うる星やつら 赤い花が散るとき 第5話 封印 ラムがあたるを抱き起こすのを見ていたテンはラムの近くに行くと 「ラムちゃん、どないしたん?このアホはラムちゃんの電撃でのびてるんやないか」と言ってラムの顔を覗き込んだ。しかしラムは 「テンちゃんこそ何言ってるっちゃ?何でウチがダーリンに電撃を?」と言って怪訝な顔をした。それを聞いたテンは 「ラ、ラムちゃん、まさか覚えてへんのんか?」と言って不安そうな顔をした。するとその時、ラムの腕の中であたるが目を覚まし 「ん?ラム…俺は何を?」と言うと回りを見渡し、勢い良く起き上がるとラムの顔をじっと見つめた。ラムは訳が分からないと言った表情で、キョトンとしてる。あたるはすぐに花の方を見た。すると花は一回り大きくなり、更に花びらの数も6枚に減っていた。あたるは花の元へ行くと 「くそっ、成長しちまったか」と言った。ラムはあたるの行動が全く分からず 「ダーリン、何言ってるっちゃ?」と言って、あたるの元に行くとテーブルの上の花を見て 「綺麗な花だっちゃねぇ。これダーリンが持って来てくれたっちゃ?」といった。そんなラムの言葉にあたるは 「お、お前…この花の事覚えとらんのか?」と動揺を隠せずに聞くと、ラムは 「この花がどうしたっちゃ?ダーリンが持って来てくれたんじゃないのけ?」と逆にあたるに聞いた。あたるは愕然として次の言葉が出なかった。しかし、心の中では (因幡の言う通りだった…今のラムは、花を拾ってからの記憶がないんだろう。だとすると、一体いつ頃のラムなんだ?)と思い、どうするべきか悩んでいると、ラムとあたるの会話を聞いていたテンが 「なぁ、わいにも分かる様に説明してんかぁ」と言って近づいて来た。しかしあたるは 「説明は後だ。まずは対策を練らねば」と言うと、ラムに言った。 「なぁラム。ちょっと俺をサクラさんの所に連れて行ってくれんか?」あたるの言葉にラムは、ちょっと不機嫌そうに 「サクラに何の用だっちゃ?まさかデートに誘うとか言うんじゃないっよね?」と言ったが、あたるは 「アホ!お前も一緒に行くんじゃ!」と言って、大きくなった花を抱えた。ラムは理由が飲み込めないまま、あたるの言う通りにサクラの所に向かった。 ラムは、あたるの抱えている花がどうしても気になり我慢出来ずに聞いた。 「ねぇ、ダーリンの持ってる花は一体何なんだっちゃ?妙に気になるんだっちゃよね」そんなラムの質問に、あたるは 「今説明してる暇は無い。とにかく急いでくれ」と答えた。ラムは、渋々聴くのを諦めてサクラの家に急いだ。 サクラの家に着いた頃には、すっかり日は落ちて周囲は暗闇に包まれていた。 あたるはすぐに玄関の所へ行くと、玄関を激しく叩き 「サクラさーん!」と叫んだ。すると家の中から 「何じゃ騒々しい。今開けるから少し待っとれ」と声が聞こえ、玄関の引き戸が ガラガラガラ と音を立てて開き、サクラが姿を現した。サクラは、あたるが抱えている花を見ると何も言わずに家の中に入り 「着いてくるがよい」と言って、奥に歩き出した。あたるとラムも慌ててサクラの後を追って家の中に入った。 あたるとラムが通された部屋は、何も無い20畳ほどの部屋で、サクラはその部屋の中心に座ると 「そこに座るがよい」と言って、サクラの目の前に有る座布団に目配せした。あたるとラムが言われるがままに座布団に座ると、部屋の奥の襖が開き 「お?諸星あたるではないか」と言いながら錯乱坊が姿を現した。そして錯乱坊はあたるが抱えている花を見て 「なるほどのう」と言いながらサクラの横に座った。錯乱坊の登場にあたるは (何でチェリーまでおるんだ)と思った。そんなあたるの気持ちが分かったのか錯乱坊は 「そんな嫌な顔する事もなかろう。妙な気配を感じて来たんじゃ、助けてやろうではないか」と言ったが、あたるは 「嫌な顔にもなろうが!