[番外編:パラレルうる星小説PART1「高校野球編」 「黒川さんが・・・交通事故?」 試合を終えて、家に帰って来たところに、ラムの父から電話がかかってきた。あたるの投げた試合は見事が1安打に抑え、 準決勝に駒を進めた矢先のことである。 「え・・・、だって黒川さんは病院に・・・」 「そやから、その帰りやったんや・・・」 ラムの父の元気のない声が受話器から聞こえてくる。 「よ、容態は!?」 あたるの声は焦りに満ちていた。台所の方で湯がポットの中で沸いている。あたるの部屋にはコースケとラム、面堂が集まり、 準々決勝での試合を振り返っていた。笑い声も響くが、あたるの耳には入っていなかった。 今はあたるしか黒川の事故は知らない。 「今、手術やっとんのやが、意識不明・・・。助かるかどうか五分五分やそうや・・・」 「そ、そうですか・・・。ってことは今後の試合は・・・」 「もし、意識が戻っても、動けるようなるんは、十一月ぐらいからや・・・」 「ってことは・・・」 「エース不在や・・・」 あたるは放心状態となり、受話器を落とした。まだ夏の始まった夕暮れのことだった。 そして・・・ 第2話「叶う夢・叶わぬ夢」 PART1[その名は・・・] そして、半年・・・。ルパは意識は回復したものの、下半身麻痺という事実が発覚した。野球はおろか、走ることも出来なくなった。 昨年の夏の準決勝はエース不在の試合、防ぎきれる物も防ぎきれず負けを期した。あたるはルパの後継者として活躍できず、接戦の末敗退。 また、秋季大会も新メンバーで挑んだが、殆どが試合慣れしていない一年生。 準決勝で一刻商に破れた。春の選抜の夢も絶たれた。そして新たな春を迎えようとしている。 友引高校 昨年と同じようにサクラの花びらが舞っている。その花びらに二年生へと進級したあたるとコースケそしてラムが登校してきた。 「黒川さん、なんとか大学受かったんだってな」(あたる) 「ああ、でもそこの大学に野球部はないんだそうだ」 「そりゃあ、そうだろうな。もうすぐ夢が見えてきたのに、あんなことがあったらな・・・」(コースケ) 「だからその夢を2人が背負ったっちゃ!」 ラムがサクラを見ながら言う。あたるも同じサクラを見て少し笑った。始業ベルが校内に響き渡った。 「ほら、まずは授業だっちゃ!」 サクラをぼーっと見ていたあたるはラムの声に少し反応が遅れた。 放課後 あたるとコースケ、ラムは部活に向かう途中の下駄箱にいた。下駄箱の下靴と上靴を入れ替えながらあたるが言った。 「今年の新入生に有望なのはいんのか?」(あたる) 「アホ、これでもウチは強豪なんだぞ。有望な新入生は何人もいるぜ」(コースケ) 「まあ、わかってんだが、去年はレイと竜之介みたいな一年でレギュラーをとるようなやつがいたから、なんかこう、 有望選手の基準がわからんのじゃ」 三人は下靴に履き終え、サクラが舞い散る校庭へ足を踏み入れた。 「まあ、わからんでもないが・・・」 「ラム、お前はしらんか?」 「んーっと・・・。あ、たしか因幡くんが来てるはずだっちゃ!」 「因幡?」(あたる) 「ああ、確か中学んときの決勝戦の相手のショートじゃなかったか?」(コースケ) 「あー、あいつか。面堂の強烈な当たりをとったやつか・・・」 「そいつだ」 「違うっちゃよ!」 ラムが話の根本から否定した。 「だって因幡っていえば・・・」(コースケ) 「その双子の弟だっちゃ」 「双子ぉ〜?」 2人が声を合わせて言った。微妙にハモっている。 「や、野球の経験は?」(コースケ) 「皆無だっちゃ!」 「皆無だっちゃってそれのどこが有望選手じゃ!」(あたる) 「顔がレギュラーに入りそうな顔だからそう思ったっちゃ!」 「顔って・・・、俺とコースケはともかく、レギュラーのくせにチビとカクガリは脇役顔の代表だろうが!」 「そんなこと知らないっちゃ」 「知らないって・・・」(あたる) 「まあ、とにかくグラウンドにいってからだ」(コースケ) で、グラウンド 「気合いがたらん!もう十周走って来い!」 グラウンドに例の親父の声が響いていた。グラウンドの入り口であたるは目の上に手をかざしてその親父を見ていた。 「オー、オー、やっとる。血圧上がらんのかね〜」 「同感だな」 「これでもウチのとーちゃんの血圧は低いっちゃよ・・・」 あたるとコースケはずっこけそうになった。 