時は夢のように・・・。  第四話『はっぴいバースデーあたるさん。』  唯が家に来てから、半月が過ぎた。四月も半ばの日曜日だった。  俺と面堂は商店街の喫茶店にいた。ラムの追跡を撒いたところで面堂と偶然会ったのだ。 面堂「なぜ話しの最初から、この僕が諸星なんかと喫茶店でお茶をせねばならんのだ・・っ!」  喫茶店の椅子に腰掛けた面堂が、苦虫をかんだ様な表情で溜め息混じりにつぶやいた。 あたる「しょうがないじゃん、面堂。コーラもう一杯いいか?」 面堂「諸星、おまえ誕生日4月13日だったな。牡羊座か・・・相性がいいのは同じ牡羊座か、天秤座・・・んっ、ラムさんは何座だ?」  俺の話しを無視して、面堂は置いてあった雑誌をパラパラとめくった。 あたる「ラムの星座は確か『虎縞一角獣座』だったかな。」 面堂「虎縞一角獣座? 地球の星座には当てはまらんな・・。じゃあ唯さんは?」 あたる「唯ちゃんは、確か・・。」  俺はポケットから手帳を取り出して唯のデータを探した。自慢じゃないが、この手帳には今まで出会った全ての女の子のデータが詰まっ ているのだ。でも、先週、唯ちゃんに紹介された娘、中山沙織っていったっけ・・、あの娘のデータが入っていない。今度会ったら絶対住 所と電話番号を聞き出しちゃる。  『い』の欄のページを数枚めくると唯のデータが目に止まった。 あたる「あったぞ。知りたいか?」 面堂「ぼ・・ぼかぁ別に唯さんの個人情報を知りたいなんて・・思わんっ!」  そっぽを向いて、つーんと口を尖らせる。 あたる「あっそぉ、じゃいいよ。ぼかぁ喉が渇いたなぁ〜。」 面堂「すいませーーんっ! コーラ一つこっちにおねがいしまーーすっ!」  遠くにいるウエイトレスに手を振りながら叫ぶ面堂。少々ヤケクソ気味だ。 あたる「やだなぁ面堂クン。これじゃ要求したみたいじゃないか。」 面堂「ところでぇ、諸星くぅん。」  ニタニタしながら、口に出さないが間違いなく唯のデータを催促している。 あたる「分かったよ、誕生日と星座だけだぞ。唯ちゃんは11月2日生まれ、蠍座だよ。」 面堂「11月の蠍座・・。」  じーーっと占いのページを見入る面堂。しばらくすると、がっくりと肩を落とした。どうやら結果が良くないらしい。 あたる「そうがっかりするなよ。占いなんて信じてないんだろ? まえに言ってたじゃないか。」*1:コミックス「星座はめぐる」参照。 面堂「そうっ! 占いなぞ信じてたまるかっ! バカげてるっ!」  えらい大きな声で面堂が吠えた。  俺たちが顔を突き合わせて、星座を組み合わせた『あなたの春の恋占い』のページをマジになって見ていると、俺たちの背後からオホン ッ、と咳払いがした。 パーマ「お前ら、占いにはまってるのか? ちょっとばかし女の子チックじゃないか?」  俺と面堂は同時に振り返った。 あたる「パーマっ! 奇遇だなぁ。」 パーマ「通りを歩いてて、二人を見かけたんで寄ってみたんだ。男同士で恋愛占いなんか見ちゃって・・アヤシイやつらめ・・。」  面堂があたふたしながら本を定位置に戻した。 面堂「ご・・誤解するなっ! ぼかぁ別に・・っ!」 パーマ「・・・・・。」  しどろもどろな面堂を、パーマは冷やかに見やった。 パーマ「ま、いいや。今の事は俺の胸の中にだけしまっておいてやるよ。そぉだな、後で牛丼を奢ってもらうって事で・・。」 面堂「貴様ぁ・・。」 あたる「ところでパーマ、こんなところでナニやってるわけ?」  わなわな震える面堂を横目に、俺はパーマに尋ねた。 パーマ「いやぁ、実は2時に新宿でミキちゃんと待ち合わせしてんだよ。だから牛丼は今度でいいから。」  パーマは手帳を出して、なにやら書き込んだ。  今日の日付? なになに・・・『面堂とあたるに貸し。牛丼大盛り玉つき。』だって? あたる「このヤロっ、デートの邪魔してやろかっ。」  パーマが後ろを向いたときに、面堂に耳打ちした。  ちょっとくらいいたずらを仕掛けたところで壊れる心配もなさそうなカップルだから、安心してちょっかい出せるんだな。  俺たちは喫茶店を出たところで別れた。  駅に向かうパーマを、面堂と俺はこっそり尾行する。  西部池袋線上り準急電車がホームに滑り込んできた。  パーマに見つからないように、同じ電車の別の車両に乗り込む。  途中、池袋でJR山手線に乗り換えて、新宿まで30分くらい。  立ってるのは別に苦じゃないが、退屈だ。  俺は座席に置き忘れてあった雑誌を広げた。別に意識はしてなかったんだけど、開いたページは恋占いのページだった。 あたる「面堂も牡羊座だっけ?」 面堂「もういいっ!」  ふんってな感じでそっぽを向かれちまった。面堂のヤツ、そーとートラウマになっとる。  そして・・・。  