Chapter 12 Like a Phoenix 「う・・・うう・・・体が・・・熱い・・・み・・・水を・・・くれ・・・」 「はい。お水・・・」 少女から差し出された水を、あたるは一気に飲み干した。 「だ・・・誰なんだ、君は・・・今日こそは・・・今日こそはその顔を・・・」 あたるは懸命に顔を上げた。少女の顔を見た彼は驚いた。 「ラ・・・ラム・・・」 このときあたるは確信した。少女の姿ではあるものの、ラムに間違いなかった。 少女のラムはあたるの顔を見つめたあと、ニッコリ微笑んで、そのまま立ち去ってしまった。 「ま・・・待って・・・!!」 あたるがラムを呼び止めた直後だった。突然ラムの体が炎に包まれてしまった。 「ああああーーーーっ!!熱い・・・!!熱い・・・!!」 炎に包まれたラムは激しく泣き叫んだ。 「ラム・・・!!ラムーーーーっ!!」 あたるは叫んだ。しかしラムは完全に炎に包まれ見えなくなった。 「ぬあっ!!ハア・・・ハア・・・ゆ、夢か・・・それにしてもなんて夢だ・・・」 気がつくと、あたるはベッドの上にいた。夢だった。ひどく寝汗をかいていた。 「あら、気がついたの?ダーリン」 そこにランがドアを開けて入ってきた。 「ランちゃん・・・!あ・・・ぐっ!」 ランの姿を見て起き上がろうとしたあたるの体に激痛が走った。 「あ、だめよ、ダーリン!まだ寝てなきゃ・・・」 ランはあたるの体を抱え、ベッドに寝かせた。そこに今度はお雪がドアを開けて入ってきた。 「あ、お雪ちゃん!ちょうどよかったわ。今ダーリンが意識を取り戻したところなのよ」 お雪の姿に気づいたランはお雪にこう伝えた。 「まあ・・・それはよかったわ。ご主人様、お体の具合はいかがですか?」 お雪はあたるに尋ねかけた。 「あ、お雪さーん。もう大丈夫さ!このとおり・・・あ、いててっ!」 あたるはベッドから起き上がって回復をアピールしようとしたが、左脇腹の痛みに思わず叫んだ。 「もう!寝てなきゃだめだって言ってるのに!」 そう言ってランは再びあたるをベッドに寝かしつけた。 「ランちゃん・・・お雪さん・・・もしかして2人ともずっとオレのことを・・・?」 あたるに問いかけられた2人は、小さくうなづいた。 「・・・そうか、2人とも大変な迷惑をかけたね・・・ありがとう」 「お礼ならラムたちに言ってあげてくださいな、ご主人様」 「そうよ、ダーリン。ラムちゃんはもちろん、弁天も、面堂さんも、竜之介君も、 みんな薬の材料を手に入れるために相当苦労したのよ」 2人への感謝の気持ちを述べたあたるに、2人はこう返事した。 「そうだったのか・・・ラムの奴が・・・それに弁天様、竜ちゃん、面堂まで・・・あとでお礼を言わなきゃな」 めずらしく素直に感謝の気持ちを述べるあたるの体を、お雪は調べた。 「確かに体の中の毒はもう完全に消え去っていますわ。でも脇腹の傷はまだ完全ではないみたいですわね。 ミラクルセージの力も、体内の猛毒を消し去るのに精一杯で、傷の回復までは追いつかないみたい・・・」 調べ終わったあと、お雪はこう述べた。 「そう。で、お雪さん。オレはあとどのくらいで完全に治るのかなあ?」 「回復のスピードが思ったより早いですから、この調子なら、あともう2、3日でよくなると思いますわ。 2、3日後には傷口を縫い合わせている糸の抜糸をすることができるでしょう」 あたるの質問にお雪はこう答えた。 「だからおとなしく寝てなきゃだめよ、ダーリン!」 ランはむいていたリンゴを一切れ、あたるの口に突っ込みながら言った。 「はーい。ところでランちゃん、お雪さん。