「あっと驚くタメゴロー!」 精神が不安定になったあたるが出せる台詞はこれだけだった。 「ええい、貴様いったい何歳だ!知らない読者が混乱するだろうが!」 「気にするな、で、その因幡ってやつどいつだ?」 正気を取り戻したあたるはグラウンドを走っている一年生を眺めた。 「ほら、あそこの茶髪気味で気の弱そうな・・・」 あたるは一目でわかった。 「あ〜、集団の一番後ろにいる・・・」 「兄と違ってレギュラー入りは無理そうだな」 あたるもコースケも期待はしていなかった。 「よう、遅かったじゃねえか」 後ろから竜之介が出てきた。どうやら喧嘩をしてきたらしく、顔中に傷跡と絆創膏が貼ってある。 「また喧嘩か?」(あたる) 「ああ、隣の赤口学園がおれにいちゃモンつけてきやがったから、少しな・・・」 「いちゃもんって?」(ラム) 「俺を男呼ばわり・・・」 あたるはあわてて竜之介の口をふさいだ。 で、再びグラウンド あたるがユニホームに着替えてベンチに入ってきた。そこで靴のひもを結んだ。 「おいこら、あたる。なにしとったんや?練習はもうはじまっとんのやで!」 親父が羅刹のような形相であたるに言った。 「ニャハハハハ、ちょっと担任に呼び出されちゃって・・・」 「白井もか?」 コースケのにも睨み付ける。 「は、はい・・・」 「まあ、ええか。それよりお前、今年の新入部員でめぼしいやつおるか?」 あたるはランニングしている一年生を見てみた。 「そうですね・・・。真ん中を走ってるやつなんかどうでしょうか?図体もでかいし、スタミナがありそうに見えます。それから・・・、 先頭のやつなんかも足の速そうで、一番バッターに向いていると思います」 「白井は?」 「俺もあたるに同感ですね。ただ、即刻レギュラー入りという分けにもいかんでしょう」 「やっぱりそうか?」 親父はうなずく。 「そうかって・・・」 「ほかのみんなにも聞いたんやが、やっぱり同じ答えやった」 「監督は誰に期待しているんですか?」(あたる) 「ほれ、あいつじゃ。茶髪で気の弱そうなやつじゃ」 あたるもコースケも吃驚した。 「で、でも・・・、ランニング、だいぶ遅れてるじゃないですか!?半周も差があるし、酷く疲れてる顔してるし・・・」 確かにあたるの言うとおり、因幡はランニングの集団から半周も遅れ、酷くきつそうな顔をしている。 「ああ、あいつはもうランニングは終わってんで。暇やからいーよったさかい、二回目のランニングをしとんのじゃ」 あたるとコースケの頭の上に「!」マークが浮かんだ。 「驚いたやろ?まさかあんなひよっこにあんな体力があろうとは・・・」 「でも、素人なんでしょう?体力だけあってもレギュラーは取れませんよ」(あたる) 「なにゆーとんのや?あいつは小学校の時にやっとったで」 「え・・・、だってラムちゃんが素人だって・・・」(コースケ) 「ああ、それは中学校の時には、やっとらへんかったそうや。親の都合でな。じゃが、高校になったら甲子園目指すゆーて  はりきっとったそうで親を説得して遠く福岡から来たんや」 「福岡?何でわざわざここまで?」 あたるとコースケは準備運動しながら親父に言った。今ちょうど腕の前後ろ回しをしている。 「ああ、あいつの親がわいの幼なじみでな。やるなら友高行けゆーて、送り出してくれたんや。今は遼生活してんねん」 「遼って言ったら、メガネも遼じゃなかったか?」(あたる) 「そう言えば・・・。あいつのことだから、一年に屁理屈を並び立てた説教をやるんじゃねーの?」(コースケ) 「にゃはは・・・。あり得るな」 「ほれ、しゃべっとらんで、はよ練習せんかい」 親父は冗談を言い合う2人に練習を催促した。 今年も友高に有力選手が入ってきた。その名は因幡裕太 十六歳。 PART2「マイバッド」 この日は練習は休みである。親父のたまの気まぐれではあるが、それでも選手、とりわけレギュラーにとって極楽の何ものでもない。 家で寝るも良し、遊びに行くも良し、デートするも良し。野球部は普段できない事を存分に楽しむには絶好の機会だ。 あたるもその一人である。 「おじょーさーん!!・・・と叫びたいのに何故にラムがついてくるのじゃ?」 町を歩くあたるの横をラムもまた平行して歩いていた。 