うる星やつら チェンジ・ザ・ライフ 第9章 目的 あたるは叫んだ。 「形勢逆転とはどう言う意味だ!」続けてラムが言う。 「2対1だっちゃ!それにうちはもう超能力を使えるから不利なのは、お前の方だっちゃよ!」しかし泉は全く動じる事無く 「不利?何か勘違いをしてないかい?」と言った。あたるはそんな泉に 「お前の目的は何だ?俺達に何をさせようとしてる」と聞くと泉は笑顔で言った。 「う〜ん、それはまだ言えないけど、僕が君たちの敵では無い事は確かだよ」それを聞いたあたるが 「だったら何でラムのブレスレットを外してやらなかったんだ?」と言うと、泉は 「僕じゃ出来ないんだよ」と言ってあたるの方を見た。あたるは 「お前じゃ出来ないって、お前カードキー持ってたじゃないか。外したら着けなければいいだけだろう」と言って泉を睨んだ。すると泉は、あたるの視線を気にも止めていないとばかりに 「あのブレスレットはカードキーで外すと、特殊な薬液を装着者に注入するんだ。そして、その薬液には人を昏睡状態にする作用が有って、再びブレスレットを装着する事によって別の薬液が注入され中和される。つまり、ブレスレットをカードキーで外すと再び装着するまで目覚める事は無いって事だ」と言った。そして泉は、あたるの目を真っ直ぐ見ると話を続けた。 「そして、ラムさんの腕からブレスレットを外す為にはブレスレットを破壊するしかないと知った。しかし、そのブレスレットは地球上の道具で破壊する事は不可能…つまりブレスレットを破壊するには地球外の更に進んだ技術が必要だった。そこで僕はラムさんの星の技術を使ってブレスレットを破壊しようと考えたんだけど、残念な事にラムさんは超能力を使えない状態だ。そこで僕は諸星君、君に全て託す事にしたんだ。現在ではラムさんが超能力を使えないからラムさんのUFOから道具を持ってくる事はできない。しかし、ブレスレットを着けられる前……そう過去のラムさんだったら簡単に道具を持ってくる事ができる。だから僕は君の精神を過去の君とリンクさせる事にした。それは簡単な作業じゃなかった。組織の奴等に見つからない様に慎重に計画を遂行しないと全てが水の泡になってしまう。そして僕はついに君の精神を過去とリンクさせる事に成功した。実に1年もかかってしまったけどね」それを聞いたあたるは 「にわかには信じられんなぁ。だが、もしお前の言う事が本当だとして何故お前はラムのブレスレットを外そうと思ったんだ?そもそも、お前は何者だ」と言った。すると泉は 「さっきも言ったけど、まだ僕はやらなくてはならない事が有るから正体を証すわけにはいかないんだ。でも、君達の敵では無いと言う事は本当だから信じてくれ。それで僕がラムさんのブレスレットを外そうと考えたのは、奴等のやり方が許せないから…じゃダメかい?」と言った。ずっと黙って話を聞いていたラムは、手からパチパチと電気を放電しながら泉の所へ行くと言った。 「そんな話を信じろって言うっちゃ?第一、うちにブレスレットを着けたのはお前だっちゃよね?」泉は少したじろぎながら後退りをして 「い、いや、あの時は仕方無かったんだ!だから一年もかけてブレスレットを外す計画を立てたんじゃないか」と言ったが、あたるが 「いくら何でも1年は、かかり過ぎだろう」と言うと、泉は 「精神をリンクさせるのは、今の君達の過去じゃダメなんだ。今の過去じゃタイムパラドックスが起きてしまうんだよ。つまり、今の過去でラムさんの道具を未来に送ろうとしても無理なんだ。過去から送ろうとした道具は、別の未来に行ってしまうんだよ。だから、この未来に道具を送れる過去を探してリンクさせる必要が有った」と言った。それを聞いたあたるは納得した様に言った。 「だから、俺が夢の中で見た過去は俺達の過去とは違っていたのか」するとラムが 「でも、パラレルワールドとリンクさせるなんて事、出来るっちゃ?」と泉に聞いた。ラムの質問に泉は 「それが出来たんだよ!ある物を利用して」と言ってニヤリと笑った。あたるはそんな泉の顔を見て不機嫌そうな顔で聞いた。 「ある物とは?」そんなあたるに泉は 「有るだろう?君達が見てきた中で、大きく変化したものが」と、まるで楽しんでいるかの様に言った。泉の言葉を聞いたあたるは、訝しげに 「大きく変化したもの?」