うる星やつら ☆赤い花が散る時☆ 第1話 真紅の花 物思いにふける30歳前後の男。彼は諸星あたるである。あたるは空を見上げると、ボソッと呟いた。 「あの時、俺があんな事をいわなければ……」 そしてあたるは深いため息をついた。 あたるのため息の理由を知るには、あたるの高校時代まで遡る必要がある。 * * * その日も友引高校2年4組では、いつもと何ら変わりのない時間が過ぎていた。 「ダーリン!何でいつもいつも他の女にチョッカイばかり出してるっちゃ!」 そんな中ラムの怒声が響いた。ラムは既に電撃を放つ体勢だ。それを見たあたるは、すかさずチビの後ろに隠れた。ラムは電撃を放ったがそれはあたるではなく、チビに命中した。チビはプスプスと煙を上げながらな倒れ、それを見たラムは 「大城際が悪いっちゃね」と言うと更に電撃を放つ。しかし、あたるは今度はカクガリの後ろに隠れ、電撃がカクガリに命中すると、すぐさまパーマの後ろに隠れた。続けて電撃を放ったラムは息を切らし 「ちょこまかと!いい加減にするっちゃ!!」と言うと、電撃を溜めこみ一気に放った。それを見たあたるは、メガネと面堂を盾にしたが、ラムの電撃があまりに強力だった為にメガネ・面堂と共にラムの電撃を喰らいプスプスと煙をあげた。 あたるに巻き添え、いや盾にされた面堂は怒りに打ち震え、どこからともなく日本刀を取り出すと 「諸星ー!貴様と言う奴は!」と言いながら日本刀をあたるに振り下ろした。あたるはそれを咄嗟に足で受け止め 「何をする!」と言うと更に 「刃を向ける相手が違うんじゃないか?」と言った。しかし面堂は 「貴様に刃を向けずに誰に向けるんだ!」と叫んだ。 ラムはあたるに近づくと、あたるの襟首を掴んだ。しかし、すぐにその手を離すとクルリとあたるに背を向けた。いつもと違うラムの反応にあたるが戸惑っていると、ラムはあたるの方を振り返り 「ダーリン…そんなに他の女の子の事が気になるっちゃ?」と言った。ラムのあたるに向けられた表情は、今まであたるの見た事の無い寂しそうな表情に見えた。 しかしあたるは、そんなラムの視線から目を逸らすと 「何を今更。俺がこう言う男だと言う事は、お前が一番知っておろうが」と言った。その瞬間、面堂・メガネ・パーマ・カクガリ・チビの五人は 「偉そうに言える事か!!!」 と声を揃えて、あたるを蹴りまくった。 一方ラムは、肩を震わせてあたるの方へ振り向くと 「だったら、何でウチと一緒にいるっちゃ!!」と声を荒らげた。 しかし、面堂達にボコボコにされながらもあたるは 「お前が勝手に押しかけて来たんだろうが!」と言うと、面堂達を押しのけラムの前に行き 「なんなら、今すぐ星に帰ってもいいんだぞ」と言った。あたるには、ラムは星には帰らないと言う自信が有ったのだ。しかし、それを聞いた面堂達五人は慌ててラムに 「ラ、ラムさん!あんなバカの言う事なんて間に受けてはダメですよ!」と言い寄った。しかしラムには面堂達の言葉は届いておらずラムは、怒りの表情で 「じゃぁ、ダーリンはウチが居なくても平気なんだっちゃね?」と聞いた。するとあたるも買い言葉で 「あぁ、お前が居ない方が却ってせいせいするわ」と言って腕を組んだ。それを聞いたラムは悲しそうな表情で 「そう……分かったっちゃ」と言うと、教室の窓から空に向かって飛び去った。 あたるは、そんなラムに違和感を感じながらも (まぁ、すぐに帰ってくるさ)と思った瞬間、背筋に凄まじい殺気を感じ振り返ると面堂を初めに、クラスのほとんどの男子があたるに襲い掛かった。 みんな口々に 「このアホが」 「何でラムちゃんがお前なんかに」 「ラムちゃんが帰っちゃったらどうするつもりだ」 「ラムさんに謝れ」 「お前が消えろ」 等と叫びながら、殴る蹴るの集団私刑は執行され、あたるはボロ雑巾の様になって教室の隅に放置された。