パラレルうる星小説PART1「高校野球編:第2話叶う夢・叶わぬ夢(後)」 PART6「東東京決勝戦後編」 『ついに六回の表、友高が三点差でリードしています。試合開始から友高のペースで進む決勝戦。しかし一刻商も負ける分けにはいきません。三点差  残り三回で追いつくことも十分可能です!』 球場は灼熱の中、大事が起きることもなく進んでいた。そして、運命の六回の裏がスコアボードで示される。   友高ベンチ 「さあ、この回も無得点で決めてこい!」 親父は手をパンと叩いて気合いを入れる。 「オウ!」 ナインは波に乗る攻撃と平行して守備も良くなっていた。あたるとコースケは早歩きでマウンドに向かう。 『六回の裏、一刻館商業の攻撃は六番、センター大宮くん』 あたるはふうと溜息をつくと、空を見てみた。雲一つ無い青い青い空が広がる。そしてバッターボックスに視線を移す。 しかし、そこに見てはいけないものが見えた。あたるは動きが止まり、ただ、恐怖に似たものを感じた。 『おや?友高の諸星、投げません。一体どうしたんでしょうか?』 「タイムを・・・」 あたるの異変に気付いたのか、コースケは主審にタイムを言うとあたるに歩み寄った。 「どうした、あたる?」 しかしあたるはただ、黙り込んでいる。コースケは首を傾げた。うつむいた顔をのぞき込むが、暗い顔がどんよりしている。 コースケは気になったが、 「まあ、何があったかはしらんが、あともう少しだ」 といって、あたるの肩を軽く叩いた。 「プレイ!」 あたるはやっと振りかぶり、球を投げた。だが、110qに満たないストレートが、それもど真ん中に入ってきた。 一刻商の六番、大宮も意表をつかれたのか、振らなかった。 (どうなってるんだ?)(コースケ) 第二球もまた死んだ球だ。これには大宮も黙っていない。ボールはパーマのグラブをぎりぎり通り抜け、三遊間を抜けた。 『打ったァ!二球目、諸星の球を打ちました!』 一刻商ベンチ 「まさか、本当に効くとは・・・」(三鷹) 「ああ・・・。出来るだけこんな卑怯な手は使いたくなかったんだが、甲子園を狙うにはこの方法しかない・・・」(五代) 2人は声を低くして言う。 友高ベンチ 「どうなってんのや?あいつ、別段つかれとるわけでもないやろ?」(親父) 「何が起きてるっちゃ?」(ラム) この2人にもわけがわからない。知っているのはあたると一刻商のメンバーだけだ。 すると控えの選手があることに気付いた。 「あの打者・・・、なんか前の回よりフォームが変わってません?」 「え・・・」(親父、ラム) 「前の回はあんなに腰を低くしなかったし、バッドも短めに持ってましたよ。それに足をもう少し広げてたような・・・。あれじゃまるで、黒川さんみたいな・・・」 「ルパの?」(親父) この回、なんとか一刻商から無失点に終えたが、アウトは全てホームベースでの事だ。 「どうした、あたる?」 コースケがあたるを心配して声をかける。しかし、それでもあたるは答えない。ただ、沈黙を守っている。 コースケはあたるより早歩きでベンチに戻り、キャッチャーマスクやら器具をはずすと親父の隣に座る。 「白井、あたるはルパとなんかあったんか?」 どきっとした。何故それを親父が知っているのか、コースケには分からない。 「べ、別に何も・・・。ど、どっ、どうしてですか?」 コースケが何かを隠しているのは見え見えだが、親父は問いつめることはなかった。 「この回をみとったんじゃが、相手の打者はみんな同じフォームやった。それもルパのフォームとそっくりやで・・・」 「なっ!」 思わず立ち上がった。それに少し親父は驚いた。 (まさか、あたるのやつ、相手バッターが黒川さんに見えるんじゃ・・・。そんなことありえるか?) そしてうつむくあたるを見る。 (くそ、なんてこった!あいつはいま、黒川さんのことでショックを受けている。相手にあんな事されたらあたるはひとたまりもない!  だが、ここであいつを引くわけには行かない。確かに投手陣は安定しているが、相手は一刻商だ。しかもあたるの代わりだとするとプレッシャーもかかる。  しかし、変えなければ大量失点になりかねない。八方ふさがりか・・・) 一刻商のベンチを見てみると、相手監督がバッティングフォームを細かく指示しているのが見える。 (そもそも何故一刻商はあたるが黒川さんの姿におびえていると知っている? あのとき・・・、黒川さんは一人部屋だったし、  見舞いに行ったのも俺たちだけだ) 「チェンジ!」 