Chapter 14 届かぬ想い ジャンヌ最期の日 「ぐ・・・ぐう・・・・・・」 「む・・・無念・・・じゃ・・・」 召喚術を長時間行い続けたため、全身の霊気を使い果たしたチェリーとサクラは力尽きた。怪物も消滅した。 「ははは・・・!!バカな奴らめ!!自らの術の使いすぎで自滅とは!!さあ、どうするジャンヌ?もう後がなくなったな・・・」 (も・・・もうだめ・・・) ジャンヌが絶望し、諦めかけたそのときだった。 「ジャンヌーーーーッ!」 そう叫びながら、ラムが颯爽と現れた。 「お前たち!今度はこのウチが相手だっちゃ!!もうお前たちは泣いて謝っても許さないっちゃよ!!」 ラムは電撃をメリッサに向けて放った。しかしメリッサは突然姿を消した。 「き、消えたっちゃ!?」 ラムは周囲を見回したが、メリッサの姿は見えなかった。 「後ろよ・・・!!」 その言葉と同時に、突然消えていたメリッサが現れた。不意をつかれたラムは、背中に強烈な攻撃をまともに食らった。 「テ、テレポーテーション!?」 叩きつけられた地面から起き上がったラムは驚いた様子で言った。 「これでとどめよ!しゃあーーーーっ!!」 メリッサはラムに近寄りながら、人を一人黒焦げにできるほどの強烈な電撃をラムに放とうとした。 「きゃあーーーっ!!」 しかしジャンヌが横から強烈な電撃を発射し、その攻撃を受けたメリッサは地面に墜落した。 「お・・・おのれ・・・!!」 「どうあってもこの兄たちの邪魔立てをするつもりか・・・!!おのれ、くたばれェ!!」 フィリップは両手を構え、ジャンヌを後ろから狙った。 「危ない!ジャンヌ!!」 ラムはとっさに立ち上がりながらこう叫ぶと、フィリップに電撃を浴びせた。 「ゴアアアッ!!」 墜落には至らなかったものの、かなりのダメージを与えた。 「た、助かりました!ラムさん!!」 「これで貸し借りなしだっちゃ!いくっちゃよ、ジャンヌ!!ちゃあーーーっ!!」 そう叫ぶと、ラムとジャンヌは2人同時に電撃を撃った。フィリップとメリッサは2人ともジャンプしてかわした。 「バカにするな!!」 「こんな攻撃がかわせないとでも思ったの!?」 勝ち誇ったように叫ぶ2人の頭上に突如ラムが現れ、大型ハンマーでメリッサを打ちのめした。 「ああああーーーーっ!!」 ラムの攻撃をまともに受けたメリッサは猛烈な勢いで落下した。 「メ・・・メリーっ!!」 フィリップは叫んだ。 (チャンスだっちゃ!ここで一気にカタをつけるっちゃ!!) ラムはその後をさらに追いかけた。しかし、メリッサに追いつくまであと3メートルと迫ったときだった。 「はあっ!!」 うつぶせの体勢だったメリッサが急に空中で振り返り、ラムに金縛りの術をかけてきた。 「うっ!し・・・しまった・・・っちゃ・・・!!」 突然のことにラムはまったく対応できなかった。ラムは必死にもがいた。だが体はまったく動かなかった。 「ラ、ラムさん!」 メリッサはラムのほうを向いて叫んだ。 「はっはっは!油断したわね、ラム!!さあ・・・覚悟はできたかしら・・・?今度こそあなたを地獄に落としてあげる!!」 勝ちを確信したかのように、彼女は笑顔でそう言いながら、フィリップを見た。 「よーし。よくやったぞ、メリー!ラム、覚悟しろ!今度こそオレがこの手で、お前の内臓をえぐりとってやるからな!!」 フィリップはこう言うと、猛然とラムのほうに向かってきた。そこにジャンヌが割り込み、ラムの前でフィリップを足止めした。 「やめてください、お兄様!これ以上・・・無益な殺しをしないでください!!」 両腕を横に広げたまま、ジャンヌは必死に訴えた。 「何い!?裏切り者の分際で、よくもまあそんな一丁前の口が利けたもんだな・・・ そこをどけ、ジャンヌ!!そうすればお前もオレたちと同じ一族、ましてオレの妹だ・・・ それに免じ、お前の命を助けてやらんでもないぞ。ん?」 こういって話を持ちかける兄に、ジャンヌは決して与しなかった。 「目を覚ましてください、お兄様!