うる星やつら     devil planet  あたるは食い入る様に雑誌をみている。その雑誌は求人雑誌だった。あたるはアルバイトを探していたのだ。  「なかなかいい所がないなぁ」あたるは、そう言うと更に隅々まで注意深く見てみた。すると突然  「ダーリン、そんなに真剣に何の本よんでるっちゃ?」と声が聞こえ、声の方を見るとそこにはラムが窓枠に座りながら、あたるの方を見つめていた。あたるは  「うるさい、俺は忙しいんだ」と言うとラムに背を向けた。ラムは  「なんだか怪しいっちゃ。ダーリン、みせるっちゃ!」そう言うと、あたるの前に回り込もうとしたが、あたるは器用にかわし、ラムはなかなか見られない。業を煮やしたラムは  「ダーリン!いい加減にしないと電撃だっちゃよ!」と言った。あたるは、諦めると面倒臭そうに  「しつこい奴だなぁ。そんなに見たけりゃ見せてやるよ!ほら」と言うと、ラムに求人雑誌を放り投げた。ラムは雑誌を受けとり  「求人雑誌?ダーリン、アルバイトするっちゃ?」と言った。するとあたるは  「あぁ」と言うと出掛ける支度を始めた。ラムが  「どこかいい所があったっちゃ?」と言うと  「まぁな」とあたるは答え、それを聞いたラムは  「え?どんなアルバイトするっちゃ?」と言いながら、あたるの顔を覗き込んだ。しかし、あたるはラムの質問には答えず  「と、言うことで俺は出掛けてくるのでよろしく」と言って部屋から出て階段を駆け下りた。もちろんラムは黙って行かせる訳も無く、あたるの後を追い  「どうせ、またろくでもないアルバイトだっちゃ」と言った。あたるは  (ラムのやつ、あんな事言ってるが俺に付いて来る気に決まっとる)と思い、勢いよく玄関を出ると猛ダッシュで走りだした。するとラムは  「あ!ダーリン!逃げるって事はウチにバレたらまずいバイトだっちゃね!」と言いながら、慌ててあたるの後を追った。しかし、あたるの逃げ足は天下一品で、一瞬でラムの視界から消えてしまった。ラムは結局あたるを見失ってしまった。  「もう、ダーリンったら。逃げ足だけは速いっちゃねぇ。いったい、どこ行ったっちゃ」ラムは独り言を言いながら、上空からあたるを探したが、一向に見つかる気配がない。一方あたるは、公園の植え込みに身を隠し、ラムが離れるのを待っていた。  「未熟者め、この俺がそう易々と捕まる訳なかろう」あたるはそう言いながら、植え込みから出て、雑誌の切れ端を見ながらアルバイト先を見つけ始めた。あたるはラムに雑誌を渡す前に、素早くページを破っていたのだ。求人案内には親切にも地図が載っていて、あたるは難なくバイト先を見つける事ができた。そこは、まるでホラー映画に出てきそうな古ぼけた洋館だった。それを見たあたるは、スタスタと玄関ドアの前まで来ると、何のためらいもなくすぐ脇に有る呼び鈴を鳴らした。すると  ギィィィィィ と、重い不気味な音を立ててドアが開き、中からガスマスクの様な物を被った、これまた不気味な人物が  「なに?」と言いながら、あたるの顔をマジマジとみつめた。  あたるは、そんな出で立ちの人物を気にもせずに  「求人を見て来たのだが……」と言った。するとガスマスクは  「あ、助手をしてくれる人?」と言った。あたるは、そんなガスマスクの言葉に  「助手?いったい何のバイトなのだ?」と言った。そんなあたるの質問にガスマスクは呆れる様に  「ちゃんと求人読んだんかいな……まぁええわ。ざっくり言うと、実験の助手をやって貰うんや」と言いながら、中途半端に開いていた玄関ドアを全開に開き、あたるを中に入れた。あたるは、家の中を見渡しながら  「実験とは、どんな実験をするんだ?」と言った。ガスマスクは館の奥に進みながら  「なぁに、簡単な実験や。人の精神の反応を見る実験さかい」と言うと、地下に向かう階段を降り始めた。あたるはガスマスクの後をついて行きながら  「なぁ」と、ガスマスクに声をかけた。