うる星やつらーアナザーワールドー       エピソード 12  翌朝、あたるとラムはいつも通りに学校へ行くと、校舎裏へ呼び出した。そこでラムが  「みんな、急で悪いんだけど今日の夕方4時に、ピグモンの前に来て欲しいっちゃ」と言うと、面堂が  「それって、もしかして……」と言い、続けてメガネが  「ついに、帰る時が?」と聞くと、ラムは  「だっちゃ」と答えた。メガネはすかさずあたるの手を引くと、少し離れた所へ連れていき  「おい!あたる!どう言う事だ?ラムさん説得してくれたんじゃなかったのかよ!」と言うと、あたるは  「それなんだが、後でキチンと説明するよ」と言い、みんなの所へ戻った。すると面堂が  「ラムさん、今日じゃなきゃダメなんですか?」と聞くと、ラムは意を決した様に  「……分かったっちゃ。ウチが急ぐ理由を話すっちゃ」と言った。そして  「じつは今、こっちの世界と向こうの世界は、ギリギリの状態で保ってるっちゃ」と言った。するとメガネが  「それは、どう言う事ですか?」とラムに聞き、ラムは  「実は、ピグモンの前に有る空間の歪みは、どんどん大きくなって行ってるっちゃ。本来なら、空間の歪みは人がやっと通れる程度で、時間が経てば自然に塞がるものなんだけど、ピグモンの前の歪みは桁違いに大きいっちゃ。あの大きさだと、自然に塞がる事は絶対に無いっちゃ。それどころか、どんどん拡がって行ってるっちゃ」と言った。すると面堂が  「その歪みが拡がり続けたら、どうなるんですか?」と聞くと、ラムは  「次第に、空間同士が干渉しあって、最終的には………………両方の世界が消滅するっちゃ」と言った。ラムの話を聞いたあたる以外の全員が、あまりの事に実感が沸かずただ呆然とした。そして、更にラムが  「しかも、双方の世界の消滅に残された時間は、後わずかだっちゃ。だから、一刻も早く空間の歪みを閉じないとダメなんだっちゃ」と言うと、メガネが  「ラムさん、仮に……仮にですよ、我々の中の誰かが時間に間に合わず、向こうに戻れなかったら、どうなりますか?」とラムに聞いた。するとラムは  「それは……ウチにも分からないっちゃ……」と言って、うつ向いた。その時しのぶが  「とにかく夕方4時にピグモンの前に集まればいいんだから、余計な事は考えない様にしましょう」と言って教室に戻って行った。そして、他の面々も教室に戻る事にした。  昼休み、メガネはあたるを時計棟屋根裏部屋に呼び出し  「おい、あたる。どう言う事か説明して貰おうか」と言った。その場には、もちろんメガネの他にも、面堂、パーマ、カクガリ、チビも居る。あたるは  「あぁ、お前達を信じて全て話そう」と言うと、昨夜ラムに言われた事をそのまま話した。それを聞いたメガネはあたるの襟首を掴んで  「いい加減な事言うな!そんな事が信じられる訳ないだろう!」と言ったが、あたるは  「お前達が信じるかどうかなんて関係ない。ただ俺は、もうラムの涙は見たくない。だから、俺は向こうに帰る」と言った。あたるの真剣な目を見たメガネは、手を離すと  「そ、そんな……ラムさんが消えてしまうなんて……」と言った。あたるは  「俺は、夕方4時にはピグモンの前に行く。お前達が来るか来ないかは自由だ」と言って、屋根裏部屋を出た。  昼休みも終わり、午後の授業中メガネはあたるを見て  (あたるのやつ、あんな事言ってたが本当は自分だけ残ろうとして、あんな嘘ついたんじゃないのか?…………いや、あたるのあの目は嘘を言ってる目じゃなかった、するとラムさんが消えてしまうって言うのも……だとしたら、もし夕方俺達が行かなかったらラムさんは)と思い、フッとあたるの言った事が頭をよぎった  《もうラムの涙は見たくない》 メガネは、ラムの方を見ると  (ラムさん……あなたにとって俺なんて数居る友達の一人かも知れませんが、俺にとってあなたはただ一人の女神だ!そんな女神を悲しませる事なんて出来ない!)と思い、涙を流した。それを見た温泉マークは、メガネの元に駆け寄ると  「お、おい!お前大丈夫か?」と言ったが、パーマ、カクガリ、チビに踏み倒された。そして面堂は  「ほっといて貰えませんか」と言った。それを見たラムは、あたるに小声で  『みんな、どうしたっちゃ?』と聞くと、あたるは  『さ、さぁ』と曖昧な返事をした。よく見れば、面堂、パーマ、カクガリ、チビも涙ぐんでいた。5人とも、これからラムの身に起こる理不尽な運命に涙したのだ。