確かにラムさんはスーペリオル族です。でもそれが何だというのですか? このお方を殺して一体何になると言うのですか!?死んだひいおじい様がお喜びになるとでもお思いなんですか!? 私たちのひいおじい様が戦って負け、裁判で処刑されたクーデターは、もう90年も前の昔のことではありませんか! その時ラムさんはまだ生まれていません。このお方を殺して敵討ちだなんて筋違いです!」 こんなにも必死の妹の訴えに、フィリップは聞く耳を持たなかった。 「黙れェ!!オレはなあ、オレたちをこんな惨めな境遇に置くきっかけを作ったスーペリオル族すべてが憎いんだ!! オレたちにインフェリオルなどと言う烙印を押したスーペリオル族すべてがなあ!! だからオレは誓ったんだ!いつの日か、スーペリオル族をこの宇宙から根絶やしにしてやろうと!! 誰のためでもない、自分のためになあ!!そこをどけえ!!さもなくばお前から殺す!!」 こう言われても、ジャンヌはひるまなかった。その一方でメリッサは苦しそうな顔をしていた。 「フィ・・・フィル!は、早くして!もう限界よ!!これ以上金縛りはかけられないわ!!」 メリッサは目で合図を送りながらそう訴えた。 「さあ、そこをどくんだ!どけなければ本当に殺すぞ!!」 フィリップはいっそう強く妹を威嚇した。 「お兄様・・・あなたは本当はやさしい人です。そんなあなたに、妹である私が殺せるはずがありません。 ・・・さあ、もういいでしょう。帰りましょう。お兄様。私たちの星へ」 こう言われると、フィリップも観念したのか、両手を上げて降参のジェスチャーをした。 「・・・分かったよ、ジャンヌ。お前の言うとおりだ。オレがバカだった。やっぱり帰ろう」 この言葉を聞いたメリッサは仰天した。 「フィ、フィル!」 思わずこう叫んだ。それと同時にラムにかかっていた金縛りが解けた。 「お兄様・・・分かってくださったのね」 ジャンヌは歓喜のあまり、思わずフィリップに抱きついた。しかし次の瞬間だった。 ズボオッ 「う・・・ああああっ!!」 ジャンヌがそううめき声を上げたかと思うと、左胸から血が溢れ出ていた。そこにはフィリップの腕が刺さっていた。 フィリップが腕を彼女の左胸から引き抜くと、そこから真っ赤な血が飛び散った。 空中にいたジャンヌはそのまま墜落し、アスファルトに叩きつけられた。 「ジャ・・・ジャンヌ・・・!!ジャンヌーーーっ!!」 金縛りが解けたばかりのラムが、あわててジャンヌのもとに駆け寄った。 「ジャンヌ!しっかりするっちゃ!ジャンヌ!!」 必死に呼びかけるラムだが、もはやジャンヌは助かる見込みはなかった。 「ラムさん・・・お兄様を・・・止めて・・・これ以上・・・罪を・・・重ね・・・させ・・・ない・・・で・・・ う・・・うううっ!」 ジャンヌは涙ぐみながら、ラムに嘆願した。そしてそのまま息絶えた。 「ジャンヌ・・・!!ジャンヌーーーーっ!!」 ラムは彼女の名を叫んだ。しかし彼女が返事することはなかった。 「ハッハッハッハ!!バカめ!オレに妹が殺せるわけないだと?裏切り者を妹に持った覚えなどないわ!!ハッハッハ!!」 ジャンヌの血で染まった右腕を眺めながら、フィリップは高笑いをした。 その時この男が発した言葉に、ラムは激怒した。 「フィリップ・・・お前・・・ジャンヌを騙したのけ・・・?」 ジャンヌの亡骸を見つめ、フィリップに背中を向けたまま、静かに語った。怒りがにじみ出ていた。 「フン・・・こんな嘘に騙されるとは・・・あれは本当にお人よしだよなあ。そうは思わんか?ラム・・・」 悪びれた様子もなくフィリップは語った。 「お前・・・自分が何をしたのか・・・分かっているのけ・・・?」 「地球人などという下等生命体に与した裏切り者、愚か者に粛清を加えたのだ。違うか?」 「戦っていて気づかなかったっちゃ・・・?ジャンヌがお前を殺せるような攻撃を一度も仕掛けなかったことに・・・ ジャンヌは、お前みたいな悪党でも、自分にとってはたった1人のかけがえのない兄だと思っていたっちゃ。 