―若社長VSヒラ社員5― あたる「なんだ?俺が何かしたか?」 終太郎「僕の宝物が水浸しになった。レオパルトなんか戦車の電装品が全部スクラップになった。 …あれは今でも思い出すと腹が立つ。」 薄目で遠くを見て、思い出にひたる面堂。 ラム「ダーリンなんか悪さしたちゃ?」 あたる「なんだよ?俺ほんとになんかしたか?」 終太郎「すっかりさっぱり記憶の底に穴掘って隠してるらしいな、思い出させてやろうか?諸星…」 立ち上がり、おだやかな笑みを浮かべながら、どこからか木槌を取り出す面堂。 こんなときの面堂の笑いからは目がはずせない。背筋に冷や汗が流れる。 あたる「わ〜!!よせよせよせ〜!!そんな非科学的な方法を使わんでも、ちゃんと話せ!!面堂のアホ〜」 しのぶ「面堂君、話してみて、私も聞きたいわ」しのぶがあわてて、面堂をいさめてくれた。 ラム「ウチも聞きたいっちゃ」 木槌を置き、すわり直す面堂。逃げ腰になっていた俺もソファにすわり直す。 終太郎「…海王星との共同開発で成功した物の中では、ある特殊な合金とかがあるんです。」 あたる「合金?」 終太郎「いくつかの金属を混ぜ合わせて新しい金属を造ったんだ。海王星と地球の金属を合わせて。 …超合金面堂スペシャルだよ。あの僕の金庫に使ってた…今でも使っているけど…」 あたる「…思い出した!あの巨大金庫。地平線の果てまで見えないような巨大金庫! 俺とお前が閉じ込められたあの金庫!」 終太郎「思い出したか、お前はトラップをことごとく引き当てて、穴に落ちるわ、 手榴弾に吹っ飛ばされるわ、挙句の果てに水に流され、とばっちりで僕は土左衛門に (どざえもん・※)なるとこだった。全部お前のせいだ。」 話しているうちに怒りがこみ上げてきたのか、面堂の額には怒りマークが浮き出ている。 しのぶ「そんなことがあったの?」 あたる「お前が最初呼び出したんだろうが?了子ちゃんに会えるか行ってみたら、 お前の自慢話につき合わされて、死にそうになったのはお前のせいだぞ。」 終太郎「いいや、違うね。お前は僕の言うことを信用せず、2回も脱出のチャンスを棒に振った。 1度目はやめろというのに、金庫のドアを蹴飛ばしてドアを閉めるキーワードを叫んだ。 2度目は脱出口は,ここじゃないと言ったのに、水門を開けてさらに水を呼び込んだ。」 そうだった…まぁ確かに自分が金庫を閉めるキーワードを叫んでしまったのが、全ての始まりではあるのだが 「夕日のバカヤロ〜!!」などと昔の青春ドラマのような恥ずかしい言葉を キーワードにしている方も悪いと思ってしまう。 あの時、金庫から排水溝の出口付近まで大量の水で流されてきたが、外からの侵入を防ぐために 排水溝を覆っていた網目格子に使われていた超合金面堂スペシャルという金属は、 俺の木槌百連発や面堂の一撃必殺の刀では破ることは出来なくて、 結局、広大な面堂家では発見されるまで時間がかかり、助け出されたのは3日後だったのだ。(※) しのぶ「壮絶な話ね。面堂君でも金庫を刀で斬って逃げられなかったの?」 終太郎「それだけ超合金面堂スペシャルの完成度は、高かったんです。 …核兵器にも耐えられる金属ですから。 海王星からの要請もあり、使用されているのは面堂家のみで、化学式および金属物質は公開されません。」 ラム「やっぱり悪用される可能性があるからだっちゃ?」 終太郎「残念ながら…核兵器に耐える戦闘機や戦車が開発されれば世界の軍事バランスが崩れるだけでなく、 テロ活動家にも影響を及ぼすでしょう」 あたる「いるんだよな〜そ〜いうことにすぐ使おうとするせこい奴が〜。」 終太郎「まぁな、でも核兵器を使われてもお前なら平気だ。」 若社長の言葉にしのぶやラムが笑う。 あたる「俺が平気なら面堂だって平気だ。俺だけじゃないぞ、ってんだ。フン。」 ―6― しのぶ「でも面堂君、海王星からシャーベットの輸入って簡単っていうか、 それくらい地球でいくらでも生産できるんじゃない?特別おいしいの?」 