ラムや他のみんなはどうしてるの?フィリップ達は? そういえば外が騒がしいなあ・・・」 リンゴをかじりながら、あたるは2人に尋ねた。 「えっ・・・?あっ・・・その・・・」 ランは返事に詰まった。しかしお雪はあたるを心配させるまいと、 「大丈夫ですわ、ご主人様。もうフィリップ達の軍隊は壊滅寸前のところまで来ています。 ラムも、他の皆も全員無事にここまで戻ってきますわよ。 はっきり言って、もうご主人様の出る幕はありませんわ」 と答えた。まるで実際に現場を見たかのような口ぶりだった。しかし、実際は地球軍のほうが危なかった。 しかしあたるはお雪のこの言葉を鵜呑みにし、 「手厳しいなぁ、お雪さん。でも、それじゃあオレ、ゆっくり休んでいいんだね?」 と言った。そして横になったまま、目を閉じようとしたその時だった。 ドカァァーーーーーン 遠くのほうで何かが爆発する音が聞こえた。ランとお雪はあわてて窓のほうに向かった。 煙がもくもくと上がっているのが見えた。 「な・・・何が起こったの!?」 「いえ、分からないわ!」 ランもお雪も相当動揺した口調で叫んだ。その直後だった。 「弁天が・・・死んだ・・・ラムの目の前で・・・」 突然あたるがポツリと呟いた。 「な・・・何をおっしゃるんですか、ご主人様!」 「そ、そーよ!何バカなこと・・・」 驚いた2人はやにわにあたるの方を振り返りつつそう言った。 その時、あたるの様子がどこかおかしいことに気づいた。 あたるの体から薄黄色のオーラのようなものが発されている。髪の毛が青みがかった緑色になっている。 「ど・・・どうしちゃったのよぉ!?ダーリン!!」 ランの問いかけにあたるは答えなかった。 「竜ちゃんも、メガネも、パーマも、チビも、カクガリも、しのぶも、そして了子ちゃんまでも、みんな・・・」 あたるは戦闘で死んだ者を正確に言い当てた。 「ご主人様!今言った方々が一体どうしたというのですか!?まさか・・・」 「死んだよ・・・みんな・・・」 お雪の問いかけに、あたるは一言こう答えた。これを聞いたお雪とランは仰天した。 「わ・・・悪い冗談はよしてよ!どうしてダーリンにそんなことが分かるのよ!?」 ランはうろたえた様子であたるに言った。 「分からない・・・だがオレの言ったことが事実であることは確かだ。 そして今、面堂と、もう1人は誰かは分からないが、女の子が、 フィリップとメリッサと戦っている女の子がやられかけている・・・ 女の子のところにいるチェリーとサクラさんも、霊力がもうずいぶん減っている。 かなりやばい状況だな・・・ラムはどうやら、その女の子のところに向かっているようだ」 あまりに具体的に話をするあたるを見て、お雪もランも、彼が嘘を言っているとは到底思えなかった。 これだけ話し終わったあと、突然、あたるはベッドから起き上がり、立ち上がった。 まだ足元はふらついている。 「ダ、ダーリン!どうしたのよ?突然起きたりして!」 ランはあたるを心配そうな表情で見つめ、そう言った。 「決まってるだろ。みんなを助けに行くんだよ!のんきに寝てなんかいられるか!」 あたるはランに向かって吐き捨てるように言った。 「だ、だめよ!まだダーリンの体は本調子じゃないのよ!今出て行って何ができるというの!? お願いだからベッドに戻って!!」 ランはあたるの前に立ちはだかり、前からあたるを抱くようにしてあたるを止めようとしたが、 あたるに振り切られた。振り切られたランは床に転げた。 病室を出て行こうとしたあたるに、今度はお雪が通せんぼをして立ちふさがった。 「お雪さん・・・そこをどくんだ!」 