どんなに悪事を繰り返したとしても、自分の手で殺すのは忍びない、何とか平和的にお前を止めたいと思っていたっちゃよ。 死ぬ間際も、お前を殺してとは一言も言わなかったっちゃよ!なのに・・・ どうしてお前にはその想いが分からなかったっちゃーーーーっ!!」 ラムがどれだけ一生懸命ジャンヌの気持ちを代弁しても、その想いはフィリップの心には届かなかった。 「黙れ!キサマの説教など聞きたくないわ!!キサマも今すぐあの世に送ってやる!!はああああーーーーっ!!」 両手に思い切り溜め込んだ電撃を、フィリップはラムに向けた放った。しかしラムの体が金色に光ったかと思うと、 その瞬間、フィリップが放った電撃がかき消された。 「な・・・なんだ・・・」 「なな・・・何なの・・・?この強大なエネルギーは・・・」 全身から突如、今まで見たこともないような凄まじい電撃エネルギーを発しているラムに、2人は戦慄した。 Chapter 15 汚い奴 「お前たち・・・もう絶対にここから生きては帰さないっちゃよ・・・!!」 ラムが全身から発するエネルギーはどんどん強くなっていった。 「フィ・・・フィル・・・!!」 メリッサは恐怖に震えながら、フィリップのもとに近づいた。 「これはウチとジャンヌの2人分の怒りだっちゃ!これを食らって2人ともジャンヌの所に詫びに行くっちゃーーーっ!!」 ラムは両腕を構え、2人で固まっているフィリップとメリッサに狙いをつけた。 「あ・・・あ・・・ああ・・・」 「ひ・・・ひいい・・・・・・」 フィリップもメリッサも、恐怖で動けなかった。2人とも正気を失っていた。 「ウチ、今までこんな強力な電撃を使ったことないっちゃ・・・でもこれなら、絶対にあいつらを倒せるっちゃ! 見てて、弁天、ジャンヌ、ダーリン・・・今からこのウチが、悪い奴らを退治してやるっちゃ!!」 この時ラムの頭の中には厳しくもいつも自分を励まし続けてくれた弁天、 インフェリオル族でありながら地球人のために精一杯尽くしたジャンヌ、 そして身を挺して自らをかばってくれたあたるへの想いを募らせていた。 「フィリップ!メリッサ!お前たちの野望もこれで終わりだっちゃ!!いっけェーーーッ!!」 こう叫んだ瞬間、ラムの両腕から彼女の渾身の力を込めた電撃が放たれた。 「う・・・うわああああ!!」 フィリップはその凄まじさにおののき、思わず悲鳴を上げた。しかしこの直後、 正気に戻ったこの男は信じられない行動を取った。 「フィ、フィル!!何するのよ!?」 何とこの男は、事もあろうにメリッサを、革命の同志を、まして自分の婚約者を盾にしたのだ。 「フィル!!やめてぇ!!離してえーーーっ!!あああーーーっ!!!」 背中から両腕を押さえられた彼女は必死にもがいたが、所詮男の力にはかなわなかった。 フィリップの盾となったメリッサはラムの電撃をまともに食らってしまった。 「ハア・・・ハア・・・」 ほとんどのエネルギーを使い果たして息遣いの荒くなったラムが空を見てみると、 そこには無残にも黒こげとなったメリッサと、そのメリッサの後ろに隠れて助かったフィリップの姿があった。 フィリップが手を離すと、メリッサはまっさかさまに墜落した。彼女が生きているはずがなかった。 その無様な姿を見てラムは、いくら自分がやったこととはいえ、いくら憎い敵だったとしても、 こんな死に方をされては、罪悪感のようなものを感じずにはいられなかった。 それと同時に、自らが生き延びるためには、婚約者さえも平気で犠牲にするフィリップの厚顔無恥な態度に、 ラムは胸のうちに湧き出す激しい憤りを抑えることができなかった。 不思議なことだが、メリッサのためにも何としてもこの男を倒したいと言う気持ちで満たされていった。 「フィリップッ!!お前一体どこまで性根が腐っているっちゃ!! 自分の妹ばかりか、妻になるはずだった女まで殺すなんて・・・!!」 「関係ないな。オレは何よりも自分の命のほうが大切なんだ。