するとガスマスクは  「ん?なんや?」と足を止めずに答えた。そんなガスマスクにあたるは  「俺の他にもバイトは居るのか?」と聞くと、ガスマスクは  「あぁ、希望者はぎょうさん居るで。そやから、もう少しあんたの事を知りたいんや。それから採用するか決めよう思うてな」と言うと立ち止まり、振り返りガスマスクの奥でニヤリと笑った…………様に思えた。そんなガスマスクを見て、あたるは  (なんか胡散臭いなぁ)と思ったが、バイトの金額が高額だった為気にしなかった。  しばらく階段を降りると、重そうな鉄製のドアが現れた。ガスマスクはドアを開けると、あたるを促し中へと進んだ。  中は色々な機械が並び、いかにも研究室と言った感じだった。するとガスマスクが、おもむろにあたるを椅子に座らせた。そして自分は、なにやら端末らしき物が有る所へ行くと、何かのスイッチを押した。すると椅子に座ったあたるの手足を金属のバンドの様な物が固定し、あたるは身動きを取れなくなった。あたるは思わず  「おい!これは一体どういう事だ!」とガスマスクに向かって叫んだ。しかしガスマスクはあたるの質問には答えず  「あんた名前なんて言うんや?」と言ったが、あたるはすかさず  「人に名前聞くなら、まず名乗ったらどうなんだ?」と言った。するとガスマスクは  「ははは、確かにそうやな。名前は、ソルや、人間の精神の研究をしとる。であんたの名前は?」と言った。あたるは手を動かそうとしたが、金属のバンドは全く外れる気配も無いので  「俺は諸星あたる……で、俺をこんな椅子に固定してどんな実験をするつもりなんだ?」と言った。ソルはあたるに近づくと  「あたるはん、あんたの頭の中を分析させてもらうよ」と言った。それを聞いたあたるは  「ちょっと待て!」と声をあげた。ソルはあたるの声を聞き  「なんやねん?」と怪訝な表情をした……多分ガスマスクの奥で。あたるは  「俺の頭の中を分析?そんな話は聞いとらんぞ!」と言うと、ソルを睨んだ。するとソルは  「聞いとらんも何も、言っておまへんがな」と言った。あたるは、ソルの言葉を聞くと  「冗談じゃない!今すぐこれを外せ!」と言うと、ガチャガチャと手足をばたつかせた。しかしソルは  「そうでっか……残念やなぁ、あんさんええデータが取れそうやから報酬はずもう思ってたんやけど」と言うと、あたるの椅子に近づいて来た。するとあたるは  「ちょっと待て、報酬はずむとはどのくらいだ?答えによっては協力してもいいが」と言った。ソルは、ガスマスクの奥でニヤリと笑うと  「あんさんやったら、1日5万でどうでっしゃろ」と言った。それを聞いたあたるは  「そう言う事なら、協力しようではないか」と言った。顔はだらしない程ニヤニヤしていた。ソルは  (単純な奴で助かったわ)と思いながら操作盤の所へ行き、何やら操作をして  「ほな、ええでっか?」と、あたるに声をかけた。あたるは  「ああ、いつでもいいぞ」と言った。まだ顔はニヤけている。ソルは  「ほな、行きまっせ」と言うと、操作盤のスイッチを押した。すると、あたるの頭上から何やら怪しい機械が降りてきて、あたるの頭上10センチ位で止まった。  あたるは不安になり  「おい、大丈夫なんだろうな?」と言うとソルは  「心配せんでも大丈夫やさかい、おとなしくしといてや」と言って、更に何かスイッチを押すと、あたるの頭上の機械は低い音をたてて作動した。操作盤の前のソルはディスプレイを見つめながら、ニヤリと笑い  (なんや、この星の雄は。頭の中に有るのは、雌の事と金の事ばかりやないか。割合は、雌70%、金27%、その他3%。なんと原始的な思考や)と思った。そんなソルを見たあたるは  「おい、もう終わったのか?」と聞くとソルは  「ああ、分析は終わったで、分析はな」と言った。それを聞いたあたるは  「分析はって事は、まだ何かやるのか?」と言った。