相撲大会の夜  (渚×竜) 竜之介が高校三年生の夏休み。 今日は浜の相撲大会が行われる。 「竜之介さまっ!あたし頑張って、優勝商品をゲットするね!」 渚はやる気満々だ。 おやじは、 「竜之介!男のお前が相撲大会に出れば良いじゃろうがっ!」 「なに言ってやがんでぃ。おれは女だー!」 相撲大会が始まった。 今回の優勝賞品は、とても豪華らしい。 「渚っ!全部取れよ!」←白星&優勝賞品 竜之介は初めてみる、生の激しい勝負に大興奮だ。 バーン!! 肌と肌がぶつかり合う物凄い音!! 渚は惚れ惚れとする横綱の強さを見せつけて、勝ち進んでいる。 うおおおおっ!渚っ。 てめえ、ホントに強ぇんだなっ! おれは猛烈に感動したぜ! しかも男装(←ふんどし?)って、結構男らしいじゃねえか。 竜之介は嬉しそうだ。 最後の対戦相手は、毛むくじゃらの巨漢力士だ。 「グへへへっ!お前が、横綱の潮渡か。へっ、あんまり強そうじゃねえなあ。」 大男は渚を蔑むように見ると、 「すげえ強い奴がいたって聞いて、どんな奴かと楽しみにしてたんだが。ぎゃーはははっ!こんなオカマみたいなヤサ男とはね。」 渚は平然とした態度で、 「ふんっ!弱い犬ほど良く吠えるってね。大口叩くのは、勝負に勝ってからにして頂戴。」 大男は顔色が変わった。 「オカマ野郎がっ!最近見なかったのは、おれが怖くて逃げ出したんだろうっ!」 「あたしがいなかったのはね。チョット死んでただけよ!」 大男はキョトンとした。 「ぐわっはっはっはっ!!こいつぁ、頭がおかしいぜ。」 そこへ軍配を持った行司が入った。 「はっけよい、のこった!」 2人は取り組みあった。 渚は低い姿勢で、大男の懐に素早く潜り込んで、そのまま肩に担ぎ上げた。 「ぐわああああっ!」 思わぬ敏捷さと怪力に、大男は悲鳴を上げた。 「あんたみたいなゲス野郎には、解らないかもしんないけど、あたしは愛する人の為に(ウニの涙で)蘇ったのよ!」 そのまま後ろに反り返りながら、大男を投げ飛ばした。 どすーん!! 難易度の高い大技、撞木反りが決まった! 「いってえ。くそっ、覚えてろよ。」 大男は捨て台詞を残して去った。 渚は全部白星で、横綱の強さを見せつけて完全勝利だ! 「やったじゃねえか、渚っ!」 竜之介は土俵にいる渚に、駆け寄ろうとした。 豪華商品ってなんだろなー♪ 司会者が 「渚さん、さすがに毎年横綱だっただけあって、強いですね!では豪華賞品です。どうぞ!」 そこには、荷車に米俵5俵が積んであった。 何だ、いつもと同じじゃない。 が、その横からビキニの美女が、花の首飾りを持って現れた。 渚に首飾りをかけて、 「おめでとう。」 と言って、ほっぺにキスをした。 「今回は豪華!美女のキス付きです。」 渚は少し赤くなった。 その時、竜之介から殺気を感じた。 渚は、ニッコリ微笑んで 「竜之介さま!あたし、勝ったわよっ!」 「ふん。」 竜之介はジーンズに両手を突っ込んで、背中を向けて、立ち去ろうとした。 「ふん。て、ちょっと待ってよー!!」 渚は竜之介を追いかけようとしたが、司会者が離さない。 「横綱、感想をどうぞ。」 渚はマイクを握り締めて、 「なによーっ!竜之介さまのバカ―!全然ヤラセてくれないくせにっ。焼きもちやくなんてっ。」 竜之介は、真っ赤になって振り返った。 「ばっきゃーろー!マイク握り締めて、恥ずかしい事を喚くんじゃねえよ!誰がヤキモチなんかっ!」 尚もマイクで喚いたので、渚に向かって、飛び蹴りをくらわせようとした。 が、渚はそのまま足を掴んで、腕も掴み、肩に担ぎあげた。 「こっ、この野郎・・・」 「海の男の腕力を甘く見ないでちょうだいね、って前も言ったでしょ。」 渚はウインクした。 そして、竜之介を肩に担ぎながら、米俵の乗った荷車を引き始めた。 「すげえ力だ。さすが横綱だ。」 皆が、口々に言っている。 2人は真っ暗な夜道を帰った。 渚はまだ竜之介を担いでいる。 「てめえ。