時は夢のように・・・。  第五話『諸星あたると秘密の部屋』  5月1日、日曜日。ゴールデンウィークは始まったばかり。  唯とラムは、朝早くからバタバタしてた。  唯とラムと沙織ちゃん三人で計画している旅行の準備に追われているのだ。  ラムは朝食も落ち着いて食べていられない風で、唯を「はやくはやく」って急かしてる。  今日はいつものビキニスタイルじゃないから、雰囲気がどことなく新鮮だ。  ラムは、ネックとセンターにYを描くようにタックとレースがあしらわれた真っ白なシャツ。胸元に配された三つのボタンがさりげない けど、しっかりポイントになっている。珍しくスカートだ。黒をベースにして、規則正しく並んだ水玉模様、膝上2センチってトコか。こ れはこれでけっこう似合ってる。  唯が着ているのは、春らしい白のキャミワンピースで、淡いピンク色した小さな花の柄だ。その上に水色のカーデガンを羽織っている。  ご飯を口に運びながら、唯は振り向いた。 唯「ラムちゃん、京都は逃げてかないから、朝ごはんはちゃんと食べて。お腹すいちゃうよ。」 ラム「でも、沙織との待ち合わせ時間は9時半だっちゃ。」  しきりと時計を気にしているラム。時計は9時を少しまわったところだ。 唯「大丈夫よ。まだ20分もあるじゃない。」  お茶碗をテーブルに置いて、お茶を一口すする。 ラム「でも、沙織の家までけっこう遠いっちゃよぉ。急がないと遅刻しちゃう!」  ちょっとイライラ気味なラム。そんなラムをよそに、唯はのんきにお茶をすすってる。 唯「もう少し平気よ。だからラムさんもご飯食べて。」  俺は唯のその自信の理由が分かった。唯にはあのバイクがあるからだ。以前、一度だけ学校に遅刻しそうになって、送ってってもらった ことがあったんだ。その時のことは、思い出しただけで乗り物酔いしてしまいそうだ。 あたる「そうだよ。時間の事は気にしないで、朝飯くらいはちゃんと食え。」 ラム「もうっ、ダーリンまで唯と一緒になって・・。遅刻して沙織に怒られても知らないっちゃよぉ!」  ラムはぷーっとホッペを膨らませて食卓について、ご飯とおしんこを口に入れた。 あたる「それにしても・・・旅行だなんて、俺は聞いてませんでした!」  ぶつぶつ文句をこぼすと、唯は首を竦めて、ニコッて笑った。 唯「沙織ちゃんとの旅行はずっと前から約束してたんだ。こちらにお世話になり始めて間もないし、・・・言いそびれちゃって。」 ラム「ウチもなんだか言いづらくて・・、ごめんね、ダーリン。」 あたる「・・・もういいよ、それは。だから唯ちゃん、帰ってきてからデートしてくれるって約束は・・。」 ラム「誰も約束してないっちゃ。」  ラムの冷たい突っ込みに、二の句が告げなくなってしまった。  唯はそんな俺を見て、けらけら笑った。 唯「ふふっ・・。でも、京都なんて高校生以来、せめて四泊五日くらいしたいなぁ。」 あたる「ふーーん・・・女の子って、京都が好きなんだな。俺のクラスの娘も、女の子同士で旅行したいなんて言ってた。」 唯「だって京都って素敵なんだもの。中学の時に修学旅行で行ったけど、あまりゆっくり回れなくて、なんか残念だった。三人で、好きな   場所を巡って、お買い物して・・・。」 ラム「ウチはね、ウチはね♪」  と、二人はうきうきと話す。  まったく女って、どんなときでも買い物ははずさないよなあ。 あたる「二人とも、旅行だからってフラフラ浮かれないように!」 ラム「何言ってるっちゃ?! ダーリンこそ、ウチが留守なのをいいことに浮気なんかしようものなら、どうなるか分かってるっちゃね!」  すごい勢いで俺につめよるラム。ちょっとたじろいでしまう。  俺の気も知らないで、唯はクスクス笑う。唯とラムと沙織ちゃんの三人で旅行だなんて、俺が旅先で出会う男だったら、絶対放っておか ない。そう思うから言っただけなのに。 唯「あたるさんは、連休どうしてるの?」 あたる「がーるはん・・。」  ついぽろっとガールハントと言うところだった。でも、ラムにギロッと睨まれてしまった。  頬を冷や汗がつたっていく。 あたる「・・・た・・たまには家でじっくりと読書に励むのも・・いいかな・・。」 ラム「それもありえないっちゃ。」  つんけんしてるラムを、横から唯がなだめる。 唯「まぁまぁ、あたるさんを信じよぉ。さぁて、そろそろ出かけましょうか。ハガキ出すわね、お土産も期待してて。」  食事を終えた二人は、荷物を持って庭に出た。  庭では母さんが洗濯物を干してて、声をかけてきた。 母「もう出かけるの、気を付けて行くのよ。連休中あたる一人だけだと、心細いわね・・。」 