「どうせ浮気する気だっちゃ」 「なーにが浮気じゃ。おれはただバッティングセンターに行くだけだ」 「だったら、ウチがついてきても問題ないっちゃ!」 「お前がいたら気が散るんだよ!」 この言葉にラムは歩くのをやめた。その場でうつむいている。 「どうした、ラム?」 二、三歩先に行ったところであたるは後ろに振り返った。 「ウチがいたら・・・、邪魔・・・」 少し涙声が入っている。これにはあたるもたまらない。 「わっ、わかった。ついてきて良い!良いから泣くな!」 「いいっちゃ?」 ラムは先ほどの涙声とうってかわって、無邪気な声を出した。あたるは負けたと思い、付いてくることを許可した。 (この女、いったいいつの間にこんな技覚えやがった?) バッティングセンターの帰りにガールハントする予定を変えなければならなくなり、あたるは溜息をついた。 バッティングセンター 受付フロアー 午前中にもかかわらず、金属バットにボールが当たる音が響き渡っている。あたるは受付で何か手続きのようなものをしている。 その手続きを終えたのか、ラムのいるところに戻ってきた。 「なにしてたっちゃ?」 「ああ、ここは千円で一日中使い放題なんだよ。一回ごとに二百円払ってたら、すぐにカラになるからな。  本格的な練習がしたいやつにとってはこっちの方が楽なわけ」 「ふーん・・・」 なかに入ると以外にも中に人はあまりいなかった。 「なんだ、少ねえじゃねえか」 あたるは上着を脱いで、早速バッティングを始めた。入った所は140q出る所だ。 「そんなに早いところで大丈夫なのけ?」 「一応俺は三番なんでね。これぐらい打てないと駄目なんだよ」 あたるは持ってきたマイバッドで軽く素振りをすると、ボール発射のスイッチを入れた。 一球目が飛んでくる。 「おお、はえ〜」 あたるは驚きながらもバッドはフォームを崩さずに振った。良い当たりではあるが、ホームランではない。良くてツーベースヒットだ。 「結構早いな・・・」 「でも、いっつも140qは投げてるっちゃ」 「あのな〜、140q投げれても打てるとは限らないわけ」 二球目も飛んでくる。今度もただの強い当たりである。 「う〜ん、結構ホームランってのは難しいモンだなぁ〜」 全球打ちはしたが、ホームランにはほど遠い者ばかりだ。そしてバッターボックスから外にでた。 「なんだ、お前本当に友高の三番かぁ〜?」 ふざけた声であたるに言ったのはコースケであった。現在、四番争いをレイとしている。 「あれ、コースケ?なにやってんだ、お前?」 「みてわからんのか?」 「わからん。何やってんだ?」 「ふつうバッティングセンターに来たら、練習しかねえだろ?」 「だって、おまえバット持ってきてねえじゃねえか・・・」 コースケは前後上下見渡しても手ぶらだ。ポケットに財布があるぐらいであろう。 「!」 どうやら事態を把握したらしい。 「まあ、いいや。ここにあるやつを使えば・・・」(コースケ) 「いいのか?自分のバッドじゃなかったら使いにくかろう?俺の貸してやろうか?」 あたるはバッドを差し出した。しかしコースケは拒否する。 「お前のは黒川さんから貰った大事なバッドだろ?俺もみたいなのが使ったら黒川さんは成仏出来ない・・・」 「黒川さんは死んでねえよ」 笑いながらも少し怒りを感じるあたるだった。 で、その帰り まだ日も落ちず、明るいウチにあたる達は引き上げた。本当はもう少し練習するつもりであったが、コースケがよるところがあると いって、無理矢理2人を引きずり出した。 「どこだよ、行くところって・・・」 住宅街であたるは先をすたすた走るコースケを早歩きで追っている。 「いいから、早く来い」 たどり着いたところは東友引駅だった。あたるとラムは訳のわからぬウチに切符を買わされ、電車に乗り武蔵友引駅にたどり着いた。 「どこじゃ、ここは!?」 高校生にもなって隣町に来たこともないあたるがついに叫んだ。 「ええい、吠えるな」 「だから何処行くんだ!」 「ここだ」 コースケは目の前の病院を指さした。結構大型の病院で大学病院のようだ。 「病院?なんでこんな所に?」(あたる) 「まあいいからついてこい」 コースケは再び早歩きで中に入っていった。 「お、おい、まてよ!」 