時は夢のように・・・。  第三話『噂は色々ありますが。』(其の弐) 教室。  教室に戻ってしばらくして、俺は校内放送で呼び出された。  『三年四組の諸星あたるクン。校長室に来て下さい。』  呼び出しがあったのは昼休み。弁当は授業中に食っちまってたから、外にラーメンでも食べに出ようとしていたところだ。(もちろん校 則違反)  そうそう、唯ちゃんが弁当を作ってくれるって言ってくれたけど、母さんが「そこまでさせられない」と言って断った。くっそー、母 さんがあんな事言わなきゃ・・。ホント残念で仕方ない。 「なんだぁ? 呼び出しだってよ〜。」 「あたるの高校生活も今日限りってワケだ。」  クラスの奴らがさんざんからかう。 「あたるクン。大丈夫よ。きっと大した事・・・だと思うわやっぱり。」  そう言って励ましを中途半端でひっくり返したのは、俺の斜め後ろに座っているしのぶだった。  二年の時までは髪の毛をショートで揃えてたけど、三年に進級してからというものは、イメチェンして髪を背中まで伸ばし、柔らかくウ エーブをかけている。ダイエットも成功したようで、少々スレンダーになった。 あたる「しのぶ・・。心配してくれるんだね・・。、大丈夫さ、きっと無事に戻ってくる。・・・キミの元に♪」  そっと肩を抱いて、身体をねじる様に傾ける。  バキィィッ!!  気付くと、しのぶの鉄拳が顔面に突き刺さっていた。 しのぶ「あんたって男は・・、ちょっといい顔するとすぐ調子に乗るんだから!」 あたる「し・・しのぶぅ〜。」  パンチを顔に受けながらも、離れまいと踏ん張ってはみたが、 しのぶ「さっさと校長室に行かんかーーーいっ!!!」  ドガーーーンッッ!!! あたる「どわあぁっっ!!」  流石に前蹴りハイキックは踏ん張りきれなかった。ぶっ飛ばされた俺は、ガラスを突き破って廊下の壁にめり込んだ。  壁に埋もれた身体を引き出して、服に付いた埃を叩き落とし、大きく背伸びして衝撃で歪んだ身体を真っ直ぐにさせた。 ラム「ダーリン大丈夫?」  ラムが心配そうな表情で駆け寄ってきた。 あたる「あ・・ああ、なんとかな。」 ラム「ウチも一緒に行ったほうがいいっちゃ?」 あたる「いや一人で行ってくるさ。」  とりあえず校長室に行かなきゃな・・・。  それにしてもなんだろう?  まさか、唯ちゃんのこと?  それとも・・・この前の雨の日、昼休みに体育館の中でサッカーやって、体育館を半壊させちゃったことかな。学校のコピー機でエロ本 をコピーしたことかな。なんでバレたんだろ。  思い当たることはいろいろあった。  ありすぎて、見当がつかない。  逃げても仕方ないないから、俺はひとりで校長室に向かった。                              * 校長室。  滅多に入ることもない校長室の前に立つと、さすがに緊張した。深呼吸して、ドアをノックする。  扉を開けると、中には担任のサクラ先生、副担任の花和先生、生活指導の温泉マークが並んでいて、一番奥の席には校長が座ってた。 校長「諸星あたるくん。」  相変わらずの校長が、親しげに呼びかけてきた。思ったより穏やかのようだ。  しかし、生活指導の温泉マークは違った。 温泉「諸星ーーッ!! 姿勢が悪いぞ!! ピシッと立てピシッと!!」  とばかり怒鳴りたてるのを、校長が制した。 校長「まあまあ、あなたは興奮しやすくて困ります。サクラ先生から話してもらいましょう。」  濃紺のタイトスーツに身を包んだサクラ先生が、俺に目配せした。  涼やかな目元がかすかに笑ってるから、少し安心した。  サクラ先生はずっと保険医だったんだけど、どういう心変わりだろうか、教師に目覚めてしまった様だ。