両手を広げてドアの前に立ちはだかるお雪に、あたるは言った。 「いいえ・・・どきません!今あなたをここから先へ行かせるわけにはいきませんわ!」 お雪は首を横に振り、拒絶した。 「どうあってもどかないつもりか・・・」 「私はラムから、あなたのことを『任せる』と言われたんです。 あなたが完全に回復するまでは、私にはあなたを管理する義務があるんです。 ・・・お願いします、せめて、あと少しだけ待ってください」 険しい表情で話すあたるに、お雪は毅然とした態度で対応した。 「何を待てというんだ・・・このままラムたちが殺されるのを黙って待てというのか・・・?」 こう話すあたるの表情は、いっそう険しくなっていた。 「そうではありません。ご主人様の回復力なら、あと数時間我慢すれば、かなり回復するはずです。 ラムたちだって、そんなに簡単にはやられるはずはありませんわ」 それにも臆することなく、お雪は説得を続けた。 「敵の狙いはラムとこのオレなんだ。どんなにここで時間稼ぎしたところで、 いずれはここに来ることになるんだ!だから頼む・・・!!オレを行かせてくれ!!」 「いけません!今あなたが戦いに行ったところで、返り討ちに遭うのは目に見えていますわ!! こちらからもお願いします・・・ベッドに戻ってください・・・」 あたるの要求をお雪が拒絶したあと、あたるは信じがたい行動をとった。 右手をお雪のほうに突き出し、手がうっすらと青白く光ったかと思うと、バチバチと音を立て始めた。 お雪もランも、ものすごいエネルギーを感じた。それは紛れもなく電撃のエネルギーだった。 あたるは顔を上げ、青色に変化した目でお雪をにらみながら言った。 「これが最後通告だ・・・お雪さん・・・そこをどくんだ・・・ もしどけないなら、お雪さん、今のオレにとっては、あんたもオレの敵だ!!遠慮なくこいつをけしかける!」 あたるは電撃のエネルギーをたっぷり吸った右手をお雪に向け、彼女を威嚇した。 威嚇されたお雪は恐怖のあまり、その場にへたり込んでしまった。 これほどの恐怖を彼女は経験したことはなかった。 「ダ、ダーリン・・・!」 ランはドアをくぐり部屋を出ようとしたあたるを思わず呼んだ。するとあたるは振り返り一言、 「オレは行く。いや、行かなければならないんだ!」 と言い残し、部屋を飛び出した。 (ここからだと面堂のいるところのほうが近いな・・・) 廊下を走っている途中に頭の中でそう考えた後、あたるは面堂がティモシーと戦ってる場所に向かった。 走るたびに、左脇腹に痛みが走った。 (ちいっ、まだ痛えな・・・だが今はそんなことにかまっちゃいられん・・・ それにしても、体中にあふれんばかりのパワーがみなぎっているな。 これならフィリップに勝てるかもしれん! もしかすると、これがメリッサの言っていた『覚醒』の効果なのかもしれんな・・・いや、きっとそうだ! しかし、さっきからどうも背中がもそもそするなあ・・・) あたるは痛みをこらえながら、面堂のもとに急いだ。 このときのあたるは自分の髪の毛の色や長さの変化に気づかなかった。 ランとお雪はあたるが部屋を飛び出したあと、しばらく呆然としていた。 「お雪ちゃん・・・」 しばらくして、ようやくランが口を開いた。 「ラン・・・今の私たちにあの人を止めることはもう、できないわ・・・ でも、私たちにもできることが何かあるはずよ。こうなったら、私たちも戦闘に参加しましょう」 「ええ」 お雪にこう言われてランは返事した。2人は部屋を飛び出しありったけの武器をかき集め、 ランの運転するバイクで戦場に向かった。 