PART3[ルパの背中] 病院内・226号室 「失礼しまーす・・・」 コースケはドアを軽うノックすると、控えめな声で病室に入った。中にいたのは肌が黒くの金髪少年、つまりルパが怒りにも似た目で 窓からあたる達に目を移した。 「なんのようだ?」 声にも怒りがある。 「見てのとおり、見舞いに来ました・・・」 コースケは駅前の花屋で買った花をルパに見せた。しかしルパは目をそらして再び窓をみた。 「あの・・・」 あたるが口を開いたが、ルパは窓を見たままだ。 「なんで病院に・・・。たしかもう退院したはずじゃ・・・」 「・・・」 ルパはこたえない。変わりにコースケがひそひそ話であたるに話した。 「昨日、坂で車いすが壊れて、滑り落ちたときに腕を骨折したそうだ」 あたるの顔に驚きの表情が浮き始める。 「な、何で教えてくれなかったんですか!?」 しかしルパは沈黙を保ったままだ。ただじっと窓の外を見ている。 「黒川さん!!」 あたるの叫びにルパはあたるの顔に首ごと目線を移した。 「うるさい!お前に教える必要が何処にある!?」 あたるはビクッと後ろに後ずさりした。コースケが後ろでまわりに聞こえるか聞こえない声で言った。 「黒川さん・・・」 ルパはさらに叫び続ける。 「大体、もうすぐ試合が始まるというのになぜここににいる!?練習はどうした!?練習をサボって俺のこの無様な姿を笑いに来たのか!!」 あたるは少しムカッと来た。握り拳を作ったが、殴ることはなかった。 「今日は・・・、休みです・・・」 「どーせお前らが甲子園に行くなんて事はとうてい無理なんだよ!去年、せっかく俺がベスト4に連れて行ってやったのに、なんだあの無様な負け方は!?  何のために今まで、投球練習につきあわせてやったと思っているんだ!?」 ルパは交通事故に遭う前、夜遅くまで続く練習の後、向かいのあたるの家であたるの投球フォームを確認したり、変化球の投げ方を教えたりしていた。 あたるはもう小さくしか答えることが出来なかった。 「す、すいません・・・」  「すいませんですむことか?」 ルパはしばらく間をおいてから、落ち着いた口調で言った。 「もう良い。お前を見ていると治る腕も治らん。早く出ていけっ」 あたるは胸にズキッと来た。少し目に涙を光らせながら、無言でドアノブに手をかけた。 「おれは黒川さんと話すことがあるからお前達は先に返ってくれ・・・」 コースケが言った。 「失礼しました・・・」 ラムはルパの事を身ながらあたるを気遣った。ラムがドアを閉め、コースケとルパの2人だけになるとルパは外を見た。そしてコースケが口を開いた。 「どうしてあんなこと言ったんです?」 外にはもう蝉の声が聞こえている。もうすぐ夏という雰囲気にはばっちりだった。 「・・・あいつは今まで俺が付いていた。ガキの頃から俺がラムやお前の面倒を見ていたよな?とくにあたるは俺に近づこうとして俺の背中ばかり見ていた  からな。面倒くさがり屋の性格が仇になっていつもやり遂げることは出来なかったがな・・・。だが、今回は本気で、しかも俺に近い状態まで上り詰め  てきていたんだ。俺の交通事故がなければ、俺の全てを受け継ぎ、次の試合には俺の代わりをつとめてもいい結果が出せただろう・・・・。それが、手が  届く寸前で足下から崩れ去っていった・・・。そしてあいつは俺のいない野球部での存在意義を無くし、今でもそう思っているはずだ。だから、俺から  離れなければならん。俺を嫌わないとあいつはどんどん駄目になる・・・」 「でも、あいつは黒川さんを嫌いにはなれないはずだ。尊敬する人物であり、あいつの心の中ではライバルとも思っていたかもしれない。そう簡単には嫌いに  なれませんよ。ただ、余計に悲しくなるだけだ」 「そうなればそれだけの男だったって事だ。あいつはいつまでも人の背中をみてちゃいけないタイプなんだ・・・」 ルパは窓下で賢明に涙を耐えているあたるの姿を見た。斜め後ろからラムが気遣っている。 PART4[やる気あんのか?] またしても球場から歓声が上がった。今日のこの試合での大歓声は三回目だ。一回目は三者凡退しかも全て三球三振し、二回目は友高の相手チームが 犠牲フライで一点というところで竜之介が外野からホームまでをノーバウンドで走者を刺し、三回目はコースケが場外ホームランを放った。 一回戦、二回戦ならここまで歓声は上がらなかっただろう。