時は夢のように・・・。  第一話『美しき訪問者』  それは、三月の最後の日曜日だった。  俺、諸星あたるは、朝からこそこそと慌てふためいていた。  今からガールハントに繰り出すため、その邪魔者であるラムの目を掻い潜らねばならんのだ。  ラムはまだ寝ていた。 「くくく・・、作戦成功! 夜遅くまで花札に付き合ってのは、この為よ!」  実のところ、昨夜の花札勝負は作戦の第一段階だったのだ。まぁ、夜中の二時をまわった時ぐらいには、ヤケクソになっていたんだけどね・・。何でかって? そ・・それは、ラムには一勝も出来ずに悔しくて・・、って、そんな事はどーでもいいっ! 今日はラムの邪魔が入らずにガールハントが出来る! それでいーじゃないか! 「さーて、今日はどの辺りから行こうか・・。商店街から始めるか。いやいや、どーせラムのことだから俺を血眼になって探し回る、商店 街だとハチアワセになっちまう可能性がある・・。やはりここは・・。」  考えに深けながら洗面所の鏡の前で髪の毛を梳かす。時折顔の角度を変えてみたりする。 「やっぱり俺のキマル角度は斜め30度だな。」  髪の毛をピシッと整え、気合をかける。 「いざ出陣!」  まさにこの日、人生の転機が訪れようとは、夢にも思わなかったのだ。  家の前の通りをバイクが通りかかった。  フォォーーーーーン・・。  バイク独特のマフラーの音。  すると、ちょうど家の前辺りでその音が変わり、やけに大きくなりやがった。  ボボボボボ・・・。 「うるせーな! ラムが目を覚ましちまうじゃないか!」  しばらくすると、音は止まった。家に来たのか?  ちょっと間を置いて、家のチャイムが鳴った。  ピンポーン。ピンポーン。・・・ピンポーン。  二回の後に一回。 「ったくなんだってんだ? こんな朝っぱらから。」  三回もチャイム鳴らさなくても分かるって。宅急便かな?  朝からの不意な訪問者に毒づきながら、玄関に足を向けた。  チャイムはまだ鳴りつづけていた。 「は〜いはいはい。今開けますよ。」  ドアノブを握って、扉の向こうに話しかけた。 「どなたですか〜?」 「あのう、こちらは諸星さんのお宅ですよね?」  以外な事に、返ってきたのは女の子の声だった。  この声は・・! 直感が閃いた俺は、あわてて扉を開けた。  すると・・・そこには、白いコートを着た、見たこともないような可愛い娘が、右手に大きなバックを下げて立っていた。  ちょっとの間まばたき出来なかった。か・・可愛い・・・。 「・・・ぶっ!」  俺は込み上げてくるモノを抑えることができなかった。鼻血を漏らしてしまったのである。大至急両手で鼻を押さえる。そして、すぐさま体勢を立て直した。 「えーと、どこでお会いしましたっけ? 公園? 駅前? 商店街だっけ? しかし光栄だな〜! 僕を慕って訪ねて来てくださるなんて〜!  僕、今から出かけようとしてたんだ。ちょうどいいからデートしましょうか〜?」 「あ・・あのぉ〜〜、私、初対面ですけど・・。」 「あ・・あら・・。そうでしたか〜。ははははは〜〜!」  しかし可愛い娘だ。俺と同じくらいの年頃だろうか。まさに『可愛い』という言葉がぴったりの、本当に綺麗な女性だった。肌の色は白くて、つややかだ。さりげなく整えられた前髪は、はっきりといい弧を描く眉に届くくらいの長さ。くりくりした二重まぶたの下には、きらきら大きな目が輝いている。瞳の色は透き通るような黒だ。じっと見入ってしまう。すうっと通った鼻筋と、ふっくらとした滑らかな頬をしていた。  娘が俺を見ている。そして、ニコっと微笑んで、健康的なピンク色の唇を開いた。 「おはようございます。はじめまして! 私、唯(ゆい)です! 朝からお邪魔しちゃってごめんなさい!」  彼女がペコッと頭を下げた。背中まである亜麻色の長い髪の毛が彼女の動きに合わせ、さらさらと音を立てて肩を滑り落ちていく。触りたくなる綺麗な髪だ。 「あ、い、いや、ど、どぉも。」  つられて一緒に頭を下げてしまった。  顔を上げた娘は、ドキッとするような笑みを浮かべ、首を傾げた。 「あたるさんですよね? もう少し年上かと思ったんだけどなぁ。私は十九歳で社会人なの。あなたは? 