「お雪ちゃん・・・気づいてた・・・?ダーリンの頭に2本、角がうっすらと生えていたこと・・・」 「ええ・・・そしてさっきご主人様が扱っていたのは、紛れもなく電撃だったわ・・・ 一体どういうことなのかしら・・・?まさか・・・ これがジャンヌさんの言っていた『覚醒』なのかしら・・・!?」 「分からない・・・でももしそうだとしたら・・・ダーリンは鬼族・・・? 私やラムちゃんの仲間だってことなの・・・!?」 2人はこんな会話を交わしながら、弁天や竜之介、しのぶ達が戦っていたところに向かった。 Chapter 13 妹よ、兄は・・・さらば!!面堂終太郎 「面堂・・・オレが行くまで、絶対に死ぬんじゃないぞ!!これ以上の死人はもうごめんだ!!」 面堂邸内は広い。あたるは全速力で空を飛び、面堂のいる方向に向かった。 しかし、面堂がティモシーと戦ってる場所までは、このときまだかなり離れていた。 「ぐおおおおっ!!」 一方その頃面堂は、すばやさで勝るティモシー相手に苦戦していた。面堂の攻撃はことごとくかわされた。 「どうした?パワーは互角でも、スピードでこれほどの差があるのでは、敵討ちなど到底無理みたいだな」 地面に倒れた面堂に向かって、ティモシーは冷たく言い放った。 「お・・・おのれ・・・!!」 しかし必死に立ち上がろうとする面堂の目は、決して諦めた様子は感じさせなかった。 このときの彼の心は、ここで自分が倒れてしまったら、死んだ了子や、 面堂家と地球のために散った他の私設軍隊の隊員に申し訳が立たない、そんな思いでいっぱいだった。 全身泥まみれの血だらけになりながらも、彼は再び立ち上がった。 「・・・分からないな。なぜお前は、いや、なぜ地球人は勝ち目がない戦いを続けようとするんだ・・・ 諦めて降参すれば、命までは取らんと言っているのに・・・まったく、説明してもらいたいものだな」 ティモシーはまた例の調子で、冷ややかに言った。 「説明したところでキサマらに分かるものか・・・人間のクズ以下のクソどものキサマらに・・・!!」 こう言い放った面堂を、ティモシーは容赦なく殴り飛ばした。 「うがあっ!!」 殴り飛ばされた面堂は、再び地面に倒れた。 「下等生命体の分際でずいぶんな口を利いてくれるじゃないか・・・ これほどの歴然とした差があるというのに、ましてたった1匹に何ができるというんだ・・・」 そう言うティモシーの顔は、面堂の言うことがよほど気に障ったのか、やや引きつっていた。 「勝ち目がないと分かっていても・・・戦わねばならんときもある・・・了子もそんな気持ちだったはずだ。 だがボクは違う・・・キサマだけは・・・必ずボクがこの場で殺す!!」 「ほざけ!!」 ようやく立ち上がって口を開いた面堂を、またティモシーは殴り飛ばした。 しかし面堂は再び立ち上がった。そして凄まじい形相でティモシーを睨んだ。 「何だよその目は・・・・・・気に入らないんだよっ!!」 そう言うとティモシーは面堂にパンチの連打を浴びせた。しかし面堂は倒れなかった。 「その目を・・・やめないかーーーーっ!!」 こう叫び、ティモシーはとどめの一撃を食らわせた。それでも面堂は倒れなかった。 「何をやっている・・・さっさとキサマの剣でボクを突き殺そうとしてみたらどうなんだ・・・ だがボクはキサマだけは必ずこの場で殺す!そしてラムさんや諸星が残ったキサマの仲間を必ずやっつける!!」 ボロボロになりながらも面堂は叫んだ。その自信たっぷりの物言いに、ティモシーは明らかに怯えていた。 