だが、これは準々決勝のことである。スコアボードには5対1。相手は昨年、準々決勝で 互角の試合をした大垣学院である。 『さあ、大変なことになりました。今年の東東京地区準々決勝、昨年と同じく友高対大垣の組み合わせです!共に昨年に続き、一刻商の対抗馬!  しかし、スコアボードをご覧下さい!5対1です!昨年はあれほど接戦を演じた両校が今度は友高が四点差でリードです!おっと、七回の裏、  五番・鬼木を内野ゴロに討ち取りました。長い友高の攻撃はやっと終了します。八回の表、大垣の攻撃は・・・』 マウンドの上にはあたる、キャッチャーはコースケ。この2人はすでに東東京の有名人である。 あたるは帽子を取って汗を拭き、コースケのサインを見た。しかしあたるは驚いた。サインはど真ん中にストレート。しかも相手は四番である。 さらに驚くべき事は、この相手に三球連続、ど真ん中ストレートなのである。 あたるは目でコースケに話しかけた。 (いい加減にしろよ、四球連続でそううまくいくか!いい加減場所変えろ!) 先ほど、三球目ではホームランになりかねない大ファールを打たれたのだ。コースケも返す。 (いいから、投げろ!時間が勿体ない!) (野球に時間制限なんかあるか!) あたるはつっこみを入れながら、渋々投球モーションに入った。だが、あたるの予想に反して相手は空振り。どうやらカーブと読んでいたらしい。 味方スタンドから歓声が上がる。 あたるはコースケが投げたボールをわざわざ音を立てて取った。そして ウゥゥゥゥゥ・・・ 『試合終了!友高5対1で準決勝に駒を進めました!』 あたるは相手チームの何人かと握手するとベンチに戻るコースケに歩み寄り、後ろからばしっと頭を殴った。 「何すんだよ?」 「こっちの台詞だボケ!ど真ん中ばっかり投げさせやがって・・・」 「お前のストーレートはどんなもんかなってな」 「二、三球受ければわかるだろうが!」 「お前、今日全力投球したか?」 「えっ・・・」 「えっじゃねえよ。何年お前の球受けてるとおもってんだ?」 あたるは知らんぷりをするかのように目線をそらした。 「なんとも余裕ですな。うらやましい、うらやましい・・・」 しかし今度はあたるはコースケの胸ぐらをつかんだ。そして笑っているような、怒っているような顔で言う。 「お前も、今日何球見逃してんだよ。しかもど真ん中の所も見逃しやがって。やる気あんのか?」 「ええい、やかましい!お互い様だ!」 コースケも突き返す。そのうち2人は観客が未だ多く残る球場で乱闘を始めた。しかし、審判に見つかる前に、メガネ、パーマがそれを止めた。 「ええい、どけ、メガネ!」 「何やってんのか、わからんのか!?こんなとこで乱闘するな!出場禁止になったらどうするつもりだ!」(メガネ) 「そうだ!いい成績残したからって舞い上がるなよ!」(パーマ) 2人は出場禁止の言葉で大人しくなった。 「ったく、こんなこんなことしか俺たちの出番はだせんのか、作者は!」(メガネ) メガネはがに股で去っていく。 「全く、全く」(パーマ) コースケ宅 「ただいま〜」 コースケがドアを開けて返ってきた。すると玄関前の電話で母親が反応した。 「あ、ちょっと待って、今代わるから。コースケ、電話!」 「誰から?」 「留羽くんから」 「留羽君?ああ、黒川さんね。はいはい・・・」 脱いだ靴靴を放り投げると母から受話器を受け取った。 「もしもし・・・」 『どうだ?あたるに何か変わった様子は合ったか?試合を見てると何も変わった様子は無いみたいだが・・・』 「ああ、別に練習もその様子もいつも通りですけど・・・。ただ・・・」 『ただ?』 「家ではやはり元気はないようです。いつもは試合後に俺とラムちゃんと面堂とであたるの家に集まって試合の反省会をするんですけど、  今日はあたる、それを断って面堂ん家でやってくれって・・・」 『そうか・・・。やっぱり悪いことしたな・・・試合中のあいつの球はどうだ?』 「上々です。あいつのストレートはあなたより速いですよ。コントロールは凄まじいですけど・・・」 『そう言えば、今日何でストレートばっかり投げさせたんだ?』 「ああ、あいつ黒川さんの事でイライラしてそうでしたから、力一杯投げさせたんです」 『そうか・・・。じゃ、俺は今から検査があるんでな。