あたる「どーせ俺は役立たずですよっ!」  母さんの言葉にもだが、それよりも蔑んだ目つきには、無性に腹が立った。  俺はむくれあがって、そっぽを向いた。 唯「行ってきます、おば様。4〜5日留守にしますけど、帰ったらきちんとお手伝いしますから。」 ラム「お母様、もちろんウチもお手伝いするっちゃよ。」 母「はいはい。帰ったらいっっっぱい手伝ってもらいます! でも、旅行はしっかり楽しんできなさい。」 唯・ラム「はぁ〜〜〜〜い♪」  満面の笑顔で、二人が見事にハモった。  唯は洋服の上からつなぎを着込み、バイクにまたがった。 唯「さあ、ラムさん乗って。これ、ラムさんのヘルメット。」  そう言うと、ラムにヘルメットを差し出す。前に俺が借りたやつだ。 ラム「ウチは平気だっちゃよ。必要ないっちゃ。」 あたる「かぶっといたほうがいいよ、ラム。」 ラム「必要無いのにぃ・・。」  いぶかしげな表情で、しぶしぶヘルメットをかぶると、やっぱり俺と同じリアクションで、 ラム「なんで唯の声だけ、こんなに聞こえがいいっちゃ?」  唯はニッコリ笑って、あの時と同じようにラムに説明した。 唯「ちゃんとシートベルトしてね。」  バイクのスイッチをONにして、形をレーシングタイプに変化させると、エンジンをかけた。  辺りに近所迷惑な爆音が響く。  ゆっくりとバイクが動き出して、家の門の方に行った。 あたる「うひひひひ・・、はたしてラムは、無事に沙織ちゃんの家にたどり着けるかなぁ。」  玄関の方で、エンジン音がひときわ大きく鳴り響いた。と同時に、 「っちゃーーーーっっ!!」  ラムの叫び声が近所に木霊して遠ざかって行った。                                 *  不思議なものだ。いつもはラムと唯とできゃーきゃー騒いでて、うるさくてやんなっちゃうくらいだったのに。居なければ居ないで、家 の中が妙にがらんとして、寂しい。  旅行ったってほんの4・5日のことなのに・・・俺は、ひとりの時間をもてあましてしまった。  ガールハントに行こうか・・。でも、なんでだろう、気分が乗らない。  こないだラムに告白されてから、ガールハントという行為がなんとなくうしろめたくって・・。そりゃあ、ガールハントは俺の生き甲斐 だ、やめる気なんてさらさら無い。でも、なんかラムの目が届かない所でそんなことするのは、フェアじゃないなんて考えてしまう。  くそっ、なんでこんなに変わっちまったんだ、俺っ。絶好のチャンスだ。ラムのいない今ならなんだって出来るじゃないか!  ・・・でもっ!  不意に、あの夜のラムの顔と言葉が頭に浮かぶ。そして、ガールハントの意欲が消え、罪悪感だけが残る。  俺の心の中で、葛藤が起こり、堂々巡りを繰り返すのだ。  苛立って、頭をかきむしった。  で、結局。俺は何人かの悪友に電話をかけてみる。  案の定、誰もいやしない。パーマも面堂も同じだった。 あたる「もしもし、パーマくんのお宅ですか。諸星あたるです。あの、パーマくんは・・・出かけてる? ミキちゃんと? そうですか、い     や、いいです。借りてたCDを返そうかと思ってたんですけど、また学校で会うし・・。」  電話を切った途端、やけに悲しくなって、溜め息が出る。 あたる「そうかぁ、デートか。あ〜・・。面堂もハワイの別荘に出かけてるっていうし、あいつらが休みに暇してるわけないかぁ。」  世間では行楽で賑わっているゴールデンウィーク、俺はあまり出かけもしなかった。  たまに商店街をぶらついて家に帰ると、寂しくてたまらなくなる。  なんでこんなに虚しいんだろう。ラムと唯がいないってだけで。  今頃何してるのかな? あの三人・・・。  変なヤツにからまれてやしないか? でも、ラムが一緒だからそんな事心配してもしょうがないか、電撃があるもんな・・、でもツノが抜 けてたら? ・・・まさか、今日あたりラムのツノの生え変わり時期じゃ?  カレンダーの日付を確認する。だいたい一年周期だから、まだ先のようだ。  俺はちょっと考え、・・・やめた! ろくな考えにならん。  寂しさを紛らわせようと、机の奥からエロ本を出してパラパラめくった。  ちょうど間がいいんだか悪いんだか、そのページにはどこにでもいるようなミニの制服にルーズソックスの女子高生二人が載ってた。な かなか美形の女の子ふたり組みだ。  駅の階段で、ニッコリ笑って振り返ってる。  次のページで、場面はホテルらしき部屋に変わった。ページをめくるごとに露出度が高くなってくる。  ・・・うわぁ・・・。  あらぁ〜っ、ひでぇ!? あんなことしてるし・・。  俺はエロ本に夢中になってた。