あたるは  (あいつら……ラムの為に)と思い、切ない気持ちでいっぱいになった。  授業は、何事も無く終わり友引高校は放課後を迎えた。時間は午後3時だった。  その頃、パラレルワールドの友引高校も放課後を迎え、あたる、面堂、しのぶ、メガネ、パーマ、カクガリ、チビ、温泉マークの8人は、急いでサクラの家に向かった。あたるは、サクラの家の玄関を開けると  「サクラさーん!」と叫んだ。すると、奥からサクラが出てきて  「おぉ、来たか」と言うと、あたるが  「チェリーは?」と聞いた。しかしサクラは  「叔父上は、まだ戻っておらぬ」と言い、続けて  「とにかく、ピグモンに向かうとしよう」と言って、家を出た。  あたる達がピグモンに着くと、時間は3時半を回ったところだったが、錯乱坊はまだ来ておらず、あたるは  「チェリーのやつ、まだ来とらんではないか!」と言い、パーマも  「このままチェリーが来なかったら、ヤバイんじゃないか?」と言うと、サクラが  「う〜む、まだ時間も有る事だし、もう少し待ってみようではないか」と言って、あたると、パーマをなだめた。  一方、元の世界ではラムがランを呼んで来るとランの家に向かい、あたるはピグモンに向かった。あたるがピグモンのそばまで来ると、サクラとバッタリ出くわした。サクラは、あたるを見るなり  「お主一人か?」と聞くと、あたるは  「あぁ」と言い、それを聞いたサクラは  「お主にしては珍しく大人しいな。やはり多少未練が残るか?」と聞いた。するとあたるは  「…………そんなんじゃない」と言った。サクラも、あたるの様子からそれ以上の詮索はぜず、話題を変え  「ラムの話では、4時まではピグモンの近くで待機する様にとの事だが……」と言うと、あたるは  「そうな話は聞いてないが……」と言った。しかし、サクラが言う事なのであたるはピグモンの近くでサクラと待機する事にした。時間は3時40分になろうとしていた。その時、後ろから  「どうしたの?2人でこんな所で」と声がしたので、あたるとサクラが振り返るとそこにはしのぶが立っていた。あたるが  「あぁ、しのぶか……いや、サクラさんがこの辺で待機する様にラムに言われたらしくてさぁ」と言うと、しのぶは  「え?そうなの?」と言った。その時、ラムがランを連れて来て  「あれ?まだみんな集まってないっちゃ?」と言った。あたるはラムの後ろに居るランを見て  「あのぅ、もしかして、この子がランちゃん?」とラムに聞くと、ラムは  「そうだっちゃ、ランちゃんには今回の事で本当に助けてもらったっちゃ」と言い、ランの方を向いてニコリと笑った。するとあたるはランの手を両手で握り  「いやぁ、君がランちゃんか、ラムの事いろいろ助けてくれたみたいだねぇ、なんだったらお礼にデートでもどう?」と言うと、ランは  「いやだぁ、ダーリンったら。そんな事、ラムちゃんに怒られちゃう」と言った。そんなあたるに制裁を加えたのはラムでは無く、しのぶだった。しのぶの右ストレートがあたるに炸裂し、あたるは道路わきのブロック塀に殴り飛ばされた。そして、しのぶは  「見境無く口説くな!」と言った。それを見ていたラムは  「もぉ、ダーリンったら」と言い、心の中では  (どっちのダーリンも、本質は変わらないっちゃねぇ)と思った。  時間は、刻一刻と過ぎていく。時刻は既に3時50分を過ぎたが、未だ、面堂、メガネ、パーマ、カクガリ、チビ、温泉マークは現れない。しのぶは時計を見て  「もう時間も無いのに、みんなどうしたのかしら」と言った。あたるは、しのぶの言葉を聞き  (やっぱり、あいつら…………)と思った時  「あ〜、間に合ったぁ〜」と言いながらパーマが走って来た。すると、その後ろから  「パ、パーマ、待ってくれ〜」と言いながらメガネ、カクガリ、チビが走って来た。それを見てラムは  「あ、パーマさん!それに、メガネさん、カクガリさん、チビさんも、来てくれたっちゃね」と言って、満面の笑みを浮かべた。すると、チビが  「メガネが、帰る前にこっちの牛丼食べておきたいなんて急に言い出してさぁ」と言い、カクガリも  「それで、急遽帰りに寄ることになったんだ」と言った。するとメガネは  「ばか野郎!べつの世界の牛丼がどんな味か確かめずに帰れる訳無いだろう!」と言った。それを聞いて、あたるが  「で、どうだったんだ?」と聞くと、パーマが  「向こうと、全く変わらなかったよ」と言って、肩をすくめた。そんなパーマにメガネは  「おだまり!!味より、それを食す事に意味があるのだ!」