するとソルは  「ああ、これからが本番や」と言った。あたるは、それを聞き  「なに?まだ何かやるのか?」と言うと、ソルは  「なぁに、ちょっと実験であたるはんの頭の中の欲望の1つを抑制させてもらうだけや」と言って操作盤をいじり始めた。ソルは  (ここは、一番大きな欲望の雌に対する欲望を押さえてみるで)と思いスイッチの1つを押した。すると、あたるの頭上の機械がゆっくりと回転を始めて光を放ち始めた。その光のせいか、あたるは徐々に意識が遠くなり、やがて深い眠りに落ちた。  ソルは、あたるが眠りについたのを確認すると、操作盤を操作してあたるの女性に対する欲望を抑制し始めた。その経過を見ながらソルは  「こいつの雌に対する欲望は実に7割。それを抑制すると、脳の活動が著しく低下して、まともに動く事も出来ん様なってまうかもなぁ」と言うと、更に操作盤をいじり出し  「ほな、その他の3%の中から1つを増幅させよか」と言って、その他3%を調べ始めた。いくつか見た時、ソルは  「これや!これは、おもろいデータが取れそうやで」そう言うと、ニヤリと笑った。もちろん、ガスマスクの下で。  やがて、あたるは目を覚まし回りを見渡すと自分の置かれた状況を思い出し  「おい……終わったのか?」と言った。手足を固定していた金属のバンドは既に外れており、あたるは椅子から降りてソルに近付いた。ソルは  「無事終わったで」と言った。あたるは、ソルの言葉を聞くと  「なら、バイト代貰えるんだよな?」と言った。しかしソルは  「何言ってるんや、この実験はあたるはんの精神のデータを取って初めて終了やど。それまでは、まだ報酬はあげられんがな」と言った。あたるはさらに  「なら、いつ報酬は貰えるんだ?」と聞くと、ソルは  「明後日のお昼位にまた来てもらえまっか?報酬は、その時渡すさかい」と言うと、あたるを部屋から押し出した。そしてソルは、鉄のドアを閉めながら  「ほな、明後日のお昼に。お待ちしてまっせ…」と言葉を残し、ドアを閉めた。あたるは鉄のドア越しに  「明後日の昼だな!絶対報酬用意しとけよ!」と大声で叫ぶと、館を後にした。  あたるは、自宅へ向かいながらふっと思った  (しまった!どんな実験をしたか聞き忘れた……まぁ、いいか。別段なにも変わった感じもないし)そんな事を考えているうちに、自宅に到着した。日も傾き始め、ちらほらと周囲の家に灯りがともり始めた。あたるは家に入ると、すぐに2階の自分の部屋に向かった。  部屋の中にはテンが一人でオモチャで遊んでいた。あたるは  「おいジャリテン、ラムはどうした?」と声をかけると、テンは  「なんや、それが人に何か聞く時の態度かいな」と言うと、オモチャで遊ぶのをやめ、あたるの方に飛んで来た。あたるは  「知らんならいい」と言って、机の上に置いてあった雑誌を手に取った。そんなあたるの態度を見てテンが  「アホ!わいが知らん訳ないやろが!」と言うと、あたるは  「ほう、知っとるのか……」と意味ありげな言い方をした。それを聞いたテンは  「な、なんや……何か意味ありげな言い方やなぁ」と言うと  「まぁええわ、教えちゃる。ラムちゃんは何や呼ばれた言うて里に帰ったで。明日には帰る、言うてたけど」と言った。あたるは  「ふーん、呼ばれてねぇ」と言うと雑誌を再び机の上に置くと、部屋を出て行こうとした。そんなあたるにテンは  「お前、ラムちゃんが帰ってこんかったら、どないしよ思っとるんやろ」と言ってニヤニヤと笑った。しかしあたるは  「アホか、そんな心配なんぞこれっぽっちもしとらんわい」と言うと、部屋を出て下に降りて行った。テンもあたるに続いて部屋を出て、階段を降りるあたるに  「なぁ、ほんまは心配なんやろう?」とちょっかいを出すが、あたるは無視して茶の間に入った。するとちょうど夕食の準備が出来たらしく、あたるとテンは席についた。それを見たあたるの母は  「全く、ご飯のタイミングだけはピッタリね」と言うと、あたるとテンを見て  「あら?