〔ザット・クレイジー・サマー〕 第九話・後篇 夢邪鬼「いや〜、ほんま久しぶりやなあ、えーっ、あーーっ、うーぅっ………あんた誰やったっけ?」 メガネ「メガネだ」 夢邪鬼「そうやそうや、メガネやったな、えーっと」 メガネ「トラックの荷台の上で講釈たれていた奴だ」 夢邪鬼「そうでしたな、………その後どうでっしゃろ、人生」 メガネ「お前に答える義務はない」 夢邪鬼「なあ〜、そなあいいわんでも、いけずやな」 メガネ「なんかたくらんどる奴の質問に答えるアホがどこにおる」 夢邪鬼「『企み』やなんてそんな、わてはただ、様子を見に来ただけでっせ」 メガネ「………ほ〜〜ぉ、様子ねえ、何のだ?」 夢邪鬼「だから皆さんの………、!あんたもしやここがどこだかわかっとらへんのと違いますよな!ここは夢なんでっせ、ゆ、め!」 メガネ「お前、俺のこと相当バカにしてるだろう?そんなことも分からんあたる並みのバカだと思ったか!アホ!」 夢邪鬼「それを判っとるんなら話は別や」 急にどすが利いた口調に変わる      「ええか、ここは夢の世界や」 メガネ「それがどうかしたというのか?」 夢邪鬼「夢をつくっとるのが誰かっちゅうことぐらい知っとるやろ、ん?」 メガネ「俺だ」 夢邪鬼「そう、そやったらわてにどんな態度をとったらいいかぐらい、な!」 メガネ「そうだな」 夢邪鬼「やろ」 メガネ「ここは俺の夢だ!さっさと出てけ!」 夢邪鬼「そうそう、やから、………へ?」 メガネ「いつから関与していたのか、何を企んどるは知らんがとにかく出ていけ!」 夢邪鬼「……」 メガネ「図星だな」 夢邪鬼「……しゃあない、一旦退散してやるわ、やけどなぁ」 メガネ「問答無用、出でよ剣!エクスカリバァァーーー!!」 夢邪鬼「あ、あわあわ、あんな物騒なもん出されたらかなわんわ…せっかく助け舟を出してやったというのに…」 錯乱坊「普段夢を見ている人間はそれを現実と認識している。故に、自らの思い通りにしようとは毛頭考えず、また自らの思い通りにならないのが本来の姿…      しかし、ひとたびそれを夢と認識したとき、まあいわゆる明晰夢なのじゃが・・・      それはある種の想像の世界と化し、あのように自らの思うままに世界を組み立てていく事が可能となるのである…といっても、真偽のほどは定かではない。      できないからといって苦情の電話をかけるで……あ、これ、奥方、座布団を投げるでない!そこの老人、いい年して高僧にあろうことか一升瓶を投げるなどという行為を…………」 ところ変わって。 面堂「ん、ここは……」 サングラスA「若、お目覚めですか」 サングラスB「大層お眠りでしたが」 面堂「ああ」    (なるほど、今までの奇妙奇天烈破廉恥なレースは夢だったのか…それにしてはとても緻密な夢だったのだが…) 面堂「おい、何か飲み物をもて」 サングラスA「はっ、ただ今」 面堂(全く今思えば不思議なものだ…僕があの諸星と取引?ばかばかしい。レースでラムさんとデート?僕から言わせると姑息だ。     そもそも、だ。なんで夏休み期間中に自転車レース………これは…ありえなくもない…………全くとんだ学校………     …………まったくだ…………………………………) サングラスA「―・・・・・・――――・・・・―…―若…若…」 面堂「………………んぁ、何だ」 サングラスA「仰せのとおり、お飲み物をお持ちしましたが…お邪魔したようで」 面堂「いや、すまん、ちょっと物思いにふけっていたところだ」 サングラスA「左様ですか」 サングラスB「そういえば」 サングラスA「そのジュース」 面堂「このジュースが何だ」 サングラスB「なんだか」 サングラス「変な味」 サングラス「「「しませんかぁ〜〜??」」」 サングラス「「「「「「「「「「しませんかぁぁぁ〜〜〜〜?」」」」」」」」」」 