うる星やつら しのぶのストレンジストーリー(前編)         第一章  わたしの名前は【三宅 しのぶ】ごく平凡な女子高生だった。あの日までは……  あれは、私が高校2年の冬の事だった。私は母にお使いを頼まれて隣町まで行っていたのだけど、母に頼まれた買い物は終わり後は、なじみの喫茶店で紅茶を飲みながらゆっくりと本を読むのが至福の一時だった。  私が、喫茶店に向かって歩いていると通りの向こうに一瞬見覚えのある子狐を見た気がした。私は立ち止まり、もう一度通りの向こう側を見ていたが子狐の姿は見つからなかった。私は  (気のせいかしら……)と思い、再び歩き出した。そして、交差点で信号が青になるのを待っていると、通りの向こうに再び子狐の姿を見た。すると私に気づいた子狐は、私に向かって道路を横断し始めたのだ。信号はまだ赤だ、私の体は考えるより速く動いていた。私は  「きつねさん!!」と叫び子狐を抱き上げた。その時  キキーーーーーー!!! と、けたたましい音が聞こえたかと思うと、わたしの体を激しい衝撃が襲いその瞬間私の目に映ったのは真っ青に晴れた空だった。そして、腕の中には子狐の小さな心臓の鼓動が感じられ、私が強く子狐を抱きしめた瞬間、今度は頭に強い衝撃を感じ、私の意識は薄らいでいった。  次に私が目を覚ました時に見えたのは、真っ白な天井……。私は首を動かし周りを見ると、窓には白いカーテン、私はベッドに寝かされているらしく私のベッドのすぐ隣にはテレビなどで良くみる、血圧や心拍数をチェックする為の医療機器が有った。それを見て私は  (ここは…………病院……)と、自分が居る場所を把握した。でも記憶が混乱してるのか、何故私が病院のベッドの上に居るか解らなかった。するとその時、病室のドアが開き誰かが病室に入って来た。私がドアの方に目を向けると、そこには花を活けた花瓶を持った母の姿が有った。母は私の顔を見るなり  「し、しのぶ……しのぶ!意識が戻ったのね!」と言うと、慌てて花瓶を近くの棚の上に置くと病室から出て行った。遠くで母の声が聞こえる。  『先生ー!しのぶが!しのぶが目を覚ましました!』  どうやら母は私の事を先生に知らせに行ったらしい。しばらくして母は、主治医らしき先生と一緒に病室に戻ってきた。先生は私の側までくると  「具合はどうですか?ちょっと簡単な質問させていただきますね」と言った。私が軽く頷くと、先生は  「私は、あなたの担当医の鈴木と言います」と言うと、ニコリと笑った。そして鈴木先生は  「では、まずあなたの名前を教えて下さい」と言った。私が  「三宅しのぶです」と答えると、鈴木先生は頷き次の質問に  「ではしのぶさん。あなたは何故ここに居るか分かりますか?」と聞いて来た。私は必死に記憶を辿ったが、全く思い出せず 「……思い出せません……」と言った。鈴木先生は軽く頷くと、今度は  「それでは、今度は右手を動かして下さい」と言った。私は言われるままに右手を少し上げると先生は  「では今度は左手を」と言った。私は今度は左手を少し上げた。すると鈴木先生は今度は私の足の方へ行き、右足と左足を動かす様に言われたので、言われるがままにした。一通りの検査?が終わった所で鈴木先生は再び私の顔を見ると、さっきとは違った真剣な表情で  「しのぶさん、あなたが何故ここに居るか説明します」と言った。私は、不安を感じながらも先生の目を見て頷いた。それを見て先生は説明を始めた。  「しのぶさん、あなたは事故で車に跳ねられこの病院に運ばれて来ました。あなたが運ばれて来た時は頭部に強い衝撃を受け意識の無い状態でした。しかし、処置が速かったので命に別状は有りませんでしたが、意識が戻らなかったのです。そして今日、あなたは目を覚ましたと言う事です」先生の説明を聞いた私は  (……私が事故に……)と思い、先生に聞いてみた。  「私は、どのくらい眠ってたんですか?」すると鈴木先生は  「約2週間です」と言った。わたしは窓の方に顔を向け、窓の外を見ながら  (2週間かぁ……でも、そのくらいなら学校も大丈夫よね)と思った。その時鈴木先生が  「2週間で意識が戻ったのは、不幸中の幸いです。中には、1年以上意識が戻らない方も居ますからね。でも、しのさんの場合は別の問題が有ります」と言った。それを聞いた私は  「別の問題?」