今日から少しの間一緒に生活する んだもん、なんでも知りたいな。」 「えっ?! あ・・あの、それはどーゆー・・?」  頭が真っ白になった。俺としたことが不覚である。いくらとびきり可愛くても、この宇宙一プレーボーイの俺が翻弄されている! 「あらっ、あなた諸星あたるさんでしょ? 私、祈瀬唯(いのせゆい)です。」 「はぁ?!」  何が何だかさっぱり分からなかった。こんな美人が一緒に住むとなれば大喜びだが、話が唐突すぎる。誰か説明してくれ。  するとそこへ、家の奥から父と母が玄関に出てきた。 母「まぁまぁ、早かったじゃありませんか。」 父「やぁ、いらっしゃい唯さん。ちょうど話をしていた所なんですよ。」  どうやら、父さん達の知り合いらしいって事は分かった。 唯「おはようございます。おじ様! 父がいつもお世話になってます!」  彼女は俺の父さんに向かってペコリと頭を下げた。 父「いやいや、こちらこそお世話になりっぱなしで・・・。」  父さんがぽりぽりと頭をかいて頭を下げた。 母「さぁさぁ、こんな所でお辞儀のしあいしてないで、おあがんなさい。」 父「訳は中で話すから、あたる、お前も来なさい。」  訳も分からずだったが、とりあえず、俺は彼女の足もとのバックを持ち上げようとした。その時初めて気づいた。 あたる「な・・なんじゃこれは!!」  玄関の外には『黒犬宅急便』と、でかでかと犬の親子のロゴマークの入った、大きなダンボールがいくつも積んであるじゃないか。 唯「あ、これは私の荷物です。運送会社の人が、この後予定が詰まっているとかで困っていたようなんで・・・、そこに置いていってもら  ったの。」 あたる「なんて無責任な!」  確かに俺がなかなか玄関に出て来なかったって言ったって、ちょっとくらい待ってくれよなぁ。ほんの2・3分じゃないか。 あたる「まぁ、荷物は後にして、中入りましょ。」 唯「はい。お邪魔します。」  彼女は玄関に入り、靴を脱いだ。  玄関を入るとすぐ右手が二階への階段になっていて、一階の一番奥は台所、その手前の左手が茶の間になっている。とりあえず彼女を茶の間に招き入れた。                            * 茶の間。 父「まぁ、適当に座りなさい。」 唯「あ、はい。」  彼女はテーブルの前にちょこんと正座した。彼女の行う仕草はどことなく清楚さをも漂わせている。 あたる「んっ?」  茶の間から外を見ると、バイクが止まっていた。赤と黒のグラデーションで彩られたデザインで、カウルの付いた完璧なまでにスポーティーなやつだ。 あたる「あのバイクは?」 唯「あ、そのバイクは私のです。ここまで乗ってきたんですけど、まさか道路に止める訳にはいかなかったんで、勝手にお庭に止めちゃい  ました。ごめんなさい!」  バイクのシートには、ヘルメットと皮のつなぎが置かれていた。 あたる「カッコイイのに乗ってんだね。」 唯「バイクに乗るのって高校生の時からの憧れだったんです。バイクに乗ってる女性って、なんかカッコイイじゃないですか。だから学校  卒業したらすぐお父さんを説得して、買っちゃいました。」  ニコニコして話しをする彼女。可愛くて、清楚さも兼ね揃え、しかもバイクに乗るようなワイルド指向。完璧『パーフェクト』だ。  母さんがパタパタとスリッパの音を弾ませながら、台所からお茶の準備をして茶の間にやってきた。テーブルの前に座ると、横から彼女にお茶を差し出す。 母「お茶でも、どぉぞ・・。」 唯「あ、ありがとうございます。」  軽く会釈する彼女。  彼女が行う仕草一つ一つが、なんとも愛くるしく見えてしまう。 あたる「くぅーーっ! たまらんっっ!!」  彼女の可愛らしさにまじまじと見入ってしまうあたる。  一瞬、彼女と目が会ってしまった。  しかし彼女は、そんなあたるの血走った視線にも動じず、ニコッと微笑んで答えてくれる。もしかして、彼女は俺に気があるのでは?  ちょっとの間、静かな時間が過ぎた。しかし、父さんが何か察したのか、突然静寂を破った。 父「おほんっ! あー、あたる。ラムちゃん達はどうした?(あたるのあの血走った目き・・、きっととんでもない事考えてるに違いない、  ここらで止めにゃ・・。)」 