サングラス『『『『『『『『『『『『『『しぃまぁせぇぇぇ〜〜〜〜んかぁぁぁぁ〜〜〜〜〜????』』』』』』』』』』』』』』 面堂「やめろやかましい!!毒でも盛ってみろ!全員即刻クビだああっ!」 サングラス「そういえば」 サングラス「わたしたち」 サングラス「何だか変だと」 ベリッ 面堂、サングラス部隊に耳を貸さず顔をはがす。 面堂「やっぱりお前か…貴様兄をおちょくるのもいい加減に…」 ベリッ ベリッ サングラス部隊、自ずから顔をはがす………… 面堂「お、ぉぃ、」 ベリッ ベリッ ベリッ 面堂「あ、あわ、みんな了子……………この世の末だ〜〜〜!世紀末だあああああ」 了子(複数)「「「あら、おにいさまったら妹に向かって失礼ですわ〜…妹が何十人もいてそんなに悲しまれるなんて………」」」 面堂「も、諸星よりもたちが悪い…」 了子(複数)「「「やだ、お兄様ったら不潔!」」」ばこっ 面堂「何がどう不潔なんだあああぁぁぁ〜〜〜〜うああああああ〜〜〜〜〜!!気が、気が狂いそうだああ!」 メガネ「……………………ったく、なんちゅう夢だ!てっきり面堂のことだから豪勢なパーティーとかの夢でも見てるのかと思ったんで     そのブルジョアジー的晩餐を庶民プロレタリアートの正義の鉄槌として堂々とせしめようと思ったのに……ちくしょう、腹が減った」 夢邪鬼「だから言うたやろ、人の夢を見たってあんまおもろないって散々…。事もあろうにわてを脅してこれ以上危害を加えないから他人の夢を見させろなんてまったく…      それにしても、あの兄ちゃん相当取り乱してるなぁ…あの兄ちゃんの精神の根底にはどうも相当な恐怖があるようやな」 メガネ「………………た、確かに、他人の夢を見るのがこれほどつまらないこともあるのはわかった、しかし……………     お前はこの俺の状況を見て何もコメントしないのか!!!薄情者!!」 どういうわけか、メガネはサングラス&黒子軍団に踏みつぶされていたのだった。髪はぼさぼさ、制服は泥だらけ、ご自慢のメガネはレンズにひびが入る有様。 夢邪鬼(ケッ、ええ気味や)「薄情やないとこんな仕事務まらんさかいな、もう染みついとる」 メガネ「…………もしやとは思うが、さっき俺の夢の中でコテンパンにのされたことの腹いせでは…ある、まい、な?!」 夢邪鬼(うっ…なかなかこのメガネ男、ええ勘しとるな)「そないなしょーもないことするわけないやろ、アホ」 メガネ「…ほ〜ぅ…まあ、これ以上追及しても得にならんから、まあ、そういうことにしておいてやるが…」 夢邪鬼「よっぽど悪人に仕立て上げたいらしいな、あんさん」 メガネ「ぅあったりまえだ!ラムさんの純粋な夢を悪用して俺たちをその中に閉じ込めた奴のことを信用せいっちゅうほうが無理がある事ぐらいわからんのかキサマッ!     まああたるの夢でなかっただけまし、だが、な…………。あ、そうだ、この際だ、あたるの夢でも見ておこうか、うん!」 夢邪鬼「…えぇ…あの兄ちゃんかぁ…」 メガネ「そんなこと言ってみろ、またコテンパンの…」 夢邪鬼「いうとくけどなぁ、ここはあんさんの夢やないから、さっきのようには行かへんでぇ〜」 メガネ「…………」(汗) 夢邪鬼「ま、どうせわてもそのニイちゃんのとこ行かないかんやろうし、行けば簡単にわての目的も達成できるかもしれんさかいな、ま、行ったってもええな」 メガネ「連れて行ってくれるというのなら、行ってみようか。ところで、お前の目的って?」 夢邪鬼「あとでいやというほど話したる」 メガネ「…………ふ〜ん」 夢邪鬼「ほな行こか…そや、…あんさん、キレんようにだけはお願いするで、ただでさえ他人の夢に人が介入するということは夢を不安定にすることやから、ましてや怒るなんて…      ま、わての能力があれば大丈夫やろうけど」 メガネ「…………?どういう意味だ?俺がキレるなんてそんな…これでも成熟した精神を」 夢邪鬼「はいはい、そうこうしているうちについたで」 着いた先はとんでもないあばら家だった。