と聞き返すと鈴木先生は、一呼吸置くと  「しのぶさんは事故にあわれた時、頭部に強い衝撃を受けました。その際に脳の運動を司る神経に重大なダメージを負ってしまったんです」と言った。私は先生の言おうとしてる事が分からず  「つまり、どう言う事ですか?」と聞いた。すると鈴木先生は  「しのぶさん、落ち着いて聞いて下さいね。あなたは、下半身に麻痺が出ています」と言った。私は先生が何を言ってるのか理解出来ず  「え?麻痺?何言ってるんですか?私、さっき足動かしましたよね?」と言うと鈴木先生は  「しのぶさん、今度は自分で自分の足を見ながら動かそうとして下さい」と言って、ベッドを少し起こした。わたしは言われるままに自分の足を見ながら足を動かそうとしたが、足はピクリとも動かなかった。私は焦り、必死に動かそうとしたが私の足はまるで自分の物では無いかの様に、全く言う事を聞いてくれない。私は思わず 「さっきは、動いたのに!!」と叫んだ。すると鈴木先生は  「さっきは、しのぶさんが足を動かそうとして脳から足を動かす命令が出ましたが、足は動いていなかったのです。でもそれを目で確認していなかった為に、脳が足は動いたと勘違いしてしまったんですよ」と言った。それを聞いた私は一瞬にして絶望感に襲われた。目からは無意識に涙が溢れ何も考えられなくなった。  それからは、私の口数は極端に減って相づち程度しかしなくなっていた。  母は、毎日花瓶の花を替えていた。ある日母が  「誰かが毎日病室の前に、お花持って来てくれるのよね。面会時間外に来てるみたいで、お母さんも挨拶出来ないで居るんだけど……」と言った。私は母の話など頭に入らずただ外を見つめるだけだった。  そんなある日、わたしがいつもの様にぼんやりと窓の外を見ていると  「やぁしのぶぅ、元気か?」と聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはあたる君をはじめ、ラム、面堂さんと例の4人組が病室に入ってきた。私は  「みんな…………」と言った。すると、あたる君が  「何だ?しのぶ、元気無いなぁ」と言ったが、私はこの言葉に妙に腹が立って  「元気無い?当たり前じゃないの!入院してるんだもの」と強い口調で言った。すると、あたる君は  「お!いつものしのぶじゃ」と言ってニヤニヤ笑った。その笑顔を見た私は、何だか腹を立てたのがバカらしく思えてきて、苦笑いを浮かべた。それを見ていたラムは  「しのぶ、やっと笑ったっちゃ」と言うと無邪気な笑顔を見せた。すると面堂さんが  「しのぶさん、僕たちはしのぶさんが学校に来るのを待ってますから、1日も早く退院して下さい」と言って、笑顔を浮かべた。しかし私は、その言葉を聞き自分の置かれた状況を改めて実感し  「ごめんなさい……私、多分もう学校行けない……」と言うと、あたる君が  「しのぶ、何言ってるんだ?」と言ったので、私は  「だって……私……もう歩けないんだよ……車椅子で学校になんて」と言ってうつむくと、あたる君は、それが何だ?と言う顔で  「車椅子で来ればいいじゃないか」と言って、それを聞いた面堂さんも  「そうですよ!学校の方は僕が責任を持って車椅子でも移動出来る様にしておきますから」と言って笑顔を作った。するとラムも  「そんな弱気になるなんて、しのぶらしくないっちゃ」と言った。続いて4人組も 「お前が居ないと掃除の時ロッカー移動するのも大変なんだよな」等と勝手な事を言った。私は  「何なのよ!こう見えても私はか弱い女の子なんだから」と言って笑った。  しばらくそんな冗談のやり取りをしているうちに私の心の中の絶望感は徐々に薄れて行った。やがて、みんなが帰って急に淋しくなった私は1日でも早く病院を退院したくなり、今まで全くやらなかったリハビリも自分から頑張った。リハビリと言っても、私の足はもう動く事は無いみたいなのでベッドから車椅子に移る練習と、車椅子を上手に扱える様になる為の練習だった。  そして、入院から2か月経って私はやっと退院する事が出来たのだ。私は、母と一緒に友引高校に行って、車椅子での在籍を希望した。普通なら設備などの問題で断られるのが大半だが、面堂さんが私の入院中に校内を全てバリアフリー化、そして階段を使えない私の為にエレベーターを設置してくれた事から、事もあっさりと許可が降りた。もともと、その辺にはヨルイ学校では有ったが、こうもあっさりと復学出来るとは思っていなかった私は、少々拍子抜けした。