うる星やつら チェンジ・ザ・ライフ 最終章 幻 泉は自分の作戦の説明を始めた。 「まず、諸星君はこの手錠で拘束させてもらうよ」泉は、手錠を出すと、あたるに手錠をかけた。 突然手錠をかけられたあたるは当然、泉に疑問を投げかけた。 「おい!これはどう言う事だ!」あたるにかけられた手錠を見てラムも泉に言い寄る。 「お、お前!やっぱり!!」ラムは全身から放電を始めた。そんな二人に泉は慌てて 「ちょっ、ちょっと待って!これは作戦なんだ!」と言った。それを聞いてあたるは 「作戦?」と言い、続けてラムも 「どんな作戦だっちゃ」と聞いた。泉は、まだ敵意を露にしているラムをなだめる様に説明を始めた。 「ラムさんはブレスレットを着けて今まで通りに施設に戻って自分の部屋に行き、そこで待機。諸星君は、僕に捕らわれた事にして一緒に施設内へ。施設に入ったら僕は諸星君を隔離部屋に連れて行く事になるからそのまま隔離部屋へ。部屋には外から鍵を掛けるけど、僕がうまく脱出させるから諸星君はそれまで待ってて欲しい」泉の説明を聞いたあたるは 「お前が助けにくるまで待ってるなんてゴメンだな。俺は俺で動かせてもらう」と言った。しかし泉は 「そんな事言ったって、隔離部屋からは出られないよ?」と半分呆れた様に言うと、あたるは不敵な笑みを浮かべて言った。 「ふふ、俺にはとっておきの作戦が有るのさ」それを聞いたラムも 「ダーリンだったら、絶対大丈夫だっちゃ」と言ってニコリと笑った。泉は、あたるの自信を信じて作戦を決行する事にした。まずはラムが施設に入って行く。案の定、何の問題も無く施設内に入る事が出来た。つぎはいよいよあたる達が行く番だ。泉はあたるに一言だけ言った。 「もしバレたら、全速力で建物内部に突っ込んで。逃げるよりは生き残れる可能性が高い」泉の言葉を聞いたあたるは 「もとより逃げるつもりなんて無いさ」と言い、それを聞いた泉は 「その覚悟、気に入った!」と言って、手錠をかけたあたるの手を引き歩き出した。 建物に近づくにつれて、緊張感が高まってくる。あたるは、ただの療養施設とは思えない凄まじい殺気を感じた。どうやら泉の言った事は本当だったらしい。泉とあたるは平静を装いながら施設の入口まで辿り着くと、突然中から厳つい、いかにも腕力が有りそうな男が出て来て 「おい、そいつは何だ?」と泉に聞いた。泉は至って冷静に 「こいつは研究施設に忍び込んで来たので捕まえて調べてみたら、何かの能力を持ってるみたいなんだ。しかも、かなり強力な」と言った。すると厳つい男が、まるで吟味する様にあたるをあたまの先から足の先まで舐める様に見て 「どんな能力なんだ?」と泉に聞いた。すると泉は 「の、能力は、まだ詳しくは調べていないんだ。研究施設の機械が調子悪くてね」と言った。それを聞いた厳つい男は納得した様子で 「じゃあ、隔離部屋に連れて行ってくれ」と言った。泉はかるく頭を提げると、あたるの手を引きなから歩き方だした。その時、あたるが泉に小声で聞いた。 〈おい、その隔離部屋とやらに入るときは、身体検査するか?〉それを聞いた泉も小声で答えた。 〈おそらくな……〉するとあたるは小さな道具を泉に手渡すと 〈これを身体検査が終わった後に俺に渡してくれ〉と言った。泉は、道具をポケットに入れると 〈分かった〉と言った。 泉はあたるを連れて施設内を進み、やがて隔離部屋らしき場所にたどり着いた。その部屋は、窓には鉄格子、ドアは鉄製でドアの窓にも鉄格子が付いている。それは隔離部屋と言う名前の牢獄だった。そして部屋の前には武装をした見張りが1人。 