Topic 238:降順
あなたの中のハッピーエンド
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No. 238-11 (2012/05/27 18:44:04)
Name :コリエル
Title:The first day -ランの心-
(この投稿は三部作の三作目にあたります。No.238-9、No.238-10を先にお読み頂くことを、お勧めします)
「ランちゃん、許してやって。あの子、まだ誰にも会いたくないって・・・。ご免なさいね。何度も足を運んでもらって」
「そうですか・・・。おばさん、すみませんでした。また来ます」今日も会えずじまいだった。ランは肩を落とし、幾度も振り返りながらラムの家を後にする。
「よう! ラン。ラムの奴に会えたのか?。」
「弁天、お雪ちゃん・・・。ううん、誰にも会いたくないって・・・」
「やっぱりなぁ。あたいやお雪も、門前払いだからな」「こまったものね。ラムったら」
「まったく、ラムがこんな面倒くさい女とは思わなかったぜ」「そんなこと言っちゃ可愛そうよ。弁天もランも、ここは一旦出直したらどうかしら」
「そうだな。おい、ラン。一緒にどうするか考えようぜ、茶でも飲みながらよ」
「・・・ご免なさい。あたし用があるから・・・」ランはそう言い残すとトボトボと歩き出した。「ん?なんでぇ、あいつ」弁天とお雪は怪訝そうに顔を見合わせた。

「なんや、ラム。今夜も、星を見とるんか。」「・・・うん・・・」「おまえ、まだムコどののこと、忘れられんのと違うか?。意地はらんと地球に戻ったらどないや」
「なっ、何いってるっちゃ!。もう、ダーリ・・・あんな奴のことなんか忘れたっちゃ」「そおかぁ。そんならええけど。遅くまで起きとらんと早よ、やすみや」
ひとりになると、静けさが胸に突き刺さる。深いため息のあとでラムはそっと部屋の明かりを消した。それは、寝入ったふりをするためではない。胸の内か溢れ出る
感情の雫を、自分自身に見せたくないからだ。暗闇の垂れ込める部屋で、ラムは空の彼方の見えない星を、いつまでもいつまでも眺め続けていた。
小一時間ほど経ったころ、開け放たれた窓の一画を小さな光が横切った。光の航跡は裏手にある雑木林に、音も無く舞い降りる。闇がふたたび辺りを支配した。
数分の後、雑木林に隣接する倉庫の窓に、明かりがついて直ぐに消えた。ことの一部始終を見ていたラムは、急いで倉庫のそばまで飛んで行く。
すると、今まさに倉庫の裏口から怪しい人影が、何か大きな塊を持ち出そうとしている所だった。
「だれだっちゃ!。そこにいるのは?」ラムが指先に電撃の灯火(ともしび)を点ける。と、同時にラムの瞳で凍り付いた。
「ラ、ランちゃん・・・。一体なにを!?・・・」ラムが目にしたのは、黒ずくめの衣装を着たランが記憶喪失装置を盗み出そうとしている姿だった。
半泣きのランがラムを見つめる。その顔が思い詰めたような表情に変わり、次の瞬間、目のつり上がった凶悪な形相に変貌した。
「何をやと?。ふん、知れたこと。こいつを地球に持っていってダーリンの記憶を元にもどすんじゃい!」
それを聞いて、ラムの表情が幾分か和らいだ。「ランちゃん。気持ちは嬉しいけど、ダーリンの記憶を戻しても同じ事の繰り返しだっちゃ。うちらはもう・・・」
「アホ!。誰がお前のためや言うた。これはな、わしとレイさんのためや。ダーリンと縁が切れたら、お前はレイさんに色目使うに決まっとるからのう」
「ランちゃん・・・」ラムの目に悔し涙が滲む。「ひどいっちゃ!。うちがそんなこと・・・。ランちゃんは、うちの気持ちをわかってくれてると思ってたのに。
・・・ランちゃんなんか・・・ランちゃんなんか、もう・・・絶交だっちゃ!」
ラムの発した最後の二文字がランの顔を曇らせる。が、直ぐに語気を強め「じょ、上等やんけ。その方がわしも清々するわ。これで、お前は友達でも何でもない
さかいな、わしを勝手にやらしてもらうで!」ランが踵を返し、記憶喪失装置を運び始める。とその時、バイクに股がった弁天がランの前に立ちはだかった。
「様子がおかしいんで後をつけてみりゃ、こんなことか。ラン。もう、その辺で止めにしときな」ランが慌てて向きを変えるが、その行く手をお雪が阻む。
「止めるんやない。わしは・・・、わしはこれを持って地球に行かなあかんのや!」
