キミと過ごした日々 『第2話』出撃 「国連軍はお手上げ。どないします?」 ノームがデーモンに声をかける。 「ARMOR01を使う」 「適格者がおらへんよ」 「今、届いたんや」 そう言い残してデーモンは司令塔を後にした。 鬼星内の廊下 「サクラさん、後どれくらい歩けばいいんてすか」 「ん〜、もうすぐ着くはずじゃ」 「そのセリフ、もう8回も聞きましたよ〜」 「えーい!もうすぐ着くと言うとろーが!!」 結局のところ、迷ったのではないか………… プシュー 廊下の横の扉が開いた。 「おい、サクラ。こんなところにいたのか?今は一刻を争うんだぜ?早くしろ!!」 扉からは鉄のビキニの上に白衣を羽織った女性が現れた。 「弁天!おぬし、早く迎えに来ぬか!!どーせモニターで見ておったのだろうが」 弁天をわざと横目に見る。 「ほお、今日は珍しく頭が冴えてるじゃねぇか」 弁天はニィと口元を上げて笑ってみせた。 見た感じ、二人はケンカ仲間に見える。 「あの〜、オレ達はどこに行けばいいんですか?」 あたるが自分だけのけ者にされたように感じたため、サクラ達に声をかける。 「あぁ、すまねぇ、諸星。あたいはここの技術部部長、弁天だ」 自己紹介を軽くして、弁天は長い長い廊下を歩きだした。 暗闇の中 どーも、この“鬼星”ではオレのことが調べられているようじゃ……… あたるが思考に浸っている間にも弁天達は足を進ませ、いつの間にか暗闇の中へと入っていた。 「さぁ、諸星。着いたぜ」 弁天が腰に手をあてて言った。 「へ?着いたって………ここ、真っ暗じゃないですか」 パシャ あたるが言い終わるのと同時に部屋の明りがついた。 「!!これは………さっきの」 それは先ほどあたるを助けた人型ロボットだった。が、青ではなく燃えるような赤色だ。 「そう、あたい達鬼星が作った科学の結晶『ARMOR』。この世で使徒に対抗できる人類の最終兵器。これはその01だ。本当は00もあるが、それだと勝算は極めて低い。現在もやられて一時撤退したところなんだ。」 「だが、これを装着できるのは選ばれし者『適格者』しかいないのだ。」 サクラが付け加える。 「それが諸星、お前だ」 二人の視線があたるに向けられる。あたるにはその2つの視線が全世界からのもののように感じられた。 「オ、オレが…………?」 「そや!」 あたる達の会話を上から聞いていたのだろうか。遥か上のガラス張りの部屋からあたる達を見下ろすデーモン。 「久しぶりやな、婿どの」 「へ?………だ、誰じゃあおのれは?!」 かなり非現実的な出来事だらけ。さすがにあたるも敬意を払うことを忘れてしまう。 「出撃や」 地上 「(ぬゎんでオレがアイツの言いなりにならにゃならんのだ!)」 あたるは今、01を装着して使徒から少し離れた所に立っている。 だけどなんか、……………懐かしい感じがする。 『よいか、諸星。使徒の弱点は胸のあたりにある、あの赤い硬球、コアじゃ。兎に角コアを狙え』 あたるにサクラからの通信が入る。その指示に従い、動こうとするあたる。だが……………… 「な、何でこんなに体が重いんですか?!」 発令所のモニターには動きにくそうに歩くあたるの姿が映っている。 『おぬしが01とシンクロしきれていないからであろう。…………だが、おぬしの実力があれば大丈夫であろう?』 あたるはサクラがこちらを見ながら不敵な笑顔を浮かべているのを想像できた。 「フッ、オレのことは何でもお見通しってわけですか!!」 言うが早いか、あたるは使徒に向かって走り出した。 「うおおぉぉぉ!」 だが、使徒は待っていたかのようにあたるの体当たりを受け止める。 あたるは次の攻撃を繰り出す。が、やはり鈍い故に使徒に軽々とよけられる。 「チィッ」 ドシン 使徒の手から出た光の光線があたるを襲う。あたるは思わず尻餅をついてしまう。 『諸星!』 まだ荷が重すぎたか?! 使徒はあたるの頭を掴み、軽々と持ち上げると先ほどの光の光線であたるの額を集中攻撃。 『諸星、撤退じゃ!!』 「(んなこと言ったって………)」 ドカッ 渾身の一撃。その攻撃であたるの体はビルに叩き付けられる。 あまりの痛さに気を失いかける。 「(オレ、ヤバいかも………………ここで死ぬんかなぁ)」 使徒があたるにトドメをさしに近寄ってくる。 その足音が近づいてくるにつれ、あたるは死への恐怖を感じた。 死? ………………………死ぬのは、嫌だぁ!! パキィィィン あたるの右手のブレスレットが壊れる。 「勝ちましたね」 司令塔でノームがデーモンに声をかける。 「せやな」 友引町中央病院 病室は嫌になる程の清潔感を漂わせ、まるで白以外の色は受け入れないかのようだ。 あたるはここのベッドに横たわっている。 突然、ハッと目覚める。 「ここは…………どこだ」 その返答をしてくれる者はおらず、ただセミの鳴き声が病室内に響きわたっていただけだった。 「!そうだ、ブレスレット………」 戦闘中に壊れたのを思い出して右手を頭の上に掲げる。 