あれから何時間過ぎただろうか。あたるは夕食を食べてしまい自分の部屋で,漫画を読んでいた。 自分1人だけで,こうしているとこの部屋も広く見える。 実際にはあたるは漫画を読んではいない。面堂とメガネの意見を思い出している。 いつもは使っていない脳をフルに使っているので,頭が破裂しそうだ。 「つまり・・・。」面堂は何かを言おうとしたが, 「面堂,いったいどういう意味だ,これは?」とあたるの言った言葉にさえぎられていえなかった。 「これから言おうと思ってたんだ,いちいち人の言うことをさえぎるな。」 「早く言えよ。」パーマが言った。面堂が書いたこの矢印がそうとう気になるようだ。 「つまりな,いや,比べたほうが分かりやすいか。まずもう一度メガネの見解を整理しよう,僕たちの周りの者たちが,皆おかしくなっている,というものだ。いや,おかしくなるというより,周りのものから見ればおかしいといったところだろうか・・・。 つまり,ぼくたちが違う世界に迷い込んでいるということ。そうだな,メガネ。」 面堂はめがねのほうを見ていった。残りの者はじっとめがねの反応を待った。 「そうだ。俺たちは今,本来の友引町であってそうでないところにいるのだ。 パーマが言った通りまわりのものから見ればここは友引町だ。しかし俺たちが知っているのも友引町だ。2つは名前が同じだが,中身が違うというわけだ。どうしてそうなったかは分からんがな。」 メガネは静かに言った。そして面堂のほうを見返した。ひどく真剣な顔をしている。彼もまた面堂の意見が気になるようだ。 あたるも2人の意見についていった。まだ理解できる範囲だ。 「で,お前はどうだ。この矢印はいったいどういうことだ。」 メガネは図を指差した。 面堂はさっきの紙とペンを取った。そして,またなにやら書き始めた。 今この紙には2つのマルがある。一つは大きいやつの中心に位置し,友引町,そしてあたるたちの名前が書いてある。 そして2つ目のは,1つ目のマルの外側に位置し,矢印は1つ目から線を越えて二つ目の真ん中あたりに位置している。 この図の意味を理解しているのは面堂だけである。そして面堂は,1つ目の2つ目のマルの間,矢印が延びているあたりに小さいマルを5,6こ,そして「友引町」と書いた。 「これで分かってもらえたかな?」面堂は言った。 メガネ以外のものは,うーむと図に目を近づけたが,「わからん」と口をそろえていった。 「うむ,そうか。ま,そうだわな。」 「わかっとったんなら,図だけでなく,最初から説明せんか。」パーマが言った。 「だいたい,この小さなマルは何なんだ。」カクガリが言った。 「分かりやすくしてくれよ。」チビだ。 「うーむ,どこからしようか・・・。まずはこの小さいマルからだ。これは,われわれ以外の者,つまり,友引町の中にいる人々だ。ここにいる僕たち以外を示している。 そこで今僕たちがおかれている状況だ。もしもだ,このマルの者たちのほうが正しかったらどうだ?」面堂は,皆の顔を見て言った。 すこしして,めがねが「なーにを馬鹿なことを言っとんじゃ,おまーわ。」 とあきれたように言い出した。 「考えてもみろよ,もしお前の意見が正しかったら,現にさっきまで俺たちはラムさんを忘れていたから他の友引町の住人はラムさんを知らないだろう。つーことはラムさんのいない世界が正しいことになるではないか。俺たちや,お前の中にいる彼女はどうなるのだ?。外の者たちのほうが正しいだぁー?ばかばかしい。大体なんでお前の中からそんなことが生まれるのだ?お前らしくもない。」 「これはただの仮説だ。」 「そーよそーよ。そんなこと俺でも知ってるよ。しかしそれはただの仮説でもな,俺たちの長年積み上げてきた思いをぶち壊してしまうしかも,今ここにある事実と何の脈絡もないときている。これではただのお話ではないか。」 「なぜそういいきれる?それは,貴様がラムさんを中心に考えているからだろうが。」 「はぁーーー?何をわけの分からんことをいっとんじゃ,貴様は?」 「もっと視野を広く持てと言っとるんだ。分からんのか?この世界は,ラムさんがいなければ,もとどうりの町だろうが。」 「だからいないわけないだろうが。」 「ではなぜ他のものは知らない?そして,さっきまではお前たちも忘れていたのだろうが。」 「!!!!」ドキっとメガネの胸に面堂の言葉が突き刺さった。 「それがこの意見は正しいことであるという確かな証拠だ。お前たちは無理に変な記憶を引っ張り出したんじゃないのか。