はジャンヌに、 「そう。そういうことなら私たちは歓迎するわ。あなたの申し出、受け入れます」 と歓迎の言葉を述べた。 「こ、こらっ、お雪!勝手に決めてんじゃねぇ!!」 弁天はそう言って抗議したが、サクラは、 「まあよいではないか、弁天。こちらが圧倒的に不利なんじゃ。味方は1人でも多いほうがよい」 と言い、お雪も、 「それに、彼女はフィリップたちの手の内をある程度知っているでしょうし、 味方にしておいて損はないと思うわ」 と言うので、弁天も、 「しょうがねえなあ、分かったよ、好きにしな・・・」 とついに折れた。 「それにしてもあなた、よくこんな土砂降りの雨の中ここまで来れたわね?」 お雪がジャンヌのほうを向いて尋ねた。その様子を見てしのぶが、 「えっ?どういうこと?お雪さん」 とお雪に尋ねると、お雪は、 「ほら、さっきフィリップ達、雨が降ると同時に撤退したでしょう? 私、そのことを妙に思ってリトマス紙にその雨水をつけたの。 そしたら青いのが赤くなって・・・つまり酸性雨ってことがわかったの。 だからもしかしたらと思って・・・」 と答えた。するとジャンヌが、 「あなたのおっしゃるとおり、インフェリオル族は一般的に酸性雨に弱いんです。 酸性の物質すべてというわけではなく、なぜか酸性雨だけに・・・ でも私は大丈夫なんです。何でも、突然変異なんだそうです」 と答えた。 「やっぱりそうだったのね。ではジャンヌさん、もし彼らが酸性雨を浴び続けるとどうなるの?」 お雪がさらに質問すると、ジャンヌは、 「死に至るということはありません。でも、浴び続けるとたちまち皮膚が腐り、 中までも腐り、最後は体のその部分が腐り落ちてしまうのです」 と答えた。 「ねえ、あたしからも質問していいかしら?どうしてあなたのお兄さんたちは、 ラムやあたる君を狙うの?ラムはスーペリオル族に対する恨みからだととしても、 あたる君は地球で生まれて18年間ずっとここで育ったのよ? 普通に考えて、あなたたちがあたる君のことを知っているはずがないし、 ましてあたる君を恨む理由も、狙おうとする理由もないはずよ」 しのぶにこのように尋ねられて、ジャンヌは、 「兄やその仲間がラムさんやあたるさんを執拗に狙うのは、恨みからではありません・・・」 と答えた。 「じゃあどうして?あたる君とラムに何か秘密でもあるの?」 しのぶがさらに質問すると、ジャンヌは、 「実は・・・ラムさんとあたるさんの体には、それぞれレッドクリスタルとブルークリスタルがあるんです。 兄はそれを狙っているんです」 と答えた。しのぶがクリスタルのことを尋ねようとしたその時、 「うっ!!ぐわあああーーっ!!」 突然あたるが叫びだした。 「ダ、ダーリン!?どうしたっちゃダーリン!?」 ラムが泣きそうな声で叫ぶと、お雪が、 「中和剤の効き目が切れたんだわ!ラム、どいて!中和剤を注射するわ!」 と言い、あたるの左手に中和剤を注射した。するとあたるの発作は鎮まった。 「ふう、落ち着いたようね・・・でもこの中和剤もいつまでもつかしら・・・? どんな薬も習慣性があるから・・・」 お雪がそう言うのを聞いて、ラムはまたしくしく泣き出した。ジャンヌが、 「中和剤!?お雪さん!どうして中和剤なんか使っているんですか?」 と尋ねると、お雪は、 「この人はね、あなたのお兄さんに殺されそうになったラムをかばって、 あなたのお兄さんの爪の毒に侵されてしまったのよ。それで・・・」 と答えた。それを聞いた瞬間ジャンヌは、 「な・・・何ですって!?それは本当ですか!?」 と血相を変えて叫んだ。 「なあ、おめえ解毒剤の作り方知らねーのか?」 弁天がそう言うとジャンヌは申し訳なさそうに、 「すみません・・・解毒剤はないんです・・・」 と伝えた。 「じゃ、じゃあ諸星はやはり、このまま死ぬしかないということですか!?」 