泉がその見張りに何やら話をすると、見張りはあたるの前に来て 「お前が何か能力を持っている様には見えないがな」と言いながらあたるの体をあちこち触り、所持品を調べ始めた。あたるが何も持っていない事が分かると泉の方を見て 「よし、じゃあ中に入れてくれ」と言った。泉は頷くとあたるの手を引き部屋の中に入れ、見張りに聞いた。 「手錠は外していいんだよな?これしか持ってないから無いと困るんだよな」すると見張りは 「あぁ、構わない。どうせ逃げられないしな」と言った。泉はあたるの手錠を外しながら、あたるから預かった道具を手渡した。あたるが泉の体を壁にして道具をしまうと泉はあたるに背を向け部屋を出た。見張りは泉が出るとすぐにドア閉め、外から鍵をかけた。泉はあたるをチラッと見ると 「じゃあ、後は頼んだ」と言った。すると見張りは 「まぁ、任せておけ」と言った。泉はその場を後にすると、ラムの個室に向かった。 その頃ラムは自分の部屋で落ち着き無く行ったり来たりしながら 「うちは、一体いつまでここで待ってればいいっちゃ?」と言った。その時 コンコンッ 部屋のドアがノックされた。それを聞いたラムは緊張しながら 「誰だっちゃ?」と声をかけるとドアの向こうから小さな声で 〈僕だ!泉だ!〉と聞こえた。ラムは、そっとドアを開けるとドアの向こうには泉が立っていた。ラムはすぐにドアを勢い良く開けると周りに注意しながら泉を部屋に入れた。そしてドアを閉めてすぐに泉の方に振り向くと 「ダーリンはどうしたっちゃ?」と聞いた。すると泉は近くに有った椅子に座ると 「諸星君には囮になってもらう」と言った。それを聞いたラムは泉に詰め寄り 「ダーリンが囮?どう言う事だっちゃ!」と声を荒らげた。しかし泉は慌てる様子も無く、平然とした表情で言った。 「僕のデータを銀河パトロールの本部まで転送するには大出力の通信装置が必要なんだ。そして、その通信装置の有る通信室は、当然の事ながら警備が厳重だ。普通に行ったら、たちまち捕まってしまうだろう。そこで、陽動が必要になる。幸い通信装置の有る部屋と諸星君の居る隔離部屋は建物の端と端だ。だから諸星君が隔離部屋周辺で騒ぎを起こしてくれれば人員がそちらにまわるので、通信装置の有る部屋の警備は手薄になるハズだ」するとラムは 「じゃあ、うちもダーリンと一緒に囮になるっちゃ」と言うと部屋を出て行こうとしたが、泉が、そんなラムをひきとめた。 「待って!ラムさんには僕と一緒に通信室に来てもらわないとならないんだ!」泉の言葉にラムは 「何でだっちゃ?お前なら自由に施設内を動けるんじゃないっちゃ?うちが居なくても通信室までたどり着けると思うっちゃよ」と言ったが、泉は申し訳なさそうに 「実は、このメモリーチップはラムさんのブレスレットと連動していて、半径3メートル以内にブレスレットを着けたラムさんが居ないとデータを開けないんだ」と言った。するとラムは怪訝な顔で言った。 「どう言う事だっちゃ?」泉は、ひきつった顔で話始めた。 「実は、万が一に奴等の手にこのメモリーチップが渡っても、データを開けない様にしたんだ。このメモリーチップとブレスレットを着けたラムさんが一緒に居ないとデータを開けない様に…」それを聞いたラムは 「奴等にデータを奪われない様にしたのはわかったっちゃ。でも、何でうちなんだっちゃ?」と聞くと泉は 「た、たまたまラムさんがブレスレットをしてたから手っ取り早く…」と言った。ラムは頭を抱えながら 「だったら、ブレスレットをお前に渡すからお前がブレスレットを着ければいいっちゃ」と言った。