それがラムという,ありもしない人の存在を能に認識させた。」 これにメガネは反対しようとしたが,それが間違っているという証拠がなかった。気持ちという証拠があるにはあるんだが,どうせ面堂にいっても「気持ちなど当てになるか。そこにあると感じたものが,実際にあるのだと認識させてしまうのだ,人の脳というのは。」といわれるのが関の山だろう。しかし,メガネは,あの意見をどうしても否定したかった。そして「しかしだな・・。」とあたるがもっていた人形のことについて言おうとしたが言ったが,面堂の「なんだっ!!」に返す言葉もなくしてしまった。 あいつはこんなやつだったかな・・・。あたるは思った。 「この矢印の意味はなんだよぉ」チビが言った。 「ああ,これは僕たちが行くべき道だ。」 しばらくの間,静けさが戻ってきた。あたるには面堂の「なんだっ。」の発言が,メガネがこれから言わんとすることを無理やり封じ込めてしまったように見えた。 そんなことには気づかず,メガネは面堂の言ったことについて考えていた。 もしかして・・,いやそんなはずは,といった言葉が彼の頭の中で飛び回り彼を混乱させていった。 そしてめがねは,だんだんと面堂のほうが正しいのではないか,と思うようになってきた。理屈っぽい彼の性格からすれば,返す言葉がなくなった以上それは必然的なものであった。そして,ラムの存在ももとからいないのではと思うようになった。それはメガネだけでなく,パーマ,チビ,角刈りにも同じようになっていった,あたる以外の。 「これで問題は解決した,先に帰らせてもらう。」と面堂は言い,去っていった。 あたるはまだ納得していなかった。だが,メガネたちも面堂の意見に結局は賛成してしまったので,もうここにいる必要もなくなり,あたるも帰ることにした。「じゃ,俺もこのへんで。」とあたるは,最後に言った。それから,あの4人には会っていない。 はっきり言って,あたるは面堂,メガネの意見にも賛成していなかった。 空間が違うとか,最初からいないというのはもってのほかだった。 なんか違う,あんなまどろっこしいものなんかではない。 それと,何か引っかかるものがある。そうだ,めがねの家から出るときだ。 あたるはめがねの家から出るとき,1人の男とぶつかった。 「お,えろうすいませんなぁ」 その男はそのまま立ち去って行った。 「・・・・,もう疲れた。」 あたるは呟いた。朝から色々なことが起きすぎた。もう何も考えたくない・・・。 人は苦痛があるから伸びていけれるというが・・・。 俺も伸びる時期なんだろうか 生半可な苦痛からはたいした物は得られないというが・・・。 俺が得るものはなんだろうか・・・。ただの空振りか・・・。 もういいか・・・。 風呂に入ろう・・・。 あたるは重い体を上げ,階段を下りていった。 風呂から上がったあたるは,自分の部屋にいった。 11時過ぎ,どうせ明日は学校はないので,もっと遅くまで起きていようと思ったが無理だ。 あたるは布団をしこうとして,布団の下に腕を突っ込んで,そのまま持ち上げようとしたが,いつものと同じものかと思うくらいに布団は重く感じた。そのままあたるは,顔を布団にうずめた。「ダーリン。おやすみなさい,だっちゃ。」今では,幻となってしまったその声はあたるの耳に響き渡り涙腺を刺激していった。どこへ行ってしまったんだ,また地球滞在延期かなんかか?そのときだった。 「ダーリン・・・。」 あたるはこの声をはっきり聞いた。正真正銘ラムの声だった。あたるは無意識に窓のほうに行ったが,そこには誰もいなかった。まだいるんだ,ここに。それだけでも知れたら十分だ。さっさと布団を敷いて,すぐに寝ることにした。布団の中に入ったあたるは,少し冷たい布団に寒気を感じながらゆっくり目を閉じた。この夜はあたるの生涯で一番長い夜となった。 あたるは目を覚ました。とそこには信じられない光景が広がっていた。ラムが下を向いて正座して座っているではないか。あたるはすぐに目が覚めた。 「ラム,まったくどこに行っておったのだ。」と言おうとしたが,ラムの第1声に驚いていえなかった。 「ダーリン,何でうちを探そうとするっちゃ。ここがおかしいとか何とか言って, なんで,なんでそんなことをするっちゃ・・・。」 「何をわけの分からんことを。」と言おうとしたが,またラムの声にさえぎられていえなかった。 「分かれようって決めたのに・・。」 ラムは下を向いたままだ。 続く