ラムちゃんは?」と言った。するとテンが  「あ、ラムちゃん用事が有るらしくて里に帰ったさかい、食事はいらん思うで」と言うと、あたるの母は  「あらそう、あたる!あんたラムちゃんに何かしたんじゃないでしょうね?」とあたるに言った。それを聞いたあたるは  「俺は何もしとらん!そもそも、何かとはなんじゃい!何かとは」と言った。  あたるは夕食を食べ終わると、そそくさと入浴も済ませて部屋に戻った。部屋に入るなり、あたるはゴロンと仰向けに横になった。そんなあたるの上を、プカプカとまるで水にでも浮かぶ様に仰向けでテンが行ったり来たりしている。やがてテンは  「なぁ、お前ほんまは淋しいんやろ?ラムちゃんには黙っててやるさかい、正直に言うたらどうや?」と言った。するとあたるは、ムクっと起き上がるとスタスタと窓の所へ行った。そして、おもむろに窓を開けて再び元居た場所に戻り、どこからか取り出したフライパンを振りかぶり  「さっきから、じゃかぁしぃわー!」と叫ぶと同時に、おもいきりフライパンでテンを窓の外に打ち出した。テンは、あたるの攻撃を予期していなかった為にモロに攻撃を喰らい  「うわぁぁぁ!覚えとれよー!アホーーー!」と叫びながら夜空に消えた。あたるはすぐさま窓を閉めると、再び横になった。あたるは、自分の気持ちに戸惑っていたのだ。なぜなら、ラムが居ない事にホッとした気持ちを抱いていたからだ。その時あたるはフッと  (あ、そうか!俺は普段いつもラムが一緒に居るから監視されてるのと同じ状態だった。それがラムが里に帰った事で束の間の自由を得たのだ。この気持ちは、自由を得た事による解放感だったのだ!)と思った。あたるは、自分の気持ちに納得したのかそのまま寝てしまった。  翌朝、あたるの耳に何か聞こえてきた  「…………リン……」それは、あたるの聞き覚えのある声だった。すると再び  「……ーリン……」と声がした。あたるの意識はだんだんハッキリしてきて、ついに  「ダーリン!遅刻するっちゃよ!」とハッキリとラムの声だと分かった。あたるはムクっと起きると、ラムの方を見た。ラムはあたると目が合うと、ニコリと笑った。しかしあたるは、そんなラムの笑顔を見た瞬間、一瞬にして壁の所まで飛び退いた。そんなあたるを見てラムは  「ダーリン!どうしたっちゃ?」と言ってあたるに近づこうとすると、あたるは  「く、来るな!」と言った。ラムは、予期せぬあたるの態度に  「え?ダーリン?本当にどうしたっちゃ?」と言って立ち止まった。あたるは、全身に鳥肌が立ち、血の気が引いて行くのを感じた。ラムは、戸惑いの眼差しをあたるに向けている。あたるは、自分の信じられない感情に焦りを感じ、ラムに  「ラム……すまん、少しの間俺と距離を置いてくれないか」と言うと部屋を出て階段を降りて行った。ラムは呆然と立ち尽くし、やがてペタンとその場に座り込んだ。ラムは溢れそうになる涙をこらえ  「一体どう言う事だっちゃ?距離を置くって……それって……」と言うと、我慢していた涙が一滴膝の上に置いた自分の手の上に落ちた。しかしラムは、手で涙を拭うとスッと立ち上がり  「ううん、きっと何か理由があるっちゃ。ダーリンがいきなりあんな事言うはず無いっちゃ」と言うと、部屋を出て1階の茶の間に向かった。茶の間では、あたるがガツガツと朝食を食べていて、あたるの母におかわりを要求している。あたるの母は、忙しそうに茶碗にご飯を盛りあたるに渡そうとした時、茶の間の入口に立っているラムに気付き  「あら、ラムちゃん帰ってたのね。ご飯は?」と言った。その時、母の声に反応してあたるの肩がピクンと動いた。それを見たラムは  「あ、お母様、ウチご飯はいらないっちゃ」と言った。するとあたるの母は  「あら、ラムちゃん具合でも悪いの?」と言って心配そうな目をした。