しかし泉は 「いや、そのブレスレットはラムさん以外の人が着けても起動しないんだよ」と泣き出しそうな顔で言った。それを聞いたラムは 「全く!大した作戦だっちゃ!」と言うと腕を組んで泉を見つめた。 その頃、隔離部屋のあたるはラムのUFOから持って来た道具を出すと 「さてと、まずはこの道具がどんな物か確かめないとな」と言って、道具を良く見てみると、それはどうやら握ってボタンを押すだけの様だ。あたるは早速使ってみようと道具を握った時、突然激しい睡魔に襲われた。その睡魔はまさに、過去とリンクする時のものであたるは (くっ、何で今…)と思い抵抗したが、それも虚しくあたるは眠りに落ちてしまった。 あたるが目を覚ますと目に入ってきた光景は……… 牢獄の様な部屋 あたるは我が目を疑い周りを見回したが、そこはやはり隔離部屋だった。手には小さな道具が握られている。あたるは (間違いない、ここは元いた部屋……また夢を見なかった)と思ったが、別の事が気になった。 (はっ!俺はどの位寝てたんだ?)あたるは思わず見張りの男に聞いた。 「おい!俺がここに入ってからどの位経った!」見張りはあたるの声にドアの鉄格子越しに部屋の中を見ると、あたるに言った。 「は?お前何言ってるんだ?まだ20分くらいしか経ってないぞ」それを聞いたあたるは (なに?20分だと?すると俺が寝ていたのは15分足らずと言う事になる)と思った。あたるは前回も夢を見なかった事もあり、多少疑問が有ったが今はそんな事よりもしなくてはならない事があった。あたるはこの隔離部屋に来る途中で泉が言っていた事を思い出した。 『諸星君には、隔離部屋に入ったら騒ぎを起こして欲しい。それと言うのも、僕が銀河パトロール本部に転送したいデータは通信室からじゃないと転送できないんだ。そして当然通信室の警備は厳重だろう。幸いこれから君の行く隔離部屋と通信室は建物の端と端に有るから、諸星君が隔離部屋で騒ぎを起こせばそちらに人員がまわり、通信室の警備が手薄になるはずだ。僕は、その隙に通信室に入り込みデータを転送する。本部がデータを受け取った瞬間、周辺に待機している銀河パトロールの隊員達が組織の施設に潜入し、奴等を拘束して組織を壊滅させる作戦だ』 泉は、あたるが騒ぎを起こしたタイミングを見て通信室に行くに違いない。あたるは、手に持った道具を見て (これにかけるしかない)と思い、道具を握りしめボタンを押した。するとあたるの周りの空間が歪みあたるの体は別の空間に入った様な感じだった。しかし、あたるからはまわりの景色は見えていた。あたるはそのまま動いてみた。すると、あたるの体は別の空間から出てくる様に元の空間に戻った。あたるは (なるほど、本当に動いたらすがたが見えちまうみたいだな)と思った。そしてあたるは大きく深呼吸をすると自分に出せる最大の大声で 「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」と叫び、すぐさま道具のボタンを押した。 いきなりのあたるの叫び声に見張りの男は驚き、慌ててドアの鉄格子から中を見た。しかしそこにはあたるの姿は無かった。見張りは我が目を疑ってもう一度部屋中を見たが、やはりあたるの姿は無い。見張りは慌ててどこかに走って行った。多分誰かを呼びに行ったのだろう。あたるはドアの所に行くと鉄格子越しに外の様子を伺った。すると間もなく廊下の先から誰かが走って来る足音が聞こえてきた。あたるはドアのすぐ横で再び道具を握りしめボタンを押した。