キミと過ごした日々 『第6話』家族みたいで… ざわざわ ざわざわ ここは友引高校、二年一組の教室。 背広が温泉の教師こと温泉が二人の名前を黒板にでかでかと書いた。 「みんな喜べ!!今日は転校生を二人紹介する!」 「諸星あたるです、よろしくな!!」 この笑顔。教室にいる女子の三分の一はあたるに見とれてしまった。元々あたるの顔は悪くない。世間では中の上といったところだ。 「うち、ラムだっちゃ♪」 ラムの整った顔立ち。流れるような美しい碧色の髪。制服を着ていてもわかるそのプロモーション。そして、その甘い声。世間では上の上のそのまた上といったところだ。 クラスの全男子はラムに熱い視線を送った。 「えー、二人の席だが………しのぶ君の隣が空いているな。諸星はしのぶ君の隣に、ラム君は諸星の後ろに座りなさい。」 この言葉に、ラムの隣になった男子生徒は溢れんばかりの涙を流し、隠れてガッツポーズをとった。 二人は席に着いた。 「あたる君」 しのぶが声をかける。 「ん?」 その様子を後ろからジッと見つめる蒼い瞳。 「教科書、ないんでしょ?一緒に見ましょう」 後ろの視線を挑発するようにニコッと笑う。 「ああ、サンキュー」 あたるはそういえばっというような顔をして席を近づける。 ラムの隣の生徒も教科書を貸そうと、にこやかにラムの方を向くが、ラムの表情のあまりの恐ろしさに硬直した。 キーンコーンカーンコーン 「きりーつ、礼、着席」 クラスの委員長が号令をかけ終わるのと同時に生徒は動きだした。 男子はラムのもとへ、女子の数名はあたるのもとへと向かった。 「どこに住んでたの?」 「何でこんな時期に転校してきたの?」 「彼女(彼氏)はいるの?」 etc… 質問の嵐にラムはにこやかに対応しているが、あたるはやや冷汗をかいている。態度もややぎこちない。 オ、オレって男子に人気がないのか……… 放課後 無事に学校生活を終えたあたる達は帰る支度をしていた。 「あたる君、一緒に帰りましょ」 しのぶがあたるに声をかける。 「あ、うん」 「あー!うちも一緒に帰るっちゃ!」 ラムがすぐに飛んできた。 しのぶとラムの間に火花が起きる。 「三宅しのぶ!」 「何よ」 教室の中が5℃程下がる。 「ダーリンから話は聞いてるっちゃ。うちのダーリンをたぶらかさないでほしいっちゃね!」 「ダ、ダーリンですってぇぇぇ?!」 この言葉に今まで静止していたクラスのみんなが反応した。 「「「「ダァァァリィン?!」」」」 「諸星、お前ぇ!ダーリンとは一体どーいうことだぁ?!」 「ちょっとラム!誰が誰のダーリンよ?!」 「転校初日に二人も手にかけるなんて!」 「………オ、オレ、急用があるから!」 あたるは教室を飛び出し、廊下を駆けていった。 「「「「(逃げたな…………)」」」」 校門前 「ふう、ラムもしのぶもどーしてオレを困らせるかなぁ」 他人が聞いたらぶん殴られるようなセリフである。あたると入れ替わりたいと思っている生徒がどれだけいるのかをあたるは全く分かっていない。 「おい」 後ろからの突然の声にあたるは必要以上にビクリとしてしまった。 後ろを静かに振り返る。 そこには見たことはあるが、名前は知らない生徒が立っていた。 「おいおい、そんなに驚くことねぇーじゃん。俺はコースケ。お前のクラスメイトだよ!」 ああ、どーりで見たことがあると思った……… 「んで?」 はぁ、何でオレってこう無愛想にしちゃうかなぁ 心の中でため息をつく。 が、コースケは別段気にした様子も見せずに話を続けた。 「でさ!お前ら、やけに危なっかしい時期に転校してくるなーと思ってな。ほら、あのバケモノが攻めて来てるんだぜ? だからさ…………お前ら、あのバケモノを倒してくれてる“適格者”だろ?」 あたるは嫌われただろうと予測していたため、コースケのテンションの高さに少したじたじになるが、なんとか誤魔化そうとした。 「何だよ?適格者って」 「とぼけても無駄!俺の親、鬼星で働いてるからさ、そこのデータをちょいと覗いたんだよ。」 高校生に情報漏らすなんて鬼星のセキュリティって…………… あたるは少し呆れた。 「まぁ、オレは適格者だけど………」 そう答えたが最後。 