うる星やつらーアナザーワールドー       エピソード 13    チュンチュン・チュンチュン    雀の鳴き声に、ラムはゆっくりと目を覚ました。昨日の大騒動が嘘の様な静かな朝で、まるで長い夢でも見ていたかと思うほどだ。ラムはゆっくりと、押し入れの襖を開け眩い朝日に目を慣らし、押し入れから出ると、まだ布団の中で夢を見ているであろうあたるの姿を見て、昨日の事を思い出した。  昨日、空間の歪みにサクラと錯乱坊が霊力を放出した事で、歪みはどんどん小さくなっている。歪みが大きいので、時間がかかりそうだが確実に塞がる事は間違いない。幸い、喫茶店ピグモンの周辺は面堂が手を回し、誰も立ち入る事は出来なくなっているので、2つの世界を行き来する者はいないだろう。  ラムは、あたるの剥いだ掛布とんを直してあげようと手を伸ばした。しかし、その時ラムは自分の目疑った。その訳は、ラムの右手の指先が微かに透けている様に見えたのだ。ラムは自分の右手をまじまじと見つめると、やはり微かに透けている。ラムは  (え?何だっちゃ?これ)と思い、最悪の事態を想定した。それは、ランの言っていた、この世界からの消滅…………  ラムは  (どうして?どうしてだっちゃ?やっとダーリンが帰ってきたのに……)そう思うと、自然に涙がこぼれ落ちた。  ラムは、あたるのそばを離れると窓の方を向き、窓を開け空を見上げた。すると、ひんやりと冬を感じさせる様な空気がラムの頬を撫でた。ラムは振り返り、あたるの方を向くと  (ダーリンに消えて行くウチを見られたくないっちゃ……)と思うと、再び空を見上げた。すると背後から  「ん?ラム、何してんだ?」とあたるが目をこすりながら話しかけた。ラムは、振り返ると慌てて  「え?べ、別に何もしてないっちゃよ」と言って、笑顔を作った。しかし、その笑顔はぎこちなく、それを見たあたるは  「お前がそういう態度をとる時は、決まって何か隠し事をしてる時じゃ」と言うと、大きなアクビをしてムクっと立ち上がった。ラムは、慌てて  「ほ、本当に何でもないっちゃよ、ウチはただ朝の空気を吸ってただけだっちゃ」と言ったが、あたるはラムに近づくと  「お前、右手に何か隠してるだろう」と、ラムが後ろにまわしている右手を指摘した。ラムは  「え?何も隠してないっちゃよ」と言ったが、あたるはラムの右手を掴むと  「嘘つけ!いいから持ってる物、見せてみろ!」と言って、ラムの右手を無理矢理引っ張り出した。ラムは抵抗出来ず、あたるに手を引っ張られ  「あ!」と叫んだ。あたるは自分の方に引き寄せたラムの手を見ると、呆れた様に  「おいラム……子供みたいな事はやめろ」と言った。ラムは手を握っていたのだ。ラムは、諦めてゆっくりと手を開いた。そして、ラムの手を見たあたるは、驚愕の表情を浮かべ  「ラム……お前、まさか……」と言うと、ラムはあたるから目を逸らした。するとあたるは  「透明になれる薬を持っているのか!だったら俺にも分けてくれ!」と言った。あたるの頭の中では、一瞬で透明人間になった時のプランが構築された。  ラムはそんなあたるの言葉にコケそうになったが、なんとかこらえて  「もう!ダーリン!どうせ、いやらしい事でも考えてるっちゃね」と言い少し怒った表情をしたが、すぐに悲しそうな表情になり  「これは……ウチは……もうすぐ、この世界から消えてしまうっちゃ」と言った。あたるはラムの言った事の意味が良く分からず  「お前は一体何を言っとるのだ、分かる様に説明せんかい」と言うと、ラムは  「うん……実はダーリンには話してなかったけど、ダーリン達が向こうの世界に飛ばされたりした原因が、ルクシオンって言う粒子のせいなんだっちゃ」と言った。するとあたるは  「何だ?その何とかってのは」と口を挟むとラムが  「詳しい説明してると長くなるから、その辺は省略するっちゃ」と言うと、あたるは黙って聞く事にした。ラムは  「そのルクシオンは、こっちの世界には存在しない粒子で、人体に影響は無いんだけど、徐々に蓄積されて一定量になると放出されるっちゃ。