そのうち、奇妙なことに・・・顔は全然違うのに、本の女の子たちと、唯とラムがだぶって見えてきた。  唯とラムが京都で悪い奴らに目をつけられて、追い詰められて、ホテルに連れ込まれたり、いかにもヤクザ風な男たちに、あんなことや こんなことや・・・される前に男たちが黒焦げになるか。                                 *  俺はエロ本を机にしまって、茶の間に下りてきた。  テレビをつけると、若手お笑いタレントが体をはってギャグをかましてる。思わずふっと笑って、次の瞬間、いっそうの虚しさに襲われ る。  喉の奥にざらついた気持ち悪い物がつまって、やけに吐き気がする。自己嫌悪の味だ。 あたる「・・・ラムの馬鹿・・・唯ちゃんの馬鹿・・。心配かけさせやがって・・・早く帰って来いよな・・・。」  俺が勝手に想像を巡らせて心配してるだけなんだけど。  妄想の虜となって、二階に上がり、唯の部屋の前に立ってみる。ドアに手をかけて、そして、思いとどまる。  風呂に入れば、唯とラムがシャワーを浴びているところを想像してしまう。  俺は、そんな感じで、人には決して言えない想像に悶々とする夜を過ごしたのだった。  翌日、5月2日の夜。  電話のベルが鳴った。 「あっ、あたるさん? わたし、唯!」  受話器から、変わらぬ爽やかな声が聞こえてきた。  じぃぃんと胸が熱くなる。 あたる「唯ちゃんか。旅行は楽しんでる?」  内心すっごく嬉しいが、俺はなるべく平静を心がけて話しを続けた。 唯「ええっ、楽しいよぉっ。京都はとっても素敵。えっとね、今日は醍醐寺と、南禅寺に行ったの。桜がとっても綺麗だったわぁ。あとね   あとねっ、円山公園にも行ったんだ。円山公園も桜でいっぱい! 桜の花びらが風に乗ってヒラヒラと池に落ちてくの。風流だったな。   お昼は公園の近くのお店で湯豆腐を食べたのよ。和菓子と抹茶のセットがあってね、風情がいっぱい。」  俺は唯のお喋りを黙って聞いていた。お寺の話しとか言われてもチンプンカンプンだけど、唯の声を聞けただけでいいんだ。なんだかこ っちまで楽しくなる。 唯「・・・でね、『あぶら取り紙』買ったんだ。ラムさんはねぇ、昨日、京都に着いて一番に清水寺に行ったんだけど、清水寺の近くにあ   る地主神社で『えんむすびお守り』買ってたよ。けっこう有名なんだって。」 あたる「お守りは分かるとして、『あぶら取り紙』って?」 唯「えっ? 知らないの? 顔に浮いてくる油分を吸い取ってくれる小さな紙のことよ。女の子はよく持ち歩いてるよ。勉強不足ですねっ、   あたるさんっ♪」  勝ち誇った口調で、唯。俺はちょっと口ごもってしまって、 あたる「し・・知ってたよっ。」 唯「ホントかなぁ〜〜・・まっ、そゆことにしときましょ。ああっ、そうそう・・・。」  京都の話しで盛り上がった後で、俺に頼みがあると切り出した。 唯「お願いなんだけど、私の部屋に行って、見てきてもらいたいものがあるんだ、いいかなぁ?」 あたる「ええっ!? 唯ちゃんの部屋にっ?! いいですともっ! よろこんでっ! なんなりとお申し付けくださいっ!!」  唯が家にいるときでも、まだ部屋に入れてもらったことがなかったのだ。 唯「変なあたるさん。なんでそんなに力んでるの? 今ね、絵葉書を書いてるんだけど、あたるさんと、フロリダにいる家族にも出そうと思   ったんだけど、住所が分からなくて。私の机の引き出しにアドレス帳が入ってるから、見てもらえないかな? 水色のハートの模様が表   紙の、小さいノート。」 あたる「オッケーっ♪ じゃあ、調べたら折り返し電話するよ。京都のホテルでしょ? ちょっと待っててね。」  俺は電話を切ったその足で、二階へダッシュした。  唯の部屋に堂々と入れるんだ! そう思ったら、急に元気が出てきた。  なんか最低だな、俺って。                                 *  一階は台所と茶の間、奥の間、トイレ、風呂があって、二階は俺の部屋と物置になってた部屋があった。  俺の部屋の隣が唯の部屋だ。以前は物置だったところで、彼女の荷物を運び込んで以来、ここには立ち入ってない。  カタカナの字で『ユイ』って描いた可愛いプレートがドアノブにかかってる。きっと手作りだな。  ノブに手をかけて回すと、ドアがすっと開いた。鍵はかかってなかったのだ。不用心なだけか、俺を信用してくれてるのか。 あたる「お邪魔しますよぉ〜〜。」  一歩部屋の中に入って、ざっと見渡した。  まず目についたのは、やけに大きな熊のぬいぐるみだ。