どうのこうの考えている内に、九番はヒットを打ったが、七、八、一番が倒れた。 (仕方ない、あたるを信じるしかない・・・) コースケは自らのリードであたるの穴を埋めるしかないと思った。しかし、次の相手は四番三鷹、五番五代。とてもリードだけで勝てる相手ではない。 ゆっくりとマウンドに登るあたるの背中を見た。表情は見えないが、おびえているのは手に取るように分かった。 『さあ、七回の裏、バッターボックスには先ほど三塁打を打った三鷹!』 三鷹もまたルパのポーズだ。あたるの顔に冷や汗が流れる。完全に余裕のない顔だ。 (あたる!) コースケは思わず、心の中であたるの名を叫んだ。あたるが投げたボールはまるで中学生の投げる球だ。三鷹はそのボールの速さに慣れていないためか、 ストライクゾーンでも手は出さない。そしてフルカウントで投げたあたるのボールは三鷹のバッドによって外野の後ろにまで転がっていった。 完璧なピッチャー返しだが、あたるは動かなかった。あたるが取ると思ったショート・因幡と、セカンド・レイはボールを取ることが出来なかった。 さらに不幸なことはセンター竜之介の捕球ミスによって三鷹の三塁打を許してしまったのだ。 『さあ、やってきました!五番・五代!一刻商内ではもっとも器用なバッターであり、長打力のある五代!甲子園でもホームランの記憶があります!』 無情にも五代は余裕を無くしたあたるにとどめの如く、ホームランを打って見せた。フォームはルパのそれではなく、五代そのもののフォームだ。 それでも打たれた。 外野席 「諸星っ!!」 面堂はついに怒りの頂点に達した。ポケットの中のボールを地面にたたきつけた。そのボールは跳ね上がって高く上がる。 「終ちゃん・・・?」 飛麿は羅刹のような形相の面堂に恐れを感じた。面堂の握るその拳は激しく揺れ、血管さえ見えるようだ。 「帰るぞ、トンちゃん。あいつはもう甲子園に来ない!」 「でも、一刻商が来るんだったら、見ておいてもいいんじゃないの?」 「一刻商のデータは揃っている!見る必要もない!」 面堂は自分でも気付かない内に友高を応援していた。しかし外野席からではあたるはやる気のないプレーをしている様にしか見えない。 「まて、面堂・・・」 温泉が球場を後にしようとする面堂を止めた。 「何でしょうか?」 怒りが治まらないのか、少し強目の声だ。 「いま、あいつは試練を受けているようなもんだ」(温泉) 「は?」(面堂、飛麿) 「気付かなかったのか?一刻商のバッターは五代以外全て、友高の前キャプテン・黒川のフォームだ」 「え・・・。しかし何故それが試練なんですか?」(面堂) 「あいつと黒川の間になにかあったんだよ。お前達の話によると諸星は黒川を尊敬していた。しかし、恐らく黒川は例の事故で自分を尊敬してくれている  諸星が潰れるのを恐れたんだ。諸星は黒川以上の素質を持つピッチャーだからな・・・。そこで諸星が潰れる前に自分から引き離なれる様になにかとがめたんだろう。  だが、諸星はそんなことでルパから引き離れなかった。逆にショックだけが残ったんだ。そして一刻商はその情報をキャッチしていたんだ。一刻商はビデオか  なんかで黒川のフォームを完璧に模写した。そして、万が一の時のためにそのフォームで練習をしていたんだろう。五回までいつものような打撃力が出なかったのは  黒川のフォームに力を入れすぎていたからなんだ」 「でも一刻商はどうやってその情報を?」(飛麿) 「いるだろうが。一人だけ、のぞきのプロが・・・」(温泉) 「あ、四谷!」(面堂) 「そうだ。四谷は黒川が諸星をとがめる所を見ていたんだ」(温泉) 「しかし情報源がのぞきっていうのは少し非常識な気がせんか?」(飛麿) 「差詰め、これしか思いつかなかったんだろ、作者が」(面堂) 「相変わらずの無能ものだ」(飛麿) 七回の裏、一刻商は四点を追加し、ついに逆転。ペースも完全に一刻商に傾いている。 ベンチに戻るナインはあたるにドンマイの声をかける。だが、メガネはあたるをとがめ、殴りかかろうとさえした。幸い、パーマがそれを止めたが、 メガネの言うことがナインの気持ちに一番近かった。 ベンチに戻ると親父が立ち上がり、あたるの前に仁王立ちで立った。 バキッ! ベンチ内に強烈な音が響き渡った。親父があたるを殴ったのだ。 「とうちゃんっ!!」(ラム) 幸い、試合関係者にはその様子は見られておらず、没収試合と言うことにはならなかった。