新宿駅東口、1時50分。パーマは改札前にある伝言板の前に立った。俺たちはちょっと離れた所で柱に隠れるようにして、様子を見守 っていた。 面堂「なんの動きも無い・・。」 あたる「待ち合わせまで10分もあるぜ。パーマって待ち合わせの時間より早く来て待ってるタイプだったのか。意外だな・・。」 面堂「なに面白い事を期待してるんだ。それにしても諸星よ、なぜ、この僕がこそこそと覗きせにゃならんのだ?」 あたる「それを言うなよ。たまにはこういうのも面白かろ?」  そのとき、改札口から、淡い水色のワンピースを着た女の子が現れて、パーマに駆け寄った。 ミキ「パーマくーん! 私、今日は早く着きすぎたと思ったのに。待った?」 パーマ「いやいや、俺も今きたところさ。」  ・・・・ちっ、やってろ! 背中がむずがゆくなってくるぜ、まったく。  早速、二人は商店街を歩き出した。映画でも行くのだろうか?  書店の前を通り過ぎて、デパートの前にさしかかったとき、ミキちゃんがふと足を止めた。可愛らしい声をあげてショーウィンドーを覗 き込んだ。  四月といえばブランド物の洋服で新作が多く出まわるってわけで、いろんな洋服がディスプレイされていた。豪華な洋服から、可愛らし いもの、シンプルで大人っぽいのやら。  高価そうな洋服をうっとり眺めるミキちゃんと、それを少し離れて待っているパーマ。 あたる「女の子は分からんな・・。何着ても脱げば同じだろうに・・。」 面堂「そういう事は人前では言わん方がいいな。ラムさんの前でも。」  面堂の言葉で、突然ラムの顔が脳裏によぎった。なんでか途端に顔が熱くなって、妙な汗が出てきやがった。  ちょうどその時だった。  服に気を取られていたミキちゃんが、後ろを歩いていた二人組みの女性にぶつかり、よろけた。 ミキ「きゃっ、ごめんなさいっ!」 「ごめんね。こっちもよそ見してたから。」  ぶつかった拍子に尻餅をついたミキちゃんのワンピースを、女性たちがぱっぱっと払ってあげる。 パーマ「大丈夫? ミキちゃん。」 ミキ「パーマくん。ええ、大丈夫。」 「ん・・・・?」  パーマと女性たちは顔を見合わせ、きょとん、として、首を傾げた。 「あの、どこかでお会いしませんでしたっけ?」  それを見てあわてたのは、何を隠そう、俺、諸星あたるだった。 あたる「おいっ・・・唯ちゃんと沙織ちゃんじゃ・・っ! 今日は買い物に行くって言ってたけど、新宿だったのか。」  唯ちゃんとパーマたちが遭遇するなんて、偶然にも程がある。ちょっとまずい。今見つかると、なんかヘンな事になりそうだぞ。  パーマは唯を見やって、ニマッと笑った。 パーマ「こんにちはっ!」 唯「・・・確か、前にあたるさんと一緒にいらした・・・?」 パーマ「パーマですっ! あたるクンの同級生です! ミキちゃん、こちらが今あたるクンのお家にいらっしゃる、祈瀬唯さんだよ。」 ミキ「ああっ! 以前パーマくんからお話し聞きしました、すっごい美人だって。はじめまして、ミキです!」  ちょこんとミキちゃんは頭を下げた。パーマは俺たちには決して見せない(当然だ、そうじゃなきゃキモチワリィっ!)優しい目で彼女を 見やり、唯に向き直った。 パーマ「唯さん、この娘はミキっていいます。俺のガールフレンド。今日は買い物ですか? 奇遇ですね!」 沙織「ちょっとちょっと、なかなかイイ感じのカップルじゃなぁい! 私にも紹介しなさいよ。」  沙織ちゃんが割り込んできた。 沙織「私、中山沙織。唯の親友で同じ職場なんだ。よろしくね。楽しそうな彼に、可愛い彼女ね。あたるくんの友達でしょ? なかなかあた    るくんも隅に置けないわ!」  パーマとミキちゃんの手を握って、にこにこしてる。フレンドリーはいいんだけど?  沙織ちゃん、なんか怖いです。  ますます出ていけないってゆーか、見つかるとまずい雰囲気。 あたる「ど・・どうする、面堂・・・あっ!? いねぇっ! あの野郎、逃げやがったなっ!」  ハッと気付いた時には、面堂はすでに姿をくらましていた。  おれも慌てて逃げ出した。  よく考えれば、見てただけで何も悪いことはしてないのに・・・。  後のことはなにをどうしたのか、あまり覚えていない。  西部池袋線下りの準急に揺られながら、俺はなぜかビクビクしていた。小心者である。  途中コンビニに立ち寄って、気分を落ち着けてから帰路についた。 自宅。  家に帰った俺は、何気なしに玄関のドアを開けた。  瞬間、来た。  ドガシャーーーーンンッッ!!! あたる「あぎゃぁぁーーーっっ!!」  電撃が脳天から爪先まで一気に走り抜けた。  顔を上げると、目の前にはラムが仁王立ちしていた。 ラム「ウチをほったらかしにして、今までどこ行ってたっちゃ? 