Chapter 17 この命ある限り 「く・・・くそっ!!」 あたるに手を掴まれたフィリップは、あたるの手を振り解き、空中に逃れた。 「はあっ!!」 あたるがフィリップを追い詰めようと刀を大きく振ると、刀に通じていた電撃が筋状になってフィリップに襲いかかった。 「く、くあっ!!」 フィリップは間一髪のところでそれをよけた。しかし次の瞬間にはあたるは彼の後ろにいた。 「でやあーーーっ!!」 あたるはフィリップの背中を思いきり斬りつけた。そこから血が噴き出した。 「ぐわあーーーっ!!」 フィリップは墜落し、真正面から地面に叩きつけられた。 「立て!それほど効いていないはずだ。薄皮一枚しか斬ってないんだからな!!」 うずくまっていたフィリップに、あたるは容赦なく詰め寄り言い放った。 「キ・・・キサマぁ・・・!!」 起き上がりながら、怒りに震えながらフィリップはそう言った。 「フィリップ!オレは覚醒した今となっては、空も飛べるし、このとおり電撃も出せる! もうキサマには、何のアドバンテージもない!!パワーもスピードも、オレにはかなわない!!諦めろ!!」 あたるはフィリップの顔を見つめながら、そう宣言した。 「だ・・・黙れ、黙れェ!!」 フィリップはあたるの忠告に耳を貸さず、さらに襲いかかった。 しかし、あたるにストレート、アッパー、とどめのサマーソルトキックを食らい、返り討ちにされた。 ビルの外壁に叩きつけられたフィリップを、あたるは容赦なく引き起こした。 「フィリップ!お前はどうしようもない大バカヤロウだ!!」 そう叫ぶと、顔面にストレートを浴びせた。 「はがあっ!!」 顔面にもろに食らったフィリップはそのままライナーで吹っ飛んだ。 「お前の妹が、ジャンヌがどんな思いでお前と戦ったのか!彼女の平和を願う気持ちが・・・!! 実の兄に刃を向けざるを得なかった彼女の苦しみが・・・!!お前にはわからなかったのかーーーっ!!」 外壁に叩きつけられる前に、あたるはフィリップに追いつき、アッパーで追い討ちをかけた。 「ぶわああっ!!」 フィリップは空高く飛ばされた。 「この戦争で死んだ多くの人たち、怪我をした多くの人たちの痛みや苦しみが分からないような奴に、 ユートピアなど造れるものかーーーっ!!」 あたるはフィリップの上に回り、そう叫ぶと、ラムとは比べ物にならない強烈な電撃をフィリップに放った。 「うがあーーーっ!!!」 フィリップはガードが間に合わず、あたるの特大電撃をまともに食らった。激しく地面に叩きつけられた。 「ち・・・ちくしょ・・・お・・・!!」 しばらくうずくまったままだったフィリップは、仰向けになると再び口を開いた。 「これで少しは殺されたもんの苦しみと痛みと恐怖が分かっただろう・・・ あっさり殺してしまったのでは、キサマに対する制裁にはならんからな」 あたるは仰向けに寝そべっているフィリップを見下し、そう言った。その後5分間、容赦なく攻撃を加え続けた。 「があっ、ぎゃあ!!」 あたるは悲鳴を上げ悶絶するフィリップを容赦なく攻め立てた。その姿はもはや弱い者いじめであった。 「お・・・おのれぇ・・・!!おのれぇーーーっ!!」 あたるにコテンパンにやられたあと、唇を噛み締めながらフィリップは叫んだ。 「自分の婚約者や妹を平気で犠牲にするような、男としての誇りを捨てた奴が、オレにかなうものか!!」 こう言い放つあたるの表情は、フィリップに対する憎悪というよりは、軽蔑に近いものであった。 「な・・・なめるなよ・・・このままでは済まさんぞ・・・!!必ずキサマを殺してやる・・・!! この方法だけは使いたくなかったが・・・そうは言ってられんようだな!!」 フィリップは自分の両方の角を掴むと、何とあたるの見ている前で、自らそれをへし折って見せた。 