ラムは  「ううん、ウチお腹すいてないから……」と言い、あたるの方を見るとあたるは黙々と朝食を食べている。そんなあたるに 「ダーリン……ウチ先に学校行ってるね」と言うと、玄関を出て行った。あたるは、自分の訳の分からない感情の為にラムを傷つけてしまった事に、やりきれない気持ちで自分自身に怒りを覚えた。  あたるが学校へ着くと、ちょうど登校してきたしのぶとバッタリ鉢合わせした。しのぶは  「あ、あたるくん。おはよう」と声をかけた。あたるはラムの時同様に背筋に悪寒が走り、とっさに後ずさった。そんなあたるを見てしのぶは  「あたるくん?どうしたの?」と不思議そうな顔で見ている。あたるは  「あ、あぁ、お、おはよう……」と言うとまるで逃げる様に校舎に入って行った。しのぶは  「……なにあれ?私の顔見た途端、逃げる様に走り出すなんて……」と言うと、肩を震わせて  「なんなのよーーーー!」と叫んだ。  あたるは、教室に着いた時悟った、ラムやしのぶに感じた悪寒は、女性全てに感じる事を。ラムは真っ青な顔つきで教室に入って来たあたるを見て  「ダーリン!大丈夫だっちゃ?顔が真っ青だっちゃよ?」と言いながら近づこうとしたが、あたるの顔を見て手前で立ち止まった。そんなラムの声を聞き、メガネがあたるを見て  「あ、あたる!お前、まさか……」と言いながら近づいた。メガネと一緒に近付いたパーマは、あたるの額に手を当て  「う〜ん、熱は無いようだが」と言い、それを聞いたメガネは  「だよな、あたるが病気になるなんて天地が引っくり返ってもありえんからな」と言った。そんなメガネに、チビが  「でも、あたるの顔色本当に悪いぜ」と言うと、それを聞いていた面堂は  「おおかた、何か変な物でも拾って食べたのだろう」と言った。するとあたるは  「ふざけるな!チェリーじゃあるまいし」と言った時、あたるの後ろで  「おい、そんな所で突っ立てたら入れねぇじゃねぇか」と声がした。するとその瞬間、あたるは物凄い速さで横に跳んだ。声の主は竜之介で、竜之介はあたるの行動を見て  「おいおい、そんな大袈裟に避けなくても」と苦笑いをした。ラムは、そんなあたるの様子を少し離れた所から見ていて  (ダーリン……ウチだけを避けてる訳じゃないみたいだっちゃ)と思った。あたるの反応に違和感を感じたのはラムだけではなかった面堂とメガネ達4人も、いつものあたるらしからぬ行動に驚愕した。メガネは  「あ、あたるが……あたるが」と言い、続いて面堂が  「竜之介さんを避けた……」と言い、顔を見合わせた。ちょうどそこにしのぶが教室に入ってきて  「どうしたの?みんなしてこんな所で」と言った。すると面堂が  「実は、諸星にとんでもない異変が」と言い、しのぶに今までの経緯を説明した。その時、メガネは  (さっきのあたるの反応は、ただ驚いただけではなく、明らかに避けていた。今入って来たしのぶを見る目も、何だか怯えている様に見える)と思った所で、何かに気付いた。メガネはラムの方へ行くと  「ラムさん、あたるの奴はいつからあんな感じですか?」と聞いた。ラムは  「ウチ、夕べは里に帰ってて帰って来たのは今朝だから、よく分からないっちゃ。ただ……」と言って言葉を詰まらせた。ラムの話を聞き、メガネは  (ラムさんの反応から見て、今朝には今の様な状態だったのだろう。ラムさんが全く、あたるに近づかないのが証拠だ)そう思い、さらに  (もし、あたるがラムさんを突き放しているとしたら……これはチャンスかもしれんぞ)と思うと、ニヤリと笑った。そんなメガネの表情を見たあたるは  (メガネのヤツ……このままだとラムに近づこうとするに違いない。そんな事させるか!)と思うと、ラムに向かって  「ラム、ちょっと来てくれないか?」と言いラムを呼び寄せた。ラムは、それを聞き  (ダーリン!やっぱりダーリンはウチの事嫌いになって無かったっちゃ)と思い、満面の笑みであたるに近付いた。