うる星やつら 赤い花が散るとき 第4話 進化 あたるは錯乱坊をフライパンで殴り飛ばした後、因幡の居た公園に戻ろうと歩いている途中、因幡とラムを見つけ声をかけた。 「なんだラム。まだ因幡と一緒に居たのか?」ラムは、突然のあたるの呼びかけに一瞬驚いたが、すぐにあたるの方を向いて笑うと 「あ、ダーリン。何処行ってたっちゃ?」と聞いた。あたるはラムに不自然さを感じながらも 「あぁ、ちょっと因幡が花を落としたって辺りを探しにな」と言った。するとラムは 「あ…見つからなかったっちゃよね…」と言って目を逸らした。それを見てあたるは 「…おい、ラム。お前何か隠してないか?」とラムに聞いた。するとラムはビクンッと体を震わせたが、2人の様子を見ていた因幡が駆け寄り 「あー、あたるさん、実はラムさんは…」と言いかけたが、あたるは 「お前は黙っててくれ、俺はラムに聞いてるんだ」と言って、因幡の言葉を遮った。そしてラムは、あたるの方を向くと目に涙を溜めながら言った。 「実は、因幡くんが落とした花は、ウチが拾ってUFOに持って行ったっちゃ…」あたるはラムの言葉を黙って聞いていた。そしてラムは話を続けた。 「さっき因幡くんから話を聞いたんだけど、どうやらあの花は人の感情をエネルギーに変えて成長するらしいっちゃ」それを聞いたあたるはラムの言葉を遮り 「それなら、さっき俺も一緒に聞いたよな?」と言ったが、ラムは 「違うっちゃ、ウチが聞いたのは今で、ダーリンが来る前だっちゃ」と言った。しかし、ラムの言ってる事が理解出来ないあたるは更に 「お前何言ってんだ?さっき一緒に…」と言いかけたが、ラムはそれを遮り 「違うんだっちゃよ、ダーリン…ウチには、ダーリンと一緒に聞いた記憶が無いんだっちゃ」と言って、涙を流した。ラムの言葉にあたるは困惑しながら因幡の方を向き 「これは一体どう言う事だ?」と聞いた。そして因幡はそれに答えた。 「実は、あの花は人の感情のエネルギーを吸収すると、花びらを1枚落として成長します。そしてエネルギーを吸収すればする程大きく成長し、また成長する為に更に多くのエネルギーを吸収するんです。しかも、あの花は生物で言うフェロモンの様なものを出していて、花の所有者を虜にしてしまうんです。そしてラムさんの所の花の花びらは、既に残り7枚になってしまったらしく、もう手遅れなんです」因幡の話を聞いたあたるは 「手遅れとは、どう言う事だ?それにラムの記憶が消えた理由は何なんだ?」と聞いた。すると因幡は 「まず、ラムさんの記憶についてですが、それは花に感情のエネルギーを吸収された為と思います。そして手遅れと言うのは、もうラムさんから花を引き離す事が出来ないと言う事です」と言った。因幡の説明を聞いたあたるは 「その花の花びらが全て散ったらどうなる?」と聞き、因幡は 「花びらが全て散ると、1つの実がなりそれを食べると願いが叶うと言われてます」と答えた。その時あたるの目がキラリと光り、今度はラムに聞いた。 「ラム、お前の記憶はどの辺から無いんだ?」あたるの質問にラムは、涙を拭いて答えた。 「さっき、公園のベンチに座っていた因幡くんを見つけたあたりだっちゃ」それを聞いてあたるは 「そうすると、だいたい1時間位か」と言い、心の中で (だとすると、後7枚の花びらが散っても差ほど記憶も消えまい。なら実がなるまで育てて、実がなったら俺様の願いを…ムフフフフ)と思った。そんなあたるを見てラムは (ダーリンのあの顔は、絶対にろくでもない事を考えてる顔だっちゃ!)と思った。そう、あたるの顔はだらしない程ニヤけていたのだ。ラムは、そんなあたるに急に怒りが込み上げて来て 「ダーリン!ウチがこんな大変な時にぃー!!一体何を考えてるっちゃーーー!!」