お前が関わると、ろくな事にならん!」と言った。するとサクラが 「まぁ、落ち着け。こう見えても叔父上の霊力は本物だ」と言って錯乱坊を横目で見て、更に 「して、お主が尋ねて来たのは、その花の事であろう?」とあたるに聞いた。するとあたるは花とラムの事について事細かく説明した。 あたるの説明を聞いていたラムは次第に暗い表情になり、あたるの話が終わると言った。 「そんな…じゃウチはこのまま記憶が無くなって行くのを待つだけだっちゃ?」そんなラムの言葉にあたるは 「だから、こうしてサクラさんに相談に来てるんだよ」と言うと、サクラに 「それでサクラさん、何とかならないか?」と聞いた。すると話を聞いていた錯乱坊が 「ふむ。これは物の怪の類いではないのう」と言い、サクラも 「そうじゃな…この花からは妙な気配と力は感じるが、邪悪さは感じん。霊や物の怪ではない以上、お祓いする事は出来んのう」と言った。それを聞いてあたるは 「やっぱりダメか…」と言ったが、サクラは 「祓う事は出来んが、方法が無い訳ではない」と言い、花を手に取った。あたるがそんなサクラに 「何か方法が有るのか?」と聞くと、サクラは 「祓えんが、封印する事はできる」と言った。すると今度はラムが 「封印…って事は、もうこれ以上ウチのエネルギーは吸収されないって事だっちゃ?」と聞いた。しかし錯乱坊が 「絶対と言う訳ではない。封印とは対象の力を結界で封じ込める事じゃ。対象の力が強かったり、長い年月のうちには封印も破れるやもしれん」と言ったが、ラムは 「でも、封印してすぐに破れる訳じゃないっちゃよね?」と更に聞いた。すると錯乱坊は 「まぁ、すぐに封印が破れる様な事は無いと思うがの」と言って花に近づき 「どれ」と言って自分より大きくなった花をまじまじと見つめた。それを見たあたるは (花も可哀想だな、あんなにチェリーに見つめられたら。人間なら気絶しとる)と思った。 サクラと錯乱坊は、花の周りに結界を張る為に4箇所に柱を立て、柱同士を注連縄(しめなわ)で結び結界となる空間を作り、結界を張る為に印を結び最後に 「はーーーーー!!」と気を込めた。 結界を張る儀式は終わり、サクラはあたるとラムの方を向くと 「これで、恐らくは大丈夫であろう。この花はここで朽ち果てるまで私が見守ろう」と言った。ラムは、サクラの手を握ると 「サクラ!ありがとうだっちゃ!」と言った。しかし、次の瞬間 バリバリバリバリ! 突然ラムは電気を放電した。もちろん手を握られていたサクラは感電したが、普段あたるに浴びせている様な電撃ほど強いものでは無かった為、痺れた程度だった。しかし電撃など受けた事の無いサクラは 「な、何をするのじゃ!」とラムの手を振り払った。ラムはサクラに手を振り払われると、自分の手を見て愕然とした。そんなラムの様子を見ていたあてるは 「おいラム、どうしたんだ?」とラムに聞いた。するとラムは 「おかしいっちゃ…ウチの意志とは関係なく放電するなんて…」と言った。それを聞いたあたるが 「そうなのか?」と言うと、ラムはおもむろにあたるの手を握った。すると次の瞬間 バリバリバリバリバリバリバリバリ! さっきより激しい電撃があたるの体に流れた。あたるはたまらず 「うぎゃゃゃーーーー!」と叫び声をあげた。それを見てラムは 「やっぱりだっちゃ…勝手に放電するっちゃ」と言った。 ラムにいきなり電撃を喰らわされたあたるは 「おい!いきなりどう言うつもりじゃ!」とラムに怒鳴ったが、ラムは悪びれる様子もなく 「ゴメンっちゃ。さっきのサクラに放電したのが偶然かどうか確かめたかったっちゃ」と言った。しかしあたるは 「だからと言って、俺に電撃喰らわせる事無いだろ!」と更に怒鳴った。そんなあたるにラムは 「ダーリン本当にゴメンね…」と呟き、その後は黙り込んでしまった。