と首をかしげたがラムは何かに気づいた様に言った。 「あ!有るっちゃダーリン!木、ダーリンが落書きした木だっちゃよ」それを聞いたあたるも思いだし 「あ!そうか!確かに大きく変化……てか、消えちまったが」と言った。そしてあたるは泉に 「お前がラムのブレスレットを外す為に俺を利用した事は分かった。だが、俺はお前の事を全て信じた訳じゃないからな」と言った。それを聞いた泉は 「そうか…とにかく僕は出来る限り君達に協力するから。多分、僕と君達の目的は同じ…僕は君達が動き易い様に手を回しておくから、困ったら連絡して欲しい」そう言って、あたるに小型の通信機を手渡した。あたるが通信機を受けとると、それを見ていたラムが泉に聞く。 「これが通信機型の発信器って事はないっちゃ?」すると泉はラムの目を見つめ、 「ラムさん、僕はそんな姑息な真似をする人間じゃ有りません」と言った。そんな泉にラムは険しい表情で 「……分かったっちゃ。でも、もしも裏切る様な事が有ったら、その時は覚悟するっちゃ」と警告した。 泉はラムの話が終わると無言で頷き、操作盤の所へ行くと何かのボタンを押した。すると ガチャン と言う金属音がドアの方から聞こえた。どうやら、ドアのロックを解除した様だ。あたるはドアの所へ行くとドアを開けてみた。すると、さっきまでピクリとまも動かなかったドアが何の抵抗もなく開いた。あたるとラムは部屋から出ると泉の居た部屋を後にした。その後あたるとラムは、ブレスレットの指示に従い亜空間を抜けて、雀の宮に戻った。そしてラムがあたるに聞く。 「ねぇダーリン。あいつの事、どう思うっちゃ?」あたるは、少し考えてから答えた。 「気にくわんなぁ。知らなかったとは言え、ヤツの計画通りに動いちまったのが気にくわない!まるで手のひらで転がされてるみたいじゃないか」するとラムは 「そんな事ないっちゃよ。確かにあいつがダーリンの意識を過去とリンクさせた結果、うちのブレスレットを外す事が出来たかもしれないけど、それはあくまで切っ掛けに過ぎないっちゃ。うちを救ってくれたのはダーリンなんだっちゃよ」と言うとあたるの両手を握りしめた。そんなラムの言葉を聞いたあたるは微笑みながら 「そうだな」と言うと、一転険しい顔つきになり 「さて、これか らどうするか…」と言った。するとラムはあたるの顔を見て 「そんなの決まってるっちゃ」と言ってニヤリと笑い、あたるも不敵な笑みを浮かべて言った。 「だよな。やるか」 「当然だっちゃ」 「この1年の報いを受けさせんとな」 「だっちゃ、うちとダーリンを敵に回した事を後悔させてやるっちゃ」二人はとりあえず武器を調達する為にラムのUFOに行く事にした。 UFOの中で武器を探すあたるとラムだったが、もともと戦闘用のUFOじゃないので武器らしい物は無かった。そこでラムは 「こうなったら、何かの道具を使って対処するっちゃ」と言った。するとあたるは 「どんな道具が有るんだ?」とラムに尋ねると、ラムは何かの道具を出して言った。 「石ころボウシ」それは、表面が石の様な帽子だった。ラムはそれを持って説明を始める。 「この帽子を被ると、誰にも気に止められなくなるっちゃ」それを聞いたあたるが 「姿が見えなくなるのか?」と聞くと、ラムは首を振りながら言った。 「違うっちゃ。見えなくなるんじゃなくて、誰からも気にされなくなるっちゃ。道端に転がっている石なんて、誰も気にしないっちゃよね?そんな風になれる帽子だっちゃ」それを聞いたあたるは、わなわなと肩を震わせて怒鳴った。 「それじゃあ、ドラ○もんの秘密道具そのままじゃないか!」そんなあたるにラムは 「ダーリン、何を怒ってるっちゃ?じゃあ、これはどうだっちゃ?」と言うと、何やら服の様な物を出してテキパキとした手つきであたるに着させた。その出で立ちは、赤と黒の詰襟つきの軍服に腰のベルトには銃とサーベル。白いヘルメットにグレーのゴーグル姿だった。着せ終わったラムは満足気だ。そんな格好をさせられたあたるが 「おい、まさかこの服は、スピードが通常の3倍…」と言いかけると、すかさずラムが 「そう!ダーリン良く知ってるっちゃね。その服はスピードが通常の3倍の人が着ていた軍服だっちゃ」と微笑みながら言った。