あたるはまたしても質問の雨を浴びた。 「じゃあな!」 コースケと話しているといつの間にか家に着いていたことに驚くあたる。 その後、あたるはコースケに軽く手を振るとマンションの中へと入って行った。 ここに来て初めての友達、か………… そう小さく呟いたあたるの表情は放課後の時よりも明るくなっていた。 あたるは自分のベッドの上に鞄を投げ出し、そのまま横になった。 …………成り行きで適格者になったが、ARMORって一体何なんだ? ARMORを装着した時のあの懐かしい感覚。 そして、もう一人のオレ。いったい………… ピンポーン あたるが思考にふけっているとき、玄関のベルがなった。 「はぁーい」 プシュー 「こんにちはっちゃ♪」 ドアの先にはまだ制服姿のラムがいた。 「あぁ、どうした?」 「うち、この隣に引っ越してきたから挨拶に来たっちゃ」 あぁ、そういえばそんなシステムがあったね あたるは玄関の壁に寄りかかりながらハアと大きなため息をついた。が、ラムにはそんなサインは通用しない。 「とゆーわけで、お邪魔しまぁす!」 「ふーん、男の子の部屋にしては綺麗だっちゃねぇ」 あたるの部屋を見回す。 「まぁな。じゃ、オレは買い物に行って来るから適当にしててくれ」 「あ、うちも行くー!」 あたるは小さい子供をなだめるように優しく微笑む。 「すぐに帰ってくるから、待ってろって……」 その後もラムはふーん、へぇー、と呟きながら色々なところを見る。例えば本棚、ベッドの下、机と壁の隙間………健全な男子は必ず持っているはずのものを探しているのだ。 「ないっちゃねぇ…………あっ」 あたるの机の上に伏せられた写真たてがあるのを見つけた。 ダーリンとお父様と…………誰だっちゃ? 写真には確かに三人写っているが、まだ小さなあたるを抱いている人の顔の部分だけが切り取られている。 何でこんなことを……… 「ただいまー」 ラムが考えにふけっているとあたるが帰ってきた。 「あ、おかえりなさい!」 写真たてを元に戻して玄関まで小走りで行く。 玄関まで来たラムの姿をしばらく呆けたように見つめるあたる。 「?……荷物、持つっちゃよ☆」 「あ、あぁサンキュー」 「今日はカレーなんだ。食べてくか?」 「うん☆うちも作るの手伝うっちゃ!」 10分後 「ま、まぁ、人には向き不向きがあるさ」 ラムに任せたにんじんの残骸をゴミ箱に捨てながらあたるはラムになぐさめの言葉を与えた。 リビングの上で顔を伏せているラム。 ダーリン、なぐさめになってないっちゃ……… さらに20分後 「「いただきます」」 …………… 「うん、美味い」 「だっちゃね♪今度はうちがダーリンにご飯を作ってくるっちゃ!」 燃えるラムとは対照的に頭に大きな汗を垂らすあたる。 ま、まだ人参以外に犠牲者を出すつもりか?! あたるはしばらく考えて。 「…………よ、よし!当番制にしよう!」 「当番制?」 「ああ、ちょっと待ってろよ」 ………… ……… …… … 「できた!」 机の上には月曜から日曜までの表が書かれた紙がある。 「これで決めるっちゃ?」 「そう!ジャンケンで負けた方から書き込んでいく」 「いくぞ、ジャンケン………………」 「つーことで、オレが作る!」 「むぅ」 ラムは拗ねて口を尖らせてみせる。 表には全てあたるの名前が書き込まれていた。 「なぁんか納得いかないっちゃねぇ」 「オレは昔からジャンケンは得意なんだよな。とゆーより、読みが外れないわけなんだな」 べぇと舌を出す。 「……………でもまっ、こういうのも良いもんだな」 「何がだっちゃ?」 あたるの言葉が何を指しているのか分からずに頭に疑問符を浮かべるラム。 「家族みたいで」 「えっ?」 ほのかに頬を染めるラム。 それって・・・・・ 「…………オレが帰ってきた時、玄関まで迎えてくれただろ?母さん…………ていうのかな?アレが嬉しくて」 嬉しそうに微笑むあたるだが、口に出してみるとやはり恥ずかしい。 「なぁんてな!オレはそんなに暗いヤツじゃねぇーよ」 「うち………」 「え?」 「…………う、うちで良かったら毎日言ってあげるっちゃよ?」 恥ずかしく、モジモジしながら言う。 「………サンキュー」 本日最高の笑顔はこうして生まれた。