ラムが近付くにつれて、あたるは全身に鳥肌が立ち全身の毛が逆立って行くのを感じた。しかし、あたるはそれに耐えた、その訳はラムを誰かに取られるのが我慢出来なかったからだった。そんなあたるをよそに、面堂達は何やら相談している。そして面堂が、あたるの手を掴み  「諸星!保健室に行くぞ!」と言うと無理矢理にあたるを引っ張った。しかし  「ちょ、ちょっと待て!」とあたるは面堂の手を振り払った。するとメガネが  「あたる!お前やっぱりおかしいぞ!普通ならサクラさんの居る保健室なんて仮病を使ってでも行きたがるのに」と言った。あたるは  「な、何言ってんだ……俺は、普通だ」と言ったが、面堂が再びあたるの手を掴むと強引に引っ張って保健室へ連れて行った。  保健室の中には、あたるを始め、ラム、面堂、メガネ、しのぶ、パーマ、カクガリ、チビの7人が所狭しと座っていた。そんな状況にサクラは  「お主ら、こんな人数の付き添いは必要ないじゃろう」と言い呆れた顔をした。すると面堂が  「僕達は、諸星の事が心配で」と言うと、メガネ達も頷いた。それを見てサクラは  「まぁいい、で?諸星が病気とは、一体どう言った症状じゃ?」と聞くと面堂が  「実は、諸星が女性に全く興味を示さないのです。しかも逆に、女性を避けているとしか思えないんです」と言った。面堂の話を聞いていたサクラは  「なるほどのぅ。それは興味深い」と言うと、あたるの額に手を当てようとした時、あたるは勢いよく椅子から立ち上がると後ずさった。そんなあたるの行動を見てサクラは  「ふむ。これは、女性恐怖症じゃの」と言った。それを聞いて一同は驚愕の表情を見せ、しのぶが  「あ、あたるくんが……」と言い、続いてメガネが  「女性恐怖症???」と言った。更に面堂も  「そ、そんな馬鹿な!!」と言って一斉にあたるを見た。あたるは、みんなの視線を浴びながら  (なんだと?俺が女性恐怖症??……でも何で?)と思った。その時ラムが  「そうだっちゃ、おかしいっちゃ!だってダーリン今朝お母様と普通にご飯食べてたっちゃ、女性恐怖症ならお母様だって女だから普通には出来ないはずだっちゃ!」と言った。それを聞いてサクラは  「確かに母親も女性じゃ。しかし、女性である前に親なのではないのか?」と言った。するとすかさず面堂が  「どう言う事ですか?」と疑問を投げかけた。それを聞いたサクラは  「つまり親の事は、あくまで親であり異性とは見んと言う事じゃ。お前らだって、自分の親の事を異性とは見んじゃろう」と言った。サクラの説明に一同は納得したらしく、口を閉ざした。すると突然パーマが  「なぁ?あたる、お前何か心当たり無いのか?」と言った。あたるは  「心当たりなんぞ有る訳……」とそこまで言うと、ハッとして  (まさか、昨日のバイトの実験?……確かソルは、俺の脳の中の何かを抑制するとか言ってた)と思ったと同時に怒りがこみ上げて来た。そんなあたるを見ていたメガネが  「おい!何か心当たりが有るんだな!」と言ったが、あたるは  「いや、女性恐怖症と分かった今、こんな所には居られん。さっきから鳥肌が止まらんのでな」と言うと保健室を出た。すぐさまラムが  「ダーリン、待つっちゃ」と言って追いかけようとしたが、あたるが  「ラム!頼むから今は1人にしてくれ」と言って保健室を去った。そんなあたるを見てラムは  (ダーリン……さっきダーリンは無理してウチの事を呼んだんだっちゃ。辛いのにウチの事を……)と思うと、サクラに  「女性恐怖症を治す方法は無いっちゃ?」と聞いた。しかしサクラは  「……残念じゃが、現状ではどうする事もできん」と、言った。その時メガネが  「おい、あたるのさっきの態度……」と言うと、面堂が  「うん。あれは絶対に思い当たるふしが有るに違いない」と言うと、静かにあたるの後をつけた。他の面々も面堂に続き保健室を出ると、あたるの後をつけた。  あたるは学校を出ると、一直線に前日の洋館に向かった。