面堂がそう尋ねると、ジャンヌは、 「いえ!方法がないわけではありません。ある植物の葉をすりつぶして、 エキスにして飲ませれば、あるいは・・・」 と答えた。 「ある植物って!?一体何なんだ!?」 メガネが尋ねると、 「ミラクルセージですわ」 とジャンヌは答えた。 「ミラクルセージって何なの?セージってことはシソの一種だとは思うけど・・・」 しのぶがジャンヌに尋ねると、 「ええ、おっしゃるとおり、それは薬草であるシソの葉の一種です。 それをすりつぶしたエキスを一口でも口にしたら、あらゆる怪我、病気もたちどころに治る、ということです」 とジャンヌは答えた。 「それで、それはどこにあるのですか?」 面堂が尋ねると、 「亜空間ベクトルXYZというところです。そこのジェームスの森の奥地に・・・」 とジャンヌは答えた。 「ア、アクウカン!?な、何ですかそれは?」 面堂がさらに尋ねると、 「平たく言えば異次元空間、別世界のことですわ」 とお雪が横から答えた。 「よーし、だったらこうしちゃいられねえ。アタイがひとっ走り行って来て、 その何とかセージってヤツを取ってきてやらあ。じゃあ・・・」 これで希望が見えてきたと陽気になった弁天の目に、 「うう・・・ダーリン・・・ダーリン・・・」 と湿っぽく泣くラムの姿が映った。 弁天は突っ伏して泣き続けるラムを無理やり引き起こし、ラムの左頬に、 パシィーーーン と平手打ちをした。そして左頬を押さえてその場に立ち尽くしたラムに向かって、 「いつまで泣いてやがるんだっ!!」 と怒鳴りつけた。ラムが何も言わないので、さらに、 「おめえな、そうして泣いてりゃ、諸星が救われるのか?体の毒が消えるのか? 諸星のやったことが報われるのか?こいつの命が助かるのかよ!? てめえの亭主はなあ、てめえを守ろうとして、今こんな目に遭ってんだぜ!? それに対して女房として報いようと思うなら、今やることは1つだろうが!!」 ときつい口調で言った。弁天はラムに顔を近づけてさらに、 「周りを見てみろ。悲しいのはてめえ1人じゃねえんだぞ。ランだって、 レイの奴を目の前で殺されて・・・それでもこの場で必死に涙をこらえてんだぞ。 それを何だ!?そんなランに対して遠慮もなくピーピー泣きやがって・・・」 と怒鳴りつけた。 「弁天・・・別にあたしは・・・」 ランはただそう言った。しかしラムはうつむいてしまい、これを見た弁天は、 「・・・ケッ、やめた、やめた!てめえみてえな腰抜けに何言っても無駄みてえだな。 こうなったらアタイ1人でも行って来てやらあ。こいつが気の毒だもんなあ。 こんな腰抜けのバカ女のために命を賭けたこいつの間抜けさ加減がな・・・」 と言った。「間抜け」その言葉にラムは猛烈に反応した。 「・・・今、何て言ったっちゃ・・・?」 すると弁天は、 「ああん?聞こえねえなあ!?」 とラムを挑発した。するとラムはもっと大きな声で、 「今なんて言ったっちゃって聞いてるっちゃ、弁天!!」 と叫んだ。すると、 「へえー、聞こえなかったのか!?おめえ耳わりいのか?じゃあもう1回言ってやらあ!! てめえみてえな腰抜け女のために命を賭けた諸星は間抜けだ、バカだ、ドジだ、 これじゃ犬死だなって言ったんだよ!!」 と外にも聞こえるような叫んだ。これを聞いたラムは、 「弁天っ!!ウチのことはともかく、ウチのダーリンの悪口はいくら友達でも許さないっちゃよ!!」 と激しく怒鳴った。突然始まった2人の口論に、周りは騒然とした。お雪は、 「弁天、言い過ぎよ。ラムに謝りなさい」 と言って弁天を押さえようとしたが、弁天は、 「はァ!?何が言い過ぎだってんだよ!?アタイは本当のことを言っただけだぜ!? こいつはなあ、てめえの亭主のピンチに何もせず、ただじめじめ泣いているだけなんだぞ! こんな薄情な女のために命を賭けるなんて、まさにバカな野郎のやることじゃねえか!! 