あたるの姿は一瞬にして消えた。 足音はすぐにドアの前まで来て誰かが部屋の中を鉄格子越しで覗いた。すると見張りの男が中を見ている男の後ろから 「突然叫び声が聞こえたと思ったら消えていたんです!」と言った。どうやら男はこの施設の責任者らしい。責任者らしき男は見張りの男に言った。 「おい、ちょっとドアを開けてくれ」見張りの男はすぐにドアの鍵を開けた。責任者らしき男はドアを開くと部屋の中をみわたして言った。 「この部屋に居た男は、何か能力を持っていたんだよな?」それを聞いた見張りの男は 「ええ、そう言ってました」と言った。すると責任者らしき男は呆れた表情で 「その口調からすると、どんな能力かは聞いていないらしいな」と言うと部屋の中に入って来た。見張りの男も 「申し訳ありません」と言いながら後に続いた。二人が部屋の中央あたりまで進んだ時あたるは音をたてない様に注意しながらドアに向かい、ドアから出ようとした時背後から 「あ!」と声がして、あたるが振り向くと見張りの男と目と目が合った。男の声に責任者らしき男も振り返りあたるを見て、見張りの男に言った。 「何してる!早く捕まえろ!」見張りの男は 「は、はい!」と言うとあたるに向かって来た。それを見てあたるは 「やばい!見つかった!」と言うとダッシュで逃げ出した。すると責任者らしき男は見張りの男に 「すぐに追え!」と言うと、隔離部屋の外に設置してある非常ボタンを押した。その瞬間施設内には、けたたましい警報が鳴り響き、それを聞いた者が集結し始めた。 その頃ラムの部屋に居た泉とラムも警報を聞いていた。そしてそれを聞いた泉は 「やった!諸星君がやってくれた!」と言った。それを聞いたラムは 「当然だっちゃ、ダーリンなら絶対にやってくれると思ってたっちゃ」と言い笑顔を見せた。しかし泉は心配そうに 「後は、諸星君が捕まらない事を祈るだけだ」と言った。しかしラムは余裕の表情で言った。 「それなら心配いらないっちゃ。ダーリンの逃げ足は天下一品だっちゃ。それはうちが保証するっちゃ」それを聞いた泉は 「ラムさんがそう言うなら、心配いらないね。じゃあ、僕達は通信室に向かおう!」と言った。 ラムと泉は、平静を装って通信室に向かった。廊下は逃げたあたるを探す連中が右往左往している。みんなあたるを探すのに夢中でラムと泉の事を気にする者は居なかった。ラムと泉は順調に進んで行き、ついに通信室の近くまで来た。廊下の角から覗いてみると、通信室の前には見張りが二人いる。それを見て泉が言った。 「見張りは二人か…中にも居るかもしれないから、あの二人はできるだけ静かに倒さないとだな」するとラムが 「うちがあの二人を電撃で気絶させるっちゃ」と言った。それを聞いた泉は 「じゃあ、僕はその隙に中に入り誰か居たら倒すよ」と言った。そしてラムはブレスレットを外すと両手に電気を貯め、二人の見張りの所に飛んで行き見張りがラムに気づくと同時くらいに電撃を放つと、二人の見張りは一瞬で気絶して倒れた。まさに瞬殺である。 泉は少し遅れてドアの前にたどり着き、ゆっくりとドアを開けて中を確認した。幸い通信室の中には誰も居らず泉とラムは通信室の中に入って行った。 その頃あたるは道具を使いながら逃げ回っていたが、突然道具が壊れたのか姿を消す事が出来なくなった。しかし、そこは天下一品の逃げ足を持つあたるだけあって簡単には捕まらない。あたるは逃げながら後ろを振り返ると、追って来ているのはざっと数えても50人近く居た。それを見たあたるは 「泉のやつ!何が20人だ!」