するとそこに温泉マークが入ってきて 「何を騒いでおる!もうチャイムは鳴ったぞ!」と言うと、教室の隅に転がっているボロ雑巾の様な物を見つけ、近づきながら 「誰だ、こんな所にゴミを置いた奴は!」と言って近づいたが、そのゴミの様な物があたるだと判ると、後ずさりをして 「も、諸星……誰か説明してくれ。これは一体どう言う事だ?」 その頃教室を飛び出したラムは、空中に浮かびながら考えていた。 「ダーリン、あんな事言ってたけど本気じゃないっちゃよね?………」そう言うと、急に不安になり 「まさか、ダーリン本当に?」と良くない方へと考えが進む。ラムは、不安を抱えながらUFOへと戻った。 その日の夕方、あたるは足早に自宅へ帰ると、ただいまの挨拶も言わずに2階へ駆け上がり自分の部屋のドアを開けた。部屋の中にはラムの姿は無く、テンが一人で遊んでいた。そしてテンは勢いよく飛び込んで来たあたるに 「なんや!びっくりするやないか」と言うと、あたると一緒にラムが居ない事に気づき 「なんや?ラムちゃんはどないしたん?」と言ったが、すぐにニヤニヤと笑いながら 「また喧嘩したんやな?どうせお前が他の女にちょっかい出してラムちゃん怒らせたんやろ」と言うと、更に 「少しは、反省したらええのや!」と置きセリフを言うと、窓から飛び去った。あたるは、テンの言う事に一言も反論せずに、ただ空をみつめ (まぁ、すぐに戻ってくるさ…)と思ったが、妙な胸騒ぎを感じた。 その頃ラムは、UFOの中で (どうしてダーリンはウチの事だけを見てくれないっちゃ?もしかして、本当にウチの事…)と思い、不安を募らせていった。そんな時 「ラムちゃーん」とテンがUFOに入って来て 「また、あたると喧嘩したんのんか?」と尋ねるとそれを見たラムは 「あ、テンちゃん」と言って、ノロノロと飛んで来るテンを抱き寄せると 「実は、そうなんだっちゃ」と言うと、悲しそうな顔で続けた。 「ウチ、ダーリンが分からないっちゃ。何で他の女の子ばかり気にするのか…」 それを聞いてテンは 「あたるの奴、慌てて帰って来て、ラムちゃんが居らんのが分かると途端に静かになったで。あいつも少しはラムちゃんの大切さが分かったんやろ。たまにはいい薬や」と言った。テンの話を聞いてラムは 「本当だっちゃ?」と言うと、急に笑顔になり 「やっぱりダーリンは、ウチの事想ってくれてたっちゃね」と言ってテンを抱きしめた。 翌朝ラムは、あたるの部屋に向かって飛んで行くと、途中の木の枝に妙な花が引っかかってるのを見つけた。ラムは、その花の所に行くとその花を見つめた。その花は虹色に輝いており、明らかに地球上の物ではない事が分かった。 「綺麗な花だっちゃね」と言い、その花に手を伸ばして花を手にした。すると、さっきまで虹色に輝いていた花はみるみる色が変わり、真紅に染まった。それを見たラムは 「え?どうしたっちゃ?」と言って花を手放そうとしたが、何故かその花を手放してはいけない気がして、花をUFOに持ち帰り鉢にいけた。 ラムはその花を見てると不思議な感覚になり、昨日のあたるとの喧嘩が馬鹿らしく思えてきた。ラムは花をテーブルの上に置くと、再びUFOを出てあたるの元へと向かった。 ラムがUFOから出て少しした時、花は真紅の花びらを一枚落とした。 ラムがあたるの部屋に行くと、あたるの姿は無かった。ラムは下に降りて茶の間に行くとそこには何となく元気の無さそうなあたるの姿が有った。それを見てラムは (やっぱりテンちゃんの言う通りだったっちゃ)と思い、茶の間に入り 「おはようだっちゃ」と元気よく挨拶をした。