諸星はタコなんだよ、スカタンなんだよ!!ハッハッハ!!おい!何とか言ってみろよ!!」 とあたるへの暴言を続けた。周りがフォローできずにいると、ラムが、 「やめるっちゃっ!!これ以上ダーリンの悪口言ったら、ウチ本気で怒るっちゃよ!! それに、ダーリンはまだ死んでいないっちゃ!!ウチが・・・このウチが・・・ 絶対にダーリンを助けてみせるっちゃ!!父ちゃんやテンちゃん、レイのようには絶対にさせないっちゃ!!」 と弁天に向かって叫んだ。すると弁天は薄笑いを浮かべ、 「ほー。じゃあおめえ、これからどうするんだよ?」 と尋ねた。ラムは、 「知れたことだっちゃ!ウチもミラクルセージ採りについていくっちゃ!!文句はないっちゃね!?弁天!!」 と答えた。それを聞いた弁天はかすかに笑い、 「・・・おめえの口から、その言葉が聞きたかったんだ」 とささやいた。この言葉を聞いた面堂は、 (なるほど・・・これで弁天様の腹の中が読めた) と思い、竜之介も、 (弁天の奴、はなっからこれが狙いだったんだな・・・) と思った。2人とも、これでいけると確信した。このあと早速、作戦会議が開催された。 「アタイのバイクにはあと2人誰か乗れるぜ!この中で誰かアタイらについてきてえ奴はいるか?」 弁天のこの申し出に、2人が名乗り出た。 「ボクが行きましょう!何せ、このまま諸星にばかりいい格好はさせられないですからね」 と言った面堂と、 「オレも行くぜ!どうせオレは、ここにいたって何の役にもたたねえからな」 と言った竜之介であった。 「よーし。これで決まりだな。じゃあ早速出発すっか!・・・おっとその前に、 おい、ジャンヌ。おめえの目で見て、諸星はあとどのくらい持つんだ?」 弁天にこう尋ねられて、ジャンヌは、 「そうですね・・・この症状の進み具合だと、もってあと24時間ですね。 それを過ぎたら、私はもう彼の生命は保障できません・・・」 と答えた。 「24時間ですか・・・それで間に合いますかね?」 不安げに面堂が言うと、弁天は、 「間に合いますかじゃねえ。間に合わせるんだよ!どんな手を使っても」 と言った。ラムも、 「24時間あれば十分だっちゃ・・・ダーリン、待ってて・・・すぐ戻ってくるから・・・」 と言うと、青ざめたあたるの頬に軽くキスをした。誰も騒ぐ者はいなかった。 そしてあたるの心拍数と脈が常に分かるように、携帯心電図と脈伯計を持った。 「じゃあジャンヌ、おめえはお雪やランと一緒に諸星のことを頼む。 それと残りの奴らは、病院周辺と町の警備をしてくれ」 弁天は巧みにリーダーシップを発揮した。 「弁天さん、それにほかの皆さんも、気をつけてください。 亜空間ベクトルXYZは、金と力がすべての、すさんだ世界です。 どんな危険が待っているか分かりませんから・・・」 ジャンヌがそう言うと、 「心配すんな!任しとけって!これ以上犠牲者を増やすようなマネはしねえよ!」 「だっちゃ!」 という頼もしい返事が返ってきた。 「面堂さんも竜之介君も気をつけて・・・」 そう言ったしのぶに、2人はそれぞれ、 「心配ありませんよ、しのぶさん。すぐミラクルセージを手に入れて、戻ってきますから」 「どんな敵が現れたって、オレがちょちょいとぶっとばしてやっからよ」 と答えた。そして4人が乗ったエアバイクが、今飛び立った。 ラムたちが部屋を出て行った直後、 「あ、みんな!そういえばご飯まだなんでしょ?あたし、何か作ってくるわ!」 とランが言った。誰の目にも、空元気であることは明らかだった。 「ラン・・・いいわよ。無理しなくても。あんなことがあった直後だもの。 私としのぶさんでやるから、あなたはもう少しゆっくりしなさいな」 お雪はランを気遣って、このように述べたが、 「いいの・・・何かやってるほうが気が紛れるし・・・ありがとう、お雪ちゃん・・・」 ランは寂しげに笑いながらこう言って病室を出て行った。 