「止めはしねえよ。ラン。けどなぁ、下手なお芝居は、しまいにしたらどうなんだ」
お芝居?ラムが弁天の言に反応した。それに気づいてランが慌てて言葉を割り込ませる。「なに分けわからんこと言うてんねん。これはな、わしとレイさんの・・・」
「ラン!!」弁天が大音声で一喝した。すくみ上がったランに弁天が歩み寄る。『鉄拳制裁』みながそう思った刹那。弁天がランを優しく抱きすくめた。
弁天はランを抱いたまま、ラムに向き直った。「ラム。良く聞きな!。こいつはな、自分を悪者にして、お前と諸星を引き合わせる気でいるんだ」
「嘘や!嘘やで!ラム。わしは・・・わしは・・・」涙目で声を張り上げるランの髪を、弁天が愛おしむように梳(くしけず)る。
「無理するなって、ラン。お前がラムを大好きなのは、みんな知ってる」その言葉に張りつめていたの気持ちが緩んだのか、ランは弁天の胸で声を上げて泣き出した。
「見ての通りだ、ラム。だからなぁ、ランと絶交するってぇのは、取り消してやってくんねえかな」
「ランちゃん」弁天の胸で泣きじゃくるランの背中を、小鳥を慈しむようにラムが抱きしめる。「ごめんちゃ。ランちゃんは、うちの一番大切な友達だっちゃ」
夜空を見上げた弁天が呟く「ああ、何だか悔しいぜ。ラムの一番の親友は、あたいだと思ってたのに。どうやら違うようだ」その目から涙がこぼれそうになっている。

「よかったわねえ。やっと四人で顔をそろえることが出来て。ところでねえ、ラム。ランの言う様にもう一度、諸星さんと会ってみてはどうかしら」
「お雪ちゃん・・・。それは・・・やっぱりできないっちゃ。うちとダーリンは・・・もう終わってるんだっちゃ」
「さっぱり終わってねえから、こうやって雁首そろえてるんじゃねえか」弁天がチャチャを入れる。
「ラム。私たち諸星さんを連れて来て、あなたに引き会わせるつもりよ。でも只それだけ、諸星さんの記憶は消したまま」ラムが訝しげにお雪の顔を覗き込む。
「それでね、もしその上で諸星さんがあなたの事を思い出せたとしたら、それは諸星さんのあなたに対する想いが本物だったって証しになるんじゃないかしら」
ラムは黙ったまま、否とも応とも答えない。ラムの心を見透かしたように、お雪が言葉を続ける。
「そしてね、ラム。もし、記憶を無くした諸星さんがあなたの事を思い出せたとしたら、そのときは、あなたもきっと素直な気持ちになってくれるわよね」
お雪の目をじっと見つめていたラムは、暫くたって小さく頷いてみせた。
「そう。良かった。それじゃあ、ラン。お使いを頼んで申し訳ないけど、地球に諸星さんを迎えにいってくれないかしら、舞台は私たちで用意するから」
「ラムちゃん、待っててね。きっと、きっと、上手くいくから」ランがラムの両手をとり、力強く何度も握りしめた。
夜明けの空をランの宇宙船が駆け上がっていく。虹色の航跡をラムは祈る様に見つめている。その向こうから、あたるとの新しい一日がやって来ることを信じて。

No. 238-10 (2012/05/20 16:51:01)
Name :コリエル
Title:The first Day(お雪編)
(これはNo.160-217を再投稿したものです。次週、三部作の三作目を新規に投稿します。その間、このトピックに投稿しないよう御配慮頂くと嬉しく思います)
ボーイ ミーツ ガールの最後で記憶喪失装置が発動し、地球人はラムたちとの記憶を全て忘れてしまう。
そして・・・。
「あたる。休みの日ぐらい外に出たらどうなの。部屋にこもりっきりじゃ体に毒よ。それに窓閉めなさい、今日は何だか寒いから」
「ああ・・・」あたるは母に生返事を返すと、窓の外に目を移す。心に穿たれた大きな穴、そこが何で満たされていたのか、あたるは思い出すことができない。
部屋の気温がだいぶ下がったような気がする、あたるは寒気を感じて窓を閉めた。だが、冷気が収まる気配はない。どうやら、寒さの原因は押し入れの方にあるらしい。
あたるが、恐る恐る押し入れを開けると、そこは真っ暗な空間になっていた。その闇の中から白い着物を纏った美しい女が現れた。女の周りを雪の結晶が舞う。
「お久しゅうございますわ。お変わりありませんこと?」氷の女は馴れ馴れしく声をかけてきた。
「な・・・なんだ。あんたは・・・」