「ぐぎゃあーーーー!!」 猛烈な激痛からか、フィリップはけたたましい声で悲鳴を上げた。 「な・・・何だと・・・!?」 突然の彼の行為に、あたるはただ驚いた。それと同時に、彼から感じられるエネルギーが高まるのを感じた。 体の筋肉は増え、発せられる電撃は凄まじく、目は前にも増して真っ赤になった。その姿はもはや獣であった。 「グルル・・・グギャアーーーー!!!」 フィリップは獣のような叫び声を浴びながら、ものすごいスピードであたるに襲いかかった。 その理性を失った様で自らに襲い掛かるフィリップの姿を見て、あたるは確信した。 「キサマ・・・人間としての誇りまで捨て去ってしまったのか!!」 そのあまりの往生際の悪さに、あたるの怒りはさらに増した。 「ぐっ!!」 フィリップはさらに鋭さを増した爪で、あたるの胸を斬った。しかしかすり傷だった。 「はああーーーっ!!」 すかさずあたるは自分の電撃を吸収した刀で、フィリップの左腕を肩から切断した。その傷口から血が噴き出した。 「がぎゃあーーーー!!」 その場に倒れしばらく悶絶したあと、フィリップは再び立ち上がった。 「グルルルル・・・!!」 そのしぶとさにあたるは驚いた。 (こいつ・・・もはや恐怖も痛みも感じないのか・・・このままでは埒が開かんな・・・) そう思ったあたるは、今度は心臓を一突きした。 グサァッ 「ギャアーーー!!」 またもけたたましい悲鳴を上げた。しかしそれでも倒れなかった。 「グウウ・・・ガアア・・・」 (ま・・・まだだめか・・・!!それなら!!) ザンッ あたるは止めにフィリップの首をはねた。すると獣のようになった彼の体はたちまち元の姿に戻った。 「ハア・・・ハア・・・」 あたるはようやく気を抜くことができた。面堂の形見の刀も納めた。 (角を折るとあのような醜い化け物になり、今までは想像もできないような力で大暴れするってワケか・・・ そしてその変身は死ぬまで解けない・・・バカな奴だ・・・王になる奴が理性を失ってどうするというんだ・・・) あたるは地球をメチャクチャにした張本人を心から憎むとともに、心から哀れんだ。 「でも、そんなことはもういい・・・オレたちが勝ったんだから・・・」 あたるはラムたちのもとに急いだ。その途中、あたるはお雪とランの2人にぶつかった。 「ご・・・ご主人様!」 「ダーリン!よかったあ・・・無事だったのね・・・」 無事に戻ってきたあたるを確認すると、お雪とランはびっくりした様子であたるに話しかけた。 「どうしてここに?」 「心配で心配で・・・様子を見に来たんですの」 「ダーリン!あいつは?フィリップはどうなったの!?」 「死んだよ・・・案外あっけなかった。それよりラムは・・・?ラムはどうした!?」 あたるの問いかけに、2人は気まずそうな顔をすると、そのまま口をつぐんでしまった。 「どうしたんだ・・・2人とも・・・黙っていたのでは分からんではないか!」 あたるはさらに2人を詰問した。 「ダーリン・・・!ラムちゃんが・・・ラムちゃんが・・・!!」 ランはそれだけ言うと、両手で顔を押さえてしくしくと泣き出した。 「ランちゃん!ラムが一体どうしたっていうんだ!泣いてちゃ分からないよ!!」 あたるがどんなにランを問い詰めても、ランはそれ以上何も話さなかった。 「ま・・・まさか・・・!!」 とてつもない不安に襲われたあたるは、大急ぎでお雪たちの来た方角に向かった。 「ラ・・・ラム・・・!!ラムッ!!」 しばらくすると、仰向けになって倒れているラムの姿を見つけた。 「ラム!おい!!しっかりしろっ!おいっ!!」 体を揺すり、何度もあたるは呼びかけたが、返事はなかった。そこにお雪たちも到着した。 「ご主人様・・・申し訳ありません・・・八方手は尽くしたのですが・・・」 お雪はそう伝えると、あたるから顔を背けてしまった。 