ピンクのクッションに寄りかかって座ってる、立たせると1mくらいあるだろう か、真っ白な毛並みでフワフワしたさわり心地だ。首には真っ赤な蝶ネクタイなんかしてやがる。  机に本棚、箪笥・・・だいたい俺の部屋と同じようなもんだ。でも決定的な違いがある。雰囲気だ。ぬいぐるみはこの熊を頭に大きいの やら小さいのまで、10体くらいある。ハートの形したクッションとか小さな観葉植物なんか置いてあるのを見ると、ああ、女の子の部屋 だなって思う。  なにやら爽やかないい香りがする。これが唯の匂い・・・?  やばい、目的を忘れるところだった。  机の上には、色とりどりのキャンディーが入ったお洒落な器とペン立て、辞書などの本、CD、フォトスタンドが立ててあった。  フォトスタンドにあった写真には、唯と唯の家族が写っていた。  きりっとしてて頼もしそうなお父さんと、若くて美人なお母さん。小学生だと言ってた妹、そしておすましした唯。彼女はきっと毎日、 この写真を見てるんだろうな・・・。  一番上の引き出しを開けた。  引き出しの手前側にはペンケース、消しゴムとかクリップなんかのこまごました文房具がきちんと整頓してあった。奥にしまってあった 厚手の本を見て、胸が高鳴った。  本の表紙に『DIARY』って記してある。日記帳だ! 鍵がかかるタイプ。ってことは鍵もどっかにありそうだな。何が書いてあるのか 、すっごく気になる。気になるが、覗き見してどうするっての。  俺は誘惑を振り払い、水色のハートの模様がついたアドレス帳を探した。  あったぞ。日記の隣だ。  ページを数枚めくると、フロリダの家族の住所が目に止まった。  住所を確認した俺は、急に余裕が出てきた。  あらためて部屋の中を眺める。  ちょっと躊躇いはあったけど、そんなこと足止めにはならない。俺は部屋の中を散策した。  こんなおいしい状況を見逃して、出て行けない。  俺の悪い癖だ、それは分かってる。まったく誘惑に弱いよなぁ。  ・・・やっぱり良くない。やめよう。  散々見てまわってから、決心した。机の上にあったキャンディーを、一個もらって、口の中に放り込んだ。  部屋を出て行こうとした時、ふと机の影に、なにかゴミのようなモノが落ちていたので、何気に手に取った。  こんなところにゴミを散らかしとくなんて、きれい好きな唯ちゃんらしくない。出かける時ばたばたしてたから、そのせいかな。  そのゴミみたいなものは、柔らかい布で出来てて、白と水色のストライプ模様。ヒラヒラしたレースみたいなのがついてる。  ソレは・・・とてもゴミなんて云えるモノじゃなかった。 あたる「どわぁーーっ!! こ、こここ・・コレはっっ?!!」  広げてみて、ソレが何であるか確認できたら、おもわず叫んでしまった。幸い家には父さんも母さんもいなかった。水色のストライプの ソレは、ショーツだったのだ。  すっげーっ!! 小さいっ!! そういうものだと思ってはいたけど、実際、目の当たりにすると、想像していたよりずっと小さい。オドロキ だ。こんなちっちゃなのにお尻とかが入るのか?  まじまじと眺めて、観察してしまった。  でも、じわじわと嫌な予感が頭の中で染み出てきた。 あたる「これは・・、やばいんじゃないかぁっ!」  ショーツをじっくりとなめるように眺めた後で、俺は我に返った。  コレはどうしたらいいんだ?  机のところに落ちてましたなんて渡すのも変だし、箪笥に返しておいても不自然で気付かれてしまうかも・・。そりゃあないぜ、これば っかりは濡れ衣だ。・・・鑑賞してたけど・・。  何食わぬ顔して、このままもらっちゃおうか・・。  でも、下着がなくなった事を唯が気がつかないわけないし。  いかんっ! きっとラムも側にいるはずだ。あまり遅いと勘繰られてしまう。 唯『アドレス帳、まだ見つからないのかな? 遅いわね。』 ラム『きっとダーリンの事だから、唯の部屋であんなことやこんなことしてるっちゃ!』  ってな事言ってるぞきっと。今は悩んでる場合じゃないぞ!  とっさに俺はショーツを握りしめたまま、部屋を出た。  唯の宿泊先のホテルに電話をかけて、唯に住所を伝えてやった後、俺は再び二階の唯の部屋に向かった。  さてと、コレをどうしよう。  バレないようにするには?  やっぱり貰っちゃう?  いろいろ悩んだ末、やっぱり、こっそり箪笥にしまう事にした。  箪笥のどこに下着がしまってあるんだろ?  一番上の引き出しには、ハンカチと靴下が入っていた。  上から二段目には、白いカッターシャツやら、ブラウス、Tシャツ。  三段目にはスカート、トレーナー、ジャケット。  四段目はスーツとか着物とか・・、仕事用の服なのかな?  