「あら、お顔の色がすぐれませんわねぇ。その御様子では、こちら様も随分と気落ちなさっているようですわ。それでしたら、私も足を運んだ甲斐があるというもの」
女がわけの分からない事を口走る。あたるが怪訝そうな顔をするのを無視して、女が白い息を彼に吹きかけると、あたるはあっという間に氷に閉じ込められた。
あたるはそこで気を失った。氷の中でどれほどの時間が流れたろうか、あたるが目覚めたのは野外の円形舞台だった。周りをおびただしい数の群衆が取り囲む。
だが。そこが地球では無い事を、あたるはすぐに理解した。天上に巨大な渦巻き星雲が輝いてる。
「お目覚めのようね。ここにお連れしたのは、他でもありませんわ。お宅さまもお気づきの事と存じますが、お宅様はとても大事な記憶を無くしておいでです。
それをお返し申し上げようと趣向ですの」
女の言にあたるは黙って頷いた。
「でも、勘違いなすっちゃいけませんわ。別に親切心ではありませんのよ。わたくしの大切なお友だちがあれ以来泣いてばかりで、この辺りで白黒をつけておいた方が
良いと思いまして。それですから、簡単に記憶をお返しするわけには参りませんわ。お宅様が本当にそんな値打ちのある殿方なのか、私の目で確かめるつもりですの」
女は舞台の袖を見やると、目で何やら合図をした。機械音とともに舞台の中央が割れ、奈落の中から三人の虎縞ビキニの女性がせり上がってきた
「ここに、お宅様が心底大切に思ってる方がいます。その方を見つけて名前を当ててくださいな。それがお出来になったら、記憶を戻して差し上げますわ」
女の言葉を待つまでもなく、あたるは今が人生の転機であることを感じていた。彼は三人の女性に近づき、彼女たちの顔を見比べ始めた。美しいが無表情の彼女
たちは黙って中空を見据えている。だが、あたるには三人の顔が全て同じに見えている。観衆からは絶え間なく野次が飛び、鋭い凝視があたるの背中に突き刺さる。
「どうでしょう。大切な方は見つかりまして?」女が無表情なままで答えを急かした。「・・・いない。この三人の中には・・・いない」あたるは力なく首を振った。
「あら、そう。どうやら、わたくしの見込み違いだったようですわね。」女が素っ気なく言い放った。
「いや、そうじゃない」あたるが言葉を発したその刹那、彼はそれまでとは違う眼差しが自分に向けられている事に気がついた。あたるはきびすを返して舞台から飛び
降りる。舞台上に残った女は、意味ありげな微笑をたたえている。
 眼差しに導かれ、あたるは群衆の中に分け入った。人垣が割れた。その奥にフード付きパーカを着た娘が立っている。あたるは娘に向かい歩みを進める。人々の
ざわめきが消えた。あたるが娘の前に立ってパーカのフードを外すと虹色の髪がこぼれ落ちた。だが、娘は俯いて顔を見せようとしない。娘の肩が小さく震えている。
あたるは娘の髪の中に桃色の突起を見いだした。角だった。手を伸ばしてその角に触れた瞬間、彼は体中の細胞が生まれ変わるような衝撃を感じた。それが答えだった。
「見つけた。ぼくが探しているのは君だ」娘が小さく頷いたように見えた。「名前は・・・君の名前は・・・ラム・・・ラムだね」
 ラムが涙で濡れた顔を上げた。あたるの目にも涙が溢れ、彼女の顔が霞んで見えた。だが顔を確かめる必要などなかった。彼女こそ、あたるの求める全てだった。
「ラム。ただいま」「お帰りだっちゃ。ダーリン」二つの影が一つになった。どこかで小さな拍手が起こり、それは二人を取り巻く観衆全てに広がっていく。
 祝福の喝采の中、新しいラブストーリーの最初の一日が始まった。
「あの。お取り込み中に申し訳ないんだけど・・・」
「なんだっちゃ・・・。お雪ちゃん。」ラムが涙を拭いながら尋ねた。
「ラム。友達のあいだだからこそ、こうゆうことは、きちんとしとかなくちゃいけないと思うの」
お雪がそういって差し出した一枚の紙には、次のような一文が書かれていた。
請求書 ラム様ならびに諸星あたる様
 一、諸星あたる様鬼星までの移送料
 一、和解仲介手数料
 一、舞台装置一式(含むエキストラ出演料)
  以上、参億弐阡萬コールド 申し受けます。
尚、あたるがお雪の下男として働いて、この借金を返済したのは言うまでもない。

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