絶対ガールハントだっちゃね!!」  冷やかな目つきで俺をねめつけるラム。 あたる「ら・・ラム・・。イキナリなにすんだっ! 今日は面堂と一緒に・・うっ。」  やばい。うっかり口にするとこだった。 ラム「終太郎と一緒だったのけ? ダーリンが珍しいっちゃ・・。終太郎とどこ行ったんだっちゃ?」 あたる「あ・・いや、別に・・どこって・・。別にどこでもよかろうが! あー腹減ったぁ!」  パーマを尾行して新宿まで行ったなんて言えるはずもない・・、適当に誤魔化すのが一番だなっ!  玄関をあがろうとした時だ。 唯「ただいまっ!」  玄関のドアが開いて、唯の明るい声がした。 ラム「おかえりなさいだっちゃ。」 あたる「お・・おかえり・・。」  唯の顔を見たとたん、ちょっとだけ風化していた罪悪感が再び脳裏をよぎった。 唯「あっ、あたるさん。ちょうどいい所に居てくれたわ。はい、コレ持って、力持ちさん。」  と言って渡されたのは、スーパーのビニール袋。中にはジャガイモ、にんじん、ほうれん草、ピーマンが入っていた。 唯「おばさまから買い物を頼まれてたの。スーパーから歩いてきたんだけど、もう大変。バイクで行けばよかったなぁ〜。ほら見てぇ、こ   んなにビニールのあとがついちゃって。」  掌をひらひらさせて、唯ははにかんだ。 ラム「ご苦労様だっちゃ。言ってくれればウチも手伝ったのにぃ。」 唯「出かけついでだったから、今度は手伝ってもらおっかな。」  俺と唯は、帰宅直後なので洗面所で手を洗ってから、茶の間に入った。  唯が来る前と後ではだいぶ習慣が変わってきている。コレがその証拠だな。前までは、外から帰っても手なんか洗わなかったもんな。 茶の間。  茶の間では父さんと母さんとラムが定位置に座っていた。 母「あらっ、唯ちゃん。今日はありがとう、買い物してきてもらっちゃって。」 唯「いえいえ、いいんです。私、一日遊んでたんですから、買い物くらいさせてください。」  母さんは俺をジロリと見やると、 母「ラムちゃんも今日は掃除頑張ってもらっちゃって、ご苦労様。誰かさんが何にもしないから、二人に負担がかかっちゃうわねぇ。」  くっ・・。耳が痛い。なんだか俺の居場所がなくなってきたぜ・・。  でも、反論できないのが悔しい・・。 唯「そうだ、今日ね、すごい偶然で! 新宿であたるさんのクラスメイトの・・・この前うちに来たわ、えっと、わりと長身で面長の男の子   に出会ったの。パーマくんっていうの? びっくりでしょ!」 あたる「へぇーーっ! そいつぁ驚いたな!」 ラム「えっ? パーマさんと会ったのけ?」 唯「うんっ。彼女と一緒だったみたい。ミキさんって、とっても可愛い娘だったなぁ。」 あたる「ああ・・・ミキちゃんか。俺も何度か会ったことあるよ。あの二人、メガネも黙認しているから堂々と付き合ってられるんだ。幸     せそうだったんでしょ?」  どうやら、その場に俺が居たことは、ばれてないようだ。 唯「ええとても、イイ感じの二人だった・・・うまくいってる恋人同士って、いいわね。うらやましくなっちゃう。」  そう言ったときの彼女の表情は、なんだか寂しそうだった。  それからふいに、何か思いついたように、明るく話し出す。 唯「・・・そうだ、パーマくんに聞いたんだけど、あたるさん、4月13日が誕生日なんですって?」 ラム「だっちゃ♪ もうすぐダーリンの誕生日だっちゃよ。」  うきうきしたような口調で、ラム。 母「あら、そういえば、もうそんな時期ね・・。」 父「そうか、また一つあたるも大人になるか。」  両親は相変わらずそっけないが、いつものことだからな・・、もういいや。 唯「私、あたるさんの誕生日も知らないで、ごめんね。ねぇ、お祝いしない?」 あたる・ラム「お祝いっ!?」 唯「そう。パーティーやろうよ! パーマくんとミキさんも、来てくれるって。それから、この前遊びに来てくれたお友達にも声をかけてお   くからって。」 あたる「パーマのヤツ、なにか言ったんだな。」 唯「あたるさんはこの頃、誕生日のお祝いもやらなくなってるみたいだって、パーマくんが言ってたわ。ねっ、やろうよ、親しい人だけ招   待して。沙織ちゃんも来たいって。絶対楽しいわよ♪」 ラム「イイっちゃねぇ♪ ダーリンの誕生パーティーなんて初めてだっちゃよ♪」  のってきたラムは、満面の笑みで唯ときゃーきゃーはじまった。 母「良かったじゃない。あんたパーティーなんてしてもらったことないでしょ。」 父「じゃあさ母さん、その日は二人で食事でも行こうか?」 母「あらっ、いいじゃない。あなたが私にご馳走してくれるなんて嬉しいわぁ。」 父「いやいや、誰もそんな事言ってないよ母さん。はっはっはっはっ!」  母さん達もちゃっかり便乗してきたし・・・。 