面堂達は、あたるに気付かれないように慎重に後をつけ洋館にたどり着いた。それを見てラムは  (ダーリン、こんな所で何を?)と思いつつも、あたるを、見守った。あたるが玄関の呼び鈴を押すと、ドアが少し開き中からガスマスクを着けたソルが顔を出した。ソルは  「あれ?あたるはん、約束は明日のお昼だったはずやけど」と言ったが、あたるは無理矢理にドアを開くと、中に入り  「どう言う事だ!何で俺が女性恐怖症にならにゃぁならんのじゃ!」と言った。するとソルは  「な、何の事でっしゃろ?」と言ったが、あたるは引き下がらず  「とぼけるな!お前が俺の頭の中をいじったのだろうが!いいから元に戻せ!」と言った。ソルは渋々  「ほな、しゃぁない。ちょっと早いけど元に戻しますか」と言った。そして、ソルとあたるは地下へと続く階段を降りて行った。その頃、ラムと面堂、しのぶ、メガネ達4人組は、あたるの後に続き屋敷のドアを開けると、物音を立てない様に忍び込んだ。そして地下へと続く階段をパーマが見つけ  「おい、こんな所に下に降りる階段が有るぞ!」と言うと、全員階段の所に集まった。階段を見た面堂は  「きっと、この下だ……」と言って、ゆっくりと階段を降り始めた。みんなで階段を降りると、鉄製のドアに行きつきラムがゆっくりと音を立てない様に少しだけドアを開けた。するとそこには椅子に座ったあたると、その先にガスマスクを被った怪しい人物が操作盤を操作していた。その時あたるの頭上の機械が低い音を立てながら回転を始めた。ラムは、その機械を見て  『あ、あれは!人の頭の中を書き換える機械だっちゃ!きっと、あのガスマスクがダーリンの頭の中をいじったんだっちゃ!』と小声で言った。あたるの頭上の機械は、光を放ち始めた。それを見てラムは  「まずいっちゃ!ダーリンの意識にアクセスする気だっちゃ!」と言うと同時にドアを勢い良く開けると中に飛び込んだ。それを見て面堂とメガネが同時に  「あ、ラムさん!」と叫んだ。そんな騒ぎにソルが気付き  「な、なんや!おまえらは?」と驚いて声を上げると、ラムが  「お前、ダーリンに一体何をしてるっちゃーーーーー!」と言って機械に向かって電撃を放った。それを見たソルは  「あ!何やっとるんやー!」と言うと慌てて操作盤をいじりだした。しかし機械はラムの電撃を浴びてバチバチと放電を始め、あたるの頭上の機械は物凄い速さで回転を始めた。ソルは操作盤から手を離すと、後ずさりしながら  「あ、あかん……暴走してしもうた」と言い、ラムの方を向くと  「何て事してくれたんや!下手したら、あたるはんの頭の中がグチャグチャになってまうで!」と言った。それを聞いてラムは慌ててあたるを助け出そうとしたが、突然機械が爆発してラムは吹き飛ばされた。もうもうとする煙の中でソルは  (なんやこの星の雌は!空も飛べるし電撃も放つんかいな!)と思った。ラムは吹き飛ばされた衝撃で強く体を打ったがヨロヨロと立ち上がると  「いったーい……は!ダーリンは?」と言うと、薄れる煙の中に倒れる人影を見つけた。ラムはすぐに駆け寄るとそれはあたるだった。ラムはあたるを抱き起こすと  「ダーリン!ダーリン!」と呼びかけた。するとあたるは  「う〜ん」と言うと、ゆっくりと目を開けた。ラムは目を覚ましたあたるを抱きしめ  「ダーリン!よかったっちゃ」と言った。あたるがラムを見て  「ラ、ラム?何でここに?」と言うと、ラムは  「ごめんっちゃ、ダーリン……実は、ダーリンの後をつけて来たっちゃ……」と言った。あたるは、立ち上がりながら  「そうか」と言うと周りを見渡し、ソルを探した。その時ラムが  「あれ?そう言えばウチの事、怖くないっちゃ?」と聞くと、あたるは  「ん?そう言えば……治ってる……治ったぞー!」と歓喜の声をあげた。すると、その声を聞き煙の向こうから面堂を始め、しのぶとメガネ達が表れた。それを見てあたるは  「あ、しのぶ!