順番に見てきて、一番下の引き出しをあけた。  その瞬間、一瞬で脳みそが沸騰したみたいに歓喜が込み上げてきて、涙がちょちょぎれそうになった。  やりぃーーっ!! 下着発見っ!! レースで出来たものやら、ふわふわの透けた生地・・・これがスリップってやつか。手当たり次第に引っ 張り出して埋もれてみたい衝動にかられる。けど、そんなことしたら後が大変だ。  きっちりと丁寧に畳まれた下着の山の間に、さっきのヤツを押し込んだ。  んんっ? なんだコレ。  箪笥の奥のほうに色鮮やかな服があった。乱さないようにそっと出してみる。 あたる「これは・・・水着だ♪」  青いチェックのワンピース形の裾にフリルのついた、ちょっと上品な水着。それともう一つ、鮮やかな色使いですっごく大胆なヤツだ。 びっくりするほどのハイレグカットで、背中のところが腰くらいまで大きく開いている。  セクシーな水着はまだ未使用みたいだな。メーカーのタグがついたままだ。Mサイズか。  可愛らしいのもいいけど、俺としては絶対セクシーなヤツだな。  ふと気付いたら、化粧机の鏡に鼻の下が伸びきった俺の顔が映っていた。ハイレグ水着を着た唯の姿を想像して、顔がデレデレになって しまっていたのだ。  意外と胸があるのは知ってる。ウエストは細いし、脚も長いし、ボディラインも綺麗だ。(つなぎを着た唯を見た限りじゃ・・・。)  夏になったら、唯を海に誘おう・・・。  あっそうだっ!! ブラを見ればサイズが分かるじゃないか! あたる「なんとっ?! Bカップで80かっ! やっぱりなぁ。」  しかし、この水着、誰かに見せるつもりで買ったのか?  唯は綺麗で魅力的だ。ちょっとだけ不思議なオーラを持ってて押しが強いけど、そこもまたイイ感じで可愛いんだ。付き合ってる彼氏の 一人や二人いたって不思議はない。  ・・・確かに、いつもお姉さんぶってて、たまに年上とは思えないくらい可愛かったりで、そんなギャップは困りものだけど。そういえ ば、俺は、彼女の家族みんなに気に入ってもらえる自信なんてないな・・・。  妄想はとめどなく、だんだんと妙な方向にむかっていった。                                 *  5月5日、子供の日。  風をはらんで勢いよくひるがえる鯉のぼりが、あちこちで見られる。  今日は五月晴れ。青い空に鯉のぼりが色鮮やかに映えて見えた。  俺のちゃっちい悩みを吹き飛ばしてくれっ!  旅行に出た二人のことばかり気にして、しなくていい心配ばかりして悩んでる自分が情けない。 「おいあたる、遠い目してどこ見てんだよ。」 「あっ、あそこに鯉のぼりが見えるよ! 可愛いーっ♪」  庭に立って近所の鯉のぼりを眺めていたら、俺の背後から二人分の声がした。 あたる「パーマ?! ミキちゃん!」  パーマと彼女のミキちゃんが雛人形みたいに並んで立っていた。しかし、こうしてみてもパーマには勿体無いくらいの彼女だよ。 パーマ「あたる、こないだ電話くれたんだってな? らしくなく元気が無かったって、おふくろが心配してさ、これ持ってけってうるさくて     よ。そのついでに、くたばっちゃいないか確かめに来たんだ。」  と、パーマは手に持っていた風呂敷包みを掲げた。  箱みたいな物が入っていた。箱みたいな物は、四角くて厚みがある。 パーマ「その顔じゃあ、あいにくと死んでないみてーだな。」  皮肉っぽいこと言ってくれるじゃん。ニヤついた顔がまた腹立たしい。 あたる「なんとかな・・・腐りかけてたけど。差し入れ持って来てくれたのか?」 パーマ「柏餅だ、おふくろが毎年作るんだ。遠慮はいらねぇから食ってくれよ。」 ミキ「パーマくんのお母さん、とても上手に作られるんです。ほんっとに美味しくて。一緒にいただきません?」  ミキちゃんが、まぶしいくらいの表情で、にっこり笑う。こいつらは、メガネも公認(?)の付き合いだ。なーんか、平和でいいよなぁ。 あたる「ちっ、あてられるぜ。あがれよ、茶でも飲もうぜ。」 ミキ「はぁい。あっ、私、お茶の準備手伝いますぅ。」  俺たちは庭から玄関にまわった。  何気に郵便受けが目に入ったので、中を覗いた。 あたる「あれっ、郵便が届いてるぞ。」  俺は郵便受けから手紙と封書を取り出して、一つ一つ宛名を確認しながら、玄関を上がった。 あたる「これは父さん宛で、これは母さんの・・・それからこの手紙は・・諸星あたる様? 俺宛て? 誰からだろ?」  その手紙は絵葉書になってて、満開の桜と、神社のような建物が写っていた。 ミキ「うわぁ、綺麗な景色。京都のお寺みたいですね。」  京都の・・ってコトは、思い当たる人物は一人しかいない。 