始業式の日に『今度の担任は誰 だろう』なんて話で盛り上がっていたんだけど、チャイムが鳴って教室に入ってきた先生がサクラさんだったから、最初は冗談だと思って たんだ、でも『三年四組を担当になった、サクラじゃ。』なんて真顔で挨拶するんだもん、正直、度肝を抜かれた気分だった。  知ってると思うけど、サクラさんは理知的な美人だ。つややかな黒髪をさりげなく小さなチーフで束ねている。あまり化粧っ気もないん だけど、生まれ持った美貌は隠しようがない。何もしなくたってもう充分なんだ。ほんの少し、にっこり笑うだけで、あたりがパーッと明 るくなる。  才媛でかっこいいサクラ先生は男子生徒のもっぱらの憧れの的だ。プロポーションも際立ってるし、彼女がいる奴もいない奴も、サクラ 先生の前に出ると赤くなってうまく喋れなくなっちゃうくらいだ。 サクラ「手っ取り早く聞くが、諸星。おぬし、ラム以外の娘と同棲しているのか?」 あたる「それは違う!」  俺はサクラ先生の目を見て、きっぱり答えた。唯とは友達の様な関係だ。なんにもやましいところはない。 サクラ「そうか。では、ラム以外の娘と生活を共にしているっていうのは、嘘なのか?」 あたる「事実だけ言うと、親父の親友の娘さんを我が家で預かっているのです。彼女の一家がフロリダに転勤になって、他に頼れるところ     がないからです。」 サクラ「いい答えじゃ、諸星。・・・しかし、一緒に生活しているとなると・・。」 あたる「何もやましいところは無い!」 温泉「こらーーっ、諸星! 言い逃れするな!」 サクラ「担任は私じゃ!!」  俺の胸ぐらを掴もうとした温泉を、サクラが睨んだ。このときのサクラ先生の表情は、厳しく怜悧に美しくて、背筋がゾクッと寒くなっ たほどだ。  睨まれた温泉マークは、急に顔も青ざめて、俺の胸元をパッと離した。 サクラ「諸星の監督責任は、私にある。今は事実だけが重要だとおもうのだが、諸星の説明だけじゃ不足だと思うのなら、両親に確認して     みてはどうじゃ?」  もちろん温泉の方が年上なのだが、サクラ先生の静かな迫力にはてんでかなわない。詰め寄られると、たじたじと退いてしまう。 花和「サクラ先生のほうが筋が通ってますね。ともかくご両親に連絡をとりましょう。」  おとなしく状況を見守っていた花和先生が、やんわりとふたりの間に割って入り、その場を引きとった。  後のことは、あっけないくらい簡単に終わった。  母さんに電話をかけて、校長とかわり、事情を説明してもらった。  思ったとおり、母さんは唯を我が家で預かるのが問題になるなんて、思ってもみなかったようだ。あんな母さんだから、呆れるやら驚く やら、『うちの息子がああだから分からなくもないですが、そんなに信用できませんか』って怒り出してしまった。  『うちの息子がああだから』って部分は今一つ納得できないが、なんとなく嬉しかった。母さんが『申し訳ありません』なんて謝らない でくれてよかった。母さん、信用してくれてたんだなぁ。  電話を切って部屋の中が静かになると、校長は先生達に目配せすると、静かに立ち上がった。 校長「なるほど、わかりました。諸星くん、呼び立ててすみませんでした。君にはなんの問題もないようです。」  校長はにこにこしてそう言ってくれた。  差し出された校長の手を、俺は軽く握り返した。 サクラ「よかったのう、諸星。」  サクラ先生が優しく微笑みかける。その隣に立っていた温泉マークは、腕組みして、険しい表情で俺を睨みつけた。納得してないけど、 校長やサクラの手前、何も言えないって感じだ。  花和先生が温泉マークの肩をポンと叩いた。 花和「厳しく取り締まるだけがいいとは言い切れませんよ。しばらく見守ってみましょう。」 温泉「・・・・・。」                              * 教室。  教室に戻ったのは、昼休みが半ば終わった頃だった。