話はここまでだ』 「うぃーす」 そういって電話をおいた。少しその電話を見つめた後、面堂の家に向かうべく、自分の部屋に着替えに行った。   面堂家 正門 コースケとラムは門の大きさに呆然としていた。 「相変わらず、でかい家だな〜」 「だっちゃね〜」 すると門が開いて上の小さなスピーカーみたいなのもが面堂の声を出した。 「初めて来たわけではあるまい。さっさと入れ」 門がガチャと音を立てたかと思うと、門がぎ〜っと音を出して開いた。玄関に入ると家のメイドらしき女性に誘われるままに面堂の自室に案内された。 部屋を空けると中には誰もいない。 「あれ?面堂?」 「ここだ!」 部屋から見える庭にバッドを持った面堂がいた。タオルを首にかけて、結構汗をかいている。 「よ〜、相変わらず、張り切っとるの〜。そ〜いや、昨日の試合で二打席連続ホームランだってな」 「たわけ。お前も今日の試合で場外ホームラン打ったろ?パワーだけなら、俺以上だな」 「パワーだけってどーゆー意味じゃ?」 「そういう意味だよ。そう言えば何であいつ来ないんだ?」 「あいつ?」 「諸星だよ」 「ああ、ちょっとな・・・。今は触れん方がいい。下手に触れたら木槌で殴り殺されるかねん・・・」 「冗談に聞こえんぞ」 面堂はタオルで汗を拭きながら部屋に入った。 「で、今日の試合、ストレートばっかり投げたのはなんでだ?」(面堂) 面堂は冷蔵庫からラムとコースケ、そして自分の分のジュース缶を取り出した。 「ストレス解消だよ。ちょっといろいろな事があってな」(コースケ) 「無謀な事するな〜。仮にも相手はあの大垣だろーが」 「自信だよ・・・」 ふたを開けた缶を一口飲むと、缶を両手で握りしめながらコースケは呟いた。 「は?」 「あいつならストレートだけでも勝てそうな気がしたんだよ。たとえ、どんな凄いバッターでも討ち取れそうな気がする。むろんお前もな・・・」 「おまえ、俺の昨日の試合、見てないのか?」 「見たよ。お前んとこの相手だったピッチャーがどんなに凄いかも知ってる。それを踏まえた上でいっとるんだ」 「大した自信だな」 面堂あきれ顔で言う。しかしコースケは真面目だ。 「もしかしたら、今年は甲子園に・・・、いや、全国制覇だってあり得るかもしれない・・・」 コースケの台詞にラムはぴくりと反応した。 「まあ、夢は大きい方がいいからな」(面堂) 「なんだ、その意味ありげな台詞は?」(コースケ) 「今年も来年も準優勝ってことだよ。決勝で俺たちに負けてな・・・」 「その台詞、お前にそっくりそのまま返すぜ」 「遠慮しておこう」 「まあ、そう言わずに受け取れ」 そのうち2人は乱闘を始めた。ラムはそれをあきれ顔でしばらく眺めると面堂邸を後にし、家へ帰った。 「ただいま〜、だっちゃ」 居間に行くと父が新聞を読みながらテレビを見ている。ラムは少し奇妙な光景に思えた。 「おお、ラム、帰ってきたか」 一言ラムに言うと父は再び新聞に目を向けた。 「とうちゃん・・・」 「ん?」 「今年、もしかしたら・・・」 「なんや?」 ラムの父は新聞を折り曲げて、体ごと方向ラムに向けた。 「いや・・・、何でもないっちゃ!」 重苦しい空気を振り払いように明るい笑顔を見せてラムは自室に向かった。父は少し変な気分になったが、あまり気にもとめず、再び新聞に目を向けた。 ラムの部屋 (もしかしたら・・・、今年も甲子園に行けないなんてとうちゃんにいえないっちゃ) ベッドの上でたいそう座りをしながら、額を膝にくっつけていた。 PART5「東東京決勝戦前編」 『さあ、いよいよやってきました!東東京地区決勝戦!!先ほどすでに西東京代表に豪太刀学園二年ぶりに甲子園出場を決めました!  次に決まる東東京代表は大半が二年生の友引高校か!?それとも春の選抜優勝校の一刻商か!?その運命のプレーボールがかかりました!』 ウゥゥゥゥ・・・ サイレンと共に両校の応援団が楽器やらメガホンやらで騒いでいた。友高は先攻である。 一番は竜之介で、バッターボックスに立つと一刻商のエース、五代の登場に驚いた。 (あのやろ〜、三年だったのか) 早い話が、ルパと同い年だと思っていたわけだ。 竜之介がそう考えているウチに五代のストレートが飛んできた。とっさにバッドを振ってしまい、ボールはファーストに転がって、アウト。 