するとあたるの父と母は 「あ、ラムちゃん、おはよう」と挨拶を返したが、あたるはチラッとラムの方を見ると 「なんだ、帰ったんじゃないのか?」と言って、ガツガツと朝食を食べ始めた。ラムは一瞬ムカッときたが、すぐに気を取り直し 「ダーリンが居るのに帰る訳ないっちゃ」と言うと、あたるの横にチョコンと座った。あたるはラムの方を見向きもせず 「そうか、そりゃ残念だ。やっと心置き無くガールハントが出来ると思っておったのに」と言った。しかしその横顔は、どこかホッとしてる様に見えた。ラムはそれが分かっただけで充分だった。 あたるとラムがいつも通りに学校に向かっていると、突然道路横のゴミバケツがガタガタと動いた。それに気づいたラムが 「ダーリン、このゴミバケツの後ろに何か居るっちゃ...」と言い、それを聞いたあたるはゴミバケツに近づくと 「おい!出てこい!」と叫びながらゴミバケツを蹴飛ばした。すると何と、ゴミバケツの中から人が出て来たではないか。その人物はモゾモゾと動きながら立ち上がると、あたるとラムを見て 「やぁ、あたるさんとラムさんじゃありませんか」とへらへらした笑顔で言った。その出で立ちは、うさぎの全身スーツと言う独特の姿でそれを見たあたるは 「お前は因幡じゃないか」と言い、続けてラムが 「こんな所で何やってるっちゃ?」と聞いた。すると因幡は 「いやぁ、ちょっと落し物をしてしまいまして」と言って頭を掻いた。それを聞いてあたるは 「お前は本当にドジだな」と言うとスタスタと歩き出し 「まぁ、頑張って探すんだな」と言って後ろ向きで手を上げた。ラムはあたるが行くのを見て 「ごめんっちゃね、一緒に探してやりたいけど・・・」と言って、申し訳無さそうにあたるの後を追った。それを見て因幡は 「はぁ、まいったなぁ。早く見つけないとまた怒られちゃうよ」と言いながら周辺を探し始めた。 学校に着くと、すぐにラムの所に面堂・メガネ・パーマ・カクガリ・チビがやってきて、あたるを押し退けると 「ラムさん、やはり帰ってはいなかったんですね!」と面堂が言い、続いてメガネが涙を流しながら 「ラムさん!良く思い留まってくれました!」と言った。するとそれを聞いたラムは、苦笑いを浮かべながら 「みんな、ごめんっちゃ。心配させちゃったっゃね」と言った。するとパーマが 「ラムちゃんが謝る事ないよ!悪いのはあたるなんだから」と言って、あたるに 「おい、あたる!ラムちゃんに謝ったのか?」と言うとあたるは 「は?何で俺が謝らにゃならんのだ」と言うと、面堂達は一斉に 「何だと?」と怒りを露にしたが、それを見てラムが 「まぁまぁ、みんな。ウチもこうして居る訳だし、ダーリンを許してあげて欲しいっちゃ」と言った。ラムの言葉を聞いた5人は 「まぁ、ラムさんがそう言うなら・・・」としぶしぶ引き下がると、あたるは 「そうそう、部外者の君たちは大人しく引っ込んでなさい」と言った。面堂達5人は歯を食いしばって悔しがっていたが、あたるはそれをよそ目にしのぶの所へ行き 「なぁしのぶぅ、さっき道端に因幡が転がってたぞ」と言い、ラムも 「何かを探してるって言ってたっちゃ」と言った。するとしのぶは 「え?因幡くんが?」と言い、ため息をつくと 「また何か落としたのかしら。相変わらずドジね」と言った。それを聞いたラムは 「しのぶ、助けに行かないっちゃ?」と言い、しのぶの顔を覗き込むと、ラムと目が合ったしのぶは 「な、何で私が手伝いに行かなくちゃいけないの?」と言って目を逸らした。それを見てラムは 「ふーん、しのぶと因幡くんはお似合いだと思ったっちゃけどね」と言った。すると2人の会話を聞いていたあたるは 「何を言ってるんだ!しのぶとお似合いなのは俺に決まっとろうが」と言うと、しのぶに抱きつこうとしたが、しのぶは 「誰があんたとお似合いよ!!」