「そ・・・そんな・・・」 あたるはこう呟いたあと、しばらくそのままラムの側で座り込んでいた。しばらくすると、口を開いた。 「は・・・ははは・・・これでせいせいしたわい。これでオレはラムから解放されて、晴れて自由の身になるんだからな!! 思えば、初めてラムと出会ってから今日まで、惨めな毎日だった。しのぶには振られ、 ちょっと他の女の子にちょっかいを出しただけで、怒鳴るわ!わめくわ!泣き叫ぶわ!! 挙句の果てにゃあ電撃リンチでボロボロ・・・!逃げても逃げても金魚のフンみたいに付きまといやがって・・・ でも、それも今日で終わりだ。フリーになった今、オレには新しい人生が待っている。 すべての女の子とお友達になって、ハーレム作って、そして結婚じゃあ!! おい、ラム!安心して成仏せいよ!この次はお前と違ってすぐ怒ったりしない優しい女の子を嫁にもらうからな!!ハハハ!!」 あたるは自暴自棄になっていた。 「ダーリン!!なんてこと・・・!!」 あたるの暴言を、ランは戒めようとしたが、お雪に止められた。 「ラン・・・おやめなさい。あの方が本心からあんなことを言っていると思って?」 あたるが虚勢を張っているのは、お雪にはお見通しだった。案の定、乾いた笑いの後に、あたるは本音を話し出した。 「でもな・・・ラム・・・オレのことを本気で好きになってくれたのは・・・お前だけだった・・・ オレのことを命懸けで愛してくれたのは・・・お前だけだった・・・ そしてこれからも・・・お前以上にオレのことを愛してくれる女は現れないだろう・・・ ラム・・・その気持ちはオレも同じだ・・・信じてもらえないかもしれないけどな・・・ オレをこんな気持ちにさせてくれる女には、これからも出会うことはないだろう・・・決して・・・ オレはほかの女に、例えばサクラさんやしのぶやランちゃん、弁天様にお雪さんに竜ちゃん、 クラマちゃんや了子ちゃんや飛鳥ちゃんにちょっかいを出しているときも、お前のことを忘れたことはなかった。 本気だったのは・・・お前だけだったんだぜ。なのに、なぜだ・・・どうして死んでしまったんだ!ラム!!」 あたるはラムの名を叫んだあと、再び話し出した。目から涙がこぼれ落ちた。 「バカタレが・・・お前はオレの妻だろうが・・・!!夫より先に死ぬ奴があるか!! 2度目の鬼ごっこの後、約束しただろうが・・・!!一生かけてでも好きだって言わせてやるって言ったお前に、 オレが『今わの際に』言ってやるって! 妻の務めは、夫のことを死ぬまで面倒見ることではないのか!これでは約束が果たせないではないか!! ラム・・・後生だ・・・頼む・・・その目を開けてくれ・・・そしてこのオレにチャンスをくれ・・・ お前のことが好きだと・・・お前を愛していると・・・その気持ちを伝えるチャンスをくれ・・・!! 好きだって言わせてくれ!愛してるって言わせてくれ!!オレはお前を・・・心から愛している・・・」 これだけ言うと、あたるはラムの体にすがって泣き崩れた。しかし、その時だった。 「ダーリン・・・それ・・・本当だっちゃ・・・?」 あたるは一瞬わが耳を疑った。 (げ・・・幻聴か・・・?) 涙を拭いながらその時はそう思った。 「ダーリン。今ダーリンが言った事、信じていいっちゃ・・・?」 幻聴ではなかった。紛れもなくラムの声だった。 (ラムの声だ・・・間違いない!そうか・・・あいつ・・・死んでも死に切れず、オレに会いに来たのか・・・) ラムの声をこのように解釈したあたるは、あの世に旅立つ餞別にと、本音を話す決心をした。 「ああ、本当だとも。信じていいぞ。オレはお前が好きだ。心から愛している」 ラムの問いかけにこう答えた。 「じゃあダーリン、もう浮気しないっちゃ?」 