それに、目的達成のためなら犠牲は付き物だろうが」 「お前みたいな・・・お前みたいな外道は・・・このウチが絶対に許さないっちゃ!! このウチが成敗してやるっちゃ!!」 「フン!強がるのもいい加減にしろ!!お前は今の攻撃でもう力を使い切ってしまったはずだ!! 今のお前にこのオレは倒せん!今度こそこの爪の餌食にしてくれるわ!あの男のように!!」 ラムとフィリップはほぼ同時に電撃を発した。しかしラムの電撃はもはやパワーが弱まっていた。 Chapter 16 破鍋に綴蓋 その頃あたるたちは、ラムとフィリップが放った電撃がぶつかり合う音が聞こえるところまで来ていた。 「きゃあーーーーっ!!」 そのあまりに凄まじい衝撃波で、ランとお雪の乗ったバイクは吹き飛ばされた。 「ぐっ!ぐうう・・・お雪さん!!ランちゃーん!!」 あたるも吹き飛ばされるまいと空中で必死にこらえた。程なくして衝撃波は収まった。 あたるがお雪たちのほうを向こうとしたとき、彼は心に虫の知らせを感じた。 (・・・ラム!) 頭の中でそう呟くと、彼はなりふりかまわずラムとフィリップが戦っているほうに飛び立った。 その途中で、彼の脳裏にラムとの様々な思い出が走馬灯のように甦ってきた。 ラムと初めて出会ったときのこと、一緒に暮らし始めたばかりの頃のこと、 クリスマスイブの夜のこと、突然ラムが自分の前から姿を消したときのこと、 ラムをめぐり面堂と対決したときのこと、2度目の鬼ごっこで再びラムの角と心を掴んだときのこと・・・ そして2日前の学校からの帰り道のときのラムの言葉・・・ 「ねえダーリン、もしもウチが死んじゃったら、悲しいっちゃ?」 あたるは今、その言葉の意味を痛いほどに噛み締めていた。 「ラムーーーッ!死ぬなよ!!」 あたるの空を飛ぶスピードはさらに増した。 「ダ、ダーリン!待ってよお!!」 それから少し遅れて、ランの運転するバイクが、彼の飛んでいった後をそのまま通り過ぎていった。 「でやあああーーーーっ!!」 「きゃああーーーーっ!!」 あたるの虫の知らせは気のせいではなかった。その頃ラムは、電撃も満足に放てないほど疲れ切っていた。 白兵戦の苦手なラムの唯一の武器である電撃を使えなくなったラムは、 フィリップの容赦ない攻撃の前になされるがままになっていた。 フィリップは明らかに、ラムを今すぐ一思いに殺そうなどとは考えていなかった。 「最後の」スーペリオル族であるラムを、徹底的にいたぶりつくし、できるだけ惨めな様で死なせよう、 フィリップが電撃を威力を弱めて放っている姿が、そう言っているように思えた。 「へへへ・・・ついに、ついにこの瞬間が来たんだ・・・!スーペリオル族がこの宇宙から消えてなくなる瞬間が・・・!!」 仰向けに倒れたラムを見下ろしながらそう言い放つフィリップの表情は、もはや完全に「イッて」しまっていた。 しかし、ラムはまだ諦めてはいなかった。 (ウチがここで死んでしまったら・・・何のためにダーリンはウチのことを守ったっちゃ・・・ 何のために弁天や竜之介、それに終太郎は協力してくれたっちゃ・・・ みんなは・・・何のために死んでいったっちゃ・・・ジャンヌは・・・どんな思いでウチに賭けたっちゃ・・・ 死ねないっちゃ・・・!こんなところで死ぬわけにはいかないっちゃ・・・!! 父ちゃん・・・母ちゃん・・・レイ・・・それにテンちゃんに、鬼星のみんな・・・地球人の人たち・・・ みんなの敵を討つまで・・・!!) 「ウチは絶対に死ねないんだっちゃーーーっ!!」 ラムは絶叫した。そして最後の力を振り絞り、再三繰り返してきたが、今までで最大の電撃をフィリップに放った。 これを見たフィリップは仰天した。 「な・・・何いーーーッ!!?どこにそんな力が!!?う・・・うわああああーーーッ!!」 あまりに唐突な出来事だったので、よけることはおろか、受けることさえもできなかった。 青い閃光の中に、フィリップは消えた。ラムはその後しばらく、その場にふらふらしながら立ち尽くしていた。 「や・・・やったっちゃ・・・」 1分ぐらいしたとき、ラムは力なくこう呟いた。