ベンチに戻ると早速文句が飛んでくる。 「なにやってんだ?ボール球に手ぇだしやがって」(あたる) 「あんなの、ふつう振らねえよ」(コースケ) 「うるせい!!」 ベンチに竜之介の声が響き渡る。 『二番、ショート、因幡君』 『二番、因幡。友高唯一の一年生!その足には監督からも定評がありますが、当てなければ意味がありません。三振!』 『三番、ピッチャー諸星君』 『打率ならスーパーバッター白井に並ぶピッチャーの諸星!しかし三振!』 あたるはベンチに帰りながら、出迎える白井に言った。 「お前いつからスーパーバッターって言われるようになったんだよ?」 「準々決勝か準決勝ぐらいかな?あのときホームラン打ちまくったからな」 そう、記述しては居ないが、コースケは大会中七本のホームランを打っているのだ。しかも三本が場外に消え、二本は満塁ホームラン、 打率も6割をこえているのだ。あたるは大会NO1ピッチャーとしてすでに名は広まり、バッターとしても注目されてはいるが、コースケの人気と 長打力の無さに打者としてはあまり有名ではない。 『一回の裏、一刻商業の攻撃は一番、ショート、大見くん』 「いくで、大会ナンバーワン守備力を誇るウチ俺らの見せ所や。気合い入れて行けや!」 親父が守備につこうとするナイン達に叫んだ。ナイン達は一人づつ、あたるの尻をグラブで軽く叩いてから守備位置に向かった。 「遠慮せずにバーンと行け!」(竜之介) 「打たれたら死んでも取ってやるからよ」(パーマ) 「あの・・・、がんばってください・・・」(因幡) 「ホームラン打たれたら殺す!」(メガネ) ピッチャーのあたるに声をかけるナインだが、カクガリはコースケに声をかけた。 「あいつの女房役はやっぱりお前しかいないからな。しっかりリードしてやれ!」 コースケはおうと軽く返事をした。 外野席 そこに面堂が座っている。むろん、試合の観戦である。しかし応援ではない。甲子園に行ったときのための対抗策を練るため、いわば偵察である。 右横には豪太刀のエース・水之小路飛麿が同じく観戦をしているが、面堂と違って興味はないため、ホットドッグをむさぼり食っている。 「せっかくの日曜日に何で偵察に来るわけ?どうせ、甲子園の初戦ではあたらないんだから、初戦の時に偵察すればいいのに・・・。大体・・・」 飛麿は空を見上げながら文句を並び立てる。面堂はそれをひじうちで沈めた。飛麿はそのまま倒れ込んだ。 「ええい、騒ぐな!」 「しかし、お前が注意するピッチャーか?甲子園にはあの程度のピッチャーはいるぞ」 左隣に温泉マークが座っていた。少し面堂は驚いたが、すぐに落ち着きを取り戻した。 「ええ、あいつの全力投球ははかりしれません」 「どういう事だ?」 温泉がゆっくりと面堂に視線を移す。 「中学の時、あいつにバッティング投手をやらせたことがあるんです・・・」 二年前 六輝中学校グラウンド キーン・・・ 学校中に響き渡る小気味よい音に、何人かの生徒が耳を傾けていた。 「ええい!もっと速いボールを投げられんのか!」 面堂がバッティング投手をやらせているあたるにバッドを向ける。しかし、あたるもグラブを向けて叫ぶ。 「何故、俺にバッティング投手やらすんじゃ!」 「お前しか居ないだろうが!!」 たしかに六輝中は飛麿とあたる以外まともな投手はおらず、これが毎年問題となる。 「やかましい!俺は帰るぞ!」 あたるはグラブを地面にたたきつけ、その場を去ろうとした。 「ええい、お前のような無能モノにはもう頼まん!一年生の方が未だマシだ!」 これにはあたるもかちんと来た。素早く後戻りをするとグラブをはめる。 「いいか!これでもしおれを討ち取れなかったら俺は帰るぞ!最後の一球だ!」 「安心しろ、お前を帰すつもりはない」 面堂も構える。あたるは振りかぶり、左足を踏み込むと右手を円を描くようになげた。あたるにはそれがスローにさえ感じた。 (なんだ、この感覚は・・・) あたるは訳がわからなかった。 まわりの音が聞こえなくなり、まるで空き地で面堂と2人だけの勝負をしているのかと思うぐらい、静かだった。 すると急に意識が現実に戻り、手からボールが放れた。ボールは一直線にキャッチャーミットに飛んでいく。面堂はそれを思い切り振った。 ホームランねらいだ。 