あたる「あのぉ・・・もしかして、もう手筈は整ってるの? パーティーを『やろう』じゃなくて『やります』ってことでしょ。」  唯はニッコリ微笑むと、コクリと頷いた。そして目をキラキラさせて、俺を見た。  俺がどう思うが、既にイヤだなんて言える状況ではない。  ラムと二人で過ごす誕生日っていうのも、なんとなくアレだよな・・。パーティーだったらラムと二人っきりなんてシチュエーションは 無いだろうから、好都合だな。  そっか、俺の誕生日のこと唯ちゃんに話してなかったか・・。  一応、パーマの発言に感謝したほうがいいみたいだな。                                *  4月13日、火曜日。  学校が終わってから、俺とラムはスーパーへ買出しに。  みんながやって来たのは夜になってから。 パーマ「おいっス。」 ミキ「こんばんは、お邪魔します。」 ラム「いらっしゃいだっちゃ!」  俺の18の誕生日。意外にも大勢の顔ぶれが集まってくれた。  パーマとミキちゃんのカップル。メガネとカクガリとチビ、面堂、しのぶ、サクラ先生、そして唯ちゃんに沙織ちゃん。んんっ、なんで チェリーがここにいるんだよ! あたる「おい、チェリー。なぜお前がここにいる?」 チェリー「読者諸君、実に待たせたのぉ。」 あたる「人の話を聞かんかいっ! それに誰が待っておると言うのだっ! なんでお前がここにいるんだ?!」  俺はチェリーの胸ぐらを引っ掴んで、思いっきり揺さぶった。 サクラ「私が呼んだ。」  パッとチェリーを放してしまった。  くそー、そうだった・・、俺の周囲にゃ美人も多いが、こんな余計なモノも多かったのだ。 チェリー「ご馳走が食えると聞いたんでのぉ。しかし残念じゃ、文字だけではワシの美しい顔が皆に披露できん・・。」 あたる「せんでいいわいそんなことっ!」 チェリー「ワシの出番はここまでか?」 あたる「うるさい引っ込め!」  チェリーなんか放っといて、とりあえず、女の子たちを持て成さなきゃ。  振り返ると、目の前に掌が迫ってきた。力いっぱい俺の頭を押しのけたヤツがいやがる。 面堂「どけ諸星。サクラ先生、今夜は一段とお美しい。」  面堂だったのか、こんなヤツもいやがったな・・。 サクラ「やめんか、おぬしに言われると背筋がゾッとする。」  次の台詞を言えぬまま、あっさり切り捨てられた面堂。ぱさっと前髪が萎えた、ショックを受けている証拠だ。  ザマーミロだ。言葉のナイフはある意味、お前の愛刀より切れ味がいいんだぜ。  うなだれた様子の面堂に、ポンとメガネが面堂の肩を叩いた。 メガネ「気を落とすな面堂、まだお前にはチャンスがある。」  そう言うと、無言である方向を指差した。  そこには、しのぶが座っていた。じぃっと面堂を睨みつけている。 面堂「し・・しのぶさんも実に美しいっ!」  冷や汗モノだ・・・。今、しのぶが爆発したら、パーティーもクソもなくなっちまう。  ってゆーかこのメンツが暴れたら、近所で死人が出るぞ・・。 沙織「あら、そこの関係はちょっと雲行きが怪しいわね。」  沙織ちゃんがつぶらな瞳をパチパチと瞬たかせた。 沙織「ビクビクしないの、なんとかなるわよお!」  バンバンと面堂の背中を叩いて、きゃははははって笑う。 メガネ「そーです! そのテンションですよねぇっ! 今日はあたるの誕生日だし、めでたいかどうかは別として、パーッといきましょう!     パーッとねっ!」  メガネがテーブルにドカっと置いたのは、ビールのボトルだった。それにパーマとカクガリとチビは、ウィスキーやら日本酒やらカクテ ルやら、とにかく全てアルコールだ。それらをずらっとテーブルに並べ立てた。 あたる「何考えてんだよ!? まだ未成年ではないか!」 パーマ「そう言わずに、飲ませてくれよぉ。」 メガネ「いいではないか、俺たちはもうすぐ大人の仲間入りなんだから、ちょっとくらいフライングしてもバチは当たるまい。」 あたる「サクラ先生の目の前で飲めるかよ。」 サクラ「まぁ、よかろう。持ってきてしまった物は、飲まなければ勿体無い。」  それが教師の言う事か・・。教師が教え子と酒飲んだなんて学校に知れたら大変だろうに。  でも、サクラさんが酔ったところをしばらく見ていない。ぜひ、もう一度見てみたい気が・・。  周りを見渡すと、サクラだけではないではないか、むふふふふ・・。ミキちゃんにしのぶ、唯ちゃん、沙織ちゃん。  ふふふふふ・・。飲ませてくれよう。酔いつぶしてしまえばもうこっちのもんじゃ!  ふと顔を上げると、みんなが俺をじーっと見ている。冷たい視線だ。 ラム「女の子たちを酔いつぶそうなんて、甘い考えだっちゃよ。」 あたる「うっ!」  