みんな昼食を終えて外に出てしまっている。  面堂とメガネ達四人は、俺が戻るのを待ち構えていた。 面堂「諸星、どうだったのだ!?」 あたる「なんともねぇよ。」  事の顛末を聞いた連中は、 「なーんだ、それだけで済んだのか。」 「つまんねーの。」  などと口々に言ってくれてやがる。  俺が自分の席に座ると、メガネがずいっと正面に立ちはだかった。 メガネ「あたる、今朝のことを忘れたワケではあるまい。」  俺はぎょっとした。まさか、また拉致られちまうのか・・? あたる「ちゃんと答えを言ったではないか。」 メガネ「ふんっ、あんな茶を濁す様な答えで逃げられると思ったか?」 あたる「・・・・・。」  この場で全てをぶっちゃけても良かったのだが、そうなるとパーマの事情をチクることになる。俺としては、パーマにかつがれた被害者 だから、パーマがどうなってもかまわない・・・ワケないよなやっぱり。昨日の掃除の借りを返したわけではなかったので、何も言わない ことにし、借りを返したつもりで覚悟を決めた。 あたる「メガネ、俺は・・。」  言いかけたが、俺より一瞬早くメガネが話し出していた。 メガネ「しかし、今回は俺の勘違いだった様だな。いやパーマにかつがれたと言うべきか・・。しかし真実をパーマが話してくれたよ。」 あたる「なにっ?」  またなにか嫌な予感が脳裏によぎった。パーマの言う真実はトコトンずれてやがるからだ。 メガネ「あの娘は、お前がパーマと一緒にガールハントした娘だそうじゃないか。」  やっぱりな・・。パーマよ、そんなに責任を俺になすりつけたいのか! あたる「・・・・。(あのヤロまたいい加減な事言いやがってっ!!)」  瞬間的に怒りが込みあがってきた。わなわなと身体に震えがくるほどキたけど、俯いてメガネに表情を悟られないようにした。 メガネ「なんでもお前は『家にはラム以外の美少女が居るから、この娘はパーマに譲る。』と言ったそうだな。」 あたる「た・・たまにはパーマにもラム以外の女の子の魅力を味わってもらおーと・・。」  不本意だったけど仕方がないんでパーマの魂胆にまんまとハマルことにした。 メガネ「あたるの誘惑に誘われてしまうパーマも軟弱だが、やはり元凶はあたるだった。」 あたる「でもなぁ、メガネ・・。」 メガネ「言い訳は聞かん! どんな弁解をしようがあたるとパーマは重罪を犯したのだ。二人にはしかるべき処罰を与えてくれよう!」 あたる「ちょっと待てよ、俺はラム親衛隊じゃないぞ! 無関係なんだ! パーマだけくすぐり地獄やりゃあいいじゃないか!」 メガネ「くすぐり地獄? ふふふふふ・・、そんな生易しい事で済めばいいんだけどなぁ・・。うふふふ〜〜・・・。」  にやっと眼鏡の中にサディスト的な眼つきを俺に向けた。  ゾッと背筋が凍りついた感じがした。 あたる「お、お俺に、ど・・どうしろというのだ・・?」  メガネに少々恐怖を感じて戸惑ってしまって、つい口走ってしまった。これじゃあなんでも要求しろと言ってる様なもんじゃないか。  してやったりとばかりに意味深な笑みを浮かべたメガネ。  そこにタイミングを見計らっていたように、面堂が便乗してきた。 面堂「メガネ、諸星も困っている様だし、こうしたらどうだ?」  何かを思いついたらしい面堂が、面白そうに笑った。そしてメガネと顔を突き合わせた後、しばらくして、メガネが切り出した。 メガネ「あたるぅ〜〜、今回もお前を許そうじゃないか。その代わりにだな・・・。」 面堂「今日の帰りに、諸星家に寄る。」 あたる「なにーーーっ!」  動転する俺に、メガネがさらに突っ込む。 メガネ「我々に例のラムさん以外の美少女という唯さんを紹介すること。心配させたのだから、あたるもそれくらいフォローするんだな     ぁ。やましいことが無いなら、そのくらい構わないだろう?」 