実際、彼女にはもう戦えるほどの余力などなかった。 全生命力を力に変えたのだ。 しかし、ラムが勝利を確信したその直後だった。 「うがあーーーーッ!!」 瓦礫の山の中から、血まみれになったフィリップが現れたのだ。かなりのダメージは受けていたものの、生きていた。 「ハア・・・ハア・・・まさか・・・まだこんな力が残っていたとはな・・・!! だが・・・これまでだ・・・!!今度こそもうお前には余力など残ってはいまい!!」 フィリップには、まだ歩けるほどの力は残っていた。 「そ・・・そんな・・・」 その場に倒れこんだラムは、もはや指を動かすことさえできなかった。 フィリップはそんなラムの首根っこを左手で掴み、引き起こした。 「確実にお前が死ぬように・・・その首・・・掻っ切ってやる!!ははは!! 首から頭と体が離れたお前を見たときの諸星あたるの顔が見れないのが残念だぜ!!」 誇らしげにそう言い放つと、ラムを掴んでいない右手に電撃エネルギーを溜め込み、大きく振りかぶった。 (みんな・・・ごめんちゃ・・・敵・・・討てなかったっちゃ・・・ ジャンヌ・・・お前の兄ちゃん・・・止められなかったちゃ・・・ ダーリン・・・夫より先に死ぬ、妻失格のウチを・・・許して欲しいっちゃ・・・) 頭の中で辞世の句を述べ終えたラムに、フィリップの毒牙が容赦なく迫ったそのときだった。 ドカアッ 「うがあーーーーッ!!」 何者かに横から自分の頭を蹴られたフィリップは、30メートルは突き飛ばされた。 ラムはその場に倒れた。 「ぐっ・・・!!だっ・・・誰だっ!!?」 フィリップは起き上がりながらそう叫んだ。そして、視線の先に見えた人物を見て驚いた。 「も・・・諸星!?キ・・・キサマ・・・!!どうしてここに!?お前は死んだはずじゃ・・・!?」 「お前の魔の手からラムを救うために、地獄から舞い戻ってきたんだよ。お前の妹に案内人をしてもらってな」 驚きあわてるフィリップに、あたるは冗談めいて答えた。 「ぐっ・・・その姿は・・・キサマ・・・とうとう覚醒したのか・・・!!」 あたるが、もはや完全にスーペリオル族の姿をしているのを見て、唇を噛み締めながらそう呟いた。 そんなフィリップを睨みつけたあと、あたるはゆっくりとラムのほうに向かった。 「ラム!」 「ラムちゃん!」 そのとき、遅れていたお雪とランもその場に到達した。そしてあたるのあとを追うようにラムのほうに向かった。 「ラム!しっかりせい!オレだ・・・分かるか?」 ラムの肩を揺すり、あたるは呼びかけた。 「ダーリン・・・来てくれたっちゃね・・・うれしいっちゃ・・・」 ラムはこう答えた。見た目が全く変わっていたあたるの姿にも驚くことはなかった。 「ああ。お前のおかげだ!オレが今こうして生きているのは」 ラムの目をしっかりと見つめながら、あたるは言った。 「ダーリン・・・」 「ん・・・なんだ?」 思いつめた様子でそう呼びかけたラムに、あたるは返事した。 「今まで・・・本当にごめんちゃ」 「な・・・何だよいきなり!やめろよ、バカ!何謝ってんだよ」 突然こう言ったラムに、あたるは当惑した様子で答えた。 「ダーリンに今まで・・・電撃を食らわせたり・・・ハンマーで殴ったり・・・痛かったでしょ?」 「何だ、そんなことか。お前は何も悪くない。悪いのはオレだ。自業自得さ。 お前が、お前だけがいつもそばにいてくれたのに、オレはそのことに感謝することもなく、 いつもほかの女の尻を追いかけていたんだからな。お前が怒るのも当然だ。 オレはお前に感謝している。今までずっとオレに愛想を尽かすこともなく、一緒に暮らしてくれたことを。 オレの傍若無人な振る舞いにずっと耐えてくれたことを。だめ人間のオレに誠心誠意尽くしてくれたことを。 そして、こんなオレのことを夫だと言ってくれたことを、お前が自分のことをオレの妻だと言ってくれたことを。 やっぱりオレみたいな男には、お前じゃなきゃだめなんだよ。