すると、放出された粒子は元の場所に戻ろうと空間の歪みに引っ張られるっちゃ、その時蓄積していた人も歪みに引き込まれて、向こうの世界に送られた訳だっちゃ。別の世界に移動するには条件が有るって言うのは言ったっちゃよね?」と言うと、あたるは小さく頷きラムは話を続けた。  「実は、ウチの体にもルクシオンが蓄積されていたっちゃ。でも、向こうの世界にウチが存在しない為にルクシオンは放出されず、蓄積され続けてとんでもない量のルクシオンが蓄積されてたっちゃ」ラムがそう言うと、あたるが口を開いた。  「されてたって事は、今は蓄積されて居ないのか?」あたるの言葉にラムは  「今は、徐々に消滅して行ってるっちゃ」と言った。するとあたるは  「ちょっと待て!徐々に消滅して行ってるって……まさか、それがお前の消える原因だって事か?」と言うと、ラムは小さく頷き  「空間を閉じた事で、ウチの体の中のルクシオンが消滅し始めたっちゃ……向こうの世界にもう1人の自分が居れば、向こうの世界に送られるけど、ウチの場合は向こうの世界にウチは居ないから……」と言った。それを聞いたあたるは  「ラム……お前まさか、それが分かっていて空間を閉じたのか?」と言い、ラムは  「うん」と言った。するとあたるは  「バカヤロウ!何でそんな事を!」と声を荒らげた。しかしラムは  「あのまま放っておいたら、2つの世界が干渉しあって2つの世界は消滅していたっちゃ」と言った。あたるは初めて知る驚愕の事実にただ狼狽えて  「だ、たからってラムが消えるなんて……」と言うと、ラムは  「でも、これでダーリンは無事で居られるっちゃ」と言うと、ニコリと笑った。しかし、その笑顔はいつもの眩しい様な笑顔では無く、悲しみを帯びた笑顔だった。ラムのそんな笑顔を見て、あたるは  (いくら、世界が消滅を免れたってラムの居ない世界に、何の意味が有るって言うんだ!)と思い、うつ向いて拳を握りしめた。  あたるは顔を上げると  「何か方法は無いのか?」とラムに聞くと、ラムは  「ウチも、ランちゃんと一緒に考えたけど、方法は見つからなかったっちゃ……」と言った。あたるはラムの言葉を聞き  「そうかぁ……」と言って、肩を落とした。そして、次の瞬間  「ラム……」と言うと、ラムは  「何だっちゃ?」と答え、あたるは  「今から、デートしないか?」と言った。ラムはあたるの口から出た言葉に耳を疑った。そして  「え?ダーリン今、何て言ったっちゃ?」と聞き返すと、あたるは  「だから、デートせんかと聞いとる!」と言った。ラムは  「ダーリン……」と言うと、涙を浮かべ  「ダーリンからデートに誘ってくれるなんて……」と言った。しかし、ラムは自分の手を見て  「でも……この手じゃ、人前に出られないっちゃ……」と言ったが、あたるは  「そんなもの手袋でもすれば済むだろうが!ちょうど季節的にも不自然じゃないだろう」と言い、ラムの消えかけてる手を見た。ラムは、あたるの視線に気づくと、サッと右手を隠し  「ダーリンに、消えて行くウチの姿は見られたくないっちゃ」と言った。それを聞いたあたるは、ラムから目を逸らし  「と、とにかく着替えて来い」と言うと、ラムは  「分かったっちゃ」と言って、窓から飛んで言った。  あたるも、パジャマを脱ぎ着替え始めた。着替えながらあたるは  (ラムは方法は無いって言ってたが、俺が必ず見つけてやる!)と思った。  20分ほどして、ラムは帰って来ると  「ダーリン、お待たせ」と言った。手には、あたるが言った通りに手袋をしている。あたるは  「じゃぁ行くか」と言った。ラムは  「あ、ちょっと待って」と言うと押し入れに向かい、中を見た。すると中ではテンが気持ち良さそうに眠っている。ラムは  (テンちゃん、良く寝てるっちゃね……ウチが居なくても、いい子にしてるっちゃよ)と思うと、押し入れの襖をゆっくり閉めた。  あたるとラムが下に降り、茶の間の前を通ると、それを見たあたるの母が  「あら、あたる。学校は?」