どうやら俺の顔はニタニタだったみたいだ。 しのぶ「あたるクンの考えそうな事だわ。馬鹿みたい・・。」 あたる「しのぶぅ〜、今日はパーティーなんだから、たっくさん飲もうね♪」  しのぶの手を取って、手の甲にスリスリした。 しのぶ「きゃあぁぁーーっっ!? やめてよ変態ぃっ!!」  バキィィッッ!!!  しのぶのビンタが左頬にクリティカルヒット。吹っ飛ばされた俺は、上半身だけすっぽり天井に突き刺さった。  そんなこんなで、とりあえずパーティーは始まった。  まず、集まったメンバーは自己紹介をし合った。それぞれつながりはあるけど、一堂に会したのは初めてだ。 面堂「直接には知り合うことがなかったはずの僕たちが、諸星を軸にして集まったわけだ。誕生日の祝いにふさわしい。」  と、面堂は笑う。 パーマ「乾杯しようぜ、乾杯!」  さっそく、パーマがビールのボトルを手に取った。しのぶは呆れ顔で、台所に走り、冷蔵庫からコーラのペットボトルをだす。 しのぶ「もうっ! しんじらんないぃ、いきなりビールだなんて。最初はジュースにしなさいよ、一応、未成年なんだから!」  13個のコップに、コーラがシュウシュウと音を立てながら注がれる。 メガネ「今夜は我々の悪友、諸星あたるくんの誕生日に、お集まりいただき感謝するっ! せっかくの場ですので、あたるの誕生日だけでな     く、こうして唯さんや沙織さんそれにミキちゃんといった、人と人との出会い、大いなる運命のめぐり合わせに、感謝の気持ちを     込めて・・・乾杯したいと思うっ!」  気がつけば、メガネがちゃっかり司会進行をやっていた。 メガネ「では、乾杯っ!!」  グラスが、ガチャガチャと賑やかな音を立ててぶつかった。 しのぶ「お誕生日おめでとう、あたるクン。」 ラム「ハッピーバースデーっ! ダーリン♪」 唯「おめでとう! あたるさん。」  次には、みんながそれぞれ持ち寄った食べ物を披露した。  フライドチキン、ポテトフライ、サンドイッチ、カナッペ、サラダ、グラタン、タコス。それと数種のフルーツが、いっぺんに大皿に載 っている。 カクガリ「すっげーなぁ。」  カクガリが皿を眺めて一言。沙織ちゃんは盛り付けを整える。 沙織「私が作ったのはフライドチキンとポテト。グラタンとサラダは唯とラムちゃんで、サンドイッチとタコスがしのぶちゃん、カナッペ    がミキちゃんだよ。」  ちなみにフルーツは面堂が黒メガネに運ばせたやつだ。なんでも一流のコックに作らせたんだって。果物なんて誰が切っても同じだろー っての。ポテトチップスとかスナック菓子がメガネ達だ。 パーマ「あたる、このゲームお前のか?」  テレビが置かれている台の中にあったテレビゲームを見つけて、パーマが声を上げた。 あたる「それはジャリテンのゲームだよ。」 チビ「へぇ〜、面白そうじゃん。」 パーマ「やろうぜ!」 メガネ「お前ら、今日はゲーム大会しに来たんじゃねーんだぞぉ。」  メガネの冷静なつっこみで、俺たちは我にかえる。 沙織「男の子ってさ、すぐそういうの夢中になるよね。可愛いじゃない。」  何気なく沙織ちゃんの言った言葉に、ギクッとした。唯にも子供っぽいって思われただろうか。彼女が俺を年下扱いしてくるのは、正直 、コンプレックスの原因でもある。  唯ちゃんに聞こえたかな?  俺はまわりを見渡して、唯の姿を探した。どこにいるのかと思えば、どうやら台所にいるみたいだ。  台所の方から女の子達の賑やかな笑い声が聞こえたのだ。 「わぁーーっ、ステキぃーーっ!」  台所で誰かが歓声を上げた。  すると、ミキちゃんがパタパタと走ってきて、茶の間の戸をサッと開ける。 ミキ「テーブルに場所をあけてくれませんかぁ。」  ミキがニコニコしながら声をかけた。俺達はテーブルの上を片付けた。  唯とラムが、二人でゆっくりと大事そうに捧げ持って来たのは、イチゴがぎっしりと並べられデコレーションされたバースデーケーキ! 沙織「すごいでしょ。なんてったって手作りだよ! 夕べ、唯とラムちゃんがうちに来てスポンジだけ焼いてったの。ここで焼いてると、あ    たるクンにバレちゃうからだって。」  まさか手作りでバースデーケーキを焼いてくれるなんて思ってなかった!  バースデーケーキの真ん中に、チョコレートのプレートにホワイトチョコレートで『HAPPY BIRTHDAY ATARU』って 書いてある。18本の蝋燭を立てて火を灯して、部屋の明かりを消した。  蝋燭の暖かみのあるオレンジ色の炎で、みんながほのかに照らし出された。 ラム「ダーリン、蝋燭を消すっちゃ。」  俺は大きく息を吸って、ぷーーっと一気に炎を吹き消した。  ケーキを切ってみんなに取り分けたあとは、賑やかな宴会になった。  