メガネvs面堂軍団(2) (Page 3)
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「何処へ行くんだ?」
「ヘリを追うんだ。未だ車があるかも知れん。」
ガレージに向け走り出した我々を次々と銃弾が掠める。
『チューン』と尾を引くのは少し遠くを、『ピッシ』と鋭い音を立てるのは至近距離を
弾が掠めた証拠だ。
その内の一発が、背中に背負った活性炭入りのエアークリーナーとマウスピースをつな
ぐホースを引き千切った。
恐怖で全身の毛が逆立ち、喉が引きつる。
走りながら追いすがる敵に向け音響型手榴弾を投げ付けた。
距離が有るため、制圧できる程の威力は無くとも威嚇には成ったのか射撃は中断した。
さらにパーマが投げた手榴弾が、敵の近くで続けて爆発する。
おかげでその隙に二人とも無事にガレージまでたどり付く事が出来た。
しかし、ガレージの中に車は見当たらない。
キューベルやエンゲル・ワーゲンは全部出払ったらしい。広いガレージの中は閑散とし
ていた。
「クソー、ココまでか」
「いや、そうでもないぜ。これを見てみな」
パーマが剥がしたカバーの下から白いサイドカーが現われた。
BMW-R75。
あのBMWが1940年に一般車の生産をやめて、それまでの非力なサイドバルブのR12
の後続車として完成させた旧ドイツ軍の軍用車両だ。
最高出力を26HP/4400rpmに抑えた代わりに、強力なトルクを生み出す745ccOHVのサ
イドカー専用エンジンとミッションは通常4段に側車駆動時用ローギアサブミッション
4段の精巧なトランスミッションの組み合わせ。
ブレーキはその後のサイドカー標準となった油圧作動式。
フレームは修理が容易なよう8ピースに分割できる。
始めから軍用として設計されただけあって無類の耐久性と機動性をあわせ持ち、熱風と
砂嵐が吹き荒ぶアフリカから凍て付く東部戦線まで、所狭しと走り回った名車である。
キューベルワーゲン同様面堂のコレクションなのだろう。白色のカラーリングは鼻持ち
なら無いが、奴もなかなか良いセンスをしている。
面堂がもう少しマトモな性格だったら。そして同じ女性に想いを寄せて無かった
ら・・・。
もっと違う付き合い方があったかもしれない。

「おい、何をボーとしてるんだ。早くしないと敵に追い付かれるぞ」
「ス、スマン・・・。どうだ動きそうか?」
ついR75に見とれ考え事をしていたらしい。
「これを、こうして・・・、ヨッと」
BMWの空冷対抗二気筒エンジンが眠りから醒め、独特リズムを奏で始めた。
「よし、シャッターを開けてくれ」
パーマにそくされシャッターの開閉装置とおぼしきスイッチ入れると、油圧か電動か知
らぬがシャッターが開き始める。
急いで側車シートに潜り込むと同時にパーマがR75を発進させた。
ガレージの前に待ち構えていた敵に威嚇掃射で道を開けさせ、ついでに通り過ぎざまに
最後の音響手榴弾をお見舞いする。
炸裂音を背中に聞きながら建物の角を曲がり、ヘリを追跡する。
ちょうど正面玄関前に差し掛かった時、裏庭から邸内を抜けて先回りした例のノッポの
サングラスが拳銃を構え行く手に立ち塞がった。
こちらの銃は弾を撃ち尽くしていた、ゆれるサイドカーの上でマガジン交換に手間取
る。
「メガネ伏せろ!」
パーマはハンドルに被さるように身を伏せ、アクセルを開けた。
瞬く間に拳銃を構えたノッポとの距離が狭まってくる。
ノッポが拳銃を発射するのと同時に、パーマがハンドルを切った。
飛び退いたノッポの脇を駆け抜け、左右に大きく張り出したシリンダーに被弾したR75
は、咳き込みながらも加速していった。


―続く―






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