と言って、腕を組んだ。それを見てラムは  「メガネさんらしいっちゃ」と言って笑った。  その時、パラパラパラパラと上空から音がし、みんなが見上げると、そこには一機のヘリコプターがホバリングしていてドアが開くと、はしごが下ろされ面堂が降りてきた。そして、地面に降り立つと  「遅くなり、申し訳ありません。向こうに帰る前にタコ達に別れを言って来たものですから」と言った。するとラムが  「終太郎も来てくれたっちゃね」と言うと、面堂は  「ははは、ラムさん、ぼくは女性との約束は死んでも守る男ですよ」と言って笑った。それを聞いたあたるが小声で  『何を偉そうに、本当は帰る気無かったくせに』と言うと、面堂は刀に手をかけ  「諸星、何か言ったか?」と言い、あたるは  「いや、別に」と言った。するとラムが思い出した様に  「そうだっちゃ!みんなに、ちょっと手伝って欲しい事が有るっちゃ」と言うと、メガネは  「ラムさんのお願いなら、何でも聞きますよ!何ですか?」と言った。ラムは  「ありがとうだっちゃ。実は、もうすぐ温泉先生が来るんだけど、先生が来たら、みんなで先生を縛り上げて欲しいっちゃ」と言って、ロープを渡した。面堂はロープを受けとると  「そう言えば、先程からラムさんの後ろに居る、美しい女性は?」と聞いた。するとラムは  「あぁ、この子はウチの幼なじみのランちゃんだっちゃ」と言った。それを聞いた面堂は、ランの前に行き  「ラムさんのお友達でしたか。僕は面堂終太郎と言います。僕にもう少し時間が有れば、お食事にでもお誘いするんですが……」と言った。それを聞いたサクラは、あたると面堂を見て  「お主ら、本質はかわらんな」と言ったが、それを聞いた面堂は  「サクラさん!それはどう言う意味ですか!僕を、あんなアホと一緒にしないで下さい!」とサクラに食ってかかった。サクラは  「いやぁ、すまんすまん」と言って苦笑いをした。その時、向こうからこちらに歩いて来る人影が有った。その独特の風貌から、それが温泉マークだと言う事はあきらかだった。温泉マークは、白地に赤の温泉マークの入ったスーツ上下に、ピンクのワイシャツ、それに赤の蝶ネクタイと、まるで似つかわしくない格好だった。その姿を見たあたるが  「温泉のやつ、あんな格好してデートでもするつもりか?」と言うと、メガネが  「なんかそんな感じだな」と言い、更に面堂が  「しかし、なんと言う趣味の悪い服だ。だいたい、あんな服一体どこに売ってると言うんだ」と言って、呆れた様子だった。そして、温泉マークがピグモンの数メートル手前に来た時、あたるが  「よし!今だ!」と言うと、一斉に温泉マークに飛びかかった。  温泉マークは、突如現れた6つの黒い影に驚いて足を止めると、瞬く間にロープでぐるぐる巻きされ路上に放置された。温泉マークは、自分の身の上に何が起こったか理解出来ず回りを見渡すと、そこには、あたる、面堂、メガネ、パーマ、カクガリ、チビの6人が温泉マークを見下ろしていた。それを見た温泉マークは  「き、貴様ら!一体なんのつもりだ!早く、このロープをほどかんか!」と言った。その時  「すまんな、手荒な真似をして。しかし、お主にはここに居てもらわんとならんのでな」と言って、サクラが温泉マークのもとに行った。そんなサクラを見た温泉マークが  「サ、サクラさん!も、もしかして……あなたも諸星達と……」と言うと、サクラは  「うむ、グルじゃ」と言った。それを聞いた温泉マークは  「そ、そんな……じゃ、あの手紙は!」と言ったが、サクラは  「あの手紙に書いた事は、嘘偽りの無いわたしの気持ちじゃ」と言った。すると温泉マークは  「だったら何故こんな事を」とサクラに聞くと、サクラは  「ならば、全て話そう」と言って、事の経緯を全て話した。すると温泉マークは  「そ、そんなバカな」と言って、ひきつった笑顔を見せた。しかしサクラは  「嘘では無いぞ。だから、手紙にも書いたが、向こうの世界に帰る為にはお主がどうしても必要だし、わたし達が向こうの人間である以上、わたしにとってもお主にとっても帰れるかどうかで、これからの人生が左右される。そして、もしお主が現れなかったら、お主はこちらの世界に残る訳だから、二度と会う事はないじゃろう。どうじゃ?嘘は言っていまい」と言った。それを聞いた温泉マークは  「そ、そんなぁ」と言ってうなだれた。時間は、3時55分だった。  その頃、パラレルワールドでは錯乱坊をあたる達が、今か今かと待っていた。