いい加減に降ろしやがれ。」 「・・・ねえ、竜之介さま。月が綺麗ね。」 「・・・あのビキニの姉ちゃん、綺麗だったな。」 渚は、ちらっと竜之介を見た。 「竜之介さまの方が、ずっと綺麗よ。」 竜之介は赤くなった。が、 「なに言ってやがんでえ。てめえ、あの姉ちゃんにキスされた時、嬉しそうだったじゃねえか。」 渚は、 「ああ、あれね。」 「やっぱ、あの姉ちゃんの方が綺麗なんだろ。」 渚は、竜之介が無意識に言った女らしい発言に微笑んだ。 「あのビキニは、竜之介さまと同じ匂いがしたわ。」 「えっ・・。」 「同じシャンプーの匂い。一瞬、竜之介さまにキスされた気がしたの。」 竜之介の顔が夜目にも赤くなる。 その時、竜之介は地面に放り投げられた。 どすん! 「いってえ。・・なんでえ、いきなり。」 渚は脇腹から血を流して、膝を着いた。 「っつぅ・・・。」 「渚!」 繁みからさっきの大男が現れた。 「げへへへへっ!おれ様に恥をかかせやがって、モリを打ち込んでやったわ!」 竜之介は顔面蒼白になった。 「てめえっ!何て事しやがんでえっ!!」 「お前、命拾いしたぜえ。おれは本当はお前に打ち込んだんだ。 とっさに潮渡が、お前を放り投げたから助かったな。 そいつの愛する人ってのは、お前の事だろう。まあ、ホモとは知らなかったがな。ぎゃははははっ!」 竜之介はブチ切れた。 「おれは女だーっ!」 飛び掛かろうとしたが、渚に制され、その隙に大男は逃げ去った。 「何でおれを止めたんでえ。」 息苦しそうに、 「大男は言ったでしょ。・・狙いは、竜之介さまよ。あいつ・・スタンガンを、隠し、持ってた。」 竜之介は驚いた。 倒れている渚の腰に腕を回して、抱き抱えた。 「うう・・・ん・・・。」 「渚、苦しいのか?」 生温かい感触に、掌を見ると血が付いていた。 竜之介は激しく動揺した。 「てめえ、何でおれを庇ったんでい。」 渚は竜之介を見詰めた。 「・・・好き、だか、ら、よ・・・。」 その時、竜之介の眼から、無意識に涙が零れた。 渚は息も絶え絶えに、 「ねえ、最後の、お願、い。・・・キス、した、い・・の。」 竜之介は、切なさで涙が止まらない。 「最後って・・・。そんな言い方、するんじゃねえよ。キスでも何でもするから。だから・・。」 渚は竜之介の首に腕を回した。 「わすれ、ない、で・・・・。」 渚は眼を閉じた。 竜之介は意を決した。 眼を閉じながら、そっと口づける。 「嬉しい・・・・これで、やっと・・・。」 「渚っ!死ぬなよっ!!おれは、まだっ・・・!」 渚はガックリと項垂れた。 「渚ーっ!!!」 竜之介は号泣した。 翌日。 おやじはいない。 大丼で、飯をガツ食いする渚。 「てめえっ!死んだんじゃねえのか!」 モリはかすっただけだった。 相撲大会で、腹が減り過ぎて気絶したらしい。 「んっ?あたし、とっくに死んでるし。もし身体が滅びても、またウニの涙で蘇っちゃうし。 幽霊は不死身よっ!!」 「だいたい、てめえはなあっ! 最後だとか、忘れないでとか、いちいち大袈裟なんだよっ!!」 まったく、明るい奴だ。 さんざん泣いて、損したぜ。 「さてと、お腹も膨れたし、昨日の続きをしましょうか。」 竜之介は嫌な予感がした。 「続きって?」 「あら、忘れたとは言わさないわよ。キスでも『何でも』するって、言ったじゃないv」 渚は少しイヤらしい眼つきになった。 「バ、バカ。あれはてめえが、死にそうだったからじゃねえか。」 「でも、竜之介さまもあたしの事、好きだって解ったし。もともと許婚だし。だ・か・らv」 「だ・か・らvじゃねえ!誰がてめえを好きなんて言った!」 「なによ!すぐヤキモチ妬くし、あたしを失うと思って泣いてくれたじゃない! それにもう、キスもしたんだし。あとは・・・・。」 渚が竜之介に、にじり寄る。 「冗談じゃねえっ!!」 身の危険を感じて、一目散に外へ逃げ出した。 「竜之介さまっ!!待ってーっ!!」         end