みんなで持ち寄った料理が次々とたいらげられていく。  宴会は進むにつれて、だんだんとテンションが上がってきた。  そんな時、パーマが手を叩いた。 パーマ「ちょっといいかぁー、みんなぁ。そろそろプレゼント交換しようぜ。」  すると、みんなはそれぞれに、プレゼントの包みを持ち出して、テーブルに載せた。 パーマ「よし、じゃあみんな立って、並んで円になってくれ。プレゼントは見えないように後ろで持って。」  みんなはぐるりとテーブルを囲んで立って、パーマの合図で、くるくるとプレゼントを隣の人に渡し始めた。 あたる「おいおい、交換会ってどーゆーことだよ? 俺の誕生パーティーじゃないのかよ。」  俺はパーマに詰め寄った。  抗議もそっちのけに、目の前ではプレゼントの包みが行き交ってる。 あたる「俺の誕生日をだしにしくさって、ほんとは宴会がしたかっただけだな。」 パーマ「そんなことねぇよ。単純に楽しいことが好きなだけ。せっかくだし、盛り上げたいだろが。あたるの誕生日がメインには違いない     って。」  俺はなんか腑に落ちなくて、パーマが手に持ってた小さなグラスを奪い取って、一口飲んだ。腹の底から熱いものがすごい勢いで込み上 がってきて、あやうく吹き出しそうになった。 あたる「ぐぇぇーーっ! ぱ、パーマ、こ、これ、なんだよ?!」 パーマ「ああ? ウォッカにガムシロップと炭酸水を混ぜて作った、パーマスペシャルだ。この『かーーっ』とくるのが最高なんだよな。」  パーマは平然としていて、平気に飲んでやがる。 あたる「この酒豪どもが・・・。いったいどのくらい飲んだ?」 パーマ「俺はコレを3杯とビールを2杯。しのぶとミキちゃんはカクテルを・・あいつら二人で一本空けちまったぜ・・。サクラ先生と面     堂は庭に出てウィスキーを飲んでた。面堂のやつ、なんか自棄酒っぽかったぜ。それからメガネ達は・・把握できないな。ラムち     ゃんと唯さんと沙織さんは・・・何飲んでるのかな?」 あたる「けっこう飲んだなぁ。」  そういえば、メガネ達が持ってきた数種の酒は、いつのまにやら、けっこう空いてしまっている。  酒の勢いもあってか、みんなハイテンションになってる。  普段、ラム以外に目がいかなかったメガネが、唯ちゃんや沙織ちゃんとゲームの話しで盛り上がってるし。 メガネ「へぇーーっ、沙織さんて、けっこうゲームとか好きなんですか? 二人ともバイク乗ったりとかスポーツしたりしてるなら、反射神     経はいいんでしょ。それじゃー、対戦やってみましょうよ! おいあたる、ゲームソフトどこにあんだよ?」 あたる「さぁーな。ジャリテンのやつ、ゲームソフトを隠してやがんだよ。」 ラム「ウチ知ってるっちゃよ。テンちゃんが隠した場所が変わってなければ・・。」   ラムは部屋に飾ってあった絵を退かすと、額の後ろに隠してあったゲームソフトを取り出した。 あたる「あいつ、そんなトコに隠してやがったのか。」  虎縞模様のゲームをテレビにつないで、沙織ちゃんとメガネが格闘ゲームを始めた。 沙織「ほらっ、唯もやってみなよ。」 唯「えっ? 難しそうね。私に出来るかな。」  とかなんとか言いながら、意気揚々とコントローラを握って、テレビにかじりついた。 唯「きゃっ、えっ、あっだめー、技が出せないぃ! やぁー、やられちゃうよお!」 ラム「唯、ガードするっちゃよ、ガードっ。」  テレビゲームに夢中になってる唯は、ちょっと子供っぽかった。でも、可愛かったな。                                *  夜も更けていった。俺は部屋の中がやけに静かなのに気付いて、目が覚めた。いつの間にか寝てしまっていたのだ。 あたる「あれっ? みんなどこに行ったんだろ・・。」  部屋には誰もいなくて、さっきまでの賑わいがウソみたいに静まり返っていた。  すでに後片付けも完了してるみたいで、掃除したみたいにキレイになってた。  ふと時計に目をやると、午後9時をちょっとまわったところ。  テーブルの上には一枚のメモが置かれていた。 あたる「えっと、なになに・・。」  『これからみんなでカラオケに行きます。   駅前のカラオケボックスですので、目が覚めたら来てくださいね。   あんまり気持ちよさそうに眠ってたので、起こさずに出かけてしまいました。ごめんね。                                            唯』 あたる「カラオケぇ?! ったく、行くんだったら起こしてくれりゃいいのに。」  頭をかきむしって、立ち上がろうとした。その時、置いてあったメモが一枚じゃないことに気付いた。 あたる「あれ、二枚目がある・・。」  『そうそう、私、あたるさんにプレゼントを渡すのを忘れてました。   