そしてわたしは、また友引高校でみんなと一緒に勉強できる様になったのだ。 車椅子での初登校、それは新入生で初登校する時に似た緊張感が有った。その日は、復学の初日と言う事で学校には母が車で送ってくれた。校門の所には、校長と担任の温泉先生が出迎えで待っていてくれた。その二人に紛れて何故かチェリーも一緒に居た。私はチェリーに  「何であんたが居るのよ」と言うと、チェリーは  「まぁ、気にするでない」と言ったので私は  「気にするわよ!不吉じゃないの」と言った。すると校長が  「まぁ、三宅さん。細かい事は気にせず、教室に行きましょうか?きっとクラスの皆さんも、待ってますよ〜」と言って、顔を近づけてきた。私は若干のけ反り  「わ、わかりました」と言った。  温泉先生は、教室に向かう途中で  「いいか三宅、お前は何も負い目を感じる必要はないんだからな。今まで通りに接すればいいんだ」と言った。温泉先生は、私を気遣って言ってくれたのだろうが、その言葉はかえって私にハンデがある事を実感させた。何故かと言うと、そういった言葉が出る時点で私の事をそう言う目で見ていると言う事だからだ。しかし私は、覚悟を決めて復学したのだ。今までと同じような学校生活が出来ない事は、百も承知だった。だいいち、そんな些細な事をいちいち気にしていたら、きっと半年も持たないだろう。そして私は先生に  「わかりました。ありがとうございます」と言った。  間もなく私達は、2年4組の教室の前に着いた。温泉先生は、私の方を見て軽く頷くと教室のドアを開けた。  よくドラマなどで、そんなシーンを目にするがまさか自分がそれを体験する事になるなんて、夢にも思わなかった。しかし、今の温泉先生の頷きは何だったのだろうか?教室のドアを開ける事に対して、私の同意を求めているのか?それとも、私に覚悟を決めろと言いたいのか?はたまた、ただ単に格好をつけているのか?いずれにしても、全く意味の無い行動なのは間違いないと思う。温泉先生は、そんな私の考えに気づくはずも無くスタスタと教室に入り、教室の中から  「おい、三宅。入って来い」と言った。私は意を決して車椅子を手で動かしながら教室の中に入った。すると、私が教室に入った途端、クラスのみんなが  「しのぶー!お帰りー!」と言った。それを聞いた私は  (み、みんな……私、まだ帰る所が有ったんだ)と思い、目からは自然と涙が溢れて来た。私は、震える声で  「ただいま」と一言答えるのがやっとだった。こうして、私の新たな学校生活が始まったのだ。  何日かして、私はある事に気づいた。クラスのみんなだけでは無く、学校中が私に対してまるで腫れ物に触るかの様な対応に思えたのだ。自分で出来る事までやってくれようとする。みんなの親切はとても嬉しく感謝しているのだけど、はっきり言って有り難迷惑である。自分で出来る事は自分でやらないと、私の存在意義が無くなってしまう様な気がしたのだ。でもただ1人、意外にもラムだけは違っていた。それはある日、授業中にいきなりチェリーが現れてクラス中が大爆発した時の事である。  言い忘れたが、先程のチェリー出現などの出来事は、友引高校では、まして2年4組ではまさに日常茶飯事なのである。時にはラムの従弟のテンちゃんが授業中に教室でオモチャの戦争を始めたり。オモチャと言っても、宇宙人のオモチャである。破壊力は凄まじく、教室が破壊された事も有った。またある時は、竜之介君のお父さんが津波と共に教室に流れ込んで来たり、ラムの元婚約者のレイさんが天井を突き破って現れたりと、その度に大爆発が起きて教室は壊されるのだ。その日もチェリーの出現で大爆発が起きて、クラスのみんなは吹き飛ばされた。それは私も例外ではなく、吹き飛ばされて車椅子から投げ出されてしまった。あたる君達はすぐに立ち上がるとチェリーの所へ行き、殴る蹴るの連続でチェリーをボコボコにしていた。すると、近くに居た竜之介君が車椅子から投げ出された私を見て  「おい!大丈夫か?」と言って、私を車椅子に戻してくれようとした時、突然  「手伝っちゃダメだっちゃ!」と声がし振り向くと、そこにはラムが立っていた。それを見た竜之介君は  「あ?おめぇ何言ってんだ?しのぶが倒れてるんだぜ?」と言ったが、ラムは竜之介君の問いには答えず私の方を向くと  「しのぶ、自分で車椅子に乗るっちゃ」と言った。