───UFOにて─── 「とーちゃん、用って何だっちゃ?」 ラムは父親に呼び出されて、父親の乗って来たUFOまでやって来ていた。 「あのなラム。今日わしらにこんなもんが届いたんじゃ。」 そう言ってラムの父はラムに一通の手紙を差し出した。 その顔は曇っていた。 「ん?何だっちゃ、これ?」 ラムにはいったいこの手紙が何なのかわからない。 「ラム、気を落ち着かせて読むんやで。」 よほどのことが書いてあるのだろうか、ラムの父はラムを案じるように言った。 すると、ラムの表情はどんどんと陰りを見せてきた。 そしてラムが悲鳴のような声をあげた。 「そんな!!」 ───あたるの家─── いつもと同じ夜。 いつものように勉強机に座ってあたるは漫画を読んでいた。 ラムは父ちゃんに呼び出されたと言ってUFOに行っていた。 そのためいつ帰って来てもいいように窓を開け放しており、ときおり冷たい風が入り込んできた。 すると、窓の外からラムが帰って来た。 テンはUFOにいるらしく、一緒ではなかった。 ラムはそっとあたるに近寄り、 「ダーリン、ウチのこと好きだっちゃ?」 いつもの問い。 しかし今日のラムはいつもと違い、どこか淋しげで悲しい声だった。 だが、そんな問いに恥ずかしくて答えられるわけもなく、 「いきなり、何言っとんじゃ。 そんなことに答える必要はない」 あたるは素っ気なくそう言うと、また漫画の続きを読み始めた。 するとラムは下向いてあたるに話し掛けた。 「ウチはダーリンのことが大好きだっちゃ。 でもウチがいるせいでみんなに迷惑かけてるっちゃ。 ・・・あのね、ダーリン。 ウチ、今夜鬼星に帰らなくちゃいけなくなったっちゃ。」 突然だった。 あたるのページをめくる手が止まった。 (ラムが帰る?なんで?どういうことじゃ?) あたるは何故ラムが帰らなくてはならないのかその理由をいろいろと考えたが、結論には至らなかった。 そしてラムが事情を話し始めた。 「ウチがいるせいで地球は何度もボロボロになってるっちゃ。 そしてあの最後の鬼ごっこのとき、キノコが生えてくるのに巻き込まれて亡くなってしまった人がたくさん出たんだっちゃ。 それでとうとう地球の国際連合から、ウチらに自らの星へ帰るよう通達が来たんだっちゃ。地球に干渉するなって。」 ラムは言葉を詰まらせてしまった。 しかし、何とか言葉を押し出すようにまた話し出した。 「ウチ、もう地球にいることができなくなったっちゃ。 だから・・・最後にダーリンに好きって言ってほしいっちゃ。」 そう言うラムの声は震えていた。 そしてラムの目は今にも溢れ出しそうな涙で満ちていた。 ・・・長い沈黙が流れ、ただラムの話を聞いているだけだったあたるがラムに話し掛けた。 「・・・ラム。鬼ごっこのとき俺が言った言葉覚えてるか?」 あたるは突然あの最後の鬼ごっこの時のことを言い出した。 「当たり前だっちゃ!忘れるわけないっちゃ!」 ラムは少し怒ったように答えた。 ラムにとってあれは永遠の愛の告白のようなものだった。 「俺がお前に好きだって言うのは俺の最後のときなんだよ! それまで・・・俺とお前はずっと一緒にいなきゃいけないだろ。」 あたるはラムの瞳を真っ直ぐ見つめて、あの言葉に隠した自分の気持ちを打ち明けた。 「ダーリン、それって・・・」 ラムはそんなあたるの言葉を聞いて心が震えた。 「俺はお前と鬼星へ行くからな。」 「ダーリン・・・」 その言葉を聞いたラムはとうとう泣き出してしまった。 「でもダーリンは地球人だっちゃ。そんなこと出来るのけ? それにお父様やお母様、終太郎やしのぶやみんなと一生会えなくなるかもしれないっちゃよ。」 ラムは涙を拭いて言った。 あたるは地球人だ。 勝手に自分の星へ連れて行くわけにはいかなかったし、もし行けばおそらく一生地球へ帰って来ることは出来ないだろう。 それは地球のみんなとの永遠の別れを意味していた。 「ふん、仮にも俺は一度地球を救った救世主だぞ。 それぐらいのわがままなら許してもらえるさ。 あの事件は俺のせいでもあるんだしな。 それになんかある度に『産むんじゃなかった』なんて言うようなうちの親や、いっつも切りかかってくるような奴らに会えなくなったって、どうってことないさ。」 そう言ってあたるはへんに明るく振る舞った。 本当は寂しいに決まってる。 だがそんなことを口に出して言えるほど、彼は器用ではなかった。 (ダーリン・・・。やっぱり寂しいんだっちゃね・・・。) ラムにもその気持ちは痛いほどわかった。 自分も同じように寂しかったから。 「それじゃラム、今夜にも出なきゃいけないんだろ。 みんなに宛てて手紙でも残してくか。」 あたるはそう言って筆を取ると、ラムたちが地球を離れなければならなくなったこと、自分も一緒に付いていくこと、そしてこれは一生の別れになるかもしれないことを書き、最後に地球のみんなに対してメッセージを残した。 そして、そこにラムにもみんなへのメッセージを書かせた。 「さて、そろそろ行くか。」 あたるはどこか吹っ切れたように言った。 「ダーリン、本当にいいっちゃ?後悔しない?」 ラムは最後の念を押すように言った。 やはり、みんなとの別れは心配だった。 「アホ、いつまで言っとんじゃ。 俺はもう決めたんだよ。」 あたるは決意した。 ラムと一緒にどこまでも行くと、生きていくのだと。 たとえ他の全てを犠牲にしても。 もし、彼以外の人が突然こんなことを言われたら、すぐに答えを出すことは出来ないだろう。 なのに、彼がこれほどすぐに答えを出せたのは、心の底にある彼女への大きな気持ちのおかげである。 彼自身が気付かないほど深いところにある、いや、いつの間にか気付いていたであろうその大きな愛によって。