と言うと、あたるの手を握り バリバリバリバリバリバリ! 強烈な電撃を喰らわせると猛スピードで空の彼方に消えた。それを見ていた因幡は、一瞬の事で呆然としたがすぐに我に返り 「あ!ラムさーーーん」と見えなくなったラムに叫んだ。そして 「ラムさん、あんな状態で花に近付いたら…」と呟いた。すると、さっきまで黒焦げになっていたあたるがムクリと起き上がり 「花に近付いたらどうなるんだ?」と因幡に聞いた。さっきまで倒れていたあたるに急に声をかけられ、因幡は飛び上がって驚いたがすぐに 「あ、あんな状態のエネルギーを花が吸収してしまったらとんでもない大きさになってしまうかもしれません」と言った。しかしあたるは 「花が大きくなったからって、そんなに騒ぐ事か?」と言った。しかし因幡は 「あたるさんは、事の重大さが分かっていません!」と言った。それを聞いたあたるは 「事の重大さって、大袈裟だなぁ。ちょっと記憶が無くなるだけだろ?ちょうどさっき怒った記憶もなくなっていいんじゃないか?」と言ったが、因幡は 「何言ってるんですか!さっきの怒りのエネルギーは相当なものです。花は大きなエネルギーを吸収すれば、それだけ大きくなります。そうすると成長する為には更に大きなエネルギーが必要になるんですよ!」と言ってあたるに迫った。しかしあたるは 「それは、さっき聞いたよ」と言って、因幡を突き放した。だが因幡は更に詰め寄り 「いいですか?大きなエネルギーが必要と言う事は、感情のエネルギーだけじゃ足らなくなってしまうんです!そして次のエネルギー源として花が吸収するのは記憶なんです。小さいうちは、吸収する感情のエネルギーの元となった出来事の記憶程度ですが、花が大きくなるとそれでは足らなくなり大事な記憶まで吸収してしまうんですよ!」と言った。それを聞いたあたるは流石に事の重大さに気づき 「まて!するとラムは今までの記憶を失うって事か?」と聞いた。すると因幡は、ラムが飛び去った空を見上げ 「今までの記憶…あたるさんとの記憶ですか…」と言うと、再びあたるのほうを向き 「いえ、最悪は生まれてから全ての記憶を失うかも」と言った。それを聞いたあたるは愕然として 「何か…何か方法は無いのか?助ける方法は!」と言って因幡の襟首を掴んだ。しかし因幡は 「すみません…僕も花の事を全て知ってる訳ではないので…」と言った。するとあたるは因幡から手を離し 「なんだよ、それ」と呟いた。そして因幡は更に 「でも……」と喋り出すと同時にあたるは猛スピードで走り去ってしまった。 取り残された因幡は 「せっかちだなぁ、まだ話終わってないのに」と呟いた。 あたるはとにかく家に向かって走った。走りながらあたるは (とにかく今はラムと連絡が取れるジャリテンを探さなきゃならん)と思った。 あたるが家に着くと母親が 「あら、あたる帰ったの?」と声をかけたが、あたるはそんな母の声など聞こえる様子も無く2階に駆け上がり、自分の部屋のドアを開けた。しかしそこにはテンの姿は無く、もちろんラムも居ない。 あたるは 「くそっ!ジャリテンの奴、肝心な時にいやしない」と吐き捨てる様に言い、部屋を出ようとした時あたるの背後から 「なんやお前、帰っとったんか」と声がした。あたるが振り返るとそこにはテンが窓から部屋に入って来たところだった。あたるはすぐにテンの所へ行くと、おもむろにテンのパンツを掴み 「おい!今すぐラムと連絡を取れ!」と言った。いきなりパンツを持って掴みあげられたテンは 「なんや!いきなり」と言ったが、すぐにニヤニヤと笑いながら 「さてはお前、またラムちゃんと喧嘩したんやな?」と言った。しかしあたるは 「いいから早くしろ!」と言ってテンの頭を掴んだ。そんなあたるの迫力にテンは 「な、なんやお前!」と言ってあたるの腕に噛み付いた。