キミと過ごした日々『第2話』出撃 (Page 2)
Page: 01 02 03

その返答をしてくれる者はおらず、ただセミの鳴き声が病室内に響きわたっていただけだった。

「!そうだ、ブレスレット………」

戦闘中に壊れたのを思い出して右手を頭の上に掲げる。

そこには確かに壊れたはずのブレスレットが存在していた。

「よ、良かったぁ。……………けど、これがあるってことはアレは夢じゃなかったわけだ」

プシュー

突然、扉が開いた。

「ん?」

扉が開いた先には綺麗な黒髪を肩まで伸ばし、あたると同い年に見える少女が立っていた。

「こんにちは、諸星あたる君」

妙に馴れ馴れしいなぁ、この子

「あっ、あなたにとっては“はじめまして”か!あなたの先の戦闘を見たもんだからつい………ごめんなさいね」

顔に出ていたのだろうか、それとも彼女が鋭いのだろうか。キッパリと言い当てられてしまってあたるは動揺する。

「いや、別に、謝らんでも………」

「ふふ、私はファーストの三宅しのぶ。しのぶで良いわよ、あたる君」

「ファースト?」

「そっ、『最初の適格者』っていう意味よ。だからあなたはサードね。同じ適格者同士、仲良くしましょ♪」

「ああ、あの時助けてくれたのはキミだったわけだ!サンキューな!」

「ま、まぁ、良いってことよ………それじゃ、私はこれから訓練だから…………またね」

心なしか、僅かに頬が赤いしのぶはそう言ってあたるから離れる。最後にバイバイと手を振ってしのぶは病室を出た。




「笑顔、キレイなんだ………」

閉じられた扉に寄りかかるしのぶの呟きは誰もいない廊下に響いた。








鬼星発令所

発令所では鬼星スタッフが先日の対使徒戦のデータを整理している。か、一人だけパソコンの前に座らずにただ立っている人物がいる。

「なぁサクラ、ちっとは仕事に追われているあたい達の手伝いでも………とか思わねーのか?」

「私は作戦部長じゃ。頭は使えるがパソコンは使えん」

がちゃ

「あたる君の意識が戻ったようです」

スタッフの一人が病院からの電話をサクラに報告する。

「容体は?」

「はい。若干記憶に混乱があるもようです」

「まさか、精神汚染か?!」

「いえ、その心配はありません」

「そ、そうか」

サクラは心底安心した表情を見せる。と、何か思い出したかのように頭を忙しく動かした。

そういえば…………

「……………お雪、司令がおらねぞ?」

「司令ならあたる君の病室へ行ったわ」

そう話しながらもお雪が操作するパソコンのモニターはその異常なスピードを落とさない。

「げ!あの顔を見たらさらに頭が混乱するではないか!?」

プシュー

サクラは直ぐさま発令所を出た。

「へぇ、サクラのヤツ諸星を可愛がってるじゃねーか」

サクラの姿を見届けた後、弁天が言う。

「息子ができた気分になっているのね」

お雪はパソコンの操作を止めてコーヒーを飲んだ。

「だけど、私達はあの子達に戦争をやらせないといけないなんて、勝手な大人よね」

「ああ」

弁天は苦いものでも食べたかのように顔をしかめた。








病室

プシュー

「諸星、無事か?!」

サクラのこの第一声は病室に響く予定だったが、そうもいかなかった。

「だから!オレは知らんと言うとろーが!!」

「なんでや!?なんで知らんふりするんや!」

「ふりじゃなくて本当に知らんのだ」

あたるはデーモンに襟を掴まられていた。デーモンは危害を加えるつもりはないかもしれないが、何しろ鬼だ。はたから見れば襲っているように見える。

「司令、一体どうなさったのです」

「どうもこうも、婿どのはわての娘のことは知らん言うんや。せやかて、娘はもう日本に向こうとるし…………」

デーモンはあたるを放した。

「えー、あー、司令?司令はいつの話をしてるんですか?」

サクラの乱入により冷静を取り戻したあたる。

「ん〜、かれこれ8年前のことや」

「オレ、8年前のあの母の命日以前の記憶はないんです。だから…………」

「んなアホな!わしんところにはそんな報告書は来とらんで〜」

ジロリとサクラに視線を送る。

「え、いや、その〜………諸星、その情報は他に漏れぬように何か細工でもしたのではないか?」

サクラは冷汗をかきながらも、原因を突きとめようと懸命に頭を働かせた。

「細工ってわけでも………ただ誰にも言わなかった」

「(そら見ろ、私のせいではないではないか)……だが、その異変には気づいておったのだろう?何故誰にも相談しなかったのだ?」

「誰もオレに相談して良いって言わなかったから…………。それに、最低限のことは覚えてたし」

「まぁ、そげな理由やったらしゃーないな。だがな婿どの、お前が忘れてしもうてもお前と過ごした日々を忘れきれへん人もおる。そのことは頭入れとき」

そう言い残してデーモンは病室を出た。

「…………さて、おぬしは今日で退院できるそうじゃ。どうする?」

「どうって、普通に電車で帰りますよ」

「は?」

目が点になる。


Page 1 Page 3
戻る
Page: 01 02 03