私は  「え?そんなの……無理よ……」と言うとラムは強い口調で  「何言ってるっちゃ!ここは学校だから誰かが助けてくれるけど、もしここが街中だったら?周りに誰も助けてくれる人が居なかったら?しのぶは、そうやって誰かが助けてくれるのをじっと待つっちゃ?しのぶはそれでいいっちゃ?」と言って私を見た。その目は、真剣そのものだった。そんなラムの言葉で私は、復学以来ずっと感じていた不快感の原因に気付いたのだ。それは私に対するみんなの気持ちだった。みんなが私に同情する気持ちを不快に感じていたのだ。今の私は、ハンデを持っているから同情されても仕方ないのだけど、やっぱり今まで通りに接して欲しい。それは私のわがままなのは分かっている、でも同情されると自分が惨めに思えて来てしまうのだ。でも、ラムは私を同情ではなく本当に友達として見てくれていた。そんなラムに私は  「いいはずないじゃない!」と言って、自力で車椅子の所まで這って行くと、車椅子を起こして手をかけた。足が動かないと、自分の体を起こす事がいかに大変か改めて実感しながら、車椅子に座ろうとしても思う様にいかない。それでも諦めない私に、いつの間にかクラスのみんなの励ます声が聞こえて来た。  「頑張れー!しのぶー!」  そんなクラスのみんなの声援が私に力をくれた。私は、汗をかきながらやっとの事で車椅子に座る事が出来た。  私が車椅子に乗ると、クラスのみんなが私の周りに集まり労いの言葉をかけてくれた。その中にはラムも  「しのぶ、頑張ったっちゃね。これがきっと、しのぶの自信になるっちゃ」と言うと、満面の笑みを浮かべた。その時、私はラムの曇りの無い真っ直ぐな性格を知ったのだ。  この事がきっかけとなり、私とラムの距離は縮まっていった。  さっき、ただ1人ラムだけは私の事を今まで通りに接してくれたと言ったが、実は前と変わらず私に接して来る人がもう一人いるのだ。それは…………  「しのぶさーーーん!好きだーーー」  そう、この人【総番】である。私は、歩けなくなり車椅子の生活を始めてから、今までの様な強い力は無くなってしまったが唯一、この人が来た時だけは前の様な力が出た。私は、近付いてくる総番に  「えーーい!うっとおしいーーー!」と言って思い切り殴り飛ばした。総番は  「しのぶさーーーん!!」と言いながら、空の彼方に消えた。この時だけは、自分のハンデを忘れる事が出来るのは皮肉だ。  わたしの学校生活は、みんなの助けも有り順調に進み、私達は無事に友引高校を卒業した。卒業生の半数は進学、半数は就職で、友達はほとんど進学の道に進んだ。私はと言うと、車椅子の私を受け入れてくれる大学が近くには無く、大学に通うには実家から出なくてはならなくなってしまう為、進学は諦め近くの会社に就職したのだ。中のいいクラスメイトでは、面堂さんと、ラムの取り巻きの四人組は進学。あたる君はこれ以上勉強したくないとかで就職。ラムも、あたる君が進学しないので自分で宇宙人相手の仕事を始めた。竜之介君は、念願の浜茶屋をお父さんがオープンしたので、その手伝いらしい。結局、みんなバラバラになってしまった。  こうして、私は社会人としての一歩を踏み出した。        第二章  時は少し遡り、ちょうどしのぶが病院を退院して学校に復学する頃、子狐はしのぶが事故にあってしまった原因が自分に有る事から、今のしのぶを何とか助けようと里に向かっていた。子狐は、しのぶが車に跳ねられた時、しのぶがしっかり腕の中に抱いて居た為、奇跡的に無傷だったのだ。子狐は救急車で運ばれるしのぶを追い、しのぶが入院した病院を知った。子狐は、毎日夜になるとしのぶの病室の前に花を届けて、しのぶの様子を見守って居たのだ。しのぶが退院した時に車椅子に乗ってるのを見て、里に帰る決心をしたのである。子狐は  (僕のせいで、しのぶさんは……)と思い、泣きながら里に向かっていた。やがて里に着くと、子狐はまっさきに案山子の三四郎の所へ行くと  「ねぇ、ねぇ、三四郎さん」と言った。三四郎は、そんな子狐の方を向くと  「ん?何だい?キツネくん」と言った。子狐は悲しそうな表情で  「時間を戻す方法知らない?」と聞くと、三四郎は  「どうしたんだい?ただ事では無さそうだけど」と訪ねたが、子狐は黙っていて三四郎に理由を話そうとしない。それを見て三四郎が  「う〜ん、困ったなぁ。