しかしあたるはそんなテンを自分の腕から引き離すとテンの顔を両手で掴み 「いいか?ラムを助けたければすぐに連絡を取るんだ!」と言った。テンもあたるの様子に只事ではない事を悟り 「分かったわい!ちょっと待っとれ」と言うと、押し入れからオマル型のスクーターを引っ張り出した。それを見たあたるは 「お前!そんな所にそんな物隠してたのか?」と言って驚いた顔をした。そんなあたるにテンは 「このスクーターなら、ラムちゃんのUFOまでひとっ飛びや」と言ってスクーターにまたがった。するとあたるもスクーターにしがみつき 「よし、UFOまで連れてけ」と言った。それを見たテンは 「アホか!これは1人乗りやぞ!」と言ったが、あたるはテンの言う事など聞かずに 「いいから、はよ行け!」と言った。するとテンは呆れた様に 「落ちても知らんで」と言うとヘルメットを被りシールドを降ろすと 「ほな、行くでー!」と言って、スクーターのスロットルを開けた。そしてテンとあたるを乗せたスクーターは勢い良くあたるの部屋の窓から飛び出した。 一方ラムは、やはりUFOに帰っていた。なるべく花に近付かない様にしながら 「ダーリンったら、ウチの事心配してくれると思ったのに」と、あたるへの愚痴をこぼしていた。そして時より花の方を見ては 「あの花…絶対大きくなってるっちゃ」と言って因幡の言葉を思い出し、不安を募らせた。ラムの心の中は、あたるへの怒りと花への不安でいっぱいだった。ラムは、本能的に感じていた。今居る場所から動いたら花にエネルギーを吸収されてしまうと。そして因幡が言っていた事が本当なら、更に大きくのエネルギーを吸い取られる事を。ラムは、ただじっとその真紅の花を見つめるしかなかった。 ラムのUFOに行こうと、テンのスクーターであたるの部屋を飛び出した2人は、まだUFOには辿り着いていなかった。あたるは堪らず 「おい!もっと急がんか!」と言ったがテンは 「アホ!これでもスロットル全開や!」と言った。実は勢い良く飛び出したのは最初だけで、その後はテンが飛ぶ程度のスピードに落ちてしまったのだ。あたるはスクーターにしがみつきながら 「ちっ、しょせんは子供の乗り物か」と言った。するとそれを聞いたテンは 「そもそも1人乗りなんや!お前がしがみついとるからスピード出んのやないかい」と言ったが、あたるは全く聞き入れず 「喋ってる暇が有ったら、少しでも速くなる様に努せい」と言った。それを聞いたテンは 「ほんまムカつくやつやわぁ」と言ったが、ニヤと笑うと 「そない言うなら、速くしてやるわい。お前の為にこれだけは使いたく無かったんやけどな」と言ったが、あたるは 「ごちゃごちゃ言っとらんと、何か有るならはよせんか!」と言った。しかし心の中では (もう、腕が限界なんじゃ)と思っていた。あたるの言葉にテンは 「全く、かわいく無いやっちゃなぁ」と言いながらも、何かのボタンを押した。するとスクーターの後方から、何やら噴射ノズルの様な物が出てきた。そしてテンは 「ほな、しっかり捕まっとれよ!落ちても知らんからなぁ」と言うと、別のボタンを押した。 テンがボタンを押すと キューーン と言う金属音と共に、突然噴射ノズルから物凄い煙を出しながらスクーターは急加速した。あたるは、危うく振り落とされそうになったが、何とかしがみつき難を逃れた。そしてスクーターはものの数十秒でラムのUFOに到着した。 UFOに着くと、テンは入口の横のプレートの様な物に手を当てた。すると入口が開きあたるとテンはスクーターごと入口に入った。UFOの中に入るとあたるはすぐに 「ラム!」と叫んだ。中に居たラムは突然聞こえたあたるの声に驚き 「え?ダーリン?」と言って入口の方を見た。すると入口の方からあたるが入って来るのを見て 「え?