「もちろんだ」 「ウチと正式に結婚してくれるっちゃ?」 「ああ。式は盛大に挙げようぜ」 「ウチと一緒に子作りしてくれるっちゃ?」 「ああ。お前が望むなら、5人でも、10人でも・・・ん!?」 あたるはここまで言った後、なんか変だなという気持ちになった。 「ラム!?」 驚いたあたるは、あわててラムの顔を見た。 「バァ!」 「うわァ!」 突然ラムが声を出したのであたるは仰天してその場に倒れた。 「ウ・・・フフフ・・・ウフフフフ・・・!」 「ぷっ・・・ククク・・・うわははははは!」 その直後、お雪とランの2人は今までこらえていた笑いが一気に噴き出したかのように笑った。 あまりに唐突な出来事であったため、あたるはしばらく状況が飲み込めなかった。 「ど・・・どーゆーこと?」 きょとんとした表情で、あたるはお雪とランに尋ねた。 「私は反対したんですのよ。冗談にしてもシャレにならないって。でもラムがどうしてもあなたの本音が知りたいと・・・」 お雪は、自分は主犯ではないとくすくす笑いながら言い続けた。 「あたしもイヤだって言ったんだけどぉ、ラムちゃんがどうしてもって言うからあ、協力しちゃった。 でもさっきのラムちゃんが死んだ振りしているのを見たときのダーリンの乱れっぷり、傑作だったわねえー。 子供を10人作ってやるですって!タフねー。でもダーリンったら、騙されてるのにも気づかず、 あまりにも歯が浮くようなことばかり言うんだもん。思わず笑っちゃったわよお。悪いとは思ったけど」 ランにこう言われて、ようやくあたるは正気に戻った。そして今までラムに言った「告白」についての弁明を始めた。 「い、いやな、ラム。だ、だから・・・さっき言ったことはだなー、その、その場の雰囲気に呑まれたっていうのかなー。 つ、つまり、その・・・勢いで言ったことであって・・・だからな、本心からというのではなく・・・」 「こぉーら!ダーリンたら、往生際が悪いわよ!ほらっ!」 しどろもどろの弁明を続けるあたるに、ランはMDプレイヤーを見せた。そしておもむろにそれを再生した。 すると、スピーカーからあたるのラムに対する想いを赤裸々に語った様子が生々しく周囲に流れた。 「わっ!わっ!わーっ!!」 あたるはパニックを起こした。顔が真っ赤になっていた。 「ご主人様。これだけはっきりおっしゃられてしまったからには、もう責任を取ってラムと結婚するしかございませんわね?」 MDが流れ終わった後、お雪はにんまりと笑いながらあたるにこう宣告した。 「子供が10人も生まれたら、食べさせるのも大変ねー。まあ、せいぜいがんばってね、パパ」 ランもつられてあたるを茶化した。 「ア・・・アハハ・・・あー・・・」 あたるはもはや笑うしかなかった。その後はただ首をうなだれるままだった。しばらく4人は黙っていた。 「ダーリン・・・ウチ、うれしいっちゃ・・・こうして思いがけなくダーリンの本音が聞けて・・・ これだけ多くの人たちが死んだ戦争が終わった直後に、不謹慎かもしれないけど・・・ほっとしたっちゃ」 しばらくして、ラムが口を開いた。 「本当に不謹慎な奴だよ・・・お前は・・・死んだ振りなんかしやがって・・・」 あたるはこう返事した。 「でも・・・どうせならみんな生きていればよかったのにね・・・」 「ああ・・・」 「結婚式をやるのも、どうせならもっともっと、多くの人に出席して欲しかったっちゃね・・・ ウチの花嫁姿・・・父ちゃんや母ちゃんにも見せてやりたかったっちゃ・・・」 「そうだな・・・」 「ダーリン・・・どうしてこんなことになってしまったっちゃ・・・!?どうして・・・!?」 「知るか・・・オレだって教えてもらいたいよ・・・」 あたるがこう言うと、4人は再び黙り込んでしまった。その直後だった。 「な、何だありゃあ!?」 