ラム「シャーベットって終太郎、あの鳥のシャーベットだっちゃ?」 あたる「なんだ?」 ラム「口ばし部分がシャーベットなんだけど暑いところにいると 怒ってシャーベット部分が爆弾に変わるっちゃ。」 あたる「お前…そんな危険物、輸入するつもりか?」 しのぶ「それに海王星の金利格差はどうするの?円で支払いなんか出来るの?正式交流ダメなんでしょ?」 終太郎「今回の輸入物件は小手調べ的で、原産地宣伝はしません。 それにお金での支払いじゃないんです。物による交換なんです。 いつになるかはわかりませんが、将来的なシュミレーションとしての他惑星文明との輸入販売なんです。 したがって今回採算などは考えていません。 シャーベットが爆弾に変質するという問題点も 鳥を輸入するのではなくシャーベットを直接次元トンネルで輸入する方法を考えています。 鳥を暑い地球に連れてくるから口ばしが爆弾に変質するのですから、それならば鳥本体を輸入しなくても シャーベット部分のみ輸入すればいいはずです。 面堂財閥からの販売というなら、原産地名を書かなくても販売名のみ明記しておけばいいのですから。」 あたる「そんなもんかな〜」 ラム「物による交換ってなんだっちゃ?」 終太郎「実は輸入だけではなく、輸出も考えているんです。地球面堂家特産品、電気野菜を。」 ラム「電気野菜を輸出するっちゃ!?」 あたる「海王星にか?」 終太郎「以前ラムさんは電気野菜おいしかったって、みんなに話してくれたことありましたよね。 だから考えとしては地球からは電気野菜を鬼星へ輸出。 その電気野菜の売上代金を地球に送るのではなく 鬼星は海王星シャーベット購入と次元トンネル使用料にあてて海王星から代金として商品を地球に送る。」 あたる「なるほど…地球と海王星と鬼星のお金って価値が違うから、 商品の内容と量の調整で同じ価値としてそれぞれが利益を得るって事か…」 終太郎「そうだ。それに海王星の方からはシャーベットだけ輸入するのではない。 それだけなら夏場だけしか売れないからな。」 あたる「他に何を輸入するんだ?」 終太郎「氷だよ。」 しのぶ「氷?そんなありふれたものを何故?」 あたる「かき氷屋でも始めるのか?」 面堂がキツイ目線を送る。ヤバイ。刀がどこからか出てくる前にあやまろう。 あたる「冗〜談だよ、終ちゃ〜ん♪」 謝った事で面堂がしのぶに…というか、みんなにわかるように説明に戻る。 終太郎「氷というのは意外と需要があるんです。夏でも冬でもオールシーズン需要がね。 それに氷を作る施設や電気代とか考えれば海王星では、ただ同然のものを送るだけですから。 自然に溶ければ水になるし、水なら水で需要がある。 僕の金庫のトラップに使われていた大量の水も実は海王星の氷が溶けた水なんです。」 あたる「わかった。その商品に関する交渉を、俺がやればいいんだな。」 終太郎「そのとおり、コースケと一緒にあたってくれ、 商品を入れる袋とかのデザイン関係はメガネとパーマに、 ラムさんは鬼星に話を通して、しのぶさんは各部署に通達を。」 しのぶ「わかったわ」 ラム「わかったっちゃ」 みんな立ち上がりそれぞれの部屋に散っていこうとする。 あたる「今日、夕ご飯食べに行こうぜ。コースケがみんなに声かけてるはずだから」 ラム「わ〜みんなでご飯。楽しいっちゃ!」 しのぶ「私も行くわ」 あたる「面堂は?」 終太郎「…行けたらいく。」 あたる「どーせ行くに決まってるくせに〜♪」 そう言ってみんな約束して出て行った。そのあと部屋を見渡す終太郎。 壁に突き刺さった刀、木槌、折れた観葉植物…。 終太郎「…しまった。この部屋、諸星にも掃除させるんだった…」 つづく。 ※土左衛門(どざえもん)―水でおぼれた人の総称。おぼれた人は顔が土気色になるところから、 名づけられたようです。時代劇等で、よく使われる言葉です。 ※大金庫の話はアニメのみのオリジナルで、原作にはありません。出るのは、あたると面堂2人だけでした。 この2人だけで話が進みますが、すごくおもしろいです。