と言ったので、あたるは  「あぁ、今日は休み」と言って、さっさと玄関に向かった。ラムは、あたるの父と母を見ると  「お父さま、お母さま、ありがとうだっちゃ」と言うと、頭を下げた。あたるの父と母は、ラムの意味不明の発言に呆気にとられ、その場で固まった。その時、玄関から  「おい、ラム。行くぞ」と、あたるの声がしてラムは急いであたるの元に行くと、一緒に玄関を出て行った。  家を出るとラムは  「それでダーリン、どこに連れて行ってくれるっちゃ?」とあたるの腕にしがみついて聞くと、あたるは  「そうだな、差し当たり映画を見て、どこかで旨いもの食って、その後は遊園地かな」と言った。するとラムは  「わぁーぃ、本当のデートみたいだっちゃ」と言うと、飛び上がって喜んだ。それを見たあたるが  「おい、本当のデートって……本当のデートじゃないか」と言うと、ラムは  「そんな定番のデートなんて、初めてだっちゃ」と言った。それを聞いたあたるは  「ん?そうだったか?」と首をかしげたが、ラムは  「そうだっちゃよ、前にデートした時はパーマさん達と一緒だったし」と言い、あたるも  「あぁ、そう言えばそうだったな」と言った。  そして、2人は映画を見て、ランチをして、遊園地で遊び、時間は瞬く間に過ぎ既に日は落ちていた。そしてあたるが  「なぁラム、腹減らないか?」と言ってラムを見るとラムは、悲しそうな目であたるを見て  「ダーリン、今日は本当にありがとだっちゃ」と言った。するとあたるは  「な、なんだいきなり」と言うと、ラムは  「……多分、もうすぐお別れだっちゃ……」と言い、暗がりから出てきて右手を差し出した。その右手は、肘の辺りまで透けていた。手袋をしていても、服ごと透けているので最早隠す事は出来ない状態だった。あたるはラムの左手を握ると、早足で遊園地の出口に向かった。そして出口を出ると、あたるは  (くそっ!何か方法はないのか?)と思い、何気なく自分が握っているラムの左手を見ると、ラムの左手も肘の辺りまで透けていた。あたるは驚き、思わずラムの手を離してしまった。するとラムは、左手を引っ込め横を向きうつ向いた。そして  「ダーリンにこんな姿見せたくないっちゃ……」と言い、更に  「ダーリン、今までありがとう」と言うと、涙を浮かべながら笑顔で言った。そして、振り返ると空に飛び立とうとしたが、あたるは素早くラムの手を掴み  「ラム!どこ行くつもりだ!!」と言った。するとラムは  「ウチは、ダーリンの居ない所で消えるっちゃ!」と言ったが、あたるは  「ふざけるな!お前がどんな姿になろうと俺はお前のそばに居てやる!だから、俺と一緒に居ろ!!」と言ってラムを抱き寄せた。ラムは、あたるに身を任せあたるの腕の中で涙を流した。  あたるとラムは、建築中のビルの中で体を寄せ合い座っていた。お互いに何も話さない、しかしお互いの心は通じていた。そんな中、ラムが  「ねぇダーリン……」とあたるに話しかけると、あたるは  「ん?何だ?」て答え、ラムは更に  「ダーリンは、ウチと居て幸せだったっちゃ?」と聞いた。しかしあたるは  「そんな事は、今答えるつもりは無い。ラム……俺が人一倍、諦めが悪い事はしってるだろう?俺は、絶対に諦めない。お前が消えても、必ず俺が……」と言った。そのあたるの言葉にラムは、パラレルワールドのあたるが言った言葉を思い出した  《ラム、俺は何もしてやれないが…………諦めるなよ!》  ラムの瞳には、涙が浮かんでいた。2人のあたるの為にも消えたくなかった。ラムは、あたるに抱きつき  「ダーリン……ウチ、ウチ……消えたくないっちゃ!ずっとダーリンと一緒に居たいっちゃーー!」と言うと、ポロポロと涙を流した。あたるは、そんなラムを見ると既に全身が透けてきていた。外は、うっすらと明るくなって来ており、日の出も近かった。あたるは泣きじゃくるラムを力一杯抱き締め  「心配するな!俺が、絶対に俺がなんとかしてみせる!」と言った。ラムは、そんなあたるの顔を涙で真っ赤になった目で見つめ  「うん」と言って、ニコリと笑った。  