お前以外、オレの妻は務まらん」 あたるにこう言われ、ラムが今まで抱いていたあたるへの負い目が全くの杞憂であったことが分かると、 ほっとした表情になった。 「ダーリン・・・ありがとだっちゃ・・・今まで本当に楽しかったっちゃ・・・ ウチは・・・ダーリンの妻であったことを・・・誇りに思うっちゃ・・・」 ほっとした表情であたるを見つめながら、ラムは呟いた。 「ラム!何を弱気になっとるんだ!気をしっかり持て!」 あたるは大丈夫とラムに言い続けたが、自分の体は自分がよく分かる、この時ラムはそう思っていた。 「ダーリン・・・あいつを・・・やっつけて・・・スーペリオル族の・・・底力を・・・見せ・・・て・・・」 こう言うと、ラムは目を閉じたまま、動かなくなった。 「ラム・・・!ラムッ!!ううっ・・・」 あたるはラムのほうを見て、そう言った。 「ご主人様・・・」 さぞかし嘆き悲しんでいるだろうと思い、慰めの言葉をかけようと、お雪はあたるの顔を覗き込んだ。 しかしその顔を見たお雪はぎょっとした。その表情は悲しみではなく、怒りで満たされていた。 「お雪さん・・・ランちゃん・・・ラムのことを頼む・・・」 お雪とランを見てそう呟くと、あたるは即座にフィリップのほうに向き直った。 「フィリップ!キサマ一体どこまで性根が腐っているんだ!!実の妹ばかりか、 自分の婚約者まで殺すなんて・・・!!その上ラムも、それに多くの地球人を・・・!! キサマ・・・一体何人殺せば気が済むんだ!!」 怒りをぶつけるあたるに、フィリップは平然と答えた。 「オレはな・・・この地球だけでなく、銀河系すべてを統治するんだ・・・オレは宇宙の王になるんだよ。 手始めに、スーペリオル族は皆殺し!それに逆らうものも皆殺し!オレに従う者だけ生きる自由を与える。 ・・・オレは王になるわけだ・・・その王を守るためなら、従者は自らを犠牲にして当然だろ・・・? メリッサもあの世で、きっと自らの行いに満足しているだろうさ」 これを聞いて、あたるは激怒した。 「ふざけるなァ!!それが自分の妻になる筈だった者に対して言うセリフか!!夫婦ってのは、そんな関係じゃねえ!!」 あたるはフィリップにものすごい剣幕で怒鳴りつけた。 「お前の夫婦観とやらがどんなものであろうと、もう誰にもオレの計画は止められん。 オレはこの星に地上の楽園を造るんだ・・・インフェリオル族、いや、そんな呼び方はもうやめよう。 そうだな・・・太陽族!そうだ、それにしよう!その太陽族が幸せに暮らせるような楽園をオレは築くんだ」 フィリップは自らの理想を恥ずかしげもなく話した。 「黙れ!!お前の仲間はもう死んだ!!お前は今、一人ぼっちだ!!一人ぼっちで何ができる!? そして今ここで、キサマも死ぬ!この地球を、オレのふるさとをキサマなんかに渡してたまるか!! そして、弁天様や竜ちゃん、メガネにパーマにチビにカクガリ、しのぶに了子ちゃん、面堂、 サクラさんに一応チェリー、お前の手にかかり悲惨な最期を遂げたジャンヌやメリッサ、他の多くの人々、 そしてラムの敵を取らせてもらう!!」 こう叫ぶと、あたるは面堂の刀に自らの電撃を通らせた。 「ほざけェ!!キサマごとき下等生命体一匹に何ができる!!ここで返り討ちにしてくれるわ!!」 フィリップはこう言い返した。 「お雪さん!ランちゃん!ラムを連れて、できるだけ遠くに逃げろ!!巻き添えを食うぞ!!」 あたるは後ろにいたお雪とランにそう促した。 「分かりましたわ!ラン、行きましょう!」 「ダーリン・・・絶対に・・・死なないでね!!お願いよ!!」 2人はそう言うと、ラムをバイクの荷台に乗せ、空に飛び立った。あたるは2人に対し、親指を突き立てて返事した。 「ハーッハッハッハ!!スーペリオル族は一匹残らず逃がさんぞ!!」 3人が逃げるのを見て、フィリップは電撃で攻撃しようとした。しかしあたるは彼の手を掴み阻止した。 「お前の相手は・・・このオレのはずだ!!」 スーペリオル族とインフェリオル族、決着の時がついに来た。 To be continued......