あたる「まだ寝てるんだろ。昨日寝るの遅かったからな。」 父「そうか、まぁ、ラムちゃんには後で説明すればいいか。母さん、お茶。」  母さんは父さんから湯飲みを受け取ると、こぽこぽと湯飲みにお茶を注ぎ、お茶を父さんに差し出し、定位置に座る。  父さんは一口お茶をすすると口を開いた。 父「うぉっほん! あたる、あらためてこの方を紹介する。この方は、私の会社の同僚で友人の祈瀬クンの娘さんで、祈瀬唯さんだ。お父さ  んの祈瀬クンは海外に転勤になられてな、家族で海外に引っ越すことになられた。しかし、唯さんは日本に残る事を決意されたのだ。  そこで、一人暮らしを始める事にしたんだが、転勤の話しが出たのが急すぎたせいもあって、なかなか部屋が見つからないもんで、ま  ぁ、日ごろからお父さんにはお世話になっているということもあるし、恩返しという意味合いからも、一時的に唯さんを我が家でお預  かりすることになった。」 あたる「・・・・・・。」  あたるは何も言わず、下をうつむいたままだった。 母「聞いてるの? あたる!」  あたるの母が問いかけても微動だにしなかった。  父の説明を聞いて、あたるの頭の中では、既に欲望の構想を組み立てていたのだ。 あたる「(くくくく・・。こんなおいしいシチュエーションが許されていいのか? 理性が保たれるのか? 諸星あたる十七歳! いや・・、    我慢なんぞ出来るわけなかろうが!こんな美女と一つ屋根の下で暮らせるとは、何と言う幸運だ・・。うふふふふ・・・。)」  あたるは、うつむいたまま、わなわなと肩を震わせはじめた。そんなあたるを見た父と母は、ビクッと驚いた表情を見せ、額から妙な汗を流していた。 父「あ・・あたる?」 あたる「くくくく・・。一つ屋根の下・・。こんな美女と・・。にひひひひ・・。」 母「あ・・あなた・・。また、あたるの悪い発作が始まったんじゃ・・?」  ひそひそと父に耳打ちする母。  と、突然あたるが立ち上がったのだ。 あたる「うおぉーーーっっ!!」  ずざざっと、両親が後ずさりした。拍子に父さんの眼鏡がズルッとズレる。  あたるは立ち上がったまま、右腕にこぶしを作りガッツポーズし、天井を見つめている。 唯「あのぉ、どうかなさったんですか?」  目を真ん丸くさせ、あたるを見上げる唯。  そしてあたるがマジな顔を作り、唯の顔に近づくと、そっと唯の手を取った。 あたる「祈瀬さん、運命です。あなたに会えたのは、きっと神様がお導きになられたからです。」 唯「はぁ・・?」  不思議そうな顔をする唯。  そんなあたるの行動を見て、父があたるに声をかけた。 父「あたる、ちょっと来なさい。」  しかし、あたるの耳には父の声は届いてないらしく、 あたる「僕は・・・ずっとあなたを愛してました!」 父「あたる。ちょっと、聞いてるんですか?」 唯「あ・・あのぉ・・・。初対面・・ですってば・・・。」 父「こら! あたるってば!」 あたる「愛は時間をも越えるんです! そう、僕の愛は全てあなたに注がれて・・。」 父「あたるーーーっっ!!」  あたるの耳元で父が絶叫した。  あたる「な、なんだよ? そんなに大声出さなくても聞こえてるよ!」 父「まったく! ホントに聞こえてんの? ちょっと来なさいと言ってるんです!」 あたる「わーったよ。」  名残惜しそうに唯から手を離すと、ぶつぶつ言いながら、腰重そうに立ち上がった。 あたる「父さん、眼鏡ズレてるよ。」 父「分かってます!」  父があたるを連れて茶の間を出ていく。  その後ろで母が呟いた。 母「はぁ〜・・、産むんじゃなかった・・。」                            * 台所。  父はズレていた眼鏡を人差し指でクイッと上げて、珍しく真剣な眼差しで俺の目を見据えた。そして、小さな子供を言い聞かせてなだめる様に語りかけてきた。 父「お前に一つ言っておきたい事があるんだよ。」 あたる「なんだよ? 急にあらたまっちゃって。」 父「あたる、父さんはお前を心から信用している。もちろん母さんだってそうだろう。信用してはいるんだが、友人から預かった大切な娘  さんだ。決して、欲望に任せて軽はずみな真似はしないようにな。」  