一人泣きながら晩酌をしているのは…あたる… のおやじ。 あたるの父「あ、あたるのバカヤローーーーーーーー!!!何回も何回も何回も家壊しやがってーー!        こっちはローンで首が回らんのじゃーーーー!!」 メガネ「かなり悪酔いしとるようだ…夢の中までこうとは、精神荒んどるなあ」 面堂「ほんと、あんなアホを息子にもって誠に気の毒な限り…」 メガネ「へ?面堂、どっから湧いて出た!」 面堂「了子になぶられているとき、ほんの一瞬貴様らが見えたもんでな。了子の目を盗んでこっそりついてきた。」 メガネ「ふーん、まあ、それはそうと、あたるはラムさんのことは考えずにおやじさんのことを考えていたのか………くっ、許せん!」 面堂「なに、ここは諸星の夢なのか!貧乏人はやっぱり貧乏人の夢を見るもんだな」 夢邪鬼「ちゃう、あのニイちゃんのお父ちゃんの夢や」 メガネ「おい、あたるの夢に連れて行く約束だったはずだが!」 夢邪鬼「ちょいと寄り道したんや、めったにこんな機会なかろと思ってな…感謝せいよ!」 面堂「ま、大方間違えたいいわけだろうとは思うが」 メガネ「そういうことにしてやろう、か、な」 夢邪鬼「……今度そないなこといったら置き去りの刑やからな」 メガネ「じゃ、さっさと」 あたるの父「待ってくれ!!」 三人「「「へ?」」」 あたるの父「見てくれこのビールを!度重なるローンで貧乏暮しな我が家はビールを飲むにも        『水割り』のビールを飲んでいるんだ!君たちあたるのクラスメートだったね、ねえ!!」 面堂「まあ残念ながらそんなもんですが、どうされたんです?」 あたるの父「とにかく、とにかく話を聞いてくれえ!愚痴を言う相手がいないんだ!……」 さて、ここまで三人は、川下りの船のような船で移動した。あたりは薄暗く、かすかに藍色で、かすかに光がもやのように感じられる。 するとどこからともなく穴が開いた。大きめの窓ぐらいの丸い穴で、あたるの父の夢が、穴を覗くと見える。三人が出てきて、移動を開始する。 船はふわふわりといった感じで浮いている。上下も左右もない世界のように感じられたが、景色は動いており、前方へ進んでいるようには思えた。 夢邪鬼は、船頭のように艪を操りながら船を操縦している。メガネと面堂の二人も、オールを漕ぎながら メガネ(しかしまあ船といいえらく旧式…) 面堂(何ともまあ奇っ怪な…) と思っていたが、そんなことは口には出さない。 メガネ「結局何時間ぐらい愚痴を聞いたんだろうな」 面堂「さあな。しかし貧乏とは悲しいもんだな、親にあんな夢を見させるほどとは…いやはや、あのアホは…」 夢邪鬼「さあ、そのあんさんが言うとるアホの夢やで」 メガネ「よっこらしょっと………………ん?面堂、お前こんのか?」 面堂「考えてみろ。大体あのアホが見そうな夢など、十中八九ハーレムの夢に決まっとる」 メガネ「見てみないとわからんだろうが」 面堂「ふん、諸星の夢など、見た方が毒されてしまうわ」 メガネ「そうか…脳科学的には貴重な体験だと思うがな…」 面堂「とにかく僕はそんな無為なことに時間を費やしたくはないもんでね」 夢邪鬼「ま、来ないならそれでもええけど、でもそこから動くんやないで。動いたらいろいろ保証しかねるさかい」 面堂「大丈夫だ。僕もそこまで軽率じゃない。」 ことのほか早く、メガネたちは戻ってきた。五分もたったかどうか。 面堂「どうだったか?」 メガネ「…………この顔見てわからんのか」 呆れたような、疲れたような顔だった。 メガネ「ああそうだよ、ハーレムの夢だったよ!まったく、あたるの野郎、一発殴ってやりたいもんだな」 夢邪鬼「それで本当に一発かまそうとしたからワイがあわてて連れ出したんや」 面堂「まあ、そんなところだろうとな、ふふっ…」 メガネ「おまえなあ、そんな皮肉ばっかり言っとったら友達いなくなるぞ」 面堂「だって事実だろう?」 