するとあたるは (ちょっと言いすぎたか?)と思い 「それでどうなんだ?電撃はコントロール出来そうか?」と改めてラムに聞いた。しかしラムは、小さく首を振り 「分からないっちゃ…」と一言だけ言った。そんな二人を見ていたサクラは 「これは、もしや…」と呟き、続いて錯乱坊も 「じゃな」と言った。それを聞いてラムは 「何だっちゃ?分かるなら教えて欲しいっちゃ!」とサクラに詰め寄った。するとサクラは言いにくそうに 「恐らくじゃが、花を封印した事と関係あるじゃろ」と言った。サクラの態度を見たあたるは 「ま、まさか…失敗したのか?」と言い、それを聞いたラムも狼狽えながら 「え?そうなんだっちゃ?失敗したのけ?サクラ?」とサクラに聞くと、サクラは 「たわけ!わたしが失敗などするはず無かろう!」と叫んだ。そして続けて 「これは推測に過ぎんが、恐らくラムと花の間に何かしらの繋がりが有って、花を封印した事によってラムの能力が暴走を始めたとしか思えん」と言った。すると今度はあたるが 「すると、悪くなる事は有っても良くなる事は無いと?」と聞くと、サクラは 「多分な」と答え、それを聞いたラムは 「そんな…それじゃ、ウチはこれからずっとダーリンに触る事も出来ないっちゃ?」と言ったが、そこに錯乱坊が口を挟んだ。 「なぁに、心配なかろう。あたるが我慢すればええ事じゃて」錯乱坊はそう言うと、ニヤニヤと笑いながらあたるの方を見た。あたるは錯乱坊の顔を見て無性に腹が立ち 「ふざけるな!毎日触るだけで電撃を浴びる方の身にもなってみろ!」と言い、錯乱坊を足蹴にした。そして 「そんなに大丈夫だと思うなら、お前が電撃を浴びてみるんだな!」と言いながら激しく錯乱坊を踏みつけた。するとあたるのあまりの激しさに埃が舞い上がり、あたるの足元も見えない程になった。その時、あたるの背後から 「最近の若者の間では、地面を踏みつけるのが流行っとるのかのう?」と声が聞こえ、あたるが恐る恐る振り返ると、錯乱坊が座布団に座りながらお茶を啜っていた。それを見てあたるは、大きくバランスを崩し倒れそうになったが、何とか体勢を立て直し、錯乱坊に向かって 「この妖怪坊主がぁぁぁ」と言って、再び錯乱坊の頭の上に足を乗せ、力いっはい踏みつけた。すると今度は畳にめり込み、錯乱坊は畳から首だけを出した状態になった。そしてあたるに向かって 「これこれ、聖職者は粗末に扱ってはいかんぞ」と言ったが、あたるは錯乱坊を無視してサクラに 「結局、どうすればいいんだ?」と聞いたが、サクラは 「それは、私にも分からん。ただ1つ言える事は、こんな方法で封印しておいても、意味が無いかもしれんと言う事じゃ」と言った。 結局、花の封印はそのままにサクラの家を出たあたるとラムは、お互いに無言で歩き続けた。そんな空気を嫌ったのか、突然ラムが 「でも、良かったのかもしれないっちゃ」と呟いた。それを聞いたあたるは 「良かった?」と怪訝な表情でラムに聞き返すと、ラムは 「だって、これでウチはダーリンの事を忘れないで居られるっちゃ」と笑顔で答えた。そんなラムの笑顔にあたるは (無理しやがって、本当は不安で仕方ないくせに)と思ったが、何も言わなかった。 その時上空から 「ラムちゃ〜ん」と言う声と共にテンが近付いて来た。ラムは 「あ、テンちゃん」と言うと近くまで来たテンを抱き抱えた。するとテンは 「ラムちゃん酷いやないかぁ、ワイを置いてくなんて」と言ったが、今度はあたるが 「お前なんぞ、どうせサクラさんが目当てだろうが、邪魔なだけじゃわい」と言ったが、そこをラムが 「まぁ、二人とも」と言って間に入った。そしてあたるの方を向くと 「ところでダーリン、ダーリンがウチのUFOに居たのは、ウチをあの花から助けに来てくれたっちゃ?」と目を輝かせて聞いた。しかしあたるは 「勘違いするなラム。