「じょ・・・上等じゃないか・・・望みどおり、この場でキサマを突き殺してやる・・・!! 死ぬのはキサマ一人だ!面堂!!うおおおおおーーーーっ!!」 ティモシーは猛烈な勢いで面堂のほうに突進した。しかし面堂はよけようとする気配すらなかった。 「諦めたか!面堂!!」 そう叫んだ直後、ティモシーの剣が面堂の腹を貫いた。そこから血がにじみ出た。 (や・・・やったぞ・・・) そうティモシーが思った矢先に、彼は面堂が右手に持っていた刀に自分の左胸を貫かれた。 「うっ!!ぐ・・・ぐおおおおおっ!!」 ティモシーは刺された左胸を押さえながら膝から崩れ落ちた。 「ハア・・・ハア・・・油断したな・・・ティモシー・・・!!」 面堂は倒れたティモシーを見下しながらそう言うと、彼の胸から刀を抜いた。 その瞬間、傷口から血が噴き出した。 「う・・・ぐぐぐ・・・ま・・・まさか・・・キサマ・・・最初から・・・」 虫のような声でティモシーが言うと、面堂はにやりと笑った。 「すばやいキサマを一撃で確実にしとめるには、これしか方法がないと思った・・・」 「なぜだ・・・なぜ・・・そんなに・・・この星が・・・大・・・切なのか・・・」 さらにティモシーは問いかけた。 「お前がボクの立場なら・・・きっとそうしたはずだ」 面堂はこう答えた。 「・・・フッ、見事だぞ・・・面・・・堂。捨て身の・・・戦法・・・恐れ入っ・・・た・・・ぐふっ!」 ティモシーはそのまま息絶えた。 「う・・・ぐうっ!」 それと同時に面堂も足元がふらつき、目がかすみ始めた。そしてその場に仰向けに倒れた。 (フッ・・・どうやらボクもこれまでか・・・18年・・・まあそれなりに楽しい人生だったな。 了子の敵も討ったことだし・・・もう、何も思い残すことなどないな・・・ ・・・あの世ではきっとあいつともうまくいくだろう。 ・・・いや、1つあった。諸星との決着がまだだった。でもやはり、ボクの負けは明らかかな・・・?) それから程なくして、あたるがその近くに到着した。間もなく、仰向けに倒れている面堂を見つけた。 「面堂っ・・・!!面堂っ!!」 面堂を見つけるなり、あたるは彼の名を叫び、彼のもとに駆け寄った。 「諸・・・星・・・か・・・?」 頭をあたるの方に向け、今にも消え去りそうな声で面堂はつぶやいた。あたるの変化した姿に驚いた。 「フッ・・・この世で最後に見るのが・・・キサマのアホ面とはな・・・ぐ・・・ゴホッ!ゴホッ!」 冗談を言い、余裕を見せようとした面堂だが、口からの吐血が、彼の本音をよく表していた。 「もうしゃべるな!面堂!!安心せい!お前も一応助けてやるわい。お前がラムたちと持ってきた薬で・・・」 冗談には冗談で、このときあたるはこう思っていた。面堂が命尽きる寸前であるとは考えもしなかった。 「一応とは何だ、一応とは・・・ずいぶん安く・・・見積もられたもんだな・・・ボクの命は・・・ だがな・・・もういいんだ・・・諸星・・・どうせボクは死ぬ・・・もとより覚悟の上だった・・・ぐっ、ごはぁっ!」 このときの面堂は、もはやしゃべるのも辛い状況であった。 「バッ・・・バカモノォ!!死ぬな!死ぬんじゃなぁーーい!!」 大量の血を吐く面堂に、動揺しながらもあたるはひたすら呼びかけた。 「も・・・諸星・・・こ・・・これを・・・」 面堂は自分の刀をあたるに差し出した。この動きさえも、今の彼には命がけなのだ。 「面堂・・・お前・・・」 「この・・・刀・・・は・・・ボクの・・・命の・・・次に・・・大切な・・・愛刀・・・だ・・・ どうか・・・受け取って・・・くれ・・・」 あたるを見つめる面堂の目は、真剣そのものだった。 