と言いながらちょこまかと廊下を曲がりながら逃げ回っていると、前からも追っ手が迫って来た。あたるは立ち止まり 「万事休すか」と呟いた。 一方、ラムと泉は通信室で銀河パトロール本部にデータを転送する準備を進めていた。そして泉がラムに言った。 「ラムさん、ブレスレットを着けて」ラムは泉に言われるままにブレスレットを装着した。泉はカタカタと通信機の端末を操作している。すると突然通信室のドアが開き 「残念だが、そこまでだ」と声がした。ラムと泉は同時に振り返りドアの方を見ると、そこには二人の銃を持った兵士らしき男と、あたるの隔離部屋に来た責任者らしき男が立っていた。兵士の銃は、もちろんラムと泉に向けられている。少しでも動けば容赦なく発砲してくるだろう。ラムと泉は、全く動けなくなってしまった。そして責任者は言った。 「泉、まさかお前が裏切るとはな…お前があの男を隔離部屋に連れて行ったと聞いてようやく気づいたよ。お前が裏切ったってな」泉は、何も言わず黙り混んでいる。ラムは泉の方をチラッと見ると、責任者に言った。 「うちらをあまく見ない方がいいっちゃよ」ラムがそう言った瞬間 ドカーーーン!!! どこかで大きな爆発音が鳴った。責任者はラムと泉から目を離さずに兵士の1人に 「何が有ったか見てこい」と言った。兵士は軽く頷くと走って部屋を出た。その時部屋の前で大きな爆発が起き、部屋から出た兵士は吹き飛ばされた。そして軽快なエンジン音と共に部屋に入って来たのは真っ赤なエアバイク。それに乗っていたのはもちろん弁天だった。後ろにはランがバズーカを持ってまたがっている。ラムはそれを見て 「弁天!それにランちゃん!でも、どうして?」と言った。すると弁天は 「いやぁ、ランのやつがな、ラムを助けに行くから手伝えって聞かなくてよう」と言うとニヤニヤと笑いながらランを見た。しかしランは 「おい!弁天!わしゃ、そんな事は言っとらんで!」と怒鳴った。それを聞いたラムが 「二人ともありがとう…でも、ランちゃん帰ったんじゃあ…」と言うとランは決まり悪げに言った。 「いや、この前な、ちょっと掃除してたら今日ここでお前が何かしでかす様な事が書いてあるメモを見つけたんや。しかも、お前がこんな奴等に囚われの身だって言うやないか!わしも、いじめる相手が居なくてつまらなかった所やったから、暇潰しに来てやったんや」ラムは嬉しくて涙が出てきた。それを見た弁天は 「助けに来たのはあたい等だけじゃないぜ」と言うとニヤリと笑った。 その頃あたるは突然の爆発音に慌てる追っ手達の隙をついて強制突破を試みたが、敵の数が多すぎて失敗に終わり更に窮地に立たされた。その時 「てやぁぁぁぁ!」と言う声と共に、あたるの前の追っ手が何人か倒れた。そしてその先に居たのは、面堂だった。それを見たあたるは思わず叫んだ。 「面堂!何でお前が!」面堂は日本刀を振り回して追っ手を倒しながら近づいて来て言った。 「ふん、僕はお前を助けに来たのでは無い!ラムさんを救いに来たのだ!」それを聞いたあたるはニヤリと笑うと 「だろうな、だがはっきり言って助かった」と言い、続けて 「それで助けに来たのはお前だけか?」と聞くと、面堂は 「いや、僕の他にも…」と言いかけた時 ドドドドド! と言う地響きと共に何かが近づいてくる。見れば、追っ手が次々の弾き飛ばされて何かが近づいてくるではないか。面堂もその音に振り返ると 「きゃーー、こっち来ないでよーー!」と言いながらしのぶが走って来た。そしてその後ろから追っ手をを弾き飛ばしながらしのぶを追って来たのはなんと総番だった。