うる星やつら―アナザーワールド― エピソード13 (Page 3)
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 「……多分、もうすぐお別れだっちゃ……」と言い、暗がりから出てきて右手を差し出した。その右手は、肘の辺りまで透けていた。手袋をしていても、服ごと透けているので最早隠す事は出来ない状態だった。あたるはラムの左手を握ると、早足で遊園地の出口に向かった。そして出口を出ると、あたるは
 (くそっ!何か方法はないのか?)と思い、何気なく自分が握っているラムの左手を見ると、ラムの左手も肘の辺りまで透けていた。あたるは驚き、思わずラムの手を離してしまった。するとラムは、左手を引っ込め横を向きうつ向いた。そして
 「ダーリンにこんな姿見せたくないっちゃ……」と言い、更に
 「ダーリン、今までありがとう」と言うと、涙を浮かべながら笑顔で言った。そして、振り返ると空に飛び立とうとしたが、あたるは素早くラムの手を掴み
 「ラム!どこ行くつもりだ!!」と言った。するとラムは
 「ウチは、ダーリンの居ない所で消えるっちゃ!」と言ったが、あたるは
 「ふざけるな!お前がどんな姿になろうと俺はお前のそばに居てやる!だから、俺と一緒に居ろ!!」と言ってラムを抱き寄せた。ラムは、あたるに身を任せあたるの腕の中で涙を流した。
 あたるとラムは、建築中のビルの中で体を寄せ合い座っていた。お互いに何も話さない、しかしお互いの心は通じていた。そんな中、ラムが
 「ねぇダーリン……」とあたるに話しかけると、あたるは
 「ん?何だ?」て答え、ラムは更に
 「ダーリンは、ウチと居て幸せだったっちゃ?」と聞いた。しかしあたるは
 「そんな事は、今答えるつもりは無い。ラム……俺が人一倍、諦めが悪い事はしってるだろう?俺は、絶対に諦めない。お前が消えても、必ず俺が……」と言った。そのあたるの言葉にラムは、パラレルワールドのあたるが言った言葉を思い出した
 《ラム、俺は何もしてやれないが…………諦めるなよ!》
 ラムの瞳には、涙が浮かんでいた。2人のあたるの為にも消えたくなかった。ラムは、あたるに抱きつき
 「ダーリン……ウチ、ウチ……消えたくないっちゃ!ずっとダーリンと一緒に居たいっちゃーー!」と言うと、ポロポロと涙を流した。あたるは、そんなラムを見ると既に全身が透けてきていた。外は、うっすらと明るくなって来ており、日の出も近かった。あたるは泣きじゃくるラムを力一杯抱き締め
 「心配するな!俺が、絶対に俺がなんとかしてみせる!」と言った。ラムは、そんなあたるの顔を涙で真っ赤になった目で見つめ
 「うん」と言って、ニコリと笑った。

 その笑顔が、あたるが見たラムの最後の顔だった。ラムは、あたるの腕の中で消えてしまったのだ。あたるは、未だ残るラムの感触が残る両手を見つめた。あたるの目からは涙がこぼれ落ち、見つめる手の上に落ちた。あたるは
 「ラム………………」と、ボソッと呟くとフラフラと立ち上がり、一人建築中のビルを後にし無意識に歩き続け、気がつくと家の前に居た。あたるは家に入ると、階段を上がり自分の部屋に行き、部屋の中央に座り込んだ。玄関を開けた時に、母が何かを言っていたが、今のあたるに母の声は届かなかった。
 あたるは、ラムの居なくなった部屋を見渡し、改めてラムの存在が自分にとってどれ程大きいものだったかを実感した。あたるは、何も出来なかった自分が情けなく思え悔しくて涙が出てきた。あたるは
 「ラム……やっと帰って来れたのに……」と言って肩を震わせた。
 夕べ寝ていない事もあり、あたるは知らず知らずの間に寝ていた。やがて目が覚めると外は既に暗くなって居た。その時、下からあたるの母が
 「あたるー、ご飯出来たわよー」とあたるを呼んだ。あたるは、食欲は無かったが下に降り茶の間に行くと、茶の間には父と母が食卓についていた。その時、あたるの後ろから
 「お前、そない所つっ立っとったら邪魔やないかい」と声がして、テンがあたるの横をプカプカと飛んで茶の間に入って行った。あたるも茶の間に入ると自分の席についたが、そんなあたるを見て母が
 「あら、ラムちゃんは?」と聞くと、あたるは何も言わず茶碗を手にした。あたるの母は更に
 「今朝、何だかラムちゃん様子が変だったから心配してたんだけど……テンちゃんは知らないの?」とテンに聞くと、テンは
 「ワイは知らんで、ラムちゃんどないかしたんか?」と逆に聞いてきたので、母は
 「なんかね今朝、私とお父さんに『ありがとう』って。何だか、思い詰めた様な顔してたから、どうしたのかなってお父さんと話してたのよ」と言った。それを聞いたテンは、あたるに
 「おい!ラムちゃんどないしたんや?」と聞いたが、あたるは黙々と食事を済ませ
 「ご馳走さま」と言って立ち上がった。そんなあたるにテンは
 「おい!人が聞いとるのに返事くらいせんかい!」と言ったが、あたるは何も答えず、さっさと階段を上がり自分の部屋に入った。そして、再び部屋の中央に座るとフッとラムの言葉が頭をよぎった。

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