あたる「えーと、なになに・・。」 『元気にしてますか? 唯です。京都はとても素敵です。いろんな所に行きました。  お土産を楽しみにしててくださいね。』  やっぱり唯ちゃんだった。  葉書の裏には「ピース」ってやってるラムと唯ちゃんと沙織ちゃんのイラストが書いたあった。へぇー、これ沙織ちゃんが書いたのか。 結構上手いじゃん、みんなよく似てる。 パーマ「なんだよあたる、急に顔色良くなったじゃん。」 ミキ「なるほど、そーゆーことですかぁ。」 あたる「うるせーなぁ、ほっとけ。」 パーマ「いかんなぁ、あたる。もっと素直になったらどうだ? あの娘たちと付き合ってくのは辛くなるぜ。腹割ってぶつかれない相手とは     、いつか決別するしかなくなるってもんだ。」  パーマは口いっぱいに柏餅を頬張った。  結局、柏餅を一番食べたのは、こいつだった。  持って来たランチボックスいっぱいに詰めてあった柏餅を食べるだけ食べて、パーマとミキちゃんは帰っていった。パーマのヤツ、何し に来たんだか・・。  窓の外を見ると、遠くの方で鯉のぼりが気持ちよさそうに空を泳いでる。  なんだか清清しい気分になった。久しぶりの感覚だ。  この時期は、少しずつだけど日が長くなってきていて、夕方なのにまだ明るい。  その日の7時頃に、ラムと唯は帰ってきた。  玄関のドアが開くと同時に、元気な声が木霊した。 ラム「ただいまだっちゃーーっ!!」 唯「ただいまーーっ!!」 沙織「こんばんは〜、おっじゃまっしまぁーっす!」  沙織ちゃんも一緒だった。  この前、沙織ちゃんと初めて会ったときは、面堂とメガネ達が前触れ無く家に来ていたせいもあって、ご機嫌ななめみたいだったけど、 今日のところは上機嫌のようだ。 あたる「おかえりぃ〜〜っ、寂しかったよぉ、唯ちゅわぁ〜〜ん♪」  目標、唯ちゃん。接近しまぁ〜〜っす!  俺は両腕を広げて、唯をハグしようとした。しかし、背後から襟首をがしっと掴まれたもんだから、勢いづいていた俺は尻餅をついてし まった。 ラム「ダーリンっ! 帰ってきて早々、みっともない事するんじゃないっちゃ!」 唯「ただいま、あたるさん。」  にっこり微笑んで唯が言った。  見ると、出かけたときより、荷物が増えている。三人とも、お土産を入れた大きな紙袋と、ふくらんだ旅行カバンを両手に下げていた。 唯「あのぉ・・。」  ちょっと甘えた、すがるような上目遣いで、唯。 あたる「分かってるよ。荷物持てばいいんでしょ。」 沙織「さっすがあたるクン。気が利くじゃなぁい!」  三人は沢山の荷物を俺に押し付けると、「軽くなったぁーっ」と言わんばかりに思いっきり背伸びした。 唯「とりあえず、おじ様とおば様にただいまって言わなきゃ。」  唯たちはスタスタと茶の間の方に行っちまった。  俺も両手いっぱいの荷物を引きずって、茶の間に移動した。 茶の間。  戸を開けると、父さんと母さんが定位置に座っていた。  二人はラムたちの顔を見るなり、顔をほころばせた。 母「まぁまぁ、唯ちゃん、ラムちゃんもおかえりなさい。」 父「おかえり。ゆっくりできたかい?」 ラム「お父様、お母様、ただいまだっちゃーっ。」 唯「ただいま帰りました。長いこと留守にしちゃって、すみません。」  ぺこっと頭をさげて、ちょっぴりはにかんだ。 沙織「お邪魔してます。唯がいつもお世話になってます。」  唯の後ろで沙織が深々とお辞儀すると、唯の顔を見やり、 沙織「きっとこの娘の事ですから、ご迷惑をおかけしてるでしょう?」 唯「ちょ、ちょっとちょっと、沙織ちゃんっ、私のお母さんみたいなこと言わないでよねっ。」  めちゃめちゃあせった面持ちで、目を三角にした唯。ほっぺを膨らませた顔も、また可愛い。  沙織は口を尖らせて、そっぽを向くと、一言ぽそっと、 沙織「べつにいいじゃない・・、私が居ないと、唯はお子ちゃま同然なんだから・・。」 唯「・・・沙織ちゃんっ!」 ラム「まぁまぁ、二人とも。大人なんだから喧嘩はやめるっちゃ。」 沙織「はぁい、はい。っとぉ、いけないよね、返事はハッキリきちんと一回。唯に怒られちゃう。」  そんな唯たちの様子を見ていた両親が「あはははは・・。」と苦笑いした。 父「まぁ、今日は疲れたろうから、ゆっくり休みなさい。土産話は明日にでも聞くから。」 母「でも、ラムちゃんたちが帰ってきてくれて、これで心から安心できるわぁ。二人がいない間、大変だったのよ。この子が何もしてくれ   ないから。二人には明日から頑張ってもらわなきゃ。」  俺の顔を見やり、言ってくれやがった。ったく、口開くたびにコレだよ。 