総番は 「しのぶさ〜ん、すきだーー!」と言いながら更に迫って来る。あたるは咄嗟に横に飛び避けたが、面堂は見事に総番に弾き飛ばされた。しかし、総番が通ったおかげで道ができ、あたるはそこを全速力で走り抜けた。 また、別の場所では辺り一面が氷に包まれていた。兵士達は抵抗を試みたが、銃まで凍って使い物にならず恐怖と寒さで震えていた。そんな中 「ここの人達は、乱暴ですね」と言いながら歩いて来たのはお雪だった。 そして通信室ではラムが 「え?もしかして、お雪ちゃんも?」と弁天に聞くと、弁天は 「あぁ、ラムがひでぇ目に合ってるのをみすみす見逃せねぇってよ」と言った。そんなラム達の会話の途中、爆発で倒れていた責任者が起き上がり怒りに燃えた目で言った。 「随分派手にやってくれたじゃないか」そして、自分の腕に着けてあるブレスレットを操作した。すると責任者の前方にシールドの様な物が出現した。それを見たランは、責任者に向けてバズーカを撃った。しかし、バズーカの弾はシールドに当たった瞬間に消滅した。そして責任者は不敵に笑い 「ははははは!その程度の攻撃では傷一つ付ける事は出来ない。ついでにこんなのはどうだ?」て言い更に腕のブレスレットを操作した。すると責任者の手がバチバチと放電を始めた」それを見たラムが 「まさか!」と言うと、責任者は 「そう、お前の能力だよ。このブレスレットはさまざまな能力が誰でも使える様に出来る我が組織が開発した商品だ」と言うと弁天達に向けて電撃を放った。弁天はギリギリの所で電撃を避けると 「こりゃヤバイぜ!他にどんな能力が有るかわからねぇ!迂闊に攻撃できねぇぞ!」と言った。その時、責任者に向かって無数の氷の槍が飛んで来た。もちろんそれは、お雪の攻撃だった。しかし、その氷の槍は責任者の前に有るシールドに吸い込まれる様に消えてしまった。それを見たラムは 「お雪ちゃん!」と言い、続けて弁天が 「やっと来たか」と言ってニヤリと笑った。お雪はラムの所に行くとラムの髪を見て言った。 「あら、ラム。髪染めたの?」するとラムは 「あぁ、これはこのブレスレットをしてるからだっちゃ」と言って、ブレスレットを見せた。その時弁天が 「そんな事より今のお雪の攻撃だが、あのシールドの様な物、氷を砕くでも溶かすでもなく、消しやがった」と言った。それを聞いたお雪も 「ええ、あれはシールドじゃないみたいね」と言い、続けてランが 「さっきもわしのバズーカの弾が爆発せずに消えたところ見ると、あれは物質を別の空間に移動させとるんかも知れんで」と言った。するとそれを聞いていた責任者は 「ほう、良く見破ったな。その通り、このシールドの前ではあらゆる攻撃は無効だ」と言った。そんな責任者の話を聞いていたお雪は冷たい笑みを浮かべなから 「そう。それなら、こんなのはどうかしら?」と言うと、両手を下から上に向かってゆっくりと上げた。すると、責任者の足元から何本もの氷のトゲが責任者に向かって突き立った。しかし責任者に当たる直前に氷のトゲは溶けてしまった。どうやら、責任者の体の周りは高温の層で囲まれているらしかった。責任者はお雪を見つめながら言った。 「氷の能力か…それも我が組織が戴くとするか」と言って笑った。 その時、あたるは倒れた追っ手の集団の間を走り抜けていた。しかし、追っ手は更に増えあたるはたちまち囲まれてしまった。その時、さっきまで倒れていた面堂が 「諸星!ここは僕に任せて先に進め!必ずラムさんを救い出せ!」と言うと敵に向かって突っ込んで行った。あたるは 「すまん、面堂…」と言うと、更に先に進んだ。