あたるはワナワナと全身を震わせながらラムに聞いた。 「着ていた軍服って事は、これ着てもスピードが通常の3倍になる訳じゃないんだな」あたるの質問にラムは何を言っているんだとばかりに 「当たり前だっちゃ。着るだけでスピードが通常の3倍になんてなる服有るわけないっちゃ」と言った。それを聞いたあたるは大声で怒鳴った。 「お前!ふざけてるんじゃないだろうな!こんなガ○ダムのシ○アそのまんまの服で、しかも何の効果もない無い服着せてどうしようっちゅうんじゃ!!」あたるは服を脱ぎ捨て、ヘルメットを叩きつけた。それを見てラムは 「もう、ダーリンったらそんなに起こらなくても…」と言って次の道具を探し始めた。あたるはそんなラムに 「まとも物は無いのか!まともな物は」と言うと、ラムの手元を覗き込んだ。するとラムが次に手にしたのは何かの巻物だった。その時あたるは見た。一瞬だったが確かに見た。そこには間違いなく【北斗】と書かれていたのだ。しかも日本語で! あたるはラムの肩に手を置き言った。 「ラム…お前、遊んでるな」ラムは巻物を手にしたまま振り向くと、ひきつった笑顔で 「バ、バレたっちゃ?」と言った。あたるは 「お前、こんな時に何考えとんじゃ!!」と怒鳴ると 「もういい、俺が自分でさがす!」と言って道具を探し始めた。あたるは勢い良く啖呵を切ったものの、やはりどれが使える道具か判らずにラムに聞いた。 「な、なぁラム。何かいい道具は無いのか?」するとラムは皮肉たっぷりにニヤニヤしながら 「自分で探すんじゃなかったっちゃ?」と言った。そんなラムにあたるは 「そ、それはお前が真面目に探さないからだろ?」と言い、更に 「第一、そもそも使える道具なんて有るのか?」と尋ねると、ラムは 「失礼だっちゃね、ちゃんと有るっちゃよ」と言って、何かを手に取った。そして、それをあたるに渡すと得意気に 「その道具は、自分の周りの空間を歪ませて姿を見えなくするっちゃ」と言った。それを聞いたあたるは 「凄いじゃないか!こんないい道具が有るなら何故最初から出さんのだ」と言ったが、ラムは言いにくそうに言った。 「ただ、止まってる時は見えないけど動くと見えてしまうっちゃ」ラムの言葉にあたるは思わずコケてしまい 「それじゃあ何の役にも立たんではないか!」と大声で言った。とは言いつつも、他にめぼしい道具も無くあたるは、渋々その道具を使う事にした。 二人は雀の宮に戻り、とりあえずラムが暮らしていた施設に行く事にした。その施設の外観は福利厚生施設の様で、誰が見ても犯罪組織のアジトだとは思わない造りだった。あるとラムは近くの茂みに身を潜め、少し様子を伺う事にした。施設に出入りする人影は無く、まるで人の気配がしない。あたるはその建物を見てラムに聞いた。 「お前は1年間も、ここで暮らしてたのか?」ラムは無言で頷いた。そしてラムは 「うちは、ダーリンとうちの生活を奪った連中を絶対に許さないっちゃ」と言った。ラムの表情からは、強い意思が伝わって来るのが分かった。 あたるは改めてラムに聞いた。 「この施設の情報、お前はどれくらい分かってるんだ?」あたるの質問にラムは 「実は、中での行動は制限されていてあまり詳しくは分からないっちゃ」と言った。それを聞いたあたるは 「そうか…だったら、いっその事正面から堂々と入ってやるか」と言うとラムも 「だっちゃね」と言って微笑んだ。それを聞いたあたるはニヤリと笑うと 「もしバレたら、その時は全面戦争じゃ!」と言った。そして、あたるとラムはゆっくり茂みから出て建物に向かおうとした時、突然背後から声をかけられた。 「ちょっと待って!」あたるとラムは驚いて振り返ると、そこには泉が立っていた。泉は、あたるとラムの手を引き茂みに戻すと言った。 「そのまま正面から乗り込むなんて無謀すぎる!」あたるがよくよく泉を見ると、泉はまるで忍者の様に黒い服を着こんでいる。そこであたるは泉に聞いた。 「そろそろ本当の事を教えてもいいんじゃないか?」泉は仕方ないと言った表情で 「そうだね、もう僕の方も充分な情報は得たし、教えてもいいかな。僕の正体と目的を」と言った。するとラムがバチバチ と放電しながら言った。 「そんな前置きはいいから、さっさと言うっちゃ!