そりゃどーゆー意味だよ。信用してるなら、そんな言葉が出てくるはずがないじゃないか。しかも、茶の間に戻る時に一言、決定的な事を言いやがった。 父「いいかいあたる、『鬼畜厳禁』だよ。」 あたる「あのな父さん! たった今、心から信用していると言ったではないか!」  ちっ、気にくわんっ。自分の息子を何だと思っているのだ。  そんなこんなで、再び茶の間に戻ると、母さんと唯とで話しに花が咲いていた。 唯「あたるさんが高校生だなんて、年下なんですね、びっくりしました。」 母「出来の悪い息子で困ってますの〜。お恥ずかしいですわ〜。おほほほほ・・。唯さんが勉強教えてくれたらホント助かりますわ〜。」 唯「ええ、任せてください! バッチリ教え込みますから!」  何の話しかと思えば、俺の事ではないか。いくら会話のネタが無いからって、俺を持ち出してほしくないもんだ。それも、出来の悪い息子ってどういうことだ?! 俺は、あんたらの息子だぞ! 大声で言いたかったが、お客さんの手前、やめた。  父さんと俺は、定位置に座ると茶をすすって一息ついた。 母「あ、そうだ。唯さんの部屋なんだけど、二階の奥の部屋を使ってね。物置だったんだけど、昨日のうちに荷物は移動させたし、綺麗に  掃除しといたから、清潔よ。自分の家だと思って好きに使ってもらっていいから。」 唯「あ! ありがとうございます!」  満面の笑みを浮かべてお辞儀する唯。その笑みはいつまでも見ていたくなるような、気持ちのいい笑顔だ。  会話がちょっと切れ、静かになったせいで、二階がちょっと騒がしい事に気づいた。                            * あたるの部屋。 ラム「あーーっいっけなーーい! 寝坊したっちゃ!」  ラムはいつも押し入れで寝ている。  飛び起きたラムは、勢いよく押し入れの戸を開ける。 ラム「ダーリン起きるっちゃ! 寝坊だっちゃよ!」  しかし、あたるは部屋に居なかった。 ラム「あれっ? ダーリンどこだっちゃ? もうダーリンたら、先に起きてるなら、何でウチのこと起こしてくれないっちゃ?!」  ラムと一緒に押し入れの中で寝ていたテンが、半分眠りながら奥から出て来た。 テン「ラムひゃん・・。どないしたねん・・?」 ラム「テンちゃん、早く起きるっちゃ。もうお昼だっちゃよ!」 テン「今日は日曜やないか〜・・。ワイはも少し寝てるで・・。」  テンは再び押し入れの中に入ると、すーすーと寝息を立て始めた。 ラム「もう、しょうがないっちゃね・・。(まぁ、仕方ないか。夕べはダーリンに付き合わされて夜中の三時過ぎまで花札してたんだもん   ・・・。ダーリンの意地っ張りも、困りモノだっちゃね・・。)」  押し入れの戸を静かに閉めた。  そして部屋のドアを開けると、飛翔して階段を下り、一階の洗面所に向かった。                             * 茶の間。 父「おや? ラムちゃんが起きたようだね。」 母「ラムちゃーん、顔洗ったら茶の間に来てちょうだいねーっ。」  母さんが、ふすまを開けて顔だけ出してラムに声をかけた。 ラム「はいだっちゃーっ。」  しまった・・。ラムの存在をすっかり忘れていた・・。  なんだか、すっかり酔いが覚めてしまった感じだ。  俺が彼女に手を出そうとしようものならば、絶対あいつが黙っていない。怒鳴って喚いて泣き叫ぶだろう。とどめには電撃リンチは必至だ。それがあいつの伝家の宝刀とも言うべき必殺技でもあるしな・・。 あたる「・・・・。」  考えれば考えるほど、ブルーに入っていく。 唯「あの・・、あたるさん・・?」 あたる「は・・?」 唯「どうかなさったんですか? お顔が真っ青ですよ・・?」  どうもラムの事を考えると深みに入ってしまう。そのせいで妙な顔をしていたんだろう。唯は首をわずかに竦めた。 あたる「い・・いや〜〜、文字だけでして、カラーでお見せ出来ないのが残念ですぅ・・。」 唯「あっ、そうそう、あたるさんだなんて馴れ馴れしくてごめんなさい。今日会ったばかりなのに。あの、あたるさん、って呼んでいいか  な? 私の事も、他人行儀は嫌だから、唯って呼んでください。これから一緒に暮らしていくんですもの・・ね。」  