「お雪さん・・・私はインフェリオル族ですが、兄とその仲間がしたことは、 インフェリオル族として恥じています。いえ、自分がインフェリオル族であることを恥じています。 ですから私は、正義を守るため、ここに来たのです」 ランが出て行ったあと、ジャンヌがそう話すと、お雪は、 「そう。でも私は、正義のための戦争なんてこの世に存在しないと思うわ。 私はどんな形であれ、一刻も早くこの戦争が終わって欲しいと思うの。 だからあなたには、正義のためでなく、これ以上新たな悲しみを産まないために、 私たちに協力して欲しいの」 と伝えた。ジャンヌが難しそうな顔をしたので、 「あら、ごめんなさい。つまらないお説教しちゃって」 とわびると、ジャンヌは、 「いえ、よく考えたら、あなたの言うとおりですわね。私はインフェリオル族として、 仲間に対してこの侵略戦争が間違っていることを訴えたいと思います」 と答えた。 その頃ラムたちは亜空間に行くために、次元のひずみを探していた。 「ラム、さっきはすまなかったな・・・」 突然弁天がこう言い出したので、ラムは驚いた様子で、 「ど、どうしたっちゃ?いきなり・・・」 と返事すると、弁天は、 「ほら、さっきの諸星への悪口のことだよ!あれは本心で言ったことじゃねえんだ。 おめえがよう、いつまでもめそめそしてたから・・・それで・・・」 と決まり悪そうに言った。それを聞いてラムは、 「わかってるっちゃよ!弁天が友達の傷つくようなこと言うわけないもんね。 大丈夫だっちゃ!ウチは、ダーリンの命が助かるまでは、絶対にもう泣かないから」 と元気に答えた。それを聞いて弁天はニッコリ笑った。 そんな中、面堂が携帯電話を取り出し、どこかに電話をかけ始めた。 その様子を見ていた竜之介が、 「よう、面堂。こんなときにどこにかけてんだ?」 と尋ねると、面堂は、 「いえ、ちょっと忘れていたことがあったもので・・・ボクだ、終太郎だ」 と言い、電話に向かって話し始めた。 「・・・というわけだから、すべてお前に任せる。いいか、ボクが家を空ける今、 お前がしっかりしなければならんのだからな。じゃ、切るぞ」 と言うと、電話を切った。 「ねえ、終太郎。誰にかけたっちゃ?」 ラムの問いかけに対し、 「了子です。ちょっと言い忘れたことがあったものですから」 とだけ答えた。その時、 「おい!次元のひずみ、やっと見つかったぞ。しかし何で今日はこんなに手こずったんだろうな・・・?」 と言う弁天の声が聞こえた。彼女がそう言うのももっともであろう。 いつもなら3分もかからないひずみ探しが、今日に限って30分以上もかかった。 やっと見つかったのが、八王子市の上空という有様だった。 「よし。今からひずみに突っ込むぞ!揺れるかもしれねえから、3人とも、 何かにしっかりつかまれ!絶対振り落とされんじゃねえぞ!!」 弁天が3人に向かってそう告げると、エンジンがうなりをあげ、 ひずみに向かって猛スピードで突っ込んだ。 「わぁーー!速いのこわいよォーー!」 面堂はこう叫んだが、今さらバイクは止まれなかった。 一方、ここは面堂家私設軍隊の兵舎である。大将である面堂からの連絡がなく、 どうしたらよいかと迷っていた矢先、了子がそこに現れた。 髪を後ろで束ね、迷彩服に身を包んでいた彼女は、現れるや否や、 「みんな、聞きなさい!たった今から、あなたたちの指揮はこの私が執るわ! 誰か異存のある者はいるかしら!?」 と叫び、皆に自らの信任を問うた。誰も異存を唱えるものはいなかった。 彼女の迫力に皆圧倒されていた。 その瞬間、面堂家私設軍隊の指揮統帥権は、今年高校生になったばかりの少女の手に委ねられた。 To be continued...... Toshio