こう叫んだあたるが指差した先が明るく光り、そこから何か巨大なものが現れた。 「な、何やねん、あれ!」 「あれは・・・竜・・・?」 この場に居合わせたものの中で、ラムだけがその竜に見覚えがあった。ジェームスの森のハインリヒだった。 ハインリヒはゆっくりとラムたちの目の前に降りてきた。 「ハインリヒ・・・」 「ラム、お前この竜知ってるのか?」 あたるに尋ねられると、ラムは頷いた。 「お前たち、絶望しなくてもよい。お前たちの力を持ってすれば、この地球を今すぐにでも元に戻せる」 ハインリヒがこう伝えると、4人は驚いた。 「それはすばらしいことですわね。でもハインリヒ様、一体どうすればよろしいのですか?」 お雪は尋ねた。 「ラムの体の中のレッドクリスタルと、あたるの体の中にあるブルークリスタルを使うのだ」 聞きなれない言葉に、ラムとあたるは困惑した。 「な、何だ?その何とかクリスタルっていうのは?」 あたるは言った。 「平たく言えばダーリンとラムちゃんの力の源よ。ねー、ハインリヒさん」 ランはラムとあたるのほうを向いてこう答えた後、ハインリヒにもこう言った。 「そうだ。その2つのクリスタルを合体させてパープルクリスタルを作る。そして2人で願うのだ。 2人の願いが完全に一致したとき、この地球はまた前のような平穏さを取り戻せるだろう」 ハインリヒはこう説明した。説明を受けたあたるとラムはやや困惑気味だった。 「心をひとつにか・・・難しい注文じゃなー」 「大丈夫だっちゃ。ダーリンがハーレムなんてバカなこと考えない限り・・・ ・・・もしそんなこと考えたら、ウチ承知しないっちゃよ!!」 「わ、分かってるよ!」 「話はまとまったようだな。ではクリスタルの合成は私がやろう」 ハインリヒがこう言うと、あたるの胸からブルークリスタルが、ラムの胸からレッドクリスタルが浮かび上がってきた。 「むうううん!」 ハインリヒがうなり声を上げながら念じると、2つの石が1つになろうとし始めた。 それから1分ほど経っただろうか、石は1つの紫色の石になった。 「さあ、この石を2人で手に取れ!そしてゆっくりと目を閉じて、願うのだ・・・」 ハインリヒに言われたとおり、あたるとラムは石を2人でぎゅっと握った。そして目を閉じて願い続けた。 その直後、2人の体中から七色の光が発せられた。そしてその光は、たちまち辺りを覆いつくした。 すると、どうしたことであろうか。壊れた建物は次々と元通りになり、燃え尽きた植物は再び緑を取り戻した。 「うわあー、すっごーい!」 ランはその様子を見て、思わず歓喜の声を上げた。 「2人の願いは・・・失われた時間を元に戻すことだったのね・・・」 お雪も感慨深げに話した。 そして世界の各地では、それ以上の奇跡が起こっていた。 「・・・ど、どういうことだ・・・ボクは・・・生き返ったのか・・・?」 面堂は自分の手のひらを見つめながらそう言った。状況がまだよく分からなかった。 「・・・了子!」 辺りを見回していた面堂の目には、妹の姿が映っていた。 「お兄様・・・お兄様っ!」 了子は兄の姿を見るなり、駆け寄って抱きついた。 「私たち・・・生き返ったんですのね・・・お兄様・・・」 「ああ・・・どうやらそうらしいな」 2人は抱き合いながらお互いが生きていることを確認しあった。 「若・・・!!若ーーーっ!!」 「了子お嬢様ーーーっ!!ばんざーーーい!!」 周囲では、同じく生き返った私設軍隊員たちが万歳をしていた。 「あれ・・・どうなってんだあ・・・?こりゃあ・・・アタイは確か蜂の巣にされたはずじゃあ・・・」 全身を、特に滅多打ちにされた胸のあたりを念入りに触りながら、弁天はどこもおかしいところがないか探した。 「・・・ぷはあ!こ・・・これは面妖な・・・オジ上!これは一体どうしたことでしょう?」 