唯・ラム「はぁ〜〜い♪」 唯「あっ、そうだ。これ、おじ様とおば様へのお土産です。京都のお菓子です、食べてくださいね。」  紙袋を掲げて、母さんに渡した。 母「あらっ、『八つ橋』じゃない。気を使わせちゃって、ごめんなさいね。」 唯「いいんですっ。いつもお世話になってるんで、逆にコレだけじゃ申し訳ないんですけどっ・・。」  両手をひろげて、パタパタ振った。 唯「じゃあ、片付けとかしなきゃいけないから、部屋に戻りますね。」  小さく会釈すると、唯とラムと沙織ちゃんは、二階へ上がって行った。  別に気になってはいなかったんだけど、なんか後を追いづらくて、ちょっとだけ時間を空けて二階に上がった。 あたるの部屋。  俺が自分の部屋に入って、机の椅子に座った時、ドアがノックされた。 あたる「はぁい。どぉぞ〜。」  すうっとドアが開くと、唯が顔を出した。 唯「ちょっとだけ、入っていいかな?」  少々、申し訳なさげな表情で、唯。 あたる「ん、いいとも。」  返事を聞くなり、パアッと笑顔になり、 唯「えへへ・・、おじゃましまぁ〜す。」  ドアの影に隠れて見えなかったけど、ラムと沙織ちゃんも一緒だ。  沙織ちゃんは、絨毯代わりになってる虎の毛皮の上にひっくりかえって、大きくのびをした。 沙織「ふう、ちょっと疲れちゃったな。まだ家に帰ってないんだ。こっちに先に来ちゃって。ラムちゃんたちがせかすから。」 ラム「だぁってぇ、ダーリンが心配して、夜も眠れてないんじゃないかと思ったっちゃ。早く安心させてあげたかったし・・。」  まるでこの数日間の俺の様子を見ていたような語り口だったので、俺の肩が一瞬びくっとした。 あたる「なっ、なぁんで俺がラムの心配せにゃならんの?!」 沙織「いいからいいから、照れ隠しなんて無用よ。」 あたる「誰も照れてなんかないわいっ!」  なんともキワドイ所を突いてくる沙織の言葉に、つい熱くなってしまった。 沙織「ラムちゃんの理由は分かるとして、問題は唯よ。なんで『急いで帰ろう』って? なにか用事でもあったの?」 唯「えっ? 私は別に・・・急いで帰りたい理由なんて・・・あったわけじゃないとは言えないけど・・・ゴニョゴニョ・・。」  はじめは焦った面持ちで話してた唯が、急に顔を真っ赤にして俯いてしまった。声はゴニョゴニョで聞き取れない。 沙織「はっは〜ん。分かったぁ。あんたあたるクンに惚れたなぁっ。」  沙織の言葉に、俺たちは一瞬で目つきが変わった。 唯「なっ、ななな、なに言ってるのよっ! 沙織ちゃんっっ!」 ラム「にゃにぃ〜〜っっ! 唯っ、それホントだっちゃ?!」  ラムは目を吊り上げて、唯にくってかかった。  沙織は軽く言ったつもりだったみたいだけど、ソレは超重要(超危険?)な質問だ。  唯は慌てふためいてテンパってるし、ラムは今にも電撃リンチって感じで唯に詰め寄ってるし・・。  そんな時俺は、何故か身体が硬直してしまっていた。 沙織「冗談よ、冗談。ちょっと危ない関係ね、あんたたち・・。」 唯「さっ、沙織ちゃんっ!!」  目を涙目にしてふくれっ面になる唯。「かんべんしてよぉ〜っ。」って小さくつぶやく。 ラム「いくら唯でも、ダーリンはわたせないっちゃっ!」 唯「ラムちゃんも誤解しないでぇ。そんなワケ無いでしょぉ。」  なんかとっても残念な感じだ。いや、別に期待してたワケじゃないけど・・。  ちょっとだけ気まずくなった空気に絶えられなくなったのか、唯が「お茶の支度してくる。」と言って、部屋を出て行った。  そんな妙な流れを一新したのが、原因を作った本人、沙織ちゃんだった。 沙織「あたるくぅん、コレ、私から。」  沙織ちゃんは『KYOTO』って書かれたおっきなタオルと、妙にリアルに出来た刀のキーホルダーをくれた。金色のメッキで出来てる 日本刀のミニチュアだ。ご丁寧に鞘まで付いてる。 あたる「ありがと。」 ラム「あっ、ウチからもお土産。はい。」  ラムがくれたのは、青色のお守りだった。なになに・・、『愛が育ちます。ふたりの愛。』だって。なんちゅー恥ずかしいフレーズだ。  読んだだけでも歯が浮いてしまう、このお守りは・・『えんむすびお守り』だって? ラム「見て見てダーリン、このお守りペアになってるっちゃ。片方はウチが持って、そっちはダーリンが持つっちゃ。これでウチとダーリ    ンは・・。」 あたる「立派な夫婦か?」 ラム「だっちゃ♪」 あたる「けっ、馬鹿馬鹿しいっ。」  こんなモンでホントに結ばれるんなら、苦労はいらないよなぁ。まぁ、貰って悪い気はしないな。 ラム「あとはねぇ・・。」  旅行カバンの中をごそごそ探ると、今度は、真ん丸と膨らんだ紙の包みを取り出し、俺の前に差し出した。  