スパーン!! 面堂は振った感触はなかった。 「なっ・・・」(面堂) 「へっ・・・?」(あたる) ボールはキャッチャーミットの中に収まっている。投げた本人も空振りをしたバッターも驚きを隠せない。 再び球場 「お前が空振りを?」(温泉) 「ええ、初めての体験でした。僕はどんなに速い球でもあてる自信はあったんです。たとえ、飛麿相手でも、打てていたんです」 「だが、目が慣れてなかったからじゃないのか?その投手はやる気のないボールを投げていたんだから」 「それも理由の一つなんですが、それでもあいつに飛麿以上のモノを感じました・・・」 会話中に歓声が上がり、驚きで面堂の目は丸くなった。あたるが三振をとり、チェンジになったのである。 「ええで、その調子や、あたる。次の回は、四番の三鷹と、五番の五代が待っとるからな。次が正念場や。気ぃ入れて行けや!」(親父) 「オウ!!」 『二回の表、友引高校の攻撃は四番・キャッチャー白井くん』 コースケの名を呼ぶ場内アナウンスと同時に味方スタンドから歓声が上がる。 「なんだよ!コースケだけ特別ってか?」 あたるがヤキモチにも似た気分で歓声を受けたコースケの背中を見ている。 「へっ、どうせ、ファーストごろ・・・」 カキーン・・・。あたるの言葉は真芯にあたったバッドの音によってかき消された。ナイン達はコースケの打ったボールに釘付けだった。 そして、そのボールはフェンスぎりぎりのところにすっぽりと入っていった。 『・・・ホ、ホームラン・・・。ホームランです!!友高四番!東東京の大砲!!白井コースケ!!初球ホームランです!!  しかも相手はあの五代です!!ヒットはおろか、ボールに当てることさえ困難なあの五代のボールがスタンドへと消えていきました!!』 「ええい!騒ぐな!コースケホームランなんていつものことだろうが!」 あたるはベンチにおいてあるラジオと喜びに満ちあふれる友高ナインに向かって渇を入れる。 「騒ぐなと言う方が無理だろーが!」(パーマ) 「そうだっちゃ!もっと素直に喜ぶっちゃ!」(ラム) 「ホームランだぜ!ホームラン!あの五代からホームランだぜ!」(竜之介) あたるの表情が一変した。 「五代?あれ、五代って去年卒業したじゃなかったの?」 「何言ってるっちゃ。あいつは今三年だっちゃよ。卒業したのは四谷だけだっちゃ!」 この言葉にあたるはほかのナインを吹き飛ばして、ベンチを駆けだした。 そして球場を一周してきたコースケに飛びかかった。 「コースケェ!」 飛んできたあたるをコースケはさっと避け、あたる地面にぶつかった。 「ええい、騒ぐな!俺のホームランなんていつものことだろうが!」(コースケ) 「馬鹿者!五代からのホームランなら話は別だ!」(あたる) 二回の裏 『三振!』 『三振!二者連続三球三振です!!しかも相手は三鷹、五代の怪物バッター!!それを三球三振!!これは凄い!!友高のエース、諸星!!  大会NO1ピッチャーは健在です!!もはや、友高は昨年のそれとは格段の差です!諸星、白井の率いる友高は甲子園初出場、初優勝の栄光も夢ではありません!」 あたるがガッツポーズをして見せた。それに会わせて友高応援団もヒートアップしていく。 「おらぁ!」 調子にあたるは一刻商の六番に声を入れて投げた。 『三球三振!!三者連続三球三振!!これぞ大会NO1投手!!』 そのまま試合は六回の表まで、友高のペースで進んでいった。 三回の表、五番のレイがツーベースヒットを放ち、六番、カクガリは内野フライ。七番メガネが五代の投球ミスから振る逃げ、その際にレイは三塁に移った。 その後、八番パーマがキャッチャーフライでアウトを取られると、九番チビの内野安打で一点を追加した。その後、竜之介が出塁したが、牽制球により、アウト。 三回の裏もあたるの球は好調で、全員内野ゴロでチェンジ。四回の表は内野ゴロ、三振、外野フライで無得点。 その後、五回の裏、再び回ってきた三鷹にスリーベースヒットを打たれ、五代の犠牲フライで一失点した。しかし、五回の表、レイがヒットを放つと、 カクガリのボールを見ない、めちゃくちゃなバッティングが偶然真芯にあたり、場外ホームランとなり、4対1。完全に友高ペースとなった東東京決勝戦、 だが、甲子園が見えてきた六回の裏、事態は急変する。 〜続〜