うつぶせの状態から起き上がったサクラは、横にいたチェリーに尋ねた。 「定めじゃ・・・」 合掌しながら、チェリーはそう言った。 「おい、メガネェー。どうなってんだあ、こりゃ。建物がみんな元通りになってんじゃねえか」 「オレに聞かれても分からんよ。それよりここ、まさかあの世ではあるまいな?パーマ・・・」 「ちょ・・・ちょっとお!そんな怖い事言わないでよお!」 メガネとパーマとしのぶは自分が生き返ったことに気がつかなかった。 「い・・・いてえよお!カクガリ!」 「オ、オレもだよチビ!ど、どうやら生き返ったみたいだぜ、みんな!」 頬をお互いにつねり合ったチビとカクガリは3人にそう告げた。それを聞いて3人も、生き返ったことを自覚した。 「おーい!一体何が起こったってんだあーーー?」 そこに竜之介が駆け寄ってきた。 「竜之介君。あなたも生き返ったの?」 しのぶは尋ねた。 「ああ。オレは確かに心臓をライフルで撃たれたってのによお。どうなってんだあ?一体・・・」 誰もその答えを出せなかった。 「な・・・何やここは・・・えろう暗いとこやなあ・・・」 遺体安置室にいたラムの父は起き上がると開口一番こう言った。 「あれ・・・ワイは確か、あの大男にやられて・・・」 その横にいたテンも起き上がった。 「ブモ?」 レイもまた起き上がった。 「あんさん!」 「おーい!生きとるかー?」 そこにラムの母と曽祖父が現れた。 「ど・・・どないなっとるんや・・・誰か説明せえや・・・」 ここにいる連中もまた、自分が生き返ったことに気づかなかった。他の場所でも大体同じようなことが起きた。 しかし、これにより、今までの戦争の結果はすべてリセットされた。インフェリオル族を除いて・・・ 生き返った連中は、皆操られるかのようにあたるたちのもとに向かった。程なくして全員あたるたちのところに集まった。 まず初めに、大きな竜がそこにいたことに驚いた。その次に、あたるの姿に驚いた。 「婿殿・・・説明しておくんなはれ・・・今まで何があったのか・・・」 ラムの父に促され、あたるは今までのことをすべて話した。 「知らなかった・・・あたる君が鬼族だったなんて・・・」 「オレが思うに、おそらくオレの先祖の誰かが鬼族だったんだろうな。たまたま地球にやってきて、そこで子をもうけたんだろう。 それからオレの代になって、初めて鬼族の血が出たんだと思う」 「じゃあ、フィリップ達は、自分たちの星を救うために戦っていたというのですか?お雪さん」 「ええ。そのためにご主人様とラムの体の中にあったクリスタルを欲したのです」 「そいつらもアホやなー。せやったら最初から素直に協力をワイらに求めたらよかったのに・・・」 「そうすることのできないむずかしい事情があいつらにもいろいろあったっちゃよ、テンちゃん」 あたるの話が終わった後、様々な話で周囲は盛り上がった。 「まあ、何はともあれ、とにかくめでたいでんなー。どうですやろ婿殿?これを機会にワシらの星に来てくれまへんか?」 ラムの父は、あたるが鬼族であったことを知ると、このような勧誘をしてきた。 「えっ・・・?」 突然の申し出に、あたるは一瞬当惑した。 「荒廃したワシらの星の建て直しと、同盟国インフェリオル星の開発促進に力を貸してもらいたいんですわ」 あたるに来てもらいたい理由をラムの父はそう説明した。 「で・・・でも・・・」 あたるは迷った。自分の住みなれた町を離れることには、やはり抵抗があった。 「でもさあ、その前にラムちゃんとダーリンの結婚式を挙げることが先なんじゃなーい!?おじさん」 ランのこの言葉は、そんな迷いも一掃するような発言だった。これを聞いた周りの者たちは当惑した。 「ど、どーゆーことやねん?」 ラムの父が問いただすと、ランはそっと耳打ちした。 