床に倒れ込んだあたるに親父が声を低くして言う。 「お前、何様のつもりじゃ?黙って見てりゃ、ふざけたボール投げくさって・・・。ルパとの間に何があったかはしらんが、野球は個人競技やない。  お前一人のために何十人っておるナインの夢をぶちこわすことになるんやで。やる気がないんなら、今すぐ野球部を辞めい!」 あたるは抑えた頬を少し、右手で覆って、親父を見上げた後、下を向いて静かに口を開いた。 「分かりました・・・。俺を代えてください・・・。試合が終わったら俺・・・、野球部辞めます・・・」 コースケはあたるから心に矢を打たれた気持ちになった。ナインにも心に大きい弓矢が刺さり、目から生気が消えた。 「あたる!ふざけるなァ!!」(コースケ) 唯一生気を失わなかったコースケはあたるの胸ぐらを両手で掴みあげ、強く揺さぶった。コースケの心にも弓が刺さっている。しかし、 ここで生気を失えば、誰があたるを説得出来るのか、コースケはそう思った。 「コースケ・・・、仕方ないさ・・・。俺はもうこの野球部に籍を置く権利を無くしたんだ・・・」 しかし容赦なくあたるの弓は跳び続ける。親父は無言であたるを見下ろしている。あたるはその視線を気にもしなかった。 「しかし!」 コースケの言葉をラムが遮った。ゆっくりと立ち上がるあたるの前にラムは立った。 「なんで・・・、キャプテンを恐れるっちゃ?」 ラムは小さく訪ねた。周りが少し静かになる。スコアブックが強く握られ、紙がくしゃくしゃになった。 「なんで、キャプテンの言葉を背負い続けるっちゃ!?乗り越えようとしないっちゃ!?」 「無理だ・・・。あの人の存在は俺の心の中で絶対なんだ・・・。その絶対の存在から背負わされた重荷を捨てられないよ・・・」 すると持っていたスコアブックをその場で手放し、床に落ちるのと同時に、あたるの頬はラムの平手打ちにより赤くなった。 ラムの目には涙が浮かんでいる。頬を抑えたまま、あたるはラムを見上げた。涙にゆがんだその瞳を見た。 「・・・。ラム・・・・、礼を言うぜ・・・」(あたる) 少しよろけたあたるはベンチに手を付いて、そのまま座り込んだ。ナインはあたるが改心したと思った。心にわずかな晴れが差し込んできた。 「一発でも殴られないと、野球部を裏切った俺への恨みがはれんだろう?」 ラムの背中、いや、ナインの背中に重くて冷たい何かがのしかかった。それは、言葉では言い表せない悲しみだった。 ラムの瞳でさえ、今のあたるの心を解放することは出来なくなった。あたるのその一撃の言葉が、ナインに生気を失わせた上に、 絶望感すら与えていた。 「なんか、どうでもよくなってきた・・・」 コースケの口からあきらめの言葉が出てきた。しかしナインもそれをとがめない。 「あたるも・・・、おれも・・・、友高も・・・そして甲子園も・・・。全てが嫌になってきた・・・」 コースケはベンチから外に出て、空を見上げた。空はいつもと変わらず、地上を見下ろし、雲は空の前を横切っていく。 木々は、風に揺れて小声でなにかをつぶやき、太陽は常にその光りを敵味方なく、打ち付ける。 PART7[夏から秋へ] そして、あたる達の二年目の夏は終わった。あたる達の甲子園をかけた試合は、あたるの退部宣言によって、そのまま友高は負けた。 その後、どうなったかというとあたるは宣言通り野球部を辞め、コースケも退部はしていないが、練習に顔を出さなくなった。 あたるがあそこまで打ちのめされた原因はルパだということは、知られることはなかった。 甲子園では豪太刀のエース・飛麿が二試合連続ノーヒットノーランを成し遂げ、面堂は二打席連続ホームランという記録を残して、 雨による中止もなく、あっさりと閉会式を迎えた。その優勝旗は初優勝という栄光と共に豪太刀の手に握られていた。 そして、全国では二学期という言葉が小中高校生の間でささやかれはじめ、また、面堂と飛麿のいる豪太刀学園は、この2大スターにより スポーツ新聞等のマスコミを筆頭に第一面の的となっていた。しかし、豪太刀の面堂はあたるが野球部が辞めたこと怒りを覚え、 マスコミの質問にも一言二言で答えていた。あたるは野球部のグラウンドにも姿を見せず、コースケも裏門から帰る様になっていた。 甲子園へ行けば、豪太刀二大スターのライバルになれるといわれた友高二大スターは、野球部にとって裏切り者として、メガネ達や竜之介、 そしてラムとも口を利かなくなった。 季節は夏から秋へと移り変わろうとしていた・・・。