その笑顔が、あたるが見たラムの最後の顔だった。ラムは、あたるの腕の中で消えてしまったのだ。あたるは、未だ残るラムの感触が残る両手を見つめた。あたるの目からは涙がこぼれ落ち、見つめる手の上に落ちた。あたるは  「ラム………………」と、ボソッと呟くとフラフラと立ち上がり、一人建築中のビルを後にし無意識に歩き続け、気がつくと家の前に居た。あたるは家に入ると、階段を上がり自分の部屋に行き、部屋の中央に座り込んだ。玄関を開けた時に、母が何かを言っていたが、今のあたるに母の声は届かなかった。  あたるは、ラムの居なくなった部屋を見渡し、改めてラムの存在が自分にとってどれ程大きいものだったかを実感した。あたるは、何も出来なかった自分が情けなく思え悔しくて涙が出てきた。あたるは  「ラム……やっと帰って来れたのに……」と言って肩を震わせた。  夕べ寝ていない事もあり、あたるは知らず知らずの間に寝ていた。やがて目が覚めると外は既に暗くなって居た。その時、下からあたるの母が  「あたるー、ご飯出来たわよー」とあたるを呼んだ。あたるは、食欲は無かったが下に降り茶の間に行くと、茶の間には父と母が食卓についていた。その時、あたるの後ろから  「お前、そない所つっ立っとったら邪魔やないかい」と声がして、テンがあたるの横をプカプカと飛んで茶の間に入って行った。あたるも茶の間に入ると自分の席についたが、そんなあたるを見て母が  「あら、ラムちゃんは?」と聞くと、あたるは何も言わず茶碗を手にした。あたるの母は更に  「今朝、何だかラムちゃん様子が変だったから心配してたんだけど……テンちゃんは知らないの?」とテンに聞くと、テンは  「ワイは知らんで、ラムちゃんどないかしたんか?」と逆に聞いてきたので、母は  「なんかね今朝、私とお父さんに『ありがとう』って。何だか、思い詰めた様な顔してたから、どうしたのかなってお父さんと話してたのよ」と言った。それを聞いたテンは、あたるに  「おい!ラムちゃんどないしたんや?」と聞いたが、あたるは黙々と食事を済ませ  「ご馳走さま」と言って立ち上がった。そんなあたるにテンは  「おい!人が聞いとるのに返事くらいせんかい!」と言ったが、あたるは何も答えず、さっさと階段を上がり自分の部屋に入った。そして、再び部屋の中央に座るとフッとラムの言葉が頭をよぎった。  《ウチも、ランちゃんと一緒に考えたけど、方法は見つからなかったっちゃ……》  そこで、あたるはハッとして  (確か、ランちゃんと一緒にって……て事は、ランちゃんもこの事を知ってるって事か?)と思うと、あたるは解決の糸口が見つかった気がして、じっとしていられなくなった。あたるは、急いで部屋を出ると階段を駆け降り、玄関で靴を履き家を飛び出した。あたるが向かったのは、もちろんランの宇宙船だった。あたるは  (ランちゃんなら、きっと何か方法を知ってるはず!)そう自分に言い聞かせると、全速力でランの宇宙船に向かった。  あたるは、ランの宇宙船に着くと入り口横のボタンを押した。すると、すぐにドアが開きランが顔を出した。ランは、あたるの顔を見ると  「あら、ダーリン。こんな時間にどうしたの?ラムちゃんは?」と言うと、あたるは  「ラムは……ラムは……消えた」と言った。するとランは  「え?どう言う事?」と聞き返すと、あたるは  「何とかって言う、粒子の影響でラムが消えたんだ」と言った。それを聞いたランは顔色を変え、あたるを中に入れると  「消えたって、消滅したって事?」と言い、あたるも頷いた。ランは、更に  「だ、だって空間閉じた時は大丈夫だったのに……」と言って狼狽えた。あたるは、そんなランに  「ラムが、ランちゃんと色々考えたって言ってラたけど、ランちゃんなら何か方法を知ってるかと思って」と言った。するとランは  「方法は、無くは無いけど……」と言い、それを聞いたあたるは  「え!本当?」と言った。するとランは  「ただ、簡単じゃ無いわよ」と言った。            to be continue