やっぱり俺の事が心配だったんだな」と言うと素早くしのぶの後ろに回り込み、背中に指を這わせた。しのぶは全身に悪寒が走り思わず  「治った途端これかぁぁぁ!」と言うと近くに有った巨大な機械を持ち上げ、あたるに向かって放り投げた。あたるがサッと避けると、その機械は後ろに居た面堂に直撃したかに見えたが面堂は、その機械をどこからか取り出した日本刀で真っ二つにした。そして、すぐさまあたるの所に行き  「貴様!今のは僕が居るのを知ってて避けたのだろう?」と言って一気に振りかざしたが、あたるは間一髪の所で真剣白羽取りで受け止めた。その様子を見ていたソルは  (な、なんて事や……あの大きな機械を軽々と放り投げ、それをあの様な剣で真っ二つに切り裂くなんて……しかも、その剣の一撃を素手で受け止めたやと?)と思った時、どこからともなく光体が現れ突然  「パーティ会場はここかのぅ」と錯乱坊が現れ、それと同時に大爆発を起こした。その爆発でソルも吹き飛ばされた。ソルは錯乱坊を見ると  「ば、化物や!」と声を上げた。その時、メガネ、パーマ、カクガリ、チビが、錯乱坊に近づきメガネが錯乱坊を蹴りながら  「この妖怪坊主が!なんの見境も無く、いきなり現れやがって!」と言い、続いてパーマが  「何がパーティだ!そんなにパーティがしたかったら1人でやってろ!」と言いながら、四人でボコボコにした。それを見ていたソルは  (な、なんて星や……雄は、本能で動くアホと、何処からともなく武器を出現させる者や、異種と見るや容赦なく攻撃する狂暴な連中、そして雌は飛行し電撃を放つ者や、常識外れの怪力の持ち主、それにあの様な不気味な化物もおるなんて……この星の人間の精神を解析して、うまくコントロールしよう思うたが、こんな星、侵略しよう思ったらこっちが滅んでまうわ!)と思い後ずさった時、ガスマスクが外れている事に気付いた。ソルは慌ててガスマスクを探していると、突然強烈な悪寒を感じ振り返ると  「ソルちゃ〜ん」と言いながら、あたるが飛びかかって来た。そう、ソルは女だったのだ。あたるは  「女の子だったら、言ってくれれば良かったのにぃ」と言うとソルの足にしがみついた。それを見たラムは  「ダーリン!そんなヤツにまで!」と言うと、バチバチと放電を始め  「許さないっちゃーーー!」と言って電撃を放った。それを見てソルは慌ててあたるを引き剥がし電撃から逃れた。  バリバリバリバリバリバリ  あたるは、無残にもラムの電撃をモロに受け黒焦げになりピクピクしていた。ソルは  「こんな星とは、早々におさらばや」と言うと、何かのレバーを引いた。すると隠し扉が現れ、ソルはその扉の中に入った。それを見たラムは  「あ!待つっちゃ!」と言って扉に近づき開けようとしたが、扉はビクとも動かない。その時  ゴゴゴゴゴゴ と低い地鳴りの様な音がしたかと思うと、宇宙船が現れ上昇を始めた。その時あたるが目を覚まし、上昇していく宇宙船を見て  「あ!ソルちゃん!」と言って宇宙船を見上げた。  【こうして、一人のアホと彼を取り巻くもの達によって、地球最大の危機は人知れず回避されたであった】   ボカッ、バキッ、グシャッ  「なーにが回避されたのであったじゃ!だいたい誰がアホだ!誰が!おい!何か言って見ろ!チェリー」と言って、あたるが錯乱坊をボコボコにした。錯乱坊は  「い、いや、皆に分かりやすく説明しようかと……」と言うと、あたるは  「一体誰に説明するっちゅうんじゃい!」と言い、飛び去る宇宙船に  「ソルちゃ〜ん!バイト代貰って無いよ〜」と叫んだ。ラムを始め、面堂、しのぶ、メガネ、パーマ、カクガリ、チビは、そんなあたるを呆れた顔で見ていた。  一方、宇宙船の中のソルは  「この区域には近付かない様にせなあかんな。こんな悪魔の棲む星には……まさにdevil planetや」そう言うと、宇宙の彼方に消えた。                 END