同窓会パニック!カニ先生が泣いた日(中編) (Page 2)
Page: 01 02 03

まして松井は、できちゃった婚だったから、だらしがないと罵られ、相当しばかれると思っていた。
不思議に思ったあたるは蟹江に、
「なあ、どうしてオレたちの事怒らないんだ?」
と尋ねた。すると蟹江は、
「だって、既成事実なんだからしょうがねえじゃねえか。
それに、オレはそういう事で説教できる立場じゃねえもんな・・・」
とさびしそうな声で答え、タバコに火をつけた。
「どういうことだ?」
と松井が尋ねると、また話が始まった。今度は彼の身の上話だった。
父親は酒好きばくち好き女好きのろくでなしで、いつも母親とけんかばかりしていたこと、
ろくに仕事もせず毎日のように酔っ払って帰ってきては、母親や自分に暴力を振るったこと、
挙句の果てに、どこかの女を連れて家を出て行ってしまったこと、
その後、女手ひとつで育ててくれた母が、自分が高校2年のとき、無理がたたって急に倒れ、そのまま逝ってしまったこと・・・
このような話を、彼は目に涙を浮かべながら話した。
「オレが教員採用試験に合格した次の日のことだった。玄関を開けてみると、オレの親父がいたんだ。
そしたら、
『今日からお前たちに面倒を見てもらうぞ』
って言いやがったんだ。
最初はオレも、自分の女房の死に目にすら顔を見せなかった男が何言ってやがると思った。
けど、何があったのか知らないが、親父は相当やつれていた。そんな姿を見せられちゃ、オレも女房もとても拒めなかったよ。
親父は去年死んだ・・・」
さらに話は続く。
「実はな、松井、オレもできちゃった婚なんだ。大学のとき、付き合っていた同じ大学の彼女との間にできたんだけどな。
オレは最初、今思えば勝手な話だけど、大学に通いながら子供を育てるなんてできないからおろせって、彼女に言ったんだ。
本当は世間体が悪いとか、そういったそれこそ身勝手な理由もあったんだけどな。
けれど、彼女もオレと同じで、何というか、ほら、家庭の温かみってやつを知らずに育ったもんだからなのかなぁ、
『いや、絶対おろさないわよ!私、温かい家庭が欲しいのよ・・・
だからお願い、この子を産ませて!あなたには絶対迷惑かけないから・・・』
と言って譲らなかった。
その言葉を聞いてはっとしたよ。
オレのお袋が死んだ後、その枕元で、オレは絶対愛する人をこんな風にはさせないぞって誓っていた自分をそのとき思い出した。
もし中絶なんかさせようものなら、それは自らの誓いに背くことになるんだって気づいたんだ。
だからオレは、たとえどんな困難があっても、この新しい命を守ろう、
もちろん大学もちゃんと卒業して、「2人」を養えるだけの仕事に就こうって新たに誓ったんだ。
いろいろ大変だったけど、産んでもらって本当によかったと思っているよ」
涙をぬぐいながらさらに、
「つまりオレが言いたいのはだなー、オレの親父みたいに1度自分の愛した人を、
オレのお袋みたいにするようなやつになって欲しくないって事だ。
だからオレは中学時代どうもだらしなかったお前らに、辛く当たってしまったんだ。すまなかった・・・」
突然の謝罪の言葉にあたると松井は驚いた。
特に松井は、カニ公も自分と同じような経験があったなんて初めは信じられなかった。
「だから松井、お前がその年で子供を産ませて育てる決心をしたことを知って、オレはうれしいぞ。
諸星、お前もすぐにとは言わないが、子供は作ったほうがいいぞ。子供はいいもんだぞ」
そう言うと蟹江はまたすすり泣いた。
カニ公が結構涙もろいと知って、あたる、しのぶ、松井は本当に驚いた。
卒業式でもみんなの見ている前で泣くことはなかったのだから。
再びラムサイド。お雪はカニ道楽の到着を告げた後、ラム、弁天、そしてランのいるほうに来て、
「ほら、先生がいらっしゃったわよ。私たちも挨拶に行きましょうよ」
と声をかけると、ランは、
「えーっ、あたし、顔合わせづらいわぁー」
と答え、弁天も、
「い、いいよ!アタイらは・・・いいからおめえだけで行って来いよ」
と答え、ラムも、
「お雪ちゃんは優等生だったからいいけど、ウチらは落ちこぼれだったっちゃよ?
先生もこんなウチらのことより、お雪ちゃんの顔を何よりもまず見たいはずだっちゃよ」
と答えたが、お雪は、
「そんなことないわよ。この間私が同窓会の日時の連絡をしたとき、先生、
『弁天、ラム、それにランはもちろん来るがに?私はあいつらに会うのを1番楽しみにしとるに』
とお答えになられたわ。それぐらいあなたたちは先生の中で大きな存在なのよ。
ちょっとお話しするだけじゃない。ね、行きましょうよ?」
そう押し切られ、3人は重い足取りでしぶしぶカニ道楽のところに向かった。
その途中、先頭を歩いていたお雪が突然振り返って、
「ねぇ、そういえば・・・そろそろじゃなくて?」
と言うので、弁天が、
「そろそろって・・・なんでえ?お雪」
と尋ね返すと、お雪が、
「ほら、2年前にセットした・・・覚えてるでしょう?」
と答えた。それを聞くと弁天が、

Page 1 Page 3
戻る
Page: 01 02 03