しかし、多勢に無勢。敵の数が多すぎて、あたるは再び囲まれてしまった。すると何の前触れもなく突然 「不吉じゃ」と言ってどこからともなく錯乱坊が現れた。もちろん周囲は大爆発を起こし、追っ手達は吹き飛んだ。あたるも爆発に巻き込まれそうになったが、何とか堪え錯乱坊の襟を掴んで持ち上げると 「お前、いい加減その出方はやめろ!」と言った。すると錯乱坊の出現の爆発でも、かろうじて意識を失わなかった何人かが起き上がりざまに錯乱坊の顔を見て、ことごとく倒れていった。それを見たあたるは (なに?…まさか…)と思い、錯乱坊の後ろ襟を掴んで自分の前に突き出すと倒れて苦しんでいる追っ手の顔の前に錯乱坊の顔を近づけた。すると、その追っ手は錯乱坊を見て顔を恐怖で歪めながら気絶した。それを見たあたるは確信した。 (やっぱり!こいつらにとってチェリーの顔は気絶するほど恐ろしいものなんだ!)あたるはチェリーを自分の前に突きだした状態で追っ手の大軍に向かって行った。すると、まるでモーゼが海を割った様に追っ手の大軍は左右に避け、真ん中に道ができた。あたるは堂々とその道を、進んで行った。そして廊下を曲がった時、廊下の先にさっき隔離部屋に来た責任者と、それを囲む様に数人が居るのが見えた。あたるはそれを見て我が目を疑った。 「あ、あれは弁天さまにランちゃん!それにお雪さんまで!」あたるが叫ぶと、あたるに気づいた責任者は 「お前!何でここに!」と言うと、あたるに向かって電撃を放った。あたるはそれをヒョイとかわすと 「電撃!お前、ラムの!」と言った。すると責任者は 「その通り、お前らに勝ち目は無いのだ。大人しく抵抗はやめろ」と言った。その時ラムが 「ダーリン!気を付けるっちゃ!そいつの前のシールドに触れたら別の空間に飛ばされちゃうっちゃよ!」と叫んだ。それを聞いたあたるは (こいつに通用するかどうか分からんが、一か八かに賭けるしか無い!)と思い、責任者の放つ電撃を避けながら突っ込み、責任者まで約3メートル程まで来た時にあたるは右手を大きく振りかぶり 「これでも喰らえ!!」と叫ぶと手に持っていた錯乱坊を責任者めがけて投げた。すると錯乱坊は顔から飛んで行き、責任者はその顔をモロに見てしまい、大きくよろめいた。そして次の瞬間、責任者の手に装着されていたブレスレットは煙を上げて二つに折れ、シールドも徐々に消え始めた。そして、投げられた錯乱坊は責任者に向かって真っ直ぐ飛んで行き、消えかかったシールドに吸い込まれた。しかし、責任者のダメージは大きく膝をついたまま動く事が出来ず 「な、なんと言う事だ…あれほど恐ろしい物は見た事が無い…」と言って、倒れた。それを見た泉は 「ラムさん!」と言うと、ラムと一緒に通信機でデータを銀河パトロール本部に転送した。すると、間もなくどこからともなく何人もの銀河パトロール隊員がやってきて倒れている組織の人間を連行し始めた。そして、責任者も手錠をはめられ連行された。 そんな中、泉は言った。 「皆さん、本当にありがとう。現時点で判っている組織の拠点は全て制圧。これで事実上組織を壊滅する事ができた」だが、誰も泉の話を聞いていない。その訳は、あたるが弁天、ラン、お雪を追い回し、そんなあたるをラムが追い回しているからだ。その光景を見た泉は、肩を震わせて突然大笑いを始めた。 「あーははははは!やっぱり、諸星君とラムさんはこうでなきゃ」そんな泉をよそにあたるは弁天に殴られ、ランにバズーカを撃ち込まれ、最後にお雪に首から下を氷漬けにされた。そしてそんなあたるにラムは 「ダーリン!