俺はお前のくだらん願い事を阻止する為に行ったんだ」と言った。それを聞いたラムは、眉をヒクヒクと痙攣させながら 「くだらない願い事って何だっちゃ?」と聞き、それにあたるは 「決まっておろうが、俺の浮気症が治ります様にとか、俺がお前以外を愛さない様にとか、他にもいくつも有るが、俺はそんなお前のくだらない願い事をさせない為に行ったんだ」と答えた。ラムは腕を組み、聞いていたが次の瞬間 「ダーリンの事が、良〜くわかったっちや」と言うと、両手を組みその手を上に上げ 「ダーリンがそんなだからウチは、あんな花に記憶を奪われっちゃーーー!!」と叫ぶと、あたるに向かって電撃を放った。 バリバリバリバリバリバリバリバリ!!! 電撃はあたるに直撃した。それを見ていたテンは 「ほんま、進歩の無いやっちゃで」といった。しかし、電撃を受けたあたるは最初こそ 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」と叫んだが、電撃を浴びてる自分の手を見て不思議そうに 「おいラム、それで全力か?」と聞いた。ラムは電撃が全く効いてないあたるを見て 「え?なんでだっちゃ?」と言うと、放電をやめて自分の手を見て言った。 「…弱くなってるっちゃ?」明らかに弱くなってるラムの電撃を受けたあたるは 「やっぱりサクラさんが言った様に花を封印したからなのか?」と言ったが次の瞬間 (待てよ、もしこのままラムの電撃が弱くなったら、俺は心置き無くガールハントが出来るではないか!)と思い、一際嬉しそうな顔をした。それを見たラムは 「ダーリン!その顔!まさか、ウチの電撃が弱くなったから、心置き無くガールハントが出来るなんて思ってないっちゃよね?」とあたるに突っ込んだ。するとあたるは図星を突かれ、一瞬ドキッとしたがすぐに 「何言ってるんだラム。お前がこんなに大変な時に、そんな事考える訳ないだろう?」と言って、更に 「ラム、心配するな。俺が必ず何とかしてやる」と言った。しかし心の中では (こんなチャンス二度と無いかもしれん。絶対に逃してなるものか!ニャハハハハ)と思っていた。そんなあたるにラムは 「心無しか、言ってる事と表情が一致しない気がするっちゃ」と言ったが 「まぁ、いいっちゃ。最後はいつもダーリンはウチを助けてくれるっちゃ。ねぇ、ダーリン」と言って、あたるに微笑んだ。そんなラムの微笑みを見て、あたるは何とも言えない罪悪感の様な物を感じた。 あたるとラムは、その後あたるの家に帰り、その夜は何事も無く過ぎいつもと変わらない朝が訪れた。 あたるとラムが、いつも通りに朝食を取り学校へ行く途中にそれは起こった。突然ラムが立ち止まったのだ。そんなラムにあたるは 「ん?どうした?と声をかけたが、ラムは1点を見つめ全く反応しない。あたるは更に 「おい?らむ!」と言って、ラムの腕を掴んだ。しかしラムは全く動こうとしない。まるでマネキンの様に固まってしまった様だった。焦ったあたるはラムの耳元で 「おい!聞こえてるか?」と叫んだ。しかしラムには聞こえていないらしく全く反応を示さない。やがてラムは、学校とは全く違う方向に歩き始めた。あたるはラムの後を付いて行きながら (何処へ行くんだ?)と思ったが、すぐにラムが向かっている場所が分かった。ラムは、あたるの思っていた通りの場所に向かっていた。そう、サクラの家である。そしてラムは、サクラの家の玄関の前で立ち止まった。その時あたるは、改めて因幡の言った事を思い出した。 『もう、ラムさんから花を引き離す事が出来ないと言う事です』 そしてあたるは思った。 (因幡が言っていたのは、こう言う事か)その時、ラムが我に返り 「え?ウチ何でこんな所に?」と言うと周りを見渡して、あたるが後ろに居るのに気づくとあたるに 「ダーリン、ウチ……」と不安そうに言った。 つづく