なんか軽いぞ・・。包みを開けてみると、それは可愛らしい金魚鉢だった。紙で出来た金魚が紐で吊られて、ゆらゆらと鉢の中で泳いで る。 あたる「なかなか可愛いもんだ。ありがとな。」 ラム「うんっ♪」  満面の笑みで大きくうなずくラム。やっぱり可愛いよな・・・うん。でも、なんでか直視できないんだよな。  部屋のドアがすっと開くと、唯がお茶の準備をして現れた。 唯「お茶の準備が出来たよ。おいしそうなモノ見つけちゃった。お茶うけにどうかな?」  唯が声をかけた。 沙織「あらぁ、おいしそうな柏餅っ。どうしたの?」 あたる「ああ、知り合いのおばさんからもらったんだ。おすそ分けだよ。」 沙織「ふうん、これがクッキーとかケーキなら、女の子のプレゼントかななんて、ちょっと疑っちゃうけど、柏餅なら間違いないかな?」  沙織ちゃんはいたずらっぽく笑って、柏餅を頬張った。 沙織「うんっ、これ、柔らかくっておいしーーい! 唯も食べなよ・・って、これじゃ逆よねぇ。」  自分の言ったことにウケたらしくて、沙織ちゃんはけらけらと笑い転げた。 唯「はい、これあたるさんへ、お土産。」  唯は小さな可愛らしく包装されたものを、カバンから取り出した。 あたる「開けてみていい?」 唯「ええ、どうぞ!」  唯が俺のために選んでくれたお土産・・・なんか感動しちゃうなぁ。 あたる「そういえばさ、電話で言ってた絵葉書、今日届いたよ。桜が満開の写真。沙織ちゃんのイラストもすっごく似てた。」 沙織「まぁね〜♪ これでも小さい頃は漫画家志望だったの。」  彼女はにこにこしながら、俺に目配せする。  唯のお土産の包みを、どきどきしながら開けてみた。  なんだか細かいのがいっぱいある。  まずは京都で最もポピュラーなお菓子。柔らかい三角の生地に餡を包んだ『生八つ橋』と、頑丈な歯が試される『八つ橋煎餅』や、干菓 子の詰め合わせ。 沙織「唯、あんたのお土産ってお菓子ばっかりじゃなーい。」 唯「そんなことないもん! これは匂い袋でしょう・・うさぎのとか金魚のとか、きんちゃくにもなるんだよ。それから、『よーじや』の油   取り紙と手鏡のセットもあるんだからね。・・でも、ラムさん、惜しかったね。『笹屋伊織のどら焼き』買えなくてさ。毎月20日か   ら23日までしか売ってないなんて・・。楽しみにしてたのにね。」 ラム「うん、残念だったっちゃねぇ。でも、また修学旅行で行くから、その時に買えるチャンスがあるっちゃよ。」 沙織「でもさ、夏にも行こうねっ。お菓子と料理が美味しくって困っちゃったねーっ♪」 唯・ラム「ねーーっ♪」  二人がまるで双子の姉妹みたいにハモった。  それから娘三人できゃーきゃー始まった。沙織ちゃんも加わったから、賑やかだこと。 沙織「今度はあたるクンも行こうよ。今回の京都行きは、私がちょっと強引に決めちゃったの。いつか京都行こうって約束してたから。だ    って、秋の選考で海外専属のウエディングプランナーに決まったら、唯はフロリダに行っちゃうかもしれないもん。」 唯「っ・・沙織ちゃん!」  言いかけた沙織ちゃんを、唯が止めた。 ラム「それって・・どういう事だっちゃ・・?」  ラムが、訳が分らないといった複雑な表情で、言った。  俺も声にこそ出さなかったけど、ラムと同じ気持ちだ。  なんだって?! それはどういうことなんだ?!  秋の選考って・・・?  唯が、フロリダに行く?  沙織ちゃんの言葉が頭の中でクリアーになればなるほど、目の前の物が見えなくなった。理解出来たら、愕然としてしまっていたのだ。  俺とラムは、すっかり、このままいつまでも、唯がここにいるものだと思っていたんだ。 唯「もうっ、まだ選考まで上れるとも決まってないのに。しようがないなぁ。」 沙織「あら、海外でプランナーの仕事するのが夢なんでしょ。せっかくお父様がフロリダに赴任してるんだもの、向こうに行けるチャンス    じゃない。」 唯「そうだけど、私、まだまだ未熟だし、無理よ・・。それに、日本も好きなんだもの。」  唯は頬をほんのり染めて、うつむいた。 唯「そりゃあ、外国で仕事もしてみたいわ。だけど私自信、迷ってるの。どうしたらいいのか・・・どちらに決めても、後悔しそうなんだ   もの。」  唯の真っ直ぐな瞳がまぶしくて、まともに見れない。  だって・・・唯たちがいない夜、俺は、とても口には出せないくらい、ろくでもない妄想に悶々としてたんだ。 エンディングテーマ:ロマンスが痛い                                           第五話『諸星あたると秘密の部屋』・・・完