「なんと!そーゆーことやったんかー!せやったら婿殿、何も迷うことあらへんがなー。 いやー、とうとう決心しはりましたんやなー。いやーめでたい、めでたい!」 喜びの絶頂にいる父を尻目に、あたるはパニックになっていた。 「な・・・何言いだすんだよ、ランちゃん!オレはそんなつもりは・・・」 あたるはランに抗議した。 「だって、ダーリン、もうラムちゃんに愛の告白しちゃったじゃない!責任を取るべきじゃないの!? もし結婚しないなんていうなら・・・このミニディスクに入っているダーリンの生トーク、 この場にいる全員に公開しちゃうわよーーー!」 ランにこう耳うちされると、あたるはさらにパニックを起こした。 「そんなあ・・・そんなのってありィーーー!?」 あたるはランにこう詰め寄ったが、ツーンとした態度を取られた。 「ラ・・・ラムゥ・・・」 あたるはラムのほうを向いた。 「結婚式は教会で挙げたいっちゃね、ダーリン!」 ラムもすっかりその気になっていた。もはや後戻りはできそうにもなかった。あたるは苦笑するしかなかった。 「いやー、めでたいのう、実にめでたい。なあ、諸星」 サクラは2人の結婚に好意的だった。 「へへへ・・・全くだぜ。この、幸せものが!」 弁天もまた2人を、というよりも表面上はあたるだけを祝福しているようにも見えた。 きっと2人の頭の中には、こんな思惑があるのだろう。あたるも身を固めれば、 少しは夫としての自覚を持つようになり、ガールハントに耽ることも少なくなるだろう、 つまり自分たちの身の安全が確保されるかもしれないという淡い願望である。 「やだっ!オレはひとりの女なんかに縛られたくなぁーい!世界中の女は皆オレのもんじゃーい!!」 あたるはそう叫ぶと、しのぶや竜之介のいる方向にダッシュした。しかし、 「ダーリン・・・バラされたいの・・・?」 突然ランがあたるのそばに現れ、ミニディスクを見せつけると、おとなしくなった。 あたるは恥をかくくらいなら結婚しようと決めたようだ。 「わかった!わかりましたァ!!こうなったら結婚でも何でもやってやらあ!!ラムの星でもイスカンダルにでも行ってやるう!!」 ちょっとヤケを起こしたようだ。 「そ・・・そんな・・・あのアホが・・・ラムさんと・・・くええーーーっこんだとおおおーーーー!!?」 「くーっ、クソーっ!」 ラム親衛隊はあたるのこの言葉に相当ショックを受けたようで、4人とも放心状態だった。 そんな中、面堂は以外にも落ち着いていた。 「了子、皆の衆、帰るぞ」 面堂は了子たちを促すと、さっさと帰ってしまった。 「あ、面堂さん・・・」 しのぶの呼びかけにも反応しなかった。 (面堂さん・・・・) 心の中でもう1回そう言った。あたるの「元カノ」である彼女は、「元彼」を複雑な表情で見つめていた。 「ねえ、竜之介君。あたる君がラムと結婚するっていうことは、これからずっと2人でで一緒に暮らすってことよね?」 横にいた竜之介にしのぶは尋ねた。 「あ、ああ。多分そうなんだろうな。オレにはむずかしくてよくわかんねえけどよ。 こういうことはおめえのほうが詳しいんじゃねえか?」 竜之介は答えた。 「と、いうことはあたる君、やっぱり学校は辞めるのかしら?ラムの星に行くのかしら?」 「さあ?どうするか諸星本人に聞いてみたらどうだ?」 「学校辞めてラムの星に行くってことは、あたる君が友引町からいなくなるってことよね?」 「な、何言ってんだよ。そんなの、当たり前じゃねえか!しのぶ、おめえ、さっきからちょっと変だぜ・・・」 「そうか・・・あたる君・・・いなくなるのね・・・この町から・・・」 そう言い終えたしのぶの目は、とても寂しげであった。そんなしのぶを竜之介は横目でちらりと見るのを続けた。 To be continued......