今日のうちに渡したいです。9時半くらいまで公園で待ってます。』 あたる「な・・なにぃ?! 唯ちゃんが俺にプレゼントをっ!!」  時計は9時15分くらい。俺は速攻で家を出た。 友引公園。  夜の公園は、しんと静まり返っていた。辺りは月明かりで照らされて、神秘的な雰囲気に満たされていた。  満開だった桜は、この前降った雨でだいぶ散ってしまっていた。でも葉桜ってのもなかなかいいかも。  俺は夜の公園を、あてもなく、唯を探し歩いた。  公園の入り口を通って、だいぶ歩いた気がする。このまま公園を通り抜けると市街地に出てしまう。 あたる「どこにいるのかな・・。」  周囲を注意深く眺めながら、歩いた。  すると、街灯で照らされたベンチに座る、髪の長い女性の姿を見つけた。唯だ。 あたる「お待たせぇ。こんな所にいたんだ。」  俺は唯の元に駆け寄る。  女性が立ち上がると、街灯に照らされて浮かび上がった影は、長く伸びていった。 あたる「ら・・ラム・・。」  座っていたのは、ラムだった。 ラム「ダーリン。来てくれたっちゃね。」  にっこり微笑んでラムが言った。 あたる「なんでラムがここに・・。あのメモは、唯ちゃんじゃなかったのか?」  あの筆跡は絶対ラムのものではなかったはずだ。 ラム「唯だっちゃよ。だから、コレ。」  ラムが差し出したのは、小さな箱包みだ。唯のプレゼントだという。  箱包みには、またメモが貼ってあって、  『ごめんっ。ラムさんに頼んじゃった。   これがプレゼントです受け取ってください。   そうそう、ラムさんがあたるさんに、伝えたいことがあるみたいです。聞いてあげてね。   それと、やさしくしてあげて。                                           唯』 あたる「・・・・これって・・。」  俺はラムの顔を見た。  ラムも俺の顔を見つめていた。俺の目とラムの大きな瞳が合う。  そして、ゆっくりとラムが口を開いた。 ラム「ダーリン・・・ううん・・諸星クン。」  ドキッとした。ラムに『諸星クン』なんて呼ばれたことなんてなかったからだ。 あたる「な・・なんだよラム。どうかしたのか? 変だぞおまえ・・。」 ラム「諸星クンに、聞いてほしい事があるっちゃ。」  どうしてか、すごく心臓がドキドキしてる。今にも飛び出してしまいそうな勢いだ。  ごくっと唾をのんだ。その音がかすかに聞こえた気がした。 あたる「聞いてほしいことって?」  またラムが俺の顔を見て、ゆっくりと話し出した。 ラム「ウチ・・・、ウチは諸星クンの事が・・・好きだっちゃ・・・。」 あたる「!!!」  俺の中で、ものすごい衝撃が全身を駆け巡った。  ラムには今まで『好きだ』と言われてはいたけど、こんなシチュエーションで、正面きって言われたことは一度も無い。 あたる「・・なんで・・・なんで今頃そんなこと?」 ラム「ウチ、ダーリンに『告白』したことないなぁって思ったっちゃ。だから思いきって告白したんだっちゃ。」  俺とラムはベンチに座った。そしてラムは、なぜ『告白』しようと思ったのか、いきさつを話し出した。  それは日曜日の夜の事だ。 唯の部屋。 唯「ねぇ、ラムさん。ラムさんとあたるさんは、どっちが付き合おうって言ったの?」  ふいにラムは唯に尋ねられた。 ラム「えっ? ウチとダーリン?」  ラムは少し考え込むように、顔をしかめた。 唯「だって、ラムさんはあたるさんと夫婦なんでしょ? あたるさんに告白されたの?」 ラム「ううん。ウチは、ダーリンに一度だって好きだなんて言ってもらったこと・・・無いっちゃ・・。」  ラムは寂しげに言うと、俯いてしまった。 唯「えっ?! じゃあラムさんがあたるさんに告白したんだぁ。やるぅ!」 ラム「告白? ウチ、告白した・・のかな?」 唯「まさか『告白』無しに付き合ってるワケ・・ないもんね。」  ラムは「うぅ〜〜・・。」っと唸って両膝を抱え込んだ。 唯「うそ。マジ? 告白してないの?」 ラム「ううん。ウチはいつもダーリンに『好き』って言ってるっちゃ。でも、いっつもダーリンは笑って誤魔化すっちゃ。」  ラムは、ふぅっと小さな溜め息をついた。  すると唯は椅子から立って、ラムの正面に座りなおす。 唯「じゃあ、二人はまだ、お互いに正式な『告白』はしてないのね・・。」 ラム「正式な告白?」 唯「笑って誤魔化してるのは、ラムさんがあたるさんに言っている『好き』は、あたるさんからすれば、スキンシップになっちゃってるの   かも。ラムさんが考えてるより、軽い気持ちで受け止められてるのかも知れないね。それじゃあ、いつまでたっても変わらないよ。」  唯の言葉に、ラムはぷーっと膨れ上がった。 