いい加減成長するっちゃ!覚悟はいいっちゃね?」と言うと、バチバチと放電を始めた。それを見てあたるは 「ま、まてラム!俺はただ弁天さまとランちゃんとお雪さんにお礼をしようとしただけだ!」と言ったがラムは 「あれは、どう見てもお礼をしようとしてる様には見えなかったっちゃよ」と言い、そして 「覚悟を決めるっちゃ!」と言った。あたるは諦めた様に目を瞑り覚悟を決めた。そして次の瞬間あたるは唇に柔らかいものを感じた。あたるが目を開けると、ラムがあたるにキスをしているではないか。ラムはあたるの唇から自分の唇を離すと、氷漬けのあたるに抱きつき 「ダーリン…うちの事見つけてくれてありがとう。うちのブレスレットを外す為に頑張ってくれてありがとう。そして何より、うちを覚えていてくれてありがとう」と言った。そんなラムにあたるは照れながら答えようとしたが、何故か声が出ない。ただ口がパクパクと動くだけで声にならないのだ。それを見てラムが 「ダーリン?どうしたっちゃ?」と聞いたが、やはりあたるは声が出ずただパクパクと口が動くだけだった。するとラムは慌てて 「ダーリン!苦しいっちゃ?」と言うと、弁天が来て 「ラム!どけ!」と言うと、正拳突きで氷を殴った。すると氷はバラバラに砕け散った。ラムはすぐにあたるを抱き起こすと 「ダーリン大丈夫だっちゃ?」と聞いた。あたるは動こうとするが体がまるで自分の物では無い様に動かない。すると、その様子を見た泉が 「もしかすると、諸星君の意識の中にはまだ過去の彼の意識が残っているのかも…いや、体が動かないみたいだし逆かもしれない」と言った。それを聞いたラムは 「どう言う事だっちゃ?」と聞くと、泉はあたるを見つめながら言った。 「多分、今の彼の意識は過去の諸星君の意識だと思う。だから、思う様に動けないんだ」するとラムは 「じゃあ、本当のダーリンの意識はどこだっちゃ?まさか過去に?」と言った。しかし泉は 「いや、それは無いとおもう。多分過去の諸星君の意識が過去に戻れば、元通りになるはず」と言った。そして、更に泉は言った。 「おそらく、今体が動かないのは過去の彼の意識が過去に戻りつつ有るからだと思うよ」それを聞いたラムは 「そう…複雑な気持ちだっちゃ。でも、うちの事を助けてくれたのはきっと過去と現在の両方のダーリンだっちゃ。多分過去のダーリンの未来は違う未来だろうけど、うちは忘れないっちゃよ」と言うと、あたるに微笑みかけた。そんなラムの目には涙が浮かんでいる。あたるはそんなラムを見て (泉の言う様に、俺が過去の俺だとしても、お前とのこの経験は忘れないからな)と思った。そしてあたるはラムの腕の中で深い眠りに落ちた。 あたるはゆっくりと目を開けると、目に入ったのは見慣れた天井。あたるは起き上がると周りを見渡した。そこはあたるの部屋だった。おもむろにあたるは自分の唇を触った。まだラムの唇の感覚が残っている様な気がする。あたるは (ここは、過去か?いや、俺にとっては現代か…)と思うと、ラムの寝ている押し入れの襖に手を伸ばした。しかし、寸前で手を止め (ラムが居ないなんて事無いよな?)そう思うと、それ以上動く事が出来なかった。するとその時 「ダーリン」と窓の方から声がした。あたるはすぐに振り向くと、そこには虎縞ビキニ姿のラムが窓枠に座ってこちらを見ている。その顔は優しい笑顔で満ちていた。あたるは思わず 「ラム…」と呟いた。するとラムはあたるのそばに寄ると、そっとあたるを抱きしめて 「おかえり」と言った。あたるは涙がこぼれそうになるのを必死にこらえた。 END