「諸・・・星・・・ボクの・・・敵を・・・討って・・・くれとは・・・言わ・・・ん・・・ 頼・・・む・・・死ん・・・だ・・・了子や・・・他の・・・みんなの・・・ため・・・にも、 絶・・・対に・・・奴を・・・フィリップを・・・倒・・・して・・・く・・・れ・・・」 「分かった。約束しよう」 あたるにこう返事された面堂は、満足げに微笑んだ。 「後は・・・頼ん・・・だ・・・ぞ・・・ラム・・・・さんを・・・幸せ・・・に・・・う・・・ぐううっ!」 これだけを言い残して、面堂は絶命した。 「面堂・・・お前はやはり・・・死ぬまで侍だったな・・・ ランちゃんから聞いたぞ・・・お前、オレを助けるためにラムたちと一緒に亜空間に行ったんだってな。 汚い奴だ・・・こんなどでかい貸しを作ったままくたばりやがって・・・ ・・・これでは、もう一生お前に借りが返せんではないか」 あたるはこう呟くと、面堂の遺体のまぶたを閉じ、手を合わせてやった。 「面堂・・・許してくれ。全部オレのせいだ。オレがフィリップにやられたりしなければ、 あと5分早く着いていたら、お前も了子ちゃんも死なずに済んだかもしれないのに・・・」 あたるはうつむいたまま面堂の亡骸に話し続けた。 「ダーリン!」 「ご主人様!」 そこにランとお雪が現れた。あたるは驚いた。 「ランちゃん・・・お雪さん・・・なぜ・・・」 「ご主人様のおっしゃったとおりでしたわ。弁天も、しのぶさんも、竜之介さんも、他の皆様方も、 お亡くなりになっていました・・・それに、あの双子の姉妹と、大男もですわ」 お雪は無念の表情であたるにこう伝えた。 「ああ・・・やはりな・・・了子ちゃんも、そしてたった今、面堂も息を引き取ったところだ」 「そ・・・そんな・・・め・・・面堂さんまでが・・・」 あたるに面堂の死を告げられたランは、ショックを受けてこう言った。 「ところで、何で君たちはここにいるんだ?」 あたるは怒ったような声で聞いた。 「決まってるじゃない!私たちも戦いに参加しに来たのよ!」 ランもまた怒った様子で答えた。しかしあたるは、 「だめだ!危険すぎる!君たちは一刻も早くこの星を出ろ! 奴らも星の外まで君らを追って来ることもあるまい」 と言って彼女たちの参戦に待ったをかけた。しかしランは食い下がった。 「いやよ!私たちも戦うわ!これを見て。これは弁天の遺品よ」 そう言うとランは弁天が使っていたバズーカ砲を前に差し出した。 「私、こう見えても重火器の扱いは慣れているのよ。私だって戦えるわ!弁天の分まで戦うわ!」 しかしあたるは頑として受け入れようとしなかった。 「だめだと言ったらだめだ!早くこの星を出ろ!!これはオレたち地球人の問題だ!!」 「私たちは・・・仲間を殺されたのよ!!」 だめの一点張りを続けるあたるに、ランはこう叫んで抗議した。 「私はね・・・多くの仲間を・・・家族を・・・そして愛する人を一度に奪われたのよ! レイさんを目の前で失ってから今まで、私がどれだけ悲しくて辛くてやりきれない気持ちだったか、 ダーリンに分かる!?この戦争は私たちと無関係じゃないわ・・・ だから・・・たとえ危険でも・・・どんな結果になるかわからなくても・・・最後まで戦いたいのよ!! 戦うことで・・・この悲しみや、辛さや、やりきれなさを乗り越えたいのよ!!」 「ランちゃん・・・」 「それにダーリンは・・・本気で怒ったお雪ちゃんがどれだけ恐ろしいか、 どれだけ強いか知らないでしょう?」 そう言うと、ランは横目でお雪のほうを見た。 