あたる「心配だってぇ? ただの脅しじゃないか!」 メガネ「それとも、親友の俺たちを自分の家に呼ぶのも遠慮しなくちゃいけないほど、縮こまって暮らしてるわけか?」  痛いところを突いてきやがる。そうまで言われると、俺も退けない。  周りではパーマとカクガリ、チビがそろってにやにや笑ってやがる。 あたる「分かったよ。来ればいいだろ!」  ったく! 結局こうなるんだよ。俺って立場弱いよなぁ〜・・・。 パーマ「へへへっ、俺たちに黙って幸せを独り占めにしたバチが当たったんだ。」  パーマの言葉とにやけた顔が無性に頭にきた。俺は木槌を振り回しながら、ひとしきり教室中追い回した。                              *  授業が終わって、俺たちは揃って学校を出た。  ラムは用事があるとかで先に帰ってしまった。どこかに寄ってくるんだって。 自宅。 あたる「ただいまーっ!」 「こんばんはーっ!」 「お邪魔しまーっす!」  メガネ達の声がステレオの様に玄関に響き渡った。  台所で夕飯の支度をしていた母が驚いたような表情で顔を出した。 母「あらあら、大勢で珍しいわね。ゆっくりしてってね。・・・夕飯は出してあげられないけど。」 「おかまいなくーっ。」  玄関を上がると二階に行こうとした。しかし、連中は玄関から動こうとしないので、声をかけた。 あたる「お前ら早く来いよ。」  辺りを窺うようにキョロキョロしている一同。面堂に至っては、手鏡でヘアスタイルをチェックしている始末だ。口では何と言おうと、 まだ見ぬ『評判の娘』に期待しているみたいだ。 メガネ「ゆ・・唯さんは・・?」 あたる「まだ帰ってないんだろ。そのうち帰って来るよ。」 「なんだ・・・。」  誰が言ったか分からなかったけど、その言葉につられたように全員ががっくり肩を落とした。  まったくこいつらときたら・・、呆れて言葉が出ねーよ。とりあえず自分の部屋に招き入れた。 あたるの部屋。  無意味に近い時間がしばらく続いた。  部屋に散らかっていた雑誌をペラペラめくりながらカクガリがポツリとつぶやいた。 カクガリ「・・・つまんねぇな。」 チビ「ラムちゃんも居ないなんてさぁ、俺たちなにしに来たのかなぁ・・。」  後に続くように、チビ。  テーブルの周りに、俺たちは向かい合わせに座って、お茶をずずっと啜る。誰もが無言で、お茶を啜る音がヤケに大きく聞こえる。 メガネ「・・・なんで俺たち、こうやって顔突き合わせてなきゃならないんだ? ラム親衛隊の最高幹部会会議を蹴るんじゃなかったな。」  と、メガネ。面堂は腕時計に目をやった。 面堂「まったくだな。これなら僕は面堂家の新製品開発ミーティングに参加していたほうがよかった。」 あたる「勝手なこと言うな! お前らが勝手に押しかけてきたんじゃないかよ!」 メガネ「・・・おっ、そう言えばパーマ、お前あのミキちゃんとはどこまでいったんだ?」 パーマ「ぶっ!!」  突然メガネから意外な言葉が出できたので、パーマは口にしていたお茶を噴き出してしまった。 パーマ「メガネ、お前知っていたのか・・?」 メガネ「ふふふ・・、で、あの娘とはどこまでいったのだ?」  ビクビクしながらパーマは口を開いた。 パーマ「そうだな・・・、友引メルヘンランドまで。」 カクガリ「何十年前のギャグだ、そりゃ。」  カクガリがパーマの頭をパカっと殴った。 パーマ「お前ら・・、俺に彼女がいたこと知ってたのか・・・。」 カクガリ「知らいでかよ。」 チビ「パーマ、抜け駆けだよ。」  パーマの目にはうっすら涙が滲んでる。 メガネ「もう、お前との付き合いも長いからな。」  メガネの一言で、ぶわっとパーマの目から涙が溢れてきた。するとパーマはテーブルに突っ伏してヒーヒー泣いた。  しばらくして、パーマが落ち着くと、メガネが一言言い放った。 