『熱』 (Page 2)
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ラムの熱は、まだだいぶあるようだった。
俺はラムのことを母さんに頼んで、一人で学校へ行くことにした。
行く時の、ラムの寂しそうな目に胸が痛んだが、俺がいたところで結局何もしてやれないのだ。
それならかえっていない方が、ラムもゆっくり休めていいだろうと思った。
登校途中、女子高生達のまぶしい太ももが目に入っても、それを追いかける気にはなれなかった。
ラムが寝込んでるスキに、俺が女の子を追いかけるのは、フェアじゃない。
ゲームというものは、ルールを守らなければ面白くないものだ。
つくづく、損な性分だ。
学校では、周り中に「ラムの具合はどうだ」と聞かれた。
俺が「たいしたことない」というと、「冷たい」とか、「よく一人で学校来れるな」とか、
「お前のせいだ」とも言われた。
そんなこと人に言われなくても、俺が一番よくわかってる。
放課後。
見舞いに来るという男子生徒どもを丁重に断って、俺は学校を出た。
家に帰る途中、コンビニでアイスを買った。
熱がある時は、冷たいものが食べたいだろうと思ったから。
「ただいまー」
昨日のように奥に声だけ掛けて、俺はその足で自分の部屋へ向かった。
「あっ、ダーリン。お帰り」
ラムは布団の上に起き上がっていて、今朝に比べるとずいぶん具合がいいようだった。
「お、元気そうじゃん」
そう言って、布団の横に座り込み、ラムの額に手をあてた。
昨日のような熱さはもうない。
「うん。今朝ダーリンが学校に行った後、テンちゃんが戻ってきたっちゃ。薬を飲んだら、もうすっかり良くなったっちゃよ」
そのまま布団から出ようとするラムを、あわてて押しとどめた。
「アホ。まだ完全に直ったわけじゃないんだから。今日はこのまま寝とれ!」
「うん・・・」
「ホレ」
俺は、買ってきたアイスを差し出した。
「ダーリン、これは・・・?」
「いや、冷たいもんが食べたいどろうと思ってさ。ところでジャリテンは?」
「UFOで寝てるっちゃ」
「よしっ、チャンスだ!二つしかないからな。今のうちに食っちまおう。ジャリテンには内緒だぞ!」
「もう、ダーリンってば」
そう言いながらも、ラムはクスクス笑っている。
しばらく二人で、黙ってアイスを食べていた。
やがてラムが口を開いた。
「ダーリン・・・昨日の晩、ずっと側にいてくれたっちゃ?」
そう言って俺を見つめるラムの頬が少し赤いのは、熱のせいじゃない。
「何のことだよ?」
とりあえずとぼけてみるけど、ラムはお見通しだという風に笑った。
「やっぱ、気が付いてたのかよ?」
「ううん、そうじゃないんだけど・・・うち、昨日の夜すっごく苦しくて、もうどうにかなっちゃうんじゃないかと思った時、
突然、側にダーリンの存在を感じたっちゃ。やさしい手の感触も・・・。 そしたら、すごく楽になったっちゃ」
「ありがと、ダーリン」
そう言って微笑む姿があまりに眩しくて、思わず顔を背けた。
なんだかこいつの元気な笑顔を見たのが、えらく久しぶりのような気がした。
やっぱ、ラムこうじゃないと調子が出ない。
でもその後の言葉で、俺の心は急降下した。
「でもダーリン、やさしかったっちゃね〜。これなら時々病気になるのも悪くないっちゃ〜。
これから、ダーリンに甘えたくなったら、病気になるといいっちゃね。
そしたら普段、冷たくされてる分いっぱい甘えて、いっぱいわがまま言って、いっぱいやさしくしてもらうっちゃ〜」
「・・・勘弁して下さい・・・」
俺は心の中で、さっきの言葉を撤回した。
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