これから・・ずっと?(おれにはこう聞こえた)その言葉が引き金となって、俺の頭はまた妄想の世界に突入していった。 あたる「(今日からずっと一緒に・・・唯と一緒に・・・? いやぁ〜ったまりまへんなぁ〜〜っ! うひひひひ〜〜っ!)」  俺の心では、彼女は『祈瀬さん』から、早速『唯』に変わっていた。  にやにやと不気味な笑みを浮かべて、視線は宙を彷徨わせている。そんなあたるに両親は大きく溜め息をついた。  そうしていると、茶の間の戸が開いて、元気一杯の声が部屋にこだました。 ラム「おっはよーーっ!」  起きたばかりだというのに、相変わらずハイテンションなラム。  唯は、予想だにしなかったラムの登場の仕方に、ちょっとびっくりしたのか、目を真ん丸くさせている。  振り返った唯とラムの目があった。 ラム「ん? お客さんだっちゃ?」  大きく、つぶらな瞳をパチクリさせるラム。 唯「あ、おはようございます!」  唯もラムに負けないくらい元気一杯に挨拶を返す。 父「おはよう、ラムちゃん。こちらは祈瀬唯さん。今日からしばらく我が家でお預かりする事になったので、仲良くしてくれるかな?」 ラム「どーゆー事だっちゃ?」  あまりに唐突な話しで小首を傾げる。  唯は、すっと立って、また頭を下げた。 唯「初めまして、祈瀬唯です! 今日からお世話になります!」 ラム「あ、ど・・どぉも〜・・。」  事情が分からないラムであったが、つられるようにお辞儀し返す。 あたる「唯ちゃんって、ほんに礼儀正しいのぉ〜。むっふふふふ・・。」  ラムと唯が並んで立って初めて分かったのだが、唯も結構背が高い。高いと言ってもラムよりほんの少し高いくらい、ラムは俺と比べると少し低いくらいだから、もしかすると、俺と同じくらいあるのでは・・? 唯「あの・・。」 ラム「ウチ、ラムだっちゃです。」  にっこり笑って自己紹介。 唯「じゃあ、ラムさん。仲良くしましょうね!」  唯はグッとくるような笑顔でにこやかに微笑んで、右手を差し出した。 ラム「イマイチ事情が分かんないけど、ヨロシクだっちゃ!」  ラムは唯の手を軽く握って握手した。 あたる「唯ちゃぁん! 僕とも仲良くしてね〜〜ん!」  唯の背中にすりすりするあたる。  それを見たラムが途端に顔色を変える。 ラム「ダーリン! ウチの前でそんなことするなんて、いい度胸だっちゃね!」 あたる「い・・いや、違うんだよラム。これは反射的と言うか、癖と言うか・・。俺流の挨拶ではないか・・。」  青白い光を放ちバチバチと放電するラム。あたるもみるみるうちにテンションが下がって、声が小さくなっていく。 あたる「はははは・・、ラム、落ち着けって。な? お客さんの前じゃないか。」 ラム「ダーリン・・、ウチは・・ウチは・・・情けなくて・・・。」  あたるの両親は何も言わず、テーブルを持ち上げ、あたる達の側から離した。そして唯に一言『危ないから下がって』と告げた。 あたる「あ、いかんいかん! まだ玄関先に唯ちゃんの荷物が置きっぱなしではないか! 僕が二階の部屋にお持ちしましょう。」  あたるは、くるりと向きを変えて戸を開け、茶の間を出ようとした、しかし、がしっと襟首を捕まえられて引きずり戻された。 あたる「ひ・・ひいぃぃっっ!!」 ラム「ダーリン・・・のぉっ・・・。」  深呼吸して一時停止。 あたる「や、やめろぉっっ!! 殺さないでくれぇっっ!!」 ラム「ぶわぁかあぁぁーーーっっ!!!」  ドバババババババババーーーーッッ!!! あたる「ぐぎゃあぁぁーーーーっっ!!!」  電撃の轟音と共に、あたるの断末魔が近所に響き渡った。  その騒ぎを初めて目にした唯は、少々戸惑い、顔が幾らかひきつっていたが、母の「いつもの事よ、じきに慣れるから心配しないで。」の一言に、笑顔が戻った。笑顔と云っても、ガチガチな笑顔ではあったが・・・。  そして俺は、うすれゆく意識の中で、これから始まる生活のドギツさを、なんとなく悟ったような気がした。 エンディングテーマ:Good Luck 〜永遠より愛をこめて〜                                                第一話『美しき訪問者』・・・完