と言いながら机であたるを殴った。それを見ていたラムは 「ダーリン!全然懲りてないっちゃね?」と言うと倒れてるあたるの所へ行き、気絶しているあたるの首を前後へと揺さぶった。しのぶは、そんなあたるとラムの様子を見て深いため息をつくと、窓の外を見て (因幡くん、大丈夫かしら)と思った。 その頃因幡は、半ば探し物は諦めて公園のベンチに座り1人愚痴をこぼしていた。 「だいたい、何でいつも僕が運びものをしなくちゃいけないんですか?僕が方向音痴で、すぐに落し物をするのも知ってるのに」と言うと、ハッとなり 「まさかこれは、僕を困らせる為にわざとあんな仕事を任せてるとか?」と言った。そして大きなため息をつき 「でも、もしアレが誰かの手に渡ってしまったら大変だよなぁ」と言って、また落し物を探し始めた。 学校も終わり、しのぶは家に向かって歩きながら (因幡くん、探し物見つかったかしら)と思っていると、道の真ん中に見覚えのあるうさぎの着ぐるみを着た人が倒れていた。しのぶはそれが因幡だと一目見て分かり、すぐに駆け寄ると 「因幡くん?」と声をかけた。するとそのうさぎの着ぐるみは顔を上げ、しのぶを見ると 「あ、しのぶさん」と言うと申し訳無さそうに笑顔を作り 「また、行き倒れちゃいました」と言った。しのぶは呆れた様な顔で 「全く、因幡くんも変わらないわね」と言うと、倒れてる因幡に手をさし伸ばし 「喫茶店でも行こう」と言って、ニコリと笑った。 喫茶店に入り一息つくとしのぶは因幡に聞いた。 「ねぇ、今度は何を落としたの?また鍵?」しのぶの質問に因幡は飲み物をストローで吸い上げながら答えた。 「いやぁ、今回は鍵じゃないんです」因幡の答えに興味津々のしのぶは 「え?じゃ何なの?」と更に聞くと、因幡は言いにくそうにしていたが、しのぶの顔をみると決心したのか話し初めた。 「本当は、人に喋っちゃダメなんですけど・・・しのぶさんならいいか」因幡は、そう言うと笑顔になり話を続けた。 「探しているのは花なんです」それを聞いたしのぶは、因幡の予想外の探し物に戸惑いながら 「花って、あの花?」と取り留めのない質問をした。すると因幡は 「はい」と答え、更にしのぶは 「何で花を探してる事を喋っちゃダメなの?」と当然の疑問を投げかけた。それを聞いて因幡は、小さなため息をついて話しはじめた。 「それが・・・ただの花じゃないんです・・・あれをもし人が見つけてしまったら大変な事に・・・」因幡の言ってる事が良く分からないしのぶは 「大変な事って・・・花でしょ?」と聞いた。しかし因幡は深刻な表情で 「ただの花じゃないんです・・・見た目はただの綺麗な花なんですけど、実はとんでもない力を持った花なんですよ」と言って頭を抱えた。そんな因幡の姿を見てしのぶは 「だったら、わたしも一緒に探してあげるから」と言った。そんなしのぶに因幡は涙目になりながらしのぶの手を取り 「しのぶさん!ありがとうございます!」と言った。そんな因幡にしのぶは微笑みかけると 「それで、その花ってどんな花なの?」と聞き、因幡は答えた。 「見た目は、虹色の綺麗な花です」しのぶは、それを聞くと 「虹色の花なんて・・・もう誰かに拾われてるんじゃないの?」と言った。すると因幡は 「はい・・・朝から探してるんですが全く見つからないので、僕もそんな予感がしてます・・・」と言って肩を落とした。そんな因幡にしのぶは 「でも、ほら。まだそうと決まった訳じゃないし、もし拾った人が居てもそんな目立つ花を持ってれば、目撃者も居るかもしれないじゃない。まずは、落とした近くの人に色々聞いてみましょう?」と言って、立ち上がると、因幡の手を引いて喫茶店を後にした。 第2話に続く