「私たちは、あなたやラムが必死に戦っているのをただ指を銜えて横目で見てるだけの、 待つ女ではありませんわ。 きっとあなたの、いいえ、地球の未来のためにお役に立てますわ」 お雪はそう話すと、凄まじい冷気を体から放出した。真夏の空に雪を降らせてしまいそうな勢いだった」 2人の思いの強さに、あたるはとうとう兜を脱いだ。 「じゃあ、ランちゃん、お雪さん。行こう!ただし、生命の保障はできないよ」 「何度も言わせないで、ダーリン!」 「もとより覚悟の上ですわ」 そう言いながら歩く3人の前に、突如インフェリオル族の大軍が現れた。 「日本ももうほとんど占領した!!あとはもう東京だけだ!!」 「キサマら!スーペリオル族とその仲間だな!?」 「ここで逢ったが100年目!3人とも始末してくれる!!」 大軍を率いていた3人がそう言うと、大軍はあたる達3人に向かって一斉に襲いかかってきた。 「はああああーーーーっ!!」 「グギャアーーーー!!!」 あたるが面堂の刀を持った右腕を大きく振りながら電撃を発すると、瞬く間に10数人の敵が蹴散らされた。 「おんどりゃあーーー!!レイさんの受けた痛み、おのれらの体にもたっぷり味あわせたるぅーーー!!」 「うごおおあああーーーっ!!」 こう叫びながら、ランは弁天のマシンガンとバズーカを手に大暴れした。 こちらも負けじとばかりに一度に大量の敵を倒した。 「お・・・おのれ!!おい、あの女だ!水色の髪をしたあの女を狙え!!」 「うおおおーーーーっ!!」 あたるとランが相当手強いと見るや、敵は狙いをお雪に集中してきた。 お雪を取り囲むように襲いかかった。 「ぐ・・・ぎゃあーーーーっ!!」 その直後、お雪に襲い掛かった者たちは皆悲鳴を上げ倒れた。 お雪が体全身から突き出した氷の槍で串刺しになっていた。 「どきなさい・・・私は今、怒っているのよ・・・!!」 敵を睨みながら呟くお雪の一言一言は、3人の中で誰よりも迫力があった。 「お前ら・・・この星から生きて帰れると思うなよ・・・!!」 あたるがこうすごんだ10分後、その場にいたフィリップ軍は一掃された。 「ラムはフィリップのところにかなり近いようだ。オレたちも急ごう!女の子が危ない!!」 「ええ。ラン、急いでバイクを持ってきて」 「OK!」 その後すぐに、ランはバイクを持ってきた。 「行くよ、ランちゃん!オレを見失わないように、絶対に遅れるなよ!!」 「分かってるわ!」 あたるは前に向かって空を全速力で飛び始めた。ランもその横を遅れないように飛んだ。 空を飛び始めて5分ほどしたところで、ランはあたるに突如話しかけた。 「ねえ・・・さっきからダーリンが言っている女の子のことなんだけど・・・」 「なんだい?」 「その子の名前ね・・・ジャンヌっていうの。実はね、その子・・・フィリップの妹なの・・・」 「な・・・何だって・・・!?」 ランの告白に、あたるは仰天した。 「ど、どういうことなんだ!?じゃあその子もインフェリオル族・・・!?」 「ジャンヌさんは国を裏切り、私たちの仲間として戦うと言ってこちら側にやってきました。 あなたの命を救った薬の原料であるミラクルセージのことを教えてくれたのも彼女ですわ。 彼女は本気です。地球人を守るためなら兄を殺すことも辞さないと言ってました」 「そうだったのか・・・オレが寝ている間にそんなことが・・・」 敵の総大将の妹に命を救われたことを知って、あたるは複雑な気持ちになった。 「話はこれだけよ。ダーリン、急ぎましょう!」 「ああ!」 あたるはこう返事すると、再びラムのもとに向かい全力で飛ばした。 To be continued......