そこには確かに壊れたはずのブレスレットが存在していた。 「よ、良かったぁ。……………けど、これがあるってことはアレは夢じゃなかったわけだ」 プシュー 突然、扉が開いた。 「ん?」 扉が開いた先には綺麗な黒髪を肩まで伸ばし、あたると同い年に見える少女が立っていた。 「こんにちは、諸星あたる君」 妙に馴れ馴れしいなぁ、この子 「あっ、あなたにとっては“はじめまして”か!あなたの先の戦闘を見たもんだからつい………ごめんなさいね」 顔に出ていたのだろうか、それとも彼女が鋭いのだろうか。キッパリと言い当てられてしまってあたるは動揺する。 「いや、別に、謝らんでも………」 「ふふ、私はファーストの三宅しのぶ。しのぶで良いわよ、あたる君」 「ファースト?」 「そっ、『最初の適格者』っていう意味よ。だからあなたはサードね。同じ適格者同士、仲良くしましょ♪」 「ああ、あの時助けてくれたのはキミだったわけだ!サンキューな!」 「ま、まぁ、良いってことよ………それじゃ、私はこれから訓練だから…………またね」 心なしか、僅かに頬が赤いしのぶはそう言ってあたるから離れる。最後にバイバイと手を振ってしのぶは病室を出た。 「笑顔、キレイなんだ………」 閉じられた扉に寄りかかるしのぶの呟きは誰もいない廊下に響いた。 鬼星発令所 発令所では鬼星スタッフが先日の対使徒戦のデータを整理している。か、一人だけパソコンの前に座らずにただ立っている人物がいる。 「なぁサクラ、ちっとは仕事に追われているあたい達の手伝いでも………とか思わねーのか?」 「私は作戦部長じゃ。頭は使えるがパソコンは使えん」 がちゃ 「あたる君の意識が戻ったようです」 スタッフの一人が病院からの電話をサクラに報告する。 「容体は?」 「はい。若干記憶に混乱があるもようです」 「まさか、精神汚染か?!」 「いえ、その心配はありません」 「そ、そうか」 サクラは心底安心した表情を見せる。と、何か思い出したかのように頭を忙しく動かした。 そういえば………… 「……………お雪、司令がおらねぞ?」 「司令ならあたる君の病室へ行ったわ」 そう話しながらもお雪が操作するパソコンのモニターはその異常なスピードを落とさない。 「げ!あの顔を見たらさらに頭が混乱するではないか!?」 プシュー サクラは直ぐさま発令所を出た。 「へぇ、サクラのヤツ諸星を可愛がってるじゃねーか」 サクラの姿を見届けた後、弁天が言う。 「息子ができた気分になっているのね」 お雪はパソコンの操作を止めてコーヒーを飲んだ。 「だけど、私達はあの子達に戦争をやらせないといけないなんて、勝手な大人よね」 「ああ」 弁天は苦いものでも食べたかのように顔をしかめた。 病室 プシュー 「諸星、無事か?!」 サクラのこの第一声は病室に響く予定だったが、そうもいかなかった。 「だから!オレは知らんと言うとろーが!!」 「なんでや!?なんで知らんふりするんや!」 「ふりじゃなくて本当に知らんのだ」 あたるはデーモンに襟を掴まられていた。デーモンは危害を加えるつもりはないかもしれないが、何しろ鬼だ。はたから見れば襲っているように見える。 「司令、一体どうなさったのです」 「どうもこうも、婿どのはわての娘のことは知らん言うんや。せやかて、娘はもう日本に向こうとるし…………」 デーモンはあたるを放した。 「えー、あー、司令?司令はいつの話をしてるんですか?」 サクラの乱入により冷静を取り戻したあたる。 「ん〜、かれこれ8年前のことや」 「オレ、8年前のあの母の命日以前の記憶はないんです。だから…………」 「んなアホな!わしんところにはそんな報告書は来とらんで〜」 ジロリとサクラに視線を送る。 「え、いや、その〜………諸星、その情報は他に漏れぬように何か細工でもしたのではないか?」 サクラは冷汗をかきながらも、原因を突きとめようと懸命に頭を働かせた。 「細工ってわけでも………ただ誰にも言わなかった」 「(そら見ろ、私のせいではないではないか)……だが、その異変には気づいておったのだろう?何故誰にも相談しなかったのだ?」 「誰もオレに相談して良いって言わなかったから…………。それに、最低限のことは覚えてたし」 「まぁ、そげな理由やったらしゃーないな。だがな婿どの、お前が忘れてしもうてもお前と過ごした日々を忘れきれへん人もおる。そのことは頭入れとき」 そう言い残してデーモンは病室を出た。 「…………さて、おぬしは今日で退院できるそうじゃ。どうする?」 「どうって、普通に電車で帰りますよ」 「は?」 目が点になる。 「あ、父さんにはまだ会ってなかったなー。じゃ、父さんに会ってから…………」 「すまぬ!!…………おぬしにはきちんと説明していなかったな。」 突然の謝罪に驚くあたる。 「いや、説明も何も父さんの居場所教えてくれたら………」 「……………本当は最初に言うべきだった。 おぬしの父は………………………死んだ」