メガネ「……………………          おい、口直しだ、次はラムさんの夢に行くぞ、いいな」 夢邪鬼「口直しって、そんな。まだ懲りへんのかいな」 面堂「その表現はラムさんに失礼だぞ」 メガネ「ええい、ここまで来て何も収穫なしで帰れると思っとんのか!」 夢邪鬼「わての一番の目的やさかい、ええけどな…気分よくはならんと思うで」 二人「「どういうことだ?」」 夢邪鬼「ついてくればわかる。さあ動くで、オール漕ぎ」 夢邪鬼「しかし、あの諸星も、まあツミな男やな」 面堂「本当だ、あの男に惚れたばっかりにラムさんも…」 夢邪鬼「そういう意味で言ったんやない」 メガネ「そういう意味じゃなかったらどういう意味なんだよ!」 夢邪鬼「ええか、少しだけ教えたる。人間の思考というのは、例えるならば海や。      今脳の中で考えていることは浅瀬、無意識に考えている深層心理は深海や。それらが干渉しあって、目に見える波になったりするんや。これが人の行う行動。      他人の海を見ようと思うても、たいていそのさざ波しか見えん。自分の海も、淀み方によるけど、せいぜい浅瀬ぐらいまでしか見えん。      夢っちゅうんはなあ、うん、しいて言えば浅瀬と深海の間にできるもんなんや。浅瀬が主になることもあるんやけど、深海から浮き上がってくることも多い。      夢は、深海を見ることのできる唯一の手立てなんや」 メガネ「ん?夢ってお前が作るもんじゃないのか?お前の口ぶりだと人間が作りだしたようにしか聞こえんのだが」 夢邪鬼「あのなあ!夢を一からつくるというのは大仕事なんやで。この世には何十億と人間がいるんやで、そんなことしてたら日が暮れる。わての通常業務はただ、監視役にすぎんのや。      一通り見て判押して…みたいなところや。まあ、現実で夢をつくってやったもんもいるけどな」 メガネ「…わかった。わかったんだが…さっきの『日が暮れる』というのは夜が明けるの間違いじゃないのか?」 夢邪鬼「…夜が明けて日が暮れる、それぐらい時間がたつということのたとえや」 メガネ「屁理屈上手だ」 夢邪鬼「理論武装ではあんさんにはかなわん」 面堂「…まあ、とりあえずそれは置いといて、要するに貴様は何が言いたいのか?」 夢邪鬼「この理屈で行くと、あの諸星の深層心理はハーレムということや」 メガネ「そんなの決まりきっとる事じゃないか!」 夢邪鬼「……そういうやろうと思うた。所詮他人の海は外しか見えへんのやから、まあ当然っちゃ当然やな。      一つだけ教えとく。あいつの心理はスケスケや。本人も、自分の心理に気づいとる。      でありながら、見えない振りをしとるんや、…どういうことか理解できへんやろう」 メガネ「……」 面堂「抽象的すぎてわからん」 夢邪鬼「そりゃ、わてもライバルの心理をべらべら喋ってやるほどお人よしやないからな。あとは自分で考えい。      …理解した時、諸星とラムさんの間の謎が解ける。と同時に、あんたらはショックを受けるやろうな。      着いたで。」 夢邪鬼は穴を出現させ、二人を招き入れた。二人は覗きこそしたが、しかし入ることはやめた。 曰く、 二人「「暗闇で一人、ただ泣いているラムさんなど見て、何が面白い。こんなことになったのも全部全部あのあたる/諸星のせいだ、許すまじ!」」 夢邪鬼「な、気分悪くしたろ。こんな夢もあったりするんや。     さあ、夜が明ける。はよ自分の夢に帰れ」 面堂とメガネは結束を確かめ合っていたせいか、夢邪鬼の声など聞こえなかった。本来これまでの経緯からメガネにとって面堂は敵であるはずなのだが… そんなこんなで、ついに運命の朝はやってきた! =次回予告= 終太郎がトップをひた走るレース。妨害むなしく、ゴールへの距離は近づくばかり。 日曜夏真っ盛りのそんな中、メガネさんがひらめいた起死回生の一手とは?! 次回、第十話で会うっちゃ!