うちは今、すこぶる機嫌が悪くて暴れたくて仕方ないっちゃ」ラムの迫力に圧倒された泉は慌てて言った。 「じ、実は僕は銀河パトロールの隊員なんだ」それを聞いたラムが 「その銀河パトロールが犯罪組織なんかで何やってるっちゃ」と聞くと、泉は 「ラツヤ・イルワには、銀河パトロールも手を焼いていたんだ。奴等なかなか尻尾を出さないから銀河パトロールは思い切った作戦に出た…」と言った所であたるが 「潜入任務か」と言うと、泉は 「そう、組織に潜入して確たる証拠を掴み、組織を壊滅させるのが目的。そして僕がその潜入任務に就く事になったんだ。組織は10年以上前からラムさんの事を狙っていたんだけど、ラムさんが鬼星に居る時は手を出せなかった。でも、ラムさんが地球に来た事で組織はラムさんの捕獲に向けて動き始めた。それを知った銀河パトロールはラムさんを守る為にラムさんの監視を開始したんだ。そして、その時に僕は組織に潜入した。そう、組織内部からラムさんを守る為に。しかし、潜入して3年程経った時に予想外の事が起きてラムさんは組織に捕まってしまった。そこで僕は今度はラムさんを解放する事にした。その後の事はさっき話した通りだよ」と言った。泉の話を聞いたラムは 「10年も前から?何でそこまでうちにこだわるっちゃ?」と泉に聞くと、泉は言った。 「それは、ラムさんの電気エネルギーが裏マーケットで、とんでもない高値で取引されているからだよ」するとあたるが口を挟んだ。 「お前はそれを知っていてラムの電気エネルギーを吸いとってたって訳か」しかし泉は 「ラムさんには申し訳ない事をしたけど、どうしても決定的な証拠を手に入れる必要が有った…ラムさんの様な人を増やさない為にも!」と言ったが、あたるは納得せず泉に詰め寄った。返答次第では、実力行使め辞さないと言わんばかりに泉に言った。 「お前、それだけの事をしたんだ。覚悟は出来てるんだろうな?」すると泉は、あたるの目を真っ直ぐ見て言った。 「この組織を壊滅させられるなら、僕はどうなってもいい!」あたるは泉の顔をじっと見つめると 「分かった。お前を信じるよ」と言った。二人の会話を聞いていたラムも泉の表情に、並々ならぬ覚悟を感じ 「お前、何か訳が有るっちゃね」と言うと、更に 「ダーリンが信じるなら、うちも信じるっちゃ」と言った。そんなあたるとラムを見て泉は、うっすらと目に涙を浮かべ 「ありがとう!」と言って、まるで政治家の様にあたるとラムの手を交互に握った。そんな泉に、あたるは聞いた。 「この施設の中には組織の人間はどれくらい居るんだ?」あたるの言葉を聞いてラムが言った。 「うちは、この中でうちと同じ様にブレスレットをした人を何人か見たっちゃよ」するとあたるは 「何?そうなるとラムみたいに能力を奪われてる人が他にも居るのか」と言った。しかしそんなラムの言葉を否定する様に泉が口を挟んだ。 「いえ、ブレスレットで能力を奪われて居たのはラムさんだけです」それを聞いたラムは 「そんなハズないっちゃ!うちは、ちゃんと見たっちゃ。接触を禁じられていたから会話はしてないけど…」と言った。それを聞いたあたるは泉に聞いた。 「どう言う事だ?ラムが嘘をついている訳ないから、居たのは確かだろう。それなのに、能力を奪われて居たのはラムだけとは?」すると泉は 「実は、ラムさんが見た連中は、全て組織の人間なんだ。リアリティーを出すために、他にも患者が居ると思わせたんだ。だから接触を禁止したんだよ」と言った。それを聞いたラムは 「……そうだったっちゃ…」と言ってうつむいたが次の瞬間、顔を上げニヤリと笑うと 「じゃあ、何の遠慮も無く暴れられるっちゃね」と言った。そんなラムを見たあたるは思った。 (ラムのやつ、かなり怒ってるな。こりゃ、組織の奴等大変だぞ)ニヤニヤとした笑顔を見せるあたるとラムを見て、泉は 「この施設に居るのは、約20人程だけど問題はそこじゃない」と言った。するとあたるが 「何が問題なんだ?」と聞き、泉は更に 「この施設は、外見からでは良く分からないけど、かなりの武装をしているんだ。だから、迂闊に近寄ればたちまち蜂の巣にされる」それを聞いたあたるは 「なんだと!じゃあ、どうやって近づくんだ?」と泉に聞くと泉は 「僕にいい作戦が有る」と言って、ニヤリと笑った。 最終話 幻に続く