僕は時間を戻す方法は知らないんだよ」と言うと子狐は  「……そうかぁ、三四郎さんも知らないのか」と言って、ガックリと肩を落とした。そんな子狐の様子を見た三四郎は  「キツネくん、良かったら理由聞かせてもらえないかなぁ?もしかすると、別の解決法が見つかるかも知れないよ」と言うと、子狐は顔を上げ事の経緯を話した。三四郎は、黙って子狐の話を聞き終わると  「なるほど、つまりキツネくんはその人間の女の子の時間を戻したいんだね。事故が起こる前に」と言った。すると子狐は  「うん……だって僕のせいだから……」と言って涙を見せた。三四郎は少し頭をかかえ  「……方法が無い訳じゃないけどね……」と言った。それを聞いた子狐は  「え?本当?三四郎さん!」と言って目を輝かせた。しかし三四郎は  「でもね…………」と言葉を濁した。しかし子狐は  「教えてよ!三四郎さん!」と言うと三四郎にすがりついた。三四郎は、そんな子狐をじっと見つめると  「……どうやら、君は本気みたいだね。でも、かなり難しいけど大丈夫?」と子狐に聞くと、子狐は  「うん!僕、しのぶさんの為なら頑張れるから!」といった。三四郎は  「じゃぁ、とりあえず方法を教えるね」と言うと、子狐は小さく頷いた。三四郎は更に  「まず、時間を戻す事は出来ないけど、その人の魂を別の時間軸の分岐点まで戻す事は出来るよ」と言うと、子狐は黙って聞いていた。続けて三四郎は  「ただ、今の時間軸の過去に戻す事は無理なんだ。ここまではいいかい?」と言うと、子狐は  「よく分からないけど、しのぶさんが事故に遭う前に戻れるって事だね?」と言うと、三四郎は  「それは、事故が起こる前か後かは分からないなぁ。ただ言える事は、そのしのぶさんの人生を大きく変える出来事の別の結果の時間軸って事だね」と言った。それを聞いた子狐は  「だったら、あの事故だよ!」と言った。それを聞いて三四郎は  「なるほど、だったらまずは世界樹の木の実を手に入れないとね」と言った。すると子狐は  「世界樹の木の実?それは何処に有るの?」と三四郎に聞いた。三四郎は  「世界樹は、こことは違う世界に有るんだよ」と答え、更に  「しかも、その入り口は満月の夜の月がほぼ真上に来る冬至の日しか開かない」と言った。すると子狐は  「冬至っていつ?」と三四郎に聞き、三四郎は  「冬至は、12月の下旬だね」と答えた。それを聞いて子狐は  「今が2月だから、まだまだ先だね」と言って、ガックリと肩を落とした。それを見て三四郎は  「そうだね、でもそれまで待つしかないよ」と優しく言った。子狐は  「うん」と答えると、更に  「また、冬至の頃に来るね。ありがとう三四郎さん」と言って去って行った。  それから冬至までの間、子狐は幸運を呼ぶと言われてるワイルーロの木の実で御守りを作った。もちろん、しのぶに渡す為だ。そして、季節は流れまた冬がやってきた。冬至近くになり、子狐は再び三四郎を訪ねた。すると三四郎は  「やぁ、来たね」と言うと、更に  「冬至は明後日だよ。明後日の夜に世界樹のある世界の入り口が開くから、また明日の夜においで」と言った。子狐は頷くと、三四郎に礼を言って去って行った。  冬至の日、三四郎のもとに子狐がやって来た。三四郎は  「やぁ、来たね」と言うと、更に  「じゃあ、これから世界樹のある世界への入り口に案内するよ。ついて来て」と言うと、スタスタと歩き始めた。子狐が、三四郎の後をついて行くと三四郎は、不気味な洞窟の前で止まった。そして  「ここが世界樹のある世界の入り口だよ。この洞窟は、普段は行き止まりなんだけど冬至の日だけ向こうに抜けられるんだ」と言った。子狐は  「この洞窟をまっすぐ行けばいいの?」と三四郎に聞くと、三四郎は  「そうだよ。ただ、一人しか入れないから僕は行けないんだ。だからキツネくん、君だけで行かなければならないよ」と言った。それを聞いた子狐は  「うん!」と言うと力強く頷いた。それを見て三四郎は  「うん。大丈夫そうだね、でもこの入り口は朝になると閉じてしまうから気を付けてね」と言った。子狐は、再び頷くと  「じゃあ、三四郎さん行ってくるね!」と言うと、走って洞窟に入って行った。その後ろ姿を見ながら三四郎は  「キツネくん、大変なのは木の実を手に入れて帰って来てからだよ……」と呟いた。                つづく