メガネ「お前の裏切りの処罰は考えなけりゃならんがな!」 パーマ「みんな知ってて、わざと見て見ぬふりしてくれてたのか・・。す、すまねぇ・・みんな。」  なーんだ、メガネ達ミキちゃんがパーマの彼女だって知ってたのか・・。待てよ、じゃあ、なんで俺は拷問されたんだ?! メガネ達にもハ メられてたってーのか?! 冗談じゃない! 一番損しているのは俺じゃないかよ! 友情の美しさに感動している場合じゃねーよ!  新事実を知って、怒髪天を突くぐらいムカっぱらがたったんだけど、ここは一つ冷静になってメガネに突っ込みを入れてみよう。 あたる「でもメガネよ、それって、罪人をかばう事にならんのか? 罪人をかばう事はラム親衛隊あるまじき行為なんだろ?」 メガネ「あ・・。」  メガネの眼鏡がずるっとズレると、すぐに人差し指でかけなおした。 メガネ「も・・もう何も言うな、俺たちの青春は言葉なんかじゃない。」  その後、パーマに彼女がいると分かった時点でただちにメガネが裏切り者のパーマに対して鉄槌をあたえなかったのはなぜか、深層まで 突っ込んでやろうとしたが、どうもメガネに上手くはぐらかされてしまった。メガネの奴、もしかすると、叩けば誇りが出たりして・・。  しばらくすると、静かだった庭の方からバイクのエンジン音が聞こえた。 「ただいまーっ。」 「ただいまだっちゃーっ。」 「お邪魔しますぅ。」  エンジン音が止まってすぐに、玄関で、何人かの女の子の声が響いた。一人はラム、もう一人は唯ちゃん。もうひとりは?  トントントントン・・。  階段を軽やかに上がってくる音がすると、部屋のドアが開いた。  制服姿のラムが部屋を覗く。 ラム「ダーリン、ただいまだっちゃ。実は唯と待ち合わせしてたっちゃよ。・・あれ? みんなどうしたんだっちゃ?」 面堂「お邪魔してます。ラムさん。」 四人「こんばんはーっ。お邪魔してまーっす!」  ラムの後に続くように、唯が顔を出した。 唯「あたるさん? お友達がきてたの?」  唯は今朝見かけたいでたちだ。茶色に斜めに配したボーダーがポイントのカットソー、ダークブラウンのスカートは膝上まで上げられて て、結構そそられてしまう。大きなリングを二個あしらったアンティーク風なベルトが、全体をさりげなくまとめている。  唯の後ろには初めて会う女性の姿があった。  柔らかくウェーブのかかった長い髪と、えくぼが可愛い、ぽっちゃりタイプの娘だ。いたずらっぽそうな眉をしてる。 「こんばんは、はじめまして。」  俺は反射的に頭を下げた。  ううっ、やばい、どういうワケだか緊張してる。 唯「あたるさん、彼女は私とおなじ仕事場で、同期の中山沙織。親友なの。今日はあたるさんに会ってみたいって言うから連れてきたんだ   けど、お友達がいるなら、また今度にするわね。どうぞごゆっくり。」  とりつくしまもなく、唯と沙織ちゃんは唯の部屋に行ってしまった。 ラム「あっ、ウチも一緒に行くっちゃ。」  そう言うとラムも唯の部屋に行ってしまった。  15分ほどして部屋から出てきた三人は、俺の部屋のドアをノックすると、返事も聞かずドアを開けて、 ラム「ダーリン、ウチら、ちょっと出かけてくるっちゃ。今夜は沙織のお宅で夕ご飯をご馳走になってくるっちゃ。あまり遅くならないで    帰るから、心配しないで。」 沙織「私と唯とラムちゃんとで、ゴールデンウィークに旅行しようと思ってるの。その話し合いですから。」  沙織ちゃんが手を振った。パタンとドアが閉まる。 あたる「な・・なにぃ、旅行だってぇ?!」  そいつは初耳だぞ! 不覚だ! 俺の知らないところでそんなプロジェクトが進行していたとはっ!  寝耳に水ってのはこのことだった。  娘たちの笑いさざめく声と、足音が遠ざかっていく。  取り残された俺たちは、顔を見合わせた。 