しびれを切らしたあたるが  「チェリーの奴、いったい何してるんだ!」と言うと、後ろから  「誰か待っておるのか?」と声がして振り返ると、目の前に錯乱坊の顔が有り、あたるは危うく気絶する所だったが  「いつも、いきなりアップで出るなと言っとろうが!!」と言い、錯乱坊を殴りつけた。そして、更に  「来てるなら、何故来てると言わん!!」と言った。どうやら、もう一人の錯乱坊も見つかったらしく、錯乱坊は2人になっていた。それを見たメガネは  「しかし、2人のチェリーなんて何度見ても、不気味としか言い様がないなぁ」と言った。その時サクラが  「叔父上!一人は向こうへ行ってもらわんと!」と言うと、片方の錯乱坊が  「わしが向こうの人間じゃと思うから、向こうに行くとするかのう」と言うと、その場から忽然と消えた。次の瞬間、元の世界では錯乱坊が突然、何の前触れも無く現れ、それを見たラムは  「チェリー!!」と声をあげた。すると錯乱坊は  「向こうは、全員揃って準備万端じゃぞ」と言い、サクラの方へ行き  「良いか、向こうに行ったらすぐにその辺に霊力を放出するのじゃ」と、ピグモンの大きな窓を指差した。サクラは頷くと  「では、全員その窓の所に集合してくれ」と言った。あたるは、ラムの方を振り向くと  「ラム、俺は何もしてやれないが…………諦めるなよ!」と言うと、ピグモンの窓の所に走って行った。ラムは、そんなあたるの言葉に胸が熱くなり  (ダーリン……ありがとうだっちゃ)と思い、大きな蒼い瞳に涙を浮かべた。そして、温泉マークが消え、面堂、しのぶ、メガネ、パーマ、カクガリ、チビと消え、次にサクラが消え、最後にあたるの姿が消えた。全員ラムを見て微笑みながら消えて行った。すると、すぐに温泉マーク、面堂、しのぶ、メガネ、パーマ、カクガリ、チビ、サクラと現れ、最後にあたるが現れた。それを見たラムは  「ダーーーリーン!」と叫びながら、あたるに抱きついた。あたるはラムを受け止めると  「ラム……ありがとな」と言って、ラムを抱きしめた。しかし、次の瞬間ただならぬ殺気を感じ振り返ると、そこには目を怒りで血走らせた面堂、メガネ、パーマ、カクガリ、チビが今にも飛びかかろうとしていた。あたるが、慌ててラムを引き離そうとしていると、サクラが  「お主ら、今はじゃれあってる場合では無いぞ!そこをどかんと、どうなっても知らんからな!」と言うと、錯乱坊と二人で霊力を集中し始めた。あたる達は、慌ててその場から逃げ出すと  「サクラ!準備はええか」と錯乱坊が叫び、サクラも  「いつでも大丈夫じゃ!」と言い、お互いに頷き合うと、2人共一気に霊力を放出した。それを見たランは、すぐに空間の歪みを機械で確認した。そしてランは  「どんどん歪みが小さくなっていってるわ!」と言った。  やがて錯乱坊とサクラに疲れが見えて来て、放出している霊力も弱まって来た。ちょうどその時、ランが  「これだけ歪みが縮小すれば、もう大丈夫。後は、放っておいても自然に塞がると思うわ」と言った。するとサクラが  「では、もう良いのだな?」と息を切らしながら言った。ランは  「うん、もう休んで」と言った。それを聞いて、サクラと錯乱坊は霊力の放出をやめ、ぐったりとその場に座り込んだ。そして錯乱坊が  「しかし、キツいのう。こりゃ、何か旨いもんでも食わして貰わんとなぁ」と言い、サクラも  「うむ、わたしもいささか疲れたわい」と言った。  錯乱坊とサクラを見守っていたあたる達も、歓喜の叫びを上げていた。  そんな中、ラムだけは涙を流していた。それを見たあたるは  (ラム……泣いているのか?)と思い  「ラム、どうしたんだ?」と聞いた。するとラムは  「あ、うん……やっと終わったと思ったら、涙が出てきちゃったっちゃ」と言った。そんなラムのルクシオンの数値を、ランが計測して思わずラムに  「ラムちゃん!体に異変ない?」と聞くとラムは  「う〜ん、別に何とも無いみたいだっちゃ」と言った。するとランは、機械を見つめたまま  「ルクシオンの、ルクシオンの数値がどんどん少なくなってる!」と言うと、ラムは  「え?」と驚きの表情を見せ、それを見たランは  「大丈夫だった!大丈夫だったのよ!ラムちゃん!」と言うと、ラムの両手を掴んだ。ラムは、信じられないと言う顔をしてランの両手を握り返すと  「ありがとう……ありがとうランちゃん……」と言って、涙を流した。             to be continue