何でダーリンが?一体どうやって?」と疑問を投げかけた。するとあたるの後ろからテンが 「わいがスクーターで連れてきたんやでラムちゃん」と言った。それを聞いてラムは 「あ、そうだったっちゃ」と納得しつつも、更に 「でも、何でダーリンがここへ?」とあたるに聞いたが、あたるはそれには答えずテーブルの上に置いてある花の方へ向かった。それを見たラムは 「あ!ダメだっちゃダーリン!」と言ったがあたるは聞き入れず、花の所へ行くと 「ほう、これが例の花か」と言って真紅の花をまじまじと見た。するとそれを見ていたラムは 「え?大丈夫なんだっちゃ?」と言うと花に近づこうとしたが、あたるが 「ラム!動くな!」と叫んだので、ラムは慌てて立ち止まった。花を見ていたあたるは 「やはりな」と言った。 事の成り行きが全く分からないテンは、あたるの所へ行くと 「なぁ、お前ラムちゃんを助けるとか言ってUFOまで来て、そんな花見とるけど、何がしたいんや?」と聞いたが、あたるはテンの言葉には耳を傾けず、花を見ながら 「おいラム。少し近づいてくれ」と言った。ラムは 「え?でも」と言ったが、あたるは 「いいから少し近づけ」と言った。ラムはあたるの言う通りに1歩花に近づくと、あたるが再び 「止まれ!」と言ったので、ラムは立ち止まった。そして花を見ていたあたるは 「やっぱりそうだ…この花はラム、お前のエネルギーしか吸収せん」と言った。そして、続けて 「お前が近づくと、エネルギーを吸収し始めるみたいだな。その位置ならまだ吸収はされないが、花がお前の接近を感知して微妙に反応する」と言った。そしてあたるは 「これ以上花をラムに近づけなけれは問題無さそうだな」と言った。そんなあたるの行動を見ていたラムは 「ダーリン…もしかしてウチを助けに来てくれたっちゃ?」と聞いた。するとテンが 「あのなぁラムちゃん、実はこいつがな…」と何かを言いかけた所であたるはテンを鷲掴みにすると入口から外に放り出した。そしてラムの方を向くと 「ラム、勘違いするな。俺はお前に変な願い事されたら敵わんから来たんだ」と言った。するとラムは怪訝な表情で 「変な願い事ってなんだっちゃ?」とあたるに聞いた。するとあたるは 「例えば、俺の浮気症が治りまます様にとか、一生お前だけを愛する様にとか、他にもいくつも考えられる」と言った。それを聞いたラムは、腕を組み引きつった笑顔で 「そう、ダーリンの事がよ〜く分かったっちゃ」と言うとバチバチと放電を始めた。それを見たあたるは 「ま、待て!こんな所で電撃を使ったら!」と言ったがラムは 「心配無用だっちゃ!ここはウチのUFOだっちゃーーーー!!」と叫び、あたるに向かって電撃を放った。あたるは電撃の直撃を喰らい床に倒れプスプスと煙を上げた。 再び入って来て、そんな2人の様子を見ていたテンは 「ほんまにアホやなぁ、素直に言えばええのに」と呟くと呆れた顔をした。そして花の方を見ると (あの花がなんや言うんや?)と思っていると、突然花がムクムクと大きくなって行くのを見て、テンは思わず大声をあげた。 「うわわわわわ!は、花が…」テンの声にラムが花を見ると、何と花が2倍以上の大きさになっていた。ラムは 「え?何でだっちゃ?ウチ動いてないっちゃよ?」と言った時、また花は真紅の花びらを1枚落とした。そして、今度は以前とは違い落ちた花びらが自然に消滅して行ったのだ。それを見ていたラムは、頭の中から何かが抜けて行く感覚を覚えた。そして、ふと我に返り周りを見渡すと床にあたるが倒れて居るのを見て 「あ!ダーリン!」と叫ぶとあたるの元に駆け寄り抱き起こした。そして 「一体誰がダーリンにこんな事を…」と言った。そして心の中で (でも、何でダーリンがここに居るっちゃ?)と思った。 つづく