メガネ「あ・・・あ・・あたるぅーーーっっ!!」  いきなりメガネが俺の胸ぐらを引っ掴んできた。 あたる「なんだよ?!」 メガネ「貴様ぁっ、いったいどーゆーことだこれはーっ!!」  俺をガクガク激しく揺さぶって興奮絶頂のメガネ。額には青筋が見え隠れしている。 あたる「俺は何も知らんっ! 旅行なんて初耳だよ!」 カクガリ「もしかしたら、あたるも旅行に誘うはずだったのかな・・。」 チビ「・・・邪魔しちゃったかな、俺達。」  二人がボソッとつぶやいた。 面堂「いや、こういうのはな、不毛というのだ。」  面堂は一口、お茶をすすって、ほうっと溜め息をついた。 メガネ「違うっ! そういうことじゃなく、面堂から聞いた話と全く違うではないかっ!! 『あたるが手を出さない程の娘』と聞いていたか     らその程度の娘だと期待半分だったのだ!! それがどーだ!! ものすごい美女ではないかっ、ええっ!!」 面堂「確かにメガネの言うとおりだな。あれだけの美女だ、諸星が手を出さないはずが無い!」  ゆらりと立ち上がって、ゆっくりと刀を前に出すと封印の紐を解いた。 面堂「正直に答えてもらおうか諸星・・。貴様、ラムさんという女性がありながら、唯さんにナニをしたっ。」 あたる「ちょっと待て、ずーーっと言ってるだろ。俺は『手が出せない』のだ! 野蛮な妄想を巡らせて勝手に決め付けるなっ!」 メガネ「ほほぉ、その『手が出せない』理由はなんだ?」 あたる「わからん。」  間髪入れず答えたが、正直な回答だ。 面堂「話にならん。やはり解決する方法は一つの様だ・・。諸星をこの場で、斬るっ!」  じりじりと俺に詰め寄る五人。むき出しの殺気がビリビリ感じる。 あたる「冷静に話し合おう。お前らナニに興奮してるんだい?」 パーマ「決まってんだろっ!」 カクガリ「な・ん・でっ!」 チビ「いつもあたるだけがっ!」 メガネ「美女に縁があるのだっ!」 面堂「納得がいかぁーーーんっ!!」 あたる「結局はソレじゃないか!」  面堂の斬りこみに続いてメガネ達が飛びかかってきた。所詮、多勢に無勢、俺は逃げ回るしか出来なかった。 「お邪魔しましたぁーーっ!」  家中でさんざん大暴れしてスッキリしたのか、やつらは清清しい挨拶を響かせながら帰って行った。  俺は、支える棒が必要な程ボロボロになった身体を引きずって、玄関で見送った。  そして・・・。  月曜日、登校した俺は、途端にクラスの奴らに囲まれた。  土曜のことが噂になって広まったらしい。  サクラ先生も『変な誤解が広がる前に』って事で、みんなに事情を説明したんだそうだ。確かに俺の場合『変な噂』が地球規模に発展す る事が多いからな・・・。  おかげで俺は一躍、男子生徒たちの羨望と嫉妬を一身に集めることになった。ラムが側にいるだけでも敵は多いのに、その枠が劇的に広 がった感じだ。椅子にガビョウが置いてあったり、カミソリ入りの不幸の手紙を送り付けられたり・・・なんてことはされていないけど。  そして同時に女子の興味の対象になっちまった。 しのぶ「ねえ、あたるクン。一緒に住んでる娘ってどんな娘? ラムとは最近どう?」  しのぶが、興味津々といったふうに聞いてくる。  女子の興味はもっぱらそれにつきる様だ。ったく、どっかの芸能ゴシップじゃないんだ。でも、なんか変なもんだ。ラムと同居が始まっ た時もこんな感じだったな、照れくさいやら、自慢したいやら。くすぐったい感じだ。  しかし、幸せな奴らめ。やっぱりおまえらには分からんのだ。  女の子と一緒に生活するってのはなっ、すんげー大変なんだぞぉーーっ!!  俺は思わず、大声でそう叫びたくなった。 エンディングテーマ:心細いな                                            第三話『噂は色々ありますが。』・・・完