ラム「でもダーリンは、ずぇーーーったい『好きだ』なんて言わないっちゃ。」 唯「これだから最近の女子高校生は・・。」  やれやれってな具合に首を振った。 唯「相手の気持ちを知りたいなら、まず、自分の気持ちを知ってもらわなきゃ。自分は真剣なんだってトコを相手に分かってもらう。そう   すれば、きっと相手も真剣に答えてくれるはずよ。ただ力任せに聞き出そうとしても、相手を頑固にさせちゃうだけだと思うよ。」 ラム「でも、ダーリンはもう、ウチの気持ちを知ってるはずだっちゃ。」 唯「そうかぁ・・、照れ隠しでもあるのかなぁ、あたるさんてシャイなのね。」  ちょっと間、二人して考え込んでしまった。そして、唯が一つ提案をだした。 唯「じゃあさ、とりあえず『告白』してみない? 答えを聞き出すためとかじゃなくて、ラムさんからあたるさんに想いを伝えるために、正   々堂々とさ。」 ラム「でもダーリンはウチの話しなんて・・。」  唯はラムの目を見ると、二カッと笑って、 唯「まかせなさ〜〜い! うふふふふ・・♪」 ラム「・・・ってワケだっちゃ。」 あたる「そっか・・・、唯ちゃんが・・。」  と、突然ラムが立ち上がって、くるりと向きかえると、 ラム「でも、告白して、気分がスッキリしたっちゃ。心の中のモヤモヤが、消えた気がするっちゃよ。」 あたる「・・・・・。」  ラムの気持ちとは逆に、俺の心のプレッシャーは大きくなった。今度は俺が答えなきゃいけない番だから? ラム「でもね、ウチはダーリン・・じゃなくて、諸星クンのウチへの気持ちは、まだ知りたくないっちゃ。」 あたる「えっ? なんでだよ? あれだけ聞きたがってたじゃないか。」  するとラムは、ちょっと寂しそうに、 ラム「どうしてかな・・、なんだか答えを聞くのが怖いっちゃ。答えは二つで、必ずしもウチが期待している答えが出てくるとは限らない    もんね・・。」  そのラムの言葉は衝撃だった。決意の表れに思えたからだ。  俺の答え一つで、二人の全てが決まってしまうような気がした。今度ばかりは、誤魔化せない。 あたる「ラム・・。」 ラム「だから、答えは、また今度聞きますっちゃ。」  ぺこりと頭を下げて、再び顔を上げると、ラムにはいつもの笑顔が戻っていた。  そして、俺の腕を取ると、 ラム「さあ、ダーリン。みんなが待ってるっちゃよ。カラオケ!」 あたる「う・・うん・・。」  ラムに腕を引っ張られ、俺はみんなの待つカラオケボックスに向かった。  そんなあたるとラムの様子を、遠くで見守る二人の姿があった。 沙織「うまくいったじゃない。きっとあの二人は大丈夫よ。」 唯「そうだね・・。告白で、あたるさんの心に少しでも変化が起きれば、成功・・よね。」  沙織は、唯のバイクの後部座席にまたがって、ヘルメットをかぶった。 沙織「さっ、カラオケに行きましょ。」 唯「よしっ、行こっ。」  唯もヘルメットをかぶると、バイクのエンジンをかけ、勢いよく走り出した。  俺たちは、カラオケで3時間、喉がカラカラになるほど歌いまくった。  そして、日付が変わるころ、「明日は水曜だから、あまり遅くならないうちにお開きにしよう」ってことで、俺たちは帰路についた。 あたるの部屋。  俺は自宅に帰ると、すぐ布団にひっくり返った。  ラムは部屋には帰って来ない。UFOで寝るんだって。唯ちゃんは先にバイクで帰ったから、もう寝ちゃってるかも。  布団にもぐってはみたものの、ラムの告白で頭がいっぱいになっちゃって、目が冴えてしまう。  ラムに告白してもらって・・俺は、嬉しい・・んだよな、きっと。  いろんな事が頭を巡って、その夜は、一睡もできなかった。  明け方になって、俺はうとうとしていたらしい。目覚まし時計で起きた時には、唯はもう出かけてしまっていた。  昨夜は気付かなかったけど、机の上に、小さな包みが置いてあった。カードを添えて。  『パーティーで渡せなかったプレゼントですっちゃ。   ハッピーバースデー、ダーリン。                          ラム』  他には何も書かれてなかった。  プレゼントは、メタリックを基調にした、かっこいい腕時計だった。  これは・・・俺が前にラムと一緒にデパートに行った時、見つけて、いいなって言ってたやつだ。ラム、覚えててくれたのか・・・。 あたる「行ってきまぁっす!」  俺は慌しく支度すると、朝食もそこそこに、学校へ向けて駆け